説明

車両用ガラスアンテナ受信システム

【課題】 製造コストを低減可能な車両用ガラスアンテナ受信システム等を提供する。
【解決手段】 車両用ガラスアンテナ受信システムは、自動車の後部窓ガラス21等のガラスに設けられた、FM用のラジオアンテナ23(第1のアンテナ)に対して付加的なアンテナ22(第2のアンテナ)と、付加的なアンテナ22の給電部26に接続点(配線27の一端)で接続される配線27と、配線27の他端に接続される受信機4と、を備える。受信機26に接続される配線27の接続点(配線27の一端)での受信機4側のインピーダンスに対応する反射係数の位相角がFMの周波数帯域の上限周波数(例えば108[MHz])で−115〜0[deg]の範囲(好ましくは−90〜0[deg]の範囲)に入っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のガラスに設けられたアンテナと、このアンテナで電波を受信する受信機とを備える車両用ガラスアンテナ受信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の種類又はグレードによって、後部窓ガラス(リアガラス)に設けられるアンテナ又はメディアの数は変化する。例えば、AM及びFM用のラジオアンテナは、すべてのグレードに共通に設定されるが、他メディア用のアンテナは、選択的にあるグレードだけに付加的に設定される場合がある。また、自動車等の車両のガラスに複数のアンテナが設けられる場合、複数のアンテナは相互に影響を及ぼしてしまうことがある。つまり、選択的にあるグレードだけに付加的に他メディア用のアンテナが設定される場合、FM用のラジオアンテナの特性が、他メディア用のアンテナの設定が無い場合と比べ変化してしまい、同一の種類の自動車にもかかわらず、各グレードでFM用のラジオアンテナの最適化が個別に必要になってしまう。
【0003】
特許文献1の図1は、後部窓ガラス21に設けられたAM/FM用アンテナ23及びテレビ用アンテナ22を開示し、テレビ用アンテナ22とテレビ受信装置4との間にスイッチ手段5が設けられている。テレビを使用していない状態ではスイッチ手段5内のダイオード52は非導通状態に設定され、スイッチ手段5のインピーダンスは高くなる。この場合、テレビ用アンテナ22とテレビ受信装置4との間で交流が遮断される。これにより、AM/FMアンテナ23の受信感度が低下することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−39015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のスイッチ手段5は、例えばダイオード52と電流制限用の抵抗53と直流阻止用のコンデンサ54とを有し、アンテナ受信システム全体として、部品点数が増加してしまう。また、スイッチ手段5の分だけ、アンテナ受信システムの製造コストも増加してしまう。さらに、スイッチ手段5は、制御入力端子51において、テレビ受信中であることを示す電圧信号を入力する必要があり、制御入力端子51とテレビ受信装置4との間の制御ケーブル等の配線、及びテレビ受信装置4側の出力端子も追加する必要がある。
【0006】
本発明の1つの目的は、製造コストを低減可能な車両用ガラスアンテナ受信システム等を提供することである。本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び好ましい実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0008】
本発明に従う第1の態様は、車両のガラスに設けられた、FM用のラジオアンテナに対して付加的なアンテナと、
前記付加的なアンテナに接続点で接続される配線と、
前記配線に接続される受信機と、
を備え、
前記受信機に接続される前記配線の前記接続点での前記受信機側のインピーダンスに対応する反射係数の位相角がFMの周波数帯域の上限周波数で−115〜0[deg]の範囲に入っていることを特徴とする車両用ガラスアンテナ受信システムに関係する。
【0009】
付加的なアンテナ(第2のアンテナ)に対する接続点での受信機(第2の受信機)側の反射係数の位相角を調整することにより、車両用ガラスアンテナ受信システムは、第2のアンテナと第2の受信機との間に特許文献1のスイッチ手段5のような追加的な部品を備える必要がない。従って、車両用ガラスアンテナ受信システムの製造コストを低減することができる。
【0010】
第1の態様において、車両用ガラスアンテナ受信システムは、
前記ガラスに設けられた、前記FM用のラジオアンテナと、
前記FM用のラジオアンテナに配線を介して接続される受信機と、
をさらに備えてもよい。
【0011】
第2の受信機側の反射係数の位相角が調整されているので、単一のガラスに第1のアンテナ(FM用のラジオアンテナ)及び第2のアンテナを設けても、FM用のラジオアンテナの受信感度の低下を抑制することができる。なお、FM用のラジオアンテナに接続される受信機(第1の受信機)は、独立した専用の受信機で構成してもよく、例えば、第1の受信機の機能を有する第2の受信機で構成してもよい。
【0012】
第1の態様において、前記反射係数の位相角が前記上限周波数で−90〜0[deg]の範囲に入ってもよい。
【0013】
第2の受信機側の反射係数の位相角をさらに調整することで、FM用のラジオアンテナの受信感度の低下をさらに抑制することができる。
【0014】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従う車両用ガラスアンテナ受信システムの概略構成図を示す。
【図2】FM用のラジオアンテナの受信感度が低下してしまう時の付加的なアンテナの給電部から付加的なアンテナの受信機側を見たインピーダンス特性を示す。
【図3】図3(A)及び図3(B)は、それぞれ、条件1及び条件2に従う付加的なアンテナが設定された場合の、付加的なアンテナが設定されていない状態からのFM用のラジオアンテナの利得変動量を示す。
【図4】図2のインピーダンス特性に加えて、付加的なアンテナの受信機側のインピーダンス(反射係数の位相角)が調整されたインピーダンス特性を示す。
【図5】受信感度の低下が抑制されたFM用のラジオアンテナの利得変動量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する好ましい実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0017】
図1は、本発明に従う車両用ガラスアンテナ受信システムの概略構成図を示す。図1に示されるように、車両用ガラスアンテナ受信システムは、給電部26(第2の給電部)を有する付加的なアンテナ22(第2のアンテナ)と、このアンテナ22に接続される受信機4(第2の受信機)とを備える。アンテナ22と受信機4との間には、配線27(第2の配線)が設けられ、配線27の一端は、接続点で給電部26に接続され、配線27の他端は、受信機4に接続されている。車両用ガラスアンテナ受信システムは、付加的なアンテナ22と受信機4との間にスイッチ手段を備える必要がない。言い換えれば、アンテナ22と受信機4との間は、配線27だけで接続されており、常時交流信号の伝送が可能な状態になっている。スイッチ手段の代わりに、給電部26から受信機4側を見たインピーダンス(反射係数の位相角)が調整されている。インピーダンス(反射係数の位相角)の調整手法については後述する。車両用ガラスアンテナ受信システムは、特許文献1のスイッチ手段5のような追加的な部品を備えないので、車両用ガラスアンテナ受信システムの製造コストを低減することができる。
【0018】
図1の例において、車両用ガラスアンテナ受信システムは、給電部24(第1の給電部)を有するFM用のラジオアンテナ23(第1のアンテナ)と、このラジオアンテナ23に接続される受信機3(第1の受信機)とを備えることができる。図1の例において、FM用のラジオアンテナ23は、自動車の単一の後部窓ガラス21に設けられ、付加的なアンテナ22もその後部窓ガラス21に設けられている。ラジオアンテナ23と受信機3との間には、配線25(第1の配線)が設けられ、配線25の一端及び他端は、それぞれ、給電部24及び受信機3に接続されている。
【0019】
ラジオアンテナ23及びアンテナ22は、例えば銀の微細な粒子、低融点ガラス粉末等を有機溶媒でペースト状にした導電ペーストを後部窓ガラス21上にスクリーン印刷し、さらに焼成して形成される。ラジオアンテナ23及びアンテナ22は、車両用ガラスアンテナであり、車両用ガラスアンテナは、後部窓ガラス21等のガラスの上に直接に形成されている。代替的に、車両用ガラスアンテナは、ガラスの上に例えばシート(図示せず)を介して形成されてもよく、シートは、例えば、ガラスに固定される透明絶縁フイルムシート等であり、ラジオアンテナ23及び/又はアンテナ22の導電パターンをシートの上に直接に形成してもよい。
【0020】
図1の例において、ラジオアンテナ23は、FM用の導電パターンで形成されるが、その導電パターンは、図1の例に限定されず、変形してもよい。FMの周波数帯域は、例えば日本国外(world wide)のFMアナログ周波数帯域であり、ほぼ88〜108[MHz]である。
【0021】
図1の例において、アンテナ22の導電パターンは、表されていない。言い換えれば、アンテナ22の配置領域がブロックで図示されている。その配置領域は、図1の例に限定されず、変形してもよい。アンテナ22は、ラジオアンテナ23の導電パターンと異なる導電パターンを形成すれば十分である。即ち、アンテナ22は、例えば、DAB(digital audio broadcasting)用のアンテナである。アンテナ22は、例えば、DABのバンドIII用の導電パターンを形成し、この場合、DABの周波数帯域は、ほぼ174〜240[MHz]である。代替的に、アンテナ22は、例えば、DABのバンドIII及びLバンド(ほぼ1452〜1492[MHz])用の導電パターンを形成してもよい。なお、アンテナ22の導電パターンは、アンテナ22のメディア(例えばDAB)及び/又は周波数帯域に応じて、決定することができる。
【0022】
後部窓ガラス21は、デフォッガ用の熱線パターン(図示せず)を有することができ、熱線パターンは、ラジオアンテナ23及び/又はアンテナ22の導電パターンと共に形成することができる。なお、デフォッガ用の熱線パターンを例えばラジオアンテナ23の導電パターンの一部として使用してもよい。配線25及び配線27は、例えば同軸ケーブルである。配線25及び配線27は、給電線又は伝送路と呼ぶことができる。図1の例において、配線25及び配線27並びに受信機3及び受信機4は、概念的に示されており、自動車の内部に配置することができる。なお、受信機3及び受信機4は、それぞれ、独立した専用の受信機であるが、受信機3及び受信機4を1つの受信機で構成してもよい。
【0023】
ところで、スイッチ手段を用いないで単一の後部窓ガラス21に、FM用のラジオアンテナ23だけでなく、付加的なアンテナ22も配置する時のFM用のラジオアンテナ23へ与える影響について、本発明者らは評価することを試みた。様々な観点から評価を実施した結果、本発明者らは、FMアナログ周波数帯域内の周波数ポイントと、この周波数ポイントでのアンテナ22の給電部26から受信機4側を見たインピーダンスの位相角との間に、関係性があることを認識した。以下に、本発明者らの認識を具体的に説明する。
【0024】
図2は、FM用のラジオアンテナ23の受信感度が低下してしまう時のアンテナ22の給電部26から受信機4側を見たインピーダンス特性を示す。受信機4側(受信機4及び配線27)の条件(例えば配線27の長さ)が異なる2つのインピーダンスZ(入力インピーダンス、負荷インピーダンス)がスミスチャート上で図示されている。なお、図2で示すスミスチャートの正規化インピーダンスは、50[Ω]である。
【0025】
図3は、FMの周波数帯域(88〜108[MHz])におけるFM用のラジオアンテナ23の利得変動量を示す。具体的には、図3(A)は、条件1に従う付加的なアンテナ22が設定された場合の、付加的なアンテナ22が設定されていない状態からのFM用のラジオアンテナ23の利得変動量を示す。図3(B)は、条件2に従う付加的なアンテナ22が設定された場合の、付加的なアンテナ22が設定されていない状態からのFM用のラジオアンテナ23の利得変動量を示す。
【0026】
図3(A)に示すように、利得変動量は、ほぼ106[MHz]で極小値を示している。また、図3(B)に示すように、利得変動量は、ほぼ96[MHz]で極小値を示している。このように、受信機4側(受信機4及び配線27)の条件(例えば配線27の長さ)を変更すると、極小値を示す周波数ポイント(FM用のラジオアンテナ23が極大に影響を受ける周波数ポイント)は、変化してしまう。しかしながら、受信機4側の条件をどのように変更すれば、FM用のラジオアンテナ23の受信感度の低下を抑制することができるのかは、本明細書の出願時において当業者において知られていなかった。
【0027】
本発明者らは、極小値を示す周波数ポイント(106[MHz]、96[MHz])をスミスチャートに描いてみた(図2参照)。この時、本発明者らは、これらの周波数ポイントの関連性を認識した。具体的には、極小値を示す周波数ポイント(106[MHz])のインピーダンスZに対応する反射係数Γの位相角、及び極小値を示す周波数ポイント(96[MHz])のインピーダンスZに対応する反射係数Γの位相角は、ほぼ−130[deg]であることを図2のスミスチャートから認識した。
【0028】
ここで、反射係数Γは、複素数で表され、反射係数Γの位相角は、スミスチャートの中心(反射係数Γの実部及び虚部が0である)に対する角度である。
【0029】
本発明者らは、FMの周波数帯域(88〜108[MHz])の上限周波数に対応する反射係数Γの位相角がほぼ−115〜0[deg]の範囲に入っていれば、FM用のラジオアンテナ23の受信感度の低下を抑制することができるのではないかと仮説を立てた。108[MHz]に対応する反射係数Γの位相角が−115[deg]になるように、受信機4側(受信機4及び配線27)のインピーダンスを調整した(条件3)。なお、インピーダンスの調整手法は、当業者において知られている任意の手法を用いることができ、反射係数Γの位相角に注目することが重要であり、且つ独創的である。
【0030】
図4は、図2のインピーダンス特性(条件1及び条件2)に加えて、受信機4側のインピーダンス(反射係数の位相角)が調整されたインピーダンス特性(条件3)を示す。図4の例において、上限周波数を示す周波数ポイント(108[MHz])のインピーダンスZに対応する、条件3に従う付加的なアンテナ22側の反射係数Γの位相角は、ほぼ−115[deg]である。
【0031】
図5は、受信感度の低下が抑制されたFM用のラジオアンテナ23の利得変動量を示す。具体的には、図5は、条件3に従う付加的なアンテナ22が設定された場合の、付加的なアンテナ22が設定されていない状態からのFM用のラジオアンテナ23の利得変動量を示す。図5から推測されるように、極小値を示す周波数ポイントは、FMの周波数帯域(88〜108[MHz])外(高域側)にシフトする。加えて、本発明者らは、図示しない利得変動量で、上限周波数を示す周波数ポイント(108[MHz])のインピーダンスZに対応する、条件4に従う付加的なアンテナ22側の反射係数Γの位相角がほぼ−90〜0[deg]の範囲に入っていれば、FM用のラジオアンテナ23の受信感度の低下をさらに抑制できることを確認した。
【0032】
このように、受信機4に接続される配線27の接続点(給電部26に接続される配線27の一端)での受信機4側のインピーダンスZに対応する反射係数Γの位相角を−115〜0[deg]の範囲(好ましくは−90〜0[deg]の範囲)に調整すれば、FM用のラジオアンテナ23の受信感度の低下を抑制することができる。
【0033】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0034】
3・・・受信機(第1の受信機)、4・・・受信機(第2の受信機)、21・・・後部窓ガラス、22・・・付加的なアンテナ(第2のアンテナ)、23・・・FM用のラジオアンテナ(第1のアンテナ)、24・・・給電部(第1の給電部)、25・・・配線(第1の配線)、26・・・給電部(第2の給電部)、27・・・配線(第2の配線)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のガラスに設けられた、FM用のラジオアンテナに対して付加的なアンテナと、
前記付加的なアンテナに接続点で接続される配線と、
前記配線に接続される受信機と、
を備え、
前記受信機に接続される前記配線の前記接続点での前記受信機側のインピーダンスに対応する反射係数の位相角がFMの周波数帯域の上限周波数で−115〜0[deg]の範囲に入っていることを特徴とする車両用ガラスアンテナ受信システム。
【請求項2】
前記ガラスに設けられた、前記FM用のラジオアンテナと、
前記FM用のラジオアンテナに配線を介して接続される受信機と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用ガラスアンテナ受信システム。
【請求項3】
前記反射係数の位相角が前記上限周波数で−90〜0[deg]の範囲に入っていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ガラスアンテナ受信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−46351(P2013−46351A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184774(P2011−184774)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】