説明

車両の制御装置

【課題】車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータが搭載された車両の制御装置において、ECUは、車両発進時にロックアップクラッチをスリップ状態とするスリップスタート制御を実行する場合、燃費を考慮した最適目標エンジン回転速度Netgtを車両の状態に基づいて設定し、実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtに速く近づけるため、アクセル開度Accが大きい場合には、スリップスタート制御開始時に設定された目標エンジン回転速度Netgtを目標エンジン回転速度Netgtに近づける際の目標エンジン回転速度Netgtのスイープ量Sを大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、内燃機関と変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータが設けられた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ロックアップクラッチは、トルクコンバータの入力側部材と出力側部材とを直接機械的に連結(以下、単に直結という)するものとして多くの車両に搭載されている。ロックアップクラッチが直結されると、内燃機関から出力されたトルクは、流体を介さず変速機に直接伝達される。これにより、ロックアップクラッチの直結状態では、流体を介して動力を伝達する場合に比べてその伝達効率を高めることができる。
【0003】
また、このようなロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを備えた車両においては、ロックアップクラッチを完全に係合させるだけでなく、所定の運転条件下、例えば車両発進時にロックアップクラッチをスリップ係合させるスリップ制御を行うことが提案されている。このようなスリップ制御を行う車両の制御装置は、一般的にアクセル開度あるいはスロットル開度に応じたエンジン出力トルクを得るための目標エンジン回転速度を決定し、その目標エンジン回転速度を得るための目標スリップ量、すなわち目標エンジン回転速度と実際のタービン回転速度との間の目標差回転を算出する。そして、この車両の制御装置は、実際のエンジン回転速度と実際のタービン回転速度との間の実際の差回転、すなわちロックアップクラッチの実スリップ量を上記目標スリップ量に追従させるべく、ロックアップクラッチのトルク容量を制御する。したがって、この車両の制御装置では、車両発進時のエンジン回転速度の吹き上がりを防止することができ、燃費を一層向上させることができる。
【0004】
また、近年では、さらなる燃費の向上を目的として、ロックアップクラッチのスリップ制御中に、燃費を考慮して設定された目標エンジン回転速度(以下、単に最適目標エンジン回転速度という)と実エンジン回転速度とを直接比較して、その比較結果に基づき実エンジン回転速度を最適目標エンジン回転速度に追従させるべくロックアップクラッチ油圧をフィードバック制御する車両の制御装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の車両の制御装置によれば、スリップ制御中においても、最適目標エンジン回転速度に実エンジン回転速度を精度よく追従させることができ、さらなる燃費の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−164092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の車両の制御装置にあっては、より燃費を向上させようとスリップ制御開始時からロックアップクラッチ油圧の応答速度を上げると、実エンジン回転速度は最適目標エンジン回転速度に速く近づくものの、ロックアップクラッチの伝達トルクを急激に変化させることとなってしまう。この場合には、ロックアップクラッチの伝達トルクの急激な変化が原因でショックが生じるため、ドライバビリティが悪化してしまう。一方で、上記ショックを回避するため、ロックアップクラッチ油圧の応答速度を下げると、実エンジン回転速度が最適目標エンジン回転速度に近づくまで時間がかかってしまい、燃費を向上させることができない。このように、特許文献1に記載の車両の制御装置においては、特に車両発進時のスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)内燃機関と、変速機と、前記内燃機関と前記変速機との間に設けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとが搭載された車両の制御装置であって、前記内燃機関の実際の回転速度を示す実回転速度を検出する実回転速度検出部と、前記車両に対する加速要求値を算出する加速要求値算出部と、前記車両の状態に基づいて、前記ロックアップクラッチを解放状態または係合状態とする通常制御、前記解放状態と前記係合状態との間のスリップ状態とするスリップ制御のいずれかの制御を実行するロックアップ制御部と、を含み、前記ロックアップ制御部は、前記スリップ制御を実行する場合、前記内燃機関の回転速度の目標値を示す目標回転速度を前記車両の状態に基づいて設定し、前記実回転速度が前記加速要求値の大きさに応じた変化速度で前記目標回転速度に近づくよう前記ロックアップクラッチの伝達トルクを制御する構成を有する。
【0009】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、スリップ制御を実行する場合、実回転速度が車両に対する加速要求値の大きさに応じた変化速度で目標回転速度に近づくようロックアップクラッチの伝達トルクを制御するので、ドライバビリティの確保を優先すべき場合と燃費の向上を優先すべき場合とで目標回転速度に近づける際の実回転速度の変化速度を変更することが可能となる。したがって、本発明に係る車両の制御装置は、特に車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記ロックアップ制御部は、前記加速要求値の大きさが大きい場合には、小さい場合と比較して前記変化速度を大きくする構成を有する。
【0011】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、加速要求値の大きさが大きい場合には、小さい場合と比較してロックアップ制御部が変化速度を大きくするので、車両に対する加速要求値が大きい場合には、その加速要求値が小さい場合と比べて実回転速度を目標回転速度に速く近づけることができる。また、上記加速要求値が大きい場合には、実回転速度を目標回転速度に速く近づけてもドライバがショックを体感しづらいので、ドライバビリティを確保することができる。したがって、本発明に係る車両の制御装置は、特に車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)アクセル開度を検出するアクセル開度検出部を備え、前記加速要求値は、前記アクセル開度検出部により検出されたアクセル開度である構成を有する。
【0013】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、スリップ制御を実行する場合、実回転速度がアクセル開度の大きさに応じた変化速度で目標回転速度に近づくようロックアップクラッチの伝達トルクを制御することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(4)前記加速要求値は、内燃機関の出力トルクである構成を有する。
【0015】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、スリップ制御を実行する場合、実回転速度が内燃機関の出力トルクの大きさに応じた変化速度で目標回転速度に近づくようロックアップクラッチの伝達トルクを制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両のパワートレーンの概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の機能ブロック図である。
【図3】ロックアップ領域を示すLU領域マップである。
【図4】最適目標エンジン回転速度の設定に用いられる最適燃費マップである。
【図5】目標エンジン回転速度、実エンジン回転速度およびアクセル開度の時間的な変化を示す図である。
【図6】目標エンジン回転速度のスイープ量の設定に用いられるスイープ量設定マップである。
【図7】本発明の実施の形態に係るECUで実行されるスリップスタート制御の処理フローである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
本実施の形態においては、本発明に係る車両の制御装置を、例えばエンジンなどの内燃機関と変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータが搭載された車両に適用した場合について説明する。なお、本発明に係る車両の制御装置は、エンジンに加えてモータなどの駆動力源をさらに備えたいわゆるハイブリッド車両にも適用可能である。また、本実施の形態では、変速機として無段変速機(Continuously Variable Transmission:以下、単にCVTという)を採用した例について説明するが、変速機は無段変速機に限らず、有段変速機であってもよい。
【0020】
まず、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された車両のパワートレーンについて説明する。
【0021】
図1に示すように、パワートレーン10は、内燃機関としてのエンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切換装置3と、CVT4と、デファレンシャルギヤ5と、油圧制御部100と、電子制御ユニット(Electronic Control Unit:以下、単にECUという)200とを備えている。
【0022】
エンジン1としては、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、図示しないシリンダの燃焼室内において燃焼させることにより動力を出力する公知の動力装置が用いられる。このエンジン1は、燃焼室内で混合気の吸気、圧縮、燃焼および排気の一連の工程を繰り返し行うことにより、シリンダ内のピストンを往復動させて、ピストンと動力伝達可能に連結された出力軸としての図示しないクランクシャフトを回転させるようになっている。エンジン1が有するクランクシャフトは、トルクコンバータ2の入力軸に接続されている。そして、エンジン1の出力は、クランクシャフト、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、入力軸4a、CVT4を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、図示しない左右の駆動輪に分配される。
【0023】
トルクコンバータ2は、エンジン1のクランクシャフトに連結されたポンプ翼車21pおよびタービン軸2aを介して前後進切換装置3に連結されたタービン翼車21tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。
【0024】
また、トルクコンバータ2のポンプ翼車21pとタービン翼車21tの間にはロックアップクラッチ22が設けられている。また、トルクコンバータ2の内部には、ピストン23により分割された係合側油室24および解放側油室25が形成されている。ロックアップクラッチ22は、後述する油圧制御部100の切換弁等によって係合側油室24および解放側油室25に対する油圧供給が切換えられることにより、係合または解放されるようになっている。具体的には、係合側油室24内の油圧から解放側油室25内の油圧を減じた値を油圧差ΔPとすると、ピストン23は、係合側油室24への油圧の供給に応じて油圧差ΔPが増圧されることにより係合側に移動する。これにより、ロックアップクラッチ22は、ポンプ翼車21p側に押圧されて完全係合される。その結果、入力軸側のポンプ翼車21pと出力軸側のタービン翼車21tとが直結された状態となる。すなわち、エンジン1のクランクシャフトとタービン軸2aとが直結される。このとき、エンジン1から出力された動力は、トルクコンバータ2内の流体を介さず、直接CVT4側に伝達される。
【0025】
一方で、油圧差ΔPが負の値とされると、ピストン23が解放側に移動する。これにより、ロックアップクラッチ22は、解放される。このとき、エンジン1から出力された動力は、流体を介してCVT4側に伝達される。
【0026】
また、油圧差ΔPが直結時の値と解放時の値との間の範囲である場合には、ロックアップクラッチ22がスリップ状態となる。このスリップ状態では、トルクコンバータ2が伝達するトルクとロックアップクラッチ22が伝達するトルクとの和のトルクが出力軸側のタービン翼車21tに伝達される。
【0027】
また、ポンプ翼車21pには、ポンプ翼車21pの回転に応じて作動するオイルポンプ26が設けられている。オイルポンプ26は、例えばギヤポンプなどの機械式のオイルポンプにより構成されており、油圧制御部100の各種ソレノイドに油圧を供給するようになっている。
【0028】
前後進切換装置3は、トルクコンバータ2とCVT4との間の動力伝達経路に設けられ、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されている。また、前後進切換装置3は、油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置で構成された前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1を有している。前後進切換装置3は、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより、一体回転状態とされる。このとき、前進用動力伝達経路が成立され、前進方向の駆動力がCVT4側に伝達される。一方、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置3は、入力軸4aをタービン軸2aに対して逆方向に回転させる後進用動力伝達経路を成立させる。これにより、後進方向の駆動力がCVT4側に伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置3は、動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)状態とされる。
【0029】
CVT4は、有効径が可変の入力側のプライマリプーリ41と、有効径が可変の出力側のセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に巻き掛けられた金属製の伝動ベルト43とを備えている。CVT4は、入力軸4aに設けられたプライマリプーリ41および出力軸4bに設けられたセカンダリプーリ42と伝動ベルト43との間の摩擦力を介して動力伝達を行う。
【0030】
プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42は、入力軸4aおよび出力軸4bにそれぞれ固定された固定シーブ41aおよび固定シーブ42aと、入力軸4aおよび出力軸4bに対して軸心周り相対回転不能かつ軸線方向に移動可能に設けられた可動シーブ41bおよび可動シーブ42bとを備えている。伝動ベルト43は、これら固定シーブおよび可動シーブにより形成されたV字形状のプーリ溝に巻き掛けられる。また、プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42は、可動シーブ41b、42bをそれぞれ軸線方向に移動させるための油圧アクチュエータ(図示省略)を有している。プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42は、油圧アクチュエータに供給される油圧が制御されることにより上記プーリ溝の幅を連続的に変化させる。これにより、伝動ベルト43の巻き掛け半径が変更され、変速比が連続的に変化させられる。
【0031】
油圧制御部100は、変速速度制御部110と、ベルト挟圧力制御部120と、ライン圧制御部130と、ロックアップ係合圧制御部140と、クラッチ圧制御部150と、マニュアルバルブ160とを有している。
【0032】
変速速度制御部110は、変速制御用第1ソレノイド111および変速制御用第2ソレノイド112から出力される油圧に応じてプライマリプーリ41の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。つまり、変速速度制御部110は、油圧の制御を通じてCVT4の変速比を制御する。
【0033】
ベルト挟圧力制御部120は、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド121から出力される油圧に応じてセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。つまり、ベルト挟圧力制御部120は、油圧の制御を通じてベルト挟圧力を制御する。
【0034】
ライン圧制御部130は、ライン圧制御用リニアソレノイド131から出力される油圧に応じてライン圧を制御する。ライン圧とは、オイルポンプ26により供給され、図示しないレギュレータバルブにより調圧された油圧を指す。
【0035】
ロックアップ係合圧制御部140は、ロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141から出力される油圧に応じて上述した油圧差ΔPを制御することにより、ロックアップクラッチ22の係合力、すなわち伝達トルクを制御する。ロックアップクラッチ22は、その伝達トルクの大きさに応じて解放状態、係合状態、スリップ状態(解放状態と係合状態との中間の状態)のいずれかの状態に制御される。ロックアップクラッチ22の伝達トルクは、解放状態のときに最小値となり、スリップ状態のときには油圧差ΔPが増圧されるほど大きくなり、係合状態のときに最大値となる。
【0036】
マニュアルバルブ160は、運転者によるシフトレバーの操作に連動して作動し、油路を切換えるようになっている。
【0037】
クラッチ圧制御部150は、ライン圧制御用リニアソレノイド131から出力される油圧に応じて、マニュアルバルブ160から入力クラッチC1またはリバースブレーキB1に供給される油圧を制御する。
【0038】
ECU200には、車速Vを検出する車速センサ201、アクセルペダルの操作量、すなわちアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ202、エンジン1の回転が伝達されるポンプ翼車21pの回転速度をエンジン回転速度として検出するエンジン回転速度センサ203、トルクコンバータ2のタービン軸の回転速度、すなわちタービン回転速度Ntを検出するタービン回転速度センサ204、プライマリプーリ回転速度センサ205およびセカンダリプーリ回転速度センサ206などの各種センサ類がハーネスなどを介して接続されている。プライマリプーリ回転速度センサ205は、プライマリプーリ41の回転速度、すなわちプライマリプーリ回転速度Ninを検出する。セカンダリプーリ回転速度センサ206は、セカンダリプーリ42の回転速度、すなわちセカンダリプーリ回転速度Noutを検出する。これら各センサの検出結果を示す検出信号は、各センサからECU200に入力される。本実施の形態におけるエンジン回転速度センサ203は、本発明に係る実回転速度検出部を構成し、アクセル開度センサ202は、本発明に係るアクセル開度検出部を構成している。
【0039】
ECU200は、上記各センサから入力された検出信号に基づいて、油圧制御部100の各ソレノイドに対してそれぞれ制御信号(油圧指令値)を出力する。これにより、各ソレノイドから出力される油圧が調整される。
【0040】
また、本実施の形態において、ECU200は、車両の走行状態に応じて、ロックアップクラッチ22の状態を係合状態、解放状態、スリップ状態のいずれかの状態となるよう制御する。具体的には、ECU200は、記憶部230に予め記憶されたアクセル開度Accと車速Vとの関係を示すLU領域マップ(図3参照)に基づき、車両の走行状態がいずれの領域にあるかを判定し、その領域に応じてロックアップクラッチ22を係合状態、解放状態およびスリップ状態のいずれかに制御する。なお、車両の走行状態がいずれの領域にあるかの判定は、スロットル開度θthと車速Vとの関係を示すマップを用いて行ってもよい。
【0041】
また、ECU200は、ロックアップクラッチ22をスリップ状態とするスリップ制御を実行するようになっている。このスリップ制御は、フレックスロックアップ制御などとも呼ばれ、運転性を損なうことなく燃費を可及的に向上させることを目的として実行される制御である。また、上記スリップ制御は、上記LU領域マップ(図3参照)に基づき、車両の走行状態がスリップ領域にあるときのみ実行されるものであり、本実施の形態では特に車両発進時に実行される。したがって、以下の説明では、主として車両発進時のスリップ制御(以下、スリップスタート制御という)について説明する。
【0042】
スリップスタート制御中は、ロックアップクラッチ22の係合時の値と解放時の値との間の範囲で上述した油圧差ΔPを増減させるようECU200がロックアップ係合圧制御部140を制御することにより、ロックアップクラッチ22がスリップ状態に制御される。
【0043】
さらに、ECU200は、アクセル開度センサ202から入力されたアクセル開度Accを車両に対する加速要求値として取得するようになっている。本実施の形態において、アクセル開度Accを車両に対する加速要求値として取得するECU200は、本発明に係る加速要求値算出部を構成する。
【0044】
次いで、図2を参照して、スリップスタート制御を実行するECU200の詳細について説明する。図2に示す各機能ブロックは、スリップスタート制御実行時に機能するもののみを示したものである。
【0045】
図2に示すように、ECU200は、入力I/F210と、演算処理部220と、記憶部230と、出力I/F240とを含んでいる。
【0046】
入力I/F210には、各センサからの検出信号が入力される。そして、入力I/F210は、入力された検出信号を演算処理部220に出力する。
【0047】
記憶部230は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などで構成されており、各種情報、プログラム、閾値、LU領域マップ、最適燃費マップおよびスイープ量設定マップなどの各種マップを記憶するようになっている。また、記憶部230は、必要に応じて演算処理部220からデータが読み出されたり、格納されたりする。
【0048】
演算処理部220は、いわゆるCPU(Central Processing Unit)で構成されており、記憶部230のRAMの一時記憶機能を利用するとともにROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うようになっている。
【0049】
また、演算処理部220は、条件判定部221と、目標回転速度算出部222と、目標回転速度初期値設定部223と、回転速度比較部224と、スイープ量算出部225と、ロックアップ油圧制御部226とを有している。本実施の形態において、上記演算処理部220を有するECU200は、本発明に係るロックアップ制御部を構成している。
【0050】
条件判定部221は、スリップスタート制御の開始条件および終了条件が成立したか否かを判定するようになっている。具体的には、条件判定部221は、図3に示すLU領域マップに基づき、現在の車両の走行状態が係合領域、解放領域、スリップ領域のいずれの領域に含まれるか否かを判定するようになっている。ここで、条件判定部221は、現在の車両の走行状態がスリップ領域にあり、かつアクセルがオンされるとともにタービン回転速度Ntが所定の閾値よりも小さい値から大きい値に変化した場合すなわち車両発進時である場合、スリップスタート制御の開始条件が成立したものと判定するようになっている。なお、条件判定部221は、アクセル開度Accやスロットル開度θthなどが零から増加したことを検出した場合に車両発進時であると判定するようにしてもよい。
【0051】
一方、条件判定部221は、LU領域マップに基づき、スリップスタート制御中の車両の走行状態がスリップ領域から係合領域あるいは解放領域に移行した場合、スリップスタート制御の終了条件が成立したものと判定するようになっている。ここで、上記係合領域に移行する例としては、スリップスタート制御中に、タービン回転速度Ntが所定の閾値を越えた状態でタービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとがほぼ同期した場合などが挙げられる。また、上記解放領域に移行する例としては、車両が停止されている場合あるいは停止される直前の状態である場合、すなわち車速Vが所定の閾値よりも小さくなった場合などが挙げられる。
【0052】
目標回転速度算出部222は、車速Vとアクセル開度Accとに応じて、燃費を考慮した目標エンジン回転速度(以下、最適目標エンジン回転速度Netgtという)を算出し、設定するようになっている。すなわち、目標回転速度算出部222は、燃費最適ラインを示す最適燃費マップ(図4参照)を用いて最適目標エンジン回転速度Netgtを設定するようになっている。図4において、縦軸はエンジン1の出力トルクとしてのエンジントルクTe、横軸はエンジン回転速度Neを示し、燃費最適ラインL2は、燃費が最適となるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの組合せを予め実験的に求めて繋いだ線である。最適目標エンジン回転速度Netgtの具体的な設定方法は、以下の通りである。
【0053】
まず、目標回転速度算出部222は、車速Vとアクセル開度Accとに基づいて運転者が必要とする目標エンジン出力を算出する。このとき、目標エンジン出力は、車速Vが同一であればアクセル開度Accが大きいほど、大きい値として算出される。次いで、目標回転速度算出部222は、その目標エンジン出力を最適燃費で達成する目標エンジン回転速度を算出する。具体的には、最適燃費マップ上に、設定された目標エンジン出力(エンジン回転速度Ne×エンジントルクTe)を一定とする等出力線L1を設定する。したがって、等出力線L1は、目標エンジン出力が大きいほど図4の右上側に移動し、目標エンジン出力が小さいほど図4の左下側に移動する。そして、目標回転速度算出部222は、最適燃費マップ上において、等出力線L1と燃費最適ラインL2との交点Aを求め、この交点Aに対応するエンジン回転速度Neを最適目標エンジン回転速度Netgtとして算出する。なお、最適目標エンジン回転速度Netgtを他の手法で算出するようにしてもよい。
【0054】
目標回転速度初期値設定部223は、図5に示すように、スリップスタート制御の開始条件が成立し、ロックアップクラッチ22がスリップ状態に移行したとき(時間t時点)の実際のエンジン回転速度(以下、実エンジン回転速度Nerという)を目標エンジン回転速度Netgtの初期値として設定するようになっている。ここで、目標エンジン回転速度Netgtは、最適目標エンジン回転速度Netgtと実エンジン回転速度Nerとの偏差が大きい場合にフィードバック制御の出力が大きくなることを防止するために設けられた目標エンジン回転速度である。そして、目標エンジン回転速度Netgtは、初期値が設定された後、最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくよう制御される。具体的には、目標エンジン回転速度Netgtは、スイープ量算出部225において算出されたスイープ量Sに基づき、最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくように制御される。したがって、目標エンジン回転速度Netgtは、最終的には最適目標エンジン回転速度Netgtと一致する。最適目標エンジン回転速度Netgtに一致した後は、目標エンジン回転速度Netgt=最適目標エンジン回転速度Netgtとなる。本実施の形態における最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)は、本発明における内燃機関の回転速度の目標値を示す目標回転速度に相当する。また、本実施の形態における実エンジン回転速度Nerは、本発明における実回転速度に相当する。
【0055】
回転速度比較部224は、エンジン回転速度センサ203で検出された実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgtとを比較し、その比較結果である偏差ΔNe(=|Ner−Netgt|)をロックアップ油圧制御部226に出力するようになっている。
【0056】
スイープ量算出部225は、運転者によるアクセルペダルの操作量、すなわちアクセル開度センサ202で検出されたアクセル開度Accに基づき、目標エンジン回転速度Netgtを最適目標エンジン回転速度Netgtに近づける際のスイープ量Sを算出するようになっている。具体的には、スイープ量算出部225は、予め実験的に求めて記憶された図6に示すスイープ量設定マップに基づき、上記スイープ量Sを算出する。例えば、アクセル開度Accが大きい場合には、アクセル開度Accが小さい場合と比較して上記スイープ量Sも大きくなる。ここで、スイープ量Sは、目標エンジン回転速度Netgtを最適目標エンジン回転速度Netgtに近づけていく際の勾配であり、単位時間あたりの目標エンジン回転速度Netgtの変化量を示すものである。例えばスイープ量Sが大きければ、勾配が急となり目標エンジン回転速度Netgtが最適目標エンジン回転速度Netgtに速く近づくこととなる。これに対し、スイープ量Sが小さければ、勾配が緩やかとなりスイープ量Sが大きい場合と比べて目標エンジン回転速度Netgtが最適目標エンジン回転速度Netgtに近づく速度が遅くなる。例えば、図5に示すように、小さなアクセル開度Acc(a)のときは、上記スイープ量Sも小さいため、目標エンジン回転速度Netgtは緩やかな勾配の目標エンジン回転速度Netgt(a)となる。これに対して、大きなアクセル開度Acc(b)のときは、上記スイープ量Sも大きくなるため、目標エンジン回転速度Netgtは目標エンジン回転速度Netgt(a)よりも急な勾配の目標エンジン回転速度Netgt(b)となる。このとき、目標エンジン回転速度Netgt(b)は、目標エンジン回転速度Netgt(a)よりも速く最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくので、結果として実エンジン回転速度Nerも目標エンジン回転速度Netgt(a)に設定されたときより速く最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくこととなる。すなわち、目標エンジン回転速度Netgt(b)に設定された場合は、目標エンジン回転速度Netgt(a)に設定された場合に比べて、実エンジン回転速度Nerの変化速度が速くなる。これは、アクセル開度Accが大きい場合には、実エンジン回転速度Nerの変化速度が大きくなることを意味する。
【0057】
なお、本実施の形態では、アクセル開度Accを用いてスイープ量Sを算出するようにしたが、アクセル開度Accの代わりにスロットル開度θthを用いてもよい。
【0058】
ロックアップ油圧制御部226は、スリップスタート制御の開始条件が成立からスリップスタート制御の終了条件が成立するまで、実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtに追従させるよう、後述するフィードフォワード制御およびフィードバック制御を用いてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを制御するようになっている。
【0059】
一般に、実エンジン回転速度を目標エンジン回転速度に追従させる制御としては、目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度との偏差に基づくフィードバック制御が挙げられる。ただし、このフィードバック制御では、偏差に所定のゲインをかけて制御量を算出するため偏差が生じることによって実行され、偏差の発生を前提とするので、不可避的な制御の遅れがある。このような遅れを是正するため、ゲインを大きくすることも考えられるが、ゲインを大きくし過ぎるとハンチングが生じたり、収束性が損なわれるなどの不都合が生ずる。そこで、本実施の形態においては、フィードバック制御に加えてフィードフォワード制御を併用している。フィードフォワード制御は、目標値に基づいて制御量を算出するため、偏差の検出を待つことなく制御を実行でき、応答性の点で優れている。
【0060】
具体的には、ロックアップ油圧制御部226は、スリップスタート制御の開始条件が成立すると、エンジントルクTeおよび車速Vに基づき、予め実験的に求めて記憶された図示しないマップおよび演算式を用いてフィードフォワード制御量(以下、単にFF制御量という)ΔPFFを算出する。これと同時に、ロックアップ油圧制御部226は、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgtとの偏差ΔNeに所定のフィードバックゲインKを乗ずることにより、フィードバック制御量(以下、単にFB制御量という)ΔPFB(=K×ΔNe)を算出する。ここで、上記フィードバックゲインKは、正の定数である。FB制御量ΔPFBの算出方法としては、例えばPIDフィードバック制御式を用いて行う方法が挙げられる。そして、ロックアップ油圧制御部226は、算出されたFF制御量ΔPFFとFB制御量ΔPFBとを加算した値に基づき、ロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを制御する。本実施の形態においては、前述の油圧指令値Pluが増加させられるとロックアップクラッチ22の油圧差ΔPが増加し、逆に油圧指令値Pluが減少させられるとロックアップクラッチ22の油圧差ΔPが減少するようになっている。
【0061】
例えば、ロックアップ油圧制御部226は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも低い場合には、油圧差ΔPを減圧するために油圧指令値Pluを所定値だけ減少させる。油圧指令値Pluを所定値だけ減少させることにより、ロックアップクラッチ22の伝達トルクが小さくなりエンジン1にかかる負荷が低下するため、実エンジン回転速度Nerが上昇して目標エンジン回転速度Netgtに近づくこととなる。一方で、ロックアップ油圧制御部226は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも高い場合には、油圧差ΔPを増圧するために油圧指令値Pluを所定値だけ増加させる。油圧指令値Pluを所定値だけ増加させることにより、ロックアップクラッチ22の伝達トルクが大きくなりエンジン1にかかる負荷が増加するために、実エンジン回転速度Nerが低下して目標エンジン回転速度Netgtに近づくこととなる。
【0062】
ところで、従来のスリップスタート制御では、タービン回転速度Ntを用いて目標スリップ量を算出して、トルクコンバータ2のスリップ量をその目標スリップ量に追従させていた。しかし、タービン回転速度Ntは、ノイズなどによる検出誤差の影響や運転者の操作(ブレーキ、変速)、あるいは走行路面などの走行環境の変化による影響を大きく受けるため、目標スリップ量が本来目標とすべき値からずれてしまう。その結果、トルクコンバータ2のスリップ量も本来目標とすべき値からずれてしまうおそれがあった。
【0063】
これに対し、本実施の形態に係るECU200は、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgtとを直接比較し、その比較結果に基づいて実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtに追従させるように油圧指令値Pluをフィードバック制御する。したがって、本実施の形態では、制御精度を低下させる一要因となり得るタービン回転速度Ntを用いることなく、油圧指令値Pluのフィードバック制御を行っているので、従来と比較して実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtへより精度よく追従させることができる。
【0064】
また、ロックアップ油圧制御部226は、スリップスタート制御の終了条件が成立すると、車両の走行状態に応じてロックアップクラッチ22を解放状態および係合状態のいずれかの状態に制御する通常制御を行うようになっている。具体的には、ロックアップ油圧制御部226は、図3に示すLU領域マップに基づき、車両の走行状態が係合領域に含まれる場合、油圧指令値Pluを最大値に設定する。油圧指令値Pluを最大値に設定することにより、油圧差ΔPが最大となり、ロックアップクラッチ22が係合状態とされる。一方、ロックアップ油圧制御部226は、LU領域マップに基づき、車両の走行状態が解放領域に含まれる場合、油圧指令値Pluを最小値に設定する。油圧指令値Pluを最小値に設定することにより、油圧差ΔPが負の値となり、ロックアップクラッチ22が解放状態とされる。
【0065】
なお、ロックアップ油圧制御部226は、目標エンジン回転速度Netgtに実エンジン回転速度Nerを一致させるために必要なロックアップクラッチ22の伝達トルクを算出して、予め実験的に求めて記憶された伝達トルクと油圧指令値Pluとの関係を示すマップあるいは関係式から、算出された伝達トルクに応じて油圧指令値Pluを制御するようにしてもよい。
【0066】
次に、図7を参照して、ECU200で実行されるスリップスタート制御について説明する。
【0067】
同図に示す処理フローは、予め定められたサイクルタイムで繰り返し実行される。また、各処理は、実際にはECU200の演算処理部220に含まれる条件判定部221、目標回転速度算出部222、目標回転速度初期値設定部223、回転速度比較部224、スイープ量算出部225、ロックアップ油圧制御部226のいずれかにより実行されるが、以下においては説明の便宜上、各処理の主体をECU200として説明を行う。
【0068】
まず、ECU200は、スリップスタート制御の開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、ECU200は、車速V、アクセル開度Accおよび図3に示すLU領域マップに基づき、現在の車両の走行状態が係合領域、解放領域、スリップ領域のいずれの領域に含まれるか否かを判定する。同時に、ECU200は、現在の車両の走行状態がスリップ領域にあり、かつアクセルがオンされるとともにタービン回転速度Ntが所定の閾値よりも小さい値から大きい値に変化した場合すなわち車両発進時であるか否かを判定する。このとき、ECU200は、現在の車両の走行状態がスリップ領域にあり、かつ車両発進時であると判定した場合にはスリップスタート制御の開始条件が成立したものと判定する。
【0069】
なお、ECU200は、車速センサ201から入力される車速Vに代わって、セカンダリプーリ回転速度センサ206から入力されたセカンダリプーリ回転速度Noutに基づき、車速Vを検出してもよい。
【0070】
スリップスタート制御の開始条件が成立していないと判定した場合、ECU200は、処理をステップS8に移し、ロックアップクラッチ22の通常制御を実行する。例えば、現在の車両の走行状態が係合領域にあるときには、ロックアップクラッチ22を係合状態とし、現在の車両の走行状態が解放領域にあるときには、ロックアップクラッチ22を解放状態とする。
【0071】
一方、スリップスタート制御の開始条件が成立したと判定した場合、ECU200は、車速センサ201、アクセル開度センサ202およびエンジン回転速度センサ203から入力された各検出信号に基づき、車速V、アクセル開度Accおよび実エンジン回転速度Nerを検出する(ステップS2)。すなわち、ECU200は、図5に示す時間tにおける車速V、アクセル開度Accおよび実エンジン回転速度Nerを検出する。
【0072】
次いで、ECU200は、ステップS2で検出したアクセル開度Accおよび車速Vに基づき、最適目標エンジン回転速度Netgtを算出し、設定する(ステップS3)。最適目標エンジン回転速度Netgtの具体的な設定方法は、上述した通りであり、ここではその説明を省略する。
【0073】
次に、ECU200は、スリップスタート制御開始後、実際に実エンジン回転速度Nerを追従させるべき目標エンジン回転速度Netgtの初期値を設定する(ステップS4)。具体的には、ECU200は、ステップS2で検出した図5に示す時間tにおける実エンジン回転速度Ner、すなわちスリップスタート制御の開始条件が成立したときの実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtの初期値として設定する。目標エンジン回転速度Netgtは、初期値が設定された後、後述するステップS5で算出されたスイープ量Sで最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくよう制御される。
【0074】
ここで、実際には、スリップスタート制御の開始条件が成立したと判定したタイミングと、時間tに示す実エンジン回転速度Nerの低下開始のタイミングとの間には時間差がある。したがって、ECU200は、スリップスタート制御の開始条件が成立したと判定したタイミングで検出した実エンジン回転速度Nerに基づいて時間tにおける実エンジン回転速度Nerを推定するのが好ましい。具体的には、ECU200は、スリップスタート制御の開始条件成立から実際にロックアップクラッチ22がスリップ状態となり実エンジン回転速度Nerが低下し始めるまでの所定時間Tを予め実験的に求めて記憶しておき、スリップスタート制御の開始条件成立時における実エンジン回転速度Nerの変化量を示す微分値dNer/dTと所定時間Tとの積に基づき、時間tにおける実エンジン回転速度Nerを推定する。また、上述した推定方法の他、ECU200は、随時算出される微分値dNer/dTの値が正の値から負の値に転じたときの実エンジン回転速度Nerを時間tにおける実エンジン回転速度Nerとして検出し、これをステップS4で用いるようにしてもよい。
【0075】
なお、本実施の形態においては、スリップスタート制御の開始条件成立時に検出された実エンジン回転速度Nerに基づき時間tにおける実エンジン回転速度Nerを推定するようにしたが、これに限らず、例えばスリップスタート制御の開始条件成立から上記所定時間Tを経過したタイミングで再度、実エンジン回転速度Nerを検出してもよい。
【0076】
次いで、ECU200は、ステップS2で検出したアクセル開度Accの大きさに基づき、図6に示すスイープ量設定マップを用いて目標エンジン回転速度Netgtのスイープ量Sを算出し、設定する(ステップS5)。例えば、図5に示すように、検出されたアクセル開度Accが比較的小さいアクセル開度Acc(a)である場合には、目標エンジン回転速度Netgtのスイープ量Sは小さくなる。このため、目標エンジン回転速度Netgtは、その勾配が比較的緩やかな目標エンジン回転速度Netgt(a)となる。これに対して、検出されたアクセル開度Accがアクセル開度Acc(a)よりも大きなアクセル開度Acc(b)である場合には、目標エンジン回転速度Netgtのスイープ量Sは大きくなる。このため、目標エンジン回転速度Netgtは、目標エンジン回転速度Netgt(a)と比較してその勾配が急な目標エンジン回転速度Netgt(b)となる。目標エンジン回転速度Netgt(b)は、目標エンジン回転速度Netgt(a)と比べてスイープ量Sが大きいため、目標エンジン回転速度Netgt(a)よりも速く最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくこととなる。したがって、目標エンジン回転速度Netgt(b)に追従するようフィードフォワード制御およびフィードバック制御される実エンジン回転速度Nerは、目標エンジン回転速度Netgt(a)のときよりも速く最適目標エンジン回転速度Netgtに近づくこととなる。
【0077】
次に、ECU200は、スリップスタート制御の終了条件が成立する(ステップS7でYES)まで、実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtに追従させるよう、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を用いてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを制御する(ステップS6)。このステップS6のフィードフォワード制御およびフィードバック制御は、本処理フローのサイクルタイムとは別のサイクルタイムで、スリップスタート制御の終了条件が成立するまで繰り返し実行される。
【0078】
具体的には、ECU200は、上述した算出方法を用いてFF制御量ΔPFFおよびFB制御量ΔPFBを算出する。そして、ECU200は、算出されたFF制御量ΔPFFとFB制御量ΔPFBとを加算した値に基づき、油圧指令値Pluを制御する。特に、フィードバック制御においては、ECU200は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも低いか否かを判定する。この判定の結果、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも低い場合には、ECU200は、油圧指令値Pluの減少補正を行う。すなわち、ECU200は、今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)を前回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n−1)に対して、K×ΔNeで算出されるFB制御量ΔPFBに基づく値だけ減少させる。換言すれば、ECU200は、Plu(n)=Plu(n−1)−K×ΔNeとして算出する。
【0079】
一方、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも低くない場合(Ner=Netgtの場合を含む)には、ECU200は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも高いか否かを判定する。この判定の結果、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも高い場合には、ECU200は、油圧指令値Pluの増加補正を行う。すなわち、ECU200は、今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)を前回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n−1)に対して、K×ΔNeで算出されるFB制御量ΔPFBに基づく値だけ増加させる。換言すれば、ECU200は、Plu(n)=Plu(n−1)+K×ΔNeとして算出する。他方、上記判定の結果、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgtよりも高くない場合には、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgtとが一致していると判断できるため、上記のような減少補正あるいは増加補正を行うことなく、前回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n−1)を今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)として算出する。
【0080】
そして、ECU200は、今回のサイクルタイムで算出された油圧指令値Plu(n)を油圧指令値Pluに設定してロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141に出力する。
【0081】
次いで、ECU200は、スリップスタート制御の終了条件が成立したか否かを判定する(ステップS7)。スリップスタート制御の終了条件が成立したと判定した場合には、ECU200は、車両の走行状態に応じてロックアップクラッチ22を解放状態および係合状態のいずれかの状態に制御する通常制御を実行して(ステップS8)、一連の処理を終了する。一方、スリップスタート制御の終了条件が成立していないと判定した場合には、ECU200は、ステップS6の処理を繰り返し実行する。
【0082】
以上のように、本実施の形態に係る車両の制御装置は、スリップスタート制御を実行する場合、アクセル開度Accの大きさに応じて目標エンジン回転速度Netgtのスイープ量Sを変更するので、結果として実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)に近づける際の実エンジン回転速度Nerの変化速度をアクセル開度Accの大きさに応じて所望の変化速度となるようにロックアップクラッチ22の伝達トルクを制御することができる。このため、ドライバビリティの確保を優先すべき場合と燃費の向上を優先すべき場合とで最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)に近づける際の実エンジン回転速度Nerの変化速度を変更することが可能となる。
【0083】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、アクセル開度Accが大きい場合には、小さい場合と比較して目標エンジン回転速度Netgtのスイープ量Sを大きくするので、アクセル開度Accが大きい場合には、目標エンジン回転速度Netgtを最適目標エンジン回転速度Netgtに速く近づけることができる。この結果、本実施の形態に係る車両の制御装置は、アクセル開度Accが大きい場合、実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)に近づける際の実エンジン回転速度Nerの変化速度を大きくすることができる。すなわち、アクセル開度Accが大きいときは、実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgtに追従させることにより、実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgtに速く近づけることができる。
【0084】
また、アクセル開度Accが大きい場合には、実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)に速く近づけてもドライバがショックを体感しづらいので、ドライバビリティを確保することができる。
【0085】
したがって、本実施の形態に係る車両の制御装置は、特に車両発進時のロックアップクラッチのスリップスタート制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる。
【0086】
なお、本実施の形態においては、ECU200は、スリップスタート制御開始時の実エンジン回転速度Nerを初期値とする目標エンジン回転速度Netgtに基づき、ロックアップクラッチ22のスリップスタート制御を実行するようにしたが、これに限らず、例えば目標エンジン回転速度Netgtを設定せずに、最適目標エンジン回転速度Netgtに基づきスリップスタート制御を実行するようにしてもよい。この場合、実エンジン回転速度Nerが最適目標エンジン回転速度Netgtに追従するように、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を用いてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluが制御される。このとき、アクセル開度Accの大きさに応じてフィードバックゲインKの大きさを変更するのが好ましい。つまり、アクセル開度Accが大きいときは、アクセル開度Accが小さいときに比べてフィードバックゲインKの値を大きくしてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluの応答速度を速くする。これにより、アクセル開度Accが大きいときは、実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgtにより速く近づけることができる。その結果、本変形例に係る車両の制御装置は、本実施の形態と同様、特に車両発進時のロックアップクラッチのスリップスタート制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる。
【0087】
また、本実施の形態および上記変形例においては、ECU200がフィードバック制御に加えてフィードフォワード制御を併用する例について説明したが、これに限らず、フィードバック制御のみを実行するものであってもよい。
【0088】
また、本実施の形態および上記変形例においては、アクセル開度Acc(あるいは、スロットル開度θth)に応じてスイープ量SあるいはフィードバックゲインKを変更するようにしたが、これに限らず、例えばエンジントルクTeに応じてスイープ量SあるいはフィードバックゲインKを変更するようしてもよい。この場合におけるエンジントルクTeは、本発明における車両に対する加速要求値に相当する。
【0089】
この場合、本実施の形態と同様、エンジントルクTeが大きいときは、実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)に速く近づけることができる。また、エンジントルクTeが大きい場合には、実エンジン回転速度Nerを最適目標エンジン回転速度Netgt(一致後の目標エンジン回転速度Netgtを含む)に速く近づけてもドライバがショックを体感しづらいので、ドライバビリティを確保することができる。したがって、エンジントルクTeを用いてスイープ量Sを変更する場合であっても、特に車両発進時のロックアップクラッチのスリップスタート制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができる。
【0090】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御中におけるドライバビリティを確保しつつ、燃費を向上させることができ、内燃機関と変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータが設けられた車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 エンジン(内燃機関)
2 トルクコンバータ
4 CVT(変速機)
22 ロックアップクラッチ
140 ロックアップ係合圧制御部
141 ロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド
200 ECU(加速要求値算出部、ロックアップ制御部)
202 アクセル開度センサ(アクセル開度検出部)
203 エンジン回転速度センサ(実回転速度検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、変速機と、前記内燃機関と前記変速機との間に設けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとが搭載された車両の制御装置であって、
前記内燃機関の実際の回転速度を示す実回転速度を検出する実回転速度検出部と、
前記車両に対する加速要求値を算出する加速要求値算出部と、
前記車両の状態に基づいて、前記ロックアップクラッチを解放状態または係合状態とする通常制御、前記解放状態と前記係合状態との間のスリップ状態とするスリップ制御のいずれかの制御を実行するロックアップ制御部と、を含み、
前記ロックアップ制御部は、前記スリップ制御を実行する場合、前記内燃機関の回転速度の目標値を示す目標回転速度を前記車両の状態に基づいて設定し、前記実回転速度が前記加速要求値の大きさに応じた変化速度で前記目標回転速度に近づくよう前記ロックアップクラッチの伝達トルクを制御することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記ロックアップ制御部は、前記加速要求値の大きさが大きい場合には、小さい場合と比較して前記変化速度を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
アクセル開度を検出するアクセル開度検出部を備え、
前記加速要求値は、前記アクセル開度検出部により検出されたアクセル開度であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記加速要求値は、内燃機関の出力トルクであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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