説明

足用矯正具

【課題】捻挫の発生のおそれを低減することが可能であり、着用時の痛みを和らげ、着用時の靴の併用を可能とし、衛生的な足矯正用装具を提供すること。
【解決手段】被覆部の側部外側から延出する第1の帯状体が、立方骨の側部に存在する長腓骨筋、短腓骨筋、及び第三腓骨筋が集中する部分を、距骨下関節軸に直交する方向へ持ち上げることが可能な構成とする。これにより、足部を効果的に外反方向に誘導し、足部の内反方向への動きを防止する。歩行時の足部の動きを阻害することなく、着用者の捻挫を防止することできる。また、被覆部20を織物生地から構成することで、洗濯可能とし、靴の併用を可能とする。また、被覆部20を織物生地から構成することで、足部の形状にあわせて変形し、着用時の痛みを和らげることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捻挫の発生のおそれを低減することが可能な足用矯正具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、筋力の衰えた高齢者や、体の片方の機能が低下する片麻痺の患者などにあっては、足先の位置が上手くコントロールされず、歩行時に転倒することがある。そこで、足先の位置を補整することで転倒を防止し、歩行をサポートする足矯正用装具が知られている(例えば、特許文献1−3参照)。
【0003】
特許文献1に記載の装具は、足及び足首を覆う形状であると共に、足の動きに対応して変形可能な装具本体を備えている。特許文献1に記載の装具は、容易に装着することが可能であり、靴を装着することなく装具単独でリハビリ効果が得られることが目的とされ、足先に配置された前足部から足首に配置された足首部までの領域において、足甲側で前開きが可能な構成とされている。
【0004】
特許文献2に記載の足矯正用装具は、足に装着される第1装着体と、足首に装着される第2装着体とを備えている。この足矯正用装具では、第2装着体の内側面及び第1装着体を弾性的に連結すると共に、第2装着体の外側面及び第1装着体を弾性的に連結することができる構成とされている。このような構成とすることで、歩行を補助する機能に加え、リハビリ機能及び回復の速効性を併せもった足矯正用速具を実現しようとしている。
【0005】
特許文献3に記載のレッグウェアは、足首部を覆うレッグウェアにおいて、腓腹筋下部内側から足首部前面、足背を通り、さらに、土踏まずから反対側足背を通り、足首前面で交差し、腓腹筋下部外側の位置に、連続的に帯状の繊維構造物を配置し、かつ着用時の帯状の繊維構造物の張力が土踏まず部で最大となり、土踏まず部より足首方向へ上がるに従い張力が低下していく構成とされている。このような構成とすることで、つま先が上がる感じが得られ、つまずき防止効果のあるレッグウェアを実現しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−125534号公報
【特許文献2】特開平11−56940号公報
【特許文献3】特開2008−214790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に記載の技術では、十分な機能を発揮させるための調整が煩わしく、着用者の症状の程度に適合する装具を選ぶことが難しいという問題があった。また、特許文献1に記載の装具は、プラスチックまたは皮革などで作製され、洗濯が困難であるため、不衛生な状態での使用が継続されると、悪臭が発生したり、感染症を引き起こしたりするおそれがあった。
【0008】
また、日本義肢装具学会誌JSPOに掲載されたアンケート結果によると、従来の短下肢装具に対する不満として、「好きな靴を履くことができない」、「装具の外観が嫌である」、「装着時に痛みが出る」という問題点が挙げられている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、捻挫の発生のおそれを低減することが可能であり、着用時の痛みを和らげ、着用時の靴の併用を可能とし、衛生的な足矯正用装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による足用矯正具は、織物生地から形成され着用者の足のつま先及び足底を覆う被覆部と、被覆部の側部外側から延出し、着用者の甲に対応する位置に向かって延在する第1の帯状体と、被覆部の側部内側から延出し、着用者の甲に対応する位置を通り足首の側部外側へ延在し、足首の後側を経由して足首の側部内側へ至るように配置され、第1の帯状体に連結される第2の帯状体と、第1の帯状体及び第2の帯状体を互いに連結する連結部と、を備え、着用状態において第2の帯状体は、立方骨の側部に存在する長腓骨筋、短腓骨筋、及び第三腓骨筋が集中する部分を、距骨下関節軸に直交する方向へ持ち上げることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る足用矯正具では、被覆部の側部外側から延出する第1の帯状体が、着用者の甲に対応する位置に向かって延在する一方、被覆部の側部内側から延出する第2の帯状体が、着用者の甲に対応する位置を通り足首の側部外側へ延在し、足首の後側を経由して足首の側部内側へ至るように配置され、第1の帯状体及び第2の帯状体が互いに連結可能とされている。換言すると、一連の帯状体は足首に巻きつけられ、足首背側を支点として足首の側部両側を通り、足甲部で交差して被覆部の側部両側へ連結されている。
【0012】
このように構成された足用矯正具によれば、着用状態において第1の帯状体は、立方骨の側部に存在する長腓骨筋、短腓骨筋、及び第三腓骨筋が集中する部分を、距骨下関節軸に直交する方向へ持ち上げることができるので、足部を効果的に外反方向に誘導し、足部の内反方向への動きを防止することができる。その結果、歩行時の足部の動きを阻害することなく、着用者の捻挫を防止することできる。また、一連の帯状体が足甲部で交差しているため、静脈が密集している足首腹側の位置を避けるように、帯状体を配置することができる。
【0013】
また、足用矯正具の被覆部が織物生地から形成されているため、洗濯を容易に行うことができ、衛生状態を良好に維持することができる。さらに、被覆部が織物生地から形成されていることから、被覆部の生地を適度な厚さとすることで、足用矯正具の上から靴を使用することが可能な構成とすることができる。そのため、足用矯正具の上から靴を履くことで、足用矯正具の外観を隠すことも可能である。また、被覆部が織物生地から形成されいるため、着用者の足部の形状に合わせて変形可能であるため、着用時の痛みを和らげることができる。
【0014】
また、第1の帯状体は、被覆部の側部外側において立方骨に対応する部分から延出していることが好ましい。また、第2の帯状体は、被覆部の側部内側において舟状骨又は距骨に対応する部分から延出していることが好ましい。
【0015】
また、被覆部は、第1趾を覆う第1の袋状部と、第2〜5趾を覆う第2の袋状部とを備えた足袋構造を有することが好適である。このような構成とすることで、つま先部の幅方向の移動を拘束することで、第1の帯状体及び第2の帯状体を安定的に配置することができる。
【0016】
また、被覆部は、つま先から踵までの足部全体を覆うように形成されていることが好ましい。これにより、被覆部が踵に係止可能であるため、被覆部の位置ズレを防止して、脱げにくくすることができる。
【0017】
また、連結部は、第1の帯状体のつま先側とは反対側の端部に取り付けられた環状調整具を備え、環状調整具は、第1の帯状体の長手方向に離間し、第1の帯状体の幅方向に延在する一対の棒状部を有し、第2の帯状体は、一対の棒状部間に形成された開口に挿通され、第1の帯状体とは反対側の棒状部を支点として折り返されることで、張力が調整可能とされていることが可能である。これにより、着用者自身で、第2の帯状体により締め付け強さを容易に調整することができるため、着用時の痛みを軽減し、着用者の症状にあった強さで、足先位置の調整を行うことができる。
【0018】
また、本発明による足用矯正具は、靴下の内側に着用可能な足用矯正具であって、織物生地から形成され少なくとも着用者の足のつま先を覆う被覆部と、被覆部のつま先の内側の側部に対応する部分から延出し、着用者の甲を通り足首外側方向に配置される第1の帯状体と、被覆部のつま先の外側の側部に対応する部分から延出し、着用者の甲を通り足首内側方向に延在し、足首の後側を経由して足首外側に至るように配置される第2の帯状体と、第1の帯状体及び第2の帯状体を互いに連結する連結部と、を備え、第2の帯状体は、長手方向において第1の帯状体より高い伸縮性を有することを特徴としている。
【0019】
このような足用矯正具によれば、上記の作用効果を奏することができる。また、被覆部が織物生地から形成されているため、織物生地を適度な厚さとすることで、靴下の内側に装着可能な構成とすることができる。これにより、足用矯正具の上に靴下を着用することができるため、足用矯正具の外観を気にすることなく使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、捻挫を防止することが可能であり、着用時の痛みを和らげ、着用時の靴の併用を可能とし、衛生的な足矯正用装具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る足用矯正具(右足用)の平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る足用矯正具(右足用)の着用状態を示す正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る足用矯正具(右足用)の着用状態を、着用者の側方から示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る足用矯正具(右足用)の着用状態を、着用者の体中心側から示す側面図である。
【図5】人間の足部(右足)の骨の配置を示す概略図であり、足甲側から示す図である。
【図6】人間の足部(右足)の筋肉の配置を示す概略図であり、側部外側から示す図である。
【図7】人間の足部(右足)の動きについて示す正面図であり、(a)内がえし及び(b)外がえしの状態を示す図である。
【図8】人間の足部(右足)の動きについて示す側面図であり、(a)背屈及び(b)底屈の状態を示す図である。
【図9】足部(左足)の角度を測定する際の測定具の配置を示す側面図である。
【図10】一歩行周期あたりの足部(左足)の内外反角度の測定結果を示すグラフである。
【図11】一歩行周期あがりの足部(左足)の底背屈角度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
図1〜図4を参照して、本実施形態に係る足用矯正具1の構成について説明する。なお、右足用の足用矯正具について説明するが、左足用の足用矯正具は、右足用の足用矯正具と左右対称の構成であるため、説明を省略する。
【0024】
足用矯正具1は、図1〜図4に示されるように、着用者の足部を収容可能な被覆部20と、被覆部20の対向する側部20a,20bから外方に延出する第1バンド(第1の帯状体)21及び第2バンド(第2の帯状体)22と、を備えている。
【0025】
被覆部20は、足部を収容可能な袋状を成し、いわゆる足袋構造を有するものである。なお、足部とは、つま先から踵までの領域を含む。被覆部20は、着用者のつま先を覆うつま先部23を備え、つま先部23は、第1趾を覆う第1の袋状部24と、第2〜5趾を覆う第2の袋状部25とを備えている。被覆部20は、少なくとも着用者のつま先及び足底を被覆可能な構成であればよい。つま先部23は、第1〜5趾までの足の指を一体として覆う構成でもよく、足の指を個別に覆う複数の袋状部24,25を備える構成でもよい。
【0026】
本実施形態に係る被覆部20は、織物生地から形成され、足部全体を収容可能な構成とされている。被覆部20は、着用者の足底を覆う足底部26と、足底部26に縫着され、着用者の足部の足甲及び踵を覆う被覆部本体27とを備える。被覆部は、着用者の足部に密着可能な大きさ及び形状を有する。
【0027】
被覆部本体27は、第1〜5趾の上面側、足甲、内くるぶしの下部側、外くるぶしの下部側、踵の内側の側面、踵の外側の側面、踵後部を覆うように形成されている。
【0028】
被覆部本体27には、合成繊維からなる織物生地(テキスタイル生地)が使用されている。本実施形態の被覆部本体27では、本体素材として、パワーネットが使用されている。この素材の特長は、ストレッチパワーのある細かいネット状の編物であり、ナイロンなどにポリウレタン弾性繊維が交編されているため、素材が伸びた後のキックバック性に優れている。これにより、着脱が容易であり、着用時において適度なフィット感が得られ通気性がよい、被覆部20を形成することができる。また、被覆部を黒くすることで、目立ちにくい外観としてもよい。
【0029】
また、被覆部本体27の履き口(開口部)27aは、履き易さを考慮して通常より大きめに形成されていることが望ましい。
【0030】
足底部26は、被覆部本体27の生地より伸縮性が低い生地により構成されている。また、足底部26に使用される生地は、被覆部本体27の生地より厚い生地であること好ましい。足底部26の周縁部と、被覆部本体27の下端部とが縫着され、被覆部20が形成されている。足底部26には、他の部材から成るソール部材が配置されていてもよい。
【0031】
第1バンド21は、着用者の側部外側(体中心の外側)に対応する被覆部20の部分20aから延出し、着用者の甲に対応する位置に向かって配置される帯状体である。第1バンド21は、被覆部20の側部外側において立方骨101(図5参照)に対応する部分から延出している。第1バンド21の長さは例えば5cm程度である。第1バンド21は、(通常の使用状態において)伸縮性のないバンドを使用している。
【0032】
第1バンド21の被覆部20側の端部21a(以下、「基端部」という)は、図3に示すように、被覆部本体27と足底部26との間に挟まれて、被覆部20に縫着されている。また、第1バンド21は、図1に示すように、足の前後方向に対する第1バンド21の後方側の角度が約70度になるように取り付けられている。
【0033】
第1バンド21の基端部21aとは反対側の端部21b(以下、「先端部」という)には、例えば矩形の枠体からなる環状調整具(留め具)40が取り付けられている。環状調整具40は、例えば樹脂から形成され、枠体の開口は、第2バンド22が挿通される挿通口40aとして利用される。環状調整具は、第1バンド21の長手方向に離間する一対の棒状部41を備え、これらの棒状部41の端部同士が連結され、矩形の枠体を構成している。環状調整具40は、第1バンド21及び第2バンド22を長手方向に互いに連結する連結部として機能する。
【0034】
また、環状調整具40は、厚みが比較的薄いもの(例えば4mm程度)が使用され、着用時において、足甲部側面(足根洞)に配置されるように、第1バンド21の先端に設けられている。これにより、ある程度強く肌に押し当てられる場合にあっても着用者が痛みを感じないようにすることができる。
【0035】
第2バンド22は、着用者の側部内側(体中心の内側)に対応する被覆部20の部分20bから延出し、着用者の甲に対応する位置を通り足首の側部外側へ延在し、足首の後側を経由して足首の側部内側へ至るように配置され、第1の帯状体に連結される帯状体である。第2バンド22は、被覆部20の側部内側において舟状骨102又は距骨103(図5参照)に対応する部分から延出している。第2バンド22の長さは例えば40cm程度である。第2バンド22は、例えばゴムバンドにより構成されている。第2バンド22は、長手方向において第1バンド21より高い伸縮性を有する。
【0036】
第2バンド22の被覆部20側の端部22a(基端部)は、被覆部本体27と足底部26との間に挟まれて、被覆部20に縫着されている。また、第2バンドは、図1に示すように、足の前後方向に対する第2バンド22の後方側の角度が約70度になるように取り付けられている。
【0037】
第2バンド22の基端部22aとは反対側の端部22b(先端部)には、着脱自在な固定部として、マジックテープ(登録商標名)が用いられている。
【0038】
次に、足用矯正具1の着用方法について説明する。着用者は、足用矯正具1の開口部(履き口27a)に足部を挿入させて、足用矯正具1を装着する。第1バンド21は、上方、且つ、斜め後方へ折り返され、足甲に向かって配置される。
【0039】
次に、第2バンド22は、斜め後方へ折り返され、第2バンド22が足甲の上を通るように配置される。第2バンド22は、上方へ折り返され、足甲を通り外くるぶし側へ斜め方向に延在した状態になる。
【0040】
次に、第2バンド22は、足首に巻き付けられるように配置される。具体的には、第2バンド22は、外くるぶしに対応する位置を通り、後方へ配置され踵に対応する位置に至る。第2バンド22は、踵から前方へ配置され、内くるぶしに対応する位置を通り、第1バンド21の先端部21b近傍に至る。
【0041】
次に、第2バンド22の先端部22bは、環状調整具40の挿通口40aへ通され、バンド22の幅方向に延在する棒状部41を支点として、後方へ折り返される。ここで、第2バンド22の折り返し長さを調節することで、締め付けの強さを調節することができる。折り返された第2バンド22の先端部22bは、足首に巻きつけられている第2バンド22の他の部分22c(図3参照)に、マジックテープ(商標登録名)によって固定される。第2バンド22の先端部22cが留められて、足用矯正具1は着用状態となる。着用状態において、第2バンド22は、基端部22a連続する部分と、第1バンド21に連結されて折り返された部分とが足甲上でX字状に交差している。
【0042】
なお、着用状態において、バンド22による締め付けにより、足背動脈が圧迫される場合には、一過性抹消神経麻痺を引き起こすおそれがあるため、足背動脈を避けるように、第1バンド及び第2バンドを配置する。本実施形態の足用矯正具1では、着用状態において、一連のバンドが足甲部で交差するように、所定の角度でバンド21,22が取り付けられているため、足背動脈を圧迫しないバンド配置を容易に実現することができる。
【0043】
また、着用状態において、第1バンド21は、立方骨101の側部外側に存在する長腓骨筋111(図6参照)、短腓骨筋112、及び第三腓骨筋113が集中する部分114を、平面視において距骨下関節軸121(図5参照)に直交する方向Dへ持ち上げるように配置されている。距骨下関節軸121とは、足部の前後方向に延在する軸線122に対して、前方側が内側へ16度分傾斜した方向に延在する軸線である。
【0044】
また、着用状態において、第1バンド21は、下伸筋支帯115及び腓骨筋支帯116に沿う方向に配置されている。
【0045】
ここで、人間の足部の動きの一例について説明する。図7は、人間の足部(右足)の動きについて示す正面図であり、(a)内がえし及び(b)外がえしの状態を示す図である。内がえしは、第5趾が内側下方へ回転する動きである。外がえしは、第5趾が外側上方へ回転する動きである。そして、図5に示す距骨下関節軸121は、内がえし及び外がえしの回転中心に沿って延在する軸線である。また、内反方向とは、足部が内がえしとなる方向を指し、外反方向とは、足部が外がえしとなる方向を指す。足部の捻挫の大半は、内反方向に過剰な力が働くことにより生じるため、捻挫を防止するためには足部を外反方向に誘導することが重要である。図8は、人間の足部(右足)の動きについて示す側面図であり、(a)背屈及び(b)底屈の状態を示す図である。背屈は、足先が上方へ向く動きである。底屈は、足先が下方へ向く動きである。底屈と背屈を繰り返すことにより歩行するため、適正な歩行運動を保つには、低屈と背屈の動きを阻害しないことが重要である。長腓骨筋111、短腓骨筋112、及び第三腓骨筋113は、足部を外がえしするのに有効な筋肉である。
【0046】
次に、足用矯正具1の作用について説明する。着用状態の足用矯正具1では、足首に巻きつけられた第2バンド22に連結された第1バンド21によって、立方骨101の側部に存在する長腓骨筋111、短腓骨筋112、及び第三腓骨筋113が集中する部分114を、距骨下関節軸121に直交する方向へ持ち上げることができるので、足部を効果的に外反方向に誘導し、足部の内反方向への動きを防止することができる。その結果、歩行時の足部の動き(背屈、底屈)を阻害することなく、着用者の捻挫を防止することができる。また、足用矯正具1では、一連のバンド22が足甲部で交差しているため、静脈が密集している足首腹側の位置を避けるように、バンド21,22を配置して、着用者の捻挫を防止することができる。
【0047】
また、足用矯正具1の被覆部20が織物生地から形成されているため、洗濯を容易に行うことができ、衛生状態を良好に維持することができる。さらに、被覆部20が織物生地から形成されていることから、被覆部20の生地を適度な厚さとすることで、足用矯正具1の上から靴を使用することが可能な構成とすることができる。そのため、足用矯正具1の上から靴を履くことで、足用矯正具1の外観を隠すことも可能である。また、被覆部20が織物生地から形成されいるため、着用者の足部の形状に合わせて変形可能であるため、着用時の痛みを和らげることができる。
【0048】
また、足用矯正具1では、伸縮性のあるゴムバンドを、第2バンド22として、被覆部20に縫着しているため、着用者の引っ張り加減により適度な張力での使用が可能となる。そのため、内反方向への動きを抑制する力の強度を自由に調節することができる。第2バンド22の伸度としては、例えば180%程度が最適である。第2バンド22の伸度が180%より小さい場合には、つま先を持ち上げる力が弱くなる。
【0049】
足用矯正具1では、被覆部20が薄型(例えば0.4mm程度)生地で形成され、かつ、足首に巻き付けられる第2バンド22がゴムバンドで形成され足部曲面に沿って止着可能であるため、靴下の着用に支障を来たさない矯正具が実現されている。これにより、足用矯正具1の上から靴下を着用して、靴を履くことも可能である。その結果、足用矯正具1の外観を気にする必要がない。また、足用矯正具1を着用し、靴下を着用せずに、靴を履くことも可能である。足用矯正具1は、丈夫な生地で形成されているため、靴下や靴を使用しない状態での使用も可能である。足用矯正具1は、屋内外を問わず使用可能な構成とされている。
【0050】
また、足底部26の外面側には、滑り止め加工が施されていることが好ましい。このように、滑り止め加工が施されていると、床や靴内での足底の滑りが無くなり、着用者が安心して歩行することができる。
【0051】
また、足用矯正具1は、主要部にプラスチック又は皮革などを用いた従来の短下肢装具とは異なり、主要部(被覆部20)に薄くて丈夫な生地が使用されているため、洗濯機を用いて丸洗いが可能であり衛生的である。これにより、悪臭の発生など不衛生な状態での使用を防止することが可能である。
【0052】
本実施形態に係る足用矯正具1によれば、環状調整具40を備え、第2バンド22の折り返し長さを調整することで、バンド21,21に作用する張力を着用者に合わせて、容易に調整することができる。例えば片手で第2バンド22の脱着が可能であるため、片麻痺患者のリハビリに好適に利用することができる。
【0053】
なお、例えば13Nの張力の有する第2バンド22の幅は、3.0cm〜4.5cm程度が最適である。第2バンド22の幅が3.0cmより狭い場合には、腓骨筋111〜113が集中する部分114を引き上げる力が弱く、足部を外反方向へ誘導することが難しくなる。また、第2バンド22の幅が4.5cmよりも広い場合には、バンドによる締め付け圧が強くなり、着用者が不快に感じることが多く、巻き付け時にフィット感を得られないことが多い。第1バンド21の幅も同様に3.0cm〜4.5cm程度が最適である。
【0054】
また、本実施形態の足用矯正具1では、つま先部23が足袋構造とされ、第1趾が挿入される第1の袋状部24と、第2〜5趾が挿入される第2の袋状部25とを備える構成であるため、第5趾側に取り付けられた第2バンドによって、第2の袋状部が引っ張られ、より効率的に内反尖足の足を外反方向に持ち上げることができる。また、つま先部23が複数の袋状部24,25に分かれているため、つま先部23の幅方向の生地ズレを防止することができる。
【0055】
本実施形態の足用矯正具1は、取扱い易く、着脱時に手間が掛からず、蒸れにくく、外観の問題を気にする必要がないものである。片麻痺患者のリハビリの観点から考えると、長時間の着用が好ましいため、本実施形態の足用矯正具1は、特に有効である。従来の装具は、重量のあるものが多く長時間の着用には不向きであり、使用者に負担を強いるものであった。
【0056】
次に、本実施形態の足用矯正具1を着用した場合の一歩行周期あたりの足部の動き(内外反角度、底背屈角度)について説明する。図9は、足部(左足)の角度を測定する際の測定具の配置を示す側面図である。図10は、一歩行周期あたりの足部(左足)の内外反角度の測定結果を示すグラフである。図11は、一歩行周期あたりの足部(左足)の底背屈の測定結果を示すグラフである。
【0057】
足部の角度測定において、関節角度計測システム(バイオメトリクス社製)を用いた。足部の角度を測定する測定器である足関節用の2軸ゴニオメータ91を図9に示すように、左足首の外側面に配置した。一対の2軸ゴニオメータ91は、上下方向に延在し、図示左右方向に離間して平行に配置されている。ゴニオメータ91は、内蔵したバネの屈曲による電気抵抗値の変化により、2軸(底屈/背屈、内反/外反)の角度を計測するものである。
【0058】
また、この測定では、被験者が歩行する床面に、床反力計を設置して、一歩行周期における足の接地の有無、時期などについて計測した。そして、これらの2軸ゴニオメータ91、床反力計からの測定データを三次元動作解析パソコンに入力し、足部の動きを解析した。ここでは、裸足の場合、足袋形状の足用矯正具1を着用した場合、靴下形状の足用矯正具を着用した場合について、計測を行い図10及び図11に示す測定結果を得た。足袋形状の足用矯正具1は、図1〜図4に示す形状のものである。靴下形状の足用矯正具は、靴下の形状のように、第1の袋状部24と第2の袋状部25に分割されていないものであり、つま先部が一つの袋状に形成されたものである。
【0059】
図10では、裸足の場合の測定結果をグラフG1、足袋形状の足用矯正具1を着用した場合の測定結果をグラフG2、靴下形状の足用矯正具を着用した場合の測定結果をグラフG3として示している。また、立脚期とは、測定対象の足(左足)が少しでも接地している期間である。遊脚期とは、測定対象の足が接地していない(床面から離れている)期間である。なお、図10では、被験者が直立して静止した状態の足部の位置を基準として、距骨下関節軸121回りの回転角度を示している。
【0060】
図10では、一歩行周期の全体において、裸足の場合(G1)よりも、足用矯正具を着用した場合(G2,G3)の方が、外反方向(捻挫防止方向)に足部が傾いていることが分かった。また、遊脚期P2において、足用矯正具を着用した場合(G2,G3)の方が、裸足の場合(G1)よりも、角度差が顕著であった。すなわち、捻挫は着地と同時に起こると考えられ、遊脚期において、外反側への角度に明らかな差異が生じていることは、着地時の捻挫防止の効果が高いことを示している。
【0061】
また、立脚期P1では、足部が接地しているときであるため、直接的には通常の捻挫予防には繋がりにくいものの、安定的に外反方向に誘導していると考えられる。そのため、常に足部を外反方向へ誘導することが望ましい片麻痺患者には特に有用である。
【0062】
図11では、裸足の場合の測定結果をグラフG1、足袋形状の足用矯正具1を着用した場合の測定結果をグラフG2、靴下形状の足用矯正具を着用した場合の測定結果をグラフG3として示している。なお、図11では、被験者が直立して静止した状態の足部の位置を基準として、足部の左右方向に延在する軸線123(図5参照)回りの回転角度を示している。
【0063】
図11では、一歩行周期の全体において、裸足の場合(G1)と足用矯正具を着用した場合(G2、G3)とで、同様な測定結果であるため、底屈・背屈の動きに関しては、同程度の自由度であることが分かった。足用矯正具を着用した場合にあっても、底屈・背屈の動きの自由度が抑制されないため、歩行運動の妨げにならないことがわかった。
【0064】
このように本実施形態に係る足用矯正具によれば、内反・外反においては外反(捻挫防止方向)への動きが誘導され、底屈・背屈においては裸足のときと同様な自由度が維持されるため、歩行運動を妨げずに捻挫を予防することができる。
【0065】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、被覆部20は、足部全体を覆う構成とされているが、つま先23及び足底部のみから構成される被覆部20としてもよい。また、被覆部20の内部にソールを挿入して使用してもよい。また、足底部は、足底全体を覆っているものでもよく、足底全体を覆っていないものでもよい。
【0066】
また、被覆部20に使用される素材として、夏用、冬用と素材を変更してもよい。夏用の素材としては、通気性が良く蒸れない素材を使用することができ、冬用の素材としては、保温性のある素材を使用することができる。
【0067】
また、第1バンドは、伸縮性を有する素材によって構成されていてもよい。第2バンドは、バンドの長手方向において、第1バンドより高い伸縮性を有することが好適である。
【符号の説明】
【0068】
1…足用矯正具、20…被覆部、21…第1バンド(第1の帯状体)、22…第2バンド(第2の帯状体)、23…つま先部、24…第1の袋状部、25…第2の袋状部、26…足底部、27…被覆部本体、27a…履き口、40…環状調整具(連結部)、101…立方骨、102…舟状骨、103…距骨、111…長腓骨筋、112…短腓骨筋、113…第三腓骨筋、114…長腓骨筋、短腓骨筋、及び第三腓骨筋が集中する部分、115…下伸筋支帯、116…腓骨筋支帯、121…距骨下関節軸、D…距骨下関節軸に直交する方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物生地から形成され着用者の足のつま先及び足底を覆う被覆部と、
前記被覆部の側部外側から延出し、着用者の甲に対応する位置に向かって延在する第1の帯状体と、
前記被覆部の側部内側から延出し、着用者の甲に対応する位置を通り足首の側部外側へ延在し、足首の後側を経由して足首の側部内側へ至るように配置され、前記第1の帯状体に連結される第2の帯状体と、
前記第1の帯状体及び前記第2の帯状体を互いに連結する連結部と、を備え、
着用状態において前記第1の帯状体は、立方骨の側部に存在する長腓骨筋、短腓骨筋、及び第三腓骨筋が集中する部分を、距骨下関節軸に直交する方向へ持ち上げることを特徴とする足用矯正具。
【請求項2】
前記第1の帯状体は、前記被覆部の側部外側において立方骨に対応する部分から延出していることを特徴とする請求項1記載の足用矯正具。
【請求項3】
前記第2の帯状体は、前記被覆部の側部内側において舟状骨又は距骨に対応する部分から延出していることを特徴とする請求項1又は2記載の足用矯正具。
【請求項4】
前記被覆部は、第1趾を覆う第1の袋状部と、第2〜5趾を覆う第2の袋状部とを備えた足袋構造を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の足用矯正具。
【請求項5】
前記被覆部は、つま先から踵までの足部全体を覆うように形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の足用矯正具。
【請求項6】
前記被覆部は、着用者の足底を覆う足底部と、
前記足底部に縫着され、少なくとも足の甲及び踵を覆う被覆部本体と、を備え、
前記足底部の織物生地は、前記被覆部本体の織物生地よりも厚地であることを特徴とする請求項5に記載の足用矯正具。
【請求項7】
前記連結部は、前記第1の帯状体の前記被覆部に固着されていない方の端部に取り付けられた環状調整具は、前記第1の帯状体の長手方向に離間し、第1の帯状体の幅方向に延在する一対の棒状部を有し、
前記第2の帯状体は、前記一対の棒状部間に形成された開口に挿通され、前記第1の帯状体とは反対側の前記棒状部を支点として折り返されることで、張力が調整可能とされている請求項1〜6の何れか一項に記載の足用矯正具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−27657(P2013−27657A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167501(P2011−167501)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(592154411)岡本株式会社 (29)
【Fターム(参考)】