説明

車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパ

【課題】内部への異物の侵入を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパを提供する。
【解決手段】ダイナミックダンパ22の内周面30から外周側へ貫通して設けられた貫通孔36と、ドライブシャフト12の軸心まわりの回転時に遠心力によりその貫通孔36を閉鎖すると共に、非回転時にその貫通孔36を導通させる弁構造38とを、備えたものであることから、ドライブシャフト12の回転時には貫通孔36を閉鎖することにより外部からの異物の侵入を抑制する一方、非回転時には貫通孔36を導通させることにより内部の異物を排出させることができる。すなわち、内部への異物の侵入を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパ22を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパに関し、特に、ダンパ内部への異物の侵入を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドライブシャフトの一部にそのドライブシャフトが貫通した状態で固着され、そのドライブシャフトの振動を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパが知られている。斯かるダイナミックダンパは、取り付けられたドライブシャフトに振動が発生した際に共振することでそのドライブシャフトの振動を抑制するものであり、固有の共振周波数(固有振動数)を備えている。そのような車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパにおいては、内部すなわちドライブシャフトとダイナミックダンパとの間への水等の異物の侵入が問題となるため、斯かる問題を解決するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたダイナミックダンパがそれである。この技術によれば、ダイナミックダンパ本体部の貫通孔に侵入した侵入物を外壁まで排出するための排出用溝が貫通形成されていることで、駆動力伝達軸との間に侵入した異物を容易に排除することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−12709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術では、前記ダイナミックダンパ内部に侵入する水等の異物を十分に排除することができなかった。前記ドライブシャフトとダイナミックダンパとの間に水等の異物が溜まると、内部で錆が進行する等して耐久性に影響が出るおそれがある。このため、内部への異物の侵入を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパの開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、内部への異物の侵入を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、車両のドライブシャフトの一部にそのドライブシャフトが貫通した状態で固着され、そのドライブシャフトの振動を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパであって、そのダイナミックダンパの内周面から外周側へ貫通して設けられた貫通孔と、前記ドライブシャフトの軸心まわりの回転時に遠心力によりその貫通孔を閉鎖すると共に、非回転時にその貫通孔を導通させる弁構造とを、備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記ダイナミックダンパの内周面から外周側へ貫通して設けられた貫通孔と、前記ドライブシャフトの軸心まわりの回転時に遠心力によりその貫通孔を閉鎖すると共に、非回転時にその貫通孔を導通させる弁構造とを、備えたものであることから、前記ドライブシャフトの回転時には前記貫通孔を閉鎖することにより外部からの異物の侵入を抑制する一方、非回転時には前記貫通孔を導通させることにより内部の異物を排出させることができる。すなわち、内部への異物の侵入を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパを提供することができる。
【0008】
ここで、前記第1発明に従属する第2発明の要旨とするところは、前記貫通孔は、前記ダイナミックダンパの軸心方向の一端部側に設けられたものであり、そのダイナミックダンパの内周面と前記ドライブシャフトの外周面との間に、前記貫通孔が設けられた側の端部側から他方の端部側へ向かって径寸法が漸減させられる円筒状空間が形成されたものである。このようにすれば、前記ドライブシャフトの非回転時において前記貫通孔が導通させられた際に、内部の異物が重力により前記ダイナミックダンパの内周面をつたって外部へ排出され、更に好適にダイナミックダンパ内部への異物の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のダイナミックダンパが好適に適用される車両の動力伝達装置における足回りの構成を概略的に示す図である。
【図2】本実施例のダイナミックダンパの構成を説明するために、ドライブシャフトと共通の軸心を含む平面で切断して示す断面図である。
【図3】図2を矢印IIIに示す方向から視た正面図である。
【図4】図2のダイナミックダンパにおける貫通孔周辺の構成を説明するために当該部分を拡大して示す部分断面図であり、貫通孔が導通させられた状態を示している。
【図5】図2のダイナミックダンパにおける貫通孔周辺の構成を説明するために当該部分を拡大して示す部分断面図であり、貫通孔が閉鎖させられた状態を示している。
【図6】本実施例のダイナミックダンパとの比較のために、ドライブシャフトに取り付けられた従来のダイナミックダンパを、そのドライブシャフトと共通の軸心を含む平面で切断して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる図面において、各部の寸法比等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明のダイナミックダンパが好適に適用される車両の動力伝達装置10における足回りの構成を概略的に示す図である。この図1に示す動力伝達装置10においては、ドライブシャフト12の一方の端部が等速ジョイント14を介して変速機側のデファレンシャル装置16に接続されると共に、他方の端部が等速ジョイント18を介して駆動輪(車輪)20に接続されており、図示しないエンジン及び変速機等から上記デファレンシャル装置16を介して伝達される動力が、上記駆動輪20からの上下の動きや操舵による左右の動き等から生ずる角度変化に対応してその駆動輪20へ伝達されるように構成されている。また、本発明の一実施例であるダイナミックダンパ22が上記ドライブシャフト12の一部に設けられている。
【0012】
図2は、本実施例のダイナミックダンパ22の構成を説明するために、上記ドライブシャフト12と共通の軸心Cを含む平面で切断して示す断面図である。この図2に示すように、上記ダイナミックダンパ22は、上記ドライブシャフト12の一部にそのドライブシャフト12が貫通した状態で固着されたものであり、換言すれば、そのドライブシャフト12に対する軸心方向の相対移動不能且つ軸心まわりの相対回転不能に取り付けられたものである。
【0013】
前記ダイナミックダンパ22は、内径が前記ドライブシャフト12の外径寸法より大径の円筒状に構成された本体部24と、その本体部24の両端において上記ドライブシャフト12に固着された固着部26とを備えて構成されている。これら本体部24及び固着部26は、例えば弾性を有するゴム等の材料から一体的に構成されたものである。また、上記本体部24内には、所定の質量を有する例えば鉄材や銅材等の金属材料から成る重り部28が一体的に埋設されている。また、前記ダイナミックダンパ22の内周面30と前記ドライブシャフト12の外周面32との間には、そのダイナミックダンパ22とドライブシャフト12との間隙に相当する円筒状空間34が形成されている。
【0014】
以上のように構成されることで、前記ダイナミックダンパ22は、前記ドライブシャフト12の振動を抑制する機能を奏する。すなわち、前記ダイナミックダンパ22は、前記固着部26により前記ドライブシャフト12に対して固着(固設)され、そのドライブシャフト12に対する相対移動が不能とされている一方、上記重り部28が埋設された前記本体部24が弾性を有する前記固着部26を介して前記ドライブシャフト12に固着されていることで、そのドライブシャフト12に振動が発生した際に前記本体部24がそのドライブシャフト12に対して振動(共振)させられる。この本体部24の振動に関して、取り付けられた前記ドライブシャフト12に振動が発生した際に共振するように共振周波数(固有振動数)が定められており、前記本体部24の共振により前記ドライブシャフト12の振動を吸収することでそのドライブシャフト12の振動を抑制するように構成されている。
【0015】
図3は、図2を矢印IIIに示す方向から視た正面図である。図2及び図3に示すように、本実施例のダイナミックダンパ22には、そのダイナミックダンパ22の内周面30から外周側へ貫通して設けられた複数(図3においては周方向に等間隔に設けられた6つ)の貫通孔36が備えられている。この貫通孔36は、好適には、図2に示すように前記ダイナミックダンパ22の軸心方向の一端部側に設けられたものであり、例えば前記本体部24と固着部26との境界すなわち円筒状の前記内周面30における一端部から外周側へ向かい径拡大方向へ延伸して穿設されたものである。また、好適には、図2等に示すように、内周側から外周側へ向かうほど貫通孔36の径寸法が小さくなる(窄まる)ように構成されている。
【0016】
また、図2に示すように、前記ダイナミックダンパ22の内周面30は、好適には、前記貫通孔36が設けられた側の端部側から他方の端部側へ向かって内径寸法が漸減させられるように構成されている。これにより、前記ダイナミックダンパ22の内周面30と前記ドライブシャフト12の外周面32との間に形成された円筒状空間34は、前記貫通孔36が設けられた側の端部側から他方の端部側へ向かって内径寸法が漸減させられるように構成されている。換言すれば、前記ダイナミックダンパ22の内周面30は、前記貫通孔36が設けられた側の端部を大径側、逆側の端部を小径側とするテーパ面とされたものである。
【0017】
図4及び図5は、前記ダイナミックダンパ22における上記貫通孔36周辺の構成を説明するために当該部分を拡大して示す部分断面図であり、図4が上記貫通孔36が導通させられた状態を、図5がその貫通孔36が閉鎖された状態をそれぞれ示している。これらの図に示すように、前記ダイナミックダンパ22における前記貫通孔36の内周側(内周面30側)開口に対応する部分には、前記ドライブシャフト12の回転状態に応じて前記貫通孔36を開閉する弁構造38が設けられている。この弁構造38は、例えば、先端側が前記内周面30或いは貫通孔36の内面等に当接させられることでその貫通孔36を閉鎖する(塞ぐ)弁本体に相当する突起部40と、その突起部40の先端に設けられた鉄等の材料から成る重りであるマス(mass)42とを、備えて構成されたものである。上記突起部40は、好適には、前記固着部26の内周面(内周側の側壁)を基端としてその固着部26と同じ材料から一体的に形成されている。また、好適には、前記固着部26側から前記内周面30側に向かって厚みが漸減させられる弁膜状の構成とされている。
【0018】
以上のように構成された弁構造38において、前記ドライブシャフト12の回転時すなわちそのドライブシャフト12が軸心まわりの回転(自転)を行っている場合(或いはその回転速度が所定値以上である場合)には、前記ドライブシャフト12の回転に起因する遠心力によって図5に示すように前記貫通孔36が閉鎖させられる。すなわち、前記突起部40の先端に設けられたマス42に破線矢印で示すような径方向(ドライブシャフト12の軸心Cから離れる方向)の力が働くことにより、そのマス42が前記内周面30或いは貫通孔36の内面等に当接させられ、そのマス42及び前記突起部40により前記貫通孔36が塞がれる。一方、前記ドライブシャフト12の非回転時すなわちそのドライブシャフト12が軸心まわりの回転(自転)を行っていない場合、或いはその回転速度(回転角速度)が所定値未満である場合には、前記突起部40の弾性によりその先端乃至マス42が前記内周面30或いは貫通孔36の内面等から離隔させられ、図5に示すように前記貫通孔36が導通させられる。すなわち、本実施例のダイナミックダンパ22では、前記ドライブシャフト12の駆動時には前記弁構造38により前記貫通孔36が閉鎖させられて前記円筒状空間34が外部に対して閉じられる一方、前記ドライブシャフト12の非駆動時には前記貫通孔36が導通させられて前記円筒状空間34が外部に対して開放される。
【0019】
図6は、本実施例のダイナミックダンパ22との比較のために、前記ドライブシャフト12に取り付けられた従来のダイナミックダンパ100を、そのドライブシャフト12と共通の軸心Cを含む平面で切断して示す断面図である。この図6に示すダイナミックダンパ100において、前述した本実施例のダイナミックダンパ22と共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。図6に示すように、従来のダイナミックダンパ100においては、前記貫通孔36及び弁構造38等の構成を備えていないため、何らかの理由により上記ダイナミックダンパ100の内周面と前記ドライブシャフト12の外周面との間に水等の異物が侵入してしまうと、その異物を外部に排出することが困難となる。そのように、前記ドライブシャフト12とダイナミックダンパ100との間に水等の異物が溜まると、内部で錆が進行する等して耐久性に影響が出るおそれがある。
【0020】
一方、図2〜図5を用いて前述したように構成された本実施例のダイナミックダンパ22によれば、前記ドライブシャフト12の駆動時(回転時)には、前記マス42にかかる遠心力によって前記突起部40の先端が前記内周面30等と接触して前記円筒状空間34が外部から隔てられ、前記貫通孔36等からの水等の異物の侵入が抑制される。また、その貫通孔36は、内周側から外周側へ向かい径拡大方向へ延伸して穿設されたものであるため、前記貫通孔36内における水等の異物は前記ドライブシャフト12の駆動時には遠心力により外部へ放出される。また、前記ドライブシャフト12の非駆動時(非回転時)には、前記マス42に遠心力がかからないことにより前記突起部40の弾性により前記貫通孔36が導通させられると共に、前記ダイナミックダンパ22の内周面30が、前記貫通孔36が設けられた側の端部側から他方の端部側へ向かって内径寸法が漸減させられるように構成されていることで、水等の異物が重力により前記内周面30を伝って前記貫通孔36から外部へと排出される。従って、前記ドライブシャフト12の駆動時には水等の異物の侵入が抑制されつつ非駆動時には異物が自ずと排出され、錆等の発生による耐久性の低下を好適に抑制することができる。
【0021】
このように、本実施例によれば、前記ダイナミックダンパ22の内周面30から外周側へ貫通して設けられた貫通孔36と、前記ドライブシャフト12の軸心まわりの回転時に遠心力によりその貫通孔36を閉鎖すると共に、非回転時にその貫通孔36を導通させる弁構造38とを、備えたものであることから、前記ドライブシャフト12の回転時には前記貫通孔36を閉鎖することにより外部からの異物の侵入を抑制する一方、非回転時には前記貫通孔36を導通させることにより内部の異物を排出させることができる。すなわち、内部への異物の侵入を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパ22を提供することができる。
【0022】
また、前記貫通孔36は、前記ダイナミックダンパ22の軸心方向の一端部側に設けられたものであり、そのダイナミックダンパ22の内周面30と前記ドライブシャフト12の外周面32との間に、前記貫通孔36が設けられた側の端部側から他方の端部側へ向かって内径寸法が漸減させられる円筒状空間34が形成されたものであるため、前記ドライブシャフト12の非回転時において前記貫通孔36が導通させられた際に、内部の異物が重力により前記ダイナミックダンパ22の内周面30をつたって外部へ排出され、更に好適にダイナミックダンパ22内部への異物の侵入を抑制することができる。
【0023】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0024】
12:ドライブシャフト、22:ダイナミックダンパ、30:内周面、32:外周面、34:円筒状空間、36:貫通孔、38:弁構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライブシャフトの一部に該ドライブシャフトが貫通した状態で固着され、該ドライブシャフトの振動を抑制する車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパであって、
該ダイナミックダンパの内周面から外周側へ貫通して設けられた貫通孔と、
前記ドライブシャフトの軸心まわりの回転時に遠心力により該貫通孔を閉鎖すると共に、非回転時に該貫通孔を導通させる弁構造と
を、備えたものであることを特徴とする車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記ダイナミックダンパの軸心方向の一端部側に設けられたものであり、該ダイナミックダンパの内周面と前記ドライブシャフトの外周面との間に、前記貫通孔が設けられた側の端部側から他方の端部側へ向かって径寸法が漸減させられる円筒状空間が形成されたものである請求項1に記載の車両のドライブシャフト用ダイナミックダンパ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate