説明

車両用シートの包装体

【課題】新車をユーザーに納品する前に車室内の臭いを低減することを、新たな作業工程を追加せずに可能とする。
【解決手段】車両用シートの組み立て工程後に該車両用シートに被せられ、該車両用シートが車両に組み付けられて該車両が納品されるまで車両用シートを被覆して該車両用シートが汚れるのを防ぐ車両用シートの包装体21において、少なくとも一部31を脱臭機能を備える材料で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両がユーザーに納品される際には、シートに、例えばポリエチレンフィルム製の袋状の包装体が被せられている。このような包装体は、シートが組み立てられた直後にシートに被せられ、シートが車体に組み付けられ、完成した車両がユーザーに届けられるまで継続してシートを被覆している。それにより、シートが納品前に汚れるのを防ぐことができる。しかし、その機能は、被覆対象であるシートの保護にとどまっていた。
【0003】
ところで、従来、車両の内装材やシート等の製造時には、揮発性有機化合物(VOC)を含む接着剤等が利用されてきたが、揮発性有機化合物は車室内の臭いの原因となるものが多く、昨今、使用量の低減が試みられている。しかし、揮発性有機化合物の使用を皆無にするのは困難であるのが現状である。そこで、新車をユーザーに納品する前に車室内の臭いを除去することも試みられている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、新車製造後、車両がユーザーに渡されるまでの一定期間、光触媒と臭いを吸着する吸着材を漉き込んだ紙状材をシートに被せることで車室内の臭いを除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−175999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に提案される技術によれば、出来上がった車両の室内に設置されているシートに対して吸着材を漉き込んだ紙状材を被せるため、車両をユーザーに納品する前に作業工程が追加される問題があった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、新車をユーザーに納品する前に車室内の臭いを低減することを、新たな作業工程を追加せずに可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、車両用シートの組み立て工程後に該車両用シートに被せられ、該車両用シートが車両に組み付けられて該車両が納品されるまで車両用シートを被覆して該車両用シートが汚れるのを防ぐ車両用シートの包装体において、少なくとも一部を脱臭機能を備える材料で構成する。車両用シートの組み立て工程後とは、少なくとも車両用シートの包装体で被覆される部分が組み立てられた後である。脱臭機能とは、揮発性有機化合物を物理的作用又は化学的作用等で除去することを意味する。脱臭機能を有する材料としては、代表的には、フィルムや不織布などに脱臭材を保持させたものが挙げられる。脱臭材としては、例えば、活性炭やゼオライト等の揮発性有機化合物を吸着することのできる多孔質体、揮発性有機化合物と反応して揮発性有機化合物を分解ないし無害化することのできる光触媒等が挙げられる。
【0009】
かかる構成の包装体によれば、シートに被せることでシートを汚れから保護するだけでなく、シートが車体に搭載された後には、車室内の空気に含まれる揮発性有機化合物を除去することもできる。したがって、従来の包装体の代わりにシートに被せるだけで、作業工程を増やすことなく車室内の臭いを除去することが可能となる。
【0010】
本発明の車両用シートの包装体では、好ましくは、脱臭機能を備える材料で構成される部位が、着座者が接触する箇所以外の部位を被覆するように配設される。
【0011】
この場合、作業者がシートに着座しても脱臭機能を備える材料は着座者により遮蔽されない。そのため、着座者の有無に関わらず脱臭機能を備える材料が車室内に露出し、車室内の空気に対して脱臭機能を発揮することができる。また、脱臭機能を備える材料には着座荷重が作用しないため、着座荷重によって脱臭材が脱落する等の不具合が生じるおそれがない。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用シートの包装体によれば、新たな作業工程を追加することなく、新車をユーザーに納品する前に車室内の臭いを低減することが可能となる。
加えて、脱臭機能を備える材料で構成される部位が、着座者が接触する箇所以外の部位を被覆するように配設されている場合には、着座者の有無に関わらず車室内の空気に対して脱臭機能を発揮することができる。また、脱臭機能を備える材料で構成される部位には着座荷重は作用しないため、脱臭材の脱落等の不具合が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用シートの包装体の斜視図である。
【図2】図1に示される包装体が被せられた車両用シートを斜め前方から見た斜視図である。
【図3】図1に示される包装体が被せられた車両用シートを斜め後方から見た斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の変更例に係る包装体が被せられた車両用シートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1には、本実施形態に係る包装体21が示されている。この包装体21は、下部に開口部21aを有する袋状であり、自動車の運転席等を構成するシート11(図2,3参照)に被せられるものである。なお、図中に矢印で示されるUP,FRは、シートの着座者から見た方向を基準に定めた上方,前方を示している。シート11は、シートクッション13、シートバック15およびヘッドレスト17を主体として構成されている。シートクッション13の上面13aは着座者が腰を下ろす座面を構成し、シートバック15の前面15aは着座者が凭れ掛かる背凭れ面を構成している。この包装体21は、前方に張り出してシートクッション13を被覆することのできるシートクッション被覆部23と、該シートクッション被覆部23の後端から上方に延びておりシートバック15を被覆することのできるシートバック被覆部25とを有し、側面視で略L字形状となっている。そのため、シートバック15が起立した状態のシート11に対して、シートクッション13とシートバック15との双方の輪郭に凡そ沿った状態で被せることができるとともに、前後逆に被せることができないようになっている。なお、この包装体21は、下部の開口端縁に沿ってゴム紐27(図1参照)が通されており、包装体21を被覆した状態で開口部21aが窄まる構成となっている。
【0015】
包装体21の一部分は脱臭機能を備える材料で構成されている。図1では、脱臭機能を備える材料で構成された部位(以下脱臭部位と称す)31に格子模様を付して示している。脱臭部位31を除く他の部分(格子模様の付されていない部分)は、例えばポリエチレン製フィルム等の従来の包装体を構成する材料で構成されている。該他の部分を防汚部位33と称する。なお、各部位の名称は説明の便宜上付したものであり、脱臭部位31も防汚部位33も、ともにシート11を覆うことでシート11に汚れが付くのを防ぐ機能を果たすものである。
【0016】
脱臭部位31は、シート11への着座者が通常の着座姿勢では接触しない箇所に設定されている。具体的には、脱臭部位31は、シートバック15の後面15b及び側面15cの後側を被覆する部分と、シートクッション13の側面13cの下側及び前面13dの下側を被覆する部分にわたって設定されている。つまり、包装体21が包装体21に対して多少ずれた場合であっても、座面を構成するシートクッション13の上面13aと、背凭れ面を構成するシートバック15の前面15aとを覆うことがない箇所に脱臭部位31が設定されている。そのため、着座者は脱臭部位31には接触せず、防汚部位33に接触した状態で着座することとなる。
【0017】
脱臭部位31を構成する脱臭機能を備える材料の一例として、活性炭を担持する不織布がある。不織布における活性炭の担持方法は特に限定されない。例えば、粉状の活性炭を不織布に付着させたり、不織布の組織内に漉き込んだり、或いは不織布を構成する繊維に練り込むことで不織布に活性炭を担持させることができる。不織布の目付は特に限定されないが、ハンドリングの観点から50〜70g/m2が好ましい。
【0018】
包装体21は、脱臭部位31と防汚部位33とが、溶着、溶断、接着又は縫合等の種々の手段により接合されて作成される。脱臭部位31又は防汚部位33が複数のピースを接合して形成されていてもかまわない。
【0019】
以上の構成の包装体21は、従来の包装体に代えて、従来の包装体と同様に使用される。すなわち、包装体21は、シート11の製造工程において被せる対象となる部分を組み立てた後に被せられる。本実施形態の包装体21は、シートクッション13とシートバック15が組み立てられた状態で被せられ、上部に形成され2つの挿通孔22,22を通してヘッドレスト17のステー(図示省略)がシートバック15の上部に取付けられる。そして、完成したシート11は、包装体21が被せられたまま車体へ搭載される。そのため、包装体21は、車両が完成することで必然的に車室内に配置されることとなる。包装体21は、車両がユーザーに納品されるまでシート11に被せられたままとされ、納品時或いは納品後にシート11から剥がされる。
【0020】
この包装体21によれば、シート11の組み立て後、シート11が車両に搭載され、該車両がユーザーに納品されるまでシート11の汚れを防ぐことができる。それに加え、シート11から揮発する揮発性有機化合物を脱臭部位31に含まれる活性炭で吸着することができる。また、車両完成後から車両がユーザーに納品されるまでの間には、シート11から揮発する揮発性有機化合物だけでなく、車両の室内においてシート11や内装材から揮発する揮発性有機化合物を脱臭部位31に含まれる活性炭で吸着することができる。そのため、単に包装体21を保護するだけでなく、室内の臭いを低減することができる。しかも、包装体21は、従来の包装体に代えて用いるため、新たな作業工程を要することなく容易に室内の臭い低減作用を追加することができる。
また、脱臭部位31は、着座者が通常の着座姿勢では接触しない箇所に配設されているため、シート11に着座者が着座しているか否かに関わらず室内に露出しており、車室内の空気に対して脱臭機能を発揮することができる。また、脱臭部位31には、着座者の荷重がかかることがないため、着座者の荷重や摩擦で脱臭部位31に含まれる活性炭が脱落するおそれがない。なお、ヘッドレスト17のステーが挿通孔22,22を通して挿通されるため、包装体21がシート11に対してずれにくく、脱臭部位31が確実に着座者が通常の着座姿勢では接触しない箇所に配設されるようになっている。
【0021】
なお、本実施形態は本発明の要旨を逸脱しない範囲内でその他種々の実施の形態が考えられるものである。
例えば、包装体21は、少なくとも一部が脱臭機能を備える材料で構成されていればよく、全部が脱臭機能を備える材料で構成されていてもよい。
また、上記実施形態では、一人掛けのシート11に被せられ包装体を例示したが、図4に示されるベンチシート51のように、複数人が着座することのできるシートに対して被せられる包装体61にも適用することができる。
また、上記実施形態の包装体21は、ヘッドレスト17をも被覆する形状に変更することができる。また、本発明はヘッドレスト17に被せられる包装体に適用することもできる。
【符号の説明】
【0022】
11 シート
21 包装体
31 脱臭部位
33 防汚部位
51 ベンチシート
53 包装体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの組み立て工程後に該車両用シートに被せられ、該車両用シートが車両に組み付けられて該車両が納品されるまで車両用シートを被覆して該車両用シートが汚れるのを防ぐ車両用シートの包装体であって、
少なくとも一部が脱臭機能を備える材料で構成されていることを特徴とする車両用シートの包装体。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの包装体であって、
前記脱臭機能を備える材料で構成される部位が、着座者が接触する箇所以外の部位を被覆するように配設されていることを特徴とする車両用シートの包装体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−72712(P2011−72712A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229479(P2009−229479)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】