説明

車両用前照灯の配光制御システム

【課題】簡易な手法により走行環境に応じた適切な配光パターンを照射する。
【解決手段】配光制御システム100は、市街地用配光パターンと郊外用配光パターンを選択的に照射可能な車両用前照灯10と、車両前方に存在する発光体を検出する発光体検出部46と、検出された発光体の数が所定値以上の場合には市街地用配光パターンを照射し、所定値未満の場合には郊外用配光パターンで照射するよう車両用前照灯10を制御する照射制御部44とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯の配光を制御する配光制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カメラによって撮像された車両前方の画像に基づいて先行車や対向車(以下、これらを適宜「前方車」と称する)の存否を検出し、その検出結果に基づいて配光パターンを変化させる構成とした車両用前照灯が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−94127号公報
【特許文献2】特開2008−37240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような車両用前照灯において、前方車の検出は通常、前方車の前照灯またはテールランプからの光を検出することにより行われる。走行中において前方車の位置は刻一刻と変化し、また前方車からの光が弱い場合もあるため、前方車を正確に検出することは容易ではない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な手法により走行環境に応じた適切な配光パターンを照射することのできる車両用前照灯の配光制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用前照灯の配光制御システムは、市街地用配光パターンと郊外用配光パターンを選択的に照射可能な車両用前照灯と、車両前方に存在する発光体を検出する検出手段と、検出された発光体の数が所定値以上の場合には市街地用配光パターンを照射し、所定値未満の場合には郊外用配光パターンで照射するよう車両用前照灯を制御する制御手段とを備える。
【0007】
本発明は、車両前方に存在する発光体の数が多い場合は市街地を走行している可能性が高く、少ない場合は郊外を走行している可能性が高いという知見に基づくものである。本態様によれば、単に車両前方に存在する発光体の数をカウントするという、前方車の検出と比べて容易な技術を用いて、車両の走行環境に応じた適切な配光パターンの照射が可能となる。
【0008】
検出手段は、外形が多角形の発光体を検出してもよい。また、検出手段は、発光面積全体にわたって輝度が略一定の発光体を検出してもよい。また、検出手段は、車両前方の道路に沿って存在する発光体を検出してもよい。このような発光体は沿道に存在する看板である可能性が高く、そして看板が多い場合は市街地を走行している可能性が高い。従って、このような発光体を検出するよう検出手段を構成することで、車両の走行環境の判定精度が高まり、より適切な配光パターンを照射することができる。
【0009】
制御手段は、所定時間内に検出された発光体の数に基づいて照射する配光パターンを選択してもよい。このようにある程度の時間をかけて発光体の数をカウントすることにより、車両の走行環境の判定精度が高まり、より適切な配光パターンを照射することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な手法により走行環境に応じた適切な配光パターンを照射することのできる車両用前照灯の配光制御システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る配光制御システムにおいて用いられる車両用前照灯の概略水平断面図である。
【図2】車両用前照灯によって形成される配光パターンを説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用前照灯の配光制御システムを説明するための機能ブロック図である。
【図4】本実施形態における配光パターンの切替制御を説明するためのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る配光制御システムにおいて用いられる車両用前照灯10の概略水平断面図である。
【0014】
本実施形態に係る車両用前照灯10は、ランプボディ12と、ランプボディ12の前端開口部に取り付けられた透光カバー14とで形成される灯室内に、ロービーム用灯具20Lおよびハイビーム用灯具20Hが収容された構成となっている。以下、適宜ロービーム用灯具20Lとハイビーム用灯具20Hを合わせて「灯具」という。灯具は、それぞれ図示しない支持部材によって、ランプボディ12に取り付けられている。また、灯具の存在領域に開口部を有するエクステンション部材16がランプボディ12または透光カバー14に固定され、ランプボディ12の前面開口部と灯具との間の領域が前方に対して覆われている。
【0015】
ロービーム用灯具20Lは、従来周知の反射型の灯具であり、光源バルブ21と、リフレクタ23とを有する。ロービーム用灯具20Lは、光源バルブ21から出射した光をリフレクタ23に反射させて、リフレクタ23から前方に向かう光の一部を図示しない遮光板でカットして所定のカットオフラインを有するロービーム用の配光パターンを形成する。光源バルブ21の先端には光源バルブ21から直接前方に出射する光をカットするシェード25が設けられている。なお、ロービーム用灯具20Lの形状は特にこれに限定されず、後述するハイビーム用灯具20Hと同様のプロジェクタ型の灯具であってもよい。
【0016】
ハイビーム用灯具20Hは、プロジェクタ型の灯具であり、投影レンズ22と、ハイビーム照射用の光源26を備えた光源ユニット24と、投影レンズ22および光源ユニット24を保持するホルダ28とを有する。投影レンズ22は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであって、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置されている。投影レンズ22は、その後側焦点Fを含む後側焦点面上の像を、灯具前方に配置された鉛直仮想スクリーン上に反転像として投影するように構成されている。投影レンズ22は、その周縁部がホルダ28の前端環状溝部に保持されている。
【0017】
光源ユニット24は、光源26が光軸Ax方向前方を向くようにして、投影レンズ22の後側焦点Fよりも後方側に配置された状態で、ホルダ28の後端側に保持されている。そして、光源ユニット24は、光源26から投影レンズ22へ向けて直接光照射を行うようになっている。ホルダ28は図示しない支持部材を介して、ランプボディ12に取り付けられている。光源26は、例えば発光ダイオード(LED)であってよい。
【0018】
図2は、車両用前照灯10によって形成される配光パターンを説明するための図である。図2は、車両が片側1車線(両側2車線)の直線舗装道路を走行している場合において、自車前方を透視的に見て示す図に、車両用前照灯10から照射される光により車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンPLおよびハイビーム用配光パターンPHを重ねて示す図である。また、図2には、センターラインCL、自車線側ラインMRL、対向車線側ラインORLが図示されている。自車線側ラインMRLは、透視図の消失点であるH−V点(水平線H−Hと鉛直線V−Vとの交点)から左下方向に延びており、センタラインCLおよび対向車線側ラインORLは、H−V点から右下方向に延びている。さらに、図2には、沿道に設けられた複数の発光体30が図示されている。発光体30は、外形が四角形の発光体であり、例えば沿道に立設されているコンビニエンスストア等の看板を表している。
【0019】
ロービーム用配光パターンPLは、ロービーム用灯具20Lからの照射光により形成される。図2に示すロービーム用配光パターンPLは、交通法規が左側通行の地域において、市街地走行などの走行で対向車や歩行者にグレアを与えないように配慮された配光パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2、CL3を有している。カットオフラインCL1は、鉛直線V−Vよりも右側に、対向車線側カットオフラインとして水平方向に延びるようにして形成されている。カットオフラインCL2は、鉛直線V−Vよりも左側に、自車線側カットオフラインとしてカットオフラインCL1よりも高い位置で水平方向に延びるようにして形成されている。そして、カットオフラインCL3は、カットオフラインCL2における鉛直線V−V側の端部とカットオフラインCL1の鉛直線V−V側の端部とをつなぐ斜めカットオフラインとして形成されている。カットオフラインCL3は、カットオフラインCL1と鉛直線V−Vとの交点から左斜め上方へ45°の傾斜角で延びている。
【0020】
ハイビーム用配光パターンPHは、ハイビーム用灯具20Hからの照射光により形成される。このハイビーム用配光パターンPHは、ロービーム用配光パターンPLに対して、付加的に形成されるようになっている。図2に示すように、ハイビーム用配光パターンPHは、左右の広い範囲にわたって水平線H−H近辺とその上方の領域を照射する配光パターンである。ロービーム用配光パターンPLの照射時に、ハイビーム用配光パターンPHをロービーム用配光パターンPLに対して付加することにより、車両の走行先路面の視認性を高めた配光パターンを形成することができる。
【0021】
図3は、本発明の実施形態に係る車両用前照灯の配光制御システム100を説明するための機能ブロック図である。配光制御システム100は、上述した車両用前照灯10と、車両前方を撮像するためのカメラ40と、画像処理部42と、照射制御部44とを備える。
【0022】
照射制御部44は、車両用前照灯10の照射を制御する。照射制御部44は、運転者からの指示により、車両用前照灯10のロービーム用灯具20L、ハイビーム用灯具20Hの点灯・消灯を行う。例えば、運転者からロービーム照射の指示があった場合、照射制御部44はロービーム用灯具20Lの光源バルブ21を点灯させ、ロービーム用配光パターンPLを照射する。また、運転者からハイビーム照射の指示があった場合、照射制御部44は、光源バルブ21に加えてハイビーム用灯具20Hの光源26を点灯させ、ロービーム用配光パターンPLおよびハイビーム用配光パターンPHを照射する。このような運転者からの指示は、図示しないライトスイッチを介して行われる。以下、このように運転者からの指示により配光パターンを制御するモードを、適宜「手動モード」と称する。
【0023】
図3に示すカメラ40は、所定の周期で車両前方を撮像するよう構成されている。カメラ40により撮像された画像は、画像処理部42に送られる。
【0024】
画像処理部42は、発光体検出部46と、発光体計数部48とを備える。発光体検出部46は、カメラ40により撮像された画像に基づいて、外形が四角形の発光体30を検出する。この四角形の発光体30の検出は、パターンマッチングなどの周知の画像認識技術を適用することにより行うことができる。発光体計数部48は、発光体計数部48により検出された四角形の発光体30の数をカウントする。発光体計数部48によりカウントされた四角形の発光体30の数の情報は、照射制御部44に送られる。
【0025】
照射制御部44は、上述のような手動モードとは別に、ライトスイッチの操作によらず、車両周囲の状況に応じて自動的に配光パターンを切り替えるモードを有する。以下、このように配光パターンを制御するモードを、適宜「ADB(Adaptive Driving Beam)モード」と称する。
【0026】
ADBモードにおいて、照射制御部44は、発光体計数部48によりカウントされた四角形の発光体30の数が所定値以上の場合には、市街地用配光パターンとしてロービーム用配光パターンPLを照射する。また、照射制御部44は、発光体計数部48によりカウントされた四角形に発光体30の数が所定値未満の場合には、郊外用配光パターンとしてロービーム用配光パターンPLにハイビーム用配光パターンPHを加えた配光パターンを照射する。
【0027】
車両前方に存在する四角形の発光体30の数が多い場合は、看板の数が多いということであるため市街地を走行している可能性が高く、少ない場合は郊外を走行している可能性が高い。従って、四角形の発光体30の数に基づいて車両が走行している環境が市街地なのか、郊外なのかを判定し、配光パターンを切り替えることで、それぞれに適した配光パターンを照射することができる。
【0028】
市街地と郊外を判定するための上述の所定値は、車両が主に走行する場所に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば5〜10程度であってよい。例えば所定値を5と設定した場合、図2の例では、四角形の発光体30の数が3つであるので、照射制御部44は、車両が郊外を走行していると判定し、ロービーム用配光パターンPLにハイビーム用配光パターンPHを加えた配光パターンを照射する。
【0029】
図4は、本実施形態における配光パターンの切替制御を説明するためのフローチャートを示す。図4に示すフローは、所定の間隔で繰り返し実行される。
【0030】
まず、画像処理部42は、カメラ40から画像データを取得する(S10)。画像処理部42の発光体検出部46は、画像データに基づいて外形が四角形の発光体30を検出し、発光体計数部48は、検出した四角形の発光体30の数をカウントする(S12)。
【0031】
照射制御部44は、四角形の発光体30の数が所定値以上であるか否か判定する(S14)。四角形の発光体30の数が所定値以上である場合(S14のY)、照射制御部44は、市街地用配光パターンを照射する(S16)。すなわち、本実施形態においては、ロービーム用配光パターンPLを照射する。
【0032】
一方、四角形の発光体30の数が所定値未満である場合(S14のN)、郊外用配光パターンを照射する(S18)。すなわち、本実施形態においては、ロービーム用配光パターンPLにハイビーム用配光パターンPHを加えた配光パターンを照射する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る配光制御システム100によれば、単に車両前方に存在する四角形の発光体30の数をカウントするという、前方車の検出と比べて容易な技術を用いて、車両の走行環境に応じた適切な配光パターンを照射できる。
【0034】
上述の実施形態では、四角形の発光体30を検出するよう発光体検出部46を構成したが、発光体検出部46は、発光体30の形状は四角形に限定されず、任意の多角形の発光体を検出するよう構成されてもよい。なお、外形が円形の発光体は、道路標識である可能性があるため、検出対象から除外することが好ましい。
【0035】
また、発光体検出部46は、発光面積全体にわたって輝度が略一定の発光体を検出するよう構成されてもよい。さらに、発光体検出部46は、車両前方の道路に沿って存在する発光体を検出するよう構成されてもよい。このような発光体は、沿道に立設されているコンビニエンスストア等の看板である可能性が高いので、市街地の判定精度を高めることができる。
【0036】
また、照射制御部44は、所定時間内に検出された発光体の数に基づいて照射する配光パターンを選択してもよい。例えば、上述の実施形態では、一回の撮像で得られた画像データに基づいて発光体30の数を検出したが、数回にわたる撮像で得られた複数枚の画像データに基づいて発光体30の数を検出してもよい。このようにある程度の時間をかけて発光体の数をカウントすることにより、車両の走行環境の判定精度が高まり、より適切な配光パターンを照射することができる。
【0037】
また、上述の実施形態では、検出する発光体を外形が四角形のものに限定したが、発光体の外形や位置、輝度などを特に限定せず、取得された画像中における発光体の数をカウントする構成としてもよい。また、発光体とは、車両のヘッドランプや他の照明光、即ち間接照明によって発光体検出部46で検出されるものを含んでもよい。この場合、前方車のテールランプや、信号機などの発光体もカウントされるが、前方車や信号機の数が多い場合は市街地を走行していると判定できる。
【0038】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0039】
例えば、発光体検出部46は、平仮名や漢字などの文字を認識する機能を有しており、発光体計数部48は、文字が存在する発光体の数をカウントするよう構成されていてもよい。このような発光体は、看板である可能性が高いため、一定数以上存在していれば市街地を走行していると精度よく判定することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 車両用前照灯、 20L ロービーム用灯具、 20H ハイビーム用灯具、 21 光源バルブ、 26 光源、 30 発光体、 40 カメラ、 42 画像処理部、 44 照射制御部、 46 発光体検出部、 48 発光体計数部、 100 配光制御システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
市街地用配光パターンと郊外用配光パターンを選択的に照射可能な車両用前照灯と、
車両前方に存在する発光体を検出する検出手段と、
検出された発光体の数が所定値以上の場合には市街地用配光パターンを照射し、所定値未満の場合には郊外用配光パターンで照射するよう前記車両用前照灯を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯の配光制御システム。
【請求項2】
前記検出手段は、外形が多角形の発光体を検出することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯の配光制御システム。
【請求項3】
前記検出手段は、発光面積全体にわたって輝度が略一定の発光体を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯の配光制御システム。
【請求項4】
前記検出手段は、車両前方の道路に沿って存在する発光体を検出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用前照灯の配光制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、所定時間内に検出された発光体の数に基づいて照射する配光パターンを選択することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用前照灯の配光制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−143822(P2011−143822A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6214(P2010−6214)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】