説明

車両の空調装置

【課題】複雑な制御回路等を用いることなく、室内壁が高温となった時にその冷却を促進することのできる車両の空調装置を提供する。
【解決手段】インストルメントパネル10のハウジング10aには、連通孔13が形成されるとともに、そのハウジング10aの内周面には、バイパス21を介して送風通路20に連通される送風室40が取り付けられている。ハウジング10aの内周面には、シート状の開閉部材30が覆設され、開閉部材30には、連通孔13の延伸方向と同じ方向に延伸する複数の隙間23aが形成される。開閉部材30の端部30aは、形状記憶合金24を介して係止部材25に固定される。インストルメントパネル10の温度が高温の所定温度以上であるときに、形状記憶合金24の長さが高温相長さになることにより、開閉部材30は、連通孔31と連通孔13とが連通されるようにハウジング10aに対して相対移動させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のインストルメントパネルが日射等により高温となった時に、同パネルの内側に冷却風を流通させるとともに同パネルに形成された複数の孔から冷却風を吹き出させる空調装置がある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の空調装置は、上記複数の孔まで冷却風を流通させる通路と、乗員の上半身に向けて冷却風を吹き出させる開口部まで冷却風を流通させる通路と、これら通路の連通状態を切替える切替えドアとを備えている。そして、検出された内気温度や外気温度、及び乗員による室内温度の設定等に基づいて、電子制御装置がこの切替えドアの開閉状態を制御して、上記インストルメントパネルの冷却を適宜行っている。なお、特許文献2〜4に同様の空調装置が記載されている。
【特許文献1】特開2004−132677号公報
【特許文献2】特開2004−189080号公報
【特許文献3】特開2004−168254号公報
【特許文献4】特開平11−254945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1〜4に記載の空調装置は、電子制御装置により切替えドアの開閉状態を制御しているため、切替えドアを開閉駆動するための駆動回路や開閉状態を制御するための制御回路が必要となる。したがって、空調装置の構成が複雑になることが避けられず、未だ改善の余地を残すものとなっている。
【0004】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複雑な制御回路等を用いることなく、室内壁が高温となった時にその冷却を促進することのできる車両の空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
こうした課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、冷却風を吹き出す連通孔の形成された室内壁と、前記室内壁の内部に形成されて前記連通孔まで前記冷却風を流通させる通路と、前記室内壁と相対移動することにより前記連通孔を開閉可能な開閉部材と、前記室内壁の温度が高温の所定温度以上であることを条件に前記連通孔を開くように前記室内壁と前記開閉部材とを相対移動させる形状記憶合金とを備えることをその要旨とする。
【0006】
同構成によれば、室内壁の温度が高温の所定温度以上になると、室内壁に形成された連通孔を開くように室内壁と開閉部材とが形状記憶合金によって相対移動させられる。そして、室内壁の内部には連通孔まで冷却風を流通させる通路が形成されているため、同連通孔から冷却風を吹き出させることができる。その結果、複雑な制御回路等を用いることなく、室内壁が高温となった時にその冷却を促進することができる。なお、室内壁が高温となる所定温度と形状記憶合金が駆動する温度とは異なっていてもよく、例えば70℃以上で駆動する形状記憶合金を用いて、室内壁が80℃になる時に形状記憶合金が70℃になるようにしてもよい。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の空調装置において、前記連通孔は前記室内壁に複数形成され、前記開閉部材には、前記室内壁に沿って移動することにより、前記複数の連通孔を開く複数の開口部と同複数の連通孔を閉じる遮蔽部とが形成されていることをその要旨とする。
【0008】
同構成によれば、開閉部材には、室内壁に沿って移動することにより、複数の連通孔を開く複数の開口部と同複数の連通孔を閉じる遮蔽部とが形成されているため、形状記憶合金によって開閉部材を室内壁に沿って移動させることにより、容易に連通孔を開閉することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両の空調装置において、前記開閉部材は可撓性のフィルムからなることをその要旨とする。
同構成によれば、開閉部材は可撓性のフィルムからなるため、フィルムを室内壁に押し当てることにより室内壁の形状に容易に追従させることができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両の空調装置において、前記室内壁は車両のインストルメントパネルであることをその要旨とする。
同構成によれば、日射によりインストルメントパネルが高温となった時にその冷却を促進することができる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両の空調装置において、前記通路は車両の外気取入れ口に接続されていることをその要旨とする。
同構成によれば、連通孔まで冷却風を流通させる通路は車両の外気取入れ口に接続されているため、室内壁が高温となった時に外気により室内壁の冷却を促進することができる。その結果、駐車中で乗員が搭乗していない時等、空調装置が作動していない時であっても、高温になった室内壁の冷却を促進することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる空調装置によれば、複雑な制御回路等を用いることなく、室内壁が高温となった時にその冷却を促進することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明にかかる車両の空調装置の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。ここで、図1は、車両のインストルメントパネルを主に示す斜視図であり、図2は、図1の2−2線断面図である。
【0014】
図1に示されるように、車室1内には、各種計器が搭載されたインストルメントパネル10が設けられている。このインストルメントパネル10のハウジング10aにおいて乗員側の表面には、複数の送風口11が設けられており、これら送風口11は、後述する送風通路20を介して車載の空調機に接続されている。空調機の運転時に、その空調機によって送風される空調風が送風口11から車室1内に直接的に送り出される。
【0015】
図1及び図2に示されるように、ハウジング10aにおいてグローブボックス12の上方に位置し、断面が略円弧状をなす部分には、車両横方向に延伸する複数のスリット状の連通孔13が等間隔で形成されている(図1では連通孔13を模式的に記載)。ハウジング10aの内周面には、箱状の区画部材22が連通孔13の開口を覆うように取り付けられている。この区画部材22とハウジング10aとにより、送風室40が区画されており、この送風室40は、バイパス21を介して送風通路20に連通されている。
【0016】
また、ハウジング10aの内周面には、可撓性のフィルムからなるシート状の開閉部材30が覆設されており、この開閉部材30は、区画部材22に固定された支持格子23によってハウジング10aの内周面に押し当てられ、ハウジング10aの形状に追従させられている。支持格子23は、連通孔13の延伸方向と垂直な方向に延伸するとともに、空調風の通過可能な複数の隙間23aを形成している。開閉部材30には、連通孔13の延伸方向と同じ方向に延伸する複数の連通孔31が連通孔13の間隔と同じ間隔で形成されている。それら連通孔31の間には、複数の遮蔽部32が形成されている。
【0017】
開閉部材30の一方の端部30aは、形状記憶合金24を介して区画部材22と一体に形成された係止部材25に固定されている。この形状記憶合金24は、温度が変態温度(例えば70℃)以上であるときには、長さが高温相(母相)長さになる一方、温度が変態温度よりも低いときには、長さがその高温相長さよりも長い低温相長さになる。
【0018】
ここで、形状記憶合金24はインストルメントパネル10の近傍に位置するため、形状記憶合金24の温度は、インストルメントパネル10の温度の変化に基づいて変化する。すなわち、インストルメントパネル10の温度が高温の所定温度(例えば80℃)以上になったときには形状記憶合金24の温度がその変態温度以上になる一方、インストルメントパネル10の温度がその所定温度よりも低いときには形状記憶合金24の温度がその変態温度よりも低くなる。
【0019】
開閉部材30の他方の端部30bと区画部材22との間には、スプリング26が圧縮状態で配設されている。このスプリング26の中心部には、区画部材22に固定された棒状のガイド部材27が挿入されている。これにより、スプリング26は、ガイド部材27によりその軸線に沿って伸縮自由にガイドされている。また、開閉部材30の端部30bは、スプリング26の端部に固定されるとともに、ガイド部材27は、開閉部材30の端部30bに形成された挿入孔33に挿入されている。
【0020】
こうした構成により、スプリング26の弾力によって開閉部材30及び形状記憶合金24に張力が付与されており、形状記憶合金24の長さが変化すると、開閉部材30がハウジング10aに対して相対移動するようになる。換言すれば、連通孔31と連通孔13との相対位置が形状記憶合金24の長さの変化に基づいて変化する。具体的には、開閉部材30は、形状記憶合金24が発生する張力により、ハウジング10aの内周面に沿って移動する。
【0021】
ここで本実施形態では、形状記憶合金24の長さは、高温相長さになったときに連通孔31と連通孔13とがそれぞれ連通される一方、低温相長さになったときに遮蔽部32によって連通孔13を遮蔽するように設定されている。
【0022】
以下、図3及び図4を参照して形状記憶合金24の温度の変化に対応する連通孔31と連通孔13との連通状態の変化態様を説明する。ここで、図3は形状記憶合金24の温度が変態温度よりも低い場合、図4は形状記憶合金24の温度が変態温度よりも高い場合における各部材の態様をそれぞれ示している。
【0023】
図3に示されるように、例えば車両の通常運転中等、インストルメントパネル10の温度が高温の所定温度よりも低い場合には、形状記憶合金24の温度がその変態温度よりも低くなるため、形状記憶合金24の長さが低温相長さになり、遮蔽部32によって連通孔13が遮蔽されている。これにより、送風室40と車室1との連通が遮断され、送風通路20を通じて送風される空調風の全てが送風口11を介して車室1に送り出される。
【0024】
一方、例えば車両が夏期の炎天下で駐車され、インストルメントパネル10が日射により高温の所定温度以上になり、形状記憶合金24の温度が変態温度以上になった場合には、形状記憶合金24の長さが高温相長さになり、連通孔31と連通孔13とが連通されるように開閉部材30がハウジング10aに対して相対移動させられる。これにより、送風室40と車室1とが連通孔13、連通孔31及び隙間23aを通じて連通されるようになり、空調機が起動した後、送風通路20を通じて送風される空調風(冷却風)の一部がバイパス21を介して送風室40に進入し、ハウジング10aを冷却してから隙間23a、連通孔31及び連通孔13を通じて車室1に送り出される。
【0025】
なお、その後にインストルメントパネル10の温度が高温の所定温度よりも低くなり、形状記憶合金24の温度がその変態温度よりも低くなった場合には、形状記憶合金24の長さが低温相長さになるとともにスプリング26の弾力が開閉部材30に付与される。このため、遮蔽部32によって連通孔13が遮蔽されるように開閉部材30がハウジング10aに対して相対移動させられる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態にかかる空調装置によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)インストルメントパネル10が高温の所定温度(80℃)以上になり、形状記憶合金24の温度が変態温度(70℃)以上になった場合には、形状記憶合金24の長さの変化により、開閉部材30を連通孔31と連通孔13とが連通されるようにハウジング10aに対して相対移動させることとした。これにより、連通孔13から冷却風を吹き出させることができる。その結果、複雑な制御回路等を用いることなく、日射によりインストルメントパネル10が高温となった時にその冷却を促進することができる。
(2)インストルメントパネル10が高温の所定温度よりも低くなり、形状記憶合金24の温度が変態温度よりも低くなった場合には、形状記憶合金24の長さの変化により、開閉部材30を遮蔽部32によって連通孔13が遮蔽されるようにハウジング10aに対して相対移動させることとした。これにより、インストルメントパネル10を冷却する必要のないときに、送風口11を通じて空調風の全てを車室1に直接的に送り出すことができ、車室1内の温度を効率的に調節することができる。
【0027】
(3)開閉部材30にハウジング10aに対して相対移動することにより、連通孔13を開く連通孔31と連通孔13を閉じる遮蔽部32とを形成することとした。そのため、形状記憶合金24によって開閉部材30をハウジング10aに対して相対移動させることにより、容易に連通孔13を開閉することができる。また、可撓性のフィルムからなる開閉部材30を採用することにより、開閉部材30をハウジング10aの内周面に押し当てることによりハウジング10aの形状に容易に追従させることができる。
【0028】
なお、上記各実施形態は、これらを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、低温相長さが高温相長さよりも長い形状記憶合金24を用いて連通孔13の開閉を切り替えるようにしている。これに限らず、例えば低温相長さが高温相長さよりも短い形状記憶合金等、他種の形状記憶合金を採用することもできる。なお、他種の形状記憶合金を採用する場合においても、その形状記憶合金の長さが、高温相長さになったときに連通孔31と連通孔13とが連通される一方、低温相長さになったときに連通孔31の間に形成された遮蔽部32によって連通孔13が遮蔽されるように設定される。
【0029】
・上記実施形態では、開閉部材30をハウジング10aの内周面に沿って移動させるようにしたが、開閉部材30をハウジング10aの内周面に垂直に移動させることにより、連通孔13を開閉するようにしてもよい。
【0030】
・上記実施形態では、形状記憶合金24の温度が変態温度以上になった時に、開閉部材30をハウジング10aに対して移動させるようにしたが、ハウジング10aの一部を可動式として同部分を開閉部材に対して移動させる構成、あるいは開閉部材及びハウジングの双方を移動させる構成を採用することもできる。
【0031】
・上記実施形態では、バイパス21を介して送風室40を空調機の送風通路20に接続し、空調機が起動した後にその空調機により送風される空調風の一部を連通孔13から車室1に送り出すようにしている。これに限らず、例えば送風室40が車両の外気取入れ口に接続される構成を採用することもできる。こうした構成により、インストルメントパネル10の温度が高温の所定温度以上になったときに、外気が連通孔13から車室1に進入することができ、その外気によりインストルメントパネル10の冷却を促進することができる。その結果、駐車中で乗員が搭乗していないとき等、空調機が作動していない時であっても、高温になったインストルメントパネル10の冷却を促進することができる。
【0032】
・上記実施形態では、連通孔13の開閉を切り替える開閉部材として可撓性のフィルムからなる開閉部材30を採用するようにしているが、これに限らず、例えば可撓性の樹脂からなる部材を採用することもできる。要するに、支持格子23によってハウジング10aの内周面に押し当てられることによりハウジング10aの形状に追従することのできる部材でさえあれば、適宜採用可能である。また、例えばハウジング10aにおいてその内周面が略平面をなす部分に連通孔を形成し、開閉部材がハウジング10aに対して相対移動するときに変形しなくてもハウジング10aの内周面に追従することができる場合には、可撓性でない材料からなる開閉部材を採用することもできる。
【0033】
・上記実施形態では、ハウジング10a及び開閉部材30の連通孔13,31がスリット状に形成されたが、それら連通孔を例えば断面が円形をなす穴等、他の形状に形成してもよい。
【0034】
・上記実施形態では、高温になったインストルメントパネル10の冷却を促進する空調装置を本発明に適用した場合について例示したが、これに限らず、例えばリアウィンドウの近傍の室内壁等、駐車時に日射により高温になるおそれのある他の室内壁についても、基本的に同様の態様をもって本発明を適用することができる。その場合には、車両の後部座席に空調機の空調風を送るための送風通路を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態にかかる車両のインストルメントパネルを主に示す斜視図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】同実施形態にかかる形状記憶合金の温度が変態温度よりも低い場合における各部材の態様を示す断面図。
【図4】同実施形態にかかる形状記憶合金の温度が変態温度よりも高い場合における各部材の態様を示す断面図。
【符号の説明】
【0036】
1…車室、10…インストルメントパネル、10a…ハウジング、11…送風口、12…グローブボックス、13…連通孔、20…送風通路、21…バイパス、22…区画部材、23…支持格子、23a…隙間、24…形状記憶合金、25…係止部材、26…スプリング、27…ガイド部材、30…開閉部材、30a,30b…端部、31…連通孔、32…遮蔽部、33…挿入孔、40…送風室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却風を吹き出す連通孔の形成された室内壁と、
前記室内壁の内部に形成されて前記連通孔まで前記冷却風を流通させる通路と、
前記室内壁と相対移動することにより前記連通孔を開閉可能な開閉部材と、
前記室内壁の温度が高温の所定温度以上であることを条件に前記連通孔を開くように前記室内壁と前記開閉部材とを相対移動させる形状記憶合金と
を備える車両の空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の空調装置において、
前記連通孔は前記室内壁に複数形成され、
前記開閉部材には、前記室内壁に沿って移動することにより、前記複数の連通孔を開く複数の開口部と同複数の連通孔を閉じる遮蔽部とが形成されている
ことを特徴とする車両の空調装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の空調装置において、
前記開閉部材は可撓性のフィルムからなる
ことを特徴とする車両の空調装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両の空調装置において、
前記室内壁は車両のインストルメントパネルである
ことを特徴とする車両の空調装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両の空調装置において、
前記通路は車両の外気取入れ口に接続されている
ことを特徴とする車両の空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−254493(P2008−254493A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96532(P2007−96532)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】