説明

車両感知システム

【課題】背景レベルが真値からずれることに対処する。
【解決手段】道路R上の監視領域Aの温度を検出する検出部2から得られた入力レベルと、道路Rの温度レベルに基づく背景レベルとの差に基づいて車両Vの有無の判定を行う。車両無しの判定がされている間に、入力レベルに基づいて背景レベルの学習処理を実行することができる学習処理部33と、車両無しの判定がされている間に、背景レベルの学習処理を休止させる学習制御部35とを有している。車両無しの前記判定がされ背景レベルの学習処理が休止されている間に得られた入力レベルと、背景レベルとの差が所定値以上であると背景レベルを入力レベルに合わせる処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両感知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通量や車両の占有時間を調べるために、道路における車両の有無を感知する車両感知システムが知られている。特許文献1には、このような車両感知システムが開示されている。
【0003】
特許文献1のシステムは、道路上の監視領域を通過する車両を感知するセンサを備えている。このセンサは、サーモパイル素子を有していて、車両や道路などの検知対象が発する赤外線を感知する。この感知結果は、入力レベルとしてシステムに与えられる。
車両の温度が道路の温度と異なることにより、放射する赤外線の量も車両と道路とで異なる。このため、センサの監視領域を車両が通過すると、その温度に応じて、センサからの入力レベルが変化する。この入力レベルの変化によって監視領域を通過する車両を感知することが可能である。
【0004】
より具体的には、特許文献1では、センサから得られた入力レベルと道路の温度を示す背景レベルとの差に基づく値を比較値とし、この比較値と閾値とを比較して、車両の有無を判定する。
また、特許文献1には、車両の有無の判定結果に応じて、得られた入力レベルを用いて背景レベルを変動させる背景レベル演算手段が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3719438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両の有無の判定結果に応じて背景レベルを変動させる場合、例えば車両有りの場合は背景レベルを学習せず、車両無しの場合は入力レベルに追従するように背景レベルを学習する。背景レベルを一定値ではなく学習によって変化させることで、背景レベルの真値(背景温度)が気温の変化等で変動しても対応することができる。
このような背景レベルの学習に加えて、当該背景レベルが極力、真値からずれないようにきめの細かい対策を施して、さらに車両感知の精度を向上させることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、車両感知システムにおいて、背景レベルが真値からずれることに対処するための新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両感知システムは、道路上の監視領域の温度を検出する検出部から得られた入力レベルと、道路の温度レベルに基づく背景レベルとの差に基づいて車両の有無の判定を行う判定部と、車両無しの判定がされている間に、前記入力レベルに基づいて前記背景レベルの学習処理を実行することができる学習処理部と、車両無しの判定がされている間に、前記背景レベルの学習処理を休止させる学習制御部と、車両無しの前記判定がされ前記背景レベルの学習処理が休止されている間に得られた前記入力レベルと前記背景レベルとの差が所定値以上であると前記背景レベルを前記入力レベルに合わせる処理を実行する背景レベル調整部とを有する。
【0009】
本発明によれば、車両無しの判定がされている間であっても、背景レベルの学習処理を実行させるのが好ましくない場合には、学習制御部によって背景レベルの学習処理を休止させることができる。
しかし、このように車両無しの判定がされ背景レベルの学習処理が休止されている場合において、道路の温度が刻々と変化していると、車両感知システムが認識している背景レベルと実際の道路の温度との間に差が生じてしまう。
そこで、この場合であっても、車両感知システムにおける背景レベルと、検出部から得られた入力レベルとの差が所定値以上であると、背景レベル調整部によって、当該背景レベルは実際の道路の温度(背景レベルの真値)と異なっていると推定され、背景レベルを入力レベルに合わせる処理が実行され、背景レベルを実際の道路の温度に合わせることが可能となる。この結果、車両の感知精度を高めることができる。
【0010】
また、前記背景レベル調整部は、前記入力レベルと前記背景レベルとの差が前記所定値以上である時間が、規定時間以上である場合に、前記背景レベル調整部は、前記背景レベルを前記入力レベルに合わせる処理を実行するのが好ましい。
このように、前記差が所定値以上である時間が、規定時間以上である場合、車両感知システムにおける背景レベルは、実際の道路の温度と異なっている可能性がより高く、背景レベル調整部によって、背景レベルを入力レベルに合わせる処理が実行されることで、背景レベルを実際の道路の温度に合わせることが可能となる。
【0011】
また、前記背景レベル調整部は、車両無しの前記判定がされた後の車両有りの判定から、車両無しの判定へと切り替わると、前記背景レベルを、当該切り替わった際の入力レベルに合わせる処理を実行するのが好ましい。
この場合、背景レベルを合わせる対象となる入力レベルは、車両無しの判定へと切り替わった際のものであるため、当該入力レベルに合わされた背景レベルは、道路の温度に基づくものであると考えられ、正確な背景レベルを得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両無しの判定がされ背景レベルの学習処理が休止されている場合において、道路の温度が変化していると、車両感知システムが認識している背景レベルと実際の道路の温度との間に差が生じてしまうが、背景レベル調整部によって、背景レベルを実際の道路の温度に合わせることが可能となり、車両の感知精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[車両感知システムの全体構成]
図1及び図2は車両感知システム1を示している。この車両感知システム1は、道路上の所定領域が監視領域Aとされ、当該監視領域A内に車両Vが存在する場合に、当該車両Vを感知する。
【0014】
この車両感知システム1は、車両Vを検出するため監視領域Aの温度を検出する検出部2を備えている。検出部2によって得られた入力レベル(監視領域Aの平均温度に相当する入力電圧値)は、感知処理部3に与えられる。感知処理部3では、監視領域A内の車両Vの有無を判定し、車両有り(感知ON)又は車両無し(感知OFF)の信号を感知結果として出力する。
【0015】
感知結果は、交通信号制御機や交通管制センターに送信される。なお、交通信号制御機は、車両感知システム1の近傍に設置される。交通管制センター等では、複数の車両感知システムからの感知結果を集計して、交通量や車両の占有時間を算出し、渋滞判定や車両平均速度算出などが行われる。
【0016】
前記検出部2は、車両や道路が発する赤外線を感知することで、監視領域Aの温度を検出するサーモパイル素子によって構成されている。この検出部2は、図1に示すように、監視領域Aを道路R上に設定するため、道路脇の支柱4に取り付けられている。
検出部2は、感知処理部3と接続されており、検出部2によって得られた入力レベルは感知処理部3に送信される。
感知処理部3は、前記支柱4に取り付けられた筐体5内に配置されている。なお、感知処理部3を検出部2と同一の筐体内に収める構成としてもよく、検出部2や感知処理部3の配置は図に示す構成に特に限定されるものではない。
【0017】
[感知処理部3および車両Vの有無の判定]
感知処理部3は、CPUや記憶部などを有するコンピュータを含むハードウェア等によって構成されていて、記憶部に記憶されているコンピュータプログラムが実行されることで、車両感知のための各種処理を行う。
【0018】
感知処理部3が監視領域Aにおける車両Vの有無を判定(感知判定)するための基本原理としては、感知処理部3は、車両Vが存在しないときの道路Rの温度を背景レベルとして記憶し、検出部2から得られた入力レベルと、前記背景レベルとに差があれば車両有り(感知ON)と判定し、入力レベルと背景レベルに差がなければ車両無し(感知OFF)と判定する。
【0019】
本実施形態では、単純に入力レベルと背景レベルとを比較して感知判定するのではなく、より正確に感知判定を行うため、感知処理部3は、入力レベルと背景レベルとの差に基づく値を比較値として算出し、その比較値を閾値(感知判定用の閾値)と比較することで、感知結果(感知ON/感知OFF)を求める。
【0020】
このために、感知処理部3は、入力レベルと背景レベルとの差に基づく値を比較値として算出する比較値算出部31としての機能を備えている(図3(a)参照)。さらに、感知処理部3は、比較値と車両判定用の閾値とを比較して、車両の有無を判定する判定部32としての機能を有している(図3(b)参照)。
【0021】
前記比較値算出部31は、入力レベルと背景レベルとの差分を示す値(比較値)として、入力レベルと背景レベルの差の微積和を算出する。この微積和は、入力レベルと背景レベルの単純差から、ノイズの影響を低減し、当該単純差の変化分を強調することで閾値との比較をし易くしたものである。
【0022】
図3(a)に示すように、比較値演算部31では、微積和を求めるため、まず、入力レベルと背景レベルとの差分を差分演算部31aによって求める。さらに、その差分の絶対値の積分値を積分演算部31bによって求める。
この積分値は、前記差分の時間平均値に相当し、差分からノイズの影響を低減したものを得ることができる。また、差分の絶対値の微分値を求める演算が微分演算部31cによって行われる。微分値は、前記差分の変化分を示すものである。
【0023】
前記積分値と前記微分値とは加算部31dによって加算され、この加算値が微積和(比較値)となる。微積和は、ノイズが低減された積分値に変化分を示す微分値が加えられたものであるから、ノイズの影響が低減され、変化分を強調したものとなっている。
【0024】
前記判定部32では、この微積和を用いて判定を行うため、より正確に感知判定を行うことができる。ただし、比較値としては、入力レベルと背景レベルとの差に基づくものであれば、前記微積和に限定されるものではない。なお、比較値算出部31からは、前記積分値も出力される。この積分値も、入力レベルと背景レベルの差に基づく値であり、後述の閾値学習の際に用いられる。
【0025】
図3(b)に示すように、判定部32は、比較値算出部31によって算出された比較値(微積和)を用いて、感知結果(感知ON/感知OFF)を出力する感知判定を行う。
ここでの感知判定の基本原理は、比較値が車両判定用の閾値よりも大きければ(比較値>車両判定用の閾値)、感知ON(車両有り)と判定し、比較値が車両判定用の閾値よりも小さければ(比較値<車両判定用の閾値)、感知OFF(車両無し)と判定する。
【0026】
ただし、本実施形態では、感知ONから感知OFFに切り替わった直後や感知OFFから感知ONに切り替わった直後における感知結果のチャタリングを防止するため、感知判定用の閾値として「閾値Lo」(第一車両判定用閾値)と「閾値Hi」(第二車両判定用閾値)の2つが導入されている。
【0027】
閾値Loは、車両有りの判定(感知ON)がされている間において、車両無し(感知OFF)の判定するために用いられるものであり、閾値Hiは、車両無しの判定(感知OFF)がされている間において、車両有り(感知ON)の判定をするために用いられるものである。閾値Loは、閾値Hiよりも所定値ほど減じた値に設定されていて、これにより感知ON/OFF切り替わり時のチャタリングが防止される。
【0028】
図4に示すように、感知処理部3は、さらに、背景レベルを学習する背景レベル学習処理部33としての機能を有している。また、感知処理部3は、車両判定用の閾値(閾値Lo及び閾値Hi)を学習するための閾値学習処理部34としての機能を有しているのが好ましい。
また、感知処理部34は、背景レベル学習処理部33と閾値学習処理部34との内の一方または双方の学習処理を制御するための学習制御部35としての機能も有している。
さらに、感知処理部34は、車両感知システム1が認識している背景レベルと、実際の道路の温度を示す背景レベルの真値との差を解消するための背景レベル調整部40としての機能も有している。
【0029】
[背景レベル学習処理部33及び学習制御部35]
背景レベル(道路の路面温度)は、太陽光によって道路が日向になったり日陰になったりするなど環境によって大きく変動するため、一定値を背景レベルとして採用すると真値(実際の道路の温度)とのずれが発生する。そこで、背景レベルを、図5(a)のように学習することが考えられる(第一の背景レベル学習)。
【0030】
この学習方法では、車両Vが監視領域Aに存在しない感知OFF時には、入力レベルは道路Rの温度を示しているはずであるから、背景レベル学習処理部33は、入力レベルに追従するように背景レベルの学習を行う。
また、この学習方法では、車両Vが監視領域Aに存在する感知ON時には、入力レベルは主に車両Vの温度を示しているはずであるから、背景レベル学習処理部33は、背景レベルの学習を行わず、感知OFFから感知ONに切り替わったときの背景レベルを保持する。
【0031】
このように、第一の背景レベル学習では、感知結果(感知ON/感知OFF)だけに基づいて、学習の有無が切り替えられる。この学習の有無の切り替えは、学習制御部35によって行われる。学習制御部35は、感知結果だけを取得すれば、背景レベル学習処理部33における学習の有無の切り替え制御を行うことができる。
【0032】
図5(b)に示す第二の背景レベル学習を説明する。この学習方法では、感知OFF時であっても、学習しない場合が設定されている。この第二の背景レベル学習では、学習の実行/休止、の切り替え条件として、感知結果以外のものも導入されている。
【0033】
具体的には、学習実行/休止、の切り替え条件として、微積和(比較値)を導入している。感知OFFになると直ちに(無条件で)背景レベル学習を行うのではなく、微積和(比較値)が十分に小さくなってから背景レベル学習を行う。この切り替えは、学習制御部35によって行われる。
具体的に説明すると、背景レベル学習用の閾値(以下、「保持Lo」という)を導入し、微積和(比較値)が保持Loよりも大きければ、感知OFFであっても学習せず、感知OFF時において微積和(比較値)が保持Loよりも小さければ、背景レベルの学習を行う。
【0034】
保持Loとしては、例えば、感知ONになる度に、感知ONになったときの微積和の値が設定される。具体的には、図7(b)に示しているように、感知結果が感知OFFから感知ONになると、感知ONになったときの閾値Loが、保持Loとしてセットされる(記憶される)。セットされた保持Loが、感知OFF時における微積和との比較に用いられる。なお、保持Loは、微積和が当該保持Loを上回っている間は値が保たれ、微積和が当該保持Loを下回るとリセットされる。
【0035】
このように、車両無しの判定がされている間であっても、微積和(比較値)が比較的大きく(微積和(比較値)が保持Loよりも大きく)監視領域Aに車両Vが存在する可能性がある場合は、学習処理が休止される。したがって、誤って車両無しの判定がされているが、実際では監視領域Aに車両Vが存在している場合において、背景レベルの学習を休止することができるため、前記車両Vの温度に基づいて背景レベルが学習されることがなく、背景レベルが真値からずれることを抑制できる。
【0036】
また、前記第一または第二の背景レベル学習において、車両無しの判定がされている間であっても、学習制御部35によって、背景レベルの学習処理を休止させる場合として、長時間(例えば5秒以上)監視領域Aに車両Vが存在した後、当該車両Vが監視領域Aを脱した場合がある。すなわち、監視領域Aに停止していた車両Vの影響で、道路の温度が一時的に平常の値から逸脱するが、直ぐに平常の温度へと戻る場合である。
【0037】
この場合において、車両Vが監視領域Aを脱すると車両無しの判定がされ、直ぐに、背景レベル学習処理部33が入力レベルに追従するようにして背景レベルの学習処理を開始したとしても、この入力レベルは一時的に平常の値から逸脱した道路の温度に基づくものであり、かつ、その後直ぐに道路は平常の温度へと戻るため前記学習処理は無駄となるおそれがある。したがって、監視領域Aに車両Vが長時間存在した後、車両無しの判定がされて直ぐ(所定時間)は、背景レベルの学習処理を休止させるのが好ましい場合がある。
【0038】
以上のように、本発明の学習制御部35は、車両無しの判定がされている間であっても、背景レベルの学習処理を実行させるのが好ましくない場合には、背景レベルの学習処理を休止することができる。
【0039】
[閾値レベル学習処理部34及び学習制御部35]
本実施形態では、前述のように、背景レベルだけでなく、前記車両判定用の閾値(閾値Lo及び閾値Hi)の学習(調整)も行うのが好ましい。
実際、感知OFF時(車両無しの場合)であっても、外乱などの要因によって、入力レベルと背景レベルの差(比較値)が0になるとは限らず、時間によって変動する。そこでより正確に感知ONを判定するため、図6および図7(b)に示すように、感知OFF時において、閾値学習部34(図4参照)は、閾値Hiに関して、比較値(微積和)に一定値を加えたものを目標に学習を行う。
【0040】
閾値Loについては、前記閾値Hiから一定値を減じた値にする。なお、図7(b)において、閾値を、閾値Hiと閾値Loとを区別せずに1本の線で示しており、図10においても同様である。この結果、感知OFF時において、閾値Hiと閾値Loとは、前記一定値分の間隔を保ちつつ、比較値(微積和)よりも少し高い値で、比較値の変化に追従することになる。
【0041】
また、感知ON時(車両存在時)においては、感知OFFから感知ONに切り替わったときの閾値を保持することが考えられる。
しかし、感知ON中に閾値を保持するだけでは、次のような問題に対処できないため、閾値学習部34は、感知ON中に、閾値の学習(調整)を行う。
すなわち、信号待ちなどで車両Vが長時間、監視領域Aに停車した場合、車両通過前後で路面温度に差が生じることがある。つまり、路面温度は車両Vの長時間停車の影響を受けて変化するため、図7(a)に示しているように、感知OFFから感知ONになる直前(車両Vが監視領域Aに進入する直前:時刻t0)の路面温度と、感知ONから感知OFFになった直後(車両Vが監視領域Aを通過した直後:時刻t1)の路面温度とに差が生じ、車両感知システム1が認識している背景レベルと、真値とに差が生じる。
【0042】
このような場合であっても、背景レベル学習処理部33は、感知ON中においては背景レベル学習が行えないため、感知OFFから感知ONになったとき(時刻t0)の背景レベルを保持する。この結果、車両Vが監視領域Aから抜け出して、感知ONから感知OFFになったとき(時刻t1)には、背景レベルの値が、真値(監視領域Aに停止した車両Vによって影響を受けて変化した路面温度)からずれることになる。
【0043】
このように、感知ONとなっている間(車両Vが監視領域Aに存在する間)においては、時間の経過とともに、背景レベルが真値から徐々に乖離して行く。この背景レベルと真値との乖離は、入力レベルと背景レベルとの差を示す比較値(微積和)に影響を与える。
つまり、感知ON中は時間の経過とともに、比較値が当該乖離分ほど大きくなる。
したがって、背景レベルの真値との乖離の発生を考慮すると、感知ON中は、感知OFFの判定するための「感度」を、時間の経過によって高くして、比較値の低下度合いが小さくでも感知OFFの判定ができるようにする必要がある。
【0044】
そこで、感知ON時において、図6に示すように、前記積分値(入力レベルと背景レベルの差に基づく値)の90%を目標に、徐々に閾値Hiを増加させる学習を行い、閾値Loについては、前記閾値Hiから一定値を減じた値にする。ここでは、この学習を、「通常学習」とよぶ。
この通常学習は、閾値を積分値の90%にすること自体が目的ではなく、前記積分値に含まれる背景レベルの乖離分を閾値に反映させるとともに、前記乖離分が徐々に大きくなるのに応じて閾値を徐々に大きくするためのものである。したがって、この通常学習においては、閾値の増加度合いは比較的緩やかである。
【0045】
さらに、本実施形態では、閾値学習部34は、感知ON時において、閾値の通常学習だけでなく、閾値の急増処理も行う。
この急増処理は、図6に示すように、感知ONになってから、所定時間(200msec)経過したことを契機として実行される処理であり、通常学習処理の緩やかな増加度よりも大きい増加度で閾値を大幅に増加させる。
【0046】
この急増処理は、路面に積雪がある場合や降雨の場合であっても、感知ON時間が、実際に車両が監視領域Aに存在する時間よりも長くなるのを防止するための処理である。
つまり、路面に積雪がある場合や降雨の場合には、車両が監視領域Aに存在する状態から車両が通過した車両無しの状態になっても、検出部2から得られる入力レベルは、なだらかに低下し、背景レベルまでなかなか戻らない現象が生じる。
【0047】
このような現象が生じる理由は不明であるが、当該現象が生じると、入力レベルと背景レベルの差を示す比較値(微積和)は、実際には車両が通過した後も、比較的大きな値となる。つまり、実際には車両が存在しなくても、入力レベルが高くなるため、比較値(微積和)は、車両が存在するかのような値を示す。
この結果、比較値(微積和)が閾値を下回るのが、実際に車両が通過した時点よりも遅れた時点となる。このため、感知ON時間が、本来、感知ONとなるべき時間よりも長くなる。
【0048】
そこで、図7(b)に示しているように、感知ONになってから所定時間(200msec)が経過するまでは、閾値学習部34は通常学習モードにあって通常学習処理によって閾値を増加させるものの、所定時間(200msec)が経過すると、これを契機として、閾値学習処理部34は閾値Loを大きく増加させる急増モードに移行し、閾値の急増処理を行う
【0049】
この急増処理の結果、比較値(微積和)が最大値から多少減少すると直ぐに、比較値が閾値Loを下回るようになり、感知ON時間が短縮される。これにより、感知ON時間が、長くなりすぎることを防ぐことができる。
そして、急増処理によって閾値Loを急増させた後、感知ONが続く限り、閾値を急増後の値に保持する。急増処理後は、再び、通常学習処理を行ってもよいが、急増処理によって閾値Loが大きくなっているため、急増処理後は通常学習処理を行う必要性は低い。
【0050】
[背景レベル調整部40]
前記のとおり、学習制御部35によれば、感知OFFの間であっても、背景レベルの学習処理を行うのが好ましくない場合には、背景レベル学習処理部33による背景レベルの学習処理を休止させることができる。
しかし、このように感知OFFの判定がされ背景レベルの学習処理が休止されている場合において、実際に車両が存在しておらず、かつ、太陽光などによって道路の温度が刻々と変化していると、車両感知システム1が認識している背景レベルと、背景レベルの真値(実際の道路の温度)とに差が生じてしまう場合がある。この場合、後の車両感知において、誤判定が生じるおそれがある。
【0051】
そこで、感知処理部3は、前記差を解消するための背景レベル調整部40としての機能を有している(図4参照)。すなわち、背景レベル調整部40は、感知OFFの判定がされ背景レベルの学習処理が休止されている間に検出部2から得られた入力レベルと、感知処理部3が認識している背景レベルとの差を求め、かつ、予め記憶している所定値とこの差の値とを比較する演算部41と、前記差の値が前記所定値以上であり、当該差の値が異常であるとの疑いを判定した場合に、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を実行するずれ解消部42とを有している。
【0052】
この背景レベル調整部40の機能を説明する。
前記のとおり、背景レベル学習処理部33は、感知ONの場合には背景レベルの学習を行わず、しかも、感知OFFになっても微積和が保持Loよりも大きい場合には背景レベルの学習を行わない(図5(b)参照)。
このため、従来例を示している図10(a)のように、監視領域Aを車両Vが通過した前後(時刻t0、t1)において、背景レベルの真値(路面の温度)が変化することにより、感知処理部3が認識している背景レベルが、この真値からずれる。
【0053】
そして、感知ONから感知OFFになったときに(図10(a)の時刻t1)、背景レベルが真値からずれていると、入力レベルが背景レベルの真値まで下がっていたとしても、入力レベルと、感知処理部3が認識している背景レベルとに差が生じてしまい、図10(b)に示すように、当該差を示す微積和(比較値)が比較的大きくなってしまう。この結果、車両Vが監視領域Aを通過し終えても微積和が保持Loを上回る状態が続く。このため、背景レベル学習処理部33は、車両Vが監視領域Aに存在していない場合であっても、背景レベルを学習することができず、背景レベルのずれを解消することができない。
【0054】
このような状態となっていても、その後の車両通過時の入力レベルの変化が十分に大きければ(時刻t2)、図10(c)に示すように、正常に感知判定を行うことができる。
しかし、例えば雨天時などのように路面と車両Vとの温度差が小さくなるような環境にあり、入力レベルの変化量が小さい車両Vが監視領域Aを通過した場合には(時刻t4)、微積和が閾値を超えることができず(図10(b)参照)、感知ONとなるべきときに感知ONとならない「感知抜け」が発生する(図10(c)参照)。または、感知抜けが発生しなくても、背景レベルを誤認識した状態が継続するのは好ましくない。
【0055】
そこで、本発明では、感知OFFの判定がされ背景レベルの学習処理が休止されている間に検出部2から得られた入力レベルと、その際にシステムが認識している背景レベルとの差が所定値以上であると、背景レベル調整部40は、認識している背景レベルは真値と異なっていると推定し、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を実行することで、背景レベルのずれを解消し、車両感知の精度を確保する。
【0056】
具体的に説明すると、図8において、判定部32による判定が感知OFFの状態となり(ステップS11)、学習制御部35によって背景レベルの学習処理が休止されている状態であると(ステップS12)、背景レベル調整部40の演算部41(図4参照)は、その間に得られる入力レベルと、システム(感知処理部3)が認識している背景レベルとの差を求める(ステップS13)。なお、この差は入力レベルのサンプリング毎に求める。
【0057】
演算部41は、ステップS13で求めた差の値に応じて図9に示している処理を実行する(ステップS14)。
すなわち、求めた前記差εが、第一閾値σ1(前記所定値)よりも大きい場合(ε>σ1)、つまり比較的大きくずれている場合、その差εが生じている時間(秒数)をカウントする。求めた差εが、第一閾値σ1以下、第二閾値σ2以上である場合(σ1≧ε≧σ2)、つまり比較的小さくずれている場合、それまでにカウントした時間を保持する。求めた差εが、第二閾値σ2未満である場合(ε<σ2)、つまりずれは小さい乃至ずれていない場合、カウントを初期化(0秒)する。
そして、このカウント(計上)した合計時間を調整値として演算部41は保持する。つまり、前記調整値は、入力レベルと背景レベルとに差が生じている時間に関する「ずれ時間」である。このずれ時間は、入力レベルと背景レベルとの差εが、第一閾値σ1(前記所定値)以上である時間を意味している。
【0058】
図9に示した処理は、次に判定部32による判定が感知ONとなるまで継続される。そして感知ONとなると(ステップS15でYesの判定)、演算部41は、前記ずれ時間と、この演算部41が予め記憶している規定時間とを比較し、ずれ時間が規定時間以上である場合に(ステップS16でYesの判定)、ずれ解消部42(図4参照)は、システムにおける背景レベルを、検出部2から得られた入力レベルに合わせる処理を実行する(ステップS18)。
【0059】
一方、演算部41による比較演算の結果、ずれ時間が規定時間未満である場合には(ステップS16でのNoの判定)、ずれ解消部42は、システムにおける背景レベルを入力レベルに合わせる処理を実行せず、背景レベルをそのまま維持する(ステップS19)。
【0060】
ステップS14からS16では、前記差εの大きさおよびずれ時間に基づいて、背景レベルが真値とずれていることの疑いを予測している。そして、ずれ時間が規定時間以上である場合(ステップS16でのYesの判定)、システムにおける背景レベルが真値と異なっている可能性が高いと予測され、ずれ解消部42が、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を実行することによって、背景レベルを真値に合わせることが可能となる。
【0061】
なお、このステップS18に進む前に、本実施形態では、ずれ解消部42は、判定部32による感知ON/感知OFFの判定結果の情報を得ることができ、ずれ解消部42は、ステップS11で感知OFFの判定がされた後の感知ONの判定(ステップS15でのYesの判定)から、感知OFFの判定へと切り替わるタイミング(ステップS17でのYesの判定)を計っている。そして、ステップS17でのYesの判定がされると、そのタイミングで、システムにおける背景レベルを、感知OFFの判定へと切り替わった際の(切り替わった時点での)入力レベルに合わせる処理を実行する。
つまり、このステップS17では、演算部41により背景レベルが真値とずれていることを疑っていても、ずれ解消部42は、次に感知OFFに切り替わるまで、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を待っている状態にある(ステップS17でのNoの判定)。
【0062】
このように、ステップS17を介してステップS18に進む理由は、次に感知OFFに切り替わった際(ステップS17でのYesの判定の際)の入力レベルは、車両Vが監視領域Aから脱することによって得られた値であって、その入力レベルは道路の温度を示していると考えられることから、この入力レベルに合わされた背景レベルは、道路の温度に基づくものであり、正確な背景レベルを得ることが可能となるためである。
【0063】
背景レベル調整部40による前記処理の具体例を、図7によって説明する。
時刻t0で感知ONとなり背景レベルの学習はされておらず、さらに、時刻t1で感知OFFとなり(図8のステップS11)、背景レベルの学習処理が休止されている状態で(ステップS12)、背景レベル調整部40の演算部41は、時刻t1以降で検出部2から得られる入力レベルと、システム(感知処理部3)が認識している背景レベルとの差を求める。この差を求める処理は時刻t2で感知ONとなるまで継続され、時刻t1から時刻t2までに生じている前記「ずれ時間」を求める(ステップS13、ステップS14およびステップs15)。
【0064】
そして感知ONとなると(ステップS15でのYesの判定)、演算部41によって、ずれ時間が規定時間以上であると判定され(ステップS16でのYesの判定)、さらに、感知ONの状態から時刻t3で感知OFFへと切り替わると(ステップS17でのYesの判定)、背景レベル調整部40のずれ解消部42は、システムにおける背景レベルを、当該切り替わった際の入力レベルに合わせる処理(ずれ修正)を実行する(ステップS18)。これにより、真値に対する背景レベルのずれを解消することができる。
【0065】
また、このステップS18でのずれ修正の処理では、感知OFFに切り替わった時点の入力レベルを(時刻t3の入力レベルを)、システムにおける背景レベルに代入することによって、背景レベルを入力レベルに合わせることができる。この場合、迅速に背景レベルのずれを解消することができる。
または、他の方法として、時刻t3以降に、システムの背景レベルを、時刻t3で感知OFFに切り替わった後の入力レベルに追従するように学習させて合わせてもよい。
【0066】
このように、背景レベルのずれを解消することで、図7(b)に示しているように、時刻t3よりも後に求められる微積和は小さく(正しく)なり、時刻t4において、入力レベルの変化量が比較的小さい車両が監視領域Aを通過した場合であっても、微積和が閾値を超えて感知ONとなることができ(時刻t4)、従来(図10の時刻t4)のような感知抜けを防止することができる。また、本発明によれば、その後に求められる微積和は保持Loよりも小さくなることから、背景レベル学習処理部33は、感知OFFの状態で背景レベルの学習が可能となる。
【0067】
以上のように構成された車両感知システムによれば、監視領域Aを車両Vが通過した前後において、背景レベルの真値が変化することにより、システムが認識している背景レベルがこの真値からずれるようなことが発生したとしても、このずれを解消することができ、その後の車両感知の判定精度を高く維持することができる。
これにより、前記交通信号制御機や交通管制センター(図2参照)は、道路における交通量や占有時間に関する情報を正常に把握することができ、このような情報を利用して効果的に交通信号機を制御することが可能となる。
【0068】
また、本発明の車両感知システムに関して、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、判定部32による判定方法は他の方法であってもよい。前記閾値として閾値Hiと閾値Loの二種類を設けずに、一つにまとめてもよい。また、背景レベル学習処理部33による学習方法は、図5に示した以外の方法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】道路に設置された車両感知システムを示す斜視図である。
【図2】車両感知システムのブロック図である。
【図3】感知処理部の一部の機能を示すブロック図であり、(a)は比較値算出部を示し、(b)は判定部を示す。
【図4】感知処理部の機能を示すブロック図である。
【図5】感知処理部によって実行される背景レベル学習方法を示す表である。
【図6】感知処理部によって実行される閾値学習方法を示す表である。
【図7】背景レベルの真値からのずれを修正する場合の説明図であり、(a)は入力レベルと背景レベルとの関係を示し、(b)は微積和と閾値との関係を示し、(c)は感知結果を示す。
【図8】感知処理部によって実行されるずれ修正を説明する図である。
【図9】背景レベル調整部の機能を説明する図である。
【図10】従来例の説明図であり、(a)は入力レベルと背景レベルとの関係を示し、(b)は微積和と閾値との関係を示し、(c)は感知結果を示す。
【符号の説明】
【0070】
1 車両感知システム
2 検出部
3 感知処理部
33 背景レベル学習処理部(学習処理部)
35 学習制御部
40 背景レベル調整部
A 監視領域
R 道路
V 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の監視領域の温度を検出する検出部から得られた入力レベルと、道路の温度レベルに基づく背景レベルとの差に基づいて車両の有無の判定を行う判定部と、
車両無しの判定がされている間に、前記入力レベルに基づいて前記背景レベルの学習処理を実行することができる学習処理部と、
車両無しの判定がされている間に、前記背景レベルの学習処理を休止させる学習制御部と、
車両無しの前記判定がされ前記背景レベルの学習処理が休止されている間に得られた前記入力レベルと前記背景レベルとの差が所定値以上であると前記背景レベルを前記入力レベルに合わせる処理を実行する背景レベル調整部と、
を有することを特徴とする車両感知システム。
【請求項2】
前記背景レベル調整部は、前記入力レベルと前記背景レベルとの差が前記所定値以上である時間が、規定時間以上である場合に、前記背景レベル調整部は、前記背景レベルを前記入力レベルに合わせる処理を実行する請求項1に記載の車両感知システム。
【請求項3】
前記背景レベル調整部は、車両無しの前記判定がされた後の車両有りの判定から、車両無しの判定へと切り替わると、前記背景レベルを、当該切り替わった際の入力レベルに合わせる処理を実行する請求項1または2に記載の車両感知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−97247(P2010−97247A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265036(P2008−265036)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】