説明

車両シートのシートバック構造

【課題】3Dネット部材を使用し、強度と軽量化とを図り組付を容易とする車両シートのシートバック構造
【解決手段】着座面を3Dネット部材とするシートバック構造で、方形状のシートバックフレーム11、これに装着される中央を貫通させた開口部19を持つ方形状のパッド部12、パッド部12を被覆する方形状で周囲を袋体とする表皮部13、シートバックフレーム11に係止され着座面の位置に張設されて開口部21を塞ぐ3Dネット部材15を備え、表皮部13はパッド部12の外側表面を被覆する外側表皮部13eと開口部21の内側周囲面を被覆する表皮部13fとから成り、外側表皮部13eの一端部と内側表皮部13fの一端部とで3Dネット部材15の両側を縫着し、外側表皮部13eの他端部と内側表皮部13fの他端部とに封止手段のファスナー31を設けて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートバック構造に関し、特にシートバックの着座面の部分にネット部材を使用するシートバック構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両シートのシートバックは、シートバックの骨組みとなるシートバックフレームと、シートバックフレームに連結されたスプリング、シートバックフレームの周囲及び着座面に装着されたパッド材等と、パッド材等が装着されたシートバックフレーム全体の表面を覆う表皮材とで組み付けられて成る。このようなシートバック構造であるため、シートバックは、全体として肉厚で重量のあるものとなっている。
【0003】
そこで、シートバックの軽量化、構造の簡易化、さらに着座感の向上を図るべく、弾力性、通気性に優れ、パッド材及び表皮材の機能を備えるネット部材を使用したネットシートが開発されている(特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1に開示されたネット部材使用のシートバックは、左右が前部側に張り出した方形状のシートバックフレームの骨組み部分に、パッド材が装着され、さらにシートバックフレーム全体を覆う袋状のネット部材が装着されて成るもので、ネット部材の張設とパッド材の固定とが同時に行われることから、作業性に優れた構造となっている。
【0005】
特許文献2に開示されたネット部材使用のシートバックは、パッド材による着座時の振動吸収性の向上を図るべく、シートバックフレームに張設されたネット部材の左右の座席側面を覆うように、パッド材をシートバックフレームの左右に装着したものであり、パッド材がネット部材による押圧を避け、シートバックフレームとネット部材による振動吸収を可能とする構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−52482公報
【特許文献2】特開2007−89868公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に開示されたシートバックは、弾力性及び通気性に優れるネット部材の特性を生かし、軽量化、構造容易化、着座感等の向上が図られたものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたシートバックは、シートバックフレーム全体を覆う袋体に形成されたネット部材が張設されて成るため、パッド材がネット部材により直接押し潰された状態になり、パッド材のクッション機能が損なわれている。特許文献2に開示されたシートバックは、パッド材がネット部材により直接押し潰されることはないが、表皮材と編み目の大きいネット部材とを縫着する構造であることから、縫着部分の強度を十分に確保するには技術的な困難を伴う。
【0009】
本発明は、通気性、弾力性に富むネット部材の特性を生かし、十分な強度を有し、かつ軽量化と組み付けの容易化を図った車両シートのシートバック構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明が提供する車両シートのシートバック構造は、シートバックの着座面の部分にネット部材を使用するシートバック構造であって、方形状のシートバックフレームと、該シートバックフレームに装着される、中央の位置に前後に貫通させた開口部を持つ方形状のパッド部と、該パッド部を表皮材で被覆する、方形状で周囲を袋体とする表皮部と、前記シートバックフレームに係止され、前記着座面となる前記中央の位置に張設されて前記開口部を塞ぐネット部材と、を備え、前記表皮部は、前記方形状のパッド部の外側表面を被覆する外側表皮部と、前記開口部の内側周囲面を被覆する内側表皮部とから成り、前記外側表皮部の一端部と前記内側表皮部の一端部とで前記ネット部材の両側を縫着し、前記外側表皮部の他端部と前記内側表皮部の他端部とに、前記外側表皮部の他端と前記内側表皮部の他端とを封止する封止手段を設けて成ることを特徴とする。
【0011】
このように、ネット部材をシートバックフレームに係止して、シートバックの着座面となる中央の位置に張設したので、着座面の位置にスプリングやパッド材を使用しなくても、弾力性が得られ、さらに通気性を確保と軽量化を図ることができる。ネット部材は、その両側を外側表皮部と内側表皮部とで縫着されるので、編み目の大きいネット部材でも十分な強度を有する縫製が可能となる。また、シートバックフレームに装着されるパッド部は、ネット部材により直接押圧されることがないので、クッション性を損なわれない。また、表皮部には、外側表皮部の他端と内側表皮部の他端とを封止する封止手段が設けられているので、表皮部によるパッド部の被覆による組み付け作業が容易となる。
【0012】
また、本発明に係るシートバック構造を前部座席に使用すると、シートバックの裏側には、前記開口部がネット部材を底部とする後部座席側に向けた凹部として形成されるので、後部座席側乗員の膝回り空間を拡大させることができる。
【0013】
なお、本明細書において、「シートバックの着座面」とは、着座者の背中が当接するシートバックの表面部分をいう。
【0014】
前記シートバックフレームに係止するための鉤状のトリム部材と、裏当て部材とを、前記ネット部材の端部に両側から縫着する。
【0015】
トリム部材と裏当て部材とで、ネット部材の端部を両側から挟んで縫着するので、係止具としてのトリム部材をネット部材に十分な強度で取り付けることができるので、着座面の位置に設けたネット部材をシートバックフレームに張設することができる。
【0016】
また、直接ネット部材をシートバックフレームに係止する上記シートバック構造にかえて、一端部を前記シートバックフレームに係止される内側表皮部の側面と、前記外側表皮部の一端部とで前記ネット部材の両側を縫着し、前記外側表皮部の他端部と前記内側表皮部の他端部とに、前記外側表皮部の他端と前記内側表皮部の他端とを封止する封止手段を設けて成ることを特徴とする車両シートのシートバック構造とすることができる。
【0017】
このシートバック構造では、トリム部材と、前記内側表皮部の一端部とが縫着されて成る構造とする。
【0018】
また、前記封止手段をファスナー機構とすることができる。パッド部を表皮部で被覆した後に、外側表皮部と内側表皮部とをファスナー機構で封止する。
【0019】
更にまた、前記表皮部の前記外側表皮部の他端と前記内側表皮部の他端とを封止する封止手段を設けて成る前記シートバック構造に代えて、本発明が更に提供するのは、シートバックの着座面の部分にネット部材を使用する車両シートのシートバック構造であって、方形状のシートバックフレームと、該シートバックフレームに装着される、中央の位置に前後に貫通させた開口部を持つ方形状のパッド部と、該パッド部の外側を表皮材で被覆する、方形状の周囲の外側表皮部と、前記着座面となる前記中央の位置に張設されて前記開口部を塞ぐネット部材と、一端部が前記シートバックフレームに係止される表皮部片と、を備え、前記表皮部片の他端部と前記外側表皮部の一端部とで前記ネット部材の両側を縫着し、前記外側表皮部の他端部に、前記シートバックフレームの後部に係止する係止手段を設けて成ることを特徴とする。
【0020】
このように、一端部がシートバックフレームに係止される表皮部片の他端部と外側表皮部の一端部とでネット部材の両側を縫着すると共に、外側表皮部の他端部に、前記シートバックフレームの後部側に係止する係止手段を設け、表皮部をパッド部の全体でなく、パッド部の外側のみを被覆する外側表皮部から成るものとしたので、簡易で組み付けが容易なシートバック構造にできる。
【0021】
また、前記開口部のシートバック後部側を塞ぐように、板状部材の背裏ボードを装着することができる。
【0022】
上記構成のシートバック構造では、シートバックフレームに係止されるトリム部材と前記表皮部片の一端部とが縫着されて成る構造とすることができる。
【0023】
これらシートバック構造の前記シートバックフレームは、上下方向に伸長して両端を前記シートバックフレームに固着される棒状部材を含み、この棒状部材に前記トリム部材が係止されるようにできる。
【0024】
前記ネット部材は、弾力性と着座感に優れた3次元構造のネット部材とすることが好ましい。
【0025】
3次元構造のネット部材(適宜、「3Dネット部材」と略称する)は、例えば、表面と裏面とを熱可塑性樹脂のメッシュ部材とし、これらメッシュ部材の間にパイル層を形成したものを挟んだ構造とする立体編み物である。従来のウレタン製のパッド材に比べて3Dネット部材は、薄型、軽量であり、通気性にも優れ、さらにパッド材と表皮材とを兼ねることができるので、シートバックの軽量化を図ることができる。
【0026】
前記パッド部は、前記シートバックフレームに装着するための係合溝が形成されて成る構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、弾力性と通気性に優れたネット部材を利用して、十分な強度を維持しつつ軽量化と組み付けの容易化とを図ることができる車両シートのシートバック構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明に係る車両シートのシートバック構造の第1実施形態を示す図で、図1(a)は車両シートバックの表皮部の前部側斜視図であり、図1(b)はシートバックの表皮部の後部側斜視図であり、図1(c)はシートバックのパッド部の斜視図であり、図1(d)はシートバックのシートバックフレームの斜視図である。
【図2】図2(a)は図1(a)のA−A断面を示す断面図であり、図2(b)は図2(a)のB部拡大図であり、図2(c)は図2(a)のC部拡大図である。
【図3】図3(a)は図1(a)のA−A断面の第2実施形態を示す断面図であり、図3(b)は図3(a)のB部拡大図であり、図3(c)は図3(a)のC部拡大図である。
【図4】図4(a)は図1(a)のA−A断面の第3実施形態を示す断面図であり、図4(b)は図4(a)のB部拡大図であり、図4(c)は図4(a)のC部拡大図であり、図4(d)は第3実施形態のシートバックの表皮部の後部側斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下添付図面を参照して本発明に係る車両シートのシートバック構造の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明に係る車両シートのシートバック構造は、座席側に左右が突き出た、方形状のシートバックフレーム11(図1(d))と、このシートバックフレーム11に装着される、中央の位置に前後に貫通させた開口部19を持つ方形状のパッド部12(図1(c))と、シートバックフレーム11に装着されたパッド部12を表皮材で被覆する、方形状で周囲を袋体とする表皮部13と、シートバックフレーム11に係止され、着座面となる中央の位置に張設されて開口部19を塞ぐ3Dネット部材15と、を備えて構成される。
【0030】
シートバック10の骨組みであるシートバックフレーム11は、図1(d)に示すように、両端を下に向けたU字形状の上部フレーム11aと、上部フレーム11aの端部に接続され、座席の左右前部側にそれぞれ突出した形状の、右側部フレーム11b及び左側部フレーム11cと、右側部フレーム11b及び左側部フレーム11cのそれぞれ下部に接続される板状の下部フレーム11dとで構成される。
【0031】
シートバックフレーム11の内側は、横桟やスプリング等が装着されていない、フレーム開口部14となっている。表皮部13の着座面の部分にはクッション部材の機能を有する3Dネット部材15が張設されるので(図1(a))、従来のシートバックフレームのように、その内側に横桟、スプリング、パッド材を設ける必要がなく、軽量化、簡素化を図ることができる。
【0032】
上部フレーム11aはパイプ構造であり、上部左右にはヘッドレスト支持部材(図示せず)を挿着するための、一対の筒状の取付部材17a、17bが設けられている。
【0033】
シートバックフレーム11の左右には、上下方向に伸長してその上下端部を水平方向に屈曲された、左右一対となる右側部棒状部材22a、左側部棒状部材22bがそれぞれ固着されている。右側部棒状部材22a及び左側部棒状部材22bの上端は、上部フレーム11aの右端部、左端部にそれぞれ固着され、右側部棒状部材22a及び左側部棒状部材22bの下端は、右側部フレーム11bの下端部、左側部フレーム11cの下端部にそれぞれ固着されている。右側部棒状部材22a、左側部棒状部材22bに、以下で説明する3Dネット部材15が張設される。
【0034】
着座面の位置にある3Dネット部材15が張設される右側部棒状部材22a及び左側部棒状部材22bには、強度のある金属製の棒状部材が使用され、上部フレーム11a、右側部フレーム11b及び左側部フレーム11cに強固に固着される。
【0035】
パッド部12は、図1(c)に示すように、クッション性のあるウレタン材質で形成される方形状の枠体であり、シートバックフレーム4に装着される。
【0036】
パッド部12は、上部横枠となる上部パッド部12aと、上部パッド部12aを左右から、車両シートの前方側に伸長した形状の左右の側枠である、右側部パッド部12b及び左側部パッド部12cと、右側部パッド部12b及び左側部パッド部12cの下方から伸長する下部横枠となる下部パッド部12dとで構成され、中央に角柱状の開口部19を持つ、方形状の枠体として形成されている。
【0037】
上部パッド部12a、右側部パッド部12b、左側部パッド部12c及び下部パッド部12dは、その裏面側にシートバックフレーム11に係合させるための係合溝27が、後述する図2(a)に示すように形成されている。この係合溝27にシートバックフレーム11を挿入するようにして、パッド部12をシートバックフレーム11に装着する。
【0038】
表皮部13は、図1(a)及び図1(b)に示すように、上部表皮部13aと、上部表皮部13aの左右から伸長する、右側部表皮部13b及び左側部表皮部13cと、右側部表皮部13b及び左側部表皮部13cの下方から伸長する下部表皮部13dと(「上部表皮部13a、右側部表皮部13b、左側部表皮部13c及び下部表皮部13d」で「外側表皮部13e」を形成する)、パッド部材の角柱状の開口部19の内側周囲面を覆う、連続した帯状の内側表皮部13fとで構成され、着座面となる中央部に開口部21が位置するように、シートバックフレーム11に装着されたパッド部12全体を包み込むように被覆する。
【0039】
開口部21の座席側(シートバックの着座側)を塞ぐように、3Dネット部材15の両側が、表皮部13を形成する外側表皮部13eと内側表皮部13fとで挟持されるように縫着される(詳細は図2〜図4を参照して後述する)。
【0040】
図1(b)に示すように、3Dネット部材15の裏側には、3Dネット部材15を底部とし、周囲を内側表皮部13fで囲まれた凹部となる開口部21が形成されている。したがって、本発明に係る車両シートのシートバック構造を前部座席に適用すると、開口部21により後部座席の着座者の膝回りの空間が拡大することになる。
【0041】
方形状の開口部21のシートバック後部における、外側表皮部13eと内側表皮部13fとを接合するこれらの端部には、この接合部分を封止する封止手段としてのファスナー31が開口部21の周囲上に設けられている。シートバックフレーム11に装着されたパッド部12を表皮部13の内部に入れ、ファスナー31を噛合せて、外側表皮部13eと内側表皮部13fとを封止することで、表皮部13によりパッド部12全体を包み込むように被覆できる。
【0042】
次に図2を参照して、本発明の車両シートのシートバック構造の第1実施形態の特徴部を説明する。
【0043】
図1(a)のA−A断面図である図2(a)に示すように、左側部パッド部12cは、係合溝27の後方奥の溝27aが、左側部フレーム11cに係合することで、左側部フレーム11cへの装着がなされている。係合溝27の前方の溝27bには、左側部棒状部材22cが係合する。
【0044】
左側部フレーム11cに装着された左側部パッド部12cは、左側部パッド部12cの外側表面を左側部表皮部13cにより被覆され、左側部パッド部12cの開口部19側の内側面が内側表皮部13fに被覆され、ファスナー31を噛合せて左側部表皮部13cと内側表皮部13fとを封止することで左側部パッド部12cの周囲全体が被覆される。
【0045】
右側部パッド部12b、上部パッド部12a及び下部パッド部12dは、上記同様に形成された係合溝(図示せず)が、右側部フレーム11b、上部フレーム11a及び下部フレーム11dに、それぞれ係合することで装着される。
【0046】
右側部フレーム11b、上部フレーム11a及び下部フレーム11dに装着された、右側部パッド部12b、上部パッド部12a及び下部パッド部12dは、左側部パッド部12cと同様、それぞれ右側部表皮部13b、上部表皮部13a及び下部表皮部13dと、内側表皮部13fとをファスナー31により封止することにより、その周囲が被覆される(図示せず)。
【0047】
図2(a)に示すように、左側部表皮部13cの一端部と内側表皮部13fの一端部とで3Dネット部材15の左側部を両側から挟持するように縫着し(図2(c))、左側部表皮部13cの他端部と内側表皮部13fの他端部とには、左側部表皮部13cの他端と内側表皮部13fの他端とを接合するファスナー31を取り付ける。左側部パッド部12cを覆う、左側部表皮部13c及び内側表皮部13fはファスナー31により接合されて封止されると、袋体となって左側部フレーム11cに係合した左側部パッド部12c全体を包み込むように被覆することになる。
【0048】
図示しないが、上記と同様に、右側部表皮部13bの一端部と内側表皮部13fの一端部とで3Dネット部材15の右側部を両側から挟持するように縫着し、右側部表皮部13bの他端部と内側表皮部13fの他端部とには、右側部表皮部13cの他端と内側表皮部13fの他端とを接合するファスナー31を取り付け、上部表皮部13aの一端部と内側表皮部13fの一端部とで3Dネット部材15の上端部を両側から挟持するように縫着し、上部表皮部13aの他端部と内側表皮部13fの他端部とには、上部表皮部13aの他端と内側表皮部13fの他端とを接合するファスナー31を取り付け、下部表皮部13dの一端部と内側表皮部13fの一端部とで3Dネット部材15の下側端部を両側から挟持するように縫着し、下部表皮部13bの他端部と内側表皮部13fの他端部とには、下部表皮部13dの他端と内側表皮部13fの他端とを接合するファスナー31を取り付ける。
【0049】
このようにした表皮部13の内部に、シートバックフレーム11に装着されたパッド部12を入れ、ファスナー31を噛合せて、外側表皮部13eと内側表皮部13fとを封止することで、表皮部13によりパッド部12全体を包み込むように被覆できる。
【0050】
表皮部12を形成する表皮材は、天然繊維、合成繊維、皮革、合成皮革等の材料のものを利用できるが、3Dネット部材15を両側から挟んで縫着したときに、十分な縫着強度を有する材質であることが要求される。
【0051】
3Dネット部材15の構造は、熱可塑性樹脂により形成されたメッシュ部材を表面と裏面としてそれぞれ配置して、その間にパイル層を設けた立体構造の編み物である。従来のウレタンパッド材に較べて3Dネット部材は、薄型、軽量であり、通気性にも優れたもので、パッド材と表皮材とを兼ねることができ、パッド材の量の低減によりシートバックの軽量化を図ることができる。
【0052】
3Dネット部材15の左側端部は、図2(a)及び図2(b)に示すように、樹脂製のトリム部材28と裏当て部材29とで3Dネット部材15の両側を挟持するように縫着されている。3Dネット部材15の右側端部(図示せず))にも上記同様に、3Dネット部材15の右側端部は、トリム部材28と裏当て部材29とで3Dネット部材の両側を挟持するように縫着されている。3Dネット部材の両側をトリム部材28と裏当て部材29とで挟持して縫着する際に、3Dネット部材の端部を一端折り返した状態にしてから挟持して縫着することで、より縫着強度が向上する(図2(b))。
【0053】
トリム部材28は、3Dネット部材をシートバックフレーム11に張設するための部材であり、右側部棒状部材22a(図示せず)及び左側部棒状部材22b(図2(a)及び図2(b))に、引っ掛けて係合する鉤状の構造となっている。トリム部材28を、3Dネット部材15の左右端部にそれぞれすくなくとも2個、左右端部の上下に取付けることで、3Dネット部材を張設することができる。
【0054】
裏当て部材29は、樹脂製の板状片であるが、縫着強度を一定以上にすることができればよく、材料としては天然繊維、合成繊維、合成樹脂等が挙げられる。
【0055】
予め、3Dネット部材15の左右端部にトリム部材28をそれぞれ少なくとも2個ずつを、裏当て部材29と共に縫着しておき、トリム部材28が縫着された3Dネット部材15の周囲(方形状の開口部21の周囲)の両側を、上部表皮部13aの一端部、右側表皮部13bの一端部、左側部表皮部13cの一端部及び下部表皮部13dの一端部と、内側表皮部13fの一端部とで挟持するように縫着する。
【0056】
なお、上部表皮部13aの他端部、右側表皮部13bの他端部、左側表皮部13cの他端部及び下部表皮部13dの他端部と、内側表皮部13fの他端部とに、上部表皮部13aの他端、右側表皮部13bの他端、左側表皮部13cの他端及び下部表皮部13dの他端と、内側表皮部13fの他端外側表皮部13eの他端とを接合するためのファスナー31の取り付けは、3Dネット部材15の縫着の前後の何れでもよく、作業性の良い方を選択する。
【0057】
このようにして製造された3Dネット部材15を縫着した表皮部13により、シートバックフレーム11に装着されたパッド部材12を被覆する。
【0058】
被覆の手順は、ファスナー31による封止前の外側表皮部13eの他端と内側表皮部13の他端との間から、表皮部13の内部にシートバックフレーム11に装着されたパッド部材12を挿入する。
【0059】
次に、3Dネット部材15をシートバックフレーム11に張設するために、3Dネット部材15の左右端部に縫着されたトリム部材28を右側部棒状部材22a及び左側部棒状部材22bに係止させる(図2(b)参照)。
【0060】
3Dネット部材15が、シートバックの着座面となる中央部の位置となっているか確認した後に(必要に応じて位置調整を行う)、ファスナー31を閉じて、外側表皮部13eの他端と内側表皮部13の他端とを封止し、シートバックの組み付けが完了となる。必要に応じてファスナー31を隠すために、ファスナー31の上に当て生地を接着剤により貼着する等の後処理を行ってもよい。
【0061】
本実施形態のシートバック構造によれば、通気性、弾力性に富むネット部材である3Dネット部材を着座面の位置に張設すると共に、十分な強度を有し、かつ軽量化と組み付けの容易化を図った車両シートのシートバック構造を提供することができる。
(第2実施形態)
本発明に係る車両シートのシートバック構造の第2実施形態について、図1及び図3を参照して説明する。
【0062】
第2実施形態のシートバック構造を構成するシートバックフレーム11、パッド部12及び表皮部13の各斜視図は、第1実施形態のシートバックフレーム11、パッド部12及び表皮部13の各斜視図(図1)と共通であり、第2実施形態の特徴部は、図1(a)のA−A断面図である図3に示される。
【0063】
以下に第2実施形態の特徴部を中心に説明する。
【0064】
図3(a)〜図3(c)に示すように、第2実施形態の特徴部は、左側部棒状部材22bに引っ掛けて係止するためのトリム部材28が、第1実施形態では3Dネット部材15の端部に装着されているのに対して、本実施形態では3Dネット部材15を両面から挟持して縫製する左側部表皮部13c及び内側表皮部13fのうちの一方である、内側表皮部13fの端部に縫着されていることである。
【0065】
右側部棒状部材22aに係止するトリム部材28も上記同様、3Dネット部材を両面から挟持して縫製する内側表皮部13fの端部に縫着されている(図示せず)。
【0066】
図3(a)、図3(b)に示すように、内側表皮部13fの折り返して重ねた一端部には、トリム部材28が縫着され、トリム部材28は左側部棒状部材22bに係止されている。左側部棒状部材22bと左右対称の位置にある右側部棒状部材22aにも同様に、内側表皮部13fの折り返して重ねた一端部に縫着されたトリム部材28が係止されている(図示せず)。
【0067】
図3(a)、図3(c)に示すように、トリム部材28を端部に縫着された内側表皮部13fの側面と、左側部表皮部13cの一端部とでネット部材である3Dネット部材15の左側端部の両側を挟持するように縫着し、同じく左右対称の位置にあるトリム部材28を端部に縫着された内側表皮部13fの側面と、右側部表皮部13の一端部とで3Dネット部材15の右側端部の両側を挟持するように縫着している。
【0068】
なお、第1実施形態と同様に、3Dネット部材15の上部端部の両側を、上部表皮部13aの一端部と内側表皮部13fの一端部とで挟持するように縫着し、3Dネット部材15の下部端部の両側を、下部表皮部13dの一端部と内側表皮部の一端部とで挟持するように縫着する。
【0069】
さらに、第1実施形態とどうように、上部表皮部13aの他端部、右側表皮部13bの他端部、左側表皮部13cの他端部、下部表皮部13dの他端部及び内側表皮部13fの他端部に、それぞれ封止手段としてのファスナー31を設ける。
【0070】
本実施形態の特徴は、上記したように内側表皮部13fの左右の一端部にトリム部材28を縫着し、内側表皮部13fの側面に3Dネット部材15を縫着して張設することであり、これより、内側表皮部13fには、着座面に位置する3Dネット部材15に加わる着座者からの荷重に耐え、3Dネット部材15の弾力性を十分に確保できるように張設できることが可能な材料が使用される。
【0071】
内側表皮部13fは、例えば、強度に優れた合成繊維、天然繊維又は合成樹脂製のものが使用される。一方、上部表皮部13a、右側表皮部13b、左側表皮部13c及び下部表皮部13dから成る外側表皮部13eは、3Dネット部材15の加わる着座者からの荷重が直接及ばないことから、シートの表皮部として使用される材料によるものを使用でき、内側表皮部13fのような特に強度に優れた材料のものとする必要はない。
【0072】
このように、本実施形態では、内側表皮部13fの材料を特に強度に優れたものを使用することで、3Dネット部材15の左右端部にトリム部材28を縫着して張設する第1実施形態に代えて、内側表皮部13fの一端部にトリム部材28
を縫着し、内側表皮部13fの側面と、右側表皮部13bの一端部及び左側表皮部13cの一端部とで3Dネット部材15の左右端部の両側を挟持するように縫着し、3Dネット部材15を張設することができる。
(第3実施形態)
本発明に係る車両シートのシートバック構造の第3実施形態について、図1(a)、図1(c)、図1(d)及び図4を参照して説明する。
【0073】
シートバックを構成するシートバックフレーム11、パッド部12及び表皮部13の各前側斜視図は、第1実施形態における同斜視図である、図1(a)、図1(c)及び図1(d)と共通であり、第3実施形態の特徴部は、図1(a)のA−A断面図である図4に示される。また、第1及び第2実施形態と異なり、パッド部12の係合溝27には後方奥の溝27aが設けられておらず、開口部21の後部側が拡大したこと、さらに開口部21に背裏ボートを装着することから、表皮部の後部側斜視図は、図1(b)にかえて図4(d)に示す。
【0074】
以下に第3実施形態の特徴部を中心にして説明する。
【0075】
図4(a)に示すように、第3実施形態の特徴部は、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、表皮部13が外側表皮部13eから成るものとし、一端にトリム部材28を縫着する表皮部片36の他端と外側表皮部13eの一端とで3Dネット部材15の両側を縫着し、外側表皮部13eの他端部にシートバックフレーム11に係止するU字形係止具35を取り付けた構造としたもので、パッド部12の外部側が表皮部13により包み込まれ、パッド部12の開口部19(図1(c))側は露出されたシートバック構造となるものである。
【0076】
表皮部片36は、方形状で中心を開口とする枠体から成り、表皮部片36の左側部及び右側部には、一端部にトリム部材28が、他端部には3Dネット部材15が縫着され、左側部(図4(a)及び右側部を幅広とする方形状の枠体となっている。表皮部片36には、第2実施形態の内側表皮部13f(図3(a))と同様に、3Dネット部材15を縫着して張設することから強度に優れた合成繊維、天然繊維又は合成樹脂製のものが使用される。
【0077】
図4(a)、図4(b)に示すように、表皮部片36の左側部の一端は折り返を設けてトリム部材28と縫着されている。トリム部材28は、表皮部片36が3Dネット部材15の弾力性を維持しつつ張設することから、表皮部片36の左側部及び右側部のそれぞれに少なくとも2個ずつ設ける必要がある。このトリム部材28が、係合溝27の前方の溝27bに係合する左側部棒状部材22b(図4(a))及び右側部棒状部材22a(図示せず)に係止されることで、表皮部片36を介して3Dネット部材15が開口部21の位置に張設される。
【0078】
3Dネット部材15の左端部の両側は、表皮部片36の左側部の他端部と左側部表皮部13cの一端部とで挟持されるように縫着され(図4(a)、(c))、3Dネット部材15の右端部の両側は、表皮部片36の右側部の他端部と右側部表皮部13bの一端部とで挟持されるように縫着される(図示せず)。
【0079】
3Dネット部材15の上端部は、表皮部片36の上側部と上部表皮部13aの一端部とで挟持するように縫着され、3Dネット部材15の下端部は、表皮部片36の下側部と下部表皮部13dの一端部とで挟持するように縫着されている(図示せず)。
【0080】
図4(a)に示すように、左側部表皮部13cの他端部には、左側部フレーム11cに左側部表皮部13cの他端を係止するためのU字形係止具35が設けられている。このU字形係止具35を左側部フレーム11cに引っ掛けて係止することができるように、本実施形態では第1及び第2実施形態と異なり、係合溝27には後方奥の溝27a(図2(a)、図3(a))が設けられていない。U字形係止具35を引っ掛けて係止する左側部フレーム11cの先端部が、係合溝27の開口部21側面と略同一面上になるように係合溝27が形成され、これによりU字形係止具35を左側部フレーム11cの先端に係止することができる(図4(a))。
【0081】
右側部フレーム11bにおいても上記同様、U字形係止具35を引っ掛けて係止する右側部フレーム11bの先端部が、係合溝27の開口部21側面と略同一面上になるように係合溝27が形成され、これによりU字形係止具35を右側部フレーム11bの先端に係止することができる(図示せず)。
【0082】
右側部表皮部13bの他端部、上部表皮部13aの他端部及び下部表皮部13dの他端部にもU字形係止具35が設けられている(図示せず)。
【0083】
このように、トリム部材28を縫着して取付けた表皮部片36と3Dネット部材を両側から縫着し、さらに他端部にU字形係止具35をもうけた外側表皮部13eにより、シートバックフレーム11に装着されたパッド部12の外側を被覆し、トリム部材28を右側部棒状部材22a(図示せず)、左側部棒状部材に係止し(図4(a)(b))、さらにU字形係止具35をシートバックフレームに係止することで、本実施形態のシートバック構造が形成される。
【0084】
なお、本実施形態のシートバック構造では、開口部21の周囲が開放されているので、シートバックフレーム11やトリム部材28を後部席着座者の視界から遮蔽するために、開口部21のシートバック10の後部側周囲に板状部材である背裏ボード33を装着することができる(図4(a)、(d))。
【0085】
本実施形態によれば、通気性、弾力性に富むネット部材である3Dネット部材を着座面の位置に張設すると共に、パッド部12の外側のみを被覆するようにしたので、十分な強度を維持しつつ、組み付けをより簡易とすると共に、さらなる軽量化を図ることができる車両シートのシートバック構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 シートバック
11 シートバックフレーム
11a 上部フレーム
11b 右側部フレーム
11c 左側部フレーム
11d 下部フレーム
12 パッド部
12a 上部パッド部
12b 右側部パッド部
12c 左側部パッド部
12d 下部パッド部
13 表皮部
13a 上部表皮部
13b 右側部表皮部
13c 左側部表皮部
13d 下部表皮部
13e 外側表皮部
13f 内側表皮部
15 3Dネット部材
19 開口部(パッド部)
21 開口部(表皮部)
22a 右側部棒状部材
22b 左側部棒状部材
27(27a、27b) 係合溝
28 トリム部材
31 ファスナー
33 背裏ボード
35 U字形係止部材
36 表皮部片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの着座面の部分にネット部材を使用する車両シートのシートバック構造であって、
方形状のシートバックフレームと、
該シートバックフレームに装着される、中央の位置に前後に貫通させた開口部を持つ方形状のパッド部と、
該パッド部を表皮材で被覆する、方形状で周囲を袋体とする表皮部と、
前記シートバックフレームに係止され、前記着座面となる前記中央の位置に張設されて前記開口部を塞ぐネット部材と、
を備え、
前記表皮部は、前記方形状のパッド部の外側表面を被覆する外側表皮部と、前記開口部の内側周囲面を被覆する内側表皮部とから成り、前記外側表皮部の一端部と前記内側表皮部の一端部とで前記ネット部材の両側を縫着し、前記外側表皮部の他端部と前記内側表皮部の他端部とに、前記外側表皮部の他端と前記内側表皮部の他端とを封止する封止手段を設けて成ることを特徴とする車両シートのシートバック構造。
【請求項2】
前記シートバックフレームに係止するための鉤状のトリム部材と、裏当て部材とを、前記ネット部材の端部に両側から縫着して成ることを特徴とする請求項1に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項3】
シートバックの着座面の部分にネット部材を使用する車両シートのシートバック構造であって、
方形状のシートバックフレームと、
該シートバックフレームに装着される、中央の位置に前後に貫通させた開口部を持つ方形状のパッド部と、
該パッド部を表皮材で被覆する、方形状で周囲を袋体とする表皮部と、
前記着座面となる前記中央の位置に張設されて前記開口部を塞ぐネット部材と、
を備え、
前記表皮部は、前記方形状のパッド部の外側表面を被覆する外側表皮部と、前記開口部の内側周囲面を被覆する内側表皮部とから成り、
一端部を前記シートバックフレームに係止される内側表皮部の側面と、前記外側表皮部の一端部とで前記ネット部材の両側を縫着し、前記外側表皮部の他端部と前記内側表皮部の他端部とに、前記外側表皮部の他端と前記内側表皮部の他端とを封止する封止手段を設けて成ることを特徴とする車両シートのシートバック構造。
【請求項4】
前記シートバックフレームに係止するための鉤状のトリム部材と、前記内側表皮部の一端部又は前記外側表皮部の一端部とが縫着されて成ることを特徴とする請求項3に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項5】
前記封止手段は、ファスナー機構であることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項6】
シートバックの着座面の部分にネット部材を使用する車両シートのシートバック構造であって、
方形状のシートバックフレームと、
該シートバックフレームに装着される、中央の位置に前後に貫通させた開口部を持つ方形状のパッド部と、
該パッド部の外側を表皮材で被覆する、方形状の周囲の外側表皮部と、
前記着座面となる前記中央の位置に張設されて前記開口部を塞ぐネット部材と、
一端部が前記シートバックフレームに係止される表皮部片と、
を備え、
前記表皮部片の他端部と前記外側表皮部の一端部とで前記ネット部材の両側を縫着し、前記外側表皮部の他端部に、前記シートバックフレームの後部に係止する係止手段を設けて成ることを特徴とする車両シートのシートバック構造。
【請求項7】
前記シートバックフレームに係止するための鉤状のトリム部材と、前記表皮部片の一端部とが縫着されて成ることを特徴とする請求項6に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項8】
前記表皮部には、前記開口部のシートバック後部側を塞ぐように、板状部材の背裏ボードが装着されて成ることを特徴とする請求項6又は7に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項9】
前記シートバックフレームは、上下方向に伸長して両端を前記シートバックフレームに固着される棒状部材を含み、前記トリム部材が前記棒状部材に係止されて成ることを特徴とする請求項1ないし8の何れか一項に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項10】
前記ネット部材は、3次元構造のネット部材であることを特徴とする請求項1ないし9の何れか一項に記載の車両シートのシートバック構造。
【請求項11】
前記パッド部は、前記シートバックフレームに装着するための係合溝が形成されて成ることを特徴とする請求項1ないし10の何れか一項に記載の車両シートのシートバック構造。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate