説明

車両用フロアスペーサおよび車両の室内構造

【課題】製造コストを高騰させることなく、フロアカーペットの取り外しの容易性を確保しながら、そのフロアスペーサに対するフロアカーペットの相対的なずれを効果的に防止することができる車両用フロアスペーサおよび車両の室内構造を提供すること。
【解決手段】車両用フロアスペーサ10は、例えば水平パッド11と下肢部衝撃吸収パッド12とが発泡性樹脂粒子から一体に成形されたものであり、車両内に配置した際に室内側となる面の少なくとも一部分にシボ加工が施されており、その一実施の形態として、平面視矩形の凸部13,13,…が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フロアスペーサと該車両用フロアスペーサを備えた車両の室内構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時等の衝撃から乗員の下肢部を保護するために、車室内のフロア前方の乗員足元部分には一般に下肢部衝撃吸収パッドが設置され、また、多様な室内寸法を有する車両内において座席と床面の高さの調整を図るために、車両の床面上には一般に水平パッドが設置される。この下肢部衝撃吸収パッドと水平パッドは、それぞれが独立して使用されるほかに、別体に成形された後に嵌め合いないしは接着等によって組付けられたり、一体成形されたりしながら一つのフロアスペーサとして使用されている。例えば、下肢部衝撃吸収パッドと水平パッドを別体に成形し、下肢部衝撃吸収パッドに設けた凸部を水平パッドに設けた貫通孔に嵌め合わせて形成されるフロアスペーサが特許文献1に開示されている。
【0003】
ところで、フロアスペーサの車室内側の面には、該フロアスペーサ設置後にフロアカーペットが敷設される。このフロアカーペットは、メンテナンスの際に取り外す必要があること、および環境影響の観点から車両の廃棄処分の際に車両から取り外す必要があることなどの理由で、フロアスペーサに接着等されていない。具体的には、フロアカーペットはフロアスペーサ上に敷設され、その端部が車両のフロアフレームとサイドフレームの取合部に設けられた溝に埋め込まれているのみである。
【0004】
そのため、乗員の踵やつま先がフロアカーペット上を滑る際には、このフロアカーペットがフロアスペーサに対して相対的にずれてしまうという問題が往々にして生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−118460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の車両用フロアスペーサおよび車両の室内構造は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、接着剤等を使用することなく、フロアスペーサに対するフロアカーペットの相対的なずれを生じ難くすることのできる車両用フロアスペーサと、該車両用フロアスペーサを備えた車両の室内構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による車両用フロアスペーサは、発泡性樹脂粒子から成形される車両用フロアスペーサであって、車両内に配置した際に室内側となる面の少なくとも一部分にシボ加工が施されていることを特徴とする。
【0008】
発泡性樹脂粒子は特に限定するものではないが、発泡性樹脂粒子として熱可塑性樹脂粒子を使用する場合は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などを使用することができ、発泡性樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合は、ポリウレタン系樹脂などを使用することができる。中でも、ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系単量体を含浸重合させて得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂の樹脂粒子発泡成形体は、ポリエチレン系樹脂粒子の発泡成形体やポリプロピレン系樹脂粒子の発泡成形体に比べて、寸法安定性と形状保持性に優れていること、ポリスチレン系樹脂粒子の発泡成形体に比べて擦れによる粉が出難いことの理由から特に好ましい。また、スチレン改質ポリエチレン系樹脂におけるスチレン成分の割合は40〜90重量%、好ましくは50〜85重量%、より好ましくは55〜75重量%である。
【0009】
車両用フロアスペーサは、水平パッドや、車両への設置時に車体側となる底面に複数の凹溝が形成されている下肢部衝撃吸収パッド、さらには、それらが一体に成形された製品ないしは接着剤等で接着された製品などであり、車室内側の面であって少なくともフロアカーペットが敷設される部分にはシボ加工が施されている。なお、上記する凹溝の形態は特に限定するものではないが、例えば、車両の前後方向や左右方向に延設する縦長状の形態や、平面視が矩形や円形、楕円形の形態などを適用できる。また、その溝深さも適宜に調整することができ、車両衝突時において、該凹溝が座屈することによって衝撃エネルギーを効果的に吸収できる形状(深さを含む)であれば適宜に設定することができる。
【0010】
フロアスペーサの成形に際しては、例えば上記するスチレン改質ポリエチレン系樹脂をはじめとする熱可塑性樹脂に、発泡剤を含浸させて発泡性の熱可塑性樹脂とし、該発泡性の熱可塑性樹脂を加熱水蒸気等で予備発泡させることで予備発泡粒子を製造する。次いで、かかる予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、蒸気加熱等によって発泡成形すればよい。ここで、フロアスペーサの発泡倍率は、例えば3〜70倍の範囲内で調整した予備発泡粒子により成形するのがよい。発泡倍率が3倍未満のものは非常に硬くなるため、発泡体による十分な塑性変形性能を期待することができない。一方、発泡倍率が70倍を越えてしまうと、発泡体が軟らかすぎてしまい、発泡体としての反力を得ることが難しくなる。
【0011】
上記する成形型は、例えば固定型および可動型から構成される成形型であり、その一方にアルミニウム合金鋳物等からなる凹型が取り付けられ、他方に同素材の凸型が取り付けられており、凸型の一部が凹型に嵌め合いされてキャビティを形成するようになっている。この凸型のキャビティに臨む端面には、任意の形状および寸法のシボ柄を形成する凹凸が設けられている。かかる成形型を用いることで、フロアスペーサの一方面にシボ加工を施すことができる。
【0012】
ところで、シボ加工によってフロアスペーサの一方面の一部または全部に形成された凸部の大きさとしては、例えば、平面視が0.5mm×0.5mmの正方形で突出長(高さ)が0.5mmの寸法〜平面視が5mm×5mmの正方形で高さが2mmの寸法の範囲が好ましい。上記の最小寸法よりも小さい場合や上記の最大寸法よりも大きな場合では、ともにフロアスペーサに対するフロアカーペットの引っ掛かりが弱くなってしまい、フロアカーペットのずれを効果的に防止できなくなるという発明者等による実験結果によるものである。
【0013】
本発明の車両用フロアスペーサによれば、フロアスペーサのうち、車両内に配置した際に室内側となる面の少なくとも一部分にシボ加工が施されているだけの極めて簡易な構成で、フロアカーペットの相対ずれを効果的に防止することが可能となる。また、このシボ加工は、成形型を構成する凸型の端面等にシボ柄を形成する凹凸を設けておくだけでよいため、フロアスペーサの製造コストを何ら高騰させるものではない。
【0014】
さらに、本発明による車両の室内構造は、車両内に配置した際に室内側となる面にシボ加工が施されている車両用フロアスペーサが車両内に配置され、少なくとも該車両用フロアスペーサの室内側となる面にはフロアカーペットが積層されていることを特徴とする。
【0015】
既述する一方面の一部または全部にシボ加工が施されたフロアスペーサと、そのシボ加工部に積層されたフロアカーペット(シボ加工部と当接するフロアカーペットの裏面には、例えば、フェルト材や不織布などからなる繊維層が形成されている)とからなる車両の室内構造とすることで、フロアカーペットの取り外しの容易性を確保しながら、その相対ずれを効果的に防止できる室内構造を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から理解できるように、本発明の車両用フロアスペーサおよび車両の室内構造によれば、製造コストを高騰させることなく、フロアカーペットの取り外しの容易性を確保しながら、フロアスペーサに対するフロアカーペットの相対的なずれを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1aは、本発明のフロアスペーサの一実施の形態の斜視図を、図1bは、図1aのb−b矢視図でその一部を拡大した図を、図2は、フロアスペーサを製造する成形型の一実施の形態の断面図を、図3は、本発明の車室内空間の一実施の形態の断面図を、図4は、引張試験の概要を説明した図をそれぞれ示している。なお、図示するフロアスペーサは下肢部衝撃吸収パッドと水平パッドが一体成形された形態であるが、本発明のフロアスペーサは、車両内に配置した際に室内側となる面の少なくとも一部分にシボ加工が施されていればいなかる形態であってもよい。
【0018】
図1aは、フロアスペーサの一実施の形態を示している。このフロアスペーサ10は、水平パッド11と下肢部衝撃吸収パッド12とが一体に成形されており、該フロアスペーサ10が車室内に設置された際に車室内側となる面には、図1bの拡大図にて示すようにシボ加工によって形成された多数の凸部13,13,…が設けられている。なお、下肢部衝撃吸収パッド12の下面(車両への設置時に車体側となる底面)には、複数の凹溝が形成されている実施の形態であってもよい。さらには、水平パッド11と下肢部衝撃吸収パッド12とが別体に成形され、嵌め合いや接着剤によって組み付けられた形態であってもよい。
【0019】
図2は、成形型の一実施の形態の断面図である。この成形型は、可動型1と、該可動型1の内部にボルト固定され、下方に突出する凸型2と、この凸型2の一部が摺動しながら嵌め合いされる凹型4と、該凹型4がボルト固定される固定型3とから大略構成されている。可動型1の内部に配設され、凸型2の底面21に連通する充填パイプ53,53を介して、凸型2の端面21と、凹型4の内壁面を形成する壁面41、底面42とによって画成されるキャビティC内に発泡樹脂粒子が充填される(図中のZ2方向)。
【0020】
可動型1と固定型3は、それぞれの側面の取り合い部が案内プレート51によって包囲され、可動型1の可動時(図中のZ1方向)に双方が位置ずれしないように組付けられている。可動型1に穿孔されたボルト孔11には、可動型1の側面と案内プレート51を繋ぐ可動ボルト52が昇降自在に遊嵌されている。
【0021】
凸型2の端面21には、所望形状で所望寸法のシボ柄22,22,…が設けられている。なお、形成されるシボの形状は、平面視が正方形または矩形の凸部を一定の間隔で多数設けた形態や、一定の間隔で直交する方向に連続する多数の突条からなる形態など、フロアカーペットとの間で所定の引張強度(摩擦強度)を発揮できる形態(および寸法)であれば、特に限定されるものではない。
【0022】
フロアスペーサ10の成形方法は、例えばスチレン改質ポリエチレン系樹脂を使用し、下肢部衝撃吸収パッド用の予備発泡粒子を水平パッドの予備発泡粒子に比して低倍率にて予備発泡させた粒子を、固有の不図示の充填口からキャビティ内に充填する。ここで、キャビティ内における下肢部衝撃吸収パッドと水平パッドとの境界付近には、双方の粒子が混ざり合わないように予め隔壁を設けておき、それぞれの形状をキャビティの内壁面と隔壁にて画成しておく。区画された各キャビティ内にそれぞれの予備発泡粒子を同時充填し、充填後にキャビティ内から隔壁を速やかに除去することにより、水平パッド11と下肢部衝撃吸収パッド12とで発泡倍率が異なり、さらにはその一方面にシボ加工が施された車両用のフロアスペーサ10を成形することができる。
【0023】
なお、図示する車両用フロアスペーサ以外にも、水平パッドのみ、または下肢部衝撃吸収パッドのみを成形型にて成形することができることは勿論のことである。
【0024】
図3は、図1に示すフロアスペーサ10を車室内に設置し、さらにその車室内側の面にフロアカーペット20を敷設してなる車両の室内構造100を模式的に示した断面図である。フロアスペーサ10は、シボ加工面(凸部13,13,…)を車室内側に向けた姿勢で車両のフロアフレームF1上に設置され、その上方(室内側)にフロアカーペット20が敷設され、その端部がフロアフレームF1とサイドフレームF2の取合部に形成された溝F3に埋め込まれる。なお、シボ加工面と当接するフロアカーペット20の裏面には、例えば、フェルト材や不織布などからなる不図示の繊維層が形成されている。
【0025】
図示する室内構造100によれば、フロアスペーサ10上にフロアカーペット20を単に敷設しただけの構成であっても、フロアスペーサ10のシボ加工面によってフロアカーペット20の相対ずれが効果的に防止される。
【0026】
[引張試験とその結果]
次に、本発明のフロアスペーサに対するフロアカーペットのすべり難さを検証するために発明者等がおこなった引張試験とその結果を、図4に基づいて説明する。
【0027】
まず、所定形状および寸法に成形されたフロアスペーサ10Aをシボ加工面を上方に向けた姿勢で台座201上に接着させ、シボ加工面上に裏面に繊維層が形成されたフロアカーペット20Aを敷設する。なお、このフロアカーペット20Aを上方のシリンダユニットを構成するピストンロッド202にて一定圧力で押し付け(P1方向)、この状態でフロアカーペット20Aの端部を固定した治具203を介して所定の引張力にて該カーペットを引張り(P2方向)、カーペットが動き出した際の引張荷重を測定するものである。
【0028】
この試験で使用されたフロアスペーサ10Aは、発泡倍率が50倍のポリスチレンからなる予備発泡粒子を図2に示す成形型にて発泡成形し、これを80mm×80mm×15mm(厚み)の寸法に加工したものである。また、シボを形成する凸部は、平面視が1.9mm×2.8mmの矩形で高さが0.5mmの寸法に形成されている。
【0029】
また、フロアカーペット20Aは、200mm×200mm×3mm(厚み)に加工されており、このフロアカーペット20Aを上から押し付けるピストンロッド先端は平面視が正方形でその面積が70cmである。
【0030】
このピストンロッド202にて上から98N(10kgf)の荷重を載荷してカーペットが動き出した際の引張荷重を測定した結果、16kgfの引張荷重が計測された。なお、既述する好ましいシボの凸部寸法である形態(平面視が0.5mm×0.5mmの正方形で突出長(高さ)が0.5mmの寸法〜平面視が5mm×5mmの正方形で高さが2mmの寸法)でも同様に引張試験をおこなった結果、14〜16kgfの引張荷重が計測された。一方、シボ加工面のない従来の平坦なフロアスペーサとフロアカーペットとの間の引張試験を同様におこなった結果、引張荷重は10kgf程度であった。
【0031】
発明者等のさらなる実験によれば、乗員がフロアカーペット上で足を滑らせる等して該フロアカーペットに及ぼす外力(上試験でいう引張荷重)は10kgf前後であることが判明している。したがって、上記する形状および寸法の凸部を有するシボ加工面を備えたフロアスペーサとすることで、本発明の目的を十分に達成することが可能となる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は本発明のフロアスペーサの一実施の形態の斜視図であり、(b)は図1のb−b矢視図でその一部を拡大した図。
【図2】フロアスペーサを製造する成形型の一実施の形態の断面図。
【図3】本発明の車室内空間の一実施の形態の断面図。
【図4】引張試験の概要を説明した図。
【符号の説明】
【0034】
1…可動型、11…スリット、2…凸型、21…端面、3…固定型、4…凹型、41…側面、42…底面、51…案内プレート、52…可動ボルト、10…フロアスペーサ、11…水平パッド、12…下肢部衝撃吸収パッド、13…凸部、20…フロアカーペット、100…室内構造、C…キャビティ、F1…フロアフレーム,F2…サイドフレーム,F3…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡性樹脂粒子から成形される車両用フロアスペーサであって、
車両内に配置した際に室内側となる面の少なくとも一部分にシボ加工が施されていることを特徴とする車両用フロアスペーサ。
【請求項2】
車両内に配置した際に室内側となる面にシボ加工が施されている車両用フロアスペーサが車両内に配置され、少なくとも該車両用フロアスペーサの室内側となる面にはフロアカーペットが積層されていることを特徴とする車両の室内構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−290567(P2007−290567A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121059(P2006−121059)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】