説明

車両用エアサスペンション式シート支持装置

【課題】空気圧を利用してシート高さ一定機能とシート高さ設定機能の双方を有する車両用エアサスペンション式シート支持装置を提供する。
【解決手段】Xリンク34を備えたリンク機構30の、前後方向に水平に移動する前下側可動軸38に、後方に延びるロッド75を連結し、このロッド75の先端部に装着したローラ71が作用してシーソー式に揺動するカム91により、エアスプリング40への給排気を制御するバルブ61の開閉弁を作動させ、リンク機構30の伸縮に伴うロッド75の前後移動によりシート高さを一定に保持する。バルブ61はバルブベース60とともに前後方向に回動し、ローラ71もローラアーム70とともに前後方向に回動する。バルブ61を前後方向に回動させることによりバルブ61の開閉弁にローラ71を介してカム91を作用させ、シート高さの設定を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が備えるシートをエアスプリングを用いて支持する車両用エアサスペンション式シート支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中型・大型トラックやバス等の大型自動車のブレーキ装置としてエアブレーキ装置が用いられているが、このエアブレーキ装置に供給する空気を、運転席等のシートのクッションに利用したエアサスペンション式シート支持装置が知られている(特許文献1,2等参照)。
【0003】
公知のエアサスペンション式シート支持装置は、シャーシ等の固定部材に固定されるロアフレームの上方にリンク機構を介してアッパーフレームが上下動可能に支持され、アッパーフレームに車両用シートのシートクッションが固定される構成が多い。リンク機構としては2本のリンクバーをX字状に組んだ折り畳み自在なXリンクを左右一対の状態で備えたものが一般的であり、ロアフレームとアッパーフレームとの間に、シートに着座した乗員の荷重をアッパーフレームを介して受けるエアスプリングが配されている。そして、シートに入力される上下方向の振動に応じて、エアスプリングに空気を供給したり、エアスプリングから空気を排出したりするバルブが設けられており、このバルブの作用によって、シート高さ(シートクッションの着座面の高さ)が一定に保たれながら振動が吸収され、快適な乗り心地が得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−131869号公報
【特許文献2】米国特許No.US 6,616,116 B1 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエアサスペンション式シート支持装置は、上記のバルブとエアサスペンションの組み合わせにより、乗員の体重が変化しても空気圧を利用してシート高さを自動的に一定に保持する機能(シート高さ一定機能)を有している。ところで、体格に合わせてシート高さを変更して設定することのできる機能(シート高さ設定機能)も、多くの車両に具備されている。このシート高さ設定機能は、通常、電動式や機械式等であるため、エアサスペンション式シート支持装置に組み込むとすると、部品点数の増加や構造の複雑化を招き、また、シート下の狭いスペースには配備しにくいといった問題があった。
【0006】
よって本発明は、上記のシート高さ一定機能とともにシート高さ設定機能も空気圧を利用して付与させることができ、これによって部品点数の増加や構造の簡素化が可能であり、加えてシート下の狭いスペースを有効利用することにより省スペースが図られる車両用エアサスペンション式シート支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用エアサスペンション式シート支持装置は、ロアフレームと、このロアフレームの上方に配設され、車両用シートを支持するアッパーフレームと、前記ロアフレームに対して前記アッパーフレームを上下動可能に支持し、アッパーフレームの上下動に伴い略水平方向に移動する水平移動部材を有するリンク機構と、空気供給源から空気が供給され、前記アッパーフレームが上方から受ける荷重を受けるエアスプリングと、このエアスプリングの振動を吸収するダンパと、前記ロアフレーム内あるいは前記アッパーフレーム内に配設され、前記アッパーフレームの高さ位置を調節するシート高さ調節手段とを備えた車両用エアサスペンション式シート支持装置であって、前記シート高さ調節手段は、回動軸を共有し、該回動軸に、独自に、かつ、前記水平移動部材の移動方向に略沿う方向に変位するように回動自在に設けられた第1の回動部材および第2の回動部材と、前記空気供給源から前記エアスプリングに空気が供給されて前記アッパーフレームを上昇させる給気状態、エアスプリングから空気が排気されて前記アッパーフレームを下降させる排気状態、およびエアスプリングへの給気と排気のいずれもなされずアッパーフレームを停止させる中立状態、の3つの状態を生じさせるバルブ開閉部を有し、該バルブ開閉部が、前記第1の回動部材の回動方向に交差する方向に向くようにして該第1の回動部材に固定されたバルブと、前記バルブの前記バルブ開閉部に対向可能な状態に、前記第2の回動部材に装着されたカム操作部と、このカム操作部と前記リンク機構の前記水平移動部材とを連結し、該水平移動部材と一体的にカム操作部を移動させる連結部材と、前記バルブの前記バルブ開閉部と前記カム操作部との間に配設され、前記第1の回動部材とともに回動するバルブの回動動作に応じて、前記カム操作部により、バルブが前記水平移動部材から離間する方向に回動した場合には前記バルブ開閉部を前記給気状態とし、バルブが水平移動部材に接近する方向に移動した場合にはバルブ開閉部を前記排気状態とし、これら状態の中間位置においては前記バルブ開閉部を前記中立状態とするよう作動させられるカム部材と、前記水平移動部材が前記バルブに接近する方向に所定距離移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明によると、シートに乗員が着座してアッパーフレームに荷重がかかると、リンク機構の水平移動部材が移動し、この水平移動部材とともに連結部材が移動する。この時、バルブは水平移動部材から離間する方向に相対移動し、カム操作部がカム部材に作用してバルブのバルブ開閉部が給気状態となる。これにより、エアスプリングに空気が供給され、シートが上昇する。次いで、シートが上昇すると、リンク機構の水平移動部材が今度は逆向きに移動するので、バルブは水平移動部材に接近する方向に移動する。すると、カム操作部がカム部材に作用してバルブのバルブ開閉部が排気状態となり、エアスプリングから空気が排出される。このようにエアスプリングに対する空気の供給/排出が繰り返されることにより、アッパーフレーム、すなわちシートは上下に振動しながら自動的に一定高さに保たれ、“シート高さ一定機能”が発揮される。
【0009】
次に、本発明によると、バルブもしくはバルブが固定されている第1の回動部材を回動させると、アッパーフレームが上下動して“シート高さ設定機能”が発揮される。すなわち、バルブを水平移動部材から離間する方向に回動させると、カム操作部がカム部材に作用してバルブのバルブ開閉部が給気状態となり、これにより、エアスプリングに空気が供給され、シートが上昇する。一方、バルブを水平移動部材に接近する方向に移動させると、カム操作部がカム部材に作用してバルブのバルブ開閉部が排気状態となり、これにより、エアスプリングから空気が排出され、シートが下降する。所望の位置にシート高さが変更した時点でバルブの移動を停止させると、上記シート高さ一定機能が働いてシート高さを所望の高さに設定することができる。
【0010】
また、本発明では、前記水平移動部材が前記バルブに接近する方向に所定距離移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構を備えていることにより、シートから乗員が立ち上がる際に急激にシートが上昇して乗員に当たるといった不快感を防止することができる。
【0011】
また、本発明のシート高さ調節手段は、ロアフレーム内あるいはアッパーフレーム内に配設されるものであり、第1および第2の回動部材や連結部材、あるいはカム操作部やカム部材等の可動部は、水平方向に移動または揺動する。このため、上下方向へのスペースをあまりとることなく平面的に構成要素を配設することができ、その結果、シート下の狭いスペースを有効利用することができ、省スペースが図られる。
【0012】
本発明は、以下の具体的形態を含む。
すなわち、前記バルブにおける前記バルブ開閉部は、該バルブを、前記給気状態とする給気弁と、前記排気状態とする排気弁とを備えており、前記カム部材は、前記水平移動部材の移動方向に延び、かつ、その中間部が前記回動軸と平行な揺動軸を支点として揺動可能に支持されており、前記第1の回動部材とともに回動する前記バルブの回動に応じて前記カム操作部により揺動させられ、前記バルブが前記水平移動部材から離間する方向に移動した場合には、一端部側が前記給気弁に作用し、バルブが水平移動部材に接近する方向に移動した場合には他端部側が前記排気弁に作用し、揺動の中間点においては、いずれの弁にも作用しないように設定されている。
【0013】
この形態では、カム部材の、揺動軸の両側の一端部側および他端部側がバルブ開閉部の給気弁および排気弁に作用してバルブの開閉動作がなされるため、各弁に対するカム部材の作用力を「てこの原理」により大きくすることができる。このため、各弁を確実に作動させることができ、動作安定性を確保することができる。また、小さな力で各弁を作動させることができることから、装置のコンパクト化が図られる。
【0014】
また、前記カム操作部は、前記カム部材に圧接しながら転動し、転動することによって該カム部材に作用するコロ部材を備え、該コロ部材は、前記連結部材に回転自在に取り付けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シート高さ一定機能とともにシート高さ設定機能もエアスプリングの空気圧を利用して付与させることができ、これによって部品点数の増加や構造の簡素化が可能であり、また、シート下の狭いスペースを有効利用することにより省スペースが図られるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート支持装置の全体を示す斜視図である。
【図2】同装置の一部を除去した状態の斜視図である。
【図3】シート高さ調節手段の一要部を示す平面図である。
【図4】シート高さ調節手段の他の要部を示す平面図である。
【図5】シート高さ調節手段の一要部を示す斜視図である。
【図6】シート高さ調節手段の他の要部を示す斜視図である。
【図7】シート高さ調節手段によるバルブ開閉作用を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る車両用エアサスペンション式シート支持装置(以下、シート支持装置)の一実施形態を説明する。
[1]基本構成
図1は一実施形態のシート支持装置の全体を示しており、符号10,20は、それぞれ長方形状の枠体からなるロアフレームおよびアッパーフレームである。ロアフレーム10は、車体に組み込まれた状態で、車体の前後方向(図1で矢印Fが前方、矢印Rが後方を示している)に延びる左右一対のレールメンバー11と、これらレールメンバー11の前端どうし、および後端どうしを連結する左右方向に延びる前後一対の横メンバー12とを備えている。ロアフレーム10は、図示しない車体のシャーシ上に、シートレール15を介して前後方向に移動可能に支持されている。なお、以下の説明で前後・左右・上下といった方向は、当該シート支持装置が車体に組み込まれた状態での方向と定義する。
【0018】
ロアフレーム10の上方には、リンク機構30を介してアッパーフレーム20が支持されている。このアッパーフレーム20はロアフレーム10と同様の構成であり、前後方向に延びる左右一対のレールメンバー21と、これらレールメンバー21の前端どうし、および後端どうしを連結する左右方向に延びる前後一対の横メンバー22とを備えている。このアッパーフレーム20上に、図示しない車両用シートのシートクッションが固定される。車両用シートは、ロアフレーム10の下方から前方に延びるスライドレバー16を操作してロアフレーム10をシートレール15に沿って移動させることにより、前後位置を調整することができるようになっている。
【0019】
リンク機構30は、2本のリンクバー31,32がリンク軸33(図2参照)を介してX字状に組まれた左右一対のXリンク34を備えている。リンクバー31,32はリンク軸33を支点として互いに回転自在に組まれている。
【0020】
左右のXリンク34を構成する各リンクバー31,32のうち、前方に向かうにつれて上方に延びるように傾斜する前上がり側のリンクバー31の後端(下端)は、ロアフレーム10における後側の横メンバー12の近傍に配設された左右方向に延びる後下側固定軸(図示略)を介してロアフレーム10に回転自在に支持されている。
【0021】
また、左右のリンクバー31の前端(上端)は、左右方向に延びる前上側可動軸36を介して連結されている。前上側可動軸36は、両端に取り付けられたローラ36aを介して、アッパーフレーム20の左右のレールメンバー21に沿って前後方向に移動自在に支持されている。前上側可動軸36が前後方向に移動する時、ローラ36aはレールメンバー21を転動し、これによって前上側可動軸36はレールメンバー21に沿って円滑に移動する。
【0022】
一方、前方に向かうにつれて下方に延びるように傾斜する前下がり側のリンクバー32の後端(上端)は、図2に示すように、アッパーフレーム20のレールメンバー21に固定されるブラケット23に、左右方向に延びる後上側固定軸37を介して回転自在に支持されている。左右のリンクバー32の後端は、後上側固定軸37を介して連結されている。
【0023】
また、左右のリンクバー32の前端部は、左右方向に延びる前下側可動軸(水平移動部材)38に回転自在に取り付けられている。この前下側可動軸38は、両端に取り付けられたローラ38aを介して、ロアフレーム10の左右のレールメンバー11に沿って前後方向に移動自在に支持されている。前下側可動軸38が前後方向に移動する時、ローラ38aはレールメンバー11を転動し、これによって前下側可動軸38はレールメンバー11に沿って円滑に移動する。左右のリンクバー32の前端は、前下側可動軸38を介して連結されている。
【0024】
リンク機構30は、リンクバー31,32がX字状に組まれてなる左右一対のXリンク34、リンクバー31の後端に設けられる後下側固定軸(図示略)、上記の前上側可動軸36、後上側固定軸37、および前下側可動軸38等から構成されている。図1に示すように、各Xリンク34にあっては、前上がり側のリンクバー31が、前下がり側のリンクバー32の内側に配されている。
【0025】
リンク機構30は、Xリンク34の上記後下側固定軸と後上側固定軸37、およびリンク軸33を支点として各リンクバー31,32が回動することにより、Xリンク34が立ち上がって伸張したり、折り畳まれて縮小したりするように作動する。Xリンク34が上方に伸張する際には、前上側可動軸36と前下側可動軸38がそれぞれアッパーフレーム20とロアフレーム10のレールメンバー21,11に沿って後方に移動し、Xリンク34が縮小する際には、前上側可動軸36と前下側可動軸38はレールメンバー21,11に沿って前方に移動する。
【0026】
図2に示すように(図2は図1からアッパーフレーム20、前上がり側のリンクバー31およびリンクバー31に連結されている部材などを除去した図である)、ロアフレーム10内におけるリンク軸33の後方のスペースには、エアスプリング40が配設される。このエアスプリング40には、例えば車両のエアブレーキ装置を構成するエアコンプレッサ(空気供給源)から圧縮空気が供給されるようになっている。
【0027】
エアスプリング40は、空気が供給されると上方に膨出し、排気されると下方に縮小する。図1に示すように、エアスプリング40の上方には、上記アッパーフレーム20を下方から支持する受圧板41が配設されている。この受圧板41は、後方に延びる左右のステー部41aを介して、リンク軸33に外装されたスリーブ42に固定されている。このスリーブ42はリンク軸33と相対回転可能とされており、受圧板41はスリーブ42を介してリンク軸33に回転自在に支持されている。
【0028】
エアスプリング40には、上記空気供給源から送られる空気をエアスプリング40に供給したり、エアスプリング40内の空気を排出したりするバルブ61(後述する)が接続されている。このバルブ61が給気状態になって空気が供給されるとエアスプリング40は膨出し、これによって受圧板41がアッパーフレーム20を上昇させてXリンク34が上方に伸張し、アッパーフレーム20に固定された車両用シートのシートクッション(以下、単にシートと言う)が上昇するようになっている。また、バルブ61が排気状態になると、シートに着座する乗員の荷重によりエアスプリング40から空気が排出され、これにより受圧板41およびアッパーフレーム20が下降してXリンク34が下方に縮小するように作動し、シートが下降するようになっている。
【0029】
図1に示すように、一方(図1では手前側)のXリンク34の前上がり側のリンクバー31と前下側可動軸38との間には、オイルダンパ43が設けられている。このオイルダンパ43は、一端部が当該リンクバー31に固定された左右方向に延びるピン44に、また、他端部が前下側可動軸38に取り付けられたブラケット45に、それぞれ回転自在に装着されている。このオイルダンパ43により、エアスプリング40が作動した際に生じる振動が吸収され、リンク機構30の伸張・縮小の動作が緩衝されるようになっている。
【0030】
以上が、一実施形態のシート支持装置の基本構成である。このシート支持装置の上記ロアフレーム10の内側のスペースに、アッパーフレーム20の高さ位置を調節してシート高さを調節可能とするシート高さ調節手段50が装備されている。以下、このシート高さ調節手段50について説明する。
【0031】
[2]シート高さ調節手段
図2に示すように、ロアフレーム10内のスペースのほぼ中央には、ベースフレーム板51が水平に配設されている。このベースフレーム板51は、ロアフレーム10の左右のレールメンバー11間に架け渡されて、右側の端部が右側のレールメンバー11に直接固定され、左側の端部はブラケット52を介して左側のレールメンバー11に固定されている。
【0032】
図3および図4に示すように、ベースフレーム板51の左側(図3では下側)の端部には鉛直方向に延びる回動軸53が設けられている。そしてこの回動軸53には、ロアフレーム10内において左右方向に延びる長方形板状のバルブベース(第1の回動部材)60(図3に示す)およびローラアーム(第1の回動部材)70(図4に示す)の端部が、それぞれが独自に前後方向(図3,図4で矢印A−B方向)に回動するように支持されている。図5に示すように、この場合、バルブベース60の上に間隔を空けてローラアーム70が配されており、バルブベース60は、回動軸53に嵌め込まれたコイルばね54によって矢印A方向(前方側)に付勢されている。
【0033】
バルブベース60の回動基端部には、周面にギヤ歯が形成された扇状のギヤ55が一体に固定されている。この扇状ギヤ55のギヤ歯には、第1リンク56aと第2リンク56bからなるリンク機構56の第2リンク56bの側面に形成されたギヤ歯が噛合している。第1リンク56aと第2リンク56bはリンク軸56cを介して回転可能に結合されており、第1リンク56aの回動端部には、図3に示すようにケーブル57の一端部が係合している。ケーブル57は、第1リンク56aの回動端部から、ベースフレーム板51に取り付けられた半月状のガイド58aと管状のガイド58bを経て、乗員によって操作されるダイヤルやレバー等の図示しない操作部材に連結されている。
【0034】
ケーブル57を引っ張ると、第1リンク56aが図3において矢印C方向に引っ張られ、これによって第2リンク56bが矢印D方向に移動し、ギヤがE方向に回動させられ、バルブベース60はB方向(後方)に回動する。また、ケーブル57を引っ張る力を緩めると、コイルばね54の力によってバルブベース60はA方向(前方)に回動する。上記操作部材には、操作を停止した位置で停止するストッパ機構が設けられており、操作部材の操作を停止すると、バルブベース60はそのストッパ機構によって前後方向の回動が停止するようになされている。
【0035】
図5に示すように、バルブベース60上のほぼ中央には、バルブマウント59を介してバルブ61が固定されている。すなわちバルブ61はバルブベース60とともに回動する。バルブ61は常閉式の給気弁および排気弁を内蔵するものであって、外観が矩形の箱状を呈しており、一側面61a(図7参照:図7では上側の面)がバルブベース60の回動方向と交差する方向である右側に向くようにバルブベース60に固定されている。そしてその一側面61aの前側には給気弁を開く給気弁棒62が突出しており、後側には、排気弁を開く排気弁棒63が突出している。
【0036】
これら弁棒62,63は常に突出する方向に付勢されており、内側に押し込まれることにより給気弁および排気弁は開状態となる。また、バルブ61の一側面61aとは反対側の左側の側面61bの前側には、上記空気供給源から圧縮空気をバルブ61内に導入する配管が接続される給気口64が設けられており、後側には、上記エアスプリング40に空気を送出する配管が接続される送出口65が設けられている。なお、給気弁棒62および排気弁棒63が、本発明のバルブ開閉部を構成している。
【0037】
また、バルブ61の一側面61a側には、上記各弁棒62,63の間に配された上下方向に延びる揺動軸90を介してシーソー式のカム91が回転自在に支持されている。このカム91は、バルブ61とともにバルブベース60と一体的に回動する。カム91は、全体的には前後方向に延びる断面T字状の棒状部材であり、中央部に形成された左側に突出するボス91aが揺動軸90に回転自在に挿通されている。
【0038】
カム91は、ボス91aの前後両側に、右方に凸となる円弧部92a,92bが形成されたウイング状を呈しており、凸側(右側)の面に、カム91の延びる方向に沿って凸条91bが形成されている。カム91は揺動軸を支点として図7に示すように矢印P−Q方向にシーソーのように揺動する。
【0039】
上記ローラアーム70の先端部(右側の端部)はカム91よりも右側に延びており、その先端部には、図4に示すように上下方向に延びるローラ軸71aを介してローラ(カム操作部、コロ部材)71が回転自在に装着されている。ローラ71は上下に鍔部を有し、これら上下の鍔部間の周溝に、カム91の凸条91bが係合している。ローラ71は、カム91の凸条91bに係合した状態で、カム91の右側の面を圧接しながら前後方向に転動するようになされている。
【0040】
ローラ71には、前方に延びるロッド(連結部材)75の後端部が、ローラ71と同軸的に回転可能な状態に係合している。このロッド75の前端部は、前下側可動軸38に上方から嵌合された断面U字状のスリーブ76の上面に、水平方向に回転可能な状態に係合している。スリーブ76は前下側可動軸38に、該前下側可動軸38を軸として回転可能に嵌合されている。ロッド75は、リンク機構30の伸張・縮小に伴って前後方向に移動する前下側可動軸38と一体的に、自身の長手方向すなわち前後方向に移動する。
【0041】
上記カム91は、バルブ61とともに回動することにより、ロッド75の先端のローラ71に押されてP−Q方向(図7参照)に揺動する。カム91がP方向に揺動すると、図7(b)に示すように前側の円弧部92aが給気弁棒62を押してバルブ61を給気状態とする。また、カム91がQ方向に揺動すると、図7(c)に示すように後側の円弧部92bが排気弁棒63を押してバルブ61を排気状態とする。バルブ61が給気状態になると、エアスプリング40に空気が供給されてシートが上昇し、バルブ61が排気状態になると、エアスプリング40内の空気がバルブ61から排出されてシートは下降する。
【0042】
また、図7(a)に示すように、ローラ56がカム91の前後の円弧部92a,92bの境界に当たる凹部で形成される中間点93にある時には、バルブ61の給気弁棒62および排気弁棒63はいずれもカム91により押されず、エアスプリング40に対する給排気は行われない中立状態となる。
【0043】
図3に示すように、バルブベース60の先端部には、水平な円板ギヤ100が回転可能に支持されている。この円板ギヤ100の中心には、上方に突出する軸部101aを介してフランジ部101が形成されており(図6参照)、このフランジ部101が、バルブベース60の幅方向両側に形成された図示せぬ溝部に摺動可能に係合している。これにより円板ギヤ100は、バルブベース60の長手方向に沿って移動可能となっている。
【0044】
また、円板ギヤ100は、図6に示すように、ベースフレーム板51と、ベースフレーム板51の下側に固定されたガイド板110との間に形成されたスリット111に、前後方向に移動可能に挿入されている。ベースフレーム板51とガイド板110には、同じ位置に前後方向に延びるガイド孔51a,110aがそれぞれ形成されており、これらガイド孔51a,110aに円板ギヤ100の上記フランジ部101の軸部101aが摺動可能に挿入されている。フランジ部101の軸部101aがガイド孔51a,110aに沿って移動することにより、円板ギヤ100は前後方向に移動可能となっている。
【0045】
ガイド板110上における円板ギヤ100の左側には前後方向に延びるラック120が固定されており、円板ギヤ100の周面のギヤ歯102は、ラック120の右側面のギヤ歯121に噛み合っている。円板ギヤ100は、バルブベース60の回動に伴ってラック120に噛み合いながら前後方向に転動する。円板ギヤ100がラック120を転動するに伴い、円板ギヤ100はバルブベース60の長手方向に沿って移動し、したがって円板ギヤ100の転動はバルブベース60によっても拘束されないようになっている。
【0046】
上記スリット111は前後方向に開口しており、このスリット111には、前側の開口からロックバー130の後端部が、前後方向に移動可能に挿入されている。ロックバー130は前後方向に延びる板状のものであって、前端部には、前面にゴム等の弾性パッド131aが貼られたストッパ部131が形成されている。そのストッパ部131の前方には、前下側可動軸38に嵌合された上記スリーブ76が配されており、スリーブ76とストッパ部131との間には、通常は所定の間隔が空くように設定されている。スリット111に挿入されているロックバー130の後端面には、上記円板ギヤ100のギヤ歯102に噛合可能なラック状のギヤ歯132が形成されている。
【0047】
ロックバー130の前方には円板ギヤ100が配されているが、通常はロックバー130の前端と円板ギヤ100との間には所定の間隙が空くように設定されている。そして、リンク機構30が伸張するに伴って前下側可動軸38が後方に移動した際、前下側可動軸38がストッパ部131の弾性パッド131aに当接し、さらに後方に移動すると、ロックバー130は前下側可動軸38に押されて後方に動き、図3および図6に示すように、ロックバー130の前端のギヤ歯132が円板ギヤ100のギヤ歯102に噛み合う。
【0048】
ロックバー130のギヤ歯132が円板ギヤ100のギヤ歯102に噛み合うと、
円板ギヤ100はラック120とロックバー130のギヤ歯121,132に噛み合うことによりそれ以上の後退が不可能となり、このため、前下側可動軸38はそれ以上の前進が規制される。その結果、リンク機構30は上方への伸張が阻止され、シートの上昇動作が停止させられる。このロックバー130と、円板ギヤ100およびラック120とによって、前下側可動軸38がバルブ61に接近する方向に動いて所定距離移動した時にその移動を規制してリンク機構30の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構が構成されている。
【0049】
上記バルブベース60、バルブ61、ローラ71、ロッド75、カム91、サスペンションアッパー方向ロック機構等を主体として、シート高さ調節手段50が構成されている。続いて、このシート高さ調節手段40の作用を説明する。
【0050】
[3]シート高さ調節手段の作用
本実施形態のシート高さ調整手段40によると、シートの高さが自動的に一定高さに保たれる“シート高さ一定機能”と、シートを所望の高さに設定することができる“シート高さ設定機能”を有している。
【0051】
シート高さ一定機能は、シートに乗員が着座した状態でシートが一定高さに保たれる機能である。すなわち、シートに乗員が着座すると、アッパーフレーム20からリンク機構30に荷重がかかるため、リンク機構30は下方に縮小し、これに伴って前上側可動軸36と前下側可動軸38が前進する。
【0052】
前下側可動軸38が前進するに伴ってロッド75も前進し、さらにローラ71がカム91に沿って前方に転動する。すると、図7(b)に示すように、カム91はローラ71に押されて矢印P方向に揺動する。これによりバルブ61の給気弁棒62がカム91の前側の円弧部92aに押されて給気状態となり、エアスプリング40に空気が供給され、リンク機構30が上方に伸張してシートが上昇する。
【0053】
シートが上昇したら前下側可動軸38とロッド75が後退し、このため、図7(c)に示すように、ローラ71は後方に転動してカム91の中間点93を過ぎ、後側の円弧部92bまで移動す。すると、カム91はローラ71に押されて矢印Q方向に揺動する。これによりバルブ61は排気弁棒63がカム91の後側の円弧部92bに押されて排気状態となり、エアスプリング40内の空気はバルブ61から排出され、リンク機構30が下方に縮小してシートが下降する。
【0054】
このようにリンク機構30の伸縮に追従してエアスプリング40に対する空気の供給/排出が繰り返されることにより、シートは上下に振動しながら自動的に一定高さに保たれる。シートが一定高さに保たれている時には、図7(a)に示すように、ローラ71はカム91の中間点93に位置し、バルブ61の給気弁棒62および排気弁棒63はいずれもカム91により押されず、エアスプリング40に対する給排気は行われない中立状態となる。
【0055】
次に、シート高さ設定機能は、上記操作部材を用いてバルブ61を前後方向に回動させることにより実行させることができる。すなわち、シートを高く設定したい時には、操作部材を介してケーブル57を引っ張る。ケーブル57が引っ張られると、上記のようにリンク機構56とギヤ55の作用でバルブベース60が図3でB方向(後方)に回動し、バルブ61も後方に回動する。すると、図7(a)に示したようにカム91がP方向に回動し、カム91の前側の円弧部92aがローラ71に押され、バルブ61の給気弁棒62が前側の円弧部92aに押されて給気状態となる。これによりエアスプリング40に空気が供給され、リンク機構30が上方に伸張してシートが上昇する。操作部材の操作を停止すると、上記シート高さ一定機能が働いてシートの上昇は停止し、設定高さに保持される。
【0056】
一方、シートを低くしたい時には、操作部材によってケーブル57を緩め、バルブベース60の停止状態を解除する。すると、前方に付勢されているバルブベース60が前方に回動し、バルブ61も前方に回動する。すると、図7(c)に示したようにカム91は矢印Q方向に回動し、カム91の後側の円弧部92bがローラ71に押され、バルブ61の排気弁棒63が後側の円弧部92bに押されて排気状態となる。これによりエアスプリング40から空気が排気され、リンク機構30が縮小してシートが下降する。操作部材によってケーブル57を停止させるとバルブ61の回動が再び停止し、上記シート高さ一定機能が働いてシートの下降は停止して設定高さに保持される。
【0057】
ところで、シートを支持するリンク機構30のXリンク34においては、アッパーフレーム20すなわちシートの昇降量と前下側可動軸38の水平移動量とは比例しない。つまり、前下側可動軸38が内側に移動してシートが高くなるほど、前下側可動軸38の移動量に対してアッパーフレーム20の上昇量は大きくなる。ここで、バルブ61を回動させてシートの高さを調整するためのケーブル57の操作量(引っ張り量)は、通常であれば前下側可動軸38に比例し、したがってシートの昇降量とは比例せず、ケーブル57の操作感覚がシートの昇降量と不一致になって不満が生じることになる。
【0058】
ところが本実施形態では、ケーブル57とバルブベース60との間に扇状ギヤ55およびリンク機構56が介在していることにより、ケーブル57の操作量とシート(アッパーフレーム20)の昇降量とが比例し、シートの高さにかかわらず違和感なくシート高さを調整することができる。
【0059】
すなわち、リンク機構56においては、図3に示すように、第1リンク56aの前後方向に対する角度θを、Xリンク34の、前下側可動軸38が前端に設けられたリンクバー32の角度と同一に変位するように、扇状ギヤ55、および第1リンク56aと第2リンク56bとの組み合わせを設定する。これによりリンク機構56はXリンク34と相似形をなし、この結果、ケーブル57の操作量とシートの昇降量とを比例させることができるようになっている。
【0060】
また、本実施形態では、シートから乗員が立ち上がって負荷が無くなった時、エアスプリング40の力でリンク機構30は上方に伸張してシートが上昇するが、その時、後退する前下側可動軸38に押されたロックバー130が円板ギヤ100に噛合することにより、上記のようにしてシートの上昇高さが規制される。このため、シートから乗員が立ち上がる際に急激にシートが上昇して乗員に当たるといった不快感が防止される。
【0061】
本実施形態のシート高さ調節手段40は、ロアフレーム10内にほぼ収容されており、バルブベース60およびバルブ61、ローラ71、ロッド75、カム91等の可動部は、水平方向に移動する。このため、上下方向へのスペースをあまりとることなく平面的に構成要素を配設することができ、その結果、シート下の狭いスペースを有効利用することができ、省スペースが図られる。
【0062】
また、カム91は、前後の円弧部92a,92bが、それぞれバルブ61の給気弁棒62および排気弁棒63に作用するため、これら弁棒62,63に対するカム91の作用力を「てこの原理」により大きくすることができる。このため、各弁棒62,63を確実に作動させることができ、動作安定性を確保することができる。また、小さな力で各弁棒62,63を作動させることができることから、装置のコンパクト化が図られる。
【符号の説明】
【0063】
10…ロアフレーム
20…アッパーフレーム
30…リンク機構
38…後下側可動軸(水平移動部材)
40…エアスプリング
43…オイルダンパ
50…シート高さ調節手段
53…回動軸
60…バルブベース(第1の回動部材)
61…バルブ
62…給気弁棒(バルブ開閉部)
63…排気弁棒(バルブ開閉部)
70…ローラアーム(第2の回動部材)
71…ローラ(カム操作部、コロ部材)
75…ロッド(連結部材)
90…揺動軸
91…カム(カム部材)
100…円板ギヤ(サスペンションアッパー方向ロック機構)
120…ラック(サスペンションアッパー方向ロック機構)
130…ロックバー(サスペンションアッパー方向ロック機構)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアフレームと、
このロアフレームの上方に配設され、車両用シートを支持するアッパーフレームと、
前記ロアフレームに対して前記アッパーフレームを上下動可能に支持し、アッパーフレームの上下動に伴い略水平方向に移動する水平移動部材を有するリンク機構と、
空気供給源から空気が供給され、前記アッパーフレームが上方から受ける荷重を受けるエアスプリングと、
このエアスプリングの振動を吸収するダンパと、
前記ロアフレーム内あるいは前記アッパーフレーム内に配設され、前記アッパーフレームの高さ位置を調節するシート高さ調節手段と
を備えた車両用エアサスペンション式シート支持装置であって、
前記シート高さ調節手段は、
回動軸を共有し、該回動軸に、独自に、かつ、前記水平移動部材の移動方向に略沿う方向に変位するように回動自在に設けられた第1の回動部材および第2の回動部材と、
前記空気供給源から前記エアスプリングに空気が供給されて前記アッパーフレームを上昇させる給気状態、エアスプリングから空気が排気されて前記アッパーフレームを下降させる排気状態、およびエアスプリングへの給気と排気のいずれもなされずアッパーフレームを停止させる中立状態、の3つの状態を生じさせるバルブ開閉部を有し、該バルブ開閉部が、前記第1の回動部材の回動方向に交差する方向に向くようにして該第1の回動部材に固定されたバルブと、
前記バルブの前記バルブ開閉部に対向可能な状態に、前記第2の回動部材に装着されたカム操作部と、
このカム操作部と前記リンク機構の前記水平移動部材とを連結し、該水平移動部材と一体的にカム操作部を移動させる連結部材と、
前記バルブの前記バルブ開閉部と前記カム操作部との間に配設され、前記第1の回動部材とともに回動するバルブの回動動作に応じて、前記カム操作部により、バルブが前記水平移動部材から離間する方向に回動した場合には前記バルブ開閉部を前記給気状態とし、バルブが水平移動部材に接近する方向に移動した場合にはバルブ開閉部を前記排気状態とし、これら状態の中間位置においては前記バルブ開閉部を前記中立状態とするよう作動させられるカム部材と、
前記水平移動部材が前記バルブに接近する方向に所定距離移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構と
を備えることを特徴とする車両用エアサスペンション式シート支持装置。
【請求項2】
前記バルブにおける前記バルブ開閉部は、該バルブを、前記給気状態とする給気弁と、前記排気状態とする排気弁とを備えており、
前記カム部材は、前記水平移動部材の移動方向に延び、かつ、その中間部が前記回動軸と平行な揺動軸を支点として揺動可能に支持されており、前記第1の回動部材とともに回動する前記バルブの回動に応じて前記カム操作部により揺動させられ、前記バルブが前記水平移動部材から離間する方向に移動した場合には、一端部側が前記給気弁に作用し、バルブが水平移動部材に接近する方向に移動した場合には他端部側が前記排気弁に作用し、揺動の中間点においては、いずれの弁にも作用しないように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用エアサスペンション式シート支持装置。
【請求項3】
前記カム操作部は、前記カム部材に圧接しながら転動し、転動することによって該カム部材に作用するコロ部材を備え、該コロ部材は、前記連結部材に回転自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用エアサスペンション式シート支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−201958(P2010−201958A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46581(P2009−46581)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】