説明

車両用前照灯装置

【課題】シェード駆動系に不具合が生じた場合に迅速にロービーム照射状態に戻すことのできる車両用前照灯装置を提供する。
【解決手段】モータ22および複数のギアを介して回転駆動する可変シェード12は複数の稜線部を有し、回転角度に応じたロービーム用配光パターンを形成する。優先移動機構として機能するソレノイド34はバルブ14からの光を可変シェード12を移動させて、少なくともロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとの切り換えを行う。ソレノイド34によって移動する可変シェード12は、光の一部を遮る第1の位置と光を遮らない第2の位置との間を移動する。ソレノイド34は、シェード駆動系に異常が生じた場合には、シェードを第1の位置に優先移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯装置、特にシェードを用いてロービームとハイビームを切り換える車両用前照灯装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯は、光源からの光をリフレクタで前方へ反射させてロービームまたはハイビームを照射するようになっている。ロービームとハイビームとでは照射するビームの配光パターンが異なる。この場合、2つの光源を用いて、その点灯切換えをすることによりロービームとハイビームとの切り換えをするものがある。また、単一の光源により照射されるビームの一部を遮ることによりロービーム用の配光パターンを形成し、遮らないときにハイビーム用の配光パターンを形成する車両用前照灯も知られている。前者の場合は、4灯式前照灯であり、後者の場合は2灯式前照灯として構成することができる。
【0003】
光源が単一の場合におけるビーム切換え方法の1つとして、シェードと呼ばれる遮光部材を移動させてビーム切換えを実行する方法が知られている。この方法では、ソレノイド等のアクチュエータを備えたビーム切換装置により板状のシェードを移動させている。シェードは、リフレクタで反射した光源からの光に対して遮蔽量が異なる値となる2位置間を移動するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、車幅方向の水平支軸回りに回転可能なシェードも提案されている。この回転式シェードは、モータ等のアクチュエータを備えたビーム切換装置により、シェードを回転させることによりシェードの表面に形成された複数の遮光板の中からいずれか1つの形状を選択して所望の配光パターンを形成するようになっている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上述したビーム切換装置のうち、板状のシェードを用いるものはビームを遮るか否かの2種類の配光パターンの切り換えが可能である。一方、回転式のシェードは周面上に複数の遮光板が形成可能で、2種類以上の配光パターンの切り換えができる。そのため、各種配光パターンを形成する多機能の前照灯装置を構成することができる。そのため、回転式のシェードの各種車両への採用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−110213号公報
【特許文献2】特開平6−76604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、回転式のシェードの場合、遮光板を切り換えるための回転はモータで行うことになる。このようにシェード駆動系をモータで構成する場合、シェード駆動系が故障した場合のフェールセーフ対策を十分に実施する必要がある。例えば、ハイビーム照射状態でモータが故障したり、モータを減速するギアに不具合が生じて制御不能になった場合、ハイビーム照射状態が維持されてしまうことがある。この場合、対向車や歩行者にグレアを与えてしまう場合があり走行上好ましくない。そこで、シェード駆動系に異常が生じた場合には迅速にロービーム照射状態に戻したいという要望がある。
【0008】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、シェード駆動系に不具合が生じた場合に迅速にロービーム照射状態に戻すことのできる車両用前照灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、車両前方へ光を照射可能な光源と、前記光源からの光の遮り方で、通過する光により形成される配光パターンの形状を複数種類に変化させる可変シェードと、前記可変シェードの光遮蔽状態を変化させることにより前記複数の配光パターンのうちいずれかを選択させる配光選択アクチュエータと、前記可変シェードを前記光源からの光の一部を遮る第1の位置と光を遮らない第2の位置との間で移動させる機構であって、非制御時に前記可変シェードを前記第1の位置に優先移動させる優先移動機構と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
光源からの光の一部を遮る第1の位置は、例えばロービーム用配光パターン、またはロービーム用配光パターンの一部形状を形成する位置とすることができる。ロービーム用配光パターンは、配光の上限の明瞭な明暗境界線、いわゆるカットオフラインを規定することができる。ロービーム用配光パターンは、市街地走行などの走行で対向車や歩行者にグレアを与え難い汎用性の高い最適ロービーム用配光パターンを1種類形成するものでもよい。また、この最適ロービーム用配光パターンに加え、カットオフラインの高さを変化させたり、ロービーム用配光パターンの端部や一部の形状を変化させて走行状態や走行環境に適した変形ロービーム用配光パターンを形成するように複数種類のロービーム用配光パターンを形成するようにしてもよい。一方、光源からの光を遮らない第2の位置は、例えばハイビーム用配光パターンを形成する位置とすることができる。優先移動機構は、例えばソレノイド等のアクチュエータで構成することができる。優先移動機構の非制御時とは、意図的に制御が行われていない場合の他、何らかの不具合により制御できなくなった場合を含むことができる。
【0011】
この態様によれば、優先移動機構が非制御状態のときには、可変シェードは優先的に第1の位置に移動する。すなわち、可変シェードが第2の位置にある場合にシェード駆動系に何らかの異常が生じた場合、優先移動機構が可変シェードを第1の位置に優先的に移動させる。この動作は、優先移動機構が非制御状態のときに行われる動作なので、優先移動機構が制御できない状態でも可変シェードを第1の位置に迅速に移動させることができる。その結果、可変シェードが第2の位置にある場合でも、必要に応じて優先移動機構が可変シェードを第1の位置に移行させて対向車や歩行者にグレアを与える可能性の低い配光状態に迅速に移行させる。
【0012】
また、上記態様において、前記優先移動機構は、前記配光選択アクチュエータの制御が異常となった場合に前記第1の位置に前記可変シェードを優先移動させるようにしてもよい。
【0013】
この態様によれば、配光選択アクチュエータが制御異常を起こし、可変シェードが可動できない場合でも優先移動機構が第1の位置に優先的に移動させる。配光選択アクチュエータに不具合が生じた場合でも、第1の位置に可変シェードが移動できれば光の一部を遮ることができるので、対向車や歩行者にグレアを与える可能性の低い配光状態に迅速に移行させることができる。
【0014】
また、上記態様において、前記可変シェードは、回転自在な軸状部材で構成され、その外周面の軸方向に延設されて回転角度に応じて選択される稜線部を複数種類有し、前記選択された稜線部を前記光源からの光で投影することにより配光パターンの形状を決定し、前記配光選択アクチュエータは、前記可変シェードが前記第1の位置以外の場所にある間に前記可変シェードが前記第1の位置に移動したときに所定の稜線部が光を遮る位置に来るように当該可変シェードの回転角度を予め決定するようにしてもよい。
【0015】
配光選択アクチュエータは可変シェードが第1の位置以外にあるときに軸状部材を回転させて複数種類の稜線部中からいずれか1つを選択する。そして、可変シェードが第1の位置に移動したときに選択した稜線部が光源からの光を遮る位置に来るようにする。つまり、可変シェードが第1の位置に移動したときには、所望の配光パターンが形成される。この場合、可変シェードが第1の位置で回転して配光パターンを選択する必要が無くなるので、第1の位置において配光パターンを形成中に異なる配光パターンに変化することがなく、車両搭乗者に違和感を与えないようにすることができる。また、第1の位置で配光パターンが変化することを防止できるので、対向車や歩行者に対しパッシングのようなちらつきを与えてしまうことが防止できる。
【0016】
また、上記態様において、前記可変シェードの回転角度に応じて選択される稜線部は、それぞれ異なるロービーム用配光パターンを形成してもよい。
【0017】
配光選択アクチュエータは、軸状部材を回転させることにより、その外周面に形成された複数種類の稜線部の中からいずれか1つを選択することにより所望のロービーム用配光パターンを形成する。ハイビーム用配光パターンは可変シェードが第2の位置に移動したときに形成することができる。可変シェードが第2の位置に移動した場合でも、当該可変シェードは回転可能なので、第2の位置で第1の位置に移動したときに所望のロービーム用配光パターンを形成するような姿勢に回転させておくことができる。その結果、第1の位置で所望のロービーム用配光パターンを形成するために、第1の位置で軸状部材を回転させる必要が無くなる。つまり、所望のロービーム用配光パターンにより光を照射するために、第1の位置で所望しないロービーム用配光パターンが形成されることを防止できる。その結果、ロービームの照射中にロービームの切り換えによるちらつきが発生することが防止できて車両搭乗者に違和感を与えないようにできる。なお、可変シェードが稜線部を選択するために回転する位置は、第1の位置以外であればいずれの位置でもよい。例えば、第2の位置に停止しているときでもよいし、第1の位置と第2の位置の間のいずれの位置に停止しているときでもよいし、その間を移動しているときでもよい。
【0018】
また、上記態様において、前記配光選択アクチュエータにより回転する駆動ギアと、前記可変シェードと共に回転する従動ギアと、前記駆動ギアと前記従動ギアとの間に配置され相互と噛合する中間ギアと、を含み、前記優先移動機構は、前記可変シェードが前記稜線部を選択するときには前記従動ギアが前記中間ギア上で自転するように前記従動ギアの位置を規制し、前記可変シェードが前記第1の位置と前記第2の位置との間で移動するときには前記従動ギアが前記中間ギアの周りを公転するように前記従動ギアの姿勢を変化させるようにしてもよい。
【0019】
この態様によれば、可変シェードが中間ギア上で自転することにより可変シェードが第1の位置に移動したときに所定の稜線部が光を遮る位置に来るように当該可変シェードの回転角度を予め決定できる。また、可変シェードが中間ギア上を公転することにより第1の位置と第2の位置との間を移動する。例えば、第2の位置で可変シェードを自転させる場合には、第2の位置から第1の位置に公転することにより変化する可変シェードの回転角度を含めて予め自転角度を決める。この場合、各ギアのギア比により回転角度の制御を容易に実施することが可能で可変シェードが第1の位置に移動したときに、所望の配光パターンを正確に形成し、適切な第1の位置におけるビーム照射ができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両用前照灯装置によれば、シェード駆動系に不具合が生じた場合に可変シェードを迅速に光源からの光の一部を遮る第1の位置に戻すことのできるので、対向車や歩行者にグレアを与え難くするフェールセーフを確実に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の優先移動機構を含む灯具ユニットを搭載する車両用前照灯装置の概略構成を説明する構成図である。
【図2】図1に示す灯具ユニット10の構造をシェード機構18を中心に詳細に説明する説明図である。
【図3】本実施形態の可変シェードの形状を説明する説明図である。
【図4】第1の位置にある可変シェードとモータとの間に配置される複数のギアの接続関係を説明する説明図である。
【図5】本実施形態の車両用前照灯装置の灯具ユニットにおいて可変シェードが第1の位置ある場合に形成される照射領域の一例を示す説明図である。
【図6】本実施形態の優先移動機構を含む車両用前照灯装置の灯具ユニットの概略構成を説明する構成図であり、可変シェードが第2の位置のある場合を示す説明図である。
【図7】第2の位置にある可変シェードとモータとの間に配置される複数のギアの接続関係を説明する説明図である。
【図8】本実施形態の車両用前照灯装置の灯具ユニットにおいて可変シェードが第2の位置ある場合に形成される照射領域を示す説明である。
【図9】本実施形態の車両用前照灯装置の照射制御部と車両側の車両制御部の構成を説明する機能ブロック図である。
【図10】片ハイ用配光パターンを形成する稜線部及び切欠部を含む可変シェードの形状を説明する説明図である。
【図11】図10に示す可変シェードの稜線部等の形状を説明する説明図である。
【図12】図10に示す可変シェードの動作により形成される配光パターンの一例である。
【図13】合成左片ハイ用配光パターンの光の重畳状態及びスイブル機能を用いた合成左片ハイ用配光パターンのフェールセーフを説明する説明図である。
【図14】合成左片ハイ用配光パターンの光の重畳状態及びレベリング機能を用いた合成左片ハイ用配光パターンのフェールセーフを説明する説明図である。
【図15】本実施形態の灯具ユニットを用いた応用例を説明する灯具ユニットの概略構成図である。
【図16】本実施形態の灯具ユニットを用いた他の応用例を説明する灯具ユニットの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0023】
本実施形態の車両用前照灯装置は、光源からの光をシェードと呼ばれる遮光部材を移動させて、少なくともロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとの切り換えを実施する。本実施形態において、シェードは、光の一部を遮る第1の位置と光を遮らない第2の位置との間を移動する可変シェードである。そして、可変シェードは、優先移動機構により第1の位置と第2の位置の間を移動する。優先移動機構は、シェード駆動系に異常が生じた場合には、シェードを第1の位置に優先移動させる。
【0024】
図1は、本実施形態の優先移動機構を含む灯具ユニットを搭載する車両用前照灯装置の概略構成を説明する構成図である。
【0025】
図1に示す車両用前照灯装置210は、車両の車幅方向の左右に1灯ずつ配置される、いわゆる配光可変式前照灯と呼ばれる前照灯装置である。車両用前照灯装置210は、車両前方方向に開口部を有するランプボディ212とこのランプボディ212の開口部を覆う透明カバー214で形成される灯室216を有する。灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218はランプボディ212の内壁面に立設されたボディブラケット220とネジ等の締結部材によって接続されている。したがって、灯具ユニット10は灯室216内の所定位置に固定されると共に、ピボット機構218aを中心として、例えば前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢変化可能となる。
【0026】
また、灯具ユニット10の下面には、曲線道路走行時に進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)を構成するためのスイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データなどに基づいて灯具ユニット10をピボット機構218aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット10の照射領域が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視界を向上させる。スイブルアクチュエータ222は、例えばステッピングモータで構成することができる。また、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
【0027】
スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。このユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。このレベリングアクチュエータ226は例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このような、レベリング調整をすることで車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯装置210による前方照射の到達距離を最適な距離に調整することができる。
【0028】
なお、このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、車両用前照灯装置210の照射方向も車両の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が遠くなったり近くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで実行することで走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
【0029】
灯室216の内壁面、例えば、灯具ユニット10の下方位置には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する照射制御部228が配置されている。この照射制御部228は、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226等の制御も実行する。
【0030】
灯具ユニット10はエーミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エーミング調整時の揺動中心となるエーミングピボット機構を配置する。また、ボディブラケット220とランプブラケット218の接続部分に、車両前後方向に進退する一対のエーミング調整ネジを車幅方向に間隔をあけて配置する。例えば2本のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエーミング調整ネジを後方に引き戻せば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエーミング調整は、車両出荷時や車検時、車両用前照灯装置210の交換時に行われる。そして、車両用前照灯装置210が設計上定められた規定の姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施形態の配光パターンの形成制御が行われる。
【0031】
灯具ユニット10は、可変シェード12を含むシェード機構18、バルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20で構成される。光源であるバルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、一例としてハロゲンランプで構成されるバルブ14を示す。リフレクタ16はバルブ14から放射される光を反射して投影レンズ20へと導く。バルブ14からの光及びリフレクタ16で反射した光は、その一部がシェード機構18を構成する可変シェード12により遮光される。可変シェード12はバルブ14の光軸Oに対して実線で示す第1の位置と、破線で示す第2の位置に進退可能であり、第1の位置(進出位置ともいう)と第2の位置(退避位置ともいう)を含む2位置でバルブ14から照射された光の遮光状態を変化させる。本実施形態における可変シェード12は、円筒形状の表面に軸方向に延設された複数種類の稜線部を有する回転型のシェードである。したがって、第1の位置における可変シェード12の回転角度に対応して光軸O上に位置する稜線部の形状に従う配光パターンを形成する。すなわち、第1の位置に移動した可変シェード12は、バルブ14から照射された光の一部を遮り、いわゆるロービーム用配光パターンまたは一部にロービーム用配光パターンの特徴を含む配光パターンの中からいずれか1つを選択的に形成する。また、第2の位置に移動した可変シェード12は、バルブ14から照射された光を遮らないので、いわゆるハイビーム用配光パターンを形成する。
【0032】
図2は、図1に示す灯具ユニット10の構造をシェード機構18を中心に詳細に説明する説明図である。さらに具体的には、本実施形態の優先移動機構を含む灯具ユニット10の可変シェード12が第1の位置にある場合を示す説明図である。なお、図2は、シェード機構18の動きを理解し易くするために一部の部品を概念的に示している。前述したように、図1に示す灯具ユニット10は、いわゆる2灯式前照灯と呼ばれる車両用前照灯装置210の灯具ユニットで、遮光部材である可変シェード12を駆動させて光源からの光の一部を選択的に遮光してロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとの切り換えを行う。
【0033】
灯具ユニット10は、回転放物面等を基準に形成されたリフレクタ16を有する、いわゆるプロジェクタ型の灯具ユニットである。バルブ14は、リフレクタ16の略中央に形成された開口部に勘合固定されると共に、ランプボディ212に形成されたブラケット(不図示)によって支持されている。
【0034】
ロービーム用配光パターンおよびハイビーム用配光パターンを1ユニットで形成する本実施形態の灯具ユニット10は、可変シェード12によるロービーム用配光パターンの形成時に、配光の輪郭を定める明瞭な明暗境界線、いわゆるカットオフラインを形成する。
【0035】
また、図2に示す灯具ユニット10は、バルブ14の前方に投影レンズ20を有し、バルブ14と投影レンズ20の間にある可変シェード12の先端形状を投影する。可変シェード12の先端形状は、後述する軸状部材の表面に形成され稜線部によって規定される。なお、投映像は、車両が走行する道路において車両の前方例えば25mの位置に設定される鉛直線Vと水平線Hを含む仮想鉛直スクリーンを考える場合、この仮想鉛直スクリーン上に配光パターンとして現れることになる。
【0036】
投影レンズ20は、車両前後方向に延びる光軸上に配置される。また、バルブ14は、投影レンズ20の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20、バルブ14、リフレクタ16は灯具ハウジング17に支持されると共に、ランプブラケット218及びボディブラケット220、ユニットブラケット224によりランプボディ212に固定されている。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0037】
本実施形態の可変シェード12は、図3に示すように、回転自在な軸状部材で構成され、その外周面13の軸方向に延設されて複数種類の稜線部15を有する。この稜線部15の中からいずれか1つが可変シェード12の回転角度に応じて選択される。したがって、本実施形態では、可変シェード12を回転シェードと呼ぶ場合もある。図3は、外周面13上に90°間隔で4種類の稜線部15を設けて、形状の異なるロービーム用配光パターンを形成する例を示している。可変シェード12を回転させることにより、複数種類の稜線部15の中から選択された稜線部15でバルブ14からの光を遮って照射するロービーム用配光パターンの形状を決定する。各稜線部15の形状により配光パターンが変化するが、その形状は用途に応じて適宜設定することができる。例えば、交通法規が左側通行の地域において市街地等で用いる汎用性の高い配光パターンを形成する稜線部15や、配光パターンの両端形状を変化させた稜線部15、配光パターンの中央付近の形状を変化させた稜線部15などを設けることができる。また、ヨーロッパ等では、地域によって右側通行と左側通行が切り替わる場合がある。このような場合、左側通行用のカットオフラインを形成する稜線部15と右側通行用のカットオフラインを形成する稜線部15を設けてもよい。この場合、左側通行用のロービームをノーマルロービーム、右側通行用のロービームをドーバーロービームという場合もある。図3の場合、稜線部15を90°間隔で配置する例を示しているが、稜線部15の形成数に応じて配置間隔は適宜変更可能である。また、各稜線部15は等間隔である必要はない。例えば、よく利用する稜線部15を集めて配置し、あまり利用しない稜線部15、例えば、ヨーロッパにおける左側通行用のカットオフラインを形成する稜線部15などは、よく利用する稜線部15から離れた位置に配置する。このような配置を行うことにより、制御時の可変シェード12の回転角度を小さくすることが可能になり、迅速な配光パターンの切換を行うことができる。
【0038】
なお、本実施形態の可変シェード12は、複数のギアを介してモータ22により回転駆動する。モータ22は可変シェード12により形成される配光パターンを選択するので配光選択アクチュエータと呼ぶこともある。
【0039】
図2および図4は、可変シェード12とモータ22との間に配置される複数のギアの接続関係を示している。モータ22の出力軸22aは駆動ギア24を回転させる。この駆動ギア24は中間ギア26と噛合し、当該中間ギア26は、可変シェード12の回転軸12aに固定された従動ギア28と噛合している。
【0040】
また、中間ギア26の回転軸26aと従動ギア28の回転軸28aとはリンク30で接続され、従動ギア28が中間ギア26の周囲を公転すると共に、中間ギア26の外周上で自転できるように構成されている。また、可変シェード12の他方端にもリンク32が接続されている。リンク32の一端は、図示を省略した灯具ハウジング17の内壁面等に回転自在に接続されている。リンク32には、可変シェード12をバルブ14からの光の一部を遮る第1の位置に優先的に移動させる優先移動機構として機能するソレノイド34が接続されている。このソレノイド34は、非制御時には、内蔵された復帰機構36によりロッド34aを突出状態にする。復帰機構36は例えばスプリングで構成され、ロッド34aを常時突出方向に付勢している。また、ソレノイド34の制御時には、復帰機構36の付勢力に抗してロッド34aをソレノイド34の内部に引き込む。前述したように、可変シェード12の回転軸12aの一端はリンク32によって支持され、他端は従動ギア28と共に中間ギア26の回転軸26aの回りを回転自在なリンク30によって支持されている。したがって、ソレノイド34のロッド34aが進退動作してリンク32を動かした場合、可変シェード12を支持する従動ギア28が中間ギア26の外周を公転することになる。
【0041】
本実施形態の場合、ソレノイド34のロッド34aが突出した状態が、バルブ14からの光の一部を可変シェード12が遮る位置である第1の位置である。また、ソレノイド34のロッド34aがソレノイド34内部に引き込まれた状態が、バルブ14からの光を可変シェード12が遮らない位置である第2の位置である。なお、図2、図4に示すように、可変シェード12を第1の位置で停止させるために、リンク32と当接するストッパ38が灯具ハウジング17等の固定部分に設けられている。リンク32がソレノイド34のロッド34aに押されてストッパ38に当接し、中間ギア26上における従動ギア28の公転を正確に停止させる。その結果、可変シェード12を第1の位置で正確に停止させることができる。なお、リンク32はロッド34aが突出終点となる前の段階でストッパ38によって停止されるように、ロッド34aのストロークやソレノイド34の配置位置が調整されることが望ましい。ロッド34aが伸びきる前にリンク32をストッパ38に当接させることにより、リンク32はストッパ38に対し押圧姿勢でストッパ38の配置位置で正確に停止することになる。
【0042】
なお、リンク30およびリンク32は、可変シェード12を回動自在に支持しているので、ロッド34aの進退状態がいずれの場合でも中間ギア26上で従動ギア28が自転可能となる。したがって、可変シェード12が第1の位置に移動したときに可変シェード12の外周面13上に形成された所望の稜線部15が光を遮る位置に来るように第1の位置以外の位置でも回転姿勢を決めることができる。また、可変シェード12が中間ギア26上を公転することにより第1の位置と第2の位置との間を移動する。例えば、第2の位置で可変シェード12を自転させる場合には、第2の位置から第1の位置に公転することにより変化する可変シェード12の回転角度を含めて予め自転角度を決める。この場合、各ギアのギア比により回転角度の制御を容易に実施することが可能で可変シェード12が第1の位置に移動したときに、所望の配光パターンを正確に形成し、適切な第1の位置におけるビーム照射ができる。また、モータ22にはエンコーダ40などの角度検出センサが設けられ、可変シェード12の回転位置を正確に管理できるようになっている。なお、ソレノイド34自身に位置決め機構が備えられている場合には、ストッパ38を省略することができる。
【0043】
このように構成される灯具ユニット10の動作を図2から図8を用いて説明する。
【0044】
図2および図4は、ソレノイド34のロッド34aが突出状態、つまり、優先移動機構が非制御状態になっている状態を示す。前述したように、ソレノイド34は、非制御状態の場合、ロッド34aが復帰機構36によって突出方向に付勢される。その結果、ロッド34aは、リンク32と共に可変シェード12および従動ギア28を押す。そして、従動ギア28が中間ギア26の外周上で公転する。そして、可変シェード12はバルブ14からの光を遮る第1の位置に向かって移動し、リンク32とストッパ38とが当接する位置で停止する。
【0045】
図2に示すように、第1の位置に移動した可変シェード12は、バルブ14から出射されてリフレクタ16の下側部分で反射した光Pを遮る。一方、バルブ14から出射されてリフレクタ16の上側部分で反射した光Qは可変シェード12に遮られることなく投影レンズ20に到達して車両前方に向けて放射される。
【0046】
前述したように、可変シェード12が第1の位置にある場合、可変シェード12の外周面13上に形成されたいずれかの稜線部15がバルブ14からの光を遮るので、稜線部15の形状にしたがったカットオフラインを含む配光パターンが形成されることになる。図5は、本実施形態の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10において可変シェード12が第1の位置ある場合に形成される照射領域を示す説明図である。つまり、車両前方位置、例えば前方約25m付近に設定される仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンPLを透視的に示す説明図である。このロービーム用配光パターンPLは、交通法規が左側通行の地域において市街地等で用いるのに適した汎用性の高い最適ロービーム用配光パターンということができる。
【0047】
前述したように、ロービーム用配光パターンPLは、配光の上限を限定する明瞭な明暗境界線であるカットオフラインを有する。このカットオフオフラインから下方は明るい領域であり、カットオフラインの上方は暗い領域を区分けする境界線である。左通行用の車両の車両用前照灯装置のカットオフラインは、例えば、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側で水平に延びる右側部分CL1と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置で水平に延びる左側部分CL2とが、左上がりに傾斜した中央部分CL3によって連結された形状を有する。中央部分の傾斜角度は、例えば45°である。対向車や前走車、歩行者などは、仮想鉛直スクリーン上で鉛直線Vと水平線Hの交点近傍及び水平線Hの近傍に存在する。したがって、上述のようなカットオフラインを有するロービーム用配光パターンPLは、対向車や前走車、歩行者などに不快感を伴うまぶしさ(グレア)を与えることを抑制する。なお、交通法規が右側通行の地域で使用される車両のカットオフラインは水平線Hに対する高さが左右逆の形状となる。
【0048】
前述したように、可変シェード12が第1の位置に移動するときには、その停止位置の誤差がそのまま配光パターンの形状、特にカットオフラインの高さを変化させてしまう。したがって、ストッパ38により可変シェード12の位置を規制することは正確な配光パターンを形成する上で重要である。また、ロッド34aが伸びきる前にストッパ38で停止させることによりリンク32をストッパ38に押圧することができるのでリンク32の位置、つまり可変シェード12の第1の位置への移動精度の向上に寄与できる。
【0049】
図6および図7は、優先移動機構であるソレノイド34が制御状態にある場合を示す説明図である。この場合、ソレノイド34のロッド34aは、復帰機構36の付勢力に抗してソレノイド34の内部に引き込まれ、リンク32をストッパ38から離反させて可変シェード12を第1の位置から第2の位置に向けて移動させる。なお、本実施形態の場合、図7に示すように、可変シェード12が第2の位置に移動したときに、第2の位置における停止を補償するためにストッパ42を設けている。本実施形態では、リンク32とストッパ38との当接位置を可変シェード12の第1の位置と定義し、リンク32とストッパ42との当接位置を可変シェード12の第2の位置と定義することもできる。ストッパ38およびストッパ42を設けることにより可変シェード12を第1の位置または第2の位置で正確に停止させることができる。
【0050】
ロッド34aがソレノイド34の内部に引き込まれる結果、可変シェード12を支持する従動ギア28は中間ギア26の外周上を公転しながら移動して第2の位置に移動する。そして、図6に示すように、バルブ14から出射されリフレクタ16の下側部分で反射した光Pは可変シェード12に遮られることなく投影レンズ20に到達して車両前方に向けて放射される。また、バルブ14から出射されリフレクタ16の上側部分で反射した光Qも可変シェード12に遮られることなく投影レンズ20に到達して車両前方に向けて放射される。その結果、図8に示すようなハイビーム用配光パターンPHを形成する。ハイビーム用配光パターンの場合、可変シェード12の影の映り込みがないので、リフレクタ16の反射特性にしたがった形状の照射領域を仮想鉛直スクリーン上に形成する。例えば、図5に示すロービーム用配光パターンPLの上の部分に鉛直線Vを中心として左右方向に裾のが広がる山型形状の配光パターンを追加して、遠方中央部の視界を確保し易いハイビーム用配光パターンを形成することもできる。
【0051】
通常、車両運転者は、夜間走行中など前方の照明が必要と感じる場合、前照灯スイッチをオンして前照灯を点灯させる。このとき、市街地の道路等を走行している場合には、対向車や歩行者と遭遇する機会が多いので、ロービームを照射するように前照灯スイッチを操作する。前述したように、この場合、ソレノイド34は非制御状態となり、ロッド34aが突出して可変シェード12を第1の位置に移動させて、図5に示すようなロービーム用配光パターンを形成する。一方、対向車や歩行者と遭遇する可能性の低い郊外の道路や自動車専用道路などでは、前方の視認性向上のためにハイビームを照射するように前照灯スイッチを操作する。この場合、ソレノイド34は制御状態となり、ロッド34aがソレノイド34の内部に引き込まれ可変シェード12を第2の位置に移動させて、図8に示すハイビーム用配光パターンを形成する。
【0052】
ところで、一般的な回転型のシェードの場合、当該シェードの外周面にロービーム用配光パターンを形成する稜線部を形成すると共に、外周面の一部を軸方向に全幅に渡って大きく切欠き非遮光部分を形成してハイビーム用配光パターンを形成している場合が多い。このようなシェードを便宜上従来型回転シェードと呼ぶ。この従来型回転シェードは、モータなどの駆動手段により回転することでロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとを形成することになる。この場合、モータ制御に異常が生じた場合、ハイビーム用配光パターンの形成状態で固定されてしまう場合もある。
【0053】
一方、本実施形態の灯具ユニット10の場合、優先移動機構であるソレノイド34により可変シェード12の第1の位置、つまりロービーム用配光パターンの形成位置と、第2の位置、つまりハイビーム用配光パターンの形成位置とを切り換えている。そして、ソレノイド34の非制御時には、可変シェード12を第1の位置に優先的に移動させるようになっている。したがって、モータ22の動作状態に拘わらず必要に応じて可変シェード12を第1の位置に移動させることができる。また、ソレノイド34に制御異常が生じた場合でも、ソレノイド34のロッド34aは復帰機構36の付勢動作により突出位置に自動的に戻されるように構成されている。つまり、リンク32はストッパ38に当接し、可変シェード12は第1の位置に強制的に移動させられる。このように、第1の位置に可変シェード12が移動できれば光の一部を遮ることができるのでモータ22に不具合が生じた場合でも、灯具ユニット10がハイビーム用配光パターンのまま照射状態が維持されてしまうことが防止され、フェールセーフを確実に実施することができる。
【0054】
ところで、対向車や歩行者に対し注意を喚起する場合にロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンを素早く複数回切り換える「パッシング」を行う場合がある。上述したような従来型回転シェードを用いた灯具ユニットでパッシングを行う場合、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンの切り換えを回転動作で行うため、その切換応答性には限界があり、パッシングの認識性が低下してしまう場合があった。また、シェードの外周面に複数種類の稜線部を形成している場合、パッシング時のシェード回転過程で様々な配光パターンが現れてしまうため認識させやすいパッシングを形成できない場合があった。
【0055】
一方、本実施形態の灯具ユニット10の場合、ソレノイド34によって可変シェード12を移動させるので、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンの切り換えを高速で行える。また、単一のロービーム用配光パターンと単一のハイビーム用配光パターンによるメリハリのある切り換え動作を実現できる。その結果、対向車や歩行者に対して認識させやすいパッシングを行うことができる。
【0056】
また、従来型回転シェードにおいて、シェードの外周面に複数種類の稜線部を形成している場合、ロービーム用配光パターンからハイビーム用配光パターンへ切り換える場合、シェード回転過程で様々なロービーム用配光パターンが出現した後ハイビーム用配光パターンが出現する場合がある。そのため、ハイビーム用配光パターンへの切り換え時に運転者に違和感を与えてしまう場合がある。同様に、ハイビーム用配光パターンからロービーム用配光パターンに戻す場合も所望のロービーム用配光パターンに至るまで様々な配光パターンが出現してしまう場合があり、運転者に違和感を与えてしまう場合がある。
【0057】
それに対して、本実施形態の灯具ユニット10の場合は、ソレノイド34によって可変シェード12を移動させるので、単一のロービーム用配光パターンと単一のハイビーム用配光パターンとの間で切り換え動作ができる。その結果、運転者に違和感を与えないロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンの切り換え動作を行うことができる。
【0058】
また、本実施形態において、可変シェード12は従動ギア28が中間ギア26のいずれの位置にあっても回転することができる。したがって、可変シェード12が第1の位置に移動したときに所望の稜線部15が光源からの光を遮る位置に来るように、モータ22は可変シェード12が第1の位置以外にあるときに回転させて複数種類の稜線部15中からいずれか1つを選択することができる。つまり、可変シェード12が第1の位置に移動したときには、所望の配光パターンが形成される。この場合、可変シェード12が第1の位置で回転して配光パターンを選択する必要が無くなるので、第1の位置においてロービーム用配光パターンを形成中に異なるロービーム用配光パターンに変化することがなく、運転者に違和感を与えないようにすることができる。また、第1の位置で配光パターンが変化することを防止できるので、対向車や歩行者に対しパッシングしたような状況になることが防止できる。
【0059】
なお、可変シェード12が稜線部15を選択するために回転する位置は、第1の位置以外であればいずれの位置でもよく、例えば、第2の位置に停止しているときでもよいし、第1の位置と第2の位置の間のいずれの位置に停止しているときでもよい。また、その間を移動しているときでもよい。
【0060】
図9は、上述のように構成される車両用前照灯装置210の照射制御部228と車両300側の車両制御部302の構成を説明する機能ブロック図である。車両用前照灯装置210の照射制御部228は、車両300に搭載された車両制御部302の指示に従って電源回路230の制御を行いバルブ14の点灯制御を実行する。また、照射制御部228は車両制御部302からの指示に従い優先移動機構制御部232、可変シェード制御部234、スイブル制御部236、レベリング制御部238を制御する。優先移動機構制御部232は、優先移動機構用のソレノイド34を制御する。可変シェード制御部234は、第1の位置における可変シェード12位置を決定するモータ22を制御する。なお、可変シェード制御部234には、エンコーダ40から可変シェード12の回転状態を示す回転情報が提供されてフィードバック制御により正確な回転制御が実現されている。また、エンコーダ40の回転情報は、照射制御部228にも提供される。そして、照射制御部228は可変シェード制御部234に指示した回転指令と実際の可変シェード12の回転状態に所定値以上の差異が生じた場合、可変シェード12の回転制御系にフェールが生じたと判定して優先移動機構制御部232の制御を実行する。つまり、可変シェード12のフェールセーフのためにソレノイド34を非制御状態にして可変シェード12を優先的に第1の位置に移動させてロービーム用配光パターンを形成する。
【0061】
スイブル制御部236は、スイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸を車幅方向について調整する。例えば、カーブ走行や右左折走行などの旋回時に灯具ユニット10の光軸をこれから進行する方向に向ける。また、レベリング制御部238は、レベリングアクチュエータ226を制御して、灯具ユニット10の光軸を車両上下方向について調整する。例えば、加減速時の車両姿勢の前傾、後傾に応じて灯具ユニット10の姿勢を調整して前方照射の到達距離を最適な距離に調整する。なお、スイブル制御部236、レベリング制御部238は、後述する可変シェードによる片ハイ用配光パターンの形成時のフェールセーフを実施する場合にも利用される。
【0062】
本実施形態の場合、車両用前照灯装置210によって形成される配光パターンは、運転者によるライトスイッチ304の操作内容に応じて切り替え可能である。この場合、ライトスイッチ304の操作に応じて、照射制御部228が可変シェード制御部234、優先移動機構制御部232を制御してモータ22、ソレノイド34の制御を行い配光パターンを決定する。前述したように、本実施形態の場合、ロービーム用配光パターンの使用時には、優先移動機構制御部232を非制御となり、第1の位置に可変シェード12を移動させていずれかのロービーム用配光パターンを形成する。前述したように、モータ22などの可変シェード12の回転制御系にフェールが生じた場合も優先移動機構制御部232は非制御状態となり、可変シェード12を優先的に第1の位置に移動させてロービーム用配光パターンを形成する。
【0063】
一方、ハイビーム用配光パターンの形成を運転者が要求する場合、照射制御部228は優先移動機構制御部232を制御して、ソレノイド34のロッド34aを引込位置に移動させて、可変シェード12を退避位置である第2の位置に移動させる。
【0064】
本実施形態の車両用前照灯装置210は、ライトスイッチ304の操作によらず、車両周囲の状況を各種センサで検出して、車両周囲状況に最適な配光パターンを形成するように自動制御してもよい。例えは、自車の前方に先行車や対向車、歩行者等が存在することが検出できた場合には、車両制御部302はロービーム用配光パターンを形成してグレアを防止するべきであると判定して照射制御部228を制御する。また、自車の前方に先行車や対向車、歩行者等が存在しないことが検出できた場合には、可変シェード12による遮光を伴わないハイビーム用配光パターンを形成して運転者の視界を向上させるべきであると判定して照射制御部228を制御する。
【0065】
このように前走車や対向車、歩行者などの対象物を検出するために車両300の車両制御部302には、対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ306が接続されている。車両制御部302は、カメラ306から提供される画像データの中に予め保持している車両や歩行者を示す特徴点を含む画像が存在する場合、その車両や歩行者を考慮した最適な配光パターンを形成するように照射制御部228に情報を提供する。なお、車両前方に車両用前照灯装置210による照射を抑制すべき対象物を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ306に代えてミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。
【0066】
また、車両制御部302は、車両300に通常搭載されているステアリングセンサ308、車速センサ310などからの情報も取得可能であり、車両300の走行状態や走行姿勢に応じて形成する配光パターンを選択したり、光軸の方向を変化させて簡易的に配光パターンを変化させるようにしてもよい。例えば、車両制御部302はステアリングセンサ308からの情報に基づき車両が旋回していると判定した場合、可変シェード12を回転制御して旋回方向の視界を向上させるような配光パターンを形成する稜線部15を選択してもよい。また、可変シェード12の回転状態は変化させずに、スイブル制御部236によりスイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸を旋回方向に向けて視界を向上させるようにしてもよい。このような制御モードを旋回感応モードということができる。
【0067】
また、夜間に高速走行しているときには、遠方から接近する対向車や前走車、道路標識やメッセージボードの認識をできるだけ早く行えるように前照灯による照明を実行することが好ましい。そこで、車両制御部302は車速センサ310からの情報に基づき高速走行していると判定したときに、可変シェード12を回転制御してロービーム用配光パターンの一部の形状を変えたハイウェイモードのロービーム用配光パターンを形成する稜線部15を選択してもよい。同様な制御は、レベリング制御部238によりレベリングアクチュエータ226を制御して灯具ユニット10を前傾姿勢または後傾姿勢に変化させることでも実現できる。前述したレベリングアクチュエータ226による加減速時のオートレベリング制御は、照射距離を一定に維持するような制御である。この制御を利用して、積極的にカットラインの高さを制御すれば、可変シェード12を回転させて異なるカットオフラインを選択する制御と同等の制御を実行することができる。このような制御モードを速度感応モードということができる。
【0068】
なお、灯具ユニット10の光軸の調整は、スイブルアクチュエータ222やレベリングアクチュエータ226を用いずに実行することもできる。例えば、エーミング制御をリアルタイムで実行するようにして灯具ユニット10を旋回させたり前傾姿勢や後傾姿勢にして、所望する方向の視界を向上させてもよい。
【0069】
この他、車両制御部302は、ナビゲーションシステム312から道路の形状情報や形態情報、道路標識の設置情報などを取得することもできる。これらの情報を事前に取得することにより、レベリングアクチュエータ226、スイブルアクチュエータ222、モータ22、ソレノイド34等を制御して、走行道路に適した配光パターンをスムーズに形成することもできる。このような制御モードをナビ感応モードという。
【0070】
ところで、自動車を運転していると、周囲の状況は刻々と変化する。その中で、車両用前照灯装置210を利用する場合には、前方車や歩行者にグレアを与えないように配慮すると共に、運転者の視界を確保することが重要になる。グレアを与えないようにすることと運転者の視界を確保することは相反する配光パターンの利用が必要となるので、車両周囲の状況に適した配光パターンを形成することが必要となる。例えば、自車線に先行車両が存在せず、対向車線に対向車や歩行者が存在する場合には、自車線側をハイビーム状態にして対向車線側をロービーム状態にすることが有効であると考えられる。逆に自車線に先行車両が存在するが、対向車線に対向車及び歩行者が存在しない場合には、自車線側をロービーム状態にして対向車線側をハイビーム状態にすることが有効であると考えられる。
【0071】
そこで、図10に示す可変シェード412は、図3に示すロービーム用配光パターン及びそれと類似する配光パターンを形成する可変シェード12に加えて、自車線側をハイビーム状態にして対向車線側をロービーム状態にする稜線部415を備えている。この稜線部415は、交通法規が左側通行の地域で利用するシェード形状であり、対向車線側に標準的なロービーム用配光パターンを形成する。また、自車線側にハイビーム用配光パターンを形成するために稜線部415に連なる外周面13を半径方向に所定深さまで切り欠いて切欠部416を形成している。この切欠部416は、可変シェード412が第1の位置に移動して稜線部415で光を遮る場合でも当該切欠部416の位置では光を遮らないような位置まで切り欠かれている。したがって、図10に示す可変シェード412は、自車線側をハイビーム状態にして対向車線側をロービーム状態にする、いわゆる左片ハイ用配光パターンと称する配光パターンを形成する。なお、自車線側をロービーム状態にして対向車線側をハイビーム状態にする、いわゆる左片ハイ用配光パターンと称する配光パターンは、切欠部416と稜線部415の位置が図10に示す例とは逆になる。詳細な形状は後述する。
【0072】
この左片ハイ用配光パターンを形成可能な可変シェード412においても、左片ハイ用配光パターンの形成時に可変シェード412の回転駆動系にフェールが生じた場合には、自車線側のハイビームがグレアを発生しないようにする機構を設けておく必要がある。同様に、右片ハイ用配光パターンを形成する場合においても、フェールセーフを実行するための機構を設けておく必要がある。本実施形態においては、上述のような片ハイ用配光パターンを形成時にファールが生じた場合、スイブル機能やレベリング機能を用いてフェールセーフを実現している。通常の車両の場合、車幅方向の左右に配置された車両用前照灯装置210でそれぞれ形成した配光パターンを重畳させることで1つの配光パターンを形成している。従って、本実施形態においては、左右の車両用前照灯装置210で形成される配光パターンを重畳させた配光パターンを合成配光パターンという場合もある。さらに、フェールセーフのためにスイブル機能やレベリング機能を用いて光軸方向を変化させた場合でもロービーム用配光パターンの形状を維持する必要がある。そのための、本実施形態においては、車両の車幅方向の左右に配置された車両用前照灯装置210でそれぞれ異なる配光パターンを形成している。つまり、合成左片ハイ用配光パターンを形成する場合には、左側の車両用前照灯装置210で左片ハイ用配光パターンを形成し、右側の車両用前照灯装置210では標準的なロービーム用配光パターンを形成している。同様に、合成右片ハイ用配光パターンを形成する場合には、右側の車両用前照灯装置210で右片ハイ用配光パターンを形成し、左側の車両用前照灯装置210では標準的なロービーム用配光パターンを形成している。したがって、図10に示す可変シェード412が左側の車両用前照灯装置210の場合、可変シェード412の外周面13にはロービーム用配光パターンに加え、左片ハイ用配光パターン用の稜線部415及び切欠部416が形成されることになる。そして、右側の車両用前照灯装置210の場合、可変シェード412の外周面13にはロービーム用配光パターンと、右片ハイ用配光パターン用の稜線部415及び切欠部416が形成されることになる。
【0073】
図11(a)、図11(b)は、可変シェード412のロービーム用の稜線部15の形状の例であり、図11(c)、図11(d)は片ハイ用の稜線部415の形状を示す。また、図12(a)〜図12(f)は、可変シェード412の動作により形成される合成配光パターンの一例を示す。なお、この可変シェード412は、図1、図2等に示される可変シェード12と置き換え可能で、その駆動は図1、図2等に示される機構によって同様に可能なので、全体的な動作の詳細説明は省略する。
【0074】
図11(a)は、交通法規が左側通行の地域において、市街地走行などの走行で対向車や歩行者にグレアを与え難い汎用性の高いロービーム用配光パターン(最適ロービーム用配光パターンやベーシックロービーム用配光パターンという場合もある)を形成する稜線部15である。なお、図11(a)〜図11(d)の可変シェード412は図1において、バルブ14側から見た状態が示されている。このとき図9における照射制御部228は、優先移動機構制御部232を非制御状態として、可変シェード412を第1の位置に移動させる。また、照射制御部228は、可変シェード制御部234を制御してベーシックロービーム用配光パターンの稜線部15が光軸上に来るように可変シェード412を位置決めする。図12(a)は、ベーシックロービーム用配光パターンを示している。なお、図12(a)に示す配光パターンは、図5に示す配光パターンと実質的に同じである。図1に示すように、本実施形態の投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであるため、後方焦点面上に形成される光源像を、上下左右の反転像として車両前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。図12(a)に示すように、ベーシックロービーム用配光パターンは、左側通行時に対向車や歩行者にグレアを与えないように配慮された配光パターンである。なお、この場合、前述したように、車両の車幅方向の左右の車両用前照灯装置210で同じベーシックロービーム用配光パターンを形成して、両者を重畳して図12(a)の合成配光パターンを形成する。
【0075】
図11(b)は、交通法規が右側通行の地域で使用するロービーム用配光パターンで、いわゆる「ドーバーロービーム」を形成する稜線部15の形状であり、図12(b)が対応するドーバーロービーム用配光パターンである。なお、この場合も、車両の車幅方向の左右の車両用前照灯装置210で同じドーバーロービーム用配光パターンを形成して、両者を重畳して図12(b)の合成ドーバーロービーム用配光パターンを形成する。
【0076】
図12(c)は、優先移動機構制御部232が制御状態となり、ソレノイド34のロッド34aが引き込まれて可変シェード412が第2の位置に移動することによって形成されるハイビーム用配光パターンである。ハイビーム用配光パターンは、運転者の前方視界を最大まで確保できる配光パターンである。なお、この場合も、車両の車幅方向の左右の車両用前照灯装置210で同じハイビーム用配光パターンを形成して、両者を重畳して図12(c)の合成ハイビーム配光パターンを形成する。
【0077】
図11(c)は、交通法規が左側通行の地域で使用される左片ハイ用配光パターンを形成する稜線部415を含む可変シェード412を示している。前述したように、この形状の稜線部415を有する可変シェード412は、車両の車幅方向左側の車両用前照灯装置210に搭載される可変シェードである。そして、車両の車幅方向左側の車両用前照灯装置210で形成する左片ハイ用配光パターンと右側の車両用前照灯装置210で形成するベーシックロービーム用配光パターンとの合成によって図12(d)に示すような合成左片ハイ用配光パターンを形成する。このような合成左片ハイ用配光パターンは、自車線側に前走車や歩行者が存在せず、対向車線側に対向車や歩行者が存在する場合に適した配光であり、運転者の前方視認性を向上させつつ、対向車や対向車線の歩行者にグレアを与えないように配慮した配光パターンである。
【0078】
図11(d)は、交通法規が左側通行の地域で使用される右片ハイ用配光パターンを形成する稜線部415を含む可変シェード412を示している。この形状の稜線部415を有する可変シェード412は、車両の車幅方向右側の車両用前照灯装置210に搭載される可変シェードである。そして、車両の車幅方向右側の車両用前照灯装置210で形成する右片ハイ用配光パターンと左側の車両用前照灯装置210で形成するベーシックロービーム用配光パターンとの合成によって図12(e)に示すような合成右片ハイ用配光パターンを形成する。このような合成右片ハイ用配光パターンは、自車線側に前走車や歩行者が存在し、対向車線側に対向車や歩行者が存在しない場合に適した配光であり、運転者の前方視認性を向上させつつ、前走車や自車線の歩行者にグレアを与えないように配慮した配光パターンである。
【0079】
図12(f)に示す合成配光パターンは、ロービーム用配光パターンの変形パターンであり、仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vと水平線Hの交点近傍に対する光の照射を抑制したパターンであり、V配光パターンと称されるものである。このV配光パターンは、例えば、車両の車幅方向左側の車両用前照灯装置210により図12(a)に示すベーシックロービーム用配光パターンを形成する。一方、車両の車幅方向右側の車両用前照灯装置210により図12(b)に示すドーバーロービーム用配光パターンを形成する。この2つ異なる配光パターンを重畳することにより、遠方の先行車や対向車が存在する可能性のある鉛直線Vと水平線Hの交点近傍に対する光の照射を抑制した合成V配光パターンを形成することができる。この合成V配光パターンは、遠方の前方車に対するグレアを抑制しつつ、自車線側や対向車線側の路肩の障害物などを運転者に認識させ易くできる配光パターンであるといえる。
【0080】
図13(a)〜図13(c)は、合成左片ハイ用配光パターンの光の重畳状態を説明する説明図である。前述したように、左片ハイ用配光パターンは、図13(a)で示されるように、車両の車幅方向左側の車両用前照灯装置210で形成する左片ハイ用配光パターンLHと、図13(b)で示されるように、右側の車両用前照灯装置210で形成するベーシックロービーム用配光パターンRLとを合成する。その結果、図13(c)に示すような合成左片ハイ用配光パターンLHRLを形成する。図13(c)に示すように、合成左片ハイ用配光パターンLHRLは、ロービーム対応部分が左右の車両用前照灯装置210からの光の重畳により明るくなっている。一方、ロービーム対応部分の上方のハイビーム対応部分が左側の車両用前照灯装置210からの光のみから形成されるので、ロービーム対応部分よりは暗くなる。しかしながら、自車線側の遠前方の明るさが多少の低下しても、従来全く光が照射されたいなかった状態と比較すれば、格段に自車線の前方視界の向上を図ることができる。
【0081】
同様に、合成右片ハイ用配光パターンの場合も対向車線側のハイビーム対応部分の明るさがロービーム対応部分の明るさより暗くなるが、実用上問題になることなく、格段に対向車線の前方視界の向上を図ることができる。
【0082】
前述したように、このような合成片ハイ用配光パターンは、回転駆動する可変シェード412を用いて形成するので、回転駆動系にフェールが生じた場合でも確実にフェールセーフできる機構を備えておく必要がある。図13(d)には、スイブル機能を用いて片ハイ用配光パターン形成時にフェールセーフを実施する例を示す。図13(d)に示すように、合成左片ハイ用配光パターンの形成時に左側の車両用前照灯装置210の可変シェード412の回転駆動系にフェールが生じた場合を考える。この場合、左側の車両用前照灯装置210の照射制御部228は、スイブル制御部236に対して、左側の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10のみを左方向にスイブルするように指令を出す。その結果、自車線の左片ハイ用配光パターンLHは、路肩方向に移動し、先行車や自車線側の歩行者などにグレアを与え難くなる。一方、右側の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10は、スイブルさせないので、ベーシックロービーム用配光パターンRLがそのまま維持されている。つまり、ロービーム照射領域の確保が行われる。さらに、自車線及び対向車線のロービーム照射領域は、ほぼ全域が左右の車両用前照灯装置210からの光が重畳された状態を維持するので、ロービーム用配光パターンとしての照射機能もほぼ維持できる。つまり、合成左片ハイ用配光パターンに対するフェールセーフを確実に実施することができる。
【0083】
なお、合成右片ハイ用配光パターンの形成時のフェールセーフは、右側の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10のみを右方向にスイブルさせることにより同様に実現できる。スイブルアクチュエータの通常のスイブル角度は、左側の車両用前照灯装置210において最大で約5°であり、右側の車両用前照灯装置210において最大で約20°である。それに対して本実施形態のスイブルアクチュエータ222の場合、確実なフェールセーフ機能を実現するために、通常の角度より2°〜3°程度多くスイブルするように設定するしておくことが望ましい。また、可能性としては極めて低いが、可変シェード412の回転駆動系とスイブルアクチュエータ222が同時にフェールした場合には、応急処置として、片ハイ用配光パターンを形成している車両用前照灯装置210の灯具ユニット10を消灯させてもよい。この場合、他方の車両用前照灯装置210によるロービーム用配光パターンの照射は継続しているので、最低限のロービーム用配光パターンの照射により前方視界を確保して、安全に車両を走行させることができる。
【0084】
図14は、合成左片ハイ用配光パターンの形成時にフェールが生じた場合に、レベリングアクチュエータ226に用いたレベリング機能を用いてフェールセーフを実施する例を説明する説明図である。
【0085】
レベリング機能を用いて片ハイ用配光パターンのハイビーム部分でグレアを生じさせない状態にするには、ハイビーム部分を強制的にロービーム領域まで移動させるようにする。そのため、本実施形態においては、左側の車両用前照灯装置210の可変シェード412の切欠部416の切欠き深さを図11(c)に示す状態より浅くしおく。このような可変シェード412の稜線部415及び切欠部416を第1の位置において光軸の位置に位置決めすると、図14(a)に示すように、左片ハイ用配光パターンLHのハイビーム領域の上端部に水平部分CL4が形成される。一方、右側の車両用前照灯装置210の可変シェード412は、第1の位置において光軸の位置にベーシックロービーム用配光パターンを形成する稜線部15を位置決めする。その結果、図14(b)に示すように、左側の車両用前照灯装置210でベーシックロービーム用配光パターンRLが形成できる。この2つの配光パターンが合成されることにより、図14(c)に示すような水平部分CL4及び右側部分CL1を含む合成左片ハイ用配光パターンLHRLが形成できる。この合成左片ハイ用配光パターンLHRLは、ハイビーム領域の上部が水平部分CL4で削られているため、図13(c)に示す合成左片ハイ用配光パターンLHRLより照射領域は制限されるが、従来全く光が照射されたいなかった状態と比較すれば、格段に自車線の前方視界の向上を図ることができる。
【0086】
図14(d)には、レベリング機能を用いて片ハイ用配光パターン形成時にフェールセーフを実施する例を示す。図14(d)に示すように、合成左片ハイ用配光パターンの形成時に左側の車両用前照灯装置210の可変シェード412の回転駆動系にフェールが生じた場合を考える。この場合、左側の車両用前照灯装置210の照射制御部228は、レベリング制御部238に対して、左側の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10のみを下方にレベリングするように指令を出す。その結果、自車線の左片ハイ用配光パターンLHの水平部分CL4は、水平線Hに向かい移動し、ベーシックロービーム用配光パターンRLの左側部分CL2と重なる。その結果、先行車や自車線側の歩行者などにグレアを与え難くする。一方、右側の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10は、レベリングさせないので、ベーシックロービーム用配光パターンRLがそのまま維持されている。つまり、ロービーム照射領域の確保が行われる。さらに、自車線側のロービーム照射領域のほぼ全域は左右の車両用前照灯装置210からの光が重畳された状態で維持されるので、ロービーム用配光パターンとしての照射機能もほぼ維持できる。つまり、合成左片ハイ用配光パターンに対するフェールセーフを確実に実施することができる。
【0087】
なお、合成右片ハイ用配光パターンの形成時のフェールセーフは、右側の車両用前照灯装置210の灯具ユニット10のみを下方にレベリングさせることにより同様に実現できる。レベリングアクチュエータ226によるレベリング範囲は、水平線Hを挟んで例えば3°に設定することができる。つまり、図14(a)におけるハイビーム対応部分の鉛直方向の幅は仮想鉛直スクリーン上で3°アップに対応する長さとなる。水平部分CL4を形成する角度を定めておくことで、レベリングアクチュエータ226の制御量の対応付けが容易になりフェールセーフのための制御が容易になる。また、可変シェード412の回転駆動系とレベリングアクチュエータ226が同時にフェールする可能性は極めて少ないが、両方がフェールした場合には、応急処置として、片ハイ用配光パターンを形成している車両用前照灯装置210の灯具ユニット10を消灯させてもよい。この場合、他方の車両用前照灯装置210によるロービーム用配光パターンの照射は継続しているので、最低限のロービーム用配光パターンの照射により前方視界を確保して、安全に車両を走行させることができる。
【0088】
なお、上述したようにフェールセーフモードに移行した場合には、車両制御部302は表示装置や音声装置を介して、フェールセーフモードに移行したことを運転者に報知したり、点検修理等を促すメッセージを提供してもよい。
【0089】
図15は、本実施形態の灯具ユニット10を用いた応用例を説明する灯具ユニット100の概略構成図である。なお、灯具ユニット100は、可変リフレクタ102を備えている以外は、図2に示す灯具ユニット10と同等の構造を有するので、同等の機能を示す部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
ロービーム用配光パターンによる照明で走行している場合でも、自動車専用道路や市街地道路など走行環境や走行状態によってモーターウェイ配光やタウン配光などベーシックなロービーム配光とは異なる配光を行った方が前方認識性が向上する場合がある。
【0091】
図2に示す灯具ユニット10の場合、モータ22を駆動することにより駆動ギア24、中間ギア26、従動ギア28を介して可変シェード12を回転させて、複数準備されたロービーム用配光パターンの中から所望のロービーム用配光パターンを選択することができた。この場合、カットオフラインの高さを変化させたり、配光パターンの端部形状や中央部の形状を適宜選択することはできたが形成される配光パターンの照度分布は同じであった。つまり、可変シェード12を回転させただけでは良好なモーターウェイ配光やタウン配光を形成することが困難な場合がある。
【0092】
そこで、図15の灯具ユニット100は、配光パターンの照度分布を変化させる可変リフレクタ102の駆動機構と可変シェード12の駆動機構とを関連付けて駆動する構成を示している。
【0093】
可変リフレクタ102はランプボディに形成された支持軸102aを中心に回動自在に配置されている。この可変リフレクタ102は、その背面側に位置するリフレクタ16における集光度と異なる集光度の反射面102bを有している。そして、この可変リフレクタ102は、リンク104によって中間ギア26に接続されている。したがって、モータ22の駆動により駆動ギア24が回転した場合、中間ギア26が回転して、その回転角度に応じてリンク104により可変リフレクタ102の位置が変位する。この場合、図15の状態から中間ギア26が矢印A1またはA2いずれの方向に回転してもリンク104は矢印B方向に移動し、可変リフレクタ102を矢印C方向に移動させる。例えば、図15で示す位置に可変リフレクタ102が位置する場合、バルブ14から出射された光は、可変リフレクタ102で覆われていないリフレクタ16の反射面および可変リフレクタ102の反射面102bにより反射され投影レンズ20を介して出射される。この場合を例えば、ベーシックロービーム用配光パターンとする。一方、中間ギア26が矢印A1またはA2いずれの方向に回転してリンク104が矢印B方向に移動し、可変リフレクタ102を矢印C方向に移動した場合を考える。この場合、バルブ14から出射された光は、図15に示す状態で可変リフレクタ102に覆われていたリフレクタ16の反射面でも反射され投影レンズ20を介して出射される。この場合、ベーシックロービーム用配光パターンとは異なる集光度の配光パターンを形成することができる。例えば、図5において、ロービーム用配光パターンPLの略中央部が他の部分より明るく、遠方の視認性を向上させたモーターウェイ配光を形成することができる。また、ロービーム用配光パターンPLの両端部が他の部分より明るく路肩方向の視認性を向上させたタウン配光を形成することが可能になる。可変リフレクタ102の移動量は中間ギア26の回転量で正確かつ容易に管理することができる。
【0094】
したがって、可変シェード12の外周面13において稜線部15を形成する位置と中間ギア26におけるリンク104の接続位置とを関連付けておけば、稜線部15の選択と同時に可変リフレクタ102の位置調整が可能になる。その結果、配光パターンの形状およびその配光パターンの集光度の調整が可能になり利用目的に適した配光パターンを形成して前方視認性の向上に寄与することができる。
【0095】
なお、ソレノイド34による可変シェード12の第1の位置と第2の位置の切り換えは中間ギア26の回転駆動とは無関係に行うことができるので、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンの切り換えは可変リフレクタ102の調整位置に影響を与えることはない。
【0096】
図16に示す灯具ユニット106は、図15の可変リフレクタ102を搭載する灯具ユニット100の変形例である。なお、灯具ユニット106の可変シェード12およびその駆動機構の基本構成は、図2に示す灯具ユニット10および図15に示す灯具ユニット100と略同一であり同等の機能を示す部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0097】
図15の灯具ユニット100の場合、中間ギア26の回転に追従してリンク104が変位し可変リフレクタ102が移動した。したがって、可変シェード12の稜線部15の選択を行う場合、常に可変リフレクタ102が連動して動くので、配光パターンごとに集光度が変化した。
【0098】
図16の場合、中間ギア26の回転軸26aに接続アーム108が固定され、その先端に回動自在にリンク110が接続されている。このリンク110は長孔部110aを介して可変リフレクタ102に立設された作動軸112と接続されている。また、可変リフレクタ102はランプボディ等に固定されたリターンスプリング114によって図16に示す原点位置に付勢されている。図16の場合、可変リフレクタ102の反射面102bの集光度は、例えばリフレクタ16の反射面16aの標準配光に従う集光度を有している。また、図16の状態で、可変リフレクタ102に遮られているリフレクタ16の反射面16bは、例えば反射面102bより高集光度を有するようにしている。
【0099】
モータ22によって中間ギア26を図16の状態から回転させると、接続アーム108が矢印D方向に移動する。このとき、可変リフレクタ102の作動軸112は、リンク110の長孔部110aを介して接続されているので、リンク110が矢印D方向に移動しても直ちに可変リフレクタ102は移動しない。例えば、図16に示す可変シェード12の位置をベーシック配光θ0とすると、その左右の領域であるベーシック配光θLとベーシック配光θRの間で可変シェード12を回転させても長孔部110aによる遅延効果により可変リフレクタ102は移動しない。したがって、可変シェード12の外周面13においてベーシック配光θLとベーシック配光θRとの間に複数の稜線部15を配置し、その中からいずれかの稜線部15を選択する場合は可変リフレクタ102は移動せず集光度は変化しない。それに対して、ベーシック配光θLまたはベーシック配光θRより大きく可変シェード12を回転させると、リンク110の長孔部110aの端部に作動軸112が当接して可変リフレクタ102が矢印E方向に移動する。つまり、ベーシック配光θLまたはベーシック配光θRより大きく回転させて可変シェード12上の稜線部15を選択する場合、配光パターンの形状および集光度を変化させることができる。例えば、照度分布に特注を持つモーターウェイ配光やタウン配光を形成することができる。
【0100】
したがって、可変シェード12の外周面13において稜線部15を形成する位置と中間ギア26におけるリンク110の接続位置とを関連付けておけば、選択した稜線部15に応じて可変リフレクタ102の位置調整が可能になる。その結果、配光パターンの形状のみの調整および配光パターンの形状とその配光パターンの照度分布の調整が可能になり利用目的に適した配光パターンを形成し前方視認性の向上に寄与することができる。
【0101】
なお、ソレノイド34による可変シェード12の第1の位置と第2の位置の切り換えは中間ギア26の回転駆動とは無関係に行うことができるので、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンの切り換えは可変リフレクタ102の調整位置に影響を与えることはない。
【0102】
なお、図15、図16で説明した構造においても、可変シェード412が使用可能であり、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0104】
10、100、106 灯具ユニット、 12、412 可変シェード、 14 バルブ、 16 リフレクタ、 20 投影レンズ、 22 モータ、 24 駆動ギア、 26 中間ギア、 28 従動ギア、 30、32 リンク、 34 ソレノイド、 36 復帰機構、 38、42 ストッパ、 13 外周面、 15 稜線部、 102 可変リフレクタ、 222 スイブルアクチュエータ、 226 レベリングアクチュエータ、 232 優先移動機構制御部、 234 可変シェード制御部、 236 スイブル制御部、 238 レベリング制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方へ光を照射可能な光源と、
前記光源からの光の遮り方で、通過する光により形成される配光パターンの形状を複数種類に変化させる可変シェードと、
前記可変シェードの光遮蔽状態を変化させることにより前記複数の配光パターンのうちいずれかを選択させる配光選択アクチュエータと、
前記可変シェードを前記光源からの光の一部を遮る第1の位置と光を遮らない第2の位置との間で移動させる機構であって、非制御時に前記可変シェードを前記第1の位置に優先移動させる優先移動機構と、
を備えたことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記優先移動機構は、前記配光選択アクチュエータの制御が異常となった場合に前記第1の位置に前記可変シェードを優先移動させることを特徴とする請求項1記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記可変シェードは、回転自在な軸状部材で構成され、その外周面の軸方向に延設されて回転角度に応じて選択される稜線部を複数種類有し、前記選択された稜線部を前記光源からの光で投影することにより配光パターンの形状を決定し、
前記配光選択アクチュエータは、前記可変シェードが前記第1の位置以外の場所にある間に前記可変シェードが前記第1の位置に移動したとに所定の稜線部が光を遮る位置に来るように当該可変シェードの回転角度を予め決定することを特徴とする請求項1記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記可変シェードの回転角度に応じて選択される稜線部は、それぞれ異なるロービーム用配光パターンを形成すること特徴とする請求項3記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前記配光選択アクチュエータにより回転する駆動ギアと、
前記可変シェードと共に回転する従動ギアと、
前記駆動ギアと前記従動ギアとの間に配置され相互と噛合する中間ギアと、
を含み、
前記優先移動機構は、前記可変シェードが前記稜線部を選択するときには前記従動ギアが前記中間ギア上で自転するように前記従動ギアの位置を規制し、前記可変シェードが前記第1の位置と前記第2の位置との間で移動するときには前記従動ギアが前記中間ギアの周りを公転するように前記従動ギアの姿勢を変化させることを特徴とする請求項4記載の車両用前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−283443(P2009−283443A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61809(P2009−61809)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】