説明

車両のためのブレーキシステム

本発明は、車両のためのブレーキシステムであって、マスタブレーキシリンダ(2)と、流体制御ユニット(3′)と、少なくとも1つのホイールブレーキ(4.1〜4.4)とを有しており、少なくとも1つのブレーキ回路(10′,20′)においてブレーキ圧を調節するための流体制御ユニット(3′)が各ブレーキ回路につき1つの切替弁(12)と、吸込弁(11)と、戻しフィードポンプ(15)とを有している形式のものに関する。本発明によれば、流体制御ユニット(3′)が各ブレーキ回路(10′,20′)につき1つのスライド弁(40)を有しており、該スライド弁は吸込管路に、戻しフィードポンプ(15)とマスタブレーキシリンダ(2)との間に配置されており、前記スライド弁(40)が、戻しフィードポンプ(15)の吸込側(42)における作用圧力を、所定の最大圧力値に制限する。スライド弁(40)は、吸込弁(11)に対して直列又は並列に配置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の上位概念に記載の形式の車両のためのブレーキシステムに関する。
【0002】
先行技術により、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)、エレクトリックスタビリティプログラム(ESP)等のような種々様々な安全システムを有し、アンチロックブレーキ機能、トラクションコントロール制御(ASR)等のような種々様々な安全機能を行うブレーキシステムが公知である。図1には、種々様々な安全機能を行うことができるブレーキシステムが示されている。図1に示したように、従来の車両のためのブレーキシステム1は、マスタブレーキシリンダ2と、流体制御ユニット3と、それぞれ所属のホイールブレーキシリンダを備えた4つのホイールブレーキ4.1〜4.4とを有している。4つのホイールブレーキ4.1〜4.4のうちのそれぞれ2つが1つのブレーキ回路10,20に配属されており、各ブレーキ回路10,20がマスタブレーキシリンダ2に接続されている。従って、例えば後車軸の左側に配置された第1のホイールブレーキ4.1と、例えば前車軸の右側に配置された第2のホイールブレーキ4.2とが第1のブレーキ回路10に配属されており、例えば車両前車軸の左側に配置された第3のホイールブレーキ4.3と、例えば車両後車軸右側に配置された第4のホイールブレーキ4.4とが第2のブレーキ回路20に配属されている。各ホイールブレーキ4.1〜4.4には流入弁13.1,13.2,23.1,23.2と流出弁14.1,14.2,24.1,24.2とが設けられており、流入弁13.1,13.2,23.1,23.2を介してそれぞれ、対応するホイールブレーキ4.1〜4.4において圧力が形成され、流出弁14.1,14.2,24.1,24.2を介してそれぞれ、それぞれ対応するホイールブレーキ4.1〜4.4において圧力が減じられる。図1にさらに示したように、第1のホイールブレーキ4.1には第1の流入弁13.1と第1の流出弁14.1とが設けられており、第2のホイールブレーキ4.2には、第2の流入弁13.2と第2の流出弁14.2とが設けられており、第3のホイールブレーキ4.3には、第3の流入弁23.2と第3の流出弁24.2とが設けられており、第4のホイールブレーキ4.4には、第4の流入弁23.1と第4の流出弁24.1とが設けられている。さらに、第1のブレーキ回路10は第1の吸込弁11と、第1の切替弁12と、第1の流体アキュムレータ16と、第1の戻しフィードポンプ15とを有している。第2のブレーキ回路20は、さらに第2の吸込弁21と、第2の切替弁22と、第2の流体アキュムレータ26と、第2の戻しフィードポンプ25とを有している。第1の戻しフィードポンプ15と第2の戻しフィードポンプ25とは1つの共通の電動モータ35によって駆動される。さらに流体制御ユニット3は、実際のブレーキ圧を検出するためにセンサユニット30を有している。流体制御ユニット3は第1のブレーキ回路10のブレーキ圧調節のために、第1の切替弁12と第1の吸込弁11と第1の戻しフィードポンプ15とを使用し、第2のブレーキ回路20のブレーキ圧調節のために第2の切替弁12と第2の吸込弁21と第2の戻しフィードポンプ25とを使用する。
【0003】
両ブレーキ回路の両戻しフィードポンプ15,25は例えば、ピストンポンプ又は歯車ポンプとして形成することができる。ESP制御中は、開放切替された吸込弁11若しくは21を通って、140barまでのブレーキ圧が形成され、このようなブレーキ圧は、システムでブレーキがかけられるべき場合に、対応する戻しフィードポンプ15,25の吸込側に負荷される。部分作動状態のシステムでも、戻しフィードポンプ15,25の吸込側には140barまでのブレーキ圧が負荷される。さらに、マスタブレーキシリンダ2の圧力が、開放された切替弁12若しくは22を介して戻しフィードポンプ15,25に案内され、制御のために必要なホイール圧まで相応の戻しフィードポンプ15,25を介して増圧されると、戻しフィードポンプ15,25の吸込側に前フィード圧が生じる。戻しフィードポンプ15,25がピストンポンプとして形成されていると、戻しフィードポンプ15,25の偏心側のシール部に作用するこのような高圧は、極めて高い摩耗、押し出しを引き起こし、これにより大きな漏れが生じる。戻しフィードポンプ15,25として歯車ポンプが使用されるならば、このような高い圧力は、戻しフィードポンプ15,25のシャフトシールリングを負荷し、これにより高い摩擦や、ピストンポンプの場合と同様に、シール部の大きな摩耗を生ぜしめる恐れがある。耐高圧性のシャフトシールリングは極めて高価である。
【0004】
発明の開示
これに対して、独立請求項1の特徴を備えた本発明による車両のためのブレーキシステムは、流体制御ユニットが、各ブレーキ回路のために、1つのスライド弁を有しており、このスライド弁は吸込管路に、戻しフィードポンプとマスタブレーキシリンダとの間に配置されており、このスライド弁は、戻しフィードポンプの吸込側の作用圧力を予め設定可能な最大圧力値、例えば6barに制限するという利点を有している。これにより有利には、ピストンポンプとして形成された戻しフィードポンプの偏心室へのシール部、又は、歯車ポンプとして形成された戻しフィードポンプのシャフトシールリングに、システム運転中、100barを超える高い圧力がかかることを阻止することができる。戻しフィードポンプの吸込側における作用圧力を制限することにより、戻しフィードポンプのシール部の摩耗、摩擦、押し出しを減じることができ、これにより有利には、戻しフィードポンプの外部への漏れも減じることができ、効率は上がり、戻しフィードポンプの耐用寿命を著しく延長することができる。歯車ポンプとして形成された戻しフィードポンプではさらに、高価で複雑な、耐高圧性のシャフトシールを省くことができ、安価なシャフトシールを組み込むことができる。
【0005】
従属請求項に記載の手段及び別の構成により、独立請求項に記載の車両のためのブレーキシステムの有利な構成が得られる。
【0006】
スライド弁が、マスタブレーキシリンダ接続部と、ポンプ接続部と、大気への放圧接続部とを有していると特に有利である。長手方向可動のピストンは、放圧側で、作動ばねによってばね力が負荷されていて、初期位置で、ピストン孔を介して形成されるマスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の接続部を完全に開放している。スライド弁において圧力が形成されると、ピストンが作動ばねのばね力に抗して、放圧接続部の方向で動かされる。ピストン運動により、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の前記接続部は縮小される。所定の最大圧力値に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の前記接続部は、ピストンのストッパ位置により完全に遮断され、これにより有利には、戻しフィードポンプの吸込側でそれ以上の高圧は形成されない。スライド弁における実際の圧力が最大圧力値を下回ると、ピストンは、作動ばねのばね力によりストッパ位置から再び初期位置の方向に動かされる。これにより有利には、戻しフィードポンプの吸込側における圧力が所定の最大圧力値を超えて上昇することなく、マスタブレーキシリンダへの管路における圧力が増圧されることが保証される。最大圧力値は例えば作動ばねのばね特性を介して調節し、設定することができる。
【0007】
本発明によるブレーキシステムの構成では、スライド弁のマスタブレーキシリンダ接続部は吸込弁を介してマスタブレーキシリンダに接続されている。即ちスライド弁と吸込弁とが吸込管路に戻しフィードポンプとマスタブレーキシリンダとの間に直列的に接続されている。戻しフィードポンプの吸込運動中、スライド弁のピストンは、マスタブレーキシリンダ接続部がピストン孔を介してポンプ接続部に接続されている初期位置に留まる。ブレーキシステムの部分作動状態中、ピストンには戻しフィードポンプによりポンプ接続部を介して圧力が負荷され、この圧力によりピストンは作動ばねのばね力に抗して放圧接続部の方向に動かされ、ピストンが最大の圧力値に達し、対応するストッパ位置に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の接続部は完全に遮断される。これにより戻しフィードポンプへのポンプ接続部におけるさらなる増圧は有利には中断される。ピストンとケーシングとの間のシールは、生じる漏れが、作動中の戻しフィードポンプがその容積をフィードすることができ、従って漏れによりさらに増圧が生じないほど小さいように形成されている。スライド弁における実際の圧力が、例えば、戻しフィードポンプのフィード出力により、最大の圧力値を下回ると、ピストンは作動ばねのばね力によりストッパ位置から再び初期位置の方向に動かされ、これにより、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の接続部は再び開放される。
【0008】
選択的に、スライド弁のマスタブレーキシリンダ接続部は直接的にマスタブレーキシリンダに接続されている。即ちスライド弁と吸込弁とが並列に接続されていて、それぞれが戻しフィードポンプの吸込側をマスタブレーキシリンダに接続している。このような選択的な構成では、スライド弁が段付きピストンを有しており、この段付きピストンは、放圧接続部側で第1の直径を有しており、ポンプ接続部側で第2の直径を有しており、第2の直径は第1の直径よりも大きい。ピストンの第1の直径から第2の直径への移行部がシール円錐として形成されていて、このシール円錐は、ケーシングに設けられたシール座部と対応する。無圧力状態では、スライド弁のピストンは、マスタブレーキシリンダ接続部がピストン孔を介してポンプ接続部に接続されている初期位置に留まる。
【0009】
ABS作動中は、ピストンはマスタブレーキシリンダから、マスタブレーキシリンダ接続部を介して圧力を負荷され、この圧力によりピストンが作動ばねのばね力に抗して、放圧接続部の方向に動かされる。この場合、ピストンが最大圧力値に達し、ピストンのシール円錐がケーシングに設けられたシール座部でシールしている対応するストッパ位置に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の接続が完全に中断される。これによりマスタブレーキシリンダから戻しフィードポンプへの流れは遮断され、流体制御ユニットは通常のABS制御を行うことができる。
【0010】
マスタブレーキシリンダへの管路内の圧力が上昇する、ブレーキシステムの部分作動状態中には、スライド弁のピストンはマスタブレーキシリンダ接続部から圧力を負荷され、この圧力によりピストンは作動ばねのばね力に抗して放圧接続部の方向に動かされる。この場合、ピストンが最大の圧力値に達し、対応するストッパ位置に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の接続が完全に中断される。スライド弁における実際の圧力が最大の圧力値を下回ると、戻しばねのばね力がピストンをストッパ位置から初期位置の方向に動かし、マスタブレーキシリンダ接続部とポンプ接続部との間の接続部は再び開放される。
【0011】
ESP作動中は、スライド弁のピストンは初期位置に留まり、戻しフィードポンプはこの状態でスライド弁と吸込弁とを介して平行に流体を吸い込む。これにより有利には吸込弁とスライド弁とを介して圧力損失は減じられる。このことは特に低温かつ高粘性の流体の場合に、増圧ダイナミクスを改善する。スライド弁が相応の大きさの横断面を有しているならば、吸込弁は単なる流出弁として形成することができ、このような流出弁は比較的大きな貫流抵抗を有しているが、安価である。又は、吸込弁を省くこともできる。
【0012】
本発明の有利な構成を以下に図面につき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のブレーキシステムのブロック図を概略的に示した図である。
【図2】本発明による第1実施例のブレーキシステムのブロック図を概略的に示した図である。
【図3a】本発明による図2に示したブレーキシステムのためのスライド弁の第1実施例を概略的に示した断面図である。
【図3b】図3aのスライド弁をストッパ位置で示した図である。
【図4】本発明による第2実施例のブレーキシステムのブロック図を概略的に示した図である。
【図5a】本発明による図4に示したブレーキシステムのためのスライド弁の第2実施例を概略的に示した断面図である。
【図5b】図5aのスライド弁をストッパ位置で示した図である。
【0014】
発明の実施例
図面において同じ符号は、同じ機能を有する同じエレメント若しくは構成部材を示す。
【0015】
図2に示した、本発明による車両のためのブレーキシステム1′の第1実施例は、図1に示した従来のブレーキシステム1とほぼ同様に構成されており、従来のブレーキシステム1と同様の機能を有する多数の構成部材を有している。従って、本発明による第1実施例の車両のためのブレーキシステム1′は、マスタブレーキシリンダ2と、流体制御ユニット3′と、4つのホイールブレーキ4.1〜4.4を有しており、ブレーキシステム1′は同様に形成された2つのブレーキ回路10′と20′に分けられている。説明を簡略にするために図2においては、第1のブレーキ回路10′のみを完全に示し、詳しく説明する。図2により明らかであるように、例えば車両後車軸の左側に配置されている第1のホイールブレーキ4.1と、例えば車両前車軸の右側に配置されている第2のホイールブレーキ4.2とが第1のブレーキ回路10′に配属されている。第1のホイールブレーキ4.1と第2のホイールブレーキ4.2とにはそれぞれ、流入弁13.1,13.2と流出弁14.1,14.2とが設けられていて、流入弁13.1,13.2を介してそれぞれ対応するホイールブレーキ4.1若しくは4.2において圧力を形成することができ、流出弁14.1,14.2を介してそれぞれ対応するホイールブレーキ4.1若しくは4.2において圧力を減じることができる。ブレーキ圧を調整するために、第1のブレーキ回路10′は第1の吸込弁11と、第1の切替弁12と、第1の流体アキュムレータ16と、第1の戻しフィードポンプ15とを有している。このポンプは例えばピストンポンプとして、又は歯車ポンプとして形成されていて、電動モータ35によって駆動される。さらに流体制御ユニット3′は、実際のブレーキ圧を検出するためにセンサユニット30を有している。さらに図2に示したように、流体制御ユニット3′は、各ブレーキ回路10′,20′のために付加的にそれぞれ1つのスライド弁40を有しており、このスライド弁40は吸込管路に、戻しフィードポンプ15と吸込弁11との間に挿入されている。従って戻しフィードポンプ15は吸込側でスライド弁40と吸込弁11とを介してマスタブレーキシリンダ2に接続されている。スライド弁40は戻しフィードポンプ15の吸込側42における作用圧力を、設定可能な最大圧力値に制限している。最大圧力値は例えば、4〜10barの範囲の圧力制限値として規定することができる。有利には約6barの最大圧力値が規定される。これにより、ピストンポンプとして形成された戻しフィードポンプ15の偏心室へのシール部において、又は、歯車ポンプとして形成された戻しフィードポンプ15のシャフトシールリングにおいて、システム運転中に100bar以上の高圧がかかるのが防止されており、これにより、戻しフィードポンプ15のシール部における摩耗、摩擦、押出を減じることができる。これにより有利には、戻しフィードポンプ15の外部への漏れを減じることができ、効率を上げ、戻しフィードポンプ15の耐用寿命を著しく延長することができる。歯車ポンプとして形成された戻しフィードポンプ15ではさらに、高価で複雑な、耐高圧性のシャフトシールリングを不要にでき、安価なシャフトシールを組み込むことができる。
【0016】
図3a及び図3bに示したように、スライド弁40は、マスタブレーキシリンダ接続部41と、ポンプ接続部42と、大気への放圧接続部43と、長手方向可動ピストン44とを有しており、ピストン44は、シール部材46を介してケーシングと放圧接続部43とに対してシールされている。長手方向可動ピストン44は放圧側で作動ばね45によってばね力を負荷されていて、図3aに示した初期位置では、ピストン孔44.1を介して形成される、マスタブレーキシリンダ接続部41とポンプ接続部42との間の接続部が完全に開放されている。戻しフィードポンプの吸込運転中には、スライド弁40のピストン44は、マスタブレーキシリンダ接続部41とポンプ接続部42との間の接続部が完全に開放されている初期位置に留まる。ブレーキシステム1′の部分作動状態中には、ピストン44はポンプ接続部42側から圧力負荷され、この圧力によりピストン44は、作動ばね45のばね力に抗して、放圧接続部43の方向に動かされ、マスタブレーキシリンダ接続部41とポンプ接続部42との間の接続部はピストン運動によって縮小される。最大の圧力値に達すると、ピストン44は、図3bに示された対応するストッパ位置に位置し、ここでは、マスタブレーキシリンダ接続部41とポンプ接続部42との間の接続がピストン44によって完全に遮断されている。これにより戻しフィードポンプ15の方へのさらなる圧力形成は中断される。最大の圧力値は例えば、作動ばね45のばね特性によって調節可能である。有利には最大の圧力値は約6barに調節される。ピストン44とケーシングとの間の金属的なシール部材は、作動中のポンプによって問題なく圧送できる程度の容積の僅かな漏れしか生じないように形成されている。従って漏れによりさらなる増圧は生じない。スライド弁40における実際の圧力が再び最大圧力値を下回ると、ピストン44は作動ばね45のばね力によってストッパ位置から再び、初期位置の方向に動かされ、これによりマスタブレーキシリンダ接続部41とポンプ接続部42との間の接続が再び開放される。これにより、戻しフィードポンプ15の吸込側で所定の最大圧力値が超過されることなく、マスタブレーキシリンダ2への管路に圧力が形成されることが保証される。図3bには、符号47でピストン44の最大行程が示されている。
【0017】
図4に示した、本発明による車両のためのブレーキシステム1″の第2実施例は、図2に示した本発明によるブレーキシステム1′の第1実施例とほぼ同様に形成されていて、同じ機能を行う同じ構成部分を有している。従って、本発明による第2実施例の車両のためのブレーキシステム1″は、マスタブレーキシリンダ2と、流体制御ユニット3″と、4つのホイールブレーキ4.1〜4.4とを有しており、ブレーキシステム1″も2つの同様に形成されたブレーキ回路10″と20″に分かれている。同じく説明を簡単にするために、そのうちの第1のブレーキ回路10″のみを図4に完全に示し、詳しく説明する。本発明によるブレーキシステム1′,1″の両構成は殆ど同じ構成部分を有しているので、繰り返しを避けるために、ここでは第1実施例のブレーキシステム1′に対する第2実施例のブレーキシステム1″の相違点のみを記載する。
【0018】
図4に示したように、流体制御ユニット3″は各ブレーキ回路10″,20″のために、図2に示した第1実施例のブレーキシステム1′と同様に、それぞれ1つの付加的なスライド弁50を有していて、このスライド弁50は、吸込管路に戻しフィードポンプ15とマスタブレーキシリンダ2との間に挿入されている。従って戻しフィードポンプ15は吸込側でスライド弁50又は吸込弁11を介してマスタブレーキシリンダ2に接続されている。即ちスライド弁50は吸込弁11に対して平行に接続されている。スライド弁50は戻しフィードポンプ15の吸込側52における作用圧力を、有利には約6barの、設定可能な最大圧力値に制限する。これにより、第2実施例の本発明によるブレーキシステム1″でも、ピストンポンプとして形成された戻しフィードポンプ15の偏心室へのシール部材に、又は歯車ポンプとして形成された戻しフィードポンプ15のシャフトシールリングに、システム運転中に、100bar以上の高圧がかけられるのが阻止され、これにより戻しフィードポンプ15のシール部の摩耗、摩擦、押し出しを減じることができる。これにより有利には、戻しフィードポンプ15の外部への漏れが減じられ効率が高められ、戻しフィードポンプ15の耐用期間が著しく延長される。歯車ポンプとして形成された戻しフィードポンプ15ではさらに、高価で複雑な、耐高圧性のシャフトシールリングが省かれ、安価なシャフトシールを組み込むことができる。
【0019】
図5a及び図5bに示したように、スライド弁50は、マスタブレーキシリンダ接続部51と、ポンプ接続部52と、大気への放圧接続部53と、長手方向可動ピストン54とを有している。第1実施例のスライド弁40との相違点は、スライド弁50の長手方向可動ピストン54が、段付きピストン54として形成されていることにあり、この段付きピストン54は、放圧接続部53側では第1の直径58.1を有していて、ポンプ接続部52側では第2の直径58.2を有しており、第2の直径58.2は第1の直径58.1よりも大きく形成されている。ピストン54は放圧接続部53側とポンプ接続部52側でそれぞれ1つのシールリング56.1若しくは56.2を介してケーシングに対してシールされている。第1の直径58.1側から第2の直径58.2側へのピストン54の移行部は、シール円錐59として形成されていて、これはケーシングに設けられたシール座部60に対応している。
【0020】
長手方向可動ピストン54は放圧側で、作動ばね55によってばね力が負荷されていて、無圧状態では、図5aに示した初期位置に留まっており、この位置では、ピストン孔54.1を介して形成される、マスタブレーキシリンダ接続部51とポンプ接続部52との間の接続部は完全に開放されている。ABSの作動中には、ピストン54はマスタブレーキシリンダ接続部51の側から圧力がかけられて、この圧力によりピストン54は作動ばね55のばね力に抗して、放圧接続部53の方向に動かされる。最大圧力値に達し、図5bに示した対応するストッパ位置に達すると、ピストン54のシール円錐59が、ケーシングに設けられたシール座部60においてシールし、マスタブレーキシリンダ接続部51とポンプ接続部52との間の接続部はピストン54によって完全に遮断される。これによりマスタブレーキシリンダ2から戻しフィードポンプ15への流れは遮断され、流体制御ユニット3″はこの状態でABS制御を行う。
【0021】
ブレーキシステムの部分作動状態中にはスライド弁50のピストン54はマスタブレーキシリンダ接続部51側から圧力を負荷され、この圧力によりピストン54は作動ばね55のばね力に抗して放圧接続部53の方向に動かされる。この場合、マスタブレーキシリンダ接続部51とポンプ接続部52との間の接続部はピストン運動により縮小される。約6barの最大圧力値に達すると、ピストン54は、図5bに示した対応するストッパ位置に位置し、この位置ではマスタブレーキシリンダ接続部51とポンプ接続部52との間の接続が完全に遮断されている。これにより戻しフィードポンプ15へのさらなる圧力形成は中断される。スライド弁50における実際の圧力が、約6barの最大圧力値を下回ると、作動ばね55のばね力によりピストン54はストッパ位置から初期位置の方向に動かされ、これによりマスタブレーキシリンダ接続部51とポンプ接続部52との間の接続は再び開放される。これにより、戻しフィードポンプ15の吸込側での圧力が所定の最大圧力値を超えて上昇することなく、マスタブレーキシリンダ2への管路内に圧力が形成されることが保証される。図5bでは符号57でピストン54の最大行程が示されている。
【0022】
ESP作用中は、スライド弁50のピストン54は初期位置に留まり、戻しフィードポンプ15はこの状態でスライド弁50と吸込弁11とを介して平行に流体を吸い込む。これにより圧力損失は吸込弁11とスライド弁50により減じられ、特に低温で高粘性の液体では増圧ダイナミクスが改善される。スライド弁50が相応の大きさの横断面を有しているならば、吸込弁11を単なる流出弁として形成することができる。このような単なる流出弁は、比較的大きな貫流抵抗を有しているが、安価である。又は、吸込弁11を完全に省くことができる。
【0023】
本発明によるブレーキシステムにより、有利には、戻しフィードポンプ15に100bar以上の高圧がかけられることが回避される。これにより、戻しフィードポンプのシール部の摩耗、摩擦、押し出しは減じられ、従って外部への戻しフィードポンプの漏れも減じられ、効率が上がる。戻しフィードポンプが歯車ポンプとして形成されているならばさらに、高価で複雑な、耐高圧性のシャフトシールリングを、単純で安価なシャフトシールによって代替することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のためのブレーキシステムであって、マスタブレーキシリンダ(2)と、流体制御ユニット(3′,3″)と、少なくとも1つのホイールブレーキ(4.1〜4.4)とを有しており、少なくとも1つのブレーキ回路(10′,10″,20′,20″)においてブレーキ圧を調節するための流体制御ユニット(3′,3″)が各ブレーキ回路につき1つの切替弁(12)と、吸込弁(11)と、戻しフィードポンプ(15)とを有している形式のものにおいて、
流体制御ユニット(3′,3″)が各ブレーキ回路(10′,10″,20′,20″)につき1つのスライド弁(40,50)を有しており、該スライド弁は吸込管路に、戻しフィードポンプ(15,25)とマスタブレーキシリンダ(2)との間に配置されており、前記スライド弁(40,50)が、戻しフィードポンプ(15,25)の吸込側(42)における作用圧力を、所定の最大圧力値に制限することを特徴とする、車両のためのブレーキシステム。
【請求項2】
スライド弁(40,50)が、マスタブレーキシリンダ接続部(41,51)と、ポンプ接続部(42,52)と、大気への放圧接続部(43,53)とを有しており、長手方向可動ピストン(44,54)は、放圧側で作動ばね(45,55)によりばね力が負荷されていて、初期位置で、ピストン孔(44.1,54.1)を介して形成される、マスタブレーキシリンダ接続部(41,51)とポンプ接続部(42,52)との間の接続部を完全に開放している、請求項1記載のブレーキシステム。
【請求項3】
スライド弁(40,50)において形成される圧力がピストン(44,54)を、作動ばね(45,55)のばね力に抗して、放圧接続部(43,53)の方向に動かし、マスタブレーキシリンダ接続部(41,51)とポンプ接続部(42,52)との間の前記接続部がピストン運動により縮小され、マスタブレーキシリンダ接続部(41,51)とポンプ接続部(42,52)との間の前記接続部は、所定の最大圧力値においてピストン(44,54)のストッパ位置によって完全に遮断されていて、スライド弁(40,50)における実際の圧力が前記最大圧力値を下回ると、作動ばね(45,55)のばね力がピストン(44,54)をストッパ位置から再び初期位置の方向へと動かす、請求項2記載のブレーキシステム。
【請求項4】
スライド弁(40)のマスタブレーキシリンダ接続部(41)が吸込弁(11)を介してマスタブレーキシリンダ(2)に接続されている、請求項1から3までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項5】
スライド弁(40)のピストン(44)が、戻しフィードポンプ(15,25)の吸込運転中初期位置に留まり、ブレーキシステムの部分作動状態中、ポンプ接続部(42)から圧力によって負荷され、この圧力によって、ピストン(44)は作動ばね(45)のばね力に抗して、放圧接続部(43)の方向に動かされ、ピストン(44)が最大圧力値に達し、対応するストッパ位置に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部(41)とポンプ接続部(42,52)との間の前記接続部が完全に遮断され、スライド弁(40)における実際の圧力が最大圧力値を下回ると、作動ばね(45)のばね力によりピストン(44)がストッパ位置から初期位置の方向に動かされる、請求項4記載のブレーキシステム。
【請求項6】
スライド弁(40,50)のマスタブレーキシリンダ接続部(41,51)が直接マスタブレーキシリンダ(2)に接続されている、請求項1から3までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項7】
スライド弁(50)が、段付きのピストン(54)を有しており、該ピストンは放圧接続部(53)側で第1の直径(58.1)を有しており、ポンプ接続部(52)側で第2の直径(58.2)を有しており、該第2の直径(58.2)は、前記第1の直径(58.1)よりも大きく、ピストン(54)の第1の直径(58.1)から第2の直径(58.2)への移行部がシール円錐(59)として形成されており、該シール円錐は、ケーシングに設けられたシール座部(60)と対応している、請求項6記載のブレーキシステム。
【請求項8】
スライド弁(40)のピストン(44)が無圧力状態で初期位置に留まっており、ABS作動中にはマスタブレーキシリンダ接続部(51)から圧力が負荷され、該圧力によりピストン(54)が作動ばね(55)のばね力に抗して、放圧接続部(43)の方向に動かされ、ピストン(54)は、最大の圧力値に達し、ピストンのシール円錐(59)がケーシングのシール座部(60)においてシールしている対応するストッパ位置に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部(41)とポンプ接続部(42,52)との間の前記接続部を完全に遮断し、この状態で、流体制御ユニット(3′,3″)がABS制御を行う、請求項6又は7記載のブレーキシステム。
【請求項9】
スライド弁(50)のピストン(54)が、ブレーキシステムの部分作動状態中にマスタブレーキシリンダ接続部(51)から圧力を負荷され、該圧力によりピストン(54)が、作動ばね(55)のばね力に抗して、放圧接続部(53)の方向で動かされ、ピストン(54)は、最大の圧力値に達し、ピストンのシール円錐(59)がケーシングのシール座部(60)においてシールしている対応するストッパ位置に達すると、マスタブレーキシリンダ接続部(41)とポンプ接続部(42,52)との間の前記接続部を完全に遮断し、スライド弁(50)における実際の圧力が最大圧力値を下回ると、作動ばね(55)のばね力によりピストン(54)がストッパ位置から初期位置の方向へと動かされる、請求項6から8までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項10】
スライド弁(50)のピストン(54)がEPS作動中に初期位置に留まり、戻しフィードポンプ(15,25)がこの状態で、スライド弁(50)と吸込弁(11)とを介して平行に流体を吸い込む、請求項6から9までのいずれか1項記載のブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2010−535670(P2010−535670A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520512(P2010−520512)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058784
【国際公開番号】WO2009/021778
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】