説明

車両の前部車体構造

【課題】車両の軽量化に寄与しつつクラッシュカンのエネルギー吸収量を維持又は向上させる。
【解決手段】フロントサイドフレーム10の前端部に接続されて車両前後方向に延びる筒状のクラッシュカン50を備えた車両の前部車体構造において、クラッシュカン50の座屈軸P1に直交する面におけるクラッシュカン50の断面形状は、頂辺53aを有する凸部53と底辺57aを有する凹部57とが周方向に交互に並んだ閉断面形状である。この閉断面形状は、六角形以上の偶数凸多角形の1つおきの辺を凸部53の頂辺53aとしてその頂辺53aの両端部から多角形の内方側に第1の壁面部53bを延設し、相異なる頂辺から延設された隣接する第1の壁面部同士が交わったとした場合の交点Oより多角形の外方側の位置で第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部57aを凹部57の底辺として形成することにより設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関し、特に、フロントサイドフレームとバンパービームとの間にクラッシュカンが設けられた車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両衝突時の衝突エネルギーを適切に吸収するため、車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの前端部と、車幅方向に延びるバンパービームの側端部との間に、サイドフレームよりも剛性を低くした車両前後方向に延びる筒状のクラッシュカンを設けて、このクラッシュカンを衝突初期に座屈変形させることにより、衝突初期の衝突エネルギーをクラッシュカンで吸収する技術が知られている。そして、このクラッシュカンの形状について、従来より、様々な改良が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、クラッシュカンの断面形状を略十字の閉断面形状とすることにより、上下方向だけでなく車幅方向についてもクラッシュカンの断面係数を大きくすることができ、そのため、クラッシュカンの車幅方向の剛性を高めることができて、車幅方向のオフセット荷重を受けた場合でも、クラッシュカンの倒れ変形を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−83686号公報(段落0012、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1の段落0003にも記載されているように、クラッシュカンの断面稜線を増加させることにより、クラッシュカンのエネルギー吸収量、換言すればクラッシュカンの耐力が向上すると考えられる。そして、クラッシュカンの断面稜線を増加させるには、例えばクラッシュカンの断面形状が多角形である場合、辺を千鳥状に蛇行させたり、辺に突出部や陥没部を形成することが提案される。しかし、そうすると、断面稜線の総延長が長くなり、クラッシュカンを製造するための鋼板等の材料がより多く必要となり、車両の軽量化を妨げることとなる。
【0006】
そこで、本発明は、車両の軽量化を妨げることなく、クラッシュカンの断面稜線を増加させて、クラッシュカンの耐力を維持又は向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る車両の前部車体構造は、車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの前端部に接続されて車両前後方向に延びる筒状のクラッシュカンと、このクラッシュカンの前端部に側端部が接続されて車幅方向に延びるバンパービームとを備えた車両の前部車体構造であって、前記クラッシュカンの座屈軸に直交する面におけるクラッシュカンの断面形状を、頂辺を有する凸部と底辺を有する凹部とが周方向に交互に並んだ閉断面形状とした。そして、この閉断面形状を、六角形以上の偶数凸多角形の1つおきの辺を前記凸部の頂辺としてその頂辺の両端部から多角形の内方側に第1の壁面部を延設し、相異なる頂辺から延設された隣接する第1の壁面部同士が交わったとした場合の交点より多角形の外方側の位置で前記第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部を凹部の底辺として形成することにより、設定した。
【0008】
このような構成によれば、第1の壁面部同士が前記交点で交わったとした場合の形状のクラッシュカンと比べて、第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部が形成されている分、クラッシュカンの断面稜線が増加し、クラッシュカンの耐力が維持又は向上する。しかも、第2の壁面部は、前記交点より多角形の外方側の位置で第1の壁面部同士をショートカットするように繋いでいるから、断面稜線の総延長が短くなり、クラッシュカンを製造するための鋼板等の材料を少なくできて、クラッシュカンが軽量化する。そのため、車両の軽量化が妨げられない。それどころか、車両の軽量化が促進される。すなわち、本発明に係る車両の前部車体構造は、車両の軽量化に寄与しつつ、クラッシュカンのエネルギー吸収量を維持又は向上させることができるものである。
【0009】
本発明のより具体的な構成として、クラッシュカンの断面形状が、頂辺を有する4つの凸部と底辺を有する4つの凹部とが周方向に交互に等間隔に並んだ閉断面形状であり、この閉断面形状が、凸八角形を基本の凸多角形として設定されたものを挙げることができる。
【0010】
このような構成によれば、クラッシュカンの断面形状を略十字の閉断面形状としたものにおいて、第1の壁面部同士が前記交点で交わった場合と比べて、クラッシュカンの断面稜線が12個から16個に増加し、クラッシュカンが軽量化しつつクラッシュカンの耐力が維持又は向上する。
【0011】
本発明のさらに具体的な構成として、クラッシュカンの断面形状を略十字の閉断面形状としたものにおいて、第1の壁面部は頂辺に直角に延設され、第2の壁面部は2つの第1の壁面部とそれぞれ135°の角度をなしているものを挙げることができる。
【0012】
このような構成によれば、クラッシュカン全体の断面形状が対称性の高いものとなり、種々の方向のオフセット荷重を受けた場合でも、クラッシュカンの倒れ変形が抑制される。
【0013】
本発明のさらに具体的な構成として、クラッシュカンの断面形状を略十字の閉断面形状としたものにおいて、第2の壁面部は、第1の壁面部同士が交わったとした場合の第1の壁面部の全長をLとしたときに、前記交点より0.25L〜0.5Lの長さだけ多角形の外方側の位置で、第1の壁面部同士を繋いでいるものを挙げることができる。
【0014】
このような構成によれば、実施例で実証されるように、第1の壁面部同士が前記交点で交わったとした場合の形状のクラッシュカンと比べて、クラッシュカンが軽量化されつつも、クラッシュカンの耐力が明らかに同等レベルに維持され又はそれ以上に向上する。
【0015】
本発明においては、フロントサイドフレームの前端部は、クラッシュカンに対応した断面形状を有し、フロントサイドフレームの前端部とクラッシュカンとが正面視で重なり合っていることが好ましい。
【0016】
このような構成によれば、衝突荷重を受けた際に、クラッシュカンがフロントサイドフレームの前端部によって座屈軸方向に確りと支持されるから、クラッシュカンは座屈軸方向の圧縮荷重に対して最もバランスよく座屈変形してクラッシュカンの座屈変形が促進され、クラッシュカンによる衝突初期のエネルギー吸収が確実に行われる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クラッシュカンの軽量化を達成しつつ、クラッシュカンの耐力を維持又は向上することができる。そのため、車両の軽量化を促進しつつ、衝突初期の衝突エネルギーを良好に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の前部車体構造の斜視図である。
【図2】前記車両における車体右側のクラッシュカンとフロントサイドフレームとの位置関係を示す拡大正面図である。
【図3】本発明の別の実施形態に係るクラッシュカンの拡大正面図である。
【図4】本発明の実施例で作製したクラッシュカンの形状を説明するための正面図であって、(a)は比較例1、(b)は実施例4、(c)は参考例1を示すものである。
【図5】本発明の実施例の実行条件を説明するための斜視図である。
【図6】本発明の実施例の結果を示す、クラッシュカンの形状毎の、クラッシュカンの変形量(クラッシュストローク)と荷重との特性図である。
【図7】本発明の実施例の結果を示す、クラッシュカンの形状とエネルギー吸収量との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基いて本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態は例示に過ぎず、本発明はこの実施形態に何等限定されるものではない。また、以下の説明において、前後、左右、上下といった方向を示す文言は、特に断りのない限り、車両ないし車体を基準にいう。
【0020】
本実施形態において、本発明は、図1に示す車両の前部車体構造に適用されている。図1に示すように、この車両は、前部車体構造として、まず、車室1とエンジンルーム2との隔壁をなすダッシュパネル3と、ダッシュパネル3の下部のダッシュクロスメンバー4と、ダッシュクロスメンバー4の下方からキックアップ部5を経由して車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム10,10とを含んでいる。
【0021】
フロントサイドフレーム10は、それぞれ比較的厚みの厚い鋼板をプレス加工して形成された、車幅方向内側に位置する断面ハット状のインナメンバー11と、車幅方向外側に位置するプレート状のアウタメンバー12とが、縦長長方形の閉断面を形成するように、上下のフランジ部13,13でスポット溶接されることにより接合された構成である。
【0022】
フロントサイドフレーム10の前端部に、四隅にボルト孔21…21(図2参照)が形成された固定プレート20が接合されている。この固定プレート20の前面に、同じく四隅にボルト孔31…31(図2参照)が形成された取付プレート30が重なり合わされている。そして、対応し合うボルト孔21,31に挿通されたボルト41とナット42との締結により(図2参照)、取付プレート30が固定プレート20に結合されている。
【0023】
取付プレート30の前面に、車両衝突時の初期の衝撃を吸収して緩和するためのクラッシュカン50が接合されている。クラッシュカン50は、それぞれ比較的厚みの薄い鋼板を略同形同寸法にプレス加工して形成された、車幅方向内側に位置するインナメンバー51と、車幅方向外側に位置するアウタメンバー52とが、上面同士及び下面同士が突き合わされて接合された構成である(図2参照)。クラッシュカン50は、車両前後方向に延びる筒状であり、後述するように、クラッシュカン50の座屈軸P1(図2参照)に直行する面における断面形状は、多角形の閉断面形状である。
【0024】
ここで、クラッシュカン50の座屈軸P1とは、クラッシュカン50の長手方向中心を通り、取付プレート30の平坦な前面に直交する軸をいう。
【0025】
クラッシュカン50の前端部に、車幅方向に延びるバンパービーム70の側端部が接合されている。バンパービーム70は、それぞれ鋼板をプレス加工して形成された、車両前後方向後側に位置する断面ハット状のビームメンバー71と、車両前後方向前側に位置するプレート状のビームプレート72とが、縦長長方形の閉断面を形成するように、上下のフランジ部73,73で接合された構成である。図示しないが、クラッシュカン50の上面及び下面がクラッシュカン50の前端部から前方に延設され、この延設部がビームメンバー71のハット状の突条部を上下から挟み込み、この状態で延設部がビームメンバー71にすみ肉溶接されることにより、クラッシュカン50とバンパービーム70とが強固に接合されている。
【0026】
図2に示すように、クラッシュカン50は、座屈軸P1に直行する面において、16角形の閉断面形状を有している。なお、図2は、車体右側のクラッシュカン50及びフロントサイドフレーム10を示すが、車体左側のクラッシュカン50及びフロントサイドフレーム10もこれに準じて同様の構成である。したがって、本実施形態においては、図2の車体右側の構成を代表として説明し、車体左側の構成は説明を省略する。
【0027】
ここで、図2には、クラッシュカン50の座屈軸P1と共に、この座屈軸P1と正面視で重なり合う、フロントサイドフレーム10の前端部の中心軸P2も示してある。フロントサイドフレーム10の前端部の中心軸P2とは、フロントサイドフレーム10の前端部の長手方向中心を通り、固定プレート20の平坦な後面に直交する軸をいう。
【0028】
図2において、クラッシュカン50は、上方に突出する上側凸部53と、車幅方向に突出する右側凸部54及び左側凸部55と、下方に突出する下側凸部56との4つの凸部をそれぞれ90°の割付け角度間隔で有している。そして、これらの凸部53〜56の間に、第1〜第4の4つの凹部57〜60をそれぞれ90°の割付け角度間隔で有している。その結果、クラッシュカン50は、全体として、4つの凸部53〜56と4つの凹部57〜60とが周方向に交互に45°の割付け角度で等間隔に並んだ略十字の閉断面形状を呈している。
【0029】
各凸部53〜56は、クラッシュカン50の最外辺を構成する頂辺53a〜56aと、この頂辺53a〜56aの両端部から頂辺53a〜56aに略直角に延設された第1の壁面部53b〜56bとを有している。第1の壁面部53b〜56bは、上側凸部53であれば下方に、右側凸部54であれば左方に、左側凸部55であれば右方に、下側凸部56であれば上方に延設されている。
【0030】
各凹部57〜60は、隣接する凸部の第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部57a〜60aを底辺として有している。第2の壁面部57a〜60aは、各凹部57〜60において、2つの第1の壁面部とそれぞれ略135°の角度をなしている。
【0031】
このクラッシュカン50の閉断面形状は、概ね次のようにして設定されたものである。まず、4つの凸部53〜56の頂辺53a〜56aの両端部を頂点とする凸八角形を想定し、この凸八角形の1つおきの辺を前記凸部53〜56の頂辺53a〜56aとしてその頂辺53a〜56aの両端部から頂辺53a〜56aに略直角に凸八角形の内方側に第1の壁面部53b〜56bを延設する。次に、相異なる頂辺53a〜56aから延設された隣接する第1の壁面部同士が交わったとした場合の交点Oを想定し、その交点Oより多角形の外方側の位置で第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部57a〜60aを凹部57〜60の底辺として形成するのである。
【0032】
ここで、第1の壁面部同士が前記交点Oで交わったとした場合の形状のクラッシュカンは、頂点が12個の12角形であり、断面稜線が12個である。これに対し、本実施形態に係るクラッシュカン50は、第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部57a〜60aが形成されたことにより、頂点が16個の16角形であり、断面稜線が16個に増加している。そのため、本実施形態に係るクラッシュカン50は、第2の壁面部57a〜60aを形成しなかった場合に比べて、クラッシュカン50の耐力が維持又は向上している。
【0033】
しかも、第2の壁面部57a〜60aは、前記交点Oより多角形の外方側の位置で第1の壁面部同士をショートカットするように繋いでいる。そのため、本実施形態に係るクラッシュカン50は、第2の壁面部57a〜60aを形成しなかった場合に比べて、断面稜線は増加しているが、断面稜線の総延長は短くなっている。その結果、クラッシュカン50を製造するための鋼板等の材料を少なくできて、クラッシュカン50が軽量化し、車両の軽量化を妨げることがない。それどころか、車両の軽量化が促進されている。
【0034】
したがって、本実施形態に係る車両の前部車体構造は、車両の軽量化に寄与しつつ、クラッシュカン50のエネルギー吸収量を維持又は向上させることができるものである。
【0035】
また、本実施形態においては、第1の壁面部53b〜56bが頂辺53a〜56aに略直角に延設されたり、第2の壁面部57a〜60aが2つの第1の壁面部とそれぞれ略135°の角度をなす等、クラッシュカン50全体の断面形状が対称性の高いものとなっている。そのため、クラッシュカン50は、種々の方向のオフセット荷重を受けた場合でも、クラッシュカン50の倒れ変形が抑制される。
【0036】
本実施形態において、クラッシュカン50の各部の寸法は、特に限定されず、状況に応じて種々変更することができる。例えば、第1の壁面部同士が交わったとした場合の第1の壁面部の全長、つまり頂辺53a〜56aの一端部から前記交点Oまでの長さをLとしたときに、Lは40mm程度とすることができる。このとき、頂辺53a〜56aの長さは、40mm程度が好ましい。つまり、第1の壁面部同士が交わったとした場合の第1の壁面部の全長Lと、頂辺53a〜56aの長さとを、略同じにするのである。これにより、車幅方向のオフセット荷重を受けた場合でも、クラッシュカン50の倒れ変形を防止するという観点から有利な結果が得られる。
【0037】
また、第2の壁面部57a〜60aは、前記交点Oより0.25L〜0.5Lの長さだけ多角形の外方側の位置で、第1の壁面部同士を繋ぐことが好ましい。より好ましくは、前記交点Oより0.25L〜0.38Lの長さだけ多角形の外方側の位置である。これにより、クラッシュカン50は軽量化されながらも、第2の壁面部57a〜60aが形成されなかったものに比べて、クラッシュカン50の耐力が同等レベルに維持され又はそれ以上に向上するという観点から有利な結果が得られる。
【0038】
また、クラッシュカン50の座屈軸P1方向の長さは、クラッシュカン50によるエネルギー吸収量をどの程度確保するかという観点と、クラッシュカン50の座屈変形をどの程度し易くするかという観点とを比較考量して、例えば80mm程度とすることが好ましい。
【0039】
本実施形態においては、クラッシュカン50が接続されるフロントサイドフレーム10の前端部は、クラッシュカン50に対応して、頂辺を有する4つの凸部と底辺を有する4つの凹部とが周方向に交互に45°の割付け角度で等間隔に並んだ略十字の閉断面形状を呈している。そして、図2に示すように、フロントサイドフレーム10の前端部とクラッシュカン50とが正面視で重なり合っている。また、クラッシュカン50の座屈軸P1とフロントサイドフレーム10の前端部の中心軸P2とが一致している。
【0040】
すなわち、図2において、フロントサイドフレーム10のインナメンバー11は、その前端部において、クラッシュカン50の上側凸部53に対応して、ハット状の突条部の上面部10aの位置及び長さが設定され、クラッシュカン50の下側凸部56に対応して、ハット状の突条部の下面部10bの位置及び長さが設定され、クラッシュカン50の上側凸部53及び下側凸部56の左側の第1の壁面部53b,56bに対応して、ハット状の突条部の左面部10cの位置が設定されている。また、クラッシュカン50の左側凸部55に対応して、ハット状の突条部の左面部10cに左突出部10dが形成されている。
【0041】
さらに、図2において、フロントサイドフレーム10のアウタメンバー12は、その前端部において、クラッシュカン50の上側凸部53及び下側凸部56の右側の第1の壁面部53b,56bに対応して、その位置が設定されている。また、クラッシュカン50の右側凸部54に対応して、右突出部10eが形成されている。
【0042】
さらに、図2において、クラッシュカン50の第1凹部57及び第2凹部58の第2の壁面部57a,58aに対応して、フロントサイドフレーム10のアウタメンバー12の右突出部10eの形状が設定され、クラッシュカン50の第3凹部59及び第4凹部60の第2の壁面部59a,60aに対応して、フロントサイドフレーム10のインナメンバー11の左突出部10dの形状が設定されている。
【0043】
以上により、フロントサイドフレーム10の前端部とクラッシュカン50とは、正面視で輪郭が略一致している。
【0044】
これにより、衝突荷重を受けた際に、クラッシュカン50がフロントサイドフレーム10の前端部によって座屈軸P1方向に確りと支持されるから、クラッシュカン50は座屈軸P1方向の圧縮荷重に対して最もバランスよく座屈変形してクラッシュカン50の座屈変形が促進され、クラッシュカン50による衝突初期のエネルギー吸収が確実に行われる。
【0045】
次に、本実施形態の作用を説明する。いま、バンパービーム70に前方から衝突荷重が作用したとする。衝突初期は、クラッシュカン50が座屈軸P1方向に蛇腹状に座屈変形することによって、衝突初期の衝突エネルギーがクラッシュカン50に吸収される。
【0046】
このとき、クラッシュカン50の断面稜線が16個であり、第2の壁面部57a〜60aを形成しなかった場合に比べて、断面稜線が増加しているので、クラッシュカン50の耐力が維持又は向上している。その結果、クラッシュカン50が吸収できる衝突エネルギーの量が維持または増大しており、クラッシュカン50が完全に潰れて衝突エネルギーがサイドフレーム10に直接作用する可能性が減少する。あるいは、衝突エネルギーがサイドフレーム10に直接作用する場合でも、そのエネルギー量が低減する。かつ、第2の壁面部57a〜60aを形成しなかった場合に比べて、断面稜線の総延長が短くなっているので、クラッシュカン50の重量が軽減しており、このクラッシュカン50は車両の軽量化を促進し、車両の軽量化に寄与している。
【0047】
また、クラッシュカン50は、座屈軸P1に対する全体形状が対称性の高いものとなっているから、たとえオフセット荷重を受けた場合でも、倒れ変形が抑制され、座屈変形が促進されて、クラッシュカン50によるエネルギー吸収が円滑に行われる。
【0048】
さらに、クラッシュカン50と、クラッシュカン50が接続されるフロントサイドフレーム10の前端部とで、断面形状を対応させ、かつ正面視で輪郭を一致させているから、クラッシュカン50の座屈変形がこれによっても促進される。
【0049】
なお、以上の実施形態においては、クラッシュカン50の形状を設定するための基本の凸多角形を凸八角形としたが、六角形以上の偶数凸多角形であれば、特に限定されない。1例として、図3に、基本の凸多角形を凸六角形とした場合を示す。この場合、クラッシュカン150は、座屈軸P1に直行する面において、12角形の閉断面形状を有している。クラッシュカン150は、頂点が12個の12角形であり、断面稜線が12個である。クラッシュカン150は、3つの凸部153〜155と3つの凹部157〜159とが周方向に交互に60°の割付け角度で等間隔に並んだ閉断面形状を呈している。
【0050】
図3においては、凸部153〜155の頂辺153a〜155aの長さを第1の壁面部153b〜155bの長さよりも長くしているが、これに限定されず、状況に応じて、例えば、凸部153〜155の頂辺153a〜155aの長さと第1の壁面部153b〜155bの長さとを略同じとしてもよく、さらに、凸部153〜155の頂辺153a〜155aの長さを第1の壁面部153b〜155bの長さよりも短くしてもよい。これは、図2に示した略十字の閉断面形状のクラッシュカン50についても同様である。
【0051】
また、図3においては、凹部157〜159の底辺、すなわち第2の壁面部157a〜159aは、各凹部157〜159において、2つの第1の壁面部とそれぞれ略150°の角度をなしている。
【0052】
また、以上の実施形態においては、第2の壁面部が第1の壁面部となす角度を2つの第1の壁面部で同じとしたり、あるいは、第2の壁面部を挟む2つの第1の壁面部の長さを同じとしたが、これに限定されず、状況に応じて種々変更しても構わない。
【0053】
クラッシュカンの形状を設定するための基本の凸多角形は、六角形以上の偶数凸多角形であれば、辺の長さが全て同じである正多角形であるか否かは、問題とはならない。
【0054】
クラッシュカンの各部の寸法、例えば、凸部の頂辺の長さと第1の壁面部の長さとの比率や、第2の壁面部の長さ、あるいは第2の壁面部が第1の壁面部となす角度、さらには、凸部の数や凹部の数等は、第2の壁面部が形成されなかった場合と比べて、クラッシュカンが軽量化される度合いと、クラッシュカンの耐力が増加又は減少する度合いとを比較考量して設定することが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を通して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何等限定されるものではない。
【0056】
[クラッシュカンの作製]
板厚が1.4mmの冷間圧延鋼板(SPC材)を用い、図4(a)に示すように、頂辺の長さが40mm、第1の壁面部の長さ(L)が40mm、座屈軸方向の長さが80mmの、第2の壁面部を形成しない、断面形状が略十字の閉断面形状であるクラッシュカンを作製し、これを比較例1とした。
【0057】
この比較例1に対して、図4(b)に示すように、第2の壁面部を形成したものを実施例とした。その場合、第1の壁面部同士の交点(O)より5mmの長さだけ多角形の外方側の位置で2つの第1の壁面部同士を繋いだものを実施例1、10mmの長さだけ多角形の外方側の位置で繋いだものを実施例2、…というように、5mm刻みで第2の壁面部の位置を変更していき、35mmの長さだけ多角形の外方側の位置で繋いだものを実施例7とした。
【0058】
そして、図4(c)に示すように、第1の壁面部を形成しない、凸部も凹部もない、断面形状が凸八角形のものを参考例1とした。
【0059】
[エネルギー吸収試験]
実施例1〜7、比較例1、参考例1の各クラッシュカンについて、エネルギー吸収試験を行った。図5に示すように、クラッシュカンの一端部Xを拘束し、他端部Yに剛壁Zを当て、剛壁Zを0.5m/秒の速度でクラッシュカンの一端部X側に向けてクラッシュカンが潰れきるまで座屈軸方向に移動させた。剛壁Zの移動距離(クラッシュストローク、クラッシュカンの変形量)及び荷重を測定し、その結果から、クラッシュカンが潰れきるまでの各クラッシュカンのエネルギー吸収量を求めた。結果を図6、図7に示す。図6には、比較例1及び実施例2〜4の結果のみ示した。図7には、全クラッシュカンのエネルギー吸収量を示した。
【0060】
なお、図7において、カッコ内の数字(%)は、比較例1における第1の壁面部の長さ(L=40mm)に対する、第1の壁面部同士の交点(O)と第2の壁面部が第1の壁面部同士を繋ぐ位置との間の長さ(実施例1では5mm、実施例2では10mm、…)の比率である。
【0061】
[結果考察]
図7から明らかなように、第2の壁面部を形成した実施例1〜7は、第2の壁面部を形成しない比較例1よりも、クラッシュカンが軽量化しているにも拘らず、エネルギー吸収量の減少の度合いは限定的であり、総じて良好な耐力が維持されていた。
【0062】
特に、第2の壁面部が前記交点より0.25L〜0.5Lの長さだけ多角形の外方側の位置で第1の壁面部同士を繋ぐ実施例2〜4は、エネルギー吸収量が比較例1からほとんど減少せず同等レベルに維持されていた。さらに、これらのうちでも、第2の壁面部が前記交点より0.25L〜0.38Lの長さだけ多角形の外方側の位置で第1の壁面部同士を繋ぐ実施例2、3は、却ってエネルギー吸収量が比較例1以上に向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、フロントサイドフレームとバンパービームとの間にクラッシュカンが設けられて、衝突初期の衝突エネルギーをクラッシュカンで吸収するように構成された車両の前部車体構造の技術分野において、広範な産業上の利用可能性が期待される。
【符号の説明】
【0064】
10 フロントサイドフレーム
10a 上面部
10b 下面部
10c 左面部
10d 左突出部
10e 右突出部
11 インナメンバー
12 アウタメンバー
20 固定プレート
30 取付プレート
50 クラッシュカン
51 インナメンバー
52 アウタメンバー
53 上側凸部
54 右側凸部
55 左側凸部
56 下側凸部
53a〜56a 頂辺
53b〜56b 第1の壁面部
57〜60 第1〜第4凹部
57a〜60a 第2の壁面部(底辺)
70 バンパービーム
71 ビームメンバー
72 ビームプレート
L 頂辺の端部から交点までの長さ
O 交点
P1 座屈軸
P2 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの前端部に接続されて車両前後方向に延びる筒状のクラッシュカンと、このクラッシュカンの前端部に側端部が接続されて車幅方向に延びるバンパービームとを備えた車両の前部車体構造であって、
前記クラッシュカンの座屈軸に直交する面におけるクラッシュカンの断面形状が、頂辺を有する凸部と底辺を有する凹部とが周方向に交互に並んだ閉断面形状であり、
この閉断面形状が、
六角形以上の偶数凸多角形の1つおきの辺を前記凸部の頂辺としてその頂辺の両端部から多角形の内方側に第1の壁面部を延設し、
相異なる頂辺から延設された隣接する第1の壁面部同士が交わったとした場合の交点より多角形の外方側の位置で前記第1の壁面部同士を繋ぐ第2の壁面部を前記凹部の底辺として形成することにより、設定されたものであることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記クラッシュカンの断面形状が、頂辺を有する4つの凸部と底辺を有する4つの凹部とが周方向に交互に等間隔に並んだ閉断面形状であり、
この閉断面形状が、凸八角形を基本の凸多角形として設定されたものであることを特徴とする請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
第1の壁面部は頂辺に直角に延設され、
第2の壁面部は2つの第1の壁面部とそれぞれ135°の角度をなしていることを特徴とする請求項2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
第2の壁面部は、第1の壁面部同士が交わったとした場合の第1の壁面部の全長をLとしたときに、前記交点より0.25L〜0.5Lの長さだけ多角形の外方側の位置で、第1の壁面部同士を繋いでいることを特徴とする請求項3に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
フロントサイドフレームの前端部は、クラッシュカンに対応した断面形状を有し、フロントサイドフレームの前端部とクラッシュカンとが正面視で重なり合っていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−18395(P2013−18395A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154078(P2011−154078)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)