説明

路線作業の安全管理システム

【課題】比較的簡易な構成によって作業安全性を担保できる安全管理システムを提供する。
【解決手段】列車に搭載されて走行位置を把握可能な車載端末4と、路線作業員が所持するパケット通信可能な携帯端末1と、近距離無線通信によって車載端末4に必要な情報を伝送可能な情報発信機3と、携帯端末1及び情報発信機3とパケット通信可能に配置された管理サーバ2と、を有して構成される。管理サーバは、携帯端末から送信される開始情報に基づいて、携帯端末1に対応する情報発信機3を特定すると共に、路線作業の作業位置を把握し、把握した作業位置情報を所定の情報発信機3に送信する。情報発信機3は、この作業位置情報を近接する列車の車載端末に送信し、作業位置情報を受けた車載端末は適所で注意喚起動作を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道路線の保全作業などの作業員の安全を確保する安全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道路線では、運輸作業の安全を担保するため、全ての路線について適切な頻度で保全作業が繰返し行われている。ここで、定期的な保全作業は、通常、営業運転が終わった深夜に行われるが、緊急性を要する作業については、営業運転に並行して行う必要がある。このような場合、必要な監視員を適所に配置して、作業員の接触事故を防止するなど作業の安全を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−237897号公報
【特許文献2】特開2008−207621号公報
【特許文献3】特開2010−264897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、人為的なミスの可能性がゼロとは断定できないので、より確実な安全管理が望まれるところである。ここで、大規模なシステムを構築することはできるが、比較的簡易な構成によって作業安全性を担保する方が合理的である。なお、本出願人は、関連する発明について特許文献1〜3に開示しているが、何れの発明も、上記の課題を解決できるものではない。
【0005】
この発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、比較的簡易な構成によって作業安全性を担保できる路線作業の安全管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、鉄道路線を運行する列車に搭載され、列車の走行位置を把握可能な車載端末と、路線作業員が所持するパケット通信可能な携帯端末と、携帯端末に対応して適所に配置され、近距離無線通信によって車載端末に必要な情報を伝送可能な情報発信機と、携帯端末及び情報発信機とパケット通信可能に配置された管理サーバと、を有して構成され、前記管理サーバは、路線作業員の路線作業に先行して携帯端末から送信される開始情報に基づいて、携帯端末に対応する情報発信機を特定すると共に、路線作業の作業位置を把握する初期手段と、初期手段が把握した作業位置情報を、初期手段によって特定された情報発信機に送信する指令手段と、を有して構成され、前記情報発信機は、指令手段から受けた作業位置情報を近接する列車の車載端末に送信するよう構成され、作業位置情報を受けた車載端末は、路線作業位置に至るまでの適所で、列車搭乗員に対する注意喚起動作を実行するよう構成されている。
【0007】
前記情報発信機は、作業位置情報を車載端末に送信する情報発信動作を開始することに対応して、管理サーバに動作開始の返信情報を送信し、前記管理サーバは、返信情報を受けた管理サーバは、携帯端末に情報発信動作が開始された旨を通知するよう構成されているのが好適である。
【0008】
また、前記管理サーバは、路線作業員の作業位置の変更に対応して携帯端末から送信される移動情報に対応して、当該携帯端末に対応する情報発信機に変更された作業位置情報を送信する変更手段を有して構成され、情報発信機は、変更手段から受けた作業位置情報を近接する列車の車載端末に送信するよう構成されているのが好ましい。
【0009】
また、前記管理サーバは、路線作業員が作業を終えたことに対応して携帯端末から送信される終了情報に対応して、当該携帯端末に対応する情報発信機に、作業終了情報を送信する終了手段を有して構成され、情報発信機は、終了手段から作業終了情報を受けることを条件に、情報発信動作を終了するよう構成されているのも好適である。
【0010】
好適には、前記携帯端末は、GPS衛星からの情報に基づいて自らの位置を把握して、把握された位置情報を前記管理サーバに繰り返し送信するよう構成されているべきである。
【0011】
更に、請求項6に係る発明は、鉄道路線を運行する列車に搭載され、列車の走行位置を把握可能な車載端末と、路線作業員が所持するパケット通信可能な携帯端末と、携帯端末及び車載端末とパケット通信可能に配置された管理サーバと、を有して構成され、前記管理サーバは、路線作業員の路線作業に先行して携帯端末から送信される開始情報に基づいて、当該路線を運行する列車の車載端末を特定する特定手段と、特定された車載端末の走行位置に対応して、当該車載端末に注意情報を送信する送信手段と、を有して構成され、注意情報を受けた車載端末は、列車搭乗員に対する注意喚起動作を実行するよう構成されている。
【0012】
ここで、前記管理サーバは、路線作業員の作業終了時に携帯端末から送信される終了情報に対応して、当該路線を運行する列車に搭載されている車載端末との交信を終了するよう構成されているのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明によれば、比較的簡易な構成によって作業安全性を担保できる路線作業の安全管理システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施例に係る路線作業の安全管理システムを示す概略図である。
【図2】車載端末を示す外観図と回路構成図である。
【図3】第1実施例の管理サーバの動作内容を示すフローチャートと、作業管理テーブルTBLを例示したものである。
【図4】携帯端末、管理サーバ、情報発信機、及び、車載端末の動作を示す動作タイムチャートである。
【図5】第1実施例の携帯端末と情報発信機の動作を示すフローチャートである。
【図6】第2実施例の構成を示す概略図である。
【図7】第2実施例の携帯端末と情報発信機の動作を説明するフローチャートである。
【図8】第2実施例の管理サーバの動作を説明するフローチャートである。
【図9】第2実施例の各部の動作を示す動作タイムチャートである。
【図10】第3実施例の構成を示す概略図である。
【図11】第3実施例の管理サーバの動作を説明するフローチャートである。
【図12】第3実施例の各部の動作を示す動作タイムチャートである。
【図13】第4実施例の構成を示す概略図である。
【図14】第5実施例の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について更に詳細に説明する。但し、実施例を例示するに過ぎず、各種の改変が可能であって、何ら本発明を限定する趣旨ではない。
【0016】
<第1実施例>
図1は、第1実施例に係る路線作業の安全管理システムを示す概略図である。図示の通り、この安全管理システムは、路線作業員が所持する携帯端末1と、携帯パケット通信網NT1及びインターネット通信網NT2を通してアクセスされる管理サーバ2と、路線作業が実施される鉄道路線の上流駅に配置される情報発信機3と、当該鉄道路線を運行する全ての列車に搭載される車載端末4と、を有して構成されている。
【0017】
携帯端末1は、典型的には、市販の携帯電話機やスマートフォンで構成され、(a)管理サーバ2に開始情報や終了情報を、自らの機器IDと共に送信する機能と、(b)作業開始や作業終了の許可メールを受信する機能を果たしている。したがって、必ずしも、専用の通信ソフトウェア(専用アプリ)を実装しておく必要はなく、市販の携帯端末1に搭載されているブラウザやメーラを活用することもできる。但し、以下の説明では、上記した機能を果たす専用アプリが、予め、携帯端末1(具体的には携帯電話機)に実装されていることにする。
【0018】
情報発信機3は、携帯端末1に対応して、予め機器アドレス(IPアドレスなどに対応する機器ID)が特定されており、例えば、作業現場に向かう作業員によって、作業現場の上流駅に配置され、路線作業が終われば撤去回収される。但し、特に限定されるものではなく、各駅に常設させても良い。また、複数個の情報発信機3を単一の携帯端末1に対応させても良く、この場合には、単一の携帯端末1に対応する複数の情報発信機3・・・3が適所に配置される。
【0019】
何れにしても、情報発信機3は、携帯パケット通信網NT1及びインターネット通信網NT2を経由して管理サーバ2と交信可能な携帯通信部(携帯パケットモジュール)3aと、近距離無線通信規格で車載端末4に必要な情報を無線送信可能な無線発信部3bと、装置各部の動作をコンピュータ制御するメイン処理部3cと、を有して構成されている。特に限定されないが、この実施例では、無線発信部3bは、ZigBee(登録商標)規格の無線送信を実行している。
【0020】
なお、携帯端末1や、情報発信機の携帯通信部3aは、携帯機器に固有のプロトコルでパケットデータを送受信するが、これがWebゲートウェイGTでプロトコル変換されることで、管理サーバ2とのパケット送受信が可能となる。
【0021】
車載端末4は、図2(a)の外観状態と、図2(b)の回路構成を有して構成されている。この車載端末4は、特許文献2に開示された車載端末装置と同一構成であり、GPS衛星からの情報を受けることで、自己の現在位置を、常時、正確に把握できるよう構成されている。
【0022】
図2(a)に示す通り、車載端末4は、液晶表示部LCDの周りに、注意喚起地点において点灯/点滅するLEDや、アナウンス音声を発声するスピーカSPが配置されている。そして、注意喚起地点に達したと車載端末4が判断すると、適宜な注意喚起画面が表示され、更に必要な場合には注意喚起音が出力されるよう構成されている。注意喚起画面には、所定位置において定常的に表示される安全情報の他、路線作業に関するものが含まれており、例えば、当該路線で路線作業が行われている場合には、「××m先は路線作業中!注意!」などの警報画面が表示される。
【0023】
このような機能を有する車載端末4は、仕業(業務)毎に運転士に貸与され、当日の勤務が完了するまで、運転士は、その車載端末4と共に行動する。運転士の業務は、地域別に区分された列車区毎に区分され、全ての列車区又は担当列車区の全業務が、時刻情報と共にSDメモリカードに記憶されている。そして、運転士は、自己が担当する仕業番号にデフォルト設定された(SDメモリカードを搭載した)車載端末4を始業時に受け取るので、その後は、車載端末4の指示にしたがって当日の業務を遂行すれば良いことになる。
【0024】
図2(b)に示す通り、車載端末4は、GPS回路基板40と、メイン回路基板41とに区分され、GPS回路基板40には、GPS受信モジュールと、外部電源を受けてバッテリパックを充電する充電回路と、運行時に列車の加速度を計測する加速度センサと、地点発信機やアシストGPSクライアント用送信機(各々不図示)からの電波を受けるZigBee受信部などが搭載されている。
【0025】
GPS受信モジュールは、GPS衛星から測位時刻、緯度、経度、受信衛星数などの情報を受信して、受信地点の三次元座標(緯度、経度、高度)を算出して、(a)最適な4個の衛星が捕捉されているか否かの情報(GSP電波の受信可否状態)と、(b)GSP電波の受信可能状態で算出された三次元座標をメイン回路基板53に向けて出力している。なお、車載端末4がGPS電波の届かない場所に位置する時には、ZigBee受信部は、不図示の機器から送信される必要な情報を受信し、受信した各情報をメイン回路基板41に出力している。
【0026】
メイン回路基板41には、CPU、ROM、RAMを有するコンピュータ回路である制御モジュールと、GPS回路基板40が出力する上記した各種データを受信する受信データ入力部と、十字キーなどのデータを受けるキーデータ入力部と、SDメモリカードの登録データを読み出すカードデータ入力部と、光センサの検出データを受けるセンサデータ入力部とが設けられている。そして、制御モジュールのCPUは、各入力部から受けた情報に基づいて、乗務員を支援する報知動作を実行している。具体的には、LCD制御部を通して液晶表示部LCDを駆動し、ランプデータ出力部を通して各種のLEDランプを駆動する。また、音声出力部を経由してスピーカからアナウンス音声が出力される。
【0027】
上記のシステム構成において、管理サーバ2は、携帯端末1や情報発信機3からのアクセス要求(request)を常時待機しており、携帯端末1を所持する路線作業員は、路線作業開始に先立って、開始情報を管理サーバ2に送信し、開始許可の電子メールの受信を待って作業を開始するようになっている。なお、開始情報には、(a)当該鉄道路線を特定する線区と、(b)当該線区における基準位置から作業現場までの距離を特定するキロ程と、(c)上り路線か下り路線かを特定する上り下り情報と、(d)当該携帯端末1の機器IDと、が含まれている。
【0028】
そして、作業現場を移動する際にも、上記と同様の手続きを採り、全ての作業が終われば、その旨を機器IDと共に、管理サーバ2に通知するようになっている。一方、(1)作業開始、(2)作業位置移動、(3)作業終了などの情報を受けた管理サーバ2は、この受信情報を適宜に編集して、情報発信機3に必要情報を伝送し、これを受けた情報発信機3は、作業位置を特定する注意喚起情報を近距離無線通信によって車載端末4に送信するようになっている。
【0029】
先に説明した通り、車載端末4は、GPS衛星からの情報によって自己の現在位置を把握できるので、情報発信機3から受けた注意喚起情報に基づき、路線作業位置に対応して規定される注意喚起地点に達すると、図2(a)に例示するような注意喚起動作を開始することになる。
【0030】
図3は、上記の動作を実現する管理サーバ2の動作内容を示すフローチャートである。なお、管理サーバ2は、発信元の携帯端末1や情報発信機3に対応して、発信すべき情報発信機3や携帯端末1を特定できるよう、全ての携帯端末1と全ての情報発信機3の機器IDの対応関係を記憶している。また、携帯端末1や情報発信機3は、自己の機器IDを付して、管理サーバ2をアクセスするよう構成されている。
【0031】
そのため、管理サーバ2は、所定の携帯端末1からアクセスを受けると、その携帯端末1の機器IDに基づいて、対応する情報発信機3を特定でき、逆に、所定の情報発信機3からアクセスを受けた場合にも、その情報発信機3の機器IDに基づいて、対応する携帯端末1を特定できることになる。
【0032】
以上を踏まえて、図3のフローチャートを説明する。管理サーバ2は、携帯端末1や情報発信機3からの情報を受信すると、その受信情報が携帯端末1からの開始情報か否かを判定する(ST1)。ここで、開始情報とは、これから作業を開始しようとする路線作業の場所を特定する路線作業員からの送信情報であって、先に説明した通り、(a)線区、(b)キロ程、(c)上り下り情報、及び、(d)携帯端末1の機器IDを含んでいる。
【0033】
そこで、管理サーバ2は、開始情報に含まれる携帯端末1の機器IDに基づいて、これに対応する情報発信機3の機器ID(アドレス情報)を特定すると共に、作業管理テーブルTBLに必要な情報を記憶する(ST2)。図3(b)は、作業管理テーブルTBLを例示したものであり、作業中か否かを示す作業フラグ、携帯端末1の機器ID、これに対応する情報発信機3の機器ID、作業開始時刻、作業終了時刻、線区、キロ程、上り下り情報などの記憶欄を有している。そして、ステップST2の処理では、作業フラグ、作業開始時刻、作業終了時刻を除く各欄に必要な情報が記憶される。
【0034】
次に、管理サーバ2は、携帯端末1に対応する情報発信機3に対して、警報情報を送信する(ST3)。送信される警報情報は、特に限定されないが、(a)線区、(b)キロ程、(c)上下情報が含まれている。そして、この送信処理が終われば、携帯端末1に対して、(1)開始情報を受け取ったこと、及び、(2)その後、開始許可メールが送信されるので、それまで待機することを返信して処理を終える(ST4)。
【0035】
先に説明したように、ステップST3の処理で送信された警報情報を受けた情報発信機3は、作業位置を特定する注意喚起情報を近距離無線通信によって車載端末4に送信する処理を開始する。また、情報発信機3は、自らの機器IDと共に、動作開始を示す情報を管理サーバ2に返信するよう構成されている。
【0036】
そこで、管理サーバ2は、情報発信機3から動作開始の返信を受けた場合には(ST5)、作業管理テーブルTBLで特定される携帯端末1に対して、作業開始を許可する電子メールを送信し、作業開始時刻を記憶すると共に、作業フラグをON状態に設定する(ST6)。
【0037】
このようにして開始された路線作業は、その後、その作業位置を変更する可能性もある。このような場合には、携帯端末1から、改めて、(a)線区、(b)キロ程、(c)上り下り情報、及び、(d)携帯端末の機器IDを含んだ移動情報が送信されるようになっている。但し、移動情報において、上り下り情報の変更はなく、もし、これに変更がある場合には、移動情報に代えて終了情報を送信した上で、改めて開始情報が送信する必要がある。なお、このような場合には、別の駅に配置されている情報発信機3との間でステップST1〜ST6の処理が再実行される。
【0038】
このような場合を除き、管理サーバ2が、携帯端末1から移動情報を受けた場合には、作業管理テーブルTBLにおいて、それまでON状態であった作業フラグをOFF設定して当該フィールドを閉じると共に、作業管理テーブルTBLの新規フィールドに、新規の作業情報を記憶し(ST8)、対応する情報発信機3に警報情報を再発信する(ST9)。また、携帯端末には、移動情報が受け付けられた旨を返信する(ST10)。
【0039】
その後の処理は、作業開始時と同じであり、警報情報を受けた情報発信機3は、変更された作業位置を特定する注意喚起情報を車載端末4に送信する処理を開始する。また、情報発信機3は、このような動作開始を示す情報を、自らの機器IDと共に管理サーバ2に返信するので、これを受けた管理サーバ2(ST5)は、作業管理テーブルTBLから特定される携帯端末1に対して、作業開始を許可する電子メールを送信する(ST6)。また、作業開始時刻を記憶すると共に、作業フラグをON状態に設定する(ST6)。
【0040】
その後、管理サーバ2が、携帯端末1から作業終了を示す終了情報を受けた場合には、作業管理テーブルTBLに作業終了時刻を記憶すると共に、作業フラグをOFF設定して当該フィールドを閉じる(ST12)。また、終了情報に含まれる携帯端末1の機器IDに基づいて、これに対応する情報発信機3の機器IDを特定し、該当する情報発信機3に発信動作を終了するよう通知する(ST13)。また、携帯端末1には、終了情報が受け付けられた旨を返信する(ST14)。
【0041】
発信動作を終了する旨の通知を受けた情報発信機3は、それまでの注意管理情報の送信を停止し、そのことを示す情報を機器IDと共に管理サーバ2に返信する。そこで、情報発信機3からの情報を受けた管理サーバ2では、情報発信機3の機器IDに対応する携帯端末に対して、作業終了を許可する電子メールを送信する(ST6)。なお、ステップST6で送信される作業開始許可、作業変更許可、作業終了許可の電子メールは、携帯パケット通信網NT1を経由して、携帯電話用のメールサーバから携帯端末1に送信されるので、路線作業員は、直ちに、メール着信を把握することができる。
【0042】
以上、管理サーバ2の動作を中心に説明したが、図4は、携帯端末1、管理サーバ2、情報発信機3、及び、車載端末4の動作を纏めて図示したものである。すなわち、図4の動作タイムチャートには、携帯端末1の手動操作と、携帯端末1と管理サーバ2の交信内容、管理サーバ2と情報発信機3との交信内容、情報発信機3から車載端末4への送信などが時間の経過と共に記載されている。
【0043】
図5は、図3に示す管理サーバ2の動作に対応する携帯端末1と情報発信機3の動作を示すフローチャートである。先ず、図5(a)に示す携帯端末1の専用アプリの動作から説明する。
【0044】
携帯端末1では、路線作業員のキー操作を待つが(ST20)、作業開始に先立って、作業開始情報が入力された場合には(ST21)、入力された作業場所を自らの機器IDと共に管理サーバ2に送信して処理を終える(ST22)。
【0045】
その他の場合も同様であり、作業場所の移動時に移動作情報が入力された場合には(ST23)、入力された移動情報を自らの機器IDと共に管理サーバ2に送信して処理を終え(ST24)、作業終了に先立って終了情報が入力された場合には(ST25)、入力された終了情報を自らの機器IDと共に管理サーバ2に送信して処理を終え(ST26)。
【0046】
続いて、図5(b)〜図5(c)に示す情報発信機3の動作を説明する。情報発信機3は、管理サーバ2からの指令を待機する送受信処理を実行すると共に(図5(b))、これに平行して、動作中フラグのON/OFF状態に基づいて、発信動作の実行/停止を管理している(図5(c))。
【0047】
先ず、情報発信機3の送受信処理(図5(b))について説明する。管理サーバ2から作業現場の位置情報を含んだ警報情報(開始指令)を受けた場合には、車載端末4への発信情報データをメモリに設定すると共に、動作中フラグをON設定する(ST31)。そして、管理サーバ2には、発信動作を開始する旨と、自らの機器IDとを返信する(ST31)。
【0048】
一方、管理サーバ2から移動情報を受けた場合には(ST32)、変更された位置情報に基づいて、車載端末4への発信情報データをメモリに特定し、管理サーバ2に対して、発信動作を開始する旨と機器IDとを返信する(ST33)。
【0049】
また、管理サーバ2から終了指令を受けた場合には(ST34)、動作中フラグをOFF状態にして、管理サーバ2に対して、発信動作を停止する旨と、機器IDとを返信する(ST35)。
【0050】
このようにして設定された動作中フラグや、メモリに記憶された発信情報データは、図5(c)に示す定常処理で参照される。定常処理では、先ず、列車が情報発信機3に近づいたか否かが判定され(ST40)、もし、近接位置に列車が存在する場合には、動作中フラグを参照し、もし、動作中フラグがON状態であれば、メモリに設定されている発信情報データに基づいて、列車に搭載されている車載端末4に向かって位置情報を発信する(ST42)。
【0051】
そして、位置情報を受けた車載端末4は、その位置情報に対応して、注意喚起地点と注意喚起画面を特定して記憶する。そして、その後は、GPS情報などに基づいて自己の位置を常に把握して、注意喚起地点に達すると、車載端末4の液晶表示部LCDに注意喚起情報を表示する。
【0052】
したがって、運転者は、路線作業員が作業中であることを認識した状態で列車を運転することができ、万一、路線作業員が退避行動をとっていない場合でも、最適な位置で、路線作業員に対する警報音を発するなどの安全措置を採ることで接触事故を確実に回避することができる。
【0053】
<第2実施例>
ところで、上記した第1実施例では、作業現場を移動する毎に携帯端末1から移動情報を送信していたが、この操作を省略することもできる。図6は、このような第2実施例を示す概略図であり、携帯端末1には、GPS衛星からの受信データに基づいて位置情報を特定するGPS受信モジュールが搭載されている。また、携帯端末1の専用アプリには、GPS受信モジュールが特定した位置情報(緯度、経度、標高などのGPS情報)を、繰り返し管理サーバに自動送信するソフトウェアが追加されている。
【0054】
図7は、第2実施例の携帯端末1の動作を説明するフローチャートである。図示の通り、第2実施例の携帯端末1の動作は、定常処理(図7(a))と、所定時間毎に起動されるタイマ割込み処理(図7(b))とで実現されている。
【0055】
タイマ割込み処理は、例えば、5分毎に繰り返し起動され、携帯端末1に内蔵されたGPS受信モジュールが取得する位置情報を、自らの機器IDと共に管理サーバ2に繰り返し送信する(ST27)。なお、位置情報としては、携帯端末1が位置する緯度、経度、標高などが例示されるが、これに加えて、時刻情報を管理サーバ2に送信しても良い。
【0056】
このようなタイマ割込み処理の動作に対応して、図5(a)における作業移動時の処理(ステップST23〜24)が不要となる。但し、作業開始時には作業員が入力した作業場所(線区、キロ程、上下)に加えて、GPS受信モジュールが特定した位置情報を自らの機器IDと共に管理サーバ2に送信している(図7(a)のST22’)。なお、その他のステップST20〜ST21、及びステップST25〜ST26の処理は、図5(a)に示す第1実施例の動作と同じである。
【0057】
ところで、この第2実施例では、携帯端末1から繰り返し送信される位置情報(GPS情報)は、管理サーバ2によって評価され、作業位置が大きく移動したと判定される場合には、管理サーバ2から情報発信機3に位置情報が送信されるようになっている。
【0058】
すなわち、図8(a)に示す通り、管理サーバ2は、携帯端末1からGPS情報を受信すると、これを作業管理テーブルTBL(図8(b)参照)に記憶した上で、過去のGPS情報との偏移量を評価する(ST16)。そして、作業員が大きく移動していると評価される場合には、携帯端末1に対応する情報発信機3に、更新された位置情報を通知する(ST16)。なお、その他の処理(ST1〜ST5、ST10〜ST12)は、第1実施例の場合とほぼ同じであるが、情報発信機3から位置情報の変更処理を終えた旨の返信を受けた場合に、携帯端末1に電子メールが送信されることはない(ST6’)。すなわち、路線作業員の作業位置は、常時、管理サーバ2において管理されているので、路線作業員は、自らの判断で自由に行動して良い。
【0059】
続いて、図7(c)及び図7(d)のフローチャートに基づいて、第2実施例の情報発信機3の動作を説明する。管理サーバ2から送信される位置情報を受信した情報発信機3は、これに対応して発信情報を変更し、位置情報変更を完了したことを管理サーバ2に返信する(ST36〜ST37)。その結果、その後の発信動作では、変更された位置情報を車載端末4に送信することになる(ST42)。
【0060】
以上の通り、第2実施例では、携帯端末1にGPS受信モジュールを内蔵させることで、作業員の自由な移動が可能となる。なお、図9は、図4に対応する動作タイムチャートであり、携帯端末1、管理サーバ2、情報発信機3、及び、車載端末4の動作を纏めている。すなわち、携帯端末1の手動操作と、携帯端末1と管理サーバ2の交信内容、管理サーバ2と情報発信機3との交信内容、情報発信機3から車載端末4への送信などが時間の経過と共に記載されている。
【0061】
<第3実施例>
ところで、上記した各実施例では、情報発信機3を必須としていたが、これを省略することもできる。図10は、このような第3実施例を示す概略図であり、車載端末4に、携帯パケットモジュールが追加的に内蔵されている。なお、携帯端末1には、GDP受信モジュールと第2実施例と同様の専用アプリが搭載されている。
【0062】
また、携帯端末1での操作内容も、図7(a)及び図7(b)に示す通りである。但し、第3実施例では、携帯端末1が作業開始や作業終了の許可メールを受けることがなく、作業開始時や作業終了時の処理が管理サーバに受け付けられると、作業開始や作業終了が許可されたことになる(図12参照)。
【0063】
管理サーバ2の動作は、図11に示す通りであり、携帯端末1から開始情報を受信すると作業管理テーブルTBLに必要な情報を記憶すると共に、作業フラグをON状態に設定する(ST2’、ST3’)。作業管理テーブルTBLは、図11(b)に示す通りであり、作業フラグ、携帯端末ID、開始時刻、終了時刻、線区、キロ程、上下、GPS情報の記憶欄に加えて、車載端末と、近接位置の記憶欄が設けられている。
【0064】
この構成に対応して、ステップST2’の処理では、携帯端末1から送信された作業場所と、それまでに車載端末4から取得している路線情報や位置情報(ST17参照)とに基づいて、注意喚起が必要となる車載端末4を特定して該当欄に記憶する。なお、図11(b)の作業管理テーブルTBLには、該当する車載端末IDが、A1,A2・・・と記入されている。
【0065】
また、管理サーバ2は、車載端末4と定期的に交信しており、各車載端末4から走行位置情報(GPS情報)を受けた場合には(ST17)、現在、当該路線で路線作業中であって、且つ、当該列車が近接位置に達しているかを判定し(ST18)、必要があれば、作業情報(注意喚起情報)を返信する(ST19a、ST19b)。
【0066】
図12は、第3実施例の動作タイムチャートであり、携帯端末1と管理サーバ2と車載端末4との動作が時間順次に記載されている。注意喚起情報を受けた車載端末4では、直ちに、図2(a)に示すような警報動作を開始するので、万一の事故を確実に回避することができる。
【0067】
また、管理サーバは、携帯端末1からのGPS情報を常時受信しているので、これが一定時間途絶えた場合には、何らかの異常が発生している可能性があり、車載端末にも注意情報を送信することもできる。また、他の通信手段を起動させて路線作業員との連絡を取ることもできる。
【0068】
<第4実施例>
以上説明した実施例では、携帯端末1が管理サーバ2をアクセスする構成を採ったが、必ずしも、このような構成に限定されず、携帯端末1の電子メール機能を活用して、必要な情報を管理サーバに送信する構成を採っても良い。なお、この場合には、図13に示す通り、発信された電子メールは、携帯パケット通信網NT1を経由して、携帯パケット通信網のメールサーバSV1に伝送され、メールゲートウェイMGを経由して、インターネット通信網NT2のメールサーバSV2に取得される。
【0069】
そのため、管理サーバ2は、定期的(例えば1分毎)に、メールサーバSV2と交信して、管理サーバ2宛の電子メールを取得することになる。
【0070】
<第5実施例>
なお、簡易的には、携帯端末1や管理サーバ2を省略しても良い。図14は、第5実施例の概略図であり、この場合には、予め作業位置を記憶した情報発信機3を、路線作業位置の上流側である上流駅や、適宜な警報位置に配置すれば足りる。そして、情報発信機3は、定常的に、或いは、列車の近接を把握した上で、発信動作をするので、情報発信機3からの情報を受信した車載端末4は、適宜なタイミングで警報動作(注意喚起動作)を実行することになる。
【0071】
例えば、情報発信機3が上流駅に配置された場合には、車載端末4は、作業位置から適宜に離れた上流側の注意喚起地点で警報動作を実行する。一方、情報発信機3が注意喚起地点に配置された場合には、車載端末4は、情報発信機3からの情報を受信したタイミングで警報動作を実行する。
【0072】
以上、本発明の実施形態について5つの実施例を例示したが、具体的な記載内容は、特に本発明を限定するものではない。例えば、実施例では、携帯端末1と、単数又は複数の情報発信機3との組み合わせが、予め管理サーバ2に記憶されている旨説明したが、何ら限定されず、例えば、携帯端末1からの開始情報に、当該携帯端末1に対応する情報発信機3を特定する機器情報を含ませても良い。
【0073】
機器情報としては、例えば、管理サーバ2からの情報の伝送先である情報発信機3のアドレス情報などを例示することができる。このような構成を採れば、管理サーバ2は、携帯端末1と情報発信機3との対応付け情報や、情報発信機3のアドレス情報などを記憶しておく必要がない。
【0074】
また、実施例1〜実施例5を実現する各構成要素は、これを適宜に交換することができる。例えば、第3実施例の携帯端末1には、必ずしも、GPSモジュールを内蔵される必要はない。また、図14に示す情報発信機3に、携帯パケット通信モジュールを搭載すれば、携帯端末1からのデータを受信することで、必要な作業情報(注意喚起情報)を設定することができる。
【符号の説明】
【0075】
4 車載端末
1 携帯端末
3 情報発信機
2 管理サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道路線を運行する列車に搭載され、列車の走行位置を把握可能な車載端末と、
路線作業員が所持するパケット通信可能な携帯端末と、
携帯端末に対応して適所に配置され、近距離無線通信によって車載端末に必要な情報を伝送可能な情報発信機と、
携帯端末及び情報発信機とパケット通信可能に配置された管理サーバと、を有して構成され、
前記管理サーバは、
路線作業員の路線作業に先行して携帯端末から送信される開始情報に基づいて、携帯端末に対応する情報発信機を特定すると共に、路線作業の作業位置を把握する初期手段と、
初期手段が把握した作業位置情報を、初期手段によって特定された情報発信機に送信する指令手段と、を有して構成され、
前記情報発信機は、指令手段から受けた作業位置情報を近接する列車の車載端末に送信するよう構成され、作業位置情報を受けた車載端末は、路線作業位置に至るまでの適所で、列車搭乗員に対する注意喚起動作を実行するよう構成されていることを特徴とする安全管理システム。
【請求項2】
前記情報発信機は、作業位置情報を車載端末に送信する情報発信動作を開始することに対応して、管理サーバに動作開始の返信情報を送信し、
前記管理サーバは、返信情報を受けた管理サーバは、携帯端末に情報発信動作が開始された旨を通知するよう構成されている請求項1に記載の安全管理システム。
【請求項3】
前記管理サーバは、
路線作業員の作業位置の変更に対応して携帯端末から送信される移動情報に対応して、当該携帯端末に対応する情報発信機に変更された作業位置情報を送信する変更手段を有して構成され、
情報発信機は、変更手段から受けた作業位置情報を近接する列車の車載端末に送信するよう構成されている請求項1又は2に記載の安全管理システム。
【請求項4】
前記管理サーバは、
路線作業員が作業を終えたことに対応して携帯端末から送信される終了情報に対応して、当該携帯端末に対応する情報発信機に、作業終了情報を送信する終了手段を有して構成され、
情報発信機は、終了手段から作業終了情報を受けることを条件に、情報発信動作を終了するよう構成されている請求項1〜3の何れかに記載の安全管理システム。
【請求項5】
前記携帯端末は、GPS衛星からの情報に基づいて自らの位置を把握して、把握された位置情報を前記管理サーバに繰り返し送信するよう構成されている請求項1に記載の安全管理システム。
【請求項6】
鉄道路線を運行する列車に搭載され、列車の走行位置を把握可能な車載端末と、
路線作業員が所持するパケット通信可能な携帯端末と、
携帯端末及び車載端末とパケット通信可能に配置された管理サーバと、を有して構成され、
前記管理サーバは、
路線作業員の路線作業に先行して携帯端末から送信される開始情報に基づいて、当該路線を運行する列車の車載端末を特定する特定手段と、
特定された車載端末の走行位置に対応して、当該車載端末に注意情報を送信する送信手段と、を有して構成され、
注意情報を受けた車載端末は、列車搭乗員に対する注意喚起動作を実行するよう構成されていることを特徴とする安全管理システム。
【請求項7】
前記管理サーバは、
路線作業員の作業終了時に携帯端末から送信される終了情報に対応して、当該路線を運行する列車に搭載されている車載端末との交信を終了するよう構成されている請求項6に記載の安全管理システム。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図1】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2013−86608(P2013−86608A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227605(P2011−227605)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(505190013)近鉄車両エンジニアリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】