説明

車両用ブレーキシステム

【課題】本発明は、入力装置に入力された荷重を効率的に吸収することができる車両用ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】操作者のブレーキ操作が入力される入力装置14と、少なくともブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するモータシリンダ装置とが、ダッシュボードの前方において区画されたエンジンルームに、互いに分離して配置されている車両用ブレーキシステムであって、入力装置14は、ダッシュボードにその一部を貫通させてダッシュボードに固定されるマスタシリンダ34と、マスタシリンダ34に固定されたバルブユニット300と、を備え、バルブユニット300は、エンジンが後方に移動した際に荷重が入力される位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両(自動車)用のブレーキシステムとしては、例えば、負圧式ブースタや油圧式ブースタ等の倍力装置を備えるものが知られている。また、近年では、電動モータを倍力源として利用する電動倍力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示された電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作によって進退動作する主ピストンと、この主ピストンと相対変位可能に外嵌された筒状のブースタピストンと、このブースタピストンを進退動作させる電動モータとを備えて構成されている。
【0004】
この電動倍力装置によれば、主ピストンとブースタピストンとをマスタシリンダのピストンとし、それぞれの前端部をマスタシリンダの圧力室に臨ませることで、操作者によってブレーキペダルから主ピストンに入力される推力と、電動モータからブースタピストンに入力されるブースタ推力とによって、ブレーキ液圧をマスタシリンダ内に発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−23594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる電動倍力装置では、車両に外力が加わって動力装置(エンジン等)や前輪用ダンパが後退してマスタシリンダ(入力装置)に当接した場合には、動力装置(エンジン等)や前輪用ダンパがマスタシリンダ(入力装置)を後方に移動させるように作用する。そのため、マスタシリンダ(入力装置)には、入力された荷重を吸収したり、入力された荷重による後方への移動量を少なくしたりすることが望まれている。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みて創案されたものであり、入力装置に入力された荷重を効率的に吸収などすることができる車両用ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決した本発明は、操作者のブレーキ操作が入力される入力装置と、少なくとも前記ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生する電動ブレーキアクチュエータとが、ダッシュボードの前方において区画された動力装置の搭載室に、互いに分離して配置されている車両用ブレーキシステムであって、前記入力装置は、前記ダッシュボードにその一部を貫通させて前記ダッシュボードに固定されるマスタシリンダと、前記マスタシリンダに固定されたバルブユニットと、を備え、前記バルブユニットは、前記動力装置又は車両の前輪用ダンパが後方に移動した際に前記動力装置又は前記前輪用ダンパによって荷重が入力される位置に配置されていることを特徴とする。
ここで、前輪用ダンパは、ダンパハウジングを含む。また、マスタシリンダは、大きな油圧がかかるので、高剛性構造の部品である。一方、センサユニットは、マスタシリンダと比べると剛性が低い部品である。
この車両用ブレーキシステムによれば、入力装置に入力された荷重を、バルブユニットが変形したり破断したりすることによって、入力された荷重を吸収したり、入力された荷重による後方への移動量を少なくすることができる。
また、この車両用ブレーキシステムによれば、入力装置と、電動ブレーキアクチュエータとが互いに分離して配置されるので、大型化する傾向のある電動倍力装置(例えば、特許文献1参照)を含む従来の車両用ブレーキシステムと異なって、収容スペースが限られた動力装置の搭載室(エンジンルーム等)における配置のレイアウトの自由度を一段と向上させることができる。
また、この車両用ブレーキシステムによれば、操作者のブレーキ操作が入力される入力装置と、ブレーキ液圧を発生する電動ブレーキアクチュエータとを分離して配置することができるので、操作者と電動ブレーキアクチュエータとを離間して配置することができる。したがって、この車両用ブレーキシステムによれば、電動ブレーキアクチュエータで、たとえ音や振動が発生したとしても操作者に対する違和感(不快感)を抑えることができる。
また、この車両用ブレーキシステムによれば、電動ブレーキアクチュエータと分離して配置される入力装置は、従来の、主ピストンと同軸上にブースタピストンが配置される電動倍力装置(例えば、特許文献1参照)と比較して、動力装置の搭載室(エンジンルーム等)に配置された際の前後方向の長さを短くすることができるので、動力装置(エンジン等)の後方で前後方向にバルブユニットが重なるように入力装置が配置された際に、従来の電動倍力装置よりも十分なクラッシュストロークを確保することができる。
【0009】
また、このような車両用ブレーキシステムにおいては、前記バルブユニットは、脆弱部を備える構成とすることができる。
この車両用ブレーキシステムによれば、入力装置に入力された荷重を、バルブユニットに形成された脆弱部が優先的に破断し、又は圧壊して効率的に吸収することができる。したがって、この車両用ブレーキシステムによれば、車両の衝突時に、たとえ動力装置(エンジン等)又は前輪用ダンパが後退して入力装置に当接した場合であっても、荷重を吸収しながら動力装置(エンジン等)をダッシュボードに近接させることができる。
【0010】
また、このような車両用ブレーキシステムにおいては、前記バルブユニットは、前記マスタシリンダから延びる液圧路に設けられたバルブと、前記バルブに電気的に接続された電子回路基板と、前記バルブ及び前記電子回路基板を収容するとともに前記マスタシリンダに固定される筐体と、を備え、前記脆弱部は、前記筐体の前記マスタシリンダ側端部に形成されている構成とすることができる。
この車両用ブレーキシステムによれば、筐体に形成された脆弱部が破断又は圧壊した際に、筐体に収容されたバルブ及び電子回路基板が一体的に移動するので、ショート等の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、入力装置に入力された荷重を効率的に吸収などすることができる車両用ブレーキシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る車両用ブレーキシステムを示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る入力装置の全体斜視図である。
【図4】実施形態に係る車両用ブレーキシステムを車両の上方から見た状態を模式的に示した図であり、(a)は動力装置が後方に移動する前の状態、(b)は動力装置が後方に移動してバルブユニットに当接した状態、(c)はバルブユニットが破断した状態である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステムは、その構成要素としての入力装置及び電動ブレーキアクチュエータが互いに分離して配置されていること、及び当該入力装置に特有の構成を採用したことに主な特徴点を有する。
以下では、右ハンドル車について適用される本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステムの全体構成について説明した後に、入力装置について更に詳しく説明する。なお、本発明の車両用ブレーキシステムは、右ハンドル車に限定されず、左ハンドル車にも適用可能である。
【0014】
<車両用ブレーキシステムの全体構成>
本実施形態に係る車両用ブレーキシステムにおいては、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成されるものを例にとって説明する。以下の説明における前後上下左右の方向は、車両の前後上下左右の方向に一致させた、図1に示す前後上下左右の方向を基準とする。
【0015】
図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、操作者によってブレーキ操作が入力される入力装置14と、少なくともブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生させるモータシリンダ装置(電動ブレーキアクチュエータ)16と、このモータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧に基づいて車両挙動の安定化を支援するビークルスタビリティアシスト装置18(車両挙動安定化装置、以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを備え、入力装置14、モータシリンダ装置16及びVSA装置18が、車両VのエンジンルームR内に配置されて構成されている。
【0016】
なお、モータシリンダ装置16は、運転者のブレーキ操作に応じた電気信号だけではなく、他の物理量に応じた電気信号に基づいて液圧を発生させる手段を更に備えていてもよい。他の物理量に応じた電気信号とは、例えば、自動ブレーキシステムのような、運転者のブレーキ操作によらずに、ECU(Electronic Control Unit)が車両Vの周囲の状況をセンサ等で判断して、車両Vの衝突を回避するための信号を意味している。
【0017】
本実施形態でのエンジンルームRは、ダッシュボード2の前方において区画され、車幅方向の左右両側に車両Vの前後方向に沿って延在する一対のフロントサイドフレーム1a、1bと、前記一対のフロントサイドフレーム1a、1bの上方に所定間隔離間して車体の前後方向に沿って延在する一対のアッパメンバ1c、1dと、前記一対のフロントサイドフレーム1a、1bの前端部に連結されて複数の部材によって略矩形状の枠体からなるバルクヘッド連結体1eと、前記一対のアッパメンバ1c、1dの前後方向の後ろ寄りに図示しないストラットを支持するダンパハウジング1f、1gとで囲まれて構成されている。なお、図示しないストラットは、例えばショックを吸収するコイルスプリングと振動を低減するショックアブソーバとによって前輪ダンパとして構成されている。
【0018】
ちなみに、バルクヘッド連結体1e、フロントサイドフレーム1a、1b、アッパメンバ1c、1d等の車体フレームは、車両Vが衝突した際に、その前側から後側に向かって順序よくクラッシュすることで十分なクラッシュストロークを確保しており、衝突エネルギを効率的に吸収する構造となっている。
【0019】
また、エンジンルームRには、車両用ブレーキシステム10とともに、動力装置3などの構造物が搭載されている。動力装置3としては、例えばエンジン3aと電動機(走行モータ)3bとトランスミッション(図示省略)とを組み合わされたハイブリッド自動車用のものであり、エンジンルームR内の空間の略中央部に配置されている。なお、エンジン3a及び電動機3bによる動力は、図示しない動力伝達機構を介して左右の前輪を駆動するように構成されている。また、車両Vの車室Cの床下や車室Cの後方には、電動機3bに電力を供給し、電動機3bから電力(回生電力)を充電する図示しない高圧バッテリ(リチウムイオン電池など)が搭載されている。なお、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動車だけでなく、後輪駆動車、四輪駆動車にも適用可能である。
【0020】
なお、エンジンルームR内に搭載された動力装置3の周囲には、後記する車両用ブレーキシステム10の他に、図示しないランプ類などに電力を供給する低圧バッテリを含む電気系、吸気系、排気系、冷却系など各種の構造物(補機)が取り付けられている。
【0021】
本実施形態での入力装置14は、前記した右ハンドル車に適用するものであり、ダッシュボード2の車幅方向の右側に後記するスタッドボルト303(図4参照)を介して固定され、ブレーキペダル(ブレーキ操作子)12(図4参照)と連結されるプッシュロッド42(図4参照)がダッシュボード2を貫通して車室C側に突出するように構成されている。なお、後記するように、入力装置14を構成するマスタシリンダ34(図4参照)の一部は、車室C側に延在する。
そして、入力装置14は、図1に示すように、車両Vの前後方向に略なだらかな凹凸構造を有するダッシュボード2に取り付けられるが、入力装置14の前端位置は、ダッシュボード2の最前端位置2aと略同じになるように前後方向に位置合わせされて配置されている。なお、入力装置14は、右ハンドル車に限定されず、左ハンドル車にも適用可能である。
【0022】
モータシリンダ装置16は、入力装置14とは逆側の車幅方向の左側に配置され、例えば左側のフロントサイドフレーム1aに図示しないブラケットを介して取り付けられている。具体的には、モータシリンダ装置16は、ブラケットに対して弾性(フローティング)支持され、ブラケットがフロントサイドフレーム1aに対してボルトなどの締結部材を介して締結されている。これにより、モータシリンダ装置16の作動時に発生する振動等を吸収できるようになっている。
【0023】
VSA装置18は、例えば、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能などを備えて構成され、車幅方向の右端の前側に、例えばブラケットを介して車体に取り付けられている。なお、VSA装置18に代えて、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能のみを有するABS装置を接続してもよい。
【0024】
入力装置14は、エンジン3a(動力装置)の後方でフロントサイドフレーム1a(1b)よりも上方に位置している。
そして、図2(b)に示すように、本実施形態の入力装置14は、エンジン3aの後方で、このエンジン3aと前後方向に一部(図3のバルブユニット300)のみが重なるように配置されている。
【0025】
また、モータシリンダ装置16は、入力装置14よりも下方に配置されている。詳述すると、モータシリンダ装置16に設けられた後記する第2リザーバ84(図2参照)は、入力装置14に設けられた後記する第1リザーバ36(図2参照)よりも下方に設けられている。またこのとき、第1リザーバ36と第2リザーバ84とを接続する配管チューブ86(図2参照)は、例えば、第1リザーバ36と第2リザーバ84との間において、第2リザーバ84よりも下方に位置しないように配設される。
また、モータシリンダ装置16は、モータシリンダ装置16は、動力装置5とフロントサイドフレーム1aとの間に配置されている。
【0026】
また、モータシリンダ装置16は、VSA装置18よりも後方に配置されている。ただし、モータシリンダ装置16の位置は本実施形態に限定されるものではなく、VSA装置18よりも前方に配置されていてもよい。また、VSA装置18は、モータシリンダ装置16と上下方向(鉛直方向)において同じ高さに配置されていてもよく、又はモータシリンダ装置16よりも下方に配置されていてもよく、エンジンルームR内の空スペースに応じて適宜変更できる。また、VSA装置18についても、入力装置14と上下方向(鉛直方向)において同じ高さに配置されていてもよく、又は入力装置14よりも下方に配置されていてもよく、エンジンルームR内の空スペースに応じて適宜変更できる。
なお、入力装置14、モータシリンダ装置16及びVSA装置18の内部の詳細な構成については後記する。
【0027】
これら入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18は、例えば、金属製の管材で形成された液圧路によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
【0028】
すなわち、入力装置14とVSA装置18とは、第1液圧系統70a(図2参照)としての、配管チューブ22a、ジョイント(三方の分岐管)23a、配管チューブ22cを介して互いに接続され、第2液圧系統70b(図2参照)としての、配管チューブ22d、ジョイント(三方の分岐管)23b、配管チューブ22fを介して互いに接続されている。
【0029】
また、モータシリンダ装置16は、第1液圧系統70a(図2参照)としての、配管チューブ22bを介してジョイント23aと接続され、第2液圧系統70b(図2参照)としての、配管チューブ22eを介してジョイント23bと接続されている。
【0030】
図2を参照して液圧路について説明すると、図2中の連結点A1(ジョイント23a)を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが配管チューブ22bによって接続され、更に、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが配管チューブ22cによって接続されている。
【0031】
また、図2中の他の連結点A2(ジョイント23b)を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが配管チューブ22eによって接続され、更に、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが配管チューブ22fによって接続されている。
【0032】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
【0033】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32RL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0034】
なお、車両用ブレーキシステム10は、本実施形態で想定しているハイブリッド自動車のほか、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0035】
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0036】
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a、44bがそれぞれ装着される。一対のピストンパッキン44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部との間には、他のばね部材50bが配設される。なお、ピストンパッキン44a、44bに代えて、一対のパッキンをシリンダチューブ38の内周面に装着する構成であってもよい。
【0037】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0038】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者(操作者)がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を制御する第1圧力室56a及び第2圧力室56bが設けられる。第1圧力室56aは、第1液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第2圧力室56bは、第2液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
【0039】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第1液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第1液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第1液圧路58a上において、第1遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。
【0040】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第2液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60bが設けられると共に、第2液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第2液圧路58b上において、第2遮断弁60bよりもホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側の下流側の液圧を検知するものである。
【0041】
この第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(非通電時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2中において、第1遮断弁60a及び第2遮断弁は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁閉状態を示している。
【0042】
マスタシリンダ34と第2遮断弁60bとの間の第2液圧路58bには、前記第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(非通電時の弁体の位置)が閉位置(常時閉)の状態となるように構成されたバルブをいう。なお、図2中において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁開状態を示している。
【0043】
このストロークシミュレータ64は、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bの遮断時に、ブレーキペダル12の操作に応じた操作反力とストロークを生じさせる装置である。このストロークシミュレータ64は、第2遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側で第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58c及びポート65aを介して設けられている。つまり、ストロークシミュレータ64の液圧室65には、マスタシリンダ34の第2圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が、第2液圧路58b、分岐液圧路58c及びポート65aを介して供給されるようになっている。
【0044】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
【0045】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56aと複数のホイールシリンダ32FR、32RLとを接続する第1液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第2圧力室56bと複数のホイールシリンダ32RR、32FLとを接続する第2液圧系統70bとから構成される。
【0046】
第1液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第1液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホイールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0047】
第2液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第2液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0048】
この結果、液圧路が第1液圧系統70aと第2液圧系統70bとによって構成されることにより、各ホイールシリンダ32FR、32RLと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ独立して作動させ、相互に独立した制動力を発生させることができる。
【0049】
電動ブレーキアクチュエータとして機能するモータシリンダ装置16は、電動モータ72を含むアクチュエータ機構74と、前記アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76とを有する。
【0050】
アクチュエータ機構74は、電動モータ72の出力軸側に設けられ、複数のギヤが噛合して電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78と、前記ギヤ機構78を介して前記回転駆動力が伝達されることにより軸方向に沿って進退動作するボールねじ軸80a及びボール80bを含むボールねじ構造体80とを有する。
【0051】
シリンダ機構76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
【0052】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第1スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第2スレーブピストン88bは、第1スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0053】
この第1及び第2スレーブピストン88a、88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブピストンパッキン90a、90bの間には、それぞれ、後記するリザーバポート92a、92bとそれぞれ連通する第1背室94a及び第2背室94bが形成される。また、第1及び第2スレーブピストン88a、88bとの間には、第1リターンスプリング96aが配設され、第2スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部と間には、第2リターンスプリング96bが配設される。
【0054】
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0055】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98bが設けられる。
【0056】
なお、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bとの間には、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bの最大ストローク(最大変位距離)と最小ストローク(最小変位距離)とを規制する規制手段100が設けられ、更に、第2スレーブピストン88bには、前記第2スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第1スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、1系統の失陥時に他系統の失陥が防止される。
【0057】
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第1液圧系統70aを制御する第1ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第2液圧系統70bを制御する第2ブレーキ系110bとを有する。なお、第1ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。更に、第1ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0058】
この第1ブレーキ系110a及び第2ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110aと第2ブレーキ系110bで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第1ブレーキ系110aの説明を中心にして、第2ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
【0059】
第1ブレーキ系110a(第2ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0060】
更に、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されるサクションバルブ142とを備える。
【0061】
なお、第1ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第1液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPs、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。
【0062】
<入力装置>
次に、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10の入力装置14について更に詳しく説明する。次に参照する図4は、本発明の実施形態に係る入力装置の全体斜視図である。
【0063】
図4に示すように、入力装置14を構成するマスタシリンダ34は、車両V(図1参照)の前後方向に延在すると共に、ストロークシミュレータ64は、このマスタシリンダ34と一体となるように並設されている。更に具体的には、本実施形態でのストロークシミュレータ64は、マスタシリンダ34の右側(車幅方向の外側)で横並びに配置されている。そして、本実施形態でのマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64は、これらをその後端側で支持するスタッドプレート304と共に、金属の一体成型体で形成される。これによって、ストロークシミュレータ64の外装であるシミュレータハウジング64aと、マスタシリンダ34の外装であるマスタシリンダハウジング34aとは互いに連続して形成されることとなる。
【0064】
このようなマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64の上方には、細長の外形を有する第1リザーバ36が、マスタシリンダ34とストロークシミュレータ64との間で前後方向に延在するように配置されている。この第1リザーバ36とマスタシリンダ34とは、図2に示すリリーフポート52a、52bを介して第1及び第2圧力室56a、56b、並びに背室48a、48bに連通するようになっている。なお、図3中、符号36aは、第1リザーバ36と、図2に示す第2リザーバ84とを連通させる配管チューブ86の基端が接続されるコネクタである。このコネクタ36aは、入力装置14の前方に突出する管状部材で形成されている。
【0065】
また、図3に示すように、マスタシリンダハウジング34aの前側には、図1に示すジョイント23aに向かって延設される配管チューブ22aの基端が接続される第1接続ポート20aと、図1に示すジョイント23bに向かって延設される配管チューブ22dの基端が接続される第2接続ポート20bとが設けられている。
【0066】
また、図3に示すように、入力装置14の右側及び左側には、後に詳しく説明するエア抜き用のブリーダ301、及びバルブユニット300が設けられている。
【0067】
また、図2に示すように、入力装置14の後側においては、マスタシリンダ34の後端部がスタッドプレート304から更に後方に延びている。そして、マスタシリンダ34の後端部は、前記したように、ブレーキペダル12をその一端側に連結したプッシュロッド42の他端側を受け入れる構成となっている(図2参照)。図3中、符号306は、マスタシリンダ34とプッシュロッド42とに亘って配置されるブーツである。
【0068】
また、前記したように、入力装置14は、スタッドプレート304から後方に向かって延出するスタッドボルト303を介してダッシュボード2(図1参照)に固定されるが、この際、スタッドプレート304から後方に延びるマスタシリンダ34の一部は、ダッシュボード2を貫通して車室C(図1参照)内に延在することとなる。
ちなみに、本実施形態での入力装置14は、その取り付け位置のダッシュボード2の傾斜に応じて、マスタシリンダ34の軸方向が車両の前方に向かって昇り勾配となるように傾斜して取り付けられている。
【0069】
図3に示すように、この入力装置14は、マスタシリンダ34の左側に、バルブユニット300を備えている。このバルブユニット300は、マスタシリンダハウジング34aに対してボルト等で取り付けられる樹脂製の筐体300a内に、図2に示す第1液圧センサPm及び第2液圧センサPp、これらからの圧力検出信号を処理する制御手段としての電子回路基板69、並びに、第1遮断弁60a、第2遮断弁60b及び第3遮断弁62などが配設されている。電子回路基板69は、第1遮断弁60a、第2遮断弁60b及び第3遮断弁62を開閉制御するものであり、各遮断弁60a、60b、62及び各液圧センサPm、Ppと図示しない線(電力線等)を介して電気的に接続されている。
【0070】
なお、第1液圧センサPm及び第2液圧センサPpは、第1液圧路58a(図2参照)及び第2液圧路58b(図3参照)のそれぞれに連通するようにマスタシリンダハウジング34a内に設けられた図示しないモニタ孔に臨むように配置されることで、前記したそれぞれの液圧を検出するようになっている。ちなみに、前記モニタ孔としては、例えば、図4に示すバルブユニット300側からマスタシリンダハウジング34aに穿設したものが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0071】
そして、このようなバルブユニット300には、これが取り付けられるマスタシリンダ34寄りに脆弱部300bが形成されている。
この脆弱部300bは、外部からバルブユニット300に所定以上の荷重が加わった際に、他の部分よりも優先的に破断ないしは圧壊するように構成したものである。
そして、本実施形態での脆弱部300bは、筐体300aを線状に薄肉にして形成しているがこれに限定されるものではない。
【0072】
図4(a)に示すように、本実施形態に係るバルブユニット300は、動力装置3の後方でこの動力装置3のエンジン3aと前後方向に重なるように配置されており、入力装置14の他の構成(マスタシリンダ34等)の前端部は、エンジン3aと前後方向に重ならないようにオフセットして配置されている。車両Vに外力が加わってエンジン3aが後退した場合には、図4(b)に示すように、エンジン3aは、マスタシリンダ34等には当接せずに、バルブユニット300に当接する。更にエンジン3aが後退した場合には、図4(c)に示すように、バルブユニット300にエンジン3aによって荷重が入力され、バルブユニット300は、脆弱部300bにおいて破断し、マスタシリンダ34から離れるため、エンジン3aの後退に伴う荷重がマスタシリンダ34に入力されることを回避し、クラッシュストロークを十分に確保することができる。
なお、マスタシリンダ34(マスタシリンダハウジング34a)は金属製であるとともに、バルブユニット300の筐体300aは樹脂製であり、筐体300aの剛性は、マスタシリンダ34の剛性よりも低いため、脆弱部300bが形成されていない場合であっても、外部からバルブユニット300に荷重が加わった際には、バルブユニット300が破断ないしは圧壊する。
【0073】
図3に示すエア抜き用のブリーダ301は、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64内にブレーキ液を充填する際に、マスタシリンダ34、ストロークシミュレータ64、液圧路等に残存する空気を抜くためのものである。このブリーダ301としては、例えば、図2に示すストロークシミュレータ64と第3遮断弁62との間を繋ぐ分岐液圧路58cから分岐してストロークシミュレータ64の外側に臨む通路の開口を塞ぐプラグで構成することができるが、マスタシリンダ34等に残存する空気を抜く構成であれば、これに限定されるものではない。
【0074】
本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが励磁で弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁で弁開状態となる。従って、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bによって第1液圧系統70a及び第2液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0075】
このとき、マスタシリンダ34の第2圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がリターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0076】
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96a及び第2リターンスプリング96bのばね力に抗して第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの変位によって第1液圧室98a及び第2液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように所望のブレーキ液圧が発生する。
【0077】
このモータシリンダ装置16における第1液圧室98a及び第2液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0078】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両Vに好適に適用することができる。
【0079】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0080】
以上説明したように、車両用ブレーキシステム10によれば、入力装置14とモータシリンダ装置(電動ブレーキアクチュエータ)16とVSA装置(車両挙動安定化装置)18とを、エンジンルーム(構造物搭載室)R内において互いに分離して構成して配置したので、入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18のそれぞれのサイズを小型化することができ、レイアウトの自由度を高めることができる。
【0081】
ところで、エンジンルームR内には、動力装置3の他に、電気系、吸気系、排気系、冷却系などの構造物が搭載されるため、必然的に大きな空スペース(設置スペース)を確保することが難しくなる。そこで、本実施形態のように、入力装置14、モータシリンダ装置16及びVSA装置18をそれぞれ分離して構成することで、個々の装置(入力装置14、モータシリンダ装置16、VSA装置18)のサイズをそれぞれ小さく構成することができ、大きな空スペースを確保する必要がなる。これにより、エンジンルームR内の狭い空スペースであっても前記各装置を搭載することが可能になり、レイアウトが容易になる。
【0082】
また、車両用ブレーキシステム10によれば、入力装置14とモータシリンダ装置16とVSA装置18とをそれぞれ分離して構成することで、各装置(入力装置14、モータシリンダ装置16、VSA装置18)の汎用性を向上して異なる車種に適用し易くなる。
【0083】
また、車両用ブレーキシステム10によれば、ダッシュボードに固定され、モータシリンダ装置16は、入力装置14から離間して配置されているので、音や振動の発生源となることもある、モータシリンダ装置16を運転者から離して配置することが可能になるため、運転者に音や振動による違和感(不快感)を与えるのを防止できる。
【0084】
また、車両用ブレーキシステム10によれば、エンジンルームR内においては車幅方向の右側又は左側に偏って空スペースが形成されることは少ないので、モータシリンダ装置16とVSA装置18を車幅方向において互いに逆側に配置することで、これらモータシリンダ装置16とVSA装置18を設置するための空スペースが確保し易くなり、レイアウトが容易になる。
【0085】
また、車両用ブレーキシステム10によれば、モータシリンダ装置16とは分離して配置される入力装置14は、従来の、主ピストンと同軸上にブースタピストンが配置される電動倍力装置(例えば、特許文献1参照)と比較して、エンジンルームRに配置された際の前後方向の長さを短くすることができるので、動力装置3(エンジン等)の後方で前後方向に少なくとも一部が重なるように入力装置14が配置された際に、従来の電動倍力装置よりも十分なクラッシュストロークを確保することができる。
【0086】
また、車両用ブレーキシステム10によれば、車両Vの衝突時に、たとえ動力装置3が後退してダッシュボード2の位置まで達したとしても、動力装置3は、入力装置14とダッシュボード2に同時に当接するか、又は入力装置14よりも先にダッシュボード2に当接する。したがって、この車両用ブレーキシステム10によれば、万一、動力装置3が後退してダッシュボード2の位置まで達したとしても、入力装置14のみが単独で後退することが回避される。その結果、動力装置3が後退してダッシュボード2の位置まで達した際の、操作者(運転者)に対する衝突安全性は一段と向上する。
【0087】
また、車両用ブレーキシステム10においては、入力装置14は、マスタシリンダ34が固定されるダッシュボード2部分と、動力装置3との間にシミュレータハウジング64aを備えるので、マスタシリンダ34が固定されるダッシュボード2部分には、シミュレータハウジング64a(シミュレータ64)を介して衝突荷重を入力させることができる。したがって、この車両用ブレーキシステム10によれば、ダッシュボード2に入力される衝突荷重を分散させて軽減することができる。その結果、操作者(運転者)に対する衝突安全性は一段と向上する。
【0088】
また、車両用ブレーキシステム10においては、入力装置14は、ダッシュボード2と動力装置3との間において脆弱部300bを備えている。このため、車両用ブレーキシステム10によれば、入力装置14に入力された荷重を、脆弱部300bが優先的に破断し、又は圧壊して効率的に吸収することができる。したがって、この車両用ブレーキシステム10によれば、車両Vの衝突時に、たとえ動力装置3が後退して入力装置14に当接した場合であっても、荷重を効率的に吸収しながら動力装置3をダッシュボード2に近接させることができる。その結果、操作者(運転者)に対する衝突安全性は一段と向上する。
【0089】
また、車両用ブレーキシステム10においては、脆弱部300bは、筐体300aのマスタシリンダ34側端部に形成されている。すなわち、筐体300aに収容された各液圧センサPm、Pp、各遮断弁60a、60b、62及び電子回路基板69は、脆弱部300bを挟んでマスタシリンダ34の反対側に配置されていることとなる。このため、車両用ブレーキシステム10によれば、筐体300aに形成された脆弱部300bが破断又は圧壊した際に、筐体300bに収容された各液圧センサPm、Pp、各遮断弁60a、60b、62及び電子回路基板69が一体的に移動するので、これらを電気的に接続する電力線等においてショート等が発生することを防ぐことができる。
【0090】
次に、車両用ブレーキシステム10を構成する入力装置14の作用効果について説明する。
この入力装置14によれば、図4(a)及び(b)に示すように、車両V(図1参照)の前後方向に延在するマスタシリンダ34に対してストロークシミュレータ64が一体となるように並設されると共に、マスタシリンダ34のポート54bとストロークシミュレータ64のポート65aとの前端位置が略一致しているので、幅及び長さが共に縮減し、小型化した入力装置14を実現することができる。
【0091】
また、このような入力装置14においては、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のポート54b、65a同士を接続する第2液圧路58b及び分岐液圧路58cは、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64からそれぞれの側方に向かって延びるように形成されているため、第2液圧路58b及び分岐液圧路58cを短くするように設計可能となる。したがって、この入力装置14によれば、より小型化した入力装置14を実現することができる。
【0092】
また、このような入力装置14においては、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のポート54b、65aは、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のそれぞれの上部に形成されている。このため、この入力装置14によれば、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64内にブレーキ液を充填すると共にマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64内の空気を除去する際に、ブリーダ301(図4(b)参照)からの空気の除去が容易となる。
【0093】
また、このような入力装置14においては、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のポート54b、65a同士を接続する第2液圧路58bの途中に配置される第3遮断弁62を内蔵する。このため、この入力装置14によれば、例えば、第3遮断弁62を入力装置14の外側に有するものを備える車両用ブレーキシステム10と比較して、簡素化した車両用ブレーキシステム10を構築することができる。
【0094】
このような入力装置14においては、図2(a)に示すように、その前方に向けてコネクタ36a、第1接続ポート20a、及び第2接続ポート20bが形成されているので、ダッシュボード2(図1参照)に固定された入力装置14のコネクタ36a、第1接続ポート20a、及び第2接続ポート20bに、配管チューブ86(図2参照)、配管チューブ22a(図2参照)、及び配管チューブ22d(図2参照)を取り付ける工程が容易となる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、入力装置14よりも前方に配置されるVSA装置18が、動力装置3に配置される車両用ブレーキシステム10について説明したが、本発明は、モータシリンダ装置16が、入力装置14よりも前方で動力装置3に配置されるものであってもよいし、VSA装置18及びモータシリンダ装置16の両方が、入力装置14よりも前方で動力装置3に配置されるものであってもよい。この場合、VSA装置18及びモータシリンダ装置16は相互に近接していても、離間していてもよい。
このような車両用ブレーキシステム10によれば、車両Vの衝突時に、たとえ動力装置3が後退した場合であっても、動力装置3にVSA装置18やモータシリンダ装置16が干渉することがないので、レイアウトに高い自由度を有しつつ、十分なクラッシュストロークを確保することができる。
また、バルブユニット300の固定位置は、マスタシリンダ34の左側に限定されず、マスタシリンダ34(又はマスタシリンダ34に一体のストロークシミュレータ64)の上下左右のいずれか側あってもよい。
また、バルブユニット300の固定位置は、マスタシリンダ34(又はマスタシリンダ34に一体のストロークシミュレータ64)の前側であってもよい。このような車両用ブレーキシステム10においては、バルブユニット300が全体的に変形することによって、入力された荷重を吸収したり、入力された荷重による後方への移動量を少なくすることができる。
また、バルブユニット300の配置は、動力装置3が後方に移動した際に最初に当接する位置に限定されず、車両Vの前輪用ダンパの一部であるダンパハウジング1f、1gのいずれかが後方に移動する際に入力装置14において最初に当接する位置であってもよい。
また、バルブユニット300の配置は、動力装置3又は前輪用ダンパが後方に移動する際に最初に当接する位置だけに限定されず、動力装置3又は前輪用ダンパが後方に移動する際に、動力装置3又は前輪用ダンパによって荷重が直接的又は間接的に入力される位置であればよい。
また、車両Vの前方衝突時において、電子回路基板69が、図示しない車両Vの衝突センサの検出結果等に基づいて、第1遮断弁60a、第2遮断弁60b及び第3遮断弁62への通電を解除する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0096】
2 ダッシュボード
3 動力装置
10 車両用ブレーキシステム
12 ブレーキペダル
14 入力装置
16 モータシリンダ装置(電動ブレーキアクチュエータ)
18 VSA装置(車両挙動安定化装置)
20a 接続ポート
20b 接続ポート
22a 配管チューブ
22b 配管チューブ
22c 配管チューブ
22d 配管チューブ
22e 配管チューブ
22f 配管チューブ
23a ジョイント
23b ジョイント
24a 出力ポート
24b 出力ポート
26a 導入ポート
26b 導入ポート
34 マスタシリンダ
34a マスタシリンダハウジング
54a 出力ポート
54b 出力ポート
58a 第1液圧路
58b 第2液圧路
58c 分岐液圧路
60a 第1遮断弁
60b 第2遮断弁
62 第3遮断弁
64 ストロークシミュレータ
64a シミュレータハウジング
65 液圧室
65a ポート
70a 第1液圧系統
70b 第2液圧系統
72 電動モータ
84 第2リザーバ
300 バルブユニット
300b 脆弱部
Pm 圧力センサ
Pp 圧力センサ
R エンジンルーム(動力装置の搭載室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者のブレーキ操作が入力される入力装置と、
少なくとも前記ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生する電動ブレーキアクチュエータとが、ダッシュボードの前方において区画された動力装置の搭載室に、互いに分離して配置されている車両用ブレーキシステムであって、
前記入力装置は、前記ダッシュボードにその一部を貫通させて前記ダッシュボードに固定されるマスタシリンダと、前記マスタシリンダに固定されたバルブユニットと、を備え、
前記バルブユニットは、前記動力装置又は車両の前輪用ダンパが後方に移動した際に前記動力装置又は前記前輪用ダンパによって荷重が入力される位置に配置されている
ことを特徴とする車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記バルブユニットは、脆弱部を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
前記バルブユニットは、
前記マスタシリンダから延びる液圧路に設けられたバルブと、
前記バルブに電気的に接続された電子回路基板と、
前記バルブ及び前記電子回路基板を収容するとともに前記マスタシリンダに固定される筐体と、
を備え、
前記脆弱部は、前記筐体の前記マスタシリンダ側端部に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−106623(P2012−106623A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257137(P2010−257137)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】