説明

車両用エンジン制御装置

【課題】アクセルペダルとブレーキペダルを誤って両踏みした場合のみならず、意図的に両踏みした場合にも対応する車両用エンジン制御装置を提供する。
【解決手段】アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏込操作されている両踏み状態であるか否かを判定する両踏み判定手段S20,S30と、両踏み状態であると判定されている時に(S20:Yes、S30Yes)、ブレーキペダルの踏込操作をアクセルペダルの踏込操作よりも優先してエンジン出力を制限させる出力制限手段S50と、を備える。そして、エンジン出力軸の回転速度を変速して駆動輪へ伝達する変速機がニュートラル状態である場合、又は車両が登り坂を走行する登坂走行状態である場合(S40:Yes)には、両踏み状態であると判定されている場合であっても、前記出力制限手段によるエンジン出力の制限を禁止する(S50)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン出力を制御する車両用エンジン制御装置であって、アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏み込まれた両踏み状態の時のエンジン出力制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクセルペダルの踏込量に基づいて電動スロットルバルブの開度を制御する等により、エンジン出力を電子制御する車両エンジン制御装置がある。このような電子制御の車両では次のような安全対策を講じることができる。例えば、ブレーキペダルを踏み損なってアクセルペダルも同時に踏み込んでしまう場合のように、ブレーキペダルと共にアクセルペダルを誤って両踏みした場合であっても、アクセルペダルの踏込量に応じたエンジン出力とならないようにエンジン出力を制限させる出力制限制御を行うことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−291930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した安全対策(出力制限制御)では、運転者が誤って両踏みした状況を想定しているが、運転者が意図的に両踏み操作する場合もある。
【0005】
例えば、登り坂で車両を発進させる場合において、ブレーキペダルを踏んだままアクセルペダルを踏み込むことにより、停車状態(車速ゼロ)のままでエンジン回転数を上昇させ、その後ブレーキペダルから足を離して加速発進させるといった両踏み操作である。特に、トレーラー等において重量物を登り坂で牽引する場合には上述した両踏み操作を行う機会が多い。なお、このような両踏み操作は自動変速機(AT)及び手動変速機(MT)のいずれを備える車両においても実施可能である。
【0006】
また、AT及びMTのいずれにおいても、変速機をニュートラルに操作した状態で、ブレーキペダルを踏んだままアクセルペダルを踏み込む両踏み操作を行うことにより、減速走行しながらもエンジン回転数を上昇させる場合や車速ゼロの状態でエンジン回転数を上昇させる場合がある。例えば、カーブの手前にさしかかった時にブレーキペダルを踏んで減速走行している状態において、クラッチペダルを踏んだタイミングで、ブレーキペダルと共にアクセルペダルを踏み込むことによりエンジン回転数を上昇させる、所謂ヒールアンドトゥ操作による両踏みがある。
【0007】
しかし、上述した出力制限制御を実施する車両においては、誤って両踏みした場合の安全を図ることができる反面、上述の如く意図的に両踏み操作してもエンジン回転数(エンジン出力)が意図したようには上昇しなくなる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、アクセルペダルとブレーキペダルを誤って両踏みした場合のみならず、意図的に両踏みした場合にも対応する車両用エンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏込操作されている両踏み状態であるか否かを判定する両踏み判定手段と、前記両踏み状態であると判定されている時に、前記ブレーキペダルの踏込操作を前記アクセルペダルの踏込操作よりも優先してエンジン出力を制限させる出力制限手段と、を備え、エンジン出力軸の回転速度を変速して駆動輪へ伝達する変速機が動力伝達を遮断するニュートラル状態である場合、又は車両が登り坂を走行する登坂走行状態である場合には、前記両踏み状態であると判定されている場合であっても、前記出力制限手段によるエンジン出力の制限を禁止することを特徴とする。
【0011】
上記発明は、運転者が意図的に両踏み操作する場合にはニュートラル状態か登坂走行状態のいずれかであることに着目し、ニュートラル状態又は登坂走行状態である場合には、両踏み状態であると判定されていても出力制限手段によるエンジン出力制限を禁止するので、運転者の意図した通りにエンジン出力を上昇させることができる。また、ニュートラル状態か登坂走行状態でなければ、誤って両踏みした場合にはエンジン出力が制限されるので安全性を向上できる。
【0012】
請求項2記載の発明では、車両の走行位置を検出するとともに検出した走行位置の道路情報を有するナビゲーション装置を備えた車両に適用され、前記ナビゲーション装置により検出した走行位置及び道路情報に基づき、登坂走行状態であるか否かを判定することを特徴とする。これによれば、車両の傾斜角度を検出する傾斜角センサ等のセンサを要することなく、登坂走行状態であるか否かを容易に判定できる。
【0013】
請求項3記載の発明では、車両の傾斜角度を検出する傾斜角センサを備えた車両に適用され、前記傾斜角センサにより検出した傾斜角度に基づき登坂走行状態であるか否かを判定することを特徴とする。これによれば、道路情報を通信で取得する通信手段等の手段を要することなく、登坂走行状態であるか否かを容易に判定できる。
【0014】
なお、車両の加速度を検出する加速度センサを備えた車両においては、加速度センサの検出値に基づき車両の傾斜角度を演算できるので、加速度センサの検出値に基づき登坂走行状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0015】
請求項4記載の発明では、前記変速機は、変速段を自動で切り替える自動変速機であり、変速段を自動切り替えする過程でニュートラル状態となったタイミングで、前記出力制限手段によるエンジン出力の制限を禁止することを特徴とする。
【0016】
運転者の中には、自動変速機が変速段を自動切換する過程でニュートラル状態となったタイミングで、意図的に両踏み操作してエンジン回転速度の上昇を図る者がいる。この点を鑑みた上記発明では、前記タイミングでエンジン出力制限を禁止するので、運転者の意図した通りにエンジン出力を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態にかかるエンジン制御システムの概略構成を示す図。
【図2】アクセルペダルがフロア支持式(オルガン式)である場合における、アクセルペダルとブレーキペダルの位置関係を示す図。
【図3】アクセルペダルが吊り下げ式である場合における、アクセルペダルとブレーキペダルの位置関係を示す図。
【図4】本発明の一実施形態において、アクセル開度の出力制御の処理手順を示すフローチャート。
【図5】図4に示すアクセル開度の制限制御の処理手順を示すフローチャート。
【図6】図4に示すアクセル開度の復帰制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
先ず、本実施形態にかかる車両用エンジン制御装置が適用されたエンジン制御システム全体の概略構成を、図1に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すエンジン11(内燃機関)は点火式のガソリンエンジンであり、エンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、電動モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0021】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各気筒の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0022】
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0023】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ27が取り付けられている。また、クランク軸28の外周側には、クランク軸28が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ29が取り付けられ、このクランク角センサ29の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0024】
更に、アクセルセンサ31によってアクセルペダル32の操作量が検出され、ブレーキスイッチ33(ブレーキセンサ)によってブレーキペダル34の踏込操作が検出されると共に、車速センサ35によって車速が検出される。ここで、ブレーキペダル34は、車両の運転中に車両を減速又は停止させるための常用ブレーキ装置のブレーキ操作部である。また、アクセルペダル32やブレーキペダル34は、図3に例示する吊り下げ式(ペンダントタイプ)のペダルでも良いし、或いは、図2に例示するフロア支持式(オルガン式)のペダルでも良い。
【0025】
図2は、吊り下げ式のブレーキペダル34とフロア支持式のアクセルペダル32との位置関係を示す図であり、アクセルペダル32は、車両乗員の足裏で踏込み操作される踏込操作面を有するペダル部32aと、ペダル部32aのうち車両後方側の端部を回動可能に支持するとともに車体のフロア部50に固定された支持部32bと、ペダル部32aを上方へ押し戻す向きに弾性力を付勢するバネ部32cと、を備えて構成されている。ブレーキペダル34は、車両乗員の足裏で踏込み操作される踏込操作面を有するペダル部34aと、ペダル部34aから上方に延びるアーム部34bと、アーム部34bの上端を回動可能に支持する支持部34cと、を備えて構成されている。
【0026】
車体のフロア部50は、水平に拡がる形状の金属製パネルにより形成されている。なお、フロア部50の前方端部には傾斜状の金属製パネルにより形成されるキックアップ部51が接続され、キックアップ部51の前方端部には、鉛直に広がる形状の金属製パネルにより形成されるダッシュパネル52(ファイアウォール)が接続されている。そして、アクセルペダル32の支持部32bは、このフロア部50に取り付けられている。
【0027】
図3は、アクセルペダル320が吊り下げ式である場合の図であり、このアクセルペダル320は、車両乗員の足裏で踏込み操作される踏込操作面を有するペダル部320aと、ペダル部320aから上方に延びるアーム部320bと、アーム部320bの上端を回動可能に支持する支持部320cと、を備えて構成されている。
【0028】
これら各種センサやスイッチの出力は、電子制御回路(ECU30)に入力される。このECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することでエンジン制御手段としての役割を果たし、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。その際、ECU30は、アクセルセンサ31で検出したアクセル開度(アクセルペダル32の操作量)に基づいてスロットル開度(吸入空気量)等を制御してエンジン11の出力を制御する。
【0029】
これら図2及び図3に示すように、アクセルペダル32,320とブレーキペダル34は、フロア部50の上方にて並べて配置されており、運転者が片足で両ペダル32,320,34を同時に踏み込むことができるような位置関係に配置されている。なお、図2及び図3は、両ペダル32,320,34が踏込操作されていない状態を示しており、この状態において、アクセルペダル32,320の踏込操作面は、ブレーキペダル34の踏込操作面よりも下方に位置している。
【0030】
ECU30は、アクセルセンサ31の出力信号に基づいてアクセルペダル32の踏み込み(オン操作)を判定すると共に、ブレーキスイッチ33の出力信号に基づいてブレーキペダル34の踏み込み(オン操作)を判定する。なお、アクセルセンサ31により検出されたアクセルペダル32の踏込量が所定値A1以上である場合に、アクセルペダル32が踏み込まれていると判定(オン操作を判定)する。そして、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33が共にオン操作を判定している時には、アクセルペダル32及びブレーキペダル34が共に踏込操作されている両踏み状態であると判定する。
【0031】
両踏み状態を判定するにあたり、アクセルセンサ31により検出された踏込操作開始時期、及びブレーキスイッチ33により検出された踏込操作開始時期のいずれが先であるか否かは無関係であり、いずれが先であっても、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33が共にオン操作判定している時には両踏み状態であると判定する。
【0032】
また、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33が共にオン操作判定している時点において、エンジン出力軸の回転速度を変速して駆動輪へ伝達する変速機ATが動力伝達を遮断するニュートラル状態又は動力伝達する連結状態のいずれであっても、上述の如く共にオン操作判定していれば両踏み状態であると判定する。図1に示す変速機(トランスミッション)には、その変速段を自動で切り替える自動式(AT)が採用されているが、変速段を運転者が手動操作して切り替えるマニュアル式(MT)であってもよい。そして、AT及びMTのいずれであっても、上述の如く共にオン操作判定している場合にはニュートラル状態であるか否かに拘わらず両踏み状態と判定する。
【0033】
両踏み状態であると判定した場合には、エンジン制御用のアクセル開度(エンジン11の制御に使用するアクセル開度)を車速に応じた制限値にするアクセル開度制限制御(出力制限制御)を実行する。一方、ブレーキペダル34のオン操作が検出されていない時にアクセルペダル32のオン操作が検出されている場合には、運転者の加速意図があると判断して、アクセル開度制限制御を禁止する。
【0034】
次に、図4〜図6を用いて、ECU30により実施されるアクセル開度出力制御の処理手順を説明する。
[アクセル開度出力制御ルーチン]
図4に示すアクセル開度出力制御ルーチンは、ECU30の電源オン中に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップS10で、車速が所定値V1 以上であるか否かを判定する。
【0035】
このステップS10で、車速が所定値V1 以上であると判定された場合には、ステップS20(両踏み判定手段)に進み、実アクセル開度が所定値A1よりも大きいか否かを判定する。ここで、所定値A1は、予め設定した固定値としても良いし、車速に応じて設定するようにしても良い。
【0036】
このステップS20で、実アクセル開度が所定値A1よりも大きい(アクセルペダル32が踏み込まれている)と判定された場合には、ステップS30(両踏み判定手段)に進み、ブレーキOFF(ブレーキペダル34の踏み込みが解除された状態)からブレーキON(ブレーキペダル34が踏み込まれた状態)になったか否かを判定する。
【0037】
ブレーキONになった場合には、アクセルペダル32及びブレーキペダル34が共に踏み込まれた両踏み状態であると判定(S30:Yes)して次のステップS40に進む。一方、上記ステップS30で「No」と判定された場合には上記ステップS10に戻る。なお、アクセルセンサ31により検出された踏込操作開始時期、及びブレーキスイッチ33により検出された踏込操作開始時期のいずれが先であるか否かは無関係であり、いずれが先であっても、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33が共にオン操作判定している時には両踏み状態であると判定している。
【0038】
ステップS40では、ステップS30で肯定判定された両踏み状態が、運転者による意図的な操作であるか否かを判定する。具体的には、車両が登り坂に在る登坂走行状態、あるいは、変速機ATがニュートラル状態である場合に、意図的に両踏み操作していると判定(S40:Yes)する。
【0039】
すなわち、登り坂で車両を発進させる場合において、ブレーキペダル34を踏んだままアクセルペダル32を踏み込むことにより、停車状態(車速ゼロ)のままでエンジン回転数を上昇させ、その後ブレーキペダル34から足を離して加速発進させるといった車両走行を行う場合がある。この場合には両踏み操作が意図的に為されることとなる。そして、このような車両走行は登り坂で実施する可能性が高いため、上記ステップS40で自車両が登り坂に在ると判定した場合に、意図的に両踏み操作していると判定する。
【0040】
自車両が登り坂に在るか否かについては、ナビゲーション装置36(図1参照)により検出した自車両の走行位置及び道路情報に基づき判定する。すなわち、GPSシステムにより自車両の走行位置を検出し、検出した走行位置に該当する道路が登り坂であるか否かを道路情報に基づき判定する。現時点で走行している道路の情報をリアルタイムに受信する道路情報受信装置を備える場合には、受信した道路情報に基づき自車両が登り坂に在るか否かを判定することもできる。
【0041】
また、変速機ATがニュートラル状態である時に、ブレーキペダル34を踏んだままアクセルペダル32を踏み込むことにより、減速走行しながらもエンジン回転数を上昇させる車両走行を行う場合がある。この場合には両踏み操作が意図的に為されることとなる。そして、このような車両走行で為される両踏み操作は、変速機ATがニュートラル状態である時に限られるため、上記ステップS40でニュートラル状態であると判定した場合に、意図的に両踏み操作していると判定する。
【0042】
変速機ATがニュートラル状態であるか否かについては、運転者がシフトレバーを操作して走行レンジを変更した場合に、シフトチェンジを開始してから完了するまでの所定時間をニュートラル状態であると判定する。又は、シフトレバーがニュートラルレンジに操作されている場合にニュートラル状態であると判定する。
【0043】
ステップS40にて両踏みが意図的な操作でないと判定(S40:No)された場合には、ステップS50(出力制限手段)に進み、後述する図5のアクセル開度制限制御ルーチンを実行する。これにより、両踏みが検出され(S30:Yes)、かつ、意図的操作でないと判定(S40:No)した場合には、エンジン制御用のアクセル開度を制限値まで減少させるアクセル開度制限制御(S50)を実行する。一方、両踏みが検出された場合であっても、意図的操作であると判定(S40:Yes)した場合には、次のステップS60に進み、ステップS50によるアクセル開度制限制御の実行を禁止して、図4の処理を一旦終了する。
【0044】
ステップS50によるアクセル開度制限制御が実行されると、その後、ステップS70に進み、アクセル開度制限制御の実行中にブレーキONからブレーキOFFになったか否かを判定する。このステップS70で、アクセル開度制限制御の実行中にブレーキONからブレーキOFFになったと判定された場合には、ステップS80に進み、後述する図6のアクセル開度復帰制御ルーチンを実行する。これにより、アクセル開度制限制御の実行中にブレーキONからブレーキOFFになったと判定された場合には、運転者が意図的にブレーキペダル34の踏み込みを解除したため、エンジン出力を抑制する必要はないと判断して、エンジン制御用のアクセル開度を実アクセル開度に戻すアクセル開度復帰制御を実行する。
【0045】
この後、ステップS90に進み、実アクセル開度が所定値A4よりも小さいか否かを判定する。ここで、所定値A4は、上記ステップS20の所定値A1よりも小さい値に設定されている。このステップS90で、実アクセル開度が所定値A4よりも小さいと判定された場合には、アクセル開度復帰制御を終了する。
[アクセル開度制限制御ルーチン]
図5に示すアクセル開度制限制御ルーチンは、前記図4のアクセル開度出力制御ルーチンのステップS50で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップS51で、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じた減算量をマップ等により算出する。ここで、減算量のマップは、例えば、アクセル開度制限制御開始時の車速が低くなるほど減算量が小さくなってエンジン制御用のアクセル開度の変化速度(減少速度)が遅くなるように設定されている。
【0046】
この後、ステップS52に進み、本ルーチンの演算周期毎に前回のエンジン制御用のアクセル開度(初期値は実アクセル開度)から減算量だけ減算して今回のエンジン制御用のアクセル開度を求める(今回のエンジン制御用アクセル開度=前回のエンジン制御用アクセル開度−減算量)。
【0047】
この後、ステップS53に進み、アクセル開度制限制御開始時の車速(又は現在の車速)に応じた制限値をマップ等により算出する。ここで、制限値のマップは、例えば、アクセル開度制限制御開始時の車速(又は現在の車速)が低くなるほど制限値が小さくなるように設定されている。
【0048】
この後、ステップS54に進み、エンジン制御用のアクセル開度が制限値以下であるか否かを判定し、エンジン制御用のアクセル開度が制限値よりも大きいと判定されれば、上記ステップS52に戻り、前回のエンジン制御用のアクセル開度から減算量だけ減算して今回のエンジン制御用のアクセル開度を求める処理を繰り返す。
【0049】
その後、上記ステップS54で、エンジン制御用のアクセル開度が制限値以下であると判定されたときに、本ルーチンを終了する。以上の処理により、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じた変化速度(減少速度)でエンジン制御用のアクセル開度を制限値まで減少させるアクセル開度制限制御を実行する。
[アクセル開度復帰制御ルーチン]
図6に示すアクセル開度復帰制御ルーチンは、前記図4のアクセル開度出力制御ルーチンのステップS80で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップS81で、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)に応じた加算量をマップ等により算出する。ここで、加算量のマップは、例えば、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)が低くなるほど加算量が小さくなってエンジン制御用のアクセル開度の変化速度(増加速度)が遅くなるように設定されている。
【0050】
この後、ステップS82に進み、本ルーチンの演算周期毎に前回のエンジン制御用のアクセル開度に加算量だけ加算して今回のエンジン制御用のアクセル開度を求める(今回のエンジン制御用アクセル開度=前回のエンジン制御用アクセル開度+加算量)。
【0051】
この後、ステップS83に進み、エンジン制御用のアクセル開度が実アクセル開度以上であるか否かを判定し、エンジン制御用のアクセル開度が実アクセル開度よりも小さいと判定されれば、上記ステップS82に戻り、前回のエンジン制御用のアクセル開度に加算量だけ加算して今回のエンジン制御用のアクセル開度を求める処理を繰り返す。
【0052】
その後、上記ステップS83で、エンジン制御用のアクセル開度が実アクセル開度以上であると判定されたときに、本ルーチンを終了する。以上の処理により、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)に応じた変化速度(増加速度)でエンジン制御用のアクセル開度を実アクセル開度まで増加させるアクセル開度復帰制御を実行する。
【0053】
以上により、本実施形態によれば、ニュートラル状態又は登坂走行状態である場合(S40:No)には、両踏み状態であると判定(S30:Yes)されていてもアクセル開度制限制御を禁止(S60)するので、運転者の意図した通りにエンジン回転速度を上昇させることができる。
【0054】
また、例えばブレーキペダル34を踏み込む際に誤ってアクセルペダル32も共に踏み込んでしまった場合には、両踏み状態と判定してアクセル開度制限制御が実施されるので、ニュートラル状態か登坂走行状態でなければ、エンジン出力が制限されて安全性を向上できる。
【0055】
さらに本実施形態によれば、以下の効果も得られるようになる。
【0056】
・両踏み判定してアクセル開度制限制御を実行するにあたり、エンジン制御用のアクセル開度を車速に応じた制限値にすることで、車速に応じてエンジン出力を抑制することができるため、アクセルペダル32とブレーキペダル34が両方とも踏み込まれたときの安全性を向上できる。
【0057】
・アクセル開度制限制御を実行する際に、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じた変化速度でエンジン制御用のアクセル開度を制限値まで減少させるようにしたので、エンジン制御用のアクセル開度を適度な変化速度で制限値まで減少させることができ、エンジン出力の急変を回避して、ドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0058】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0059】
・図4のステップS40において自車両が登り坂に在るか否かについて判定するにあたり、上記実施形態ではナビゲーション装置36を用いて判定しているが、車両に搭載された傾斜角センサ37(図1参照)により検出された水平方向に対する車両の後傾側へのピッチング角度(傾斜角度)が、所定角度以上である場合に、自車両が登り坂に在ると判定するようにしてもよい。また、車両に搭載された加速度センサの検出値に基づき登り坂に在るか否かを判定するようにしてもよい。
【0060】
・図4のステップS40において自車両が登り坂に在るか否かについて判定するにあたり、上記実施形態では、ナビゲーション装置36により検出した自車両の走行位置及び道路情報に基づき判定しているが、この道路情報は、ナビゲーション装置36に記憶された地図情報であってもよいし、道路交通情報通信システム(VICS)から取得した情報であってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、アクセルペダル32及びブレーキペダル34のいずれが先に踏み込まれた場合であっても、図4のステップS30では「Yes」と判定(両踏み判定)するが、次のように判定させてもよい。すなわち、アクセルペダル32の踏み込み時(アクセルペダル32が踏み込まれるのと同時か又は踏み込まれた後)にブレーキペダル34が踏み込まれた場合に両踏み判定(S30:Yes)し、アクセルペダル32が踏み込まれる前にブレーキペダル34が踏み込まれた場合には、上記ステップS30で「No」と判定してもよい。
【0062】
・図4のステップS20では、実アクセル開度>所定値A1である場合にアクセルペダル32が踏み込まれていると判定(オン操作を判定)するが、実アクセル開度>0である場合にオン操作を判定してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、アクセル開度制限制御を実行する際に、アクセル開度制限制御開始時の車速に応じた変化速度でエンジン制御用のアクセル開度を制限値まで減少させるようにしたが、これに限定されず、例えば、エンジン制御用のアクセル開度を速やかに制限値まで減少させたい場合には、エンジン制御用のアクセル開度をステップ的に制限値に切り換えるようにしても良い。
【0064】
・上記実施形態では、アクセル開度復帰制御を実行する際に、アクセル開度復帰制御開始時の車速(又はアクセル開度制限制御開始時の車速)に応じた変化速度でエンジン制御用のアクセル開度を実アクセル開度まで増加させるようにしたが、これに限定されず、例えば、エンジン制御用のアクセル開度を速やかに実アクセル開度まで増加させたい場合には、エンジン制御用のアクセル開度をステップ的に実アクセル開度に切り換えるようにしても良い。
【0065】
・上記実施形態では、常用ブレーキ装置(車両の運転中に車両を減速や停止させるためのブレーキ装置)のブレーキペダル34のオン操作やオフ操作に基づいてアクセル開度制限制御やアクセル開度復帰制御を実行するようにしたが、これに限定されず、例えば、パーキングブレーキ装置(車両の駐車時に車両を止めておくためのブレーキ装置)のブレーキペダルのオン操作やオフ操作に基づいてアクセル開度制限制御やアクセル開度復帰制御を実行するようにしても良い。
【0066】
・上記実施形態では、変速段を自動で切り替える変速機ATを備えた車両に本発明を適用させているが、変速段が運転者により手動で切り替えられるマニュアル式の変速機(MT)に適用させてもよい。
【0067】
・本発明は、ブレーキペダル34の踏込操作の有無を検出するブレーキスイッチ33に替えて、ブレーキペダル34の踏込量を検出するブレーキセンサを備えた車両に適用しても良い。
【0068】
・本発明は、図1に示すような吸気ポート噴射式エンジンに限定されず、筒内噴射式エンジンや、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンにも適用して実施できる。
【符号の説明】
【0069】
32,320…アクセルペダル、34…ブレーキペダル、36…ナビゲーション装置、37…傾斜角センサ、S20,S30…両踏み判定手段、S50…出力制限手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏込操作されている両踏み状態であるか否かを判定する両踏み判定手段と、
前記両踏み状態であると判定されている時に、前記ブレーキペダルの踏込操作を前記アクセルペダルの踏込操作よりも優先してエンジン出力を制限させる出力制限手段と、
を備え、
エンジン出力軸の回転速度を変速して駆動輪へ伝達する変速機が動力伝達を遮断するニュートラル状態である場合、又は車両が登り坂を走行する登坂走行状態である場合には、前記両踏み状態であると判定されている場合であっても、前記出力制限手段によるエンジン出力の制限を禁止することを特徴とする車両用エンジン制御装置。
【請求項2】
車両の走行位置を検出するとともに検出した走行位置の道路情報を有するナビゲーション装置を備えた車両に適用され、
前記ナビゲーション装置により検出した走行位置及び道路情報に基づき、登坂走行状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項3】
車両の傾斜角度を検出する傾斜角センサを備えた車両に適用され、
前記傾斜角センサにより検出した傾斜角度に基づき登坂走行状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項4】
前記変速機は、変速段を自動で切り替える自動変速機であり、
変速段を自動切り替えする過程でニュートラル状態となったタイミングで、前記出力制限手段によるエンジン出力の制限を禁止することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用エンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82787(P2012−82787A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231271(P2010−231271)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】