説明

車両接近通報装置およびプログラム

【課題】喧噪な場所であっても環境音に埋もれず、しかも閑静な場所では不必要に大音量の騒音源とならない通報音を発生する車両接近通報装置を実現する。
【解決手段】DSP13は、車両の走行を検知すると、集音マイク10によって集音された環境音(周囲の音)をサンプリングしてオクターブ分析を施し、各周波数帯域(中心周波数f1〜f8の各オクターブバンド)毎の音圧を検出する。その結果に基づき最も音圧の大きい周波数帯域と最も音圧の小さい周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別する。聴感上の差異が有れば、最も音圧の小さい周波数帯域を周波数成分とした音であって、両帯域の音圧差分値に相当する音圧の通報音を発生し、一方、聴感上の差異が無ければ、最も音圧の小さい周波数帯域を周波数成分とした音であって、最小可聴値に相当する音圧の通報音を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者に車両の接近を知らしめる通報音を発生する車両接近通報装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
低速走行時にエンジンを用いずにモータ走行するEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)は、走行音が静か過ぎる為、車両の接近に歩行者が気付き難く、安全面からの対策が望まれている。この為、近年では、車両の接近を歩行者に通報する装置が各種開発されており、例えば特許文献1には、走行方向前方に歩行者の存在を検知した場合に、その歩行者の後方から車両が接近していることを報知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−209424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示の技術のように、単に歩行者に向けて報知音を放音するだけでは、例えば住宅街のような閑静な場所では騒音源に成りかねず、一方、繁華街のような騒がしい場所では環境音(周囲の音)に報知音が埋もれて歩行者に認知させることが難しいという問題がある。つまり、言い換えれば、喧噪な場所であっても環境音に埋もれず、しかも閑静な場所では不必要に大音量の騒音源とならない通報音を発生することが叶わない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、喧噪な場所であっても環境音に埋もれず、しかも閑静な場所では不必要に大音量の騒音源とならない通報音を発生することができる車両接近通報装置およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両の周囲の音を環境音として取得する取得手段と、前記取得手段により取得された環境音を複数の周波数帯域に区分けし、区分けされた各周波数帯域毎の音圧を検出する音圧検出手段と、前記音圧検出手段により検出された各周波数帯域毎の音圧の内、最も音圧の大きい第1の周波数帯域と最も音圧の小さい第2の周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別する判別手段と、前記判別手段により聴感上の差異が有ると判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、第1の周波数帯域の音圧と第2の周波数帯域の音圧との差分値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力し、一方、前記判別手段により聴感上の差異が無いと判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、最小可聴値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力する通報音出力手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
上記請求項1に従属する請求項2に記載の発明では、前記取得手段は、車両が走行しているか否かを検知する検知手段を有し、当該検知手段によって車両の走行が検知された場合に、車両の周囲の音を環境音として取得することを特徴とする。
【0008】
上記請求項1に従属する請求項3に記載の発明では、前記判別手段は、前記通報音出力手段から通報音が出力中か否かを判別する出力判別手段と、前記出力判別手段により通報音の出力中と判別された場合に、前記音圧検出手段により検出された各周波数帯域毎の音圧の内、通報音を含む周波数帯域の音圧から前記通報音出力手段が生成した通報音の音圧を減算して環境音から通報音の音圧分を相殺する相殺手段とを備え、前記相殺手段により通報音の音圧分が相殺された環境音の各周波数帯域毎の音圧の内、最も音圧の大きい第1の周波数帯域と最も音圧の小さい第2の周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明では、コンピュータに、車両の周囲の音を環境音として取得する取得ステップと、前記取得ステップにより取得された環境音を複数の周波数帯域に区分けし、区分けされた各周波数帯域毎の音圧を検出する音圧検出ステップと、前記音圧検出ステップにて検出された各周波数帯域毎の音圧の内、最も音圧の大きい第1の周波数帯域と最も音圧の小さい第2の周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別する判別ステップと、前記判別ステップにより聴感上の差異が有ると判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、第1の周波数帯域の音圧と第2の周波数帯域の音圧との差分値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力し、一方、前記判別ステップにより聴感上の差異が無いと判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、最小可聴値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力する通報音出力ステップとを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、喧噪な場所であっても環境音に埋もれず、しかも閑静な場所では不必要に大音量の騒音源とならない通報音を発生することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の一形態による車両接近通報装置100の全体構成を示すブロック図である。
【図2】メインルーチンの動作を示すフローチャートである。
【図3】入力波形分析処理の動作を示すフローチャートである。
【図4】オクターブバンド中心周波数の一例を示す図である。
【図5】出力波形生成処理の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
A.構成
図1は、本発明の実施の一形態による車両接近通報装置100の構成を示すブロック図である。車両に搭載される車両接近通報装置100は、集音マイク10、増幅器11、A/D変換器12、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)13、入力ポート14、ROM15、RAM16、D/A変換器17、増幅器18およびスピーカ19から構成される。
【0013】
集音マイク10は、無指向性を有し、例えば車両のルーフ部分(屋根)等に設置されて車両の周囲の音(以下、環境音と称す)を集音する。増幅器11は、集音マイク10から出力される環境音信号を所定レベルに増幅して次段のA/D変換器12に供給する。A/D変換器12は、所定のサンプリング周波数で環境音信号をPCMサンプリングして環境音データを発生する。
【0014】
DSP13は、ROM15に格納される各種プログラムを実行して装置各部を制御する。本発明の要旨に係わるDSP13の特徴的な処理動作については追って述べる。入力ポート14は、車両側が発生する車速パルス信号を取り込んでDSP13に供給する。ROM15は、プログラムエリアおよびデータエリアを備える。ROM15のプログラムエリアには、DSP13が実行する各種プログラムデータが記憶される。ここで言う各種プログラムとは、後述するメインルーチン、入力波形分析処理および出力波形生成処理を含む。
【0015】
ROM15のデータエリアには、人の可聴周波数帯において、ある周波数帯域の音圧が他の周波数帯域の音圧より聴感上小さいことが知覚できるのに必要な最小可聴音圧Pdifがテーブルデータとして記憶される。具体的には、公知のオクターブ分析に用いられるオクターブバンド中心周波数f1〜f8(後述する)にそれぞれ対応した最小可聴音圧Pdif(f1)〜Pdif(f8)がテーブル登録される。例えば、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの内、最も音圧が小さいオクターブバンドの中心周波数がf1ならば、ROM15のデータエリアから中心周波数f1のオクターブバンドにおける最小可聴音圧Pdif(f1)が読み出される。なお、最小可聴音圧Pdif(f1)〜Pdif(f8)は、音の大きさの感覚(ラウドネス)の周波数特性を表す等ラウドネス曲線における最小可聴値に相当する。
【0016】
RAM16は、ワークエリア、入力バッファエリアおよび出力バッファエリアを備える。RAM16のワークエリアには、DSP13の演算に用いられる各種レジスタ・フラグデータが一時記憶される。RAM16の入力バッファエリアには、DSP13の制御の下に、A/D変換器12から出力される環境音データが所定時間分(所定サンプル数分)取り込まれる。なお、入力バッファエリアに格納された所定時間分の環境音データは、後述する入力波形分析処理に用いられる。RAM16の出力バッファエリアには、後述する出力波形生成処理により生成される通報音データが所定時間分(所定サンプル数分)一時記憶される。
【0017】
D/A変換器17は、DSP13の制御の下に、RAM16の出力バッファエリアから読み出される通報音データをアナログ形式の通報音信号に変換して出力する。増幅器18は、D/A変換器17から出力される通報音信号を所定レベルに増幅してスピーカ19に供給する。スピーカ19は、例えば車両前部バンパ近傍に配設され、車両進行方向に向けて通報音を放音する。
【0018】
B.動作
次に、図2〜図5を参照して車両接近通報装置100が備えるDSP13の動作について説明する。以下では、最初にメインルーチンの動作を説明した後、このメインルーチンからコールされる入力波形分析処理および出力波形生成処理の各動作について述べる。
【0019】
(1)メインルーチンの動作
上記構成による車両接近通報装置100に電源が投入されると、DSP13は図2に図示するメインルーチンを実行してステップSA1に進み、RAM16のワークエリアに格納される各種レジスタやフラグデータをゼロリセットしたり初期値セットしたりする他、RAM16の入出力バッファエリアを初期化するイニシャライズを行う。イニシャライズが完了すると、ステップSA2に進み、入力ポート14を介して入力される車速パルス信号に基づき車速が「0」でないか否か、つまり車両が走行しているかどうかを判別する車速モニタを開始する。
【0020】
車両停止中ならば、ステップSA2の判断結果は「NO」になり、車速モニタを継続するが、車軸の回転に比例した車速パルス信号が入力され、これにより車両走行が検知されると、上記ステップSA2の判断結果は「YES」となり、ステップSA3に進む。そして、ステップSA3では、A/D変換器12から出力される環境音データを、RAM16の入力バッファエリアに所定時間分(所定サンプル数分)取り込む。
【0021】
次いで、ステップSA4では、入力波形分析処理を実行する。入力波形分析処理では、後述するように、RAM16の入力バッファエリアに取り込んだ環境音データを順次読み出してFFT(高速フーリエ変換)処理を施して得られる周波数分析結果(各周波数成分毎の振幅スペクトル)から中心周波数f1〜f8の各オクターブバンド毎の音圧(オクターブバンドレベル)を検出するオクターブ分析を行う。
【0022】
そして、スピーカ19から通報音を放音出力中であるか否かを判断し、放音出力中ならば、環境音のオクターブ分析で得られた中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの音圧の内、通報音が含まれるオクターブバンドの音圧Pn、すなわち通報音を含んだ環境音の音圧Pnから通報音の音圧Poutを減算し、環境音から通報音の音圧成分を相殺する。この後、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が小さいオクターブバンドの中心周波数fminおよびその音圧Pminを検出すると共に、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が大きいオクターブバンドの中心周波数fmaxおよびその音圧Pmaxを検出する。
【0023】
続いて、ステップSA5では、出力波形生成処理を実行する。出力波形生成処理では、後述するように、環境音のオクターブ分析結果に基づき、最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)の音圧Pminが、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられるかどうかを判断し、音圧Pminが音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられる場合には、中心周波数fminのオクターブバンドの周波数帯域において音圧(Pmax−Pmin)の通報音データ(出力波形)を生成してRAM16の出力バッファエリアにストアし、一方、音圧Pminが音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられない場合には、中心周波数fminのオクターブバンドの帯域において最小可聴値に相当する最小可聴音圧Pdif(fmin)の通報音データ(出力波形)を生成してRAM16の出力バッファエリアにストアする。
【0024】
そして、ステップSA6に進み、RAM16の出力バッファエリアにストアされた通報音データ(出力波形)を読み出してD/A変換器17に供給する。これにより、通報音データはアナログ形式の通報音信号に変換された後、増幅器18においてレベル増幅されてスピーカ19から通報音として放音される。この後、上述のステップSA2に処理を戻し、車両走行中ならば、上記ステップSA2〜SA6を繰り返し、集音された環境音のオクターブ分析結果に応じて発音周波数帯域および音圧が変化する通報音を生成して放音する。
【0025】
(2)入力波形分析処理の動作
次に、図3を参照して入力波形分析処理の動作を説明する。上述したメインルーチンのステップSA4(図2参照)を介して本処理が実行されると、DSP13は図3に図示するステップSB1に進み、RAM16の入力バッファエリアに取り込んだ所定時間分(所定サンプル数分)の環境音データを順次読み出し、続くステップSB2では、読み出した一連の環境音データにFFT(高速フーリエ変換)処理を施して公知の周波数分析を行う。
【0026】
次いで、ステップSB3では、上記ステップSB2で得られた周波数分析結果(各周波数成分毎の振幅スペクトル)にオクターブ分析を施す。すなわち、図4に図示する各周波数f1〜f8をそれぞれ中心周波数とする各オクターブバンド(f/√2からf・√2までの1オクターブの帯域幅)における音圧(オクターブバンドレベル)を検出する。
【0027】
そして、ステップSB4では、スピーカ19から通報音を放音出力中であるか否かを判断する。通報音を放音出力中でなければ、判断結果は「NO」になり、後述のステップSB6に進むが、通報音を放音出力中であると、上記ステップSB4の判断結果は「YES」となり、ステップSB5に進む。ステップSB5では、環境音のオクターブ分析で得られた中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの音圧の内、通報音が含まれるオクターブバンドの音圧Pn、すなわち通報音を含んだ環境音の音圧Pnから通報音の音圧Poutを減算し、環境音から通報音の音圧成分を相殺する。
【0028】
次いで、ステップSB6では、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が小さいオクターブバンドの中心周波数fminおよびその音圧Pminを検出する。続いて、ステップSB7では、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が大きいオクターブバンドの中心周波数fmaxおよびその音圧Pmaxを検出して本処理を終える。
【0029】
このように、入力波形分析処理では、RAM16の入力バッファエリアに取り込んだ所定時間分(所定サンプル数分)の環境音データを順次読み出してFFT(高速フーリエ変換)処理を施して周波数分析を行い、これにより得られる周波数分析結果(各周波数成分毎の振幅スペクトル)について中心周波数f1〜f8の各オクターブバンド毎の音圧(オクターブバンドレベル)を検出するオクターブ分析を行う。
【0030】
そして、スピーカ19から通報音を放音出力中であるか否かを判断し、放音出力中ならば、環境音のオクターブ分析で得られた中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの音圧の内、通報音が含まれるオクターブバンドの音圧Pn、すなわち通報音を含んだ環境音の音圧Pnから通報音の音圧Poutを減算し、環境音から通報音の音圧成分を相殺する。この後、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が小さいオクターブバンドの中心周波数fminおよびその音圧Pminを検出すると共に、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が大きいオクターブバンドの中心周波数fmaxおよびその音圧Pmaxを検出する。
【0031】
(2)出力波形生成処理の動作
次に、図5を参照して出力波形生成処理の動作を説明する。前述したメインルーチンのステップSA5(図2参照)を介して本処理が実行されると、DSP13は図5に図示するステップSC1に進む。ステップSC1では、上述の入力波形分析処理において検出され、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxと、最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)における音圧Pminとの差分が、最も音圧の小さいオクターブバンドの中心周波数fminに対応してROM15のデータエリアから読み出される最小可聴音圧Pdif(fmin)より大きいか否かを判断する。つまり、最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)の音圧Pminが、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられるかどうかを判断する。
【0032】
最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)の音圧Pminが、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられる場合には、上記ステップSC1の判断結果は「YES」となり、ステップSC2に進み、中心周波数fminのオクターブバンドにおいて音圧(Pmax−Pmin)の通報音データ(出力波形)を生成し、続くステップSC3では、生成された通報音データ(出力波形)をRAM16の出力バッファエリアにストアする。
【0033】
なお、通報音データは、例えばDSP13において、ホワイトノイズ(あるいはピンクノイズ)を発生させ、これに中心周波数fminのオクターブバンドに相当する周波数帯域のバンドパスフィルタリングを施した後、音圧(Pmax−Pmin)にレベル増幅することによって生成される。また、これ以外に、周知の倍音合成方式や波形データ読み出し方式を用いて通報音データを生成する態様であっても構わない。
【0034】
一方、最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)の音圧Pminが、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられない場合には、上記ステップSC1の判断結果が「NO」になり、ステップC4に進む。ステップSC4では、中心周波数fminのオクターブバンドにおいて最小可聴値に相当する最小可聴音圧Pdif(fmin)の通報音データ(出力波形)を生成した後、ステップSC3に進み、生成された通報音データ(出力波形)をRAM16の出力バッファエリアにストアする。
【0035】
このように、出力波形生成処理では、環境音のオクターブ分析結果に基づき、最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)の音圧Pminが、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられるかどうかを判断し、音圧Pminが音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられる場合には、中心周波数fminのオクターブバンドの周波数帯域において音圧(Pmax−Pmin)の通報音データ(出力波形)を生成してRAM16の出力バッファエリアにストアし、一方、音圧Pminが音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられない場合には、中心周波数fminのオクターブバンドの帯域において最小可聴値に相当する最小可聴音圧Pdif(fmin)の通報音データ(出力波形)を生成してRAM16の出力バッファエリアにストアする。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態では、車両側が発生する車速パルス信号に基づき車両の走行が検知されると、集音マイク10によって集音された環境音がサンプリングされ、環境音データとしてRAM16の入力バッファエリアに取り込んでFFT(高速フーリエ変換)処理による周波数分析を施し、さらに周波数分析結果にオクターブ分析を施し、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンド毎の音圧(オクターブバンドレベル)を検出する。
【0037】
スピーカ19から通報音を放音出力中に環境音を集音した時には、オクターブ分析結果から通報音の音圧Pout分を相殺した後、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が小さいオクターブバンドの中心周波数fminおよびその音圧Pminを検出すると共に、中心周波数f1〜f8の各オクターブバンドの中で最も音圧が大きいオクターブバンドの中心周波数fmaxおよびその音圧Pmaxを検出する。
【0038】
そして、最も音圧の小さいオクターブバンド(中心周波数fmin)の音圧Pminが、最も音圧の大きいオクターブバンド(中心周波数fmax)の音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられるかどうかを判断し、音圧Pminが音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられるならば、中心周波数fminのオクターブバンドの周波数帯域において音圧(Pmax−Pmin)の通報音データ(出力波形)を生成し、一方、音圧Pminが音圧Pmaxよりも聴感上小さく感じられなければ、中心周波数fminのオクターブバンドの周波数帯域において最小可聴値に相当する最小可聴音圧Pdif(fmin)の通報音データ(出力波形)を生成する。
【0039】
つまり、環境音において最も音圧の大きい周波数帯域と最も音圧の小さい周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別し、聴感上の差異が有れば、最も音圧の小さい周波数帯域を周波数成分とした音であって、両帯域の音圧差分値に相当する音圧の通報音を発生するので、喧噪な場所であっても環境音に埋もれない通報音を発生することが出来、一方、聴感上の差異が無ければ、最も音圧の小さい周波数帯域を周波数成分とした音であって、最小可聴値に相当する音圧の通報音を発生するので、閑静な場所では不必要に大音量の騒音源とならない通報音を発生することが出来る。
【0040】
なお、上述の実施形態では、車速パルス信号に基づき車両が走行しているかどうかを判別し、車両の走行が検知された場合に通報音を発生する形態としたが、これに限らず、車両が走行し始めてから所定速度に達するまでの間だけ通報音を発生する形態としても構わない。つまり、所定速度以上で車両が走行すると、タイヤと路面とで生じる走行音(ロードノイズ)が増大して通報音が不要になる為である。
【0041】
また、本実施形態では、ホワイトノイズ(あるいはピンクノイズ)を基にして通報音を発生するようにしたが、これに限らず、環境音の最も音が小さい周波数帯域に合わせてフィルタリングした楽器音、チャイム音、人声音など歩行者が認知し易い音を通報音として生成する態様としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 集音マイク
11 増幅器
12 A/D変換器
13 DSP
14 入力ポート
15 ROM
16 RAM
17 D/A変換器
18 増幅器
19 スピーカ
100 車両接近通報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲の音を環境音として取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された環境音を複数の周波数帯域に区分けし、区分けされた各周波数帯域毎の音圧を検出する音圧検出手段と、
前記音圧検出手段により検出された各周波数帯域毎の音圧の内、最も音圧の大きい第1の周波数帯域と最も音圧の小さい第2の周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別する判別手段と、
前記判別手段により聴感上の差異が有ると判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、第1の周波数帯域の音圧と第2の周波数帯域の音圧との差分値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力し、一方、前記判別手段により聴感上の差異が無いと判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、最小可聴値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力する通報音出力手段と
を具備することを特徴とする車両接近通報装置。
【請求項2】
前記取得手段は、
車両が走行しているか否かを検知する検知手段を有し、
当該検知手段によって車両の走行が検知された場合に、車両の周囲の音を環境音として取得することを特徴とする請求項1記載の車両接近通報装置。
【請求項3】
前記判別手段は、
前記通報音出力手段から通報音が出力中か否かを判別する出力判別手段と、
前記出力判別手段により通報音の出力中と判別された場合に、前記音圧検出手段により検出された各周波数帯域毎の音圧の内、通報音を含む周波数帯域の音圧から前記通報音出力手段が生成した通報音の音圧を減算して環境音から通報音の音圧分を相殺する相殺手段とを備え、
前記相殺手段により通報音の音圧分が相殺された環境音の各周波数帯域毎の音圧の内、最も音圧の大きい第1の周波数帯域と最も音圧の小さい第2の周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別することを特徴とする請求項1記載の車両接近通報装置。
【請求項4】
コンピュータに、
車両の周囲の音を環境音として取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された環境音を複数の周波数帯域に区分けし、区分けされた各周波数帯域毎の音圧を検出する音圧検出ステップと、
前記音圧検出ステップにて検出された各周波数帯域毎の音圧の内、最も音圧の大きい第1の周波数帯域と最も音圧の小さい第2の周波数帯域とで聴感上の差異の有無を判別する判別ステップと、
前記判別ステップにより聴感上の差異が有ると判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、第1の周波数帯域の音圧と第2の周波数帯域の音圧との差分値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力し、一方、前記判別ステップにより聴感上の差異が無いと判別された場合には、第2の周波数帯域を周波数成分とした音であって、最小可聴値に基づいて決定された音圧の通報音を生成して出力する通報音出力ステップと
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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