説明

車両用めっき部材

【課題】長尺状をなす樹脂製の車両用めっき部材であって、歪みの少ないものを提供すること。
【解決手段】長尺状の樹脂部材と、この樹脂部材の表面に形成されているめっき層とを持ち、車両に取り付けられる車両用めっき部材1であって、この車両用めっき部材1の取り付け面10に、車両用めっき部材1の長手方向に延びる溝11が設けられている。成形後の収縮等により生じる車両用めっき部材1の歪みを、この溝11により抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に配設される樹脂製の車両用めっき部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、各種ガーニッシュやモール、ラジエータグリル等、長尺状をなす種々の樹脂部材が配設される。これらの樹脂部材には、意匠上等の理由によりめっきが施される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、樹脂部材は溶融樹脂を射出成形やブロー成形等の方法で成形したものであり、成形後の温度変化により収縮する。このような収縮により、樹脂部材に歪みが発生する場合がある。長尺状の樹脂部材であれば、歪みも大きくなる。歪みが生じた樹脂部材は、歪みに抗して形状を整形する等して歪みを修正しつつ車両に取り付ける必要がある。しかし樹脂部材の表面にめっきを施す場合、つまり、樹脂部材が車両用めっき部材である場合には、めっき層によって部材全体の剛性が高くなるために、歪みを充分に修正できない場合がある。このため、歪みが大きい車両用めっき部材は車両に取り付けることができなかったり、車両の意匠性を損なう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−73662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、長尺状をなす樹脂製の車両用めっき部材であって、歪みの少ないものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の車両用めっき部材は、長尺状の樹脂部材と、該樹脂部材の表面に形成されているめっき層と、を持ち、車両に取り付けられるめっき部材であって、
取り付け時に車両に対面する取り付け面を持ち、
該取り付け面には、該車両用めっき部材の長手方向に延びる溝が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以下、特に説明の無い場合には、本発明の車両用めっき部材を単にめっき部材と略する。
【0008】
本発明のめっき部材は長手方向に延びる溝を取り付け面に持つ。本発明のめっき部材は長尺材であるため、歪み量の総量を考えると、めっき部材における長手方向の歪み量は短手方向の歪み量に比べて大きくなる。めっき部材の長手方向に延びる溝を設けることで、めっき部材全体の歪みの発生を抑制できるため、めっき部材の歪みを低減できる。つまり本発明のめっき部材には歪みが少ない。なお、溝は取り付け面に設けられているため、取り付け時に車両に対面して露出しない。このため、溝がめっき部材の意匠性を損なうことはない。なお、溝の延びる方向とめっき部材の長手方向とは完全に一致していなくても良く、溝部の延びる方向はめっき部材の長手方向と交差する方向であっても良い。具体的には、めっき部材の長手方向と溝(または溝の接線)の延びる方向との交差角度は0度以上45度以下であれば良い。溝は直線状に延びても良いし、湾曲していても良いが、滑らかに連続しているのが好ましい。
【0009】
本発明のめっき部材は、めっき部材を車両に貼り付けるための貼り付け部材を一体に持っても良い。この場合、貼り付け部材は、取り付け面に一体化すれば良い。貼り付け部材は、めっき部材に一体化されるとともに、既知の種々の貼り付け方法によって車両に貼り付くものであれば良く、例えば、両面テープや面ファスナー等が挙げられる。例えば嵌合や螺合等の方法でめっき部材を車両に強固に取り付ける場合には、比較的大きく歪んでいるめっき部材であっても、歪みを修正しつつ車両に取り付けることができる。しかし、接着等の比較的弱い取り付け方法でめっき部材を車両に取り付ける場合には、取り付け時にめっき部材の歪みを修正し難い。本発明のめっき部材は、溝を設けることによって歪みの発生を抑制しているため、貼り付け部材を用いた比較的弱い取り付け方法で車両に取り付けるめっき部材として、特に好ましく適用できる。
【0010】
歪みの発生をより抑制するためには、溝の深さは深い方が好ましい。具体的には、溝の最大深さが、溝が設けられている部分におけるめっき部材の肉厚の1/4以上であれば、外観に優れた樹脂部材を成形できる。
【0011】
歪みを抑制することを考慮すると、めっき部材の長手方向における溝の長さは、長い方が好ましい。例えば、溝は、めっき部材の長手方向の長さの1/2以上にわたって設けることが好ましい。このような長さにわたって溝を設ければ、めっき部材全体の歪みを抑制でき、歪みの少ないめっき部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例の車両用めっき部材を取り付け面側から見た様子を模式的に表す上面図である。
【図2】実施例の車両用めっき部材を図1中A位置から見た様子を模式的に表す矢視図である。
【図3】実施例の車両用めっき部材を長手方向と交差する方向に切断した様子を模式的に表す断面図である。
【図4】本発明の車両用めっき部材と従来の車両用めっき部材との歪み量の違いを模式的に表す説明図である。
【図5】本発明の車両用めっき部材における溝を模式的に説明する説明図である。
【図6】本発明の車両用めっき部材における溝を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のめっき部材は、長尺状の樹脂部材の表面にめっきが施されてなる。樹脂部材としては、既知の種々の樹脂を含むものを使用できる。ガラス繊維や炭素繊維等を含む繊維強化樹脂(FRP)等、樹脂と樹脂以外の材料との複合体であっても良い。本発明のめっき部材における樹脂部材の材料は、めっき部材の用途に応じて適宜選択すれば良いが、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(ABS)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン等から選ばれる少なくとも一種を好ましく用いることができる。なお、一般的には、モール、ガーニッシュ、ラジエータグリル等の外装品に用いる樹脂部材用の樹脂としては、耐候性に優れるものを用いるのが好ましいが、本発明のめっき部材における樹脂部材の表面には、めっきが施されるため、比較的耐候性に劣る樹脂を用いても良い。
【0014】
めっきする材料もまた、めっき部材の用途に応じて既知の金属または合金から適宜選択すれば良いが、クロム、ニッケル、銅、金等を好ましく用いることができる。めっき方法は、樹脂部材の材料およびめっきの材料に応じた方法を適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0015】
以下、本発明のめっき部材を具体的に説明する。
【0016】
実施例のめっき部材は自動車のラジエータグリル近傍に取り付けられるガーニッシュである。実施例のめっき部材を取り付け面側から見た様子を模式的に表す上面図を図1に示し、実施例のめっき部材を図1中A位置から見た様子を模式的に表す矢視図を図2に示す。実施例の車両用めっき部材は、やや湾曲しているため、角度によって見える部分が異なる。このため、図1および図2に、やや異なる角度から実施例のめっき部材を見た様子を表す。実施例のめっき部材を長手方向と交差する方向切断した様子を模式的に表す説明図を図3に示す。
【0017】
実施例のめっき部材1は、樹脂部材2と、樹脂部材2の表面に形成されているめっき層3と、複数の貼り付け部材4とを持つ。
【0018】
図1および図2に示すように、樹脂部材2は長尺状をなし、肉厚方向にやや湾曲している。樹脂部材2はABS樹脂製であり、樹脂部材2の表面全体には六価クロムめっきが施されている。このため樹脂部材2の表面は図3に示すめっき層3で覆われている。図3に示すように、めっき部材1は、取り付け面10と意匠面15とを持つ。取り付け面10と意匠面15とはめっき部材1の肉厚方向に背向している。めっき部材1は取り付け面10側から意匠面15側に向けて隆起した湾曲形状をなしている。
【0019】
貼り付け部材4は両面テープからなる。図1および図2に示すように、貼り付け部材4は、取り付け面10の外周に沿って配列している。図3に示すように、貼り付け部材4の一方の粘着面40は、めっき部材1の取り付け面10に貼り付けられている。貼り付け部材4の他方の粘着面45は、車両9に貼り付けられる。
【0020】
図1〜図3に示すように、取り付け面10には溝11が形成されている。溝11はめっき部材1の長手方向に沿って延び、取り付け面10に開口している。溝幅および溝深さは略一定である。より詳しくは、図3の要部拡大図に示すように、溝深さ(最大深さD)は溝11が設けられている部分におけるめっき部材1の肉厚Wの1/3である。より具体的には、肉厚Wは3mmであり、最大深さDは1mmであった。
【0021】
実施例のめっき部材1は、めっき層3を持つことにより比較的剛性の高い部材であるが、めっき部材1の長手方向に延びる溝11を持つことで、歪みが緩和されている。これは、樹脂部材2を成形する際に、溝11の近傍に位置する部分が他の部分よりも速く冷却されることに由来すると考えられる。つまり、溝11の底壁12は他の部分よりも薄肉であるため、成形後の樹脂部材2における底壁12の冷却速度は他の部分よりも速い。このため底壁12およびその近傍に位置する部分は、他の部分よりも先に固化し、固化時において樹脂部材2の内部で骨格または支柱として機能すると考えられる。このため、めっき部材1の他の部分の反り変形等が抑制され、めっき部材1全体の歪みが抑制されると考えられる。また、成形後の樹脂部材2が収縮する際のヒケ等が溝11によって吸収されることによっても、歪みが抑制されると考えられる。参考までに、図4に、溝を持つ本発明のめっき部材と、溝を持たない従来のめっき部材との歪み量(具体的には反り変形量)を比較する説明図を示す。図4に示すように、溝を持たない従来のめっき部材は長手方向の略中央部分で大きく反り変形するのに対し、溝を持つ本発明のめっき部材の反り変形量は小さい。このように、溝を設けることでめっき部材の歪みを抑制できる。
【0022】
また、図3に示すように、溝11の底面13は平坦面であり、溝は断面略コ字状をなす。溝11の底面13を平坦面にしたことで、溝11の底面13に作用する応力を分散させることができ、溝11を設けたことによるめっき部材1の剛性低下を抑制できる。
【0023】
なお、溝11の最大深さDは成形時の樹脂の流動性やめっき部材1に必要とされる剛性等に応じて適宜設計すれば良いが、溝11が設けられている部分におけるめっき部材1の肉厚Wの1/4以上であるのが好ましく、1/3以上1/2以下であるのがより好ましい。具体的には、実施例のように肉厚Dが3mmの場合には、溝11の最大深さDは1mm以上1.5mm以下であるのがより好ましい。最大深さDが浅すぎると溝11による歪み低減効果が充分に発揮されない場合があり、また、最大深さDが深すぎるとめっき部材1(具体的には樹脂部材2)の成形に支障がある場合があるためである。溝11の最大深さDが上記範囲内であれば、意匠性に優れた樹脂部材2を成形でき、かつ、めっき部材1の歪みを抑制できる。
【0024】
溝11は、めっき部材1の長手方向に延びていれば良く、その長さは特に限定しないが、めっき部材1の長手方向の長さの1/2以上にわたって設けられていることが好ましい。上述した溝11の底壁12およびその近傍部分による骨格または支柱としての機能を充分に発揮するためである。このような底壁12およびその近傍部分の機能を考慮するのであれば、溝11の長手方向の長さ以外にも、溝11を分断しないよう配置することが重要である。例えば、図5に示すように比較的長い溝11をめっき部材1の長手方向に離間配置するよりも、図6に示すように比較的短い溝11の一部がめっき部材1の短手方向に互いに重複するようにし、長手方向に溝11の途切れる部分がないよう配置するのが好ましい。溝11が途切れると、骨格または支柱としての溝11の底壁12およびその近傍部もまた、めっき部材1の長手方向に分断されるためである。
【0025】
実施例のめっき部材1は両面テープからなる貼り付け部材4で車両9に取り付けた(貼り付けた)が、本発明のめっき部材1を車両9に取り付ける方法はこれに限らず、係合、嵌合、螺合等、既知の種々の方法を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のめっき部材は、車両用の各種ガーニッシュやモール、ラジエータグリル等として好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1:車両用めっき部材 2:樹脂部材
4:貼り付け部材 9:車両
10:取り付け面 15:意匠面
11:溝
D:溝の最大深さ W:溝が設けられている部分における車両用めっき部材の肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の樹脂部材と、該樹脂部材の表面に形成されているめっき層と、を持ち、車両に取り付けられる車両用めっき部材であって、
取り付け時に車両に対面する取り付け面を持ち、
該取り付け面には、該車両用めっき部材の長手方向に延びる溝が設けられていることを特徴とする車両用めっき部材。
【請求項2】
さらに、前記車両用めっき部材を前記車両に貼り付けるための貼り付け部材が前記取り付け面に一体化されている請求項1に記載の車両用めっき部材。
【請求項3】
前記溝の最大深さは、該溝が設けられている部分における前記車両用めっき部材の肉厚の1/4以上である請求項1または請求項2に記載の車両用めっき部材。
【請求項4】
前記溝は前記車両用めっき部材の長手方向の長さの1/2以上にわたって設けられている請求項1〜請求項3の何れか一つに記載の車両用めっき部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112007(P2013−112007A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257030(P2011−257030)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】