説明

足裏における感覚閾値の測定装置、および測定方法

【課題】足裏にずれ刺激を与えたときの感覚閾値を簡便にしかも高い再現性で測定できる測定装置を提供する。
【解決手段】基台1に固定されて足裏を支持する足載台2と、足裏にずれ刺激を与えるプローブ4と、基台1に設けられて、プローブ4を足裏に沿って直交方向へ個別に移動操作するプローブ駆動構造3を備えている。さらに、ずれ刺激を認識した被験者によって操作される入力スイッチ5と、プローブ駆動構造3の駆動状態を制御する駆動制御部と、入力スイッチ5の出力信号とプローブ4の移動状況を記憶する記録部とを備えている。プローブ4をプローブ駆動構造3で直交方向へ個別に移動操作して足裏にずれ刺激を与え、ずれ刺激を知覚した被験者が入力スイッチ5を操作することにより、感覚閾値を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足裏の感覚閾値を測定するための測定装置と測定方法に関する。本発明に基づき測定された足裏の感覚閾値は、例えば人の立姿勢保持機能を定量的に評価する指標として利用でき、さらには高齢者の転倒の可能性を予見し、あるいは転倒予防対策を講じることに応用できる。また、神経麻痺に起因する感覚閾値を定量化することにも応用できる。
【背景技術】
【0002】
人の感覚閾値の測定手法として、例えば、特許文献1の振動感覚閾値測定装置が提案されている。そこでは、被験者の前腕を支持する支持台と、被験者の指先に振動刺激を与える加振器と、被験者によって操作される押ボタンスイッチと、加振器のロードセルと加速度計からの出力信号に基づき閾値を算出し評価する制御部などで測定装置を構成している。なお、特許文献1の振動感覚閾値測定装置は、JIS-B-7763に規定された測定方法をベースにしており、被験者に与える振動刺激の大きさを、直前の下降法で求めた下降法閾値に対して、所定の範囲でランダムに変化させる点に特徴がある。
【0003】
特許文献2には、人の皮膚感覚閾値測定を行なうための荷重測定装置が開示してある。そこでは、被験者の測定部位を支持する支持台と、支持台に固定される支柱と、支柱に沿って上下に移動できる可動テーブルと、可動テーブルに固定した微小加重変換器と、微小加重変換器に設けられる測定針と、制御装置などで荷重測定装置を構成している。制御装置は、可動テーブルを上下に駆動するステッピングモータの駆動状態を制御し、さらに、微小加重変換器から出力される信号を処理する。
【0004】
特許文献2の荷重測定装置と同様に、人の皮膚の感覚認識を検査する装置が特許文献3に開示されている。そこでは、左右一対のスライドブロックと、各ブロックの前端に固定される撓みブロックと、各撓みブロックの前端に固定されるプローブと、スライドブロックの左右間隔を調整する構造と、撓みブロックの歪みを検出する歪みゲージなどで検査装置を構成している。皮膚の感覚認識を検査する場合には、一対のプローブの左右間隔を所定状態にセットし、プローブの突端を所定の力で皮膚に押付けた状態で引きずって、被験者に感覚認識があるか否かを検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4611453号公報(段落番号0025〜0027、図1)
【特許文献2】特開平6−30904号公報(段落番号0016、図1)
【特許文献3】特表平5−503022号公報(第3頁左下欄18行、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人の感覚閾値の従来の測定手法として、特許文献1〜3の測定装置があるが、いずれも、被験者の皮膚に外部刺激を与えたときの感覚閾値が、どの程度であるかを測定しているに過ぎない。そのため、測定結果は、例えば神経が損傷した場合の感覚閾値を評価することに利用できるものの、他に応用することが難しい。例えば本発明者は、人が立姿勢を保持する機能を定量的に評価して転倒の可能性を予見し、あるいは転倒予防のための対策を行うことを検討しているが、従来の測定装置で得られる感覚閾値のみでは、本発明者が企図する立姿勢を保持する機能の定量的な評価には応用できない。
【0007】
一般的に、高齢者が立姿勢を保持するに必要な身体能力は、足や腰の筋力と、内耳の平衡感覚、関節などの自己受容感覚、視覚、および足裏の外受容感覚などが深く関与している。そのうち、視力の低下や、暗い環境下での視覚による姿勢調整能力の低下がある場合には、地面や床面との接触面である足裏の感覚が、立姿勢を調整し保持することに大きく関与することになる。従って、足裏の感覚を定量的に把握することができれば、立姿勢を調整し保持する能力を知る指標となり、さらに、転倒の危険性を予見できることとなる。
【0008】
歩行時、あるいは動的な立位動作においては、身体の移動に伴って足裏にせん断応力が加わるが、足裏に作用するせん断応力を感覚として明確に認識する能力は、姿勢調整を的確に行なう上で必要不可欠となる。従って、足裏に作用するせん断応力による刺激(ずれ刺激)に対する感覚閾値を把握することができれば、立姿勢を保持する能力を評価する指標とすることができ、さらに、歩行ないし動的な立位動作を行う能力を評価する指標とすることができる。しかし、従来の感覚閾値の測定装置では、この種のずれ刺激に対する感覚閾値を把握することができないのである。
【0009】
本発明者は、上記の知見に基づいて検討を重ねた結果、立姿勢を保持する機能の定量的な評価には、足裏にずれ刺激を与えたときの感覚閾値が有効であることを見出した。さらに、立姿勢を保持する機能の定量的な評価は、体重による圧力が足裏に加わった状態で、先のずれ刺激を加えたときの感覚閾値が重要であることを見出し、本発明を提案するに至ったものである。
【0010】
本発明の目的は、足裏にずれ刺激を与えたときの感覚閾値を簡便にしかも高い再現性で測定できる足裏における感覚閾値の測定装置、および測定方法を提供することにある。
本発明の目的は、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、足裏にずれ刺激を与えたときの感覚閾値を簡便にしかも高い再現性で測定できる足裏における感覚閾値の測定装置、および測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る足裏における感覚閾値の測定装置は、基台1に固定されて足裏を支持する足載台2と、足裏にずれ刺激を与えるプローブ4と、基台1に設けられて、プローブ4を足裏に沿って2方向へ個別に移動操作するプローブ駆動構造3を備えている。さらに、ずれ刺激を認識した被験者によって操作される入力スイッチ5と、プローブ駆動構造3の駆動状態を制御する駆動制御部51と、入力スイッチ5の出力信号とプローブ4の移動状況を記憶する記録部52とを備えていることを特徴とする。
【0012】
図1に示すように、プローブ駆動構造3は前後および左右へ往復スライド自在に案内支持される第1テーブル11および第2テーブル12と、基台1に設けられて第1テーブル11を往復操作する第1駆動構造13と、第1テーブル11に設けられて第2テーブル12を往復操作する第2駆動構造14と、第2テーブル12に設けたプローブ固定部40とで構成する。プローブ固定部40に装着したプローブ4を第1テーブル11の移動方向と、第2テーブル12の移動方向に個別に移動させて、足裏に前後のずれ刺激と左右のずれ刺激を与える。
【0013】
図1に示すように、足載台2にプローブ4を収容する接触窓8を開口する。プローブ4の上端に設けた接触部44を、接触窓8の上開口面と面一に配置する。
【0014】
第1駆動構造13を構成するモーター23と、第2駆動構造14を構成するモーター33のそれぞれを、振動を遮断する防振構造28・38を介してブラケット27・37に固定する(図3参照)。
【0015】
第1駆動構造13を構成するモーター23と、第2駆動構造14を構成するモーター33のそれぞれを、プローブ駆動構造3の駆動状態を制御する制御装置6のスタートボタンの操作で起動させて、一連のずれ刺激を自動的に与えて足裏の感覚閾値を測定する。
【0016】
本発明に係る足裏における感覚閾値の測定方法は、足載台2に載せた足裏にプローブ4でずれ刺激を与える刺激付与過程と、被験者がずれ刺激を感じたときに入力スイッチ5を操作する感覚検知過程と、入力スイッチ5の出力信号とプローブ4の移動状況を記録部52で記憶する記録過程とを含む。刺激付与過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で足裏に沿って2方向へ個別に移動操作して足裏にずれ刺激を加えることを特徴とする。
【0017】
刺激付与過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、足裏に前後のずれ刺激と左右のずれ刺激を与える。
【0018】
刺激付与過程において、足載台2の上に被験者を起立させ、被験者の体重が足裏に作用する状態でずれ刺激を与えて感覚閾値を測定する。
【0019】
刺激付与過程において、図6に示すように、足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれに、ずれ刺激を個別に与えて感覚閾値を測定する。
【0020】
足裏にずれ刺激を与える接触部44の物理的な性質が異なる複数種のプローブ4A・4Bを用意しておき、刺激付与過程において、複数種のプローブ4A・4Bを択一的に使用して、足裏に複数種の異質のずれ刺激を与えて感覚閾値を測定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の感覚閾値の測定装置においては、被験者の足を足載台2に載せ、プローブ4をプローブ駆動構造3で自動的に移動操作して足裏にずれ刺激を与え、被験者が操作する入力スイッチ5の出力信号に基づき、ずれ刺激に対する感覚閾値を測定できるようにした。このように、本発明に係る測定装置では、プローブ4をプローブ駆動構造3で自動的に移動操作して足裏にずれ刺激を与えるので、被験者に対して設定されたとおりのずれ刺激を、設定された手順で正確に与えることができる。従って、被験者に対するずれ刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定できる。
【0022】
また、被験者の足裏を足載台2で支持し、制御装置6のスタートボタンを操作するだけで、駆動制御部51からの指令でプローブ4をプローブ駆動構造3で移動操作して、被験者にずれ刺激を与えて足裏の感覚閾値を的確に測定できる。従って、足裏における感覚閾値を測定するのに、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除できる。
【0023】
さらに、本発明の測定装置においては、プローブ4を2方向へ個別に移動させて、2方向のずれ刺激に対する被験者の知覚の有無を測定するので、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、歩行時の立姿勢において足裏に加わる力の方向であるせん断方向へのずれ刺激に対する感覚を測定できる。さらに、足裏の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果が得られる。また、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある感覚閾値と比較することにより、立姿勢を保持する能力を評価することができ、あるいは歩行能力および動的な立位動作を行う能力を評価することができる。さらに、これらの評価を総合することにより転倒の危険性を予見できる。神経麻痺に起因する感覚閾値を定量化する指標とすることもできる。
【0024】
第1テーブル11および第2テーブル12と、これらのテーブル11・12を駆動する第1、第2の駆動構造13・14などでプローブ駆動構造3を構成すると、各テーブル11・12を各駆動構造13・14で前後および左右へ個別に移動操作できる。また、プローブ固定部40に装着したプローブ4を、第2テーブル12に同行させて、足裏に前後のずれ刺激と左右のずれ刺激を的確に与えることができる。
【0025】
プローブ4の上端に設けた接触部44を接触窓8の上開口面と面一に配置するのは、足裏が接触する床面を足載台2で模擬し、さらに接触部44が模擬床面の一部を構成することにより、足裏が床面に接触した自然な状態を再現した環境で感覚閾値の測定を行なうためである。
【0026】
第1、第2の各駆動構造13・14を構成するモーター23・33のそれぞれを、防振構造28・38を介してブラケット27・37に固定すると、モーター23・33の振動が足載台2に伝わるのを確実に防止できる。従って、鋭く敏感な感覚を備えている被験者によって、モーター23・33の振動が知覚されるのを防止して、感覚閾値の測定結果の精度を向上しノイズを排除できる。
【0027】
第1駆動構造13および第2駆動構造14のモーター23・33を、制御装置6のスタートボタンの操作で起動させて、一連のずれ刺激を自動的に与える測定装置によれば、スタートボタンをオン操作するだけで、プローブ4を予め設定された手順に従って駆動して、被験者に対して予め設定されたとおりのずれ刺激を正確に与えることができる。因みに、感覚閾値の測定は、単一の部位へさまざまな強度の刺激を何度も与え、さらに他の部位でも同じ手順を繰り返すという手間のかかる作業となる。そのため、時間に制約のある臨床現場では実施するのが困難となる。しかし、上記のように両駆動構造13・14の動作を制御装置6で制御して、被験者に対するずれ刺激の付与、および被験者の感覚閾値の記録などを自動化すると、専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえる。従って、時間に制約のある臨床現場であっても足裏の感覚閾値を的確に測定して、得られた結果を立姿勢保持能力や歩行能力などの評価、および予防医学に反映させることができる。
【0028】
本発明の感覚閾値の測定方法では、足裏にプローブ4でずれ刺激を与える刺激付与過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で足裏に沿って2方向へ個別に移動操作して足裏にずれ刺激を加えるようにした。このように、プローブ4を2方向へ個別に移動させて、2方向のずれ刺激に対する被験者の知覚の有無を測定すると、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、足裏の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果が得られる。さらに、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある感覚閾値と比較することにより、立姿勢を保持する能力を評価することができ、あるいは歩行能力および動的な立位動作を行う能力を評価することができる。さらに、これらの評価を総合することにより転倒の危険性を予見できる。神経麻痺に起因する感覚閾値を定量化する指標とすることもできる。
【0029】
刺激付与過程において、プローブ4で足裏に前後のずれ刺激と左右のずれ刺激を与えると、足裏の知覚特性が前後方向と、左右方向とで異なるという知見が反映された測定結果を得ることができ、これに伴い立姿勢保持能力や歩行能力および動的な立位動作を行う能力等をさらに的確に評価できる。
【0030】
刺激付与過程において、被験者の体重が足裏に作用する状態でずれ刺激を与えて感覚閾値を測定すると、足裏が床面に接触した自然な状態を再現した環境で感覚閾値の測定を行なうことができる。つまり、皮膚内に分布する感覚受容器に対して、体重による圧力が均等に付加されて常に刺激された条件での感覚閾値の測定となる。体重による圧力付加は皮膚内の感覚受容器の感度をマスクする効果があるため、感覚が鈍くなり、体重が付加されない測定条件で計測された感覚閾値よりも大きな値が計測される。このような条件で計測された感覚閾値は、通常の立姿勢と同じ条件での値であり、立姿勢保持能力や転倒危険性の予見という目的に対しては最も有効なデータとなる。
【0031】
刺激付与過程において足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3の感覚閾値を測定するのは、これらの測定対象部位に、機械的な刺激を感知する皮膚内の感覚受容器が高密度に分布しているからであり、感覚刺激に対する閾値もそれぞれ異なっているからである。さらに、立姿勢保持や歩行動作においてこれらの部位の感覚閾値は極めて重要な意味を有しているからである。
【0032】
物理的な性質が異なる接触部44を備えた複数種のプローブ4A・4Bを、プローブ駆動構造3に対して択一的に装着して測定を行なうと、足裏に複数種の異質のずれ刺激を与えて感覚閾値を測定することができる。従って、単一のプローブ4のみで、ずれ刺激に対する感覚閾値を測定する場合に比べて、被験者の足裏の状況等に応じてずれ刺激を的確に付与することができる。例えば高齢者等で足裏皮膚の角質が極度に肥厚している場合には、摩擦係数が高いプローブを使用することで、皮膚の状態に左右されない測定結果が得られる。これにより、立姿勢保持能力や転倒の危険性を予測する目的だけではなく、知覚障害の診断のような目的で使用する場合の、測定の妥当性を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る感覚閾値の測定装置を示す縦断側面図である。
【図2】感覚閾値の測定装置の斜視図である。
【図3】感覚閾値の測定装置の横断平面図である。
【図4】プローブおよびプローブ固定部の縦断面図である。
【図5】感覚閾値の測定例を示す平面図である。
【図6】足裏の測定対象位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(実施例) 図1ないし図6は本発明に係る足裏における感覚閾値の測定装置(以下単に測定装置と言う)の実施例を示す。本発明において前後、左右、上下とは、各図に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
【0035】
図1ないし図3において、測定装置は四角形の基台1と、足裏を支持する足載台2と、基台1と足載台2との間に配置されるプローブ駆動構造3と、足裏にずれ刺激を与えるプローブ4と、被験者によって操作される入力スイッチ5と、コンピュータ(制御装置)6などで構成する。足載台2はプラスチック製の厚板で形成されて、基台1の四隅に設けた支柱7で固定支持してある。足載台2の中央部にはプローブ4を収容する接触窓8がL字状に開口してある。足載台2の後縁には、足載台2の上に起立した被験者を支える手摺9が立設してある。図2において符号10はAD−DAコンバータである。
【0036】
プローブ駆動構造3は、水平面に沿って互いに直交する向きへ往復スライド自在に案内される第1テーブル11および第2テーブル12と、第1テーブル11を往復操作する第1駆動構造13と、第2テーブル12を往復操作する第2駆動構造14などで構成する。左右に長い長方形状の第1テーブル11は、その下面の4個所に設けたスライダー15を介して、駆動ベース16上に設けた左右一対のガイドレール17で左右スライド自在に案内支持してある。また、正方形状の第2テーブル12は、その下面の4個所に設けたスライダー18を介して、第1テーブル11上に設けた前後一対のガイドレール19で左右スライド自在に案内支持してある。
【0037】
図1に示すように、第1駆動構造13は、ボールねじ軸21と、第1テーブル11の下面に固定されてボールねじ軸21に噛合うナット体22と、ボールねじ軸21を正逆転駆動するステップモーター(モーター)23と、カップリング24などで構成する。ボールねじ軸21の軸端は、前後一対の軸受ボックス25でベアリング26を介して回転自在に支持してある。軸受ボックス25は駆動ベース16に固定してある。ボールねじ軸21をステップモーター23で、正逆いずれかへ回転駆動することにより、第1テーブル11を前後いずれかへ移動操作することができる。ステップモーター23は、駆動ベース16に固定したブラケット27に防振ゴム(防振構造)28を介して固定してあり、これにより、ステップモーター23で発生した振動を遮断して、振動が駆動ベース16および基台1と支柱7を介して足載台2に伝わるのを防止している。
【0038】
図3において、第2駆動構造14は、ボールねじ軸31と、第2テーブル12の下面に固定されてボールねじ軸31に噛合うナット体32と、ボールねじ軸31を正逆転駆動するステップモーター(モーター)33と、カップリング34などで構成する。ボールねじ軸31の軸端は、左右一対の軸受ボックス35でベアリング36を介して回転自在に支持してある。軸受ボックス35は第1テーブル11に固定してある。ボールねじ軸31をステップモーター33で正逆いずれかへ回転駆動することにより、第2テーブル12を左右いずれかへ移動操作することができる。ステップモーター33は、第1テーブル11に固定したブラケット37に防振ゴム(防振構造)38を介して固定してあり、これにより、ステップモーター33で発生した振動を遮断して、振動が足載台2に伝わるのを防止している。
【0039】
第2テーブル12の上面の中央には、プローブ4を取付けるためのプローブ固定部40が設けてある。図4に示すように、プローブ固定部40の中央には、断面が正方形の装着穴41が形成してあり、この装着穴41にプローブ4を嵌込むことにより、第2テーブル12の前後移動、および左右移動に同行してプローブ4を移動させることができる。
【0040】
この実施例では2種類のプローブ4を用いて、これらをプローブ固定部40に装着して感覚閾値を測定するようにした。第1プローブ4A(4)は角軸状のプラスチック製の棒状体からなり、その上端に設けた平坦な接触部44で足裏にずれ刺激を与える。接触部44が足裏と接触する面積を充分なものとするために、接触部44の前後寸法および左右寸法を10mmとし、面積が100平方ミリメートルとなるようにした。第2プローブ4B(4)は、第1プローブ4Aと同じ角軸状のプラスチック製の棒状体で形成するが、棒状体の上端にカーペットを貼付けて接触部44とした。接触部44の前後寸法および左右寸法と面積は、第1プローブ4Aの接触部44と同じとした。第1プローブ4Aおよび第2プローブ4Bをプローブ固定部40に嵌込んだ状態では、図1に示すように、それぞれの接触部44・44が接触窓8の上開口面と面一になる。接触窓8は、前後溝45と左右溝46とでL字状に形成してあり、各溝45・46の前後寸法および左右寸法は、それぞれ28mmとした。
【0041】
入力スイッチ5は押ボタンスイッチからなり、感覚閾値を測定装置で測定する過程で被験者がずれ刺激を感じたときにオン操作する。入力スイッチ5から出力されたオン信号(出力信号)は、コンピュータ6に取込まれ、入力スイッチ5のオン信号とプローブ4の移動状況とが記録部52に記憶される。また、入力スイッチ5のオン信号とプローブ4の移動状況はコンピュータ6のディスプレイに表示される。
【0042】
コンピュータ6には、駆動制御部51が設けられており、駆動制御部51でプローブ駆動構造3の駆動状態を制御することにより、プローブ4を所定の手順で前後方向、あるいは左右方向へ個別に移動させることができる。なお、プローブ駆動構造3によるプローブ4の移動速度は1mm/s刻みで設定でき、さらに移動距離は0.1μm刻みで設定することができる。
【0043】
上記構成の測定装置による足裏における感覚閾値の測定は、まず、第1プローブ4Aを使用して、右足の足裏と左足の足裏とで測定を行なう。さらに、図5および図6に示すように各足ごとに母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれの個所において、前後方向のずれ刺激と左右方向のずれ刺激を与えて測定を行なう。前後方向のずれ刺激と左右方向のずれ刺激とは、比較的知覚されにくい刺激から、比較的知覚されやすい刺激まで多段階用意しておき、例えば刺激の強度を強めながら(あるいは弱めながら)感覚閾値の測定を行ない、さらに、刺激の強さをランダムに変化させながら行う。ずれ刺激の強さは、プローブ4の移動速度および移動距離の組合せを変えることで変更でき、どのような強度のずれ刺激を、どのような順番で与えるかは、駆動制御部51に予め組み込んでおくとよい。
【0044】
測定に際しては、被験者に素足の状態で足載台2の上に載ってもらい、被験者の体重が足裏に作用する状態で起立してもらう。このとき、被験者は手摺9を掴んで起立姿勢を安定させ、さらに利き腕側の手で入力スイッチ5を握って、いつでも入力スイッチ5をオン操作できるようにする。また、図5に示すように母趾面E1の全体が接触窓8に臨む状態で起立してもらう。
【0045】
上記のように測定準備が整った状態で、コンピュータ6のスタートボタンをオン操作して、プローブ駆動構造3を作動させてプローブ4を例えば前後に一往復させて、比較的知覚されにくい前後方向のずれ刺激を与える。その間に、被験者が入力スイッチ5をオン操作した場合には、さらに知覚されにくい前後方向のずれ刺激を与えて、被験者がずれ刺激を知覚できたか否かを確かめる。また、ずれ刺激を与えたにも拘らず、被験者の反応がない場合には、より知覚されやすい前後方向のずれ刺激を与えて、被験者がずれ刺激を知覚できたか否かを確かめる。このようにして、ずれ刺激を大小に異ならせて測定を行なうことにより、前後方向のずれ刺激に対する感覚閾値を、再現性が高い状態で正確に特定することができる。なお、入力スイッチ5の出力信号のタイミングと、プローブ4の移動状況とを比較して、両者のタイミングに大きなずれがある場合には、被験者の勘違いあるいは誤操作であるとして、入力スイッチ5の出力信号をマークし、あるいは無効化することができる。
【0046】
上記と同様にして、母趾面E1に左右方向のずれ刺激を与えることにより、左右方向のずれ刺激に対する感覚閾値を判定制御部で特定することができる。母趾面E1の測定が終了したら、図6に示すように母趾球面E2を接触窓8に臨ませ、前後方向のずれ刺激と左右方向のずれ刺激を個別に与えながら、上記と同様にして測定を行なう。さらに、母趾球面E2の測定が終了したら、踵面E3を接触窓8に臨ませ、前後方向のずれ刺激と左右方向のずれ刺激を個別に与えながら、上記と同様にして測定を行なって右足の測定を終了する。左足についても、右足と同様にして母趾面E1、母趾球面E2、および踵面E3のそれぞれの個所ごとに、前後方向のずれ刺激と左右方向のずれ刺激を与えて測定を行なうことにより、各測定個所の感覚閾値を特定することができる。
【0047】
第1プローブ4Aを使用した測定が終了したら、第1プローブ4Aに換えて第2プローブ4Bをプローブ固定部40に装着し、第1プローブ4Aと同様にして、左右の足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3について感覚閾値を測定する。以上により得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある感覚閾値と比較することにより、立姿勢を保持する能力を評価することができ、あるいは歩行ないし動的な立位動作を行う能力を評価することができる。さらに、これらの評価を総合することにより転倒の危険性を予見できることとなる。また、神経麻痺に起因する感覚閾値を定量化する指標とすることができる。
【0048】
以上のように、本発明の測定装置によれば、被験者を正しい位置に起立させ、コンピュータ6のスタートボタンをオン操作するだけで、駆動制御部51からの指令でプローブ4をプローブ駆動構造3で移動操作して足裏の感覚閾値を的確に測定できる。従って、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえる。また、プローブ駆動構造3でプローブ4を移動させて、被験者に対して設定されたとおりのずれ刺激を正確に与えることができるので、ずれ刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定できる。
【0049】
次に、足裏における感覚閾値の測定方法(以下単に測定方法と言う)の詳細を説明する。足裏における感覚閾値の測定は、足載台2に載せた足裏にプローブ4でずれ刺激を与える刺激付与過程と、被験者がずれ刺激を感じたときに入力スイッチ5を操作する感覚検知過程と、入力スイッチ5の出力信号とプローブ4の移動状況を記録部52で記憶する記録過程とを含む。刺激付与過程においては、プローブ4をプローブ駆動構造3で足裏に沿って2方向へ個別に移動操作して足裏にずれ刺激を加える。例えば、プローブ4を前後方向と、前後方向に対して斜めに交差する状態で移動操作し、あるいはプローブ4をX状に移動操作して、足裏にずれ刺激を加えることができる。
【0050】
より好ましくは、刺激付与過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、足裏に直交する向きのずれ刺激を与える。
【0051】
刺激付与過程においては、足載台2の上に被験者を起立させ、被験者の体重が足裏に作用する状態でずれ刺激を与えて感覚閾値を測定する。このように、被験者の体重が足裏に作用する状態でずれ刺激を与えると、皮膚内に分布する感覚受容器に対して体重による圧力が均等に付加されて常に刺激された条件での感覚閾値の測定となる。体重による圧力付加は皮膚内の感覚受容器の感度をマスクする効果があるため、感覚が鈍くなり、体重が付加されない測定条件で計測された感覚閾値よりも大きな値が計測される。このような条件で計測された感覚閾値はまさに通常の立姿勢と同じ条件での値であり、立姿勢保持能力や転倒危険性の予見という目的に対しては最も有効なデータとなる。こうした測定はこれまでのあらゆる感覚機能測定手法、および測定機器では不可能である。
【0052】
刺激付与過程においては、足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれに、ずれ刺激を個別に与えて感覚閾値を測定する。このように、母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれにずれ刺激を個別に与えるのは、足裏面上のこの3点は機械的刺激を感知する皮膚内の感覚受容器が高密度に分布している部位であり、感覚刺激に対する閾値もそれぞれ異なっているうえに、立姿勢保持や歩行動作においてこの3点の感覚閾値は極めて重要な意味を有しているという知見が広く認識されているからである。ただし、本装置は足裏面であればこの3点以外のどこであっても原理的には測定が可能であり、神経疾患の診断に応用する場合には、障害部位に応じたこの3点以外の足底面での測定が実施可能である。例えば、神経疾患の診断に応用する場合には、障害が予想される末梢神経が支配するこの3点以外の足底面での計測を行うことができる。
【0053】
足裏にずれ刺激を与える接触部44の物理的な性質が異なる複数種のプローブ4A・4Bを用意しておいて、刺激付与過程において、複数種のプローブ4A・4Bを択一的に使用して、足裏に複数種の異質のずれ刺激を与えて感覚閾値を測定する。このように、足裏に複数種の異質のずれ刺激を与えて感覚閾値を測定すると、単一のプローブ4のみで、ずれ刺激に対する感覚閾値を測定する場合に比べて、被験者の足裏の状況等に応じてずれ刺激を的確に付与することができる。例えば高齢者等で足裏皮膚の角質が極度に肥厚している場合には、摩擦係数が高いプローブを使用することで、皮膚の状態に左右されない測定結果が得られる。
【0054】
足裏における感覚閾値の測定は、被験者が足載台2の上に起立して、被験者の体重が足裏に作用する状態で行うのが好ましいが、その必要はない。例えば、椅子に座った被験者の足を足載台2に載せて感覚閾値の測定を行なうことができる。その場合には、足載台2に設けたベルト、あるいは押え枠などで足を動かないように保持するとよい。入力スイッチ5は、押ボタンスイッチである必要はなく、タッチスイッチや倒伏スイッチなどの他のスイッチを使用することができる。また、入力スイッチ5は手摺9に組込むことができる。
【0055】
上記の実施例では、プラスチック製の棒状体の平滑な上端面を接触部44とする場合と、棒状体の上端にカーペットを貼付けて接触部44とする場合を例示したが、実施例で説明した接触部44には限定しない。たとえば、棒状体の上端に木片、金属片、畳表、皮革、生地、タイルなどを貼付けて接触部44とすることができる。さらに、プローブ4をプラスチック、金属、木材で棒状に形成し、その上端面に凹凸、溝、突起群などを形成し、あるいは上端面を粗面化して接触部44とすることができる。要は、接触部44の形状、構造、摩擦係数、硬度などの物理的な性質が異なる多数のプローブ4を用意しておいて、測定の目的に合致するプローブ4を使用して、足裏に異質のずれ刺激を与えるとよい。
【0056】
第1駆動構造13および第2駆動構造14のモーター23・33はステップモーターである必要はなく、他の形式の同期モーターを使用することができる。また、ソレノイド、電動シリンダー、空圧シリンダー、ロッドレスシリンダーなどを駆動源にして第1駆動構造13および第2駆動構造14を構成することができる。防振ゴム38は、駆動ベース16と基台1との間にも配置することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 基台
2 足載台
3 プローブ駆動構造
4 プローブ
5 入力スイッチ
6 制御装置(コンピュータ)
8 接触窓
11 第1テーブル
12 第2テーブル
13 第1駆動構造
14 第2駆動構造
40 プローブ固定部
44 接触部
51 駆動制御部
52 記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台(1)に固定されて足裏を支持する足載台(2)と、足裏にずれ刺激を与えるプローブ(4)と、
基台(1)に設けられて、プローブ(4)を足裏に沿って2方向へ個別に移動操作するプローブ駆動構造(3)と、
ずれ刺激を認識した被験者によって操作される入力スイッチ(5)と、
プローブ駆動構造(3)の駆動状態を制御する駆動制御部(51)と、
入力スイッチ(5)の出力信号とプローブ(4)の移動状況を記憶する記録部(52)とを備えていることを特徴とする足裏における感覚閾値の測定装置。
【請求項2】
プローブ駆動構造(3)が、前後および左右へ往復スライド自在に案内支持される第1テーブル(11)および第2テーブル(12)と、
基台(1)に設けられて第1テーブル(11)を往復操作する第1駆動構造(13)と、
第1テーブル(11)に設けられて第2テーブル(12)を往復操作する第2駆動構造(14)と、
第2テーブル(12)に設けたプローブ固定部(40)とで構成されており、
プローブ固定部(40)に装着したプローブ(4)を第1テーブル(11)の移動方向と、第2テーブル(12)の移動方向に個別に移動させて、足裏に前後のずれ刺激と左右のずれ刺激を与える請求項1に記載の足裏における感覚閾値の測定装置。
【請求項3】
足載台(2)にプローブ(4)を収容する接触窓(8)が開口されており、
プローブ(4)の上端に設けた接触部(44)が、接触窓(8)の上開口面と面一に配置してある請求項1または2に記載の足裏における感覚閾値の測定装置。
【請求項4】
第1駆動構造(13)を構成するモーター(23)と、第2駆動構造(14)を構成するモーター(33)のそれぞれが、振動を遮断する防振構造(28・38)を介してブラケット(27・37)に固定してある請求項1から3のいずれかひとつに記載の足裏における感覚閾値の測定装置。
【請求項5】
第1駆動構造(13)を構成するモーター(23)と、第2駆動構造(14)を構成するモーター(33)のそれぞれを、プローブ駆動構造(3)の駆動状態を制御する制御装置(6)のスタートボタンの操作で起動させて、一連のずれ刺激を自動的に与えて足裏の感覚閾値を測定する請求項4に記載の足裏における感覚閾値の測定装置。
【請求項6】
足載台(2)に載せた足裏にプローブ(4)でずれ刺激を与える刺激付与過程と
被験者がずれ刺激を感じたときに入力スイッチ(5)を操作する感覚検知過程と、
入力スイッチ(5)の出力信号とプローブ(4)の移動状況を記録部(52)で記憶する記録過程とを含み、
刺激付与過程において、プローブ(4)をプローブ駆動構造(3)で足裏に沿って2方向へ個別に移動操作して足裏にずれ刺激を加えることを特徴とする足裏における感覚閾値の測定方法。
【請求項7】
刺激付与過程において、プローブ(4)をプローブ駆動構造(3)で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、足裏に前後のずれ刺激と左右のずれ刺激を与える請求項6に記載の足裏における感覚閾値の測定方法。
【請求項8】
刺激付与過程において、足載台(2)の上に被験者を起立させ、被験者の体重が足裏に作用する状態でずれ刺激を与えて感覚閾値を測定する請求項6または7に記載の足裏における感覚閾値の測定方法。
【請求項9】
刺激付与過程において、足裏の母趾面(E1)と、母趾球面(E2)と、踵面(E3)のそれぞれに、ずれ刺激を個別に与えて感覚閾値を測定する請求項6から8のいずれかひとつに記載の足裏における感覚閾値の測定方法。
【請求項10】
足裏にずれ刺激を与える接触部(44)の物理的な性質が異なる複数種のプローブ(4A・4B)を用意しておき、
刺激付与過程において、複数種のプローブ(4A・4B)を択一的に使用して、足裏に複数種の異質のずれ刺激を与えて感覚閾値を測定する請求項6から9のいずれかひとつに記載の足裏における感覚閾値の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223365(P2012−223365A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93588(P2011−93588)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592019213)学校法人昭和大学 (23)
【出願人】(390041162)株式会社飛鳥電機製作所 (6)
【Fターム(参考)】