説明

車両のサイドパネル

【課題】樹脂製フェンダパネル等の車両のサイドパネルであって、製造コストや重量の上昇等を抑制しつつ、環境温度が変化した際の各部の伸縮に適切に対応することが可能な車両のサイドパネルを提供する。
【解決手段】外面に複数のキャラクタライン12a,12bが設けられて少なくとも一部分が立体的に湾曲したパネル本体部1と、このパネル本体部1の外周縁に設けられた取付け用のフランジ部とを備え、これらフランジ部およびパネル本体部1は、樹脂により一体成形されている車両のサイドパネルPであって、パネル本体部1は、その外周縁から複数のキャラクタライン12a,12bに到る部分14a,14bを含む外周縁寄り領域14と、複数のキャラクタライン12a,12b間に挟まれた部分を含み、かつ外周縁寄り領域14よりもパネル本体部1の中央寄りに位置する中央寄り領域15とに区分され、中央寄り領域15は、外周縁寄り領域14よりも薄肉である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフェンダパネルなどの車両のサイドパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントまたはリアのフェンダパネルは、軽量化や低コスト化を図ることを目的として、樹脂製とされる場合がある。樹脂製のフェンダパネルは、環境温度の変化に伴って比較的大きく伸縮するため、この伸縮を吸収するように構成することが望まれる。そこで、従来においては、たとえば特許文献1に記載されたフェンダパネルの取付け構造が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されたフェンダパネルの取付け構造においては、樹脂製のフェンダパネルは、湾曲した形態を有するパネル本体部の上下縁部に、内側に屈曲したフランジ部が連設された構成を有し、このフランジ部を所定の車体パネルに固定させることにより、フェンダパネルの取付けが図られている。パネル本体部の外面に設けられたキャラクタラインの裏側には、車体パネルに設けられた突起部がスライド可能に挿入する孔部が設けられ、かつこの孔部の形成箇所の周辺部は、パネル本体部を部分的に曲げ変形させることが可能な脆弱部として設けられている。このような構成によれば、環境温度が高くなってフェンダパネルが膨張する場合には、突起部と孔部とがスライドしつつ脆弱部が変形し、パネル本体部は車幅方向外方へ膨らむ。これとは反対に、環境温度が低くなった場合には、フェンダパネルは車幅方向内方に向けて変形する。このような変形を生じさせることにより、フェンダパネルに生じる応力を緩和することが可能である。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地がある。
【0005】
第1に、フェンダパネルを変形可能にするための手段として、車体パネルには複数の突起部を設ける必要があり、またフェンダパネルには、突起部が挿入する孔部や、部分的な脆弱部を複数箇所設けるといった必要がある。したがって、これら各部の構造はかなり複雑となり、製造コストが高くなる。また、複数の突起部を設けるような手段を採用したのでは、これらの重量分だけ車両重量が増加する。
【0006】
第2に、フェンダパネルが温度変化に伴って伸縮する場合、その伸縮方向は実際には車幅方向に限らず、種々の方向となる。これに対し、前記従来技術においては、フェンダパネルが車幅方向へ変形することは許容されるものの、これ以外の方向にフェンダパネルを円滑に変形させることは難しい。車体側に設けた突起部をフェンダパネルの孔部に挿入させていたのでは、この挿入方向以外の変形は阻害される。したがって、前記従来技術においては、環境温度が変化してフェンダパネルが種々の方向に伸縮しようとする状態が発生した場合に、この伸縮を適切かつ十分に吸収することができず、フェンダパネルに不当な応力を生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−206247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、樹脂製のフェンダパ
ネルなどの車両のサイドパネルであって、製造コストや重量の上昇などを抑制しつつ、環境温度が変化したときの各部の伸縮に適切に対応することが可能な車両のサイドパネルを提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
本発明により提供される車両のサイドパネルは、外面に複数のキャラクタラインが設けられ、かつ少なくとも一部分が立体的に湾曲した形態を有するパネル本体部と、このパネル本体部の外周縁の少なくとも一部分に設けられ、かつ車両の固定部材との連結を図るための取付け用のフランジ部と、を備えており、これら取付け用のフランジ部およびパネル本体部は、樹脂製とされて一体成形されている、車両のサイドパネルであって、前記パネル本体部は、このパネル本体部の外周縁から前記複数のキャラクタラインに到る部分を含む外周縁寄り領域と、前記複数のキャラクタライン間に挟まれた部分を含み、かつ前記外周縁寄り領域よりも前記パネル本体部の中央寄りに位置する中央寄り領域とに区分され、この中央寄り領域は、前記外周縁寄り領域よりも薄肉に形成されていることを特徴としている。
【0011】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、パネル本体部の所定の中央寄り領域は、外周縁寄り領域よりも薄肉に形成されているために、この中央寄り領域については、面積が大きく、かつ種々の方向に変形し易い領域とすることができる。したがって、環境温度が変化した際のサイドパネルの各部の伸縮(外周縁寄り領域の伸縮を含む)は、前記の中央寄り領域が容易かつ大きく変形することによって吸収することができる。その結果、パネル本体部の外周寸法に変化を生じさせないようにし、取付け用フランジ部を利用したサイドパネルの取付け状態を良好なものとすることが可能となる。前記した中央寄り領域の変形による伸縮は、その方向性に制約がないため、サイドパネルがたとえばホイールアーチ部を有していたり、あるいは他の車両構成部材との干渉を避けるための切欠き部を有するといった複雑な形状であったとしても、そのような部分に不当に大きな応力を生じないようにすることもできる。
また、パネル本体部を変形可能に支持するための複雑な構造は不要であり、特許文献1に記載された突起部またはこれに相当する手段を設ける必要はない。サイドパネル自体は、簡易に樹脂成形することが可能である。したがって、車両の製造コストや重量の上昇を抑制する上でも好ましいものとなる。
さらに、本発明においては、パネル本体部のうち、複数のキャラクタラインに挟まれた領域と外周縁領域との厚み変化部(境界部分)は、キャラクタラインの位置と一致することとなる。樹脂製のパネル本体部に厚み変化部を形成する場合、その部分にヒケを生じる場合があるが、本発明によれば、このヒケをキャラクタラインに一致させた配置として、目立たないようにする効果も得られる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明に係る車両のサイドパネルの一例としてのフェンダパネルの正面図であり、(b)は、(a)に示すフェンダパネルの薄肉部として構成された中央寄り領域の位置を示す説明図である。
【図2】図1(a)のII−II断面図である。
【図3】図1(a)のIII−III断面図である。
【図4】本発明の他の例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1〜図3は、本発明に係る車両のサイドパネルの一例としてのフェンダパネルを示している。本実施形態のフェンダパネルPは、自動車用のフロントフェンダパネルであって、全体が樹脂製であり、パネル本体部1に、取付け用のフランジ部2a,2b(図1ではフランジ部2a,2bを省略)が一体成形された構成を有している。
【0016】
パネル本体部1は、円弧状のホイールアーチ部10、および自動車のヘッドランプとの干渉を回避してヘッドランプがこのパネル本体部1によって覆い隠されないようにするための切欠き部11を形成しているプレート状である。ただし、このパネル本体部1は、図2に示すように、車幅方向外方(同図の右側方向)に向けて膨らみをもつように少なくとも一部分が立体的に湾曲した形態を有している。
【0017】
図1に示すように、パネル本体部1の外面(表面)には、上下2本のキャラクタライン12a,12bが形成されている。上側のキャラクタライン12aは、パネル本体部1の上縁13aの近傍においてこの上縁13aに沿って延びており、下側のキャラクタライン12bは、ホイールアーチ部10に沿った円弧状である。これらのキャラクタライン12a,12bは、図2に示すように、パネル本体部1の外面側において断面形状を変化させることにより形成されている。
【0018】
パネル本体部1は、厚肉部としての外周縁寄り領域14と、薄肉部としての中央寄り領域15とに区分されている。図1(b)において、クロスハッチングが入れられた部分が中央寄り領域15であり、それ以外の部分が外周縁寄り領域14である。外周縁寄り領域14は、図2によく表われているように、パネル本体部1の上縁13aから上側のキャラクタライン12aに到る厚みt1の部分14a、およびホイールアーチ部10の縁部から下側のキャラクタライン12bに到る厚みt1の部分14bを含んでいる。ただし、本実施形態においては、図1(b)に示したように、厚肉部としての外周縁寄り領域14は、パネル本体部1の外周の全域にわたって設けられており、パネル本体部1の後部寄りの部分14c(図3も参照)や、前部寄りの部分14dも含んでいる。中央寄り領域15は、外周縁寄り領域14に囲まれた領域である。図2に示す断面部分においては、2本のキャラクタライン12a,12bに挟まれ、かつ厚みt2(t2は、t2<t1の関係)とされた部分が、中央寄り領域15である。したがって、中央寄り領域15と外周縁寄り領域14との境界(厚みt1,t2の変化している箇所)は、キャラクタライン12a,12bの形成箇所と一致している。
【0019】
なお、外周縁寄り領域14および中央寄り領域15の厚みt1,t2は、使用する樹脂材料、目標とする強度等を考慮して適宜決定すればよい。外周縁寄り領域14の厚みt1については、たとえば従来の樹脂製フェンダパネルの一般断面部の厚みと同程度とされる。中央寄り領域15の厚みt2は、必要とされる強度を確保し得る限りにおいて、できるだけ薄くすることが好ましい。このように、外周縁寄り領域14は、従来のフェンダパネルと同程度の厚みとされ、かつ中央寄り領域15がそれよりも薄肉にされると、後述するように、中央寄り領域15は温度変化に対応する伸縮性を有効に発揮し得る作用が得られることに加え、中央寄り領域15の薄肉化が図られる分だけ、フェンダパネルPの成形用の材料を節約できるといった利点も得られる。
【0020】
図2および図3に示すように、取付け用のフランジ部2a,2bは、パネル本体部1の上縁部分や後縁部分からパネル本体部1の内面(裏面)側に突出して設けられており、ボルト90,91を用いてエンジンフードやロッカなどの固定部材40a,40bに取り付けられる。図面では省略しているが、このようなフランジ部は、パネル本体部1の外周縁
の全周域または略全周域にわたって設けられている。ただし、ホイールアーチ部10に連設されたフランジ部20(図2を参照)は、ホイールアーチ部10およびその周辺部の強度を高めることを目的として設けられたものであり、車体構成部材への取り付けに利用してもよいが、本実施形態では、車体構成部材への取り付けには利用されていない。
【0021】
次に、前記したフェンダパネルPの作用について説明する。
【0022】
フェンダパネルPは、外周縁寄り領域14に連設された取付け用のフランジ部2a,2bなどを介して車体の所定箇所に取り付けられるが、外周縁寄り領域14に囲まれている中央寄り領域15は、面積が大きな薄肉部とされている。このため、環境温度の変化に伴ってパネル本体部1の各所に熱膨張または熱収縮を生じた場合には、中央寄り領域15が容易に、かつ充分に変形することにより、パネル本体部1の各所の熱膨張または熱収縮を吸収することができる。中央寄り領域15は、外周縁寄り領域14の伸縮をも吸収する。したがって、パネル本体部1の外周寸法に変化を生じないようにし、車体への取り付け状態を良好なものとすることができる。中央寄り領域15の伸縮変形は、その方向に制約を受けないものであるため、フェンダパネルPが立体的に湾曲した形態を有し、またホイールアーチ部10や切欠き部11を有する複雑な形状であるにも拘わらず、それら各所に不当に大きな応力を生じないようにすることが可能である。
【0023】
フェンダパネルPは、パネル本体部1の外周縁寄り領域14と中央寄り領域15との境界部分、すなわち厚みが変化する部分が、キャラクタライン12a,12bと一致した配置とされている。フェンダパネルPを樹脂変形する場合においては、厚みが変化する箇所にヒケを生じる虞があるが、このようなヒケが生じたとしても、このヒケはキャラクタライン12a,12bの形成箇所と一致することとなるために、そのようなヒケは外観上、殆ど目立たないようにすることも可能である。
【0024】
本実施形態のフェンダパネルPは、特許文献1に記載されているような突起部を車体側に設ける必要はない。また、フェンダパネルPの構成は比較的簡素であり、樹脂成形も容易である。したがって、車両の製造コストを低減し、また自動車の重量増加を抑制する上でも好ましい。
【0025】
図4は、本発明の他の実施形態を示している。同図において、前記実施形態と同一または類似の要素には、前記実施形態と同一の符号を付している。
【0026】
図4に示すフェンダパネルP’においては、パネル本体部1の外周縁寄り領域14のうち、パネル本体部1の上縁13aからキャラクタライン12aに到る部分14aが、空洞部18を有する中空断面形状部とされている。この部分においては、空洞部18を挟んで対向する一対の壁部19のそれぞれの厚みt3は、中央寄り領域15の厚みt2と略同一とされている。このような構成によれば、前記した部分14aを中央寄り領域15の厚みt2よりも厚肉にしつつ、各壁部19と中央寄り領域15との間では厚みが急変しないようにすることが可能である。したがって、樹脂成形時において、前記した部分14aと中央寄り領域15との境界部分にヒケを生じ難くし、面歪みを防止することができる。
【0027】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両のサイドパネルの各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0028】
キャラクタラインについては、前記したような2本のキャラクタライン12a,12bに加え、または代えて、これらとは別のキャラクタラインを設けた構成とすることができる。厚肉部としての外周縁寄り領域は、フェンダパネルの全周にわたって設けることが好ましいものの、必ずしもこれに限らず、たとえば一部が分断されていてもよい。本発明は
、フロントフェンダパネルに代えて、たとえばリアフェンダパネルなどの他のサイドパネルにも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
P,P’ フェンダパネル(車両のサイドパネル)
1 パネル本体部
2a,2b 取付け用のフランジ部
12a,12b キャラクタライン
14 外周縁寄り領域
14a,14b 部分(パネル本体部の外周縁から複数のキャラクタラインに到る部分)15 中央寄り領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に複数のキャラクタラインが設けられ、かつ少なくとも一部分が立体的に湾曲した形態を有するパネル本体部と、
このパネル本体部の外周縁の少なくとも一部分に設けられ、かつ車両の固定部材との連結を図るための取付け用のフランジ部と、
を備えており、
これら取付け用のフランジ部およびパネル本体部は、樹脂製とされて一体成形されている、車両のサイドパネルであって、
前記パネル本体部は、このパネル本体部の外周縁から前記複数のキャラクタラインに到る部分を含む外周縁寄り領域と、前記複数のキャラクタライン間に挟まれた部分を含み、かつ前記外周縁寄り領域よりも前記パネル本体部の中央寄りに位置する中央寄り領域とに区分され、
この中央寄り領域は、前記外周縁寄り領域よりも薄肉に形成されていることを特徴とする、車両のサイドパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95208(P2013−95208A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238081(P2011−238081)
【出願日】平成23年10月30日(2011.10.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】