説明

車両構造物のシール構造

【課題】簡単な作業によって接合面からシール剤を確実に剥がせるようにする。
【解決手段】シール部材1は、車両の構造物における接合部を液状シール剤によって接合する車両構造物のシール構造であって、接合部は、一対の環形状の接合面を接合して形成されており、液状シール剤を透過する材料によって接合面に沿う環形状に形成され互いに対向して一対の接合面間に配置される一対のシート2,3と、一対のシート2,3間に該シート2,3の環形状に沿い環状に配置され両端部4a,4bが接合部から外方に臨む細線部材4と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の構造物における接合部を液状シール剤によって接合する車両構造物のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トランスミッションにおいて、サイドカバーは、ミッションケースに対してその接合面に専用の液状シール剤を塗布した上で複数の締結用ボルトにより締結される(例えば特許文献1参照)。これにより、サイドカバーの接合面とミッションケースの接合面との隙間を液状シール剤が塞いだ状態で固まることで、その接合部ではオイル漏れが防止される。
【0003】
一方、サイドカバーをミッションケースに組み付けた後、トランスミッション内のギヤ等の部品を交換、調整等を行いたい場合がある。この場合、作業者は、内部部品を交換等するためにサイドカバーを取り外さなければならない。このとき、作業者は、液状シール剤が固まった状態なので、締結用ボルトを取り外した後に特殊工具を使い、サイドカバーとミッションケースとの間の液状シール剤を剥離させる必要がある。
【0004】
しかし、このようなシール剥離作業は、手間であると同時に、特殊工具によって構造上重要なサイドカバーやミッションケースの接合面を傷つける可能性が高い作業である。特に、実験等で繰り返しサイドカバーの着脱を行う場合にそれらの問題が顕著になる。さらに、トランスミッションを車両に搭載した状態では、一般的にサイドカバーがトランスミッションと車体(フレーム)との狭い空間に横向き(鉛直面)に位置するため、それらの問題がさらに顕著となる。
これに対して、特許文献2に開示の技術では、サイドカバーとミッションケースとの接合部で固まったシール剤を切断するためにワイヤーのみを予めその接合面間に挟み込ませている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−164065号公報
【特許文献2】実開昭57−158727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示の構成において、サイドカバーを装着する際に剥離効果が最大となるように接合面にワイヤーを位置決めして配置するのは困難である。この場合、サイドカバーやミッションケースの接合面にシール剤が残ってしまい、結果として、作業者によるシール剥離作業が必要になってしまう。
そこで、本発明の目的は、簡単な作業によって接合面からシール剤を確実に剥がせるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、(1)本発明の一態様では、車両の構造物における接合部を液状シール剤によって接合する車両構造物のシール構造において、前記接合部は、一対の環形状の接合面を接合して形成されており、前記液状シール剤が透過する材料によって前記接合面に沿う環形状に形成され互いに対向して前記一対の接合面間に配置される一対のシートと、前記一対のシート間に該シートの環形状に沿い環状に配置され両端部が前記接合部から外方に臨む細線部材と、を有することを特徴とする車両構造物のシール構造を提供できる。
(2)本発明の一態様では、前記シートは、メッシュ状の組成を有する材料によって形成される。
【発明の効果】
【0008】
(1)の態様の発明によれば、細線部材が組み込まれたシートを接合面に組み付けるだけで、接合面間で固まっているシール剤を切断できるように細線部材を該接合面間に組み付けることができる。よって、本発明では、接合面間で固まっているシール剤を切断するための細線部材を単品で接合面間に組み付ける場合と比べ、細線部材の組み付け作業性が向上する。
【0009】
また、本発明では、接合面間に組み付ける部材が細線形状であるため、接合部でのシール性能に影響せず、シール性能を確保できる。
また、本発明では、接合されている部材を取り外す作業時に接合部から外方に臨む細線部材の端部を接合部に沿って移動させ細線部材を引っ張ることで、接合面間で固まっているシール剤を容易に切断、剥離できる。よって、本発明では、接合されている部材の取り外し作業の作業性が向上する。
【0010】
(2)の態様の発明によれば、シートへの液状シール剤の透過性を高くすることができ、シート全体に液状シール剤を十分に行き渡らせることができる。これにより、本発明では、接合部でのシール性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のシール部材の構成例を示す平面図である。
【図2】トランスミッションの構成例を示す斜視図である。
【図3】図1に示すA−A線のシール部材の断面図である。
【図4】図1に示す矢示Bのシートの細部を示す
【図5】ミッションケースにサイドカバーが取り付けられたトランスミッションを車両左側方からみた側面図である。
【図6】図5に示すC−C線の接合部の断面図である。
【図7】シール剤を剥がす際の細線部材の動きを示す図である。
【図8】従来におけるミッションケースとサイドカバーとの接合部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
本実施形態は、車両構造物の接合部をシールするシール部材である。
(構成)
図1は、本実施形態のシール部材1の構成例を示す平面図である。このシール部材1は、図2に示す構成例のトランスミッション100のサイドカバー101とミッションケース102との接合部をシールするためのものである。ここで、サイドカバー101とミッションケース102とは複数の締結用ボルト103によって固定されている。このようなサイドカバー101及びミッションケース102の接合面に対応して、図1に示すように、本実施形態のシール部材1は、サイドカバー101及びミッションケース102の環形状の接合面と同様に環形状になっている。
【0013】
図3には、図1に示すA−A線の断面を示す。
図3に示すように、シール部材1は、同じ環形状の一対のシート2,3で細線部材4を挟み該細線部材4を内部に収容することでシート2,3と細線部材4とが一体に形成された構造をなす。
【0014】
また、図4には、図1に示す矢示B部のシート2,3の細部を示す。図4に示すように、シート2,3は、メッシュ状の組成を有する材料によって形成されている。ここで、後述のように、ミッションケースへのサイドカバーの取り付け作業時には、その接合面とシール部材1との間に液状シート剤を塗布することによってサイドカバーとミッションケースとの密閉、密着効果を確保している。そのため、メッシュは、液状シール剤を透過させることが可能な粗さを有しかつ、サイドカバーとミッションケースとの密閉、密着効果を阻害しないように適切に選定されている。
【0015】
また、図1に示すように、シート2,3には、ボルト締結位置に対応して複数のボルト挿通孔5が形成されている。
細線部材4は、このような一対のシート2,3に挟まれつつその全周にわたって環状に配置されている。ここで、本実施形態では、細線部材4は、シート2,3のボルト挿通孔5の部位では該ボルト挿通孔5の内側を迂回して配置されている。また、本実施形態では、細線部材4は、図1に示すように、若干であるが、シート2,3の内縁に寄って配置されている。しかし、このような構成に限定されず、細線部材4は、ボルト挿通孔5の部位で該ボルト挿通孔5の外側を迂回して配置されても良い。また、細線部材4は、シート2,3の外縁に寄って配置されても良い。すなわち例えば、細線部材4は、サイドカバーとミッションケースとの密閉、密着効果を阻害せずかつ、その接合部からの液状シール剤の剥離効果が最大となるように配置される。
【0016】
また、細線部材4は、その両端部4a,4bがシート部材1における一部位6の外側面から外方に突出するとともに互いに交差している。そして、細線部材4の両端それぞれには、作業者が把持するための把持部(つまみ)4c,4dが設けられている。ここで、把持部4c,4dは、例えば球形状をなしている。
また、細線部材4は、例えば金属製のワイヤーによって構成されている。そして、細線部材4は、サイドカバーとミッションケースとの接合部のシール性能に影響しない程度の直径となっている。
【0017】
次に、本実施形態のシール部材1を用いて行うミッションケースへのサイドカバーの取り付け作業と、その後の取り外し作業とを説明する。
取り付け作業では、先ず、サイドカバーの接合面とミッションケースの接合面との間にシール部材1を挟み込む形で装着する。そして、この装着の際には、サイドカバー及びミッションケースの少なくとも何れかの接合面とシール部材1との間に液状シール剤を塗布する。それから、締結用ボルトによってサイドカバーをミッションケースに対して固定する。ここで、細線部材4がシート2,3のボルト挿通孔5の部位では該ボルト挿通孔5を迂回して配置されているため、細線部材4がその接合面に形成されているボルト孔に干渉することがないため、細線部材4に干渉することなく締結用ボルトを取り付け締結できる。
【0018】
図5は、以上のような作業によってミッションケース102にサイドカバー101が取り付けられたトランスミッション100を車両左側方からみた側面図である。
この図5に示すように、シール部材1がサイドカバー101とミッションケース102との接合部に装着された状態で、細線部材4の両端部4a,4bがその接合部上部から外方に臨んで突出している。
【0019】
ここで、図6には、図5に示すC−C線の接合部104の断面を示す。
図6に示すように、サイドカバー101の接合面101aとミッションケース102の接合面102aとの間にシール部材1が装着されており、そのシール部材1(一対のシート2,3)全体に滲み渡っている液状シール剤7によってサイドカバー101とミッションケース102との密閉、密着効果が確保される。
【0020】
一方、取り外し作業では、締結用ボルトを取り外した後、作業者は、細線部材4の把持部4c,4dを把持し、図5に示す矢印D方向に接合部に沿って把持部4c,4dを移動させて細線部材4を引っ張る。
図7には、そのときの細線部材4の動きを示す。
細線部材4が図7(a)、(b)及び(c)の順序で示すような動きを示し、作業者は、最終的にサイドカバーとミッションケースとの接合部から細線部材4を引き抜く。そして、細線部材4を完全に引き抜くと、サイドカバー及びトランスミッションそれぞれの接合面からシート2,3とともに液状シール剤が剥がれる。
【0021】
なお、図8には、従来例となる液状シール剤105だけで接合したサイドカバー101とミッションケース102との接合部104の構成例を示す。
この図8に示すように、サイドカバー101の接合面101aとミッションケース102の接合面102aとの隙間を塞いだ状態で液状シール剤105が固まっている。そして、従来、作用者は、トランスミッション内のギヤ等の部品を交換等するためにサイドカバーを取り外した際に、特殊工具を使ってサイドカバー101やミッションケース102の接合面101a,102aからこのように固まった液状シール剤を剥離させていた。しかし、このようなシール剥離作業は、手間であると同時に、特殊工具によって構造上重要なサイドカバーやミッションケースの接合面を傷つける可能性が高くなる。
【0022】
これに対して、本実施形態では、このような従来例がもつ問題もなく、簡単な作業によってサイドカバー101やミッションケース102の接合面からシール剤を確実に剥がすことができる。
【0023】
(本実施形態の変形例)
本実施形態では、エンジンのオイルパン等、液状シール剤を塗布して密閉するカバーやケース全般の接合部に適用できる。
また、本実施形態は、シート2,3の形成材料は、メッシュ状の組成を有する材料に限定されず、液状シール剤が浸透する材料であれば良い。
【0024】
また、本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項1により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0025】
1 シール部材、2,3 シート、4 細線部材、4c,4d 把持部、7,105 液状シール剤、100 トランスミッション、101 サイドカバー、102 ミッションケース、101a,102a 接合面、104 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の構造物における接合部を液状シール剤によって接合する車両構造物のシール構造において、
前記接合部は、一対の環形状の接合面を接合して形成されており、
前記液状シール剤が透過する材料によって前記接合面に沿う環形状に形成され互いに対向して前記一対の接合面間に配置される一対のシートと、
前記一対のシート間に該シートの環形状に沿い環状に配置され両端部が前記接合部から外方に臨む細線部材と、
を有することを特徴とする車両構造物のシール構造。
【請求項2】
前記シートは、メッシュ状の組成を有する材料によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の車両構造物のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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