説明

車両用フロアカーペットの側端部係止構造

【課題】 少ない部品点数および組付け工数で側端部を確実に係止できかつ側端部の破損を防止できる車両用フロアカーペットの側端部係止構造を提供する。
【解決手段】 車体フロア1を覆うフロアカーペット2の側端部23を、車体フロア側部に取付けた係止部材(4)に係止する構造において、前記フロアカーペット側端部には、車両前後方向に並べて一対の被係止孔21,22が穿設される一方、係止部材(4)には、前記一対の被係止孔に係合可能な前後一対の係止突起41,42が設けられ、このうち一方の係止突起41の上端に、他方の係止突起42から離れる方向に延出した掛止部41aが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フロア面を覆うフロアカーペットの側端部を、車体フロア側部に取付けた係止部材に係止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体フロア面を覆うフロアカーペットの側端部を係止する構造として、例えば、特許文献1には、フロアカーペットの側端部に止着されたリテーナーを車体側の係止部材に係止する構造が開示されている。しかし、この構造では、別部品のリテーナーを多数必要とするうえ、それぞれのリテーナーを事前にステープラーなどでフロアカーペットの端末部に止着する工程が必要であり、部品点数および組付け工数が増加する問題があった。
【0003】
一方、特許文献2には、フロアカーペットの端末部に直接スリットを設け、このスリットを、車体側に取付けた係止部材に係止した状態で、スカッフプレート(サイドシルスカッフ)の縁端部で覆いかつ押える構造が開示されている。しかし、この構造では、フロアカーペットの端末部に面方向の引張応力が作用した場合に、スリットが拡開してスカッフプレートの縁端部から下方に露出する虞があり、また、スリット両端部への応力集中により、スリット端部が破損し易い問題があった。
【0004】
【特許文献1】実登第2567752号公報
【特許文献2】特開2007−99009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、少ない部品点数および組付け工数で側端部を確実に係止できかつ側端部の破損を防止できる車両用フロアカーペットの側端部係止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、車体フロア面を覆うフロアカーペットの側端部を、車体フロア側部に取付けた係止部材に係止する構造において、前記フロアカーペット側端部には、車両前後方向に並べて一対の被係止孔が穿設される一方、前記係止部材には、前記一対の被係止孔に係合可能な前後一対の係止突起が設けられ、このうち一方の係止突起の上端に、他方の係止突起から離れる方向に延出した掛止部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の好適な態様では、前記一対の被係止孔が丸孔である。また、前記他方の係止突起の突出高さが、前記掛止部の下面までの高さ以上である。さらに、前記一方の係止突起が、前記他方の係止突起の車両前後方向後方に配設され、前記掛止部が、前記一方の係止突起の上端から車両前後方向後方に延出している。
【0008】
本発明の他の好適な態様では、前記係止部材が、車体フロア側部に沿って配索される電装ハーネスの保持部を備え、前記一対の係止突起が、前記電装ハーネスに対して車室中央側に配設され、前記電装ハーネスを覆う前記フロアカーペット側端部が屈曲状態で係止される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上述の通り構成されているので、以下に記載されるような効果を有する。
(1)フロアカーペットの側端部には一対の被係止孔を設けるだけで良く、リテーナーなど別体の取付け部材が不要であるため、部品点数および組付け工数を削減可能でありながらも、車両前後方向に並設された2つの被係止孔に面方向の引張応力が分散され、応力集中による被係止孔の変形や破損を防止できる。
(2)個々の被係止孔に作用する引張応力が低減されることに加えて、個々の被係止孔を小さく構成できるので、引張応力時における各被係止孔の拡開量が小さくなり、サイドシルスカッフ下端から被係止孔が露見するのを確実に防止でき、サイドシルスカッフのオーバーラップを小さく設定可能となる。
(3)一方の係止突起の掛止部でフロアカーペット側端部の浮きが規制されるので、それに隣接した他方の係止突起は掛止部を設けなくても被係止孔の抜脱が抑制され、面方向の係止力を発揮できる。これにより、先に、一方の係止突起に対応する被係止孔を引っ掛けて係止すれば、他方の係止突起に対応する被係止孔が自動的に位置決めされ、直ちに係止可能となるため、容易かつ無理なく組付け作業を行える。
(4)他方の係止突起と被係止孔との係合は、引っ掛けを伴わない単純な差し込みとなるので、他方の係止突起と被係止孔との公差を小さくしても組付け性が損なわれることがなく、逆に、一方の被係止孔には厳密な位置決めが要求されないので、組付け性を優先した寸法公差の設定が可能となる。
【0010】
本発明において、前記一対の被係止孔が丸孔である態様では、従来のスリット状の被係止孔に比べて応力集中を緩和でき、被係止孔の変形および破損を一層確実に防止できる。また、被係止孔の下方向への拡開が防止され、サイドシルスカッフ下端から露見することがない。
【0011】
本発明において、前記他方の係止突起の突出高さが前記掛止部の下面までの高さ以上である態様では、フロアカーペットの上限位置が一方の係止突起の掛止部下面で規制されることにより、同様の掛止部を有さない他方の係止突起からのフロアカーペットの抜脱を確実に防止できる。
【0012】
本発明において、前記一方の係止突起が、前記他方の係止突起の車両前後方向後方に配設され、前記掛止部が、前記一方の係止突起の上端から車両前後方向後方に延出している態様では、フロアカーペットに対し車両前方に向かう力が作用した場合に、掛止部から被係止孔が抜脱するのが確実に阻止される。
【0013】
本発明において、前記係止部材が、車体フロア側部に沿って配索される電装ハーネスの保持部を備え、前記一対の係止突起が、前記電装ハーネスに対して車室中央側に配設され、前記電装ハーネスを覆う前記フロアカーペット側端部が屈曲状態で係止される態様では、フロアカーペットの面剛性によって係止突起の中上位部に被係止孔が係止され、その分、フロアカーペットの被係止孔が下方向に動く余裕が生じ、被係止孔への負荷が低減され変形や破損を防止するうえで有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、車体フロア1へのフロアカーペット2の敷設状況を示す分解斜視図である。図において、車体フロア1の左右両側端部に沿ってサイドシル3,3が設けられるとともに、車体フロア1の中央部にはセンタートンネルが形成され、また、左右のサイドシル3,3を連結するようにフロアクロスメンバーが配設されている。フロアカーペット2は、このようなフロア形状に対応した成形品で構成されている。
【0015】
左右のサイドシル3,3の上面には、車両前後方向に適宜間隔を有して複数の取付け孔30が穿設され、各取付け孔30に、フロアカーペット2の側端部23の係止部材を兼ねたハーネスクランプ4が取付けられる。各ハーネスクランプ4には、図2および図3に示すように、車体フロア面1の左右両側端部に沿って配索される電装ハーネス5の保持部45が設けられるとともに、フロアカーペット2の側端部23に穿設された被係止孔20(21,22)に係合する係止突起41,42が設けられている。
【0016】
ハーネスクランプ4は、樹脂材を用いた射出成形品で構成され、車両前後方向に延びる基板40と、該基板40の前端側底部に突設されたクリップ43と、該基板40の後端側底部に突設された脚部44と、該基板40の前端寄り上部に一体に設けたハーネス保持部45とを備え、前記基板40の後端寄りの車室中央側の縁部に、前後一対の係止突起41,42が一体に形成されている。図示例の保持部45は、可撓性を有する結束バンド状に形成され、基板40を側方に貫通するスリットにバンド先端部を挿入係止することで、電装ハーネス5を結束して保持可能となっているが、保持部45の形態はこれに限定されるものではない。
【0017】
係止突起41,42は、基板40の車室中央側の縁部に設けられ、反対側の縁部に保持部45設けられている。一対の係止突起41,42のうち、車両前後方向の後方に配設された一方の係止突起41の上端には、他方の係止突起42から離れる方向、すなわち車両前後方向の後方に延出した掛止部41aが一体に形成されている。一方、フロアカーペット2の被係止孔20は、一対の係止突起41,42に対応して車両前後方向に並べて穿設された前後一対の被係止孔21,22で構成されている。各被係止孔21,22は同形状の丸孔からなり、フロアカーペット2の成形時に形成される。
【0018】
以上のように構成されたハーネスクランプ4は、クリップ43を取付け孔30に嵌着することにより、サイドシル3の上面に脚部44を当接した状態で固定される。ハーネスクランプ4の保持部45に保持される電装ハーネス5は、図2および図3に示すように、係止突起41,42に対して車両側方寄りに配索されることになる。
【0019】
電装ハーネス5を保持したハーネスクランプ4に、フロアカーペット2の側端部23を係止するに際しては、先ず、車両後方側の被係止孔21を、対応する係止突起41の掛止部41aに引っ掛け、係止突起41の基部41bに係合させる。すると、車両前方側の被係止孔22は、自動的に他方の係止突起42に誘導され、フロアカーペット2の側端部23を押し下げるのみで、被係止孔22を係止突起42に係合させることができる。
【0020】
その後、図4および図5に示されるように、電装ハーネス5(保持部45)を覆い係止突起41,42で屈曲状態に係止されたフロアカーペット2の側端部23の上側にサイドシルスカッフ6が装着され、サイドシルスカッフ6によって、フロアカーペット2の側端部23が、電装ハーネス5、ハーネスクランプ4とともに包覆される。
【0021】
上記のようなフロアカーペット側端部23の係止構造では、フロアカーペット2を引き下げるような力が作用した場合、この引張力が2つの係止突起41,42に分散されることで、それぞれの被係止孔21,22の負荷が軽減されることに加えて、各被係止孔21,22が、小さな丸孔形状をなすことにより、各被係止孔21,22の縁部に引張応力が分散され、被係止孔21,22の変形や破損が防止される。また、各被係止孔21,22の変形が抑制されることによって、サイドシルスカッフ6の端部を短く設定でき、その分の重量を軽減可能となる。
【0022】
さらに、図5に示すように、一方の係止突起41の掛止部41aの下面より、他方の係止突起42の上端が高く設定されることで、フロアカーペット側端部23の上方向の動きが掛止部41aの下面で規制され、掛止部の無い係止突起42からフロアカーペット側端部23の被係止孔22が抜脱するのが防止される。
【0023】
さらに、フロアカーペット2の面剛性によって各係止突起41,42の中上位部に各被係止孔21,22が係止され、その分、フロアカーペット2の被係止孔21,22が下方向に移動する余裕が生じ、被係止孔21,22への負荷が低減され変形や破損を防止するうえで有利である。
【0024】
また、車両室内に座席が設置された状態で、各座席に着座した乗員の足で踏まれることになるフロアカーペット2には、フロアマットが前方にずれやすいことからも分かるように、前方への力が作用する傾向がある。加えて、運転席側では、ペダル操作によってもフロアカーペット2に車両前方向への力が作用することになる。一方の係止突起41の掛止部41aが車両後方に向けて延設されている構成は、このような車両前方向への引張力に対して被係止孔41,42の抜脱を防止するうえで有利である。
【0025】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】車体フロアへのフロアカーペットの敷設状況を示す分解斜視図である。
【図2】本発明実施形態に係るフロアカーペットの側端部係止構造を示す要部斜視図である。
【図3】本発明実施形態に係る係止構造を備えたハーネスクランプへのフロアカーペット側端部の係止過程を示す要部分解斜視図である。
【図4】図2のA−A断面図である。
【図5】図2のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 車体フロア
2 フロアカーペット
3 サイドシル
4 ハーネスクランプ(係止部材)
5 電装ハーネス
6 サイドシルスカッフ
21,22 被係止孔
23 側端部
30 取付け孔
41,42 係止突起
41a 掛止部
45 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フロア面を覆うフロアカーペットの側端部を、車体フロア側部に取付けた係止部材に係止する構造において、前記フロアカーペット側端部には、車両前後方向に並べて一対の被係止孔が穿設される一方、前記係止部材には、前記一対の被係止孔に係合可能な前後一対の係止突起が設けられ、このうち一方の係止突起の上端に、他方の係止突起から離れる方向に延出した掛止部が設けられていることを特徴とする車両用フロアカーペットの側端部係止構造。
【請求項2】
前記一対の被係止孔が、丸孔であることを特徴とする請求項1に記載の車両用フロアカーペットの側端部係止構造。
【請求項3】
前記他方の係止突起の突出高さが、前記掛止部の下面までの高さ以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用フロアカーペットの側端部係止構造。
【請求項4】
前記一方の係止突起が、前記他方の係止突起の車両前後方向後方に配設され、前記掛止部が、前記一方の係止突起の上端から車両前後方向後方に延出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用フロアカーペットの側端部係止構造。
【請求項5】
前記係止部材が、車体フロア側部に沿って配索される電装ハーネスの保持部を備え、前記一対の係止突起が、前記電装ハーネスに対して車室中央側に配設され、前記電装ハーネスを覆う前記フロアカーペット側端部が屈曲状態で係止されるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用フロアカーペットの側端部係止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−100160(P2010−100160A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273099(P2008−273099)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】