説明

車両用制動装置

【課題】マスタシリンダ圧の減圧中のみ、前後輪への制動力の配分を変化させること。
【解決手段】車両用制動装置10は、制動液圧を発生させるマスタシリンダ18と、前記マスタシリンダ18の制動液圧によって制動力を付与する制動力発生機構28と、前記マスタシリンダ18と前記制動力発生機構28とを連通させる制動液圧路30と、前記制動液圧を吸収するリザーバ12と、前記リザーバ12と前記制動液圧路30とを連通させる減圧路36と、前記制動液圧路30が所定圧以上となった際、前記制動液圧路30と前記減圧路36との連通を遮断するヒューズバルブ38と、前記減圧路36に沿って流通する制動液の流動抵抗を増大させる可変オリフィス40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コーナリング手前のコーナー区間において車両の制動を行う場合、ダウンフォースが変化するために、ブレーキング効率を高めるためには、時事刻々と変化する前後輪の制動力を許容量いっぱいの状態で前後輪に対して配分することが重要である。この場合、前後輪への制動力の配分を電気的に制御することが可能であるが、製造コストが高騰するという問題がある。
【0003】
この前後輪に対する制動力の配分に関し、例えば、特許文献1には、制動力が比較的小さいときに、マスタシリンダの制動液圧(以下、マスタシリンダ圧という)をそのまま後輪のホィールシリンダに伝達し、一方、マスタシリンダ圧が増大して設定圧力以上となったとき、プロポーショニングバルブ(以下、PCVという)によって後輪のホィールシリンダへ伝達される液圧(ホィールシリンダ圧)の上昇率を低下させることにより、前輪の制動力に対する後輪の制動力との関係において折れ線特性を持たせることが開示されている。
【0004】
例えば、車両の高速走行時に急ブレーキをかけた際、荷重が車両の前輪側へ移動して後輪と路面とのグリップ力(粘着係数)が低下し、後輪がロックするおそれがある。そこで、特許文献1に開示されているように、ブレーキ油圧回路中にPCVを組み込むことで後輪の早期ロックを防止することができる。
【0005】
図6は、マスタシリンダ圧と後輪のホィールシリンダ圧との関係において、PCV制御特性を示したものであり、図6中の実線は、PCV制御した液圧(PCV制御有り)、破線は、PCV制御が無い場合の液圧(PCV制御無し)をそれぞれ示したものである。PCV制御した液圧(実線)では、PCV制御が無い場合の液圧と比較して、矢印Aで示される折れ点から所定角度傾斜した折れ線特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2668748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1で開示されたPCV制御では、マスタシリンダ圧の加圧中(増圧中)及び減圧中を問わず後輪への制動力配分が小さく設定されているため、マスタシリンダ圧の減圧中においても加圧中の減少分だけ後輪の制動力が低下するだけであって、前後輪への制動力の配分が効率的になされていない場合がある。
【0008】
一般的には、車両の前輪に対する制動力と後輪に対する制動力との配分関係において、前記した後輪の早期ロックの防止の観点から、前輪の制動力が後輪の制動力よりも大きくなるように設定されている。
【0009】
そこで、例えば、車両の走行中において、ターンインのときにブレーキペダルをずっと踏み込んだままの状態を保持して、ブレーキペダルのリリースのタイミングが遅延することにより、前輪がロックされるおそれがある。前記した前後輪への制動力配分が減速中も一定に保持されており、前輪の制動力の配分が大き過ぎると共に、後輪への制動力が必要であるときに後輪へ制動力を好適に分配することができないおそれがある。
【0010】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、マスタシリンダ圧の減圧中のみ、前後輪への制動力の配分を変化させることが可能な車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、制動液圧を発生させるマスタシリンダと、前記マスタシリンダの制動液圧によって制動力を発生させる制動力発生機構と、前記マスタシリンダと前記制動力発生機構とを連通させる制動液圧路とを備えた車両用制動装置において、前記制動液圧を吸収するリザーバと、前記リザーバと前記制動液圧路とを連通させる減圧路と、前記制動液圧路が所定圧以上となった際、前記制動液圧路と前記減圧路との連通を遮断するヒューズバルブと、前記減圧路に沿って流通する制動液の流動抵抗を増大させる絞り手段とを設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、マスタシリンダの制動液圧がピーク圧から徐々に減少する減圧状態において、マスタシリンダの制動液圧とリザーバの制動液圧との差圧が所定圧となったとき、ヒューズバルブが作動して弁閉状態から弁開状態に切り換わる。従って、マスタシリンダの制動液圧とリザーバの制動液圧との差圧が縮まって平衡する(同一圧力になろうとする)ように作用するため、マスタシリンダの制動液圧が急激に減圧(降圧)されると同時に、絞り手段の絞り作用でリザーバの制動液圧が緩やかに増大する。そして、マスタシリンダの制動液圧とリザーバの制動液圧とが釣り合って同一圧力状態のまま、同時に減圧される。
【0013】
このように、本発明では、マスタシリンダの制動液圧の減圧中において、ヒューズバルブが作動して弁閉状態から弁開状態に切り換わることにより、マスタシリンダの制動液圧を急激に減少(降下)させて車両の前輪に付与される制動力を変化させることができる。この結果、本発明では、マスタシリンダの制動液圧の減圧中のみ、車両の前後輪への制動力の配分を好適に変化させることができる。
【0014】
さらに、本発明は、制動液圧を発生させるマスタシリンダと、前記マスタシリンダの制動液圧によって制動力を発生させる制動力発生機構と、前記マスタシリンダと前記制動力発生機構とを連通させる制動液圧路とを備えた車両用制動装置において、前記制動液圧を吸収するリザーバと、前記リザーバと前記制動液圧路とを連通させる減圧路と、前記減圧路を開閉するオン/オフ弁とを設けたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、マスタシリンダの制動液圧がピーク圧から徐々に減少する減圧状態では、加圧状態中におけるオン/オフ弁のオフ状態がそのまま継続され、マスタシリンダ圧とリザーバ圧とが所定の差圧に到達したとき、前記オン/オフ弁がオフ状態からオン状態に切り換わってリザーバへ制動液が送給される。すなわち、マスタシリンダの制動液圧がピーク圧から減少してリザーバの制動液圧に対する偏差が所定圧となったとき、オン/オフ弁がオフ状態からオン状態に切り換わり、減圧路が開口してリザーバ側へ制動液が送給される。従って、マスタシリンダ圧とリザーバ圧との差圧が縮まって平衡する(同一圧力になろうとする)ように作用するため、マスタシリンダの制動液圧が急激に減圧(降圧)されると同時に、リザーバの制動液圧が増大する。そして、マスタシリンダの制動液圧とリザーバの制動液圧とが釣り合って同一圧力状態のまま、同時に減圧される。
【0016】
このように、本発明では、マスタシリンダの制動液圧の減圧中において、オン/オフ弁がオフ状態からオン状態に切り換わることにより、マスタシリンダの制動液圧を急激に減少(降下)させて車両の前輪に付与される制動力を変化させることができる。この結果、本発明では、マスタシリンダの制動液圧の減圧中のみ、車両の前後輪への制動力の配分を好適に変化させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マスタシリンダ圧の減圧中のみ、前後輪への制動力の配分を変化させることが可能な車両用制動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す車両用制動装置において、マスタシリンダのピストンのストローク量と、リザーバ圧と、マスタシリンダ圧との関係を示した特性図である。
【図3】(a)は、制動液の加圧状態及び減圧状態を問わず前輪と後輪への制動力の配分を一定とした比較例に係る特性図、(b)は、前輪と後輪への制動力の配分を一定としつつ、ペダルリリース中の後半から、前輪と後輪への制動力の配分を変化させた本実施形態に係る特性図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図である。
【図5】図4に示す車両用制動装置において、マスタシリンダのピストンのストローク量と、リザーバ圧と、マスタシリンダ圧との関係を示した特性図である。
【図6】マスタシリンダ圧と後輪のホィールシリンダ圧との関係において、PCV制御特性を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図である。
【0020】
図1に示されるように、車両用制動装置10は、貯留槽が付設され、運転者がブレーキペダル14を踏む踏力に応じた制動液圧を出力する出力ポート16を有する前輪用のマスタシリンダ18を備える。前記マスタシリンダ18は、運転者がブレーキペダル14を踏むと前記ブレーキペダル14のアーム20に取り付けられたプッシュロッド22がシリンダチューブ24内のピストン26を変位させ、制動液が加圧される。
【0021】
なお、本実施形態では、前輪用に独立して設けられたマスタシリンダ18について説明し、後輪用に独立して設けられた後輪用のマスタシリンダの図示を省略している。また、前記前輪用のマスタシリンダ18には、タンデム型シリンダを使用することができる。さらに、本実施形態では、車両用制動装置10が前輪用として適用された場合を以下に説明しているが、これに限定されるものではなく、前輪又は後輪のいずれに適用してもよい。
【0022】
前記マスタシリンダ18の出力ポート16には、前記マスタシリンダ18と前輪FRに対して制動力を付与する制動力発生機構28とを連通させる制動液圧路30が接続される。この制動力発生機構28は、例えば、ディスクブレーキ機構からなり、前記ディスクブレーキ機構を構成するキャリパ32に組み付けられたホィールシリンダ34を含む。
【0023】
この場合、制動液圧路30を介してマスタシリンダ18からホィールシリンダ34に対して制動液が供給されることによりホィールシリンダ34が作動し、前記ホィールシリンダ34の図示しないピストンがパッドを押圧してディスク面を圧着することにより、前輪FRに対して制動力が付与される。
【0024】
マスタシリンダ18の制動液圧(以下、マスタシリンダ圧という)と、ホィールシリンダ34に送給される制動液圧(以下、ホィールシリンダ圧という)は、同一圧力(略同一圧力)に設定されているものとする。また、図1中では、説明の便宜上、右側及び左側の前輪を総称して前輪FRとして描出している。
【0025】
前記制動液圧路30の途中には、リザーバ12に連通する減圧路36が接続される。この減圧路36には、上流側から下流側に向かって、ヒューズバルブ38と、可変オリフィス(可変絞り)40とがそれぞれ順次接続される。前記減圧路36の下流側は、終点のリザーバ12に接続されて閉止される。前記ヒューズバルブ38は、制動液圧路30を流通する制動液圧が所定圧以上になると、前記減圧路36を閉塞させて、前記制動液圧路30と前記減圧路36との連通を遮断する機能を有する。また、前記可変オリフィス40は、前記減圧路36を流通する制動液の流動抵抗を増大させてリザーバ12に送給される制動液の流通量を絞る絞り手段として機能する。
【0026】
なお、前記可変オリフィス40の下流側に接続される前記リザーバ12は、マスタシリンダ18に付設される貯留槽と別個独立に設けられた閉塞型で構成される。また、可変オリフィス40に代替して、固定オリフィス(固定絞り)を用いてもよい。
【0027】
前記ヒューズバルブ38は、周知のものによって構成され、減圧路36を流通する制動液の圧力が予め設定される設定圧に到達することにより、減圧路36を閉塞するバルブであればよい。前記ヒューズバルブ38の具体例としては、例えば、図示しない平板状のバルブプレートがスプリングのばね力によってシート面(弁座面)から離間し、前記シート面とバルブプレートとの離間部位を制動液が流通して弁開状態となると共に、制動液圧が所定圧以上となってスプリングのばね力に打ち勝つことによりバルブプレートがシート面に着座して弁閉状態となるように構成される。ヒューズバルブ38の弁閉状態では、減圧路36が閉塞されて、リザーバ12への制動液の送給が遮断される。
【0028】
本実施形態に係る車両用制動装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0029】
図2は、図1に示す車両用制動装置において、マスタシリンダのピストンのストローク量と、リザーバ圧と、マスタシリンダ圧との関係を示した特性図である。なお、図2中では、マスタシリンダ圧を、実線で「M/C液圧」と描出し、リザーバ12内に貯留された制動液圧であるリザーバ圧を、破線で「リザーバ液圧」と描出し、マスタシリンダ18のピストン26のストローク量を、一点鎖線で「M/Cストローク」と描出している。また、図2では、特性曲線の描画を調整して、時刻t2でマスタシリンダ圧(M/C液圧)と、マスタシリンダ18のピストン26のストローク量(M/Cストローク)とが一致するようにしている。以下、図2に基づいて車両用制動装置10の動作を説明する。
【0030】
先ず、運転者がブレーキペダル14を踏んでマスタシリンダ18のピストン26が変位することによりマスタシリンダ圧が加圧された加圧状態となる。マスタシリンダ18の出力ポート16から送給される加圧された制動液は、制動液圧路30を通じて前輪FRのホィールシリンダ34に送給され、マスタシリンダ圧と同一圧力からなるホィールシリンダ圧によってキャリパ32が駆動され、前輪FRに対して制動力が付与される。
【0031】
同時に、マスタシリンダ18の出力ポート16から送給された制動液は、制動液圧路30から分岐する減圧路36を通じて、ヒューズバルブ38を流通すると共に、可変オリフィス40によって所定量に絞られた後、リザーバ12内に貯留される。前記リザーバ12に貯留された制動液によってリザーバ圧が発生する。
【0032】
この場合、図2に示されるように、マスタシリンダ圧(実線)は、急激に昇圧されるのに対し(時刻t0〜t1参照)、リザーバ液圧(破線)は、可変オリフィス40によって流路抵抗が高められるため、ゆっくりと上昇する(時刻t0〜t1参照)。
【0033】
マスタシリンダ18のピストン26のストロークによって、マスタシリンダ圧及びリザーバ圧が共に上昇し、予め設定されたマスタシリンダ圧とリザーバ圧との差圧が所定圧(本実施形態では、例えば、前記所定圧が約0.8MPaに設定されているものとする)となったとき(時刻t1参照)、ヒューズバルブ38が作動して減圧路36が閉塞される。
【0034】
換言すると、マスタシリンダ圧がリザーバ圧よりも所定圧(約0.8MPa)だけ大きくなったとき、ヒューズバルブ38を流通する制動液圧がスプリングのばね力に打ち勝ってバルブプレートを押圧し、前記バルブプレートがシート面に着座して弁閉状態となることによって下流側に配設されたリザーバ12への制動液の送給が停止される(時刻t1〜t3参照)。
【0035】
このように、ヒューズバルブ38が弁開状態(時刻t0)から弁閉状態(時刻t1)へ切り換わってリザーバ12への制動液の供給が停止した状態において、さらにマスタシリンダ圧のみが上昇してピーク圧となる(時刻t2参照)。このとき、運転者は、ブレーキペダル14の踏み込みをやめてペダルをリリースする。このペダルリリース後では、マスタシリンダ圧のみが減少し、リザーバ圧は、一定圧力に保持されたままの状態となる(時刻t2〜t3参照)。
【0036】
前記マスタシリンダ圧が運転者のペダルリリース操作によってピーク圧から減少する減圧状態において、マスタシリンダ圧とリザーバ圧との差圧が所定圧(約0.8MPa)となったとき(時刻t3)、ヒューズバルブ38が作動して弁閉状態から弁開状態に切り換わる。換言すると、マスタシリンダ圧がピーク圧から減少してリザーバ圧に対する偏差が所定圧となったとき、ヒューズバルブ38を流通する制動液圧に対するスプリングのばね力が打ち勝ってバルブプレートがシート面から離間する弁開状態となり、減圧路36が開口してリザーバ12側へ制動液が送給される。
【0037】
従って、マスタシリンダ圧とリザーバ圧との差圧が縮まって平衡する(同一圧力になろうとする)ように作用するため、マスタシリンダ圧が急激に減圧(降圧)されると同時に、可変オリフィス40の作用でリザーバ圧が緩やかに増大する(時刻t3〜t4参照)。そして、マスタシリンダ圧とリザーバ圧とが釣り合って同一圧力状態のまま、同時に減圧される(時刻t4〜t5参照)。このとき、図2中の一点鎖線(M/Cストローク)で示されるように、運転者は、ブレーキを緩める操作(ペダルリリース操作)を継続して行っている。
【0038】
本実施形態では、マスタシリンダ圧の減圧中(減圧状態)において、ヒューズバルブ38が作動して弁閉状態から弁開状態に切り換わることにより、マスタシリンダ圧を急激に減少(降下)させて前輪FRに付与される制動力を変化させることができる(時刻t3〜t4参照)。この結果、本実施形態では、マスタシリンダ圧の減圧中のみ、前後輪への制動力の配分を変化させることができる。
【0039】
次に、図3(a)と図3(b)とを比較しながら説明する。
図3(a)は、制動液の加圧状態及び減圧状態を問わず前輪と後輪への制動力の配分を一定とした比較例に係る特性図、図3(b)は、前輪と後輪への制動力の配分を一定としつつ、ペダルリリース中の後半から、前輪と後輪への制動力の配分を変化させた本実施形態に係る特性図である。
【0040】
図3(a)では、前輪FRと後輪(図示せず)への制動力の配分比を、例えば、6:4に設定し、前輪FRのホィールシリンダ34の圧力(図3中、「フロント液圧」と表示している)を実線で示し、図示しない後輪のホィールシリンダの圧力(図3中では、「リア液圧」と表示している)を破線で示し、マスタシリンダ18のピストン26のストローク(変位量)を一点鎖線で示している。
【0041】
なお、この比較例では、前輪FRと後輪への制動力の配分比を、例えば、6:4に設定した場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、後輪の早期ロック防止の観点から、前輪FRへの制動力の配分が後輪への制動力の配分よりも大きくなるように設定されればよい。
【0042】
図3(a)から了解されるように、比較例では、マスタシリンダ18のピストン26のストローク量の変化に伴い、運転者がブレーキペダル14を踏み込んでフロント液圧及びリア液圧がそれぞれ増大する加圧状態と、運転者がブレーキペダル14からリリースしてフロント液圧及びリア液圧がそれぞれ減少する減圧状態とを有し、前記加圧状態及び減圧状態のいずれの状態であっても、フロント液圧とリア液圧との圧力比がそれぞれ予め設定された所定比率(6:4)となるように制御される。
【0043】
これに対して、図3(b)から了解されるように、本実施形態では、加圧状態及びペダルリリースの減圧状態の途中まで、フロント液圧とリア液圧との圧力比が比較例と同様に所定比率で制御されるが、ペダルリリースの減圧状態の後半において、ヒューズバルブ38が作動して弁閉状態から弁開状態へ切り換わることにより(図2の時刻t3参照)、前記比較例の特性曲線と比較してフロント液圧が急激に減少する領域Bが存在する。本実施形態では、前記フロント液圧がリア液圧と同一圧力になるまで減少した後、フロント液圧及びリア液圧が同一圧力を保持したまま減少するように制御される。
【0044】
このように、本実施形態では、加圧状態及びペダルリリースの減圧状態の途中まで、フロント液圧とリア液圧との圧力比が一定の6:4の状態で制御されるが、ペダルリリースの減圧状態の後半からは、フロント液圧とリア液圧との圧力比を変化させて、前記フロント液圧とリア液圧とが同一圧力となる5:5の圧力比に制御される。
【0045】
換言すると、本実施形態では、減圧状態におけるペダルリリースの途中において前後輪への制動力の配分を変化させ、フロント液圧による制動力の一部をリア液圧による制動力へ移行させることにより、前輪FRの制動力を減少させると共に後輪の制動力を増大させて、前後輪への制動力の配分を効率的に行うことができる。
【0046】
例えば、車両がコーナーに沿って走行してターンインする場合、運転者は、コーナリングの手前でブレーキペダル14を踏み込んでブレーキングした後、前記ブレーキペダル14から早急に足を離してペダルリリースする必要がある。いつまでもブレーキングを続けていると、前輪FRがロックするおそれがあるからである(タイヤのグリップ力がタイヤ摩擦円の範囲を超えるため)。本実施形態では、このようなターンインのペダルリリース中において、減圧状態における前輪FRと後輪の制動力配分を変化させ、ペダルリリース中にフロント液圧を急激に減少させることができ、リア液圧をペダルコントロールによって長くかけることができる。
【0047】
すなわち、従来では、フロント液圧とリア液圧とが、例えば、6:4のように一定比率で制御され、前輪FRに対する制動力が強すぎると共に、後輪に対して制動力を付与したいけれども制動力を付与することができないような場合ある。本実施形態では、ターンインのようにペダルリリースのときだけフロント液圧を抜いて、リア液圧が増大する(後輪の制動力が強くなる)ように制動力配分を変化させることにより、前輪FRのロック状態を防止して後輪に対する制動力を長く効かせることができる。
【0048】
従って、従来では、前輪FRのロック状態を回避するためにブレーキペダル14から素早くリリースする必要があったのに対し、本実施形態では、運転者がブレーキペダル14からゆっくりとリリースしても、前輪FRのロック状態を好適に回避することができる。この結果、本実施形態では、車両の走行安定性を達成することができると共に、ドライビングテクニックを必要とすることなく、車両の操作性を向上させることができる。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態に係る車両用制動装置10aについて、以下説明する。
図4は、本発明の他の実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図、図5は、図4に示す車両用制動装置において、マスタシリンダのピストンのストローク量と、リザーバ圧と、マスタシリンダ圧との関係を示した特性図である。なお、図1に示す前記実施形態と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0050】
この他の実施形態では、図1に示すヒューズバルブ38に代替して、ノーマルクローズタイプのオン/オフ弁42を配設している点で前記実施形態と相違している。この他の実施形態では、加圧状態において、オン/オフ弁42がオフ状態にあってリザーバ12への制動液の供給が停止されており、リザーバ圧が零に保持されている(時刻t1〜t2参照)。
【0051】
一方、運転者がペダルリリース操作を行ってマスタシリンダ圧がピーク圧から減少する減圧状態では、加圧状態中におけるオン/オフ弁42のオフ状態がそのまま継続され、マスタシリンダ圧とリザーバ圧とが所定の差圧に到達したとき(時刻t3)、前記オン/オフ弁42がオフ状態からオン状態に切り換わってリザーバ12へ制動液が送給される。
【0052】
すなわち、マスタシリンダ圧がピーク圧から減少してリザーバ圧に対する偏差が所定圧となったとき(時刻t3)、オン/オフ弁42がオフ状態からオン状態に切り換わり、減圧路36が開口してリザーバ12側へ制動液が送給される。
【0053】
従って、マスタシリンダ圧とリザーバ圧との差圧が縮まって平衡する(同一圧力になろうとする)ように作用するため、マスタシリンダ圧が急激に減圧(降圧)されると同時に、リザーバ圧が増大する(時刻t3〜t4参照)。そして、マスタシリンダ圧とリザーバ圧とが釣り合って同一圧力状態のまま、同時に減圧される(時刻t4〜t5参照)。
【0054】
他の実施形態では、マスタシリンダ圧の減圧中(減圧状態)において、オン/オフ弁42がオフ状態からオン状態に切り換わることにより、マスタシリンダ圧を急激に減少(降下)させて前輪FRに付与される制動力を変化させることができる(時刻t3〜t4参照)。この結果、他の実施形態では、マスタシリンダ圧の減圧中のみ、前後輪への制動力の配分を変化させることができる。
【0055】
前記オン/オフ弁42は、例えば、図示しないコントローラからの制御信号に基づいてオフ状態とオン状態とが切り換わるように電気的(電磁的)に構成されるとよい。この場合、前記オン/オフ弁42のみを制御するような簡素な制御でシステムを構成することができる。
【0056】
なお、他の実施形態のその他の作用効果は、前記実施形態と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0057】
10、10a 車両用制動装置
12 リザーバ
18 マスタシリンダ
28 制動力発生機構
30 制動液圧路
36 減圧路
38 ヒューズバルブ
40 可変オリフィス(絞り手段)
42 オン/オフ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記マスタシリンダの制動液圧によって制動力を発生させる制動力発生機構と、
前記マスタシリンダと前記制動力発生機構とを連通させる制動液圧路と、
を備えた車両用制動装置において、
前記制動液圧を吸収するリザーバと、
前記リザーバと前記制動液圧路とを連通させる減圧路と、
前記制動液圧路が所定圧以上となった際、前記制動液圧路と前記減圧路との連通を遮断するヒューズバルブと、
前記減圧路に沿って流通する制動液の流動抵抗を増大させる絞り手段と、
を設けたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
制動液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記マスタシリンダの制動液圧によって制動力を発生させる制動力発生機構と、
前記マスタシリンダと前記制動力発生機構とを連通させる制動液圧路と、
を備えた車両用制動装置において、
前記制動液圧を吸収するリザーバと、
前記リザーバと前記制動液圧路とを連通させる減圧路と、
前記減圧路を開閉するオン/オフ弁と、
を設けたことを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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