説明

距離算出装置、多項式算出装置、距離算出方法、多項式算出方法、および記録媒体

【課題】本発明は、解く必要のある方程式の数がe(x)の数の多項式オーダで収まる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の距離算出装置は、記録部、多項式判定部、第1計算部、第2計算部 を備える。第1計算部は、集合Δと集合Δと集合Zと集合Zを求めるΔ、Δ、Z、Z計算手段、集合Δ\Zと集合J\Zを求めるΔ\Z、J\Z計算手段、φ(σ)計算手段、Φ(σ)計算手段、実閉区間確認手段、m計算手段、m決定手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実数全体の集合内の指定された区間に実重複零点を持つ一変数実多項式のうち、上記区間に実重複零点を持たない或る一変数実多項式fに最も近い一変数実多項式f~について、一変数実多項式fと一変数実多項式f~との距離を求める技術、および一変数実多項式f~を求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル信号処理やシステム制御の分野において、実一変数多項式の零点の位置は、デジタルフィルタの周波数特性やシステムの性能に密接に関係する。デジタルフィルタの周波数特性やシステムの性能を設計する上で、ある実区間Iに所望の個数(ゼロ個の場合も含む)の実零点を持つように多項式の係数を設定したい場合を考える。多項式の係数は有限精度でしか指定できないので、必ず誤差を持つ。また、多項式の実重複零点は、どんなに小さな係数の変化に対しても、複数の複素零点あるいは実の近接零点となるので、実重複零点を持つ多項式が係数の誤差範囲に存在すれば、実区間Iの実零点の個数を制御できないことになる。したがって、設計によって求めた実一変数多項式が、実重複零点を持つ実一変数多項式とどの程度離れているのかは、デジタルフィルタの周波数特性やシステムの性能を設計する上で重要な問題である。なお、実閉区間Iは、R上の閉区間であって、a,b∈Rとして、[a,b],(−∞,a],[b,+∞),(−∞,+∞)のいずれかで表現される。
【0003】
f(x),e(x),e(x),…,e(x)は、それぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式(係数が実数の一変数多項式)であるとする。ただし、実数全体の集合をRと表記し、e(x),e(x),…,e(x)はR上一次独立とする。つまり、実数c,c,…,cに対して、c(x)+c(x)+・・・+c(x)が恒等的に0となるのは、c=c=・・・=c=0の場合に限られるとする。また、a,a,…,aもあらかじめ与えられた実数とする。
【0004】
2つの多項式間の距離を測る代表的な方法には、l−ノルムとl−ノルムとがある。l−ノルムでの距離は、以下のように定義される。2つの一変数実多項式f(x)、g(x)を
【0005】
【数25】

とすると、距離d(g,h)は、max{|a−b|,|a−b|,…,|a−b|}で与えられる。
−ノルムでの距離は、以下のように定義される。2つの一変数実多項式f(x)、g(x)を
【0006】
【数26】

とすると、距離d(f,g)は、
【0007】
【数27】

で与えられる。
【0008】
ある実区間Iに重複零点を持たないように多項式の係数を設定したい場合に、係数に誤差が含まれたとしても間違いなく実区間Iに重複零点を持たないようにできるかという問題を解決する必要がある。これと類似の問題を扱っている文献として、非特許文献1がある。非特許文献1では、l−ノルムを最小とする多項式を求める問題を、ある二次形式の最小化の問題に帰着して解決している。これは、本発明で扱う問題を似ているが、係数およびその誤差を複素数の範囲とする点、重複零点を実とは限らない点、多項式間の距離をl−ノルムではなくl−ノルムで測っている点が異なり、本発明と似て非なるものである。
【0009】
また、2つの多項式f(x)、g(x)の距離をl−ノルムで定義した文献としては、非特許文献2がある。
【非特許文献1】L. Zhi and W. Wu, "Nearest Singular Polynomials," Journal of Symbolic Computation, Vol.26, No.6, pp.667-675, 1998.
【非特許文献2】H.Sekigawa, "The Nearest Real Polynomial with a Real Multiple Zero in a Given Real Interval," Proc. Asian Symposium on Computer Mathematics (ASCM2007), 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
まず、非特許文献2の内容について説明する。実閉区間Iに重複零点を持ち、かつ、一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式
【0011】
【数28】

について、以下の性質が成り立つ。
【0012】
性質1
高々1つの例外の係数を除き、|t|=d(f,f)が成り立つ。よって、以下の2つの場合に分けて問題を扱う。
(i)すべてのjに対して|t|=d(f,f)が成り立つ場合
(ii)|tμ|<|t|=・・・=|tμ−1|=|tμ+1|=・・・=|t|となるμが存在する場合
(i)の場合、xとtに関する連立方程式
【0013】
【数29】

をx∈Iかつt,…,t∈Rという条件の下で解き、解の中で|t|=・・・=|t|が最小となるものが最小距離であり、それに対応する多項式が|f(x)−f(x)|が最小となる多項式である。条件を満たす解がないとき、(i)の場合には、Iに実重複零点を持つ多項式は存在しない。方程式(1)がx∈Iかつt,…,t∈Rという解を持つことは、以下のうち少なくとも一組の連立方程式がx∈Iかつt∈Rという解を持つことと同値である。
【0014】
【数30】

ここで、±は、+と−のすべての組合せがあるので、組合せは2n−1通りである。すなわち、最悪の場合、2n−1の方程式を解く必要がある。(ii)の場合、|tμ|=d(f,f)であるから、
【0015】
【数31】

をx∈Iかつt,…,t∈Rという条件の下で解き、解の中で|t|=・・・=|tμ−1|=|tμ+1|=・・・=|t|が最小となるものが最小距離、それに対応する多項式が|f(x)−f(x)|が最小となる多項式である。条件を満たす解がないとき、(ii)の場合には、Iに重複零点を持つ多項式が存在しない。方程式(2)がx∈Iかつt,…,t∈Rという解を持つということは、以下のうち少なくとも一組の連立方程式がx∈I,tμ,t∈Rかつ|tμ|<|t|という解を持つことと同値である。
【0016】
【数32】

ここで、±は、+と−のすべての組合せがあるので、組合せは2n−2通りである。また、μの選び方がn通りある。すなわち、最悪の場合、2n−2・nの方程式を解く必要がある。
【0017】
このように、非特許文献2の方法では、最悪の場合、解く必要のある連立方程式の組の数がe(x)の数の指数になる。したがって、e(x)の数が多い場合には現実的な方法ではない。
【0018】
本発明の目的は、解く必要のある方程式の数がe(x)の数の多項式オーダで収まる実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式までの距離を求める方法を提供すること、および最も近い一変数実多項式を求める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の距離算出装置は、実数全体の集合をRとし、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数とし、e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式とし、一変数実多項式f(x)が実閉区間Iに実重複零点を持たないとして、一変数実多項式の集合
【0020】
【数33】

のうち、実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式f(x)について、一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する距離算出装置であって、記録部、多項式判定部、第1計算部、第2計算部を備える。
【0021】
記録部は、a,a,…,aと、f(x),e(x),…,e(x)と、実閉区間Iとを記録する。多項式判定部は、n=1かn>1かを判定する。第1計算部は、n>1のときに一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する。第2計算部は、n=1のときに一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する。
【0022】
第1計算部は、Δ、Δ、Z、Z計算手段、Δ\Z、J\Z計算手段、φ(σ)計算手段、Φ(σ)計算手段、実閉区間確認手段、m計算手段、m決定手段を有する。Δ、Δ、Z、Z計算手段は、
【0023】
【数34】

を求める。Δ\Z、J\Z計算手段は、集合Δ\Zと集合J\Zを求める。φ(σ)計算手段は、
【0024】
【数35】

ただし、σ∈I\Δ、j=1,…,n
を求める。Φ(σ)計算手段は、
【0025】
【数36】

を求める。実閉区間確認手段は、実閉区間Iが一点かを確認する。m計算手段は、実閉区間Iが一点でない場合に、
【0026】
【数37】

を計算する。m決定手段は、実閉区間Iが一点でない場合にはm=min{m,…,m}とし、実閉区間Iが一点の場合にはm=Φ(σ)のように距離mを決定する。
【0027】
第2計算部は、連立方程式生成手段、恒等性確認手段、多項式生成手段、距離計算手段、距離選定手段、ゼロ多項式用距離計算手段を有する。連立方程式生成手段は、
【0028】
【数38】

を生成する。恒等性確認手段は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0かを確認する。多項式生成手段は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合に、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)=0を満たす有限個のtを求め、すべてのtに対する多項式f(x)+t(x)を生成する。距離計算手段は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合に、l−ノルムによって多項式生成手段が生成した各多項式と多項式f(x)との距離を計算する。距離選定手段は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合に、距離計算手段が計算した距離の中で最小の距離を選定する。ゼロ多項式用距離計算手段は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0の場合に、l−ノルムによってゼロ多項式と多項式f(x)との距離を計算する。
【0029】
本発明の多項式算出装置は、第1計算部にさらに多項式算出手段を有し、第2計算部は距離選定手段とゼロ多項式用距離計算手段の代わりに多項式選定手段を有する。多項式算出手段は、多項式
【0030】
【数39】

の中の1つまたは複数の情報を求める。多項式選定手段は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、距離計算手段が計算した距離が最小となる多項式を選定し、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0の場合には、ゼロ多項式を選定する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の距離算出装置および多項式算出装置はこのような構成なので、実閉区間Iに属する点σを零点とする多項式のうち、f(x)に最も近いものまでの距離を表す式Φ(σ)を導入し、その後にσをI上で動かしたときの距離の最小値を求めている。したがって、解く必要のある方程式の数、その次数をn、d=max{deg(f(x)),deg(e(x)),…,deg(e(x))}の多項式オーダにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[理論的説明]
本発明では、実数全体の集合をR、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数、f(x),e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式とし、e(x),…,e(x)はR上一時独立とする。また、集合Fを
【0033】
【数40】

とする。Iはあらかじめ与えられた実閉区間とし、f(x)はIに重複零点を持たないものとする。実閉区間Iが有界でないときには、集合Fに属する多項式の次数はtによらず一定と仮定する。なお、重み付きのl−ノルムmax{w|a|}(ただし、0<w)を用いる場合は、{e(x),…,e(x)}の代わりに、{e(x)/w,…,e(x)/w}を用いればよい。
【0034】
次の定理は、非特許文献2に示されている定理1(THEOREM1)である。
定理1
一変数実多項式f(x)と集合Fは上記の通り、距離d(f,g)はl−ノルムでの距離、Iは実閉区間とする。もし、Iに重複零点を持つ多項式g(x)∈Fが存在するならば、Iに重複零点を持ち、かつ‖f−fが最小となるようなf(x)∈Fが存在する。
【0035】
次の定理は、定理1の「Iに重複零点を持つ多項式g(x)∈Fが存在」という条件が、ある場合は自動的に満たされることを示すものである。
定理2
一変数実多項式f(x)、e(x),…,e(x)は上記の通りとし、Iは一点ではないとする。n≧2のとき、集合Fに属する多項式でIに重複零点を持つものが存在する。
証明
n=2の場合に証明すれば十分である。f(x)+t(x)+t(x)がx=cにおいて重複零点を持つ必要十分条件は、連立方程式
【0036】
【数41】

がx=cを解とすることである。ただし、f’(x)は、f(x)をxで1回微分した多項式である。上記連立方程式をtとtに関する連立方程式(xはパラメータ)と見る。e(x)とe(x)はR上一次独立だから、(e(x),e’(x))と(e(x),e’(x))もR上一次独立である。
【0037】
よって、行列式e(x)e’(x)−e’(x)e(x)は多項式として0ではなく、これが0となるようなxは有限個である。なぜならば、e(x)e’(x)−e’(x)e(x)が多項式として0と仮定すると、(後述するn=1の場合と同じ議論で、)ある実数aがあって、e(x)=ae(x)と書けることになるが、これはe(x)とe(x)がR上一次独立であることに矛盾するからである。
【0038】
よって、適当にcを選べば、e(c)e’(c)−e’(c)e(c)≠0とできる。そのcに対して上記連立方程式は解けて、t,t∈Rの値が決まる。
(証明終)
【0039】
なお、Iが一点の場合は、後述の補題1により、最近多項式が存在するか否か判定できることに注意されたい。n=1の場合、f(x)+t(x)(t∈R)がx=cにおいて重複零点を持つ必要十分条件は、連立方程式
【0040】
【数42】

がx=cを解とすることである。よって、行列式f(c)e’(c)−f’(c)e(c)は0となる。これは、sとsについての連立方程式
【0041】
【数43】

が(s,s)=(1,t)という(0,0)ではない解を持つことからいえる。
【0042】
したがって、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が多項式として0でないときには、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)=0を解いて(根は有限個)、それらについて連立方程式(3)を満たすtを求めればよい。なお、このときには、解がない場合もある。例えば、f(x)=1、e(x)=xなどである。また、解がある場合でも、この段階で候補が有限個となるので、直接一番近い多項式を求めることができる。
【0043】
次に、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が多項式として0のときには、f(x)/e(x)=f’(x)/e’(x)=p(x)とおくことができ、
f(x)=p(x)e(x)
f’(x)=p(x)e’(x)
が成り立つ。一方、f(x)=p(x)e(x)の両辺を微分すると、
f’(x)=p’(x)e(x)+p(x)e’(x)
である。よって、有理関数として、p’(x)e(x)=0となるが、e(x)は多項式として0ではないから、p’(x)が0となる。つまり、p(x)は定数となるので、aとおくと、f(x)=a・e(x)と書ける。よって、連立方程式(3)は、
【0044】
【数44】

となる。解がt=−aの場合、f(x)−a・e(x)はゼロ多項式である。なお、解がt≠−aとすると、e(x)=e’(x)=0となる。このときe(x)がIに実重複零点を持つことになり、f(x)=a・e(x)も実重複零点を持つことになってしまう。これは、f(x)がIに実重複零点を持たないことに矛盾する。つまり、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が多項式として0のときには、ゼロ多項式が最近多項式である。
【0045】
次の補題は、最小距離を算出する上で重要な役割を果たすものである。
補題1
f(x),e(x)はあらかじめ与えられた実係数一変数多項式とし、
【0046】
【数45】

とする。このとき、αを零点とするf∈Fεが存在する必要十分条件は以下のとおりである。
【0047】
【数46】

なお、本明細書中ではF^は、ベクトルを表現しており、Fは集合を表現していることに注意されたい。
証明
αを重複零点とするg∈Fεが存在する必要十分条件は、(0,0)が集合
{(h(α),h’(α))|h(x)∈Fε} (4)
に属することである。
【0048】
【数47】

とすると、上記の集合は以下のように書ける。
【0049】
【数48】

集合Vε(α)は凸多角形となる。これは文献(H.Sekigawa and K.Shirayanagi, "Locating Real Multiple Zeros of a Real Interval Polynomial Proc.," International Symposium on Symbolic and Algebraic Computation(ISSAC2006),pp.310-317, 2006.)のTHEOREM4に示されている。凸多角形の頂点は以下のように求めることができる。
【0050】
【数49】

よって、凸多角形
【0051】
【数50】

【0052】
【数51】

【0053】
【数52】

【0054】
【数53】

【0055】
【数54】

凸多角形が線分に退化した場合、すなわち、j=1,…,nに対して式(8)の右辺が0となる場合、不等式(9)が必要である。
【0056】
(0,0)が集合(4)に属する必要十分条件は、−F^(α)が凸多角形(6)に属することである。
【0057】
【数55】

以下の等式が成り立つことに注意されたい。
【0058】
【数56】

したがって、以下が成り立つ。
【0059】
【数57】

よって、以下の不等式が成り立つ。
【0060】
【数58】

最後に、以下の点に注意すれば証明が終わる。
【0061】
【数59】

(証明終)
【0062】
以下の定理は補題1からしたがう。根号を避けるため、補題1で退化の場合の式を変形する。
定理3
【0063】
【数60】

f(x),e(x)はあらかじめ与えられた実係数一変数多項式とし、αはf(x)の実重複零点ではないものとする。
【0064】
1.1≦j<k≦nに対して、A(E^j(α),E^j(α))=0が成立するとき、最近多項式が存在する必要十分条件は、A(E^j(α),F^(α))=0が、j=1,…,nにたいして成り立ち、さらに、E^j(α)≠(0,0)となるjが存在することである。このときの距離は、
【0065】
【数61】

である。
【0066】
2.あるj<kに対して、A(E^j(α),E^j(α))≠0が成立するとき、最近多項式は存在する。最小距離は、
【0067】
【数62】

である。ただし、分母が0となるものは除く。
証明
2は、補題1からただちに従うので、1のみを証明する。(0,0),E^1(α),…,E^n(α)が一直線上にあり、最近多項式が存在する条件が満たされているとき、j=1,…,nに対し、E^j(α)=αjF(α)(αj∈R)と書ける。このとき、補題1の条件
【0068】
【数63】

である。したがって、1が証明された。
(証明終)
【0069】
次に、最短距離が求められたときの多項式の算出方法を示す。εを最小距離とする。このとき、(−f(α),−f’(α))は、凸多角形のある辺上にある。この辺の端点をεW^とεW^i+1とすると、
【0070】
【数64】

であり、(−f(α),−f’(α))はεW^とεW^i+1とを結ぶ辺上にあるから、t(ただし、0≦t≦1)が存在して、
【0071】
【数65】

と書ける。ν(k)=iとなるkをとると、式(10)のL(j),R(j)の作り方より、
【0072】
【数66】

どちらの符号を取るかは、式(5)で決まる。
次に、j∈P(i)になるjについて考察する。
【0073】
【数67】

なお、μは、1つだけ符号が異なる番号jである。μ以外のjについてはa=±εとし、番号μについては、
【0074】
【数68】

は、αを実重複零点として持ち、しかも、μとは異なるjについてはeの係数がεあるいは−εである。なお、符号は式(5)から決定できる。さらに、−1≦s≦1であることに注意すれば、g^は条件を満たす多項式であることが分かる。
【0075】
次に、凸多角形が線分に退化している場合について説明する。この場合は、補題1より、
【0076】
【数69】

が成立する。ただし、±の符号は、補題1で等号が成立するものを取る。このように取った符号に対して、
【0077】
【数70】

とすれば、多項式g(x)が求められる。
【実施例1】
【0078】
本発明の距離算出装置の機能構成例を図1に示す。距離算出装置10は、実数全体の集合をR、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数、e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式、一変数実多項式f(x)が実閉区間Iに実重複零点を持たないとして、一変数実多項式の集合
【0079】
【数71】

のうち、実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式f(x)について、一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する。距離算出装置10は、少なくとも、記録部190、多項式判定部150、第1計算部200、第2計算部300を備える。入力部100は記録部190に情報を入力するための構成部であるが、距離算出装置10の外部であらかじめ記録された情報を記録部190が有する場合には不要である。出力部400は、第1計算部200や第2計算部300の計算結果を出力する構成部であるが、第1計算部200や第2計算部300の計算結果を記録部190に記録させ、距離算出装置10の外部に取り出す場合には不要である。
【0080】
図2に第1計算部の機能構成例、図3に第2計算部の機能構成例を示す。また、図4に距離算出装置10の処理フロー、図5に第1計算部の処理フロー、図6に第2計算部の処理フローを示す。
【0081】
記録部190は、入力部100などを介して、a,a,…,aと、f(x),e(x),…,e(x)と、実閉区間Iとを記録する(S100)。多項式判定部150は、n=1かn>1かを判定する(S150)。第1計算部200は、n>1のときに一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する(S200)。第2計算部300は、n=1のときに一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する(S300)。出力部400は、算出された距離を出力する(S400)。
【0082】
第1計算部200の詳細な構成と処理フローは以下のとおりである。第1計算部200は、Δ、Δ、Z、Z計算手段210、Δ\Z、J\Z計算手段220、φ(σ)計算手段230、Φ(σ)計算手段240、実閉区間確認手段250、m計算手段260、m決定手段270を有する。Δ、Δ、Z、Z計算手段210は、
【0083】
【数72】

を求める(S210)。なお、集合Zを求めるときの和集合をとる際には、
【0084】
【数73】

が恒等的に0になる集合は除く。
【0085】
Δ\Z、J\Z計算手段220は、集合Δ\Zと集合J\Zを求める(S220)。φ(σ)計算手段230は、
【0086】
【数74】

ただし、σ∈I\Δ、j=1,…,n
を求める(S230)。
Φ(σ)計算手段240は、
【0087】
【数75】

を求める(S240)。なお、
【0088】
【数76】

の符号が集合J\Zの各区間で不変なので、φ(σ)はσの有理関数である。また、集合Zは有限集合だから、集合J\Zは有限個の区間の和集合である。したがって、例えば、集合J\Zを有限個の区間Jの和集合で書き、以下のアルゴリズムを{φ(σ),…,φ(σ)}と各Jに適用すると、Φ(σ)を集合J\Z上の区分的な有理関数として得ることができる。
【0089】
アルゴリズム1(max{φ(σ),…,φ(σ)}の計算)
入力を有理関数の集合S={φ(σ),…,φ(σ)}と実区間I(ただし、φ(σ)の極はIには存在しない)とする。
(i)S={φ(σ)}のとき、{(I,φ(σ))}を出力して終了する。S≠{φ(σ)}の場合は、SをT個に分割し、maxS(ただし、t=1,…,T)を
【0090】
【数77】

の形で得る。ただし、qはmaxSを表現するために実区間Iを分割した数である。分割は、maxSが容易に得られるところまで行えばよい。例えば、T=nとすれば必ずmaxSが得られる。
(ii)実区間Iでφ1+2(σ)=max{φ(σ),φ(σ)}を次のように計算して、
【0091】
【数78】

を得る。ただし、p,pはmaxS,maxSを表現するために実区間Iを分割した数、p1+2はmax{S,S}を表現するために実区間Iを分割した数である。まず、I1,j∩I2,k≠0となる区間の対を取る。このような対は高々p+p−1存在するので、max{φ(σ),φ(σ)}を各対の共通部分で計算する。空でない区間I1,j∩I2,k≠0の下限をa、上限をbとする。なお、aは−∞、bは∞となることもある。区間(a,b)内にあるφθ1(j)(σ)=φθ2(j)(σ)の解σ<…<σを求める。そして、
a<τ<σ<τ<…<τ<σ<τQ+1<b
となるτ,…,τQ+1を求め、φθ1(j)(τ)とφθ2(j)(τ)の大小関係を求め、
【0092】
【数79】

を求める。
(iii)(ii)の処理をT−1回繰り返すことで、(i)でT個に分割された集合Sを統合することができ、max{φ(σ),…,φ(σ)}を
【0093】
【数80】

の形で得ることができる。ただし、pはmaxSを表現するために実区間Iを分割した数である。
【0094】
実閉区間確認手段250は、実閉区間Iが一点かを確認する(S250)。実閉区間Iが一点でない場合には、m計算手段260は、
【0095】
【数81】

を計算する(S260)。そして、m決定手段270は、距離m=min{m,…,m}とする(S270)。実閉区間Iが一点の場合には、m決定手段270が、距離m=Φ(σ)とする。
【0096】
第2計算部300の詳細な構成と処理フローは以下のとおりである。第2計算部300は、連立方程式生成手段310、恒等性確認手段320、多項式生成手段330、距離計算手段340、距離選定手段350、ゼロ多項式用距離計算手段345を有する。連立方程式生成手段310は、
【0097】
【数82】

を生成する(S310)。恒等性確認手段320は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0かを確認する(S320)。f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、多項式生成手段330は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)=0を満たす有限個のtを求め、すべてのtに対する多項式f(x)+t(x)を生成する(S330)。そして、距離計算手段340は、l−ノルムによって多項式生成手段330が生成した各多項式と多項式f(x)との距離を計算する(S340)。距離選定手段350は、距離計算手段340が計算した距離の中で最小の距離を選定する(S350)。f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0の場合には、ゼロ多項式用距離計算手段345は、l−ノルムによってゼロ多項式と多項式f(x)との距離を計算する(S345)。
[計算量の解析]
まず、アルゴリズム1の計算量を解析する。この解析に必要な定義を次に示す。
定義1(Davenport-Schinzel列)
Σ={a,a,…,a}とし、Ln,sをアルファベットΣ上の文字列の集合で、aおよびξij(ただし、i≠j)を部分列として含まないのもとする。ここで、ξijは以下で定義される長さs+2の文字列である。
【0098】
ξij=a, ξ2pij=ξ2p−1ij, ξ2p+1ij=ξ2pij (1≦p)
λ(n,s)をmax{|σ||σ∈Ln,s}で定義し、Ln,sに属する列を(n,s)Davenport-Schinzel列という。
【0099】
次の補題は、文献(M. J. Atallah, “Some dynamic computational geometry problems,” Computers and Mathematics with Applications, Vol.11, No.12, pp.1171-1181, 1985.)のLemma 2.4と本質的に同じものであり、アルゴリズム1とDavenport-Schinzel列との関係を示すものである。
補題2
(t),…,f(t)を実変数を取るt∈I⊂Rの関数かつ、連続なものとする。異なる2つのf(t)とf(t)を任意に取ったとき、f(t)とf(t)が高々s回しか交わらないとすると、
h(t)=max{f(t),…,f(t)}
は、Iを高々λ(n,s)個の区間に細分することにより、各細分上でf(t),…,f(t)のいずれかと等しいようにできる。ここで、λ(n,s)という値はこれ以上小さくはできない。
【0100】
δを、アルゴリズム1において、φ(σ),…,φ(σ)の分母分子の次数の最大値とする。すると、φ(σ)とφ(σ)(ただし、j≠k)は、Iにおいて高々2δ回しか交わらない。よって、max{φ(σ),φ(σ)}を計算するために、(ii)においてφ(σ)=φ(σ)という方程式を解く回数は、高々
【0101】
【数83】

である。よって、max{φ(σ),…,φ(σ)}を計算するためにφ(σ)=φ(σ)という方程式を解く回数は、高々
【0102】
【数84】

となる。式(13)の値を評価するために次の補題を用いる。
補題3
任意の正の自然数mに対し、mλ(n,s)≦λ(mn,s)が成立する。
証明
σ,…,σを、アルファベットΣ,Σ2n\Σ,…,Σmn\Σ(m−1)n上の(n,s)Davenport-Schinzel列とする。このときσ,…,σは、Σmn上の(mn,s)Davenport-Schinzel列で長さがmλ(n,s)であるから、補題の不等式は成り立つ。
(証明終)
【0103】
補題3より、
【数85】

となる。λ(n,s)はnとsについて、多項式オーダである。例えば、
λ(n,s)≦sn(n−1)+1
という評価が、文献(H. Davenportand A. Schinzel, “A combinatorial problem concerned with differential equations,” American Journal of Mathematics, Vol.87, No.3, pp.684-694, 1965.)で与えられている。
【0104】
次に、図5に示した第1計算部200の処理フロー(S200)の計算量を解析する。d=max{deg(f),deg(e),…,deg(e)}とすると、
【0105】
【数86】

の次数は高々2dである。解く必要のある方程式の数は以下の通りである。
【0106】
Δ、Δ、Z、Z計算手段210が、Δ、Δ、Z、Zを計算するためには、それぞれ1つの方程式を解けばよい。Δ、Δ、Z、Zに対する方程式の次数は高々、
2d, 2d, 2d, n(n+1)d
である。
J\Z上でΦ(σ)を計算するために必要な解くべき方程式の数と次数は、高々、
【0107】
【数87】

である。J\Zは、高々n(n+1)d+2d+1個の区間の和集合として書けることに注意されたい。Φ(σ)を計算するために、各区間上で解く必要のある方程式の数は、
【0108】
【数88】

である。
【0109】
,mを計算するために比較が必要な値は、高々、
2d, n(n+1)d
である。
【0110】
Δ\Zは、高々2d個の区間(一点に退化したものを含む)の和として書ける。mを、Δ\Zの一点に退化していない区間上で計算するためには、Φ’(σ)=0を解く必要がある。Φ(σ)の分母分子の次数は高々2dだから、Φ’(σ)の分子の次数は、高々、
4d−1
である。
【0111】
を計算するためには、Φ’(σ)=0を、J\Zの各区間上で解く必要がある。Φ(σ)の分母分子の次数は高々2dだから、Φ’(σ)の分子の次数は、高々、
4d−1
である。
以上より、解く必要のある方程式の数、その次数は、n、dの多項式オーダであることが分かる。
【0112】
したがって、本発明の距離算出装置によれば、解く必要のある方程式の数、その次数をn、d=max{deg(f(x)),deg(e(x)),…,deg(e(x))}の多項式オーダにできる。
[具体例]
以下に、f(x)=x+1とし、I=Rに重複零点を持ちf(x)に一番近い多項式
(x)=f(x)+a(x)+a(x)+a(x)
ただし、a,a,a∈R、e(x)=x、e(x)=x、e(x)=x
を距離算出装置10を用いて求める場合を示す。
【0113】
f(x)=x+1、e(x)=x、e(x)=x、e(x)=xと実閉区間Iが記録部190に記録される(S100)。多項式判定部150は、n=3であるから、n>1と判定する(S150)。したがって、第1計算部200が、一変数実多項式f(x)と一変数実多項式f(x)との距離を算出する(S200)。
第1計算部200では、Δ、Δ、Z、Z計算手段210が、
【0114】
【数89】

を計算し、
【0115】
【数90】

を求める(S210)。
【0116】
Δ\Z、J\Z計算手段220は、J=I\Δ=(−∞,0)∪(0,∞)を求め、
【0117】
【数91】

を求める(S220)。
φ(σ)計算手段230は、
【0118】
【数92】

を求める(S230)。
【0119】
Φ(σ)計算手段240は、次のような手順でΦ(σ)を求める。まず、集合ZでのΦ(σ)を求めると、
【0120】
【数93】

となる。次に、集合J\ZでのΦ(σ)を、アルゴリズム1を用いて計算する。
【0121】
S={φ(σ),φ(σ),φ(σ)}であるから、3個に分割し、S={φ(σ)}、S={φ(σ)}、S={φ(σ)}とする。このとき、maxS=φ(σ)(σ∈I)、maxS=φ(σ)(σ∈I)、maxS=φ(σ)(σ∈I)である(アルゴリズム1の(i)に相当)。
【0122】
集合J\Zについて、アルゴリズム1の(ii)(iii)を行うと次のようになる。
(−∞,0)においては、
【0123】
【数94】

である。φ(σ)−φ(σ)の分子σ−2σ−3σ−2σ+1は、負の実零点を持たないから、φ(σ)<φ(σ)が常に成り立つ。なお、多項式の大小関係は、アルゴリズム1の(ii)に示したように範囲内から適宜τを選び、φ(τ)とφ(τ)を比較すればよい。例えば、(−∞,0)の範囲である−1を選ぶと、φ(−1)−φ(−1)=3>0となる。したがって、φ(σ)<φ(σ)であることが分かる。多項式間の大小関係の比較はどれも同じようにすればよいので、以下の多項式間の大小関係の比較ではこの説明は省略する。このようにして、
max{S,S}=φ(σ)(σ∈(−∞,0))
が求められる。
【0124】
φ(σ)−φ(σ)の分子σ+2σ+3σ−2σ−1の負の実零点は1つあり、α=−0.35091・・・である。したがって、(−∞,α)ではφ(σ)<φ(σ)、αではφ(σ)=φ(σ)、(α,0)ではφ(σ)>φ(σ)が成り立つ。
【0125】
このようにして、max{max{S,S},S}、つまりmaxSを求めることができ、
【0126】
【数95】

となる(範囲(−∞,0)に対するアルゴリズム1の(ii)(iii)に相当)。
【0127】
【数96】

である。φ(σ)−φ(σ)の分子−σ−2σ−3σ+2σ+1は、この区間に1つの実零点α=0.70059・・・を持つ。そして、(0,α)ではφ(σ)<φ(σ)、αではφ(σ)=φ(σ)、(α,(1/2)1/3)ではφ(σ)>φ(σ)が成り立つ。
【0128】
φ(σ)−φ(σ)の分子σ−2σ−3σ−2σ+1の(0,α]の範囲にある零点は、α=0.31948・・・のみである。そして、(0,α)ではφ(σ)<φ(σ)、αではφ(σ)=φ(σ)、(α,α]ではφ(σ)>φ(σ)が成り立つ。
【0129】
また、φ(σ)−φ(σ)の分子−2σ−4σ−6σ−2σ+2は、(α,(1/2)1/3)の範囲では零点を持たず、この範囲全体でφ(σ)>φ(σ)が成り立つ。よって、
【0130】
【数97】

である(範囲(0,(1/2)1/3)に対するアルゴリズム1の(ii)(iii)に相当)。
【0131】
【数98】

である。φ(σ)−φ(σ)の分子−σ−2σ−3σ+2σ+1は、((1/2)1/3,21/3)の範囲に実零点を持たず、φ(σ)>φ(σ)が成り立つ。
【0132】
φ(σ)−φ(σ)の分子2σ+4σ−6σ−4σ−2は、((1/2)1/3,21/3)の範囲に実零点を持たず、φ(σ)>φ(σ)が成り立つ。よって、
【0133】
【数99】

である(範囲((1/2)1/3,21/3)に対するアルゴリズム1の(ii)(iii)に相当)。
【0134】
【数100】

である。φ(σ)−φ(σ)の分子σ+2σ−3σ−2σ−7は、(21/3,∞)の範囲に実零点α=1.73476・・・を持つ。そして、(21/3,α)ではφ(σ)>φ(σ)、αではφ(σ)=φ(σ)、(α,∞)ではφ(σ)<φ(σ)が成り立つ。
【0135】
φ(σ)−φ(σ)の分子2σ+4σ−6σ−4σ−2は、(21/3,α]の範囲に実零点α=1.42735・・・を持つ。そして、(21/3,α)ではφ(σ)>φ(σ)、αではφ(σ)=φ(σ)、(α,α]ではφ(σ)<φ(σ)が成り立つ。
【0136】
φ(σ)−φ(σ)の分子−σ+2σ+3σ+2σ−1の(α,∞)の範囲にある零点は、α=3.13000・・・である。そして、(α,α)ではφ(σ)<φ(σ)、αではφ(σ)=φ(σ)、(α,∞)ではφ(σ)>φ(σ)が成り立つ。よって、
【0137】
【数101】

である(範囲((21/3,∞)に対するアルゴリズム1の(ii)(iii)に相当)。
以上をまとめると、集合J\ZでのΦ(σ)は、
【0138】
【数102】

となる(S240)。
【0139】
実閉区間確認手段250は、実閉区間Iが一点かを確認する(S250)。この例では実閉区間Iは一点ではないので、m計算手段260は、m,…,mを次のように計算する(S260)。
【0140】
【数103】

である。mは次のように求める。Φ(σ)を微分すると
【0141】
【数104】

となる。
(−∞,α]において、φ’(σ)の分母は常に負である。φ’(σ)の分子−2σ+6σ−2はβ=−1.87938・・・においてのみ零点を持ち、(−∞,β)において正、(β,α)において負である。したがって、Φ(σ)は、(−∞,β)において単調減少、(β,α)において単調増加である。また、(α,0)においては、φ’(σ)の分母は常に正である。φ’(σ)の分子2σ+6σ+2は零点を持たず常に正である。したがって、Φ(σ)は、(α,0)において単調増加である。同様にΦ(σ)を調べていくと、Φ(σ)は(0,(1/2)1/3)∪((1/2)1/3,21/3)∪(21/3,α)で単調減少、[α,∞)で単調増加である。したがって、集合J\ZにおけるΦ(σ)の最小値m
=min{Φ(β),Φ(α)}
=min{0.84935・・・,0.61324・・・}
=0.61324・・・
である。
【0142】
m決定手段270は、
m=min{m,…,m}=m=0.61324・・・
を計算して、最小距離0.61324・・・を求める(S270)。
【0143】
出力部400は、第1計算部200の計算結果である最小距離0.61324・・・を出力する(S400)。
【0144】
なお、上述の説明では、説明を簡単にするために区間Iの端点、多項式の係数は有理数としたが、実施例に示した計算では四則演算と等号判定が実行できれば十分なので、例えば実代数的数(整数係数一次代数方程式の根となる実数)としてもよい。
【実施例2】
【0145】
実施例1では距離算出装置と距離算出方法を示したが、同様の技術で多項式算出装置や多項式算出方法も提供できる。実施例2では、多項式算出装置と多項式算出方法について説明する。本発明の多項式算出装置の機能構成例も図1に示す。また、図2に第1計算部の機能構成例、図3に第2計算部の機能構成例を示す。また、図4に多項式算出装置20の処理フロー、図5に第1計算部の処理フロー、図6に第2計算部の処理フローを示す。実線で示した構成部や処理ステップが距離算出装置10と多項式算出装置20に共通な構成部や処理ステップ、点線で示した構成部や処理ステップが多項式算出装置20にのみ必要な構成部や処理ステップ、一点鎖線で示した構成部や処理ステップは距離算出装置10にのみ必要な構成部や処理ステップである。
【0146】
多項式算出装置20は、第1計算部と第2計算部とが、距離算出装置10と異なる。多項式算出装置20は、第1計算部200’に、さらに多項式算出手段280を有し、第2計算部300’は距離選定手段350とゼロ多項式用距離計算手段345の代わりに多項式選定手段360を有する。その他の構成は、第1計算部200、第2計算部300と同じである。多項式算出手段280は、m決定手段270が求めた最短距離mを用いて、多項式
【0147】
【数105】

の中の1つまたは複数の情報を求める(S280)。なお、m’の値、±の符号については、理論的説明で示した式(11)(12)(5)などにより定めることができる。多項式選定手段360は、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、距離計算手段が計算した距離が最小となる多項式を選定し(S365)、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0の場合には、ゼロ多項式を選定する(S360)。そして、出力部400は、算出された多項式の情報を出力する(S400)。
【0148】
多項式算出装置20は、このように距離算出装置10と同じ技術によって多項式を算出するので、解く必要のある方程式の数、その次数をn、d=max{deg(f(x)),deg(e(x)),…,deg(e(x))}の多項式オーダにできる。
【0149】
図7にコンピュータの機能構成例を示す。上述の実施例は、図7に示すコンピュータの記録部2020に、上記装置としてコンピュータを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040などに動作させることで実施できる。また、コンピュータに読み込ませる方法としては、プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録しておき、記録媒体からコンピュータに読み込ませる方法、サーバ等に記録されたプログラムを、電気通信回線等を通じてコンピュータに読み込ませる方法などがある。
【産業上の利用可能性】
【0150】
デジタル信号処理やシステム制御の分野において、実一変数多項式の零点の位置は、デジタルフィルタの周波数特性やシステムの性能に密接に関係する。デジタルフィルタの周波数特性やシステムの性能を設計する上で、ある実区間Iに所望の個数(ゼロ個の場合も含む)の実零点を持つように多項式の係数を設定したい場合を考える。多項式の係数は有限精度でしか指定できないので、必ず誤差を持つ。また、多項式の実重複零点は、どんなに小さな係数の変化に対しても、複数の複素零点あるいは実の近接零点となるので、実重複零点を持つ多項式が係数の誤差範囲に存在すれば、実区間Iの実零点の個数を制御できないことになる。したがって、設計によって求めた実一変数多項式が、実重複零点を持つ実一変数多項式とどの程度離れているのかは、デジタルフィルタの周波数特性やシステムの性能を設計する上で重要な問題である。
【0151】
本発明は、例えば、実閉区間Iに実重複零点を持たないように多項式の係数を設定したい場合に、係数設定に誤差を伴うことを前提として、誤差範囲内のどのような多項式であっても間違いなく実閉区間に実重複零点を持たないようにするときに、その誤差限界の確定などとして用いることができる。このような場合の一例として、デジタル信号処理におけるデジタルフィルタ(例えば、IIR〔Infinite Impulse Response〕フィルタ)の設計などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明の距離算出装置および多項式算出装置の機能構成例を示す図。
【図2】第1計算部の機能構成例を示す図。
【図3】第2計算部の機能構成例を示す図。
【図4】本発明の距離算出装置および多項式算出装置の処理フローを示す図。
【図5】第1計算部の処理フローを示す図。
【図6】第2計算部の処理フローを示す図。
【図7】コンピュータの機能構成例を示す図。
【符号の説明】
【0153】
10 距離算出装置 20 多項式算出装置
100 入力部 150 多項式判定部
190 記録部 200、200’ 第1計算部
210 Δ、Δ、Z、Z計算手段 220 Δ\Z、J\Z計算手段
230 φ(σ)計算手段 240 Φ(σ)計算手段
250 実閉区間確認手段 260 m計算手段
270 m決定手段 280 多項式算出手段
300、300’ 第2計算部 310 連立方程式生成手段
320 恒等性確認手段 330 多項式生成手段
340 距離計算手段 345 ゼロ多項式用距離計算手段
350 距離選定手段 360 多項式選定手段
400 出力部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実数全体の集合をRとし、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数とし、e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式とし、一変数実多項式f(x)が実閉区間Iに実重複零点を持たないとして、一変数実多項式の集合
【数1】

のうち、前記実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、前記一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式f(x)について、前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する距離算出装置であって、
前記a,a,…,aと、前記f(x),e(x),…,e(x)と、前記実閉区間Iとを記録する記録部と、
n=1かn>1かを判定する多項式判定部と、
n>1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第1計算部と、
n=1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第2計算部と、
を備え、
前記第1計算部は、
【数2】

を求めるΔ、Δ、Z、Z計算手段と、
集合Δ\Zと集合J\Zを求めるΔ\Z、J\Z計算手段と、
【数3】

ただし、σ∈I\Δ、j=1,…,n
を求めるφ(σ)計算手段と、
【数4】

を求めるΦ(σ)計算手段と、
実閉区間Iが一点かを確認する実閉区間確認手段と、
実閉区間Iが一点でない場合に、
【数5】

を計算するm計算手段と、
実閉区間Iが一点でない場合にはm=min{m,…,m}とし、実閉区間Iが一点の場合にはm=Φ(σ)のように距離mを決定するm決定手段と、
を有する距離算出装置。
【請求項2】
請求項1記載の距離算出装置であって、
前記第2計算部は、
【数6】

を生成する連立方程式生成手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0かを確認する恒等性確認手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)=0を満たす有限個のtを求め、すべてのtに対する多項式f(x)+t(x)を生成する多項式生成手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、l−ノルムによって前記多項式生成手段が生成した各多項式と多項式f(x)との距離を計算する距離計算手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、前記距離計算手段が計算した距離の中で最小の距離を選定する距離選定手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0の場合には、l−ノルムによってゼロ多項式と多項式f(x)との距離を計算するゼロ多項式用距離計算手段と、
を有する距離算出装置。
【請求項3】
実数全体の集合をRとし、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数とし、e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式とし、一変数実多項式f(x)が実閉区間Iに実重複零点を持たないとして、一変数実多項式の集合
【数7】

のうち、前記実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、前記一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式f(x)を求める多項式算出装置であって、
前記a,a,…,aと、前記f(x),e(x),…,e(x)と、前記実閉区間Iとを記録する記録部と、
n=1かn>1かを判定する多項式判定部と、
n>1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第1計算部と、
n=1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第2計算部と、
を備え、
前記第1計算部は、
【数8】

を求めるΔ、Δ、Z、Z計算手段と、
集合Δ\Zと集合J\Zを求めるΔ\Z、J\Z計算手段と、
【数9】

ただし、σ∈I\Δ、j=1,…,n
を求めるφ(σ)計算手段と、
【数10】

を求めるΦ(σ)計算手段と、
実閉区間Iが一点かを確認する実閉区間確認手段と、
実閉区間Iが一点でない場合に、
【数11】

を計算するm計算手段と、
実閉区間Iが一点でない場合にはm=min{m,…,m}とし、実閉区間Iが一点の場合にはm=Φ(σ)のように距離mを決定するm決定手段と、
多項式
【数12】

の中の1つまたは複数の情報を求める多項式算出手段と
を備える多項式算出装置。
【請求項4】
請求項3記載の多項式算出装置であって、
前記第2計算部は、
【数13】

を生成する連立方程式生成手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0かを確認する恒等性確認手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)=0を満たす有限個のtを求め、すべてのtに対する多項式f(x)+t(x)を生成しする多項式生成手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、l−ノルムによって前記多項式生成手段が生成した各多項式と多項式f(x)との距離を計算する距離計算手段と、
f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0ではない場合には、前記距離計算手段が計算した距離が最小となる多項式を選定し、f(x)e’(x)−f’(x)e(x)が恒等的に0の場合には、ゼロ多項式を選定する多項式選定手段と、
を有する多項式算出装置。
【請求項5】
実数全体の集合をRとし、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数とし、e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式とし、一変数実多項式f(x)が実閉区間Iに実重複零点を持たないとして、一変数実多項式の集合
【数14】

のうち、前記実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、前記一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式f(x)について、前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する距離算出方法であって、
記録部に、あらかじめ前記a,a,…,aと、前記f(x),e(x),…,e(x)と、前記実閉区間Iとを記録しておき、
多項式判定部が、n=1かn>1かを判定する多項式判定ステップと、
第1計算部が、n>1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第1計算ステップと、
第2計算部が、n=1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第2計算ステップ
を有し、
前記第1計算ステップは、
【数15】

を求めるΔ、Δ、Z、Z計算サブステップと、
集合Δ\Zと集合J\Zを求めるΔ\Z、J\Z計算サブステップと、
【数16】

ただし、σ∈I\Δ、j=1,…,n
を求めるφ(σ)計算サブステップと、
【数17】

を求めるΦ(σ)計算サブステップと、
実閉区間Iが一点かを確認する実閉区間確認サブステップと、
実閉区間Iが一点でない場合に、
【数18】

を計算するm計算サブステップと、
実閉区間Iが一点でない場合にはm=min{m,…,m}とし、実閉区間Iが一点の場合にはm=Φ(σ)のように距離mを決定するm決定サブステップと、
を有する距離算出方法。
【請求項6】
実数全体の集合をRとし、a,a,…,aをそれぞれあらかじめ与えられた実数とし、e(x),…,e(x)をそれぞれあらかじめ与えられた一変数実多項式とし、一変数実多項式f(x)が実閉区間Iに実重複零点を持たないとして、一変数実多項式の集合
【数19】

のうち、前記実閉区間Iに実重複零点を持ち、かつ、前記一変数実多項式f(x)にl−ノルムで計算して最も近い一変数実多項式f(x)を求める多項式算出方法であって、
記録部に、あらかじめ前記a,a,…,aと、前記f(x),e(x),…,e(x)と、前記実閉区間Iとを記録しておき、
多項式判定部が、n=1かn>1かを判定する多項式判定ステップと、
第1計算部が、n>1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第1計算ステップと、
第2計算部が、n=1のときに前記一変数実多項式f(x)と前記一変数実多項式f(x)との距離を算出する第2計算ステップと、
を備え、
前記第1計算ステップは、
【数20】

を求めるΔ、Δ、Z、Z計算サブステップと、
集合Δ\Zと集合J\Zを求めるΔ\Z、J\Z計算サブステップと、
【数21】

ただし、σ∈I\Δ、j=1,…,n
を求めるφ(σ)計算サブステップと、
【数22】

を求めるΦ(σ)計算サブステップと、
実閉区間Iが一点かを確認する実閉区間確認サブステップと、
実閉区間Iが一点でない場合に、
【数23】

を計算するm計算サブステップと、
実閉区間Iが一点でない場合にはm=min{m,…,m}とし、実閉区間Iが一点の場合にはm=Φ(σ)のように距離mを決定するm決定サブステップと、
多項式
【数24】

の中の1つまたは複数の情報を求める多項式算出サブステップと
を有する多項式算出方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の方法の各ステップをコンピュータに実行させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−276841(P2009−276841A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124943(P2008−124943)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】