説明

路盤改良工法

【課題】雨水等による流動化で変状、泥化した軌道下の軟弱路盤を固化させて安定した改良土の路盤を形成することができ、簡便かつ作業負担の少ない、路盤改良工法を提供する。
【解決手段】路盤改良工法は、鉄道線路下のバラストの一部を除去した後、バラストを一部除去した箇所にバラストを埋め戻す際に、埋め戻すバラストの一部をセメントクリンカ等の水硬性組成物体で置換することにより、水硬性組成物体が破砕或いは摩耗して、路盤に落下して路盤を形成する土中に混合されて、路盤中の泥中の水や雨水等の水により固化し、路盤の土を改良する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路盤改良工法に関し、特に鉄道のバラスト軌道下の路盤に雨水等が侵入することにより変状、泥化した路盤を補強改良する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道は、地表を(路床)を切り取り、または土を盛って路盤を形成し、砕石と砂利(バラスト)を敷いて道床とし、その上に枕木及びレールを敷設する、いわゆるバラスト軌道が一般的である。
【0003】
かかるバラスト軌道においては、長年の列車の振動や、地下水の上昇及び雨水や長期の浸水等により、路盤表面のどが軟弱化して泥となり、この状態で列車の荷重等の圧力がかかった際に、路盤から泥が噴出する、いわゆる路盤噴泥が発生することがある。また、バラスト道床においても、枕木に対する列車の荷重の載荷と除荷が交互に起こり、除荷時に泥水が吸引されて、再載荷時にバラストの隙間を泥が上昇して道床表面に泥が噴出する、いわゆる道床噴泥が発生することもある。
【0004】
かかる噴泥が発生すると、レールと枕木を支えているバラスト道床の弾性力が失われ、振動、騒音の増加を招くとともに、陥没、張り出し等の軌道変状の危険性が大きくなってしまう。軌道の沈下や軌道狂いの増加は、安全面での懸念事項や乗り心地の悪化等の問題を引き起こすものである。このことから、道床を安全に安定的に保持することが重要であり、保線保守作業の軽減・簡略化が望まれている。
【0005】
従って従来では、定期的にバラストを交換したり、バラスト道床を厚くしたり、路盤面に遮水シート等の被覆を施したり、路盤を取り替える方法等が行なわれている。
定期的にバラストを交換する方法やバラスト道床を厚くする方法は、軟弱化した路盤を補強補修することはできない。
【0006】
また、路盤面に遮水シート等の被覆する方法は、バラスト道床のバラストを全て取り除いた後、該取り除いた路盤面に適当な遮水シート等の積層シート材を敷きこんだり、又は樹脂組成物で被覆したりする方法であり、シートを設置したり、樹脂で被覆した後には、再度バラスト及び枕木を埋め戻す必要があり、その作業面やコスト面での負担はきわめて大きい。
【0007】
特開2002−363903号公報(特許文献1)では、鉄道線路下のバラスト道床のバラストを取り除いた後、その取り除いた路盤面に二液型ウレタン被覆剤を散布して、次いでバラストを埋め戻す、噴泥防止工法が記載されている。
【0008】
特開2007−112912号公報(特許文献2)では、枕木周辺のバラストを一部除去した後、バラストを一部除去した箇所に、エチレンオキサイド基および/またはプロピレンオキサイド基を含む末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)および高沸点希釈剤(B)を含んでなり、イソシアネート基含有率が5質量%を超え15質量%未満であり、粘度が10mPa・s/23℃を超え300mPa・s/23℃未満であることを特徴とする一液湿気硬化型の噴泥固結剤を散布して、次いでバラストを埋め戻す、噴泥防止・抑制施工方法が記載されている。
【0009】
しかし、上記いずれの方法も、軟弱化して変状、泥化した路盤を改修することはできず、結局現状では、レール、枕木、バラストを全て除去して、路盤自体を取り替える方法や、バラスト軌道に排水溝を設置する方法が実施されている。
現在は早朝から深夜まで列車が運行しており、改修工事時間も非常に短いことが要求されており、路盤を取り替える方法は作業工程が多く、また作業時間も長くかかる等の作業負担が大きい。
排水設備設置方法では、排水設備をあらたに設けなければならず、コストがかかり、更に排水設備は長年の土砂等により詰まってしまい、設備に寿命がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−363903号公報
【特許文献2】特開2007−112912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、雨水等による流動化で変状、泥化した軌道下の軟弱路盤を固化させて安定した改良土の路盤を形成することができる、路盤改良工法を提供することである。
また、本発明の目的は、泥化した路盤を直接改質でき、簡便かつ作用負担の少ない、路盤改良工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、バラストの一部に、セメントクリンカ等の水硬性組成物体を混入させることで、列車走行時の繰り替えし荷重によって、該水硬性組成物体が破砕或いは摩耗して路盤の土中に混合されて、路盤の土を固化改良することにより達成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明の路盤改良工法は、鉄道線路下のバラストの一部を除去した後、バラストを一部除去した箇所にバラストを埋め戻す際に、埋め戻すバラストの一部を、セメントクリンカ等の水硬性組成物体で置換することを特徴とする、路盤改良方法である。
【0014】
好適には、上記本発明の路盤改良方法において、前記水硬性組成物体は低熱ポルトランドセメントクリンカであることを特徴とする、路盤改良方法である。
【0015】
さらに好適には、上記本発明の路盤改良方法において、前記水硬性組成物体は、JIS A 1121「ロサンゼルス試験機により粗骨材のすりへり試験」によるすりへり減量が25〜35質量%であることを特徴とする、路盤改良方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の路盤改良方法は、バラストの一部を上記セメントクリンカ等の水硬性組成物体で置換することで、列車走行時の繰り返し荷重によって、該セメントクリンカ等の水硬性組成物体が破砕・摩砕し、バラストの下方に位置する路盤に落下して路盤の土や泥に混ざり、泥中の水や雨水等の水により、路盤を固化、特に軟弱化して変状した路盤を固化させて、安定した改良土の路盤を形成することが可能となる。
また、本発明の路盤改良方法は、バラストの一部を上記セメントクリンカ等の水硬性組成物体で置換することで足りるので、枕木やバラストを全部取り除いたり、路盤の土を入れ替えたり等する作業は必要でなく、改良時間を短縮することができ、作業性もよく、簡便な路盤改良方法である。
【0017】
さらに簡便な方法で路盤を補強・固化することができるため、路盤噴泥や道床噴泥を容易に抑制することができ、軌道の陥没や張り出し等の軌道変状の危険性を防止することができ、従って安全性や良好な乗り心地が容易に維持できることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を以下の一例の形態によって説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の路盤改良方法は、鉄道線路下のバラストの一部を除去した後、バラストを一部除去した箇所にバラストを埋め戻す際に、埋め戻すバラストの一部を、セメントクリンカ等の水硬性組成物体で置換することを特徴とする、路盤改良方法である。
【0019】
本発明においては、路盤を改良するにあたり、レール、枕木等を取り除く必要はなくそのままの状態で、鉄道路面下のバラストの一部を取り除き、この取り除いた箇所にバラストを埋め戻す際に、その一部をセメントクリンカ等の水硬性組成物体に置換して混入させることで、列車走行時の繰り替えし荷重によって、該水硬性組成物体が破砕或いは摩耗して、その下方に位置する路盤に落下する。その後、路盤を形成する土中に混合して、路盤の泥中の水や雨水等の水により水和活性が発現して固化し、路盤の土を改良する工法である。
本発明の路盤改良方法は、枕木やバラスト、変状した路盤等をすべて取り除く必要がないため、すでに泥化して変状した路盤に対しての改良に特に有効である。
【0020】
ここで、一般にバラストとして使用する砕石・砂利は、JIS A 1121「ロサンゼルス試験機により粗骨材のすりへり試験」によるすりへり減量が10〜25質量%である。
本発明で用いるセメントクリンカ等の水硬性組成物体は、JIS A 1121「ロサンゼルス試験機により粗骨材のすりへり試験」によるすりへり減量が、上記一般のバラスト用の砕石、砂利等と比較して大きければ特に限定されないが、好適には25〜35質量%である。
【0021】
これにより、バラストよりもセメントクリンカ等の水硬性組成物体のほうが先に破砕或いは摩耗して粉砕化し、バラストの隙間を下方に向かって落下し、路盤の泥分等と混合されて固化することで改良土を形成することができる。または路盤に落下して路盤の土と混ざり合い、雨水等の水により固化して改良土を形成することもできる。
また、バラストと置換されるセメントクリンカ等の水硬性組成物体の量は、流動化等して変状した路盤の状態に応じて、適宜決定することができる。
【0022】
本発明に用いるセメントクリンカ等の水硬性組成物体は、水和活性を有しているため、列車走行時の繰り替えし荷重によって、該水硬性組成物鯛が破砕或いは摩耗して路盤に入り込み、路盤内の泥等の水と接触することで、保有する水和活性を発現して、路盤の土壌を固化して補強改良することができるものである。
【0023】
また、本発明に適用するセメントクリンカ等の水硬性組成物体の大きさは特に限定されないが、バラストに用いる砕石や砂利等との大きさとの関係から、ほぼ同様の大きさである粒径10〜40mm(JIS篩)のものが好適に使用できる。
【0024】
本発明に用いることができる水硬性組成物体とは水和活性を有する塊体を意味するが、本発明においては、セメント粉末を成形等の手段により塊状体とする工程を経て塊体とするものは含まれない概念である。具体的には、成形等することなく、当初より一定の体積を有し且つ水和活性を有する塊状体が該当し、例えば、セメントクリンカ、スラグ塊、ドロマイト塊等を例示することができる。
【0025】
本発明の水硬性組成物体として用いることができるセメントクリンカとしては、公知のセメントクリンカを適用することができ、普通ポルトランドセメント、ジェットセメント、アルミナセメント、超速硬セメント等の各種クリンカを適用することが可能である。
好適には、低熱ポルトランドセメントクリンカ等の遅効性クリンカが用いられる。
遅硬性クリンカであると、水和反応が遅いために、バラスト中に存在するときには水和がほとんど進行せず、該セメントクリンカが破砕されて摩砕して路盤に落ちて入り込んだ後、徐々に水和するので、路盤改良工事に特に有効である。
【0026】
遅硬性クリンカとしては、前記低熱ポルトランドクリンカのほか、公知の任意の遅硬性クリンカを使用することができる。
例えば、クリンカ中に含まれる鉱物組成として、固相としてCSがクリンカ中40質量%以上、好ましくは50質量%以上含まれるクリンカを、遅硬性クリンカとして、本発明において適用することが可能である。
また、本発明の上記効果を阻害しないかぎり、C12系、CSやCAF等を含んでもかまわない。
【0027】
また好適には、得られたセメントクリンカ等の水硬性組成物体の表面に、パラフィンワックスや有機塗料等の極薄いコーティング処理を施すことも可能である。このようなコーティングを設けることにより、保有する水和活性が当該水硬性組成物体の保管期間中に空気中の湿気によって損失されることを防止することが可能となる。
【0028】
本発明の路盤改良方法は、枕木やバラストをすべて取り除く必要なく、水硬性組成物体をバラストと置換してバラストの一部として混入させることで、列車走行時の繰り替えし荷重によって、該セメントクリンカ等の水硬性組成物体が破砕或いは摩耗して、路盤に落下する。その後路盤を形成する土中に混合されて、路盤の泥中の水により残存する、水和活性が発現して固化し、路盤の土を固化して改良することができる。従って、変状した路盤を取り替える必要がなく、極めて簡便な路盤補強を施工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、鉄道線路下のバラスト軌道の変状または流動化した路盤の土壌の補強改良に有効に用いられ、路盤噴泥や道床噴泥等の噴泥を抑制・防止に有用に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道線路下のバラストの一部を除去した後、バラストを一部除去した箇所にバラストを埋め戻す際に、埋め戻すバラストの一部を、水硬性組成物体で置換することを特徴とする、路盤改良工法。
【請求項2】
請求項1記載の路盤改良工法において、前記水硬性組成物体は、低熱ポルトランドセメントクリンカであることを特徴とする、路盤改良方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の路盤改良工法において、前記水硬性組成物体は、JIS A 1121「ロサンゼルス試験機により粗骨材のすりへり試験」によるすりへり減量が25〜35質量%であることを特徴とする、路盤改良工法。

【公開番号】特開2012−77452(P2012−77452A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220861(P2010−220861)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】