説明

車両用シートパッドの製造方法

【課題】本発明は、車両用シートパッドの製造方法に関し、特に、製造工程を簡素化して、製造コストを削減できる車両用シートパッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】クッション材3を被包した繊維シートからなる被成形品を載置した金型4を型締めし、ヒータ5により加熱する。加熱された金型4の温度が低融点繊維材料の融点まで達すると、被成形品の外周部分にあるポリエステル繊維が徐々に融着し始める。所定期間経過後、加熱工程を終了し、金型4を冷却することで溶融していたポリエステル繊維が凝固することでクッション材3が損傷することを防ぐ。クッション材3を被包したまま加熱し、車両用シートパッドを成形することで、製造工程が簡素化され、製造コストを削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートパッドの製造方法に関し、特に、製造工程を簡素化して、製造コストを削減できる車両用シートパッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用シートパッドは、鉄道車両や自動車などに装着される車両用シートの一部(着座した乗員の臀部を支える部位)を構成する部品であり、ウレタンフォームや繊維集合体から構成される。繊維集合体から構成される車両用シートパッドは、ウレタン発泡体から構成されるものに比べ、リサイクル性に優れる反面、クッション性が低く、乗員の乗り心地が悪い。そこで、特許文献1には、繊維集合体の内部にコイルスプリングやウレタンフォーム等の弾性体を配設して、クッション性を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、車両用シートパッドの製造は、繊維集合体の成形を、綿状体の通気性の良さを利用したエアスルー方式により行うのが一般的である。即ち、複数の通風口が開口された金型内にポリエステル繊維などから構成される綿状体を載置し、金型の一方側の通風口から熱風を送入し、その熱風を金型内にある綿状体の繊維間を流通させることで、繊維同士を溶着させつつ、金型の他方側の通風口から熱風を送出する。これにより、綿状体全体を均一に加熱することができる。
【0005】
しかしながら、上述した従来の製造方法(エアスルー方式)では、金型内に送入された熱風が綿状体の繊維間を流通する方式であるため、コイルスプリングやウレタンフォーム等の弾性体を綿状体が被包した状態で成形すると、被包されている弾性体が熱により損傷するという問題点があった。
【0006】
そのため、弾性体を内部に配設したままで繊維集合体を一体に成形することができないため、車両用シートパッドを製造する際には、繊維集合体を成形した後、その繊維集合体に形成した凹部へ弾性体を配設する工程が必要となるだけでなく、その後の工程で弾性体が脱落しないように、凹部に蓋を被せて接着するなどの工程が必要となり、その分、製造コストが嵩むという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解消するためになされたものであり、製造工程を簡素化して、製造コストを削減できる車両用シートパッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために請求項1記載の車両用シートパッドの製造方法は、弾性体から構成されるクッション材と、そのクッション材を被包する繊維集合体とを備えた車両用シートパッドを製造するものであって、高融点繊維材料およびその高融点繊維材料より融点が低い低融点繊維材料を所定の割合で混合した綿状体、並びに、前記クッション材を金型内へ載置し、前記綿状体によって前記クッション材が被包された被成形品を金型内に配設する配設工程と、その配設工程により前記被成形品が内部に配設された金型を、前記低融点繊維材料の融点以上の温度に加熱して、前記金型の内面からの伝熱により前記低融点繊維材料を溶融させて前記繊維集合体とする加熱工程と、を備える。
【0009】
請求項2記載の車両用シートパッドの製造方法または車両用シートパッドは、請求項1記載の車両用シートパッドの製造方法において、前記配設工程は、シート状に形成された前記綿状体の少なくとも片面を前記低融点繊維材料の融点以上で加熱した繊維シートを、前記クッション材を挟みつつ、前記金型内に複数積層して、前記繊維シートにより前記クッション材が被包された被成形品を前記金型内に配設するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の車両用シートパッドの製造方法によれば、配設工程により、高融点繊維材料およびその高融点繊維材料より融点が低い低融点繊維材料を所定の割合で混合した綿状体、並びに、前記クッション材が金型内に載置され、綿状体によってクッション材が被包された被成形品が金型内に配設されると、その金型は、加熱工程に移行され、低融点繊維材料の融点以上の温度で加熱される。これにより、金型の内面からの伝熱により綿状体を加熱して、溶融した低融点繊維材料により各繊維材同士を溶着させることで、内部にクッション材が配設された状態の繊維集合体を一体に成形することができる。
【0011】
即ち、本発明の車両用シートパッドの製造方法によれば、金型の内面からの伝熱により、綿状体の外周面からその内部へ向けて低融点材料の溶融を介して熱を徐々に伝える構成であるので、加熱時間を調整することで、エアスルー方式の場合と比較して、クッション材に熱が過剰に伝わることを抑制することができ、その結果、クッション材を損傷させることなく、車両用シートパッドを製造することができる。
【0012】
このように、本発明の車両用シートパッドの製造方法または車両用シートパッドによれば、内部にクッション材が配設された状態の繊維集合体を一体に成形することができるので、例えば、繊維集合体に凹部を形成し、その凹部へクッション材を配設する工程や、その後の工程でクッション材が脱落しないように、凹部に蓋を被せて接着する工程などを行う必要がなく、製造工程を簡素化することができるので、その分、製造コストの削減を図ることができるという効果がある。
【0013】
また、上述のように、繊維集合体の凹部へクッション材を別途配設することを要する車両用シートパッドの製造方法または車両用シートパッドでは、繊維集合体の凹部にクッション材が配設された組み立て品に表皮を被せる工程において、凹部からクッション材が脱落しないように維持しつつ表皮を被せる必要があり、作業が繁雑となる。繊維集合体のみに表皮を被せる場合でも、車両への組み付け工程において、クッション材が脱落しないように維持しつつ組み付ける必要がある。
【0014】
これに対し、本発明の車両用シートパッドの製造方法のように、内部にクッション材が配設された状態の繊維集合体を一体に成形することができれば、表皮を容易に被せることができると共に、車両への組み付けも容易に行うことができる。
【0015】
請求項2記載の車両用シートパッドの製造方法によれば、請求項1記載の車両用シートパッドの製造方法または車両用シートパッドの奏する効果に加え、クッション材を適切な位置に配置して保持することができるという効果がある。
【0016】
即ち、配設工程において、金型内に積層され、クッション材を被包する繊維シートは、少なくとも片面が低融点繊維材料の融点以上の温度で加熱されているので、その加熱された部分が、溶融された低融点繊維材料による繊維同士の溶着により、剛性が高められている。その結果、積層された繊維シート上にクッション材を載置する際には、繊維シートの剛性により、クッション材の重量を支えて、クッション材が沈み込むことや傾くことを抑制することができる。よって、クッション材を適切な位置に配置して保持することができる。
【0017】
また、本発明の車両用シートパッドの製造方法は、金型の内面から伝わる熱を、綿状体の外周面からその内部へ向けて徐々に伝える構成であるので、クッション材が配設される綿状体の内部は低融点繊維材料の融点温度に到達しておらず、その剛性が低い場合があるところ、繊維シートを積層する構成であれば、その積層された繊維シートの剛性によってクッション材を保持することができる。よって、製品の搬送時だけでなく、車両に組み付けた後の使用時においても、クッション材を当初の配置場所に保持して、その座り心地を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施の形態における車両用シートパッドの断面図である。
【図2】車両用シートパッドの製造に使用する金型の断面図である。
【図3】(a)は、繊維シートの斜視図であり、(b)は、クッション材の部分断面斜視図である。
【図4】(a)は、配設工程における被成形体および金型の断面図であり、(b)は、加熱工程における被成形体および金型の断面図である。
【図5】(a)は、第2実施の形態における加熱工程での被成形体および金型の断面図であり、(b)は、第3実施の形態における加熱工程での被成形体および金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態における車両用シートパッド1の断面図である。なお、図1における左側が車両用シートパッド1の前方(足側)に、右側が後方(背中側)に、それぞれ対応する。
【0020】
車両用シートパッド1は、鉄道車両や自動車などに装着される車両用シートの一部(着座した乗員の臀部を支える部位)を構成する部品である。車両用シートパッド1は、図1に示すように、断面形状が略矩形状であり、繊維集合体2と、その繊維集合体2によって全体を被包されるクッション材3とを備えている。
【0021】
繊維集合体2は略直方体状に形成されており、各頂点は円弧状に構成されている。また上面側(図1上側)は、前方から後方に(図1左側から右側に)向けてゆるやかに下降傾斜している。さらに、車両用シートパッド1の下部側には、前方の一部分を除いて欠成された欠成部2aが設けられている。この欠成部2aは車両用シートパッド1を車両本体に設置する際に接合する部分となり、これにより車両用シートパッド1の車両本体への設置が容易となる。
【0022】
なお、繊維集合体2はポリエステル繊維を熱処理により融着させたものであり、車両用シートパッド1の形状をなすものであるが、詳細については後述する。
【0023】
クッション材3は、車両用シートパッド1の中央部分に設けられた弾性体であって、繊維集合体2よって被包されている。これにより、車両用シートに着座する乗員の臀部を弾性体が支えることで、乗員に快適な座り心地を提供することができる。なお、詳細については後述する。
【0024】
次に図2を参照して、金型4の構成について説明する。図2は車両用シートパッド1の製造に使用する金型4の断面図である。金型4はアルミニウム合金製であり、後述する繊維シート21(図3(a)参照)を圧縮すると共に加熱して車両用シートパッド1の形状に成形するものであり、金型4は雌型部41と雄型部42とを備えている。
【0025】
雌型部41は、金型4の下型を構成するものであり、略直方体状に形成されている。この雌型部41には、図2に示すように、上面側(図2上側)に開放された凹状空間が設けられている。
【0026】
雄型部42は、金型4の上型を構成するものであり、雌型部41に型締めされる。雄型部42には、図2に示すように、雌型部41の凹状空間と嵌合する凸設部分が下面側(図2下側)に設けられている。型締めの際には、雄型部42の凸設部分が、雌型部41の凹状空間に載置された繊維シート21を押圧することにより、繊維シート21(図3(a)参照)が金型4内で圧縮される。
【0027】
なお、雌型部41と雄型部42とが型締めされた金型4には、車両用シートパッド1の形状と同様の内部空間が形成される(図4(b)参照)。
【0028】
また、金型4を型締めすると、金型4の内部空間は密閉状態となるため、加熱しても外熱は直接金型4の内部空間内へは伝わらず、加熱された金型4自体からの伝熱作用のみにより伝えられる。
【0029】
次に図3を参照して、繊維シート21及びクッション材3の構成について説明する。図3(a)は、繊維シート21の斜視図である。繊維シート21は、車両用クッションパッド1を成形する際に、雌型部41に載置され、クッション材3を挟みこむと共に、成形後には繊維集合体2となる部材である(図4(a)参照)。
【0030】
繊維シート21は高融点繊維材料とその高融点繊維材料より融点が低い低融点繊維材料とを所定の割合で混合した綿状体を圧縮することにより、略平板状に形成したものである。具体的には、綿状体はトウ(藤)状のポリエステル繊維(繊維太さ2〜100デニール、5〜10cm)からなる高融点繊維材料に、芯鞘型でトウ状のポリエステル複合繊維(繊維太さ1〜100デニール、3〜15cm)からなる低融点繊維材料を5〜40%混合したものである。低融点繊維材料の鞘は、重縮合時にイソフタール酸を混合してパイプインパイプ等で製造した低融点共重合体ポリエステルである。所定の厚さの綿状体を低融点繊維材料の融点以上に加熱された熱ローラで圧縮しつつ伸ばす(圧延する)ことで、綿状体の表面全体の低融点繊維材料の鞘が溶融してポリエステル繊維同士が接合されるとともに、綿状体の体積が減少して略平板状の繊維シート21が形成される。
【0031】
図3(b)は、クッション材3の部分断面斜視図である。なお、説明の便宜上、コイルスプリングケース32の一部分を透視して、内部のコイルスプリング31が見えるように図示している。
【0032】
クッション材3はコイルスプリング31とコイルスプリングケース32とを備えている。コイルスプリング31は、細長い金属線を螺旋状に巻いたばねである。コイルスプリングケース32は、綿状体とコイルスプリング31とを隔てるための部材であり、ポリプロピレン不織布などから構成されている。
【0033】
図3(b)に示すように、コイルスプリングケース32の中に、コイルスプリング31が縦横方向に均等に列立されている。なお、本実施の形態においては、縦方向に5列、横方向に5列の合計25個のコイルスプリング31が列立されており、すべてのコイルスプリング31の両端は金属線(図示せず)によって連結される。これにより、車両用シートパッドの使用時にも各々のコイルスプリング31がコイルスプリングケース32内を移動することはない。また、底付き感が少なく、体圧を分散することができるので、乗員が長時間にわたって着座しても快適な座り心地を提供し続けることができる。
【0034】
次に図4を参照して、車両用シートパッド1の製造方法について説明する。図4(a)は、配設工程における被成形体および金型4の断面図であり、被成形体が模式的に表わされている。図4(b)は、加熱工程における被成形体および金型4の断面図である。車両用シートパッド1の製造方法は、配設工程と加熱工程とからなる。
【0035】
最初に、配設工程について説明する。図4(a)に示すように、雌型部41の凹状空間内に、予め成形した繊維シート21を積層する。なお、繊維シート21の形状は一様ではなく、雌型部41の凹状空間の形状にあわせて繊維シート21の一方向(図4左右方向)の長さが調整された状態で成形されている。即ち、各繊維シート21はそれぞれ異なる長さに構成されている。
【0036】
ここで、図4(a)を参照して、繊維シート21およびクッション材3の積層順序について説明する。積層する繊維シート21の長さ及び枚数は、車両用シートパッド1の形状に合わせて適宜調整を行う。例えば、以下のような手順で積層していく。なお、説明の便宜上、積層する順序に応じて雌型部41を積層域T1からT4に分けて説明する。
【0037】
図4(a)に示すように、まず、積層域T1の底面積に合わせて成形された繊維シート21を積層し、積層する繊維シート21の長さを積層域T1の底面積にあわせて徐々に長くしていく。次に、積層域T2には車両用シートパッド1の前後方向の長さと同等の長さに成形された繊維シート21を積層する。
【0038】
積層域T3には、中央にクッション材3を配設し、クッション材3と雌型部41の内壁との間隙にあわせて成形された繊維シート21をクッション材3の周囲に積層する。なお、クッション材3の左右方向(図4(a)紙面手前側および奥側)には、クッション材3(スプリングケース32)の前後方向の長さと同等程度の長さからなる繊維シート21から、クッション材3の側面全体に積層シート21を積層する。最後に、積層域T4には金型4の形状に合わせて、積層域T2に積層された繊維シート21と同等の長さの繊維シート21から、徐々に積層する繊維シート21の長さを短くしていく。
【0039】
なお、繊維シート21の熱ローラにより加熱された部分は、溶融された低融点繊維材料による繊維同士の溶着により、剛性が高められている。よって、積層された繊維シート21上にクッション材を載置する際には、繊維シート21の剛性により、クッション材3の重量を支えて、クッション材3が沈み込むことや傾くことを抑制することができるので、作業を簡素化できる。
【0040】
このように、配設工程では、クッション材3を挟みつつ、繊維シート21を積層する。この工程により、クッション材3が繊維シート21によって被包された被成形品が雌型部41の凹状空間内に載置される。
【0041】
次に、加熱工程について説明する。図4(b)に示すように、雌型部41の凹状空間に載置された繊維シート21及びクッション材3を雄型部42によって押圧しつつ型締めをし、金型4内部を密閉状態にする。
【0042】
その後、図4(b)に示すように、遠赤外線を照射するヒータ5により、金型4を加熱する。なお、加熱時の温度は低融点繊維材料の融点以上かつ高融点繊維材料の融点以下の温度であることが望ましい。これにより高融点繊維材料と低融点繊維材料とがその接触点で融着し、隙間を確保することができ、クッション性を高めることができるからである。
【0043】
このとき、金型4内部は密閉状態なので、金型4内に載置された繊維シート21及びクッション材3は、ヒータ5からの熱を直接受けず、金型4の内面(内壁)からの伝熱により加熱される。そのため、繊維シート21の外周面からその内部へ向けて低融点繊維材料の溶融を介して熱を徐々に伝える構成となっている。即ち、エアスルー方式のように、金型4内を流通する熱風によりクッション材3が損傷を受けることがない。
【0044】
ヒータ5により加熱された金型4の温度が上昇し、低融点繊維材料の融点に達すると、金型4の内面側に接触している被成形品の外周面にある低融点繊維材料の鞘が溶融し、繊維シート21同士が被成形品の外周部分から徐々に融着し始める。これにより、複数積層された繊維シート21は、一体となった繊維集合体2となる。
【0045】
なお、図4(b)に示すように、繊維シート21の厚み寸法(図4(b)上下方向寸法)が厚く積層されている部分の金型4は薄く、繊維シート21の厚み寸法が薄く積層されている部分の金型4は厚くなっているので、繊維シート21が厚く積層されている部分ほど、早く金型内部からの熱が伝わる。よって、繊維シート21が厚く積層されている部分ほど熱が早く伝わり、より広い部分の低融点繊維材料を溶融し、繊維シート21同士を融着することができる。
【0046】
所定時間経過後、加熱工程を終了し、金型4を冷風に当てるなどして冷却する。これにより、溶融したポリエステル繊維が凝固し、繊維集合体2の形状が固定されるとともに、クッション材3にまで熱が伝わるのを防止することができる。
【0047】
以上の工程によって、クッション材3を被包したまま、クッション材3を損傷させることなく繊維集合体2を成形し、車両用シートパッド1を製造することができる。これにより、車両用シートパッド1の製造工程を簡略化することができるので、その分、製造コストの削減を図ることができる。
【0048】
なお、繊維シート21がクッション材3付近において融着していない場合であっても、金型4による成形前に、熱ローラによる圧延により剛性が高められている繊維シート21を積層し、クッション材を被包しているため、車両取付後の使用時であってもクッション材3は当初の配置場所に保持されるので、その座り心地を維持することができる。
【0049】
次に図5(a)を参照して、本発明の第2実施の形態について説明する。図5(a)は、第2実施の形態における加熱工程での被成形品および金型4の断面図である。第1実施の形態における加熱工程では、2つのヒータ5を使用しているのに対し、第2実施の形態における加熱工程では、さらに2つのヒータ105を増設している。なお、前記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0050】
図5(a)に示すように、加熱工程において、2つのヒータ5に加えて、さらに2つのヒータ105を前後方向(図5(a)左右方向)に増設し、上下方向からだけでなく、前後方向からも金型4を加熱する。被成形体は前後方向の繊維シート21の厚み寸法が厚く、積層された繊維シート21同士の融着を前後方向においても強くする必要がある。
【0051】
そこで、ヒータ105を増設することで、金型4内に載置された被成形品の側面部分へ確実に伝熱することができ、結果として繊維シート21同士が融着する時間が短縮されるので、製造工程全体にかかる時間を短縮することができる。また、加熱時間や加熱温度の調整も容易となり、より確実にクッション材3の損傷を防ぐことができる。
【0052】
次に図5(b)を参照して、本発明の第3実施の形態について説明する。図5(b)は、第3実施の形態における加熱工程での被成形品および金型4の断面図である。第1実施の形態における加熱工程には、2つのヒータ5を使用しているのに対し、第3実施の形態における加熱工程では、4つのヒータ251〜254を使用している。なお、前記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0053】
図5(b)に示すように、第3実施の形態における加熱工程では、4つのヒータ251〜254が使用される。ヒータ251〜254は金型4内に載置された繊維シート21の厚薄に応じて配置されており、各ヒータ251〜254ごとに加熱温度や加熱時間を調整することができる。
【0054】
本実施の形態では、雄型部42側(図5(b)上側)は繊維シート21の積層が比較的厚い前方(図5(b)左側)部分にヒータ251を、繊維シート21の積層が比較的薄い後方部分にヒータ252をそれぞれ配置している。また、雌型部41側(図5(b)下側)は車両用シートパッド21の下側凸部(図1左下側)を形成する部分にはヒータ253を、繊維シート21の積層が薄い部分の多い欠成部2a(図1参照)を形成する部分にはヒータ254をそれぞれ配置している。
【0055】
加熱時には、繊維シート21が厚く積層された部分に配設されているヒータ251及び253による加熱を先に行い、所定時間経過後、繊維シート21が薄く積層された部分に配設されているヒータ252及び254による加熱を行う。これにより、繊維シート21の厚さに応じた加熱調整がしやすく、繊維シート21の薄い部分の加熱過多によるクッション材3の損傷をより容易に防止することができる。
【0056】
なお、ヒータ253の一端(図5(b)右端)を車両用シートパッド1の下側凸部の後端(図1右端,図5右端)より前方(図1左側、図5左側)に配置し、ヒータ254はヒータ253より所定の距離を置いて後方に配置するのが望ましい。こうすることにより、欠成部2aのうち車両用シートパッド1の前方凸部の付近にある繊維シート21の薄い部分が、ヒータ253とヒータ254との双方から加熱されることで、クッション材3が損傷するのを防ぐことができる。
【0057】
以上、実施の形態に基づき、本発明を実施したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察
できるものである。
【0058】
上記各実施の形態では、綿状体における高融点繊維材料と低融点繊維材料との混合割合の詳細についての説明を省略したが、低融点繊維材料の混合の割合が多いほど、融着の度合いが強くなり、低融点繊維材料の混合の割合が少ないほど、融着の度合いが弱くなる。そのため、繊維シート21を形成する際、外周面は低融点繊維材料の混合の割合を多くすることで繊維材料間の隙間を少なくし、剛性を高めつつ、成形時には繊維シート同士を融着しやすくすることができる。一方で、繊維シート21の中央部分の低融点繊維材料の混合の割合を少なくすることで、繊維材料間の隙間を多く確保できるので、クッション性を高めることができる。
【0059】
第1実施の形態および第3実施の形態において、ヒータ5,251〜254を金型4の上下方向にのみ配置したが、必ずしもこれに限られるものではなく、金型4の前後方向(図4(b)左右方向)や左右方向(図4(b)紙面手前側および奥側)にのみ配置してもよい。また、車両用シートパッド1の形状によっては、必ずしもヒータ5,251〜254を対照的な位置に配置する必要はない。
【0060】
第2実施の形態および第3実施の形態において、4つのヒータ105,251〜254を使用したが、必ずしもこれに限られるものではなく、車両用シートパッド1の形態によって、ヒータの数を調整すればよい。
【0061】
例えば、第2実施の形態において、さらに左右方向(図5(a)紙面手前側および奥側)にもヒータを増設し、6方向から加熱してもよい。これにより、加熱工程の時間が短縮される上、加熱調整が容易となる。
【0062】
また、第3実施の形態において、ヒータ251及びヒータ253の2つだけを使用して加熱してもよい。これにより、繊維シート21が厚く積層された被成形体の前方側(図5(b)右側)から先に加熱され、繊維シート21が薄く積層された被成形体の後方側(図5(b)右側)が低融点繊維材料の融点に達するまでにタイムラグが生じるため、結果として加熱時間を調整することができる上、使用するヒータの数や大きさが減少している分、光熱費が節約でき、製造コストの削減につながる。
【0063】
上記各実施の形態では、弾性体にコイルスプリング31を使用したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、ウレタンフォームを使用してもよく、あるいは、捲縮処理されたポリエステル繊維と、熱可塑性エラストマー及び非弾性ポリマーで形成され、バインダーとして機能する弾性複合繊維とを三次元的に混合して成形された繊維構造体等を使用してもよい。
【0064】
上記各実施の形態では、複数の独立したコイルスプリング31から弾性体が構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、一本の鋼線から複数のコイルスプリングを一体に成形して弾性体が構成されてもよい。また、コイルスプリング31は、すべて同じ特性のものを使用する必要はなく、配置されるスプリングごとにばね定数を変更してもよい。
【0065】
上記各実施の形態では、コイルスプリング31の素材が金属製である場合を説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、樹脂製であってもよい。
【0066】
上記各実施の形態では、ヒータ5が遠赤外線を照射して金型4を加熱する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、熱風を当てることにより金型4を加熱してもよい。
【0067】
上記各実施の形態では、加熱工程におけるヒータ5,105,251〜254の設定温度を低融点繊維材料の融点以上かつ高融点繊維材料の融点以下としたが、必ずしもこれに限定されるわけではなく、低融点繊維材料の融点以上であればよい。
【0068】
上記各実施の形態では、金型4をアルミニウム合金製としたが、必ずしもこれに限られるものではなく、合金工具鋼などを使用してもよい。
【0069】
上記各実施の形態において、スプリングケース32の素材をポロプロピレン製としたが、必ずしもこれに限られるものではなく、たとえば、PETなどを使用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 車両用シートパッド
2 繊維集合体
3 クッション材
4 金型
41 雌型部(金型の一部)
42 雄型部(金型の一部)
5,105,251〜254 ヒータ
21 繊維シート
31 コイルスプリング(弾性体、クッション材の一部)
32 コイルスプリングケース(クッション材の一部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体から構成されるクッション材と、そのクッション材を被包する繊維集合体とを備えた車両用シートパッドを製造する車両用シートパッドの製造方法において、
高融点繊維材料およびその高融点繊維材料より融点が低い低融点繊維材料を所定の割合で混合した綿状体、並びに、前記クッション材を金型内へ載置し、前記綿状体によって前記クッション材が被包された被成形品を金型内に配設する配設工程と、
その配設工程により前記被成形品が内部に配設された金型を、前記低融点繊維材料の融点以上の温度に加熱して、前記金型の内面からの伝熱により前記低融点繊維材料を溶融させて前記繊維集合体とする加熱工程と、を備えることを特徴とする車両用シートパッドの製造方法。
【請求項2】
前記配設工程は、シート状に形成された前記綿状体の少なくとも片面を前記低融点繊維材料の融点以上で加熱した繊維シートを、前記クッション材を挟みつつ、前記金型内に複数積層して、前記繊維シートにより前記クッション材が被包された被成形品を前記金型内に配設するものであることを特徴とする請求項1記載の車両用シートパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−193920(P2010−193920A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38667(P2009−38667)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【特許番号】特許第4490504号(P4490504)
【特許公報発行日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(591221271)ヒクマ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】