説明

車両のドア構造

【課題】車両が側面衝突を受けて車両室内のシート等の配設物に荷重が入力される場合に、この入力荷重を軽減させることができる車両のドア構造を提供する。
【解決手段】車体側部のフロントドア3に車両前後方向に沿って補強部材19を設け、該補強部材19は、長尺状の板状部材25を長手方向に沿った長軸を中心に回転させてねじった螺旋状の本体部21と、この螺旋状の本体部21の外周に巻き付けられた帯状の補強部23とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両が衝突を起こした場合に、この衝突荷重を効率的に吸収する衝撃吸収材が種々開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された衝撃吸収材は、長尺の中空部材と、該中空部材の外周面に形成されたリブとから構成されている。
【0004】
そして、衝撃吸収材に対して長手方向に直交する方向から衝撃荷重が入力された場合、前記リブが変形して破損したのち前記中空部材が潰れることにより、衝撃荷重を吸収するように構成している。
【特許文献1】特開2001−151058公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両前後方向からの衝突荷重を受ける役割も担っている前記中空部材であるが、車両幅方向からの衝突荷重を受ける場合には前記中空部材が潰れるには、比較的に大きな荷重を必要とするため、車体側面が衝突を受けて前記中空部材を含む衝撃吸収部材が車両室内に配置されたシートの側面などに当たった場合、シート等に大きな荷重が入力されるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、車両前後方向からの衝突荷重に対しては十分な強度を確保しつつ、車両が側面衝突を受けて車両室内のシート等の配設物に荷重が入力される場合に、この入力荷重を軽減させることができる車両のドア構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両のドア構造にあっては、車体側部のドアに車両前後方向に沿って補強部材を設けた車両のドア構造において、前記補強部材は、長尺状の板状部材を長手方向に沿った長軸を中心に回転させてねじった螺旋状の本体部と、この螺旋状の本体部の外周に巻き付けられた帯状の補強部とを備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両のドア構造においては、補強部材は、長尺状の板状部材を長手方向に沿った長軸を中心に回転させてねじった螺旋状の本体部と、この螺旋状の本体部の外周に巻き付けられた帯状の補強部とを備えている。
【0009】
従って、車両前後方向に沿って衝突荷重が入力された場合には、前記螺旋状の本体部が圧壊変形することによって効率的に衝突エネルギーを吸収することができる。即ち、長尺状の板状部材を本体部とした場合には、前後方向の圧縮荷重が加わると、この板状部材が撓んで座屈変形を起こしたり、折れ曲がったりするため、衝突エネルギーを効率的に吸収することが困難となる。従って、板状部材を螺旋状にねじることにより、前後方向の荷重が加わった場合に、本体部を圧壊変形させて衝突エネルギーを吸収することができる。
【0010】
また、車両側方からドアに衝突荷重が加わった場合にも、前記螺旋状の本体部によって衝突エネルギーを効率的に吸収する。そして、車両室内にドアが凹む変形を起こした場合、本体部の外周に巻き付けた補強部によって、室内に配設されたシート等に過大な荷重が入力されることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態によるドア構造を適用した自動車の側面図である。
【0013】
図1に示すように、自動車1の側部には、前側にフロントドア3が、後側にリヤドア55が開閉可能に配設されている。そして、車体側には、フロントドア3の前端部に対応する位置に車両上下方向に沿ってAピラー7(フロントピラー)が配設されており、フロントドア3とリヤドア5との間に対応する位置に、図示しないBピラー(センターピラー)が配設されている。
【0014】
前記フロントドア3は、下部に設けられたドア本体11と、該ドア本体11の上部に設けられたドアサッシュ13と、ドア本体11内に収納され、ドアサッシュ13内を上下方向に開閉するドアガラス15とを備えている。また、ドア本体11の上縁部は、ウエスト部17に設定されており、このウエスト部17におけるドア本体11内に、本実施形態による補強部材19が車両前後方向に沿って設けられている。
【0015】
図2は本発明の実施形態による補強部材を示す斜視図、図3は図2の補強部材を構成する本体部を示す斜視図、及び、図4は図2の補強部材を作製する途中段階を示す斜視図である。
【0016】
図2に示すように、本実施形態による補強部材19は、長手方向に沿って車両前後方向に延びる本体部21と、該本体部21を覆うように本体部21の外周に巻き付けられた補強部23とからなる。
【0017】
前記本体部21は、図3に示す長尺状の板状部材25を用いて作製する。この板状部材25は、左右一対の側面27,27と、該側面27の上下に配置された上面29及び下面31と、側面27の長手方向(車両前後方向)の両端部に形成された前面33及び後面35とから形成されている。この板状部材25を、図4に示すように長手方向の長軸(図5参照)CLを中心に1回転させてねじることにより、螺旋状に形成された本体部21を成形することができる。本実施形態では、板状部材25を1回転分ねじって形成したが、1回転以下であれば良く、例えば半回転であっても良い。また、板状部材25のねじり方向は、図4に示すように、車両前側から見て反時計回りとしている。
【0018】
また、補強部23は、図4に示すように、矩形状の板材を打ち抜いた補強プレート37から成形される。具体的には、補強プレート37は、前端及び後端に配設されて車幅方向に延びる前端部39及び後端部41と、これらの前端部39及び後端部41同士を車両前後方向に沿って連結する2本の連結部43,43とからなり、前端部39から後端部41までの長さが前記螺旋状の本体部21と同じ長さに設定されている。
【0019】
また、前端部39と後端部41は、車幅方向に沿って直線状に延びており、それらの端部に接合部45が設定されている。これにより、前記本体部21の前端部47と後端部49に、補強プレート37の前端部39と後端部41とがそれぞれ円環状に巻き付けられ、接合部45によって接合される。また、前記連結部43,43は、車幅方向に離間されて平行に配置され、車両前後方向に沿って斜めに延びている。従って、前端部39、後端部41及び2本の連結部43,43によって囲まれた部位は、平行四辺形の打抜部51となる。さらに、補強プレート37の連結部43の前端は、螺旋状の本体部21の上面29と下面31の前端に接合され、連結部43の後端は、本体部21の上面29と下面31の後端に接合されている。補強プレート37を本体部21に巻き付けた状態では、補強部23は車両前側から見て時計回りに螺旋状に形成されており、前記本体部21のねじり方向とは反対方向に設定されている。
【0020】
このように、補強プレート37を前記螺旋状の本体部21の外周に巻き付けて接合することにより、本実施形態による補強部材19を作製することができる。
【0021】
なお、図5に示すように、補強部材19を側方から見ると、本体部21の下面31は、長軸CLに対して角度θ1に設定され、補強部23の連結部43は、長軸CLに対して角度θ2に設定されている。この角度θ1は、角度θ2よりも大きく設定することが好ましい。
【0022】
図6は、本発明の実施形態による自動車に荷重が入力した場合における荷重の伝達状態を示す側面図である。
【0023】
図6に示すように、車体前部53に対して車両前方から衝突荷重F1が入力された場合、車体側のAピラー7を介してフロントドア3に衝突荷重F1が伝達される。このフロントドア3のウエスト部17には、前述したように、車両前後方向に沿って補強部材19が配設されており、フロントドア3の後部側にはBピラーが配設されているため、該補強部材19が前後方向に圧壊することによって衝突荷重による衝突エネルギーが吸収されると共に、Bピラーにも衝突荷重の一部が伝達される。
【0024】
一方、フロントドア3に対して車体側方から衝突荷重F2が入力された場合は、フロントドア3が車幅方向内側に向けて曲げ変形を起こす。ここで、前記補強部材19には、外周側に補強プレート37からなる補強部23が配設され、内方側に剛性の高い板状部材25からなる本体部21が配設されている。従って、曲げ変形に対しては本体部21によって確実に衝突エネルギーを吸収することができる。また、補強部材19の外周側に補強プレート37からなる補強部23が配設されているため、フロントドア3の室内側の側面27が車両室内に配置されたシートの側面27などに当たった場合でも、このシートの側面27に入力される衝突荷重が小さくなる。
【0025】
なお、本発明に係る補強部材は、前述した図2に示す補強部材19に限定されず、例えば、図7に示す形状にしても良い。
【0026】
この図7に示す補強部材55は、長尺状の板状部材25を長軸を中心にねじった螺旋状の本体部21と、補強プレート59(図8参照)を本体部21に巻き付けた補強部57とから構成されている。本体部21は、図2に示したものと同一であり、車両前側から見て反時計回りにねじった螺旋状に形成されている。また、図8に示すように、補強プレート59は、車幅方向に沿って直線状に延びる前端部61及び後端部63と、これらの前端部61及び後端部63同士を車両前後方向に連結する2本の連結部65,65とから一体に形成されている。これらの連結部65,65の前端及び後端を、本体部21の上面29及び下面31の前端及び後端にそれぞれ接合し、補強プレート37を螺旋状の本体部21の外周に巻き付けることによって、図7に示す補強部材55を作製することができる。なお、この補強部材55をドアに配設する場合は、図8の状態から約90°回転させて、連結部65,65が車幅方向内側及び車幅方向外側に配置するようにしても良い。
【0027】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0028】
前記補強部材19,55は、フロントドア3のウエスト部17に配設しているため、車両が前面衝突を起こした場合及び側面衝突を起こした場合のいずれにも、衝突エネルギーを効率的に吸収することができる。また、側面衝突を起こしてフロントドア3が車両室内方向に凹む変形が生じた場合でも、補強部材19の外周には補強部23,57が巻き付いているため、この補強部23,57によって車両室内のシート等の配設物に過大な荷重が加わることがない。
【0029】
前記補強部23,57は、図2に示すように、前記本体部21のねじり方向と反対方向にねじった螺旋状に形成されているため、本体部21の外周全体を効率的に覆うことができる。
【0030】
即ち、補強部23,57は、帯状に形成されているため、本体部21のねじり方向と同じ向きにねじった場合には、本体部21を構成する板状部材25の側面27に沿って設けられることがあり、本体部21の外周全体に効率的に巻き付けることが困難となる。しかし、本実施形態のように、本体部21のねじり方向と反対方向にねじった場合には、本体部21の上面29及び下面31の外周を覆うように補強部23,57を設けることができる。
【0031】
前記補強部23,57は、図7に示すように、前記本体部21の長手方向に沿って略直線状に延設しても良い。この場合でも、補強部23の連結部によって本体部21を構成する板状部材25の上面29及び下面31を覆うように配設することができる。
【0032】
なお、前記補強プレート37,59の板厚は、本体部21の板厚と同等、又は本体部21の板厚の約1/2に設定することが好ましい。また、補強プレート37,59の圧縮に対する強度は、本体部21と同等が好ましく、曲げに対する強度は、本体部21の約1/2が好ましい。
【0033】
さらに、前記実施形態では、補強部材19,55をフロントドア3に配設する形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、リヤドア5等に配設しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態によるドア構造を適用した自動車の側面図である。
【図2】本発明の実施形態による補強部材を示す斜視図である。
【図3】図2の補強部材を構成する本体部の成形前の状態を示す板状部材の斜視図である。
【図4】図2の補強部材を作製する途中段階を示す斜視図である。
【図5】図2の側面図である。
【図6】本発明の実施形態による自動車に荷重が入力した場合における荷重の伝達状態を示す側面27図である。
【図7】本発明の他の実施形態による補強部材を示す斜視図である。
【図8】図7の補強部材を作製する途中段階を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
CL…長軸
3…フロントドア(ドア)
5…リヤドア(ドア)
17…ウエスト部
19,55…補強部材
21…本体部
23,57…補強部
25…板状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部のドアに車両前後方向に沿って補強部材を設けた車両のドア構造において、
前記補強部材は、長尺状の板状部材を長手方向に沿った長軸を中心に回転させてねじった螺旋状の本体部と、この螺旋状の本体部の外周に巻き付けられた帯状の補強部とを備えたことを特徴とする車両のドア構造。
【請求項2】
前記補強部材を、前記ドアのウエスト部に配設したことを特徴とする請求項1に記載の車両のドア構造。
【請求項3】
前記補強部は、前記本体部のねじり方向と反対方向にねじった螺旋状に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のドア構造。
【請求項4】
前記補強部は、前記本体部の長手方向に沿って略直線状に延設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のドア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−113662(P2009−113662A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289646(P2007−289646)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】