説明

車両用前照灯

【課題】
雨天走行時に路肩の歩行者と対向車ドライバーにまぶしさを感じさせず、レーンマークから歩行者に至る範囲の視認性を向上させることで、雨天時の路面状況をドライバーに確実に把握させる車両用前照灯の提供。
【解決手段】
雨天用ランプユニット4Aとロービーム用ランプユニット4Bを灯室内に有する自動車用前照灯1において、ロービーム用ランプユニット4Bは、ロービーム用配光パターンPsbを形成し、雨天用ランプユニット4Aは、同ランプユニットと路肩(S1,S2)との間(C11〜C16,C21〜C26)から路肩方向への路面を照明し、ロービーム用配光パターンPsbよりも内側に雨天用配光パターンPscを重ねて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨天走行時において、道路の路肩の歩行者及び対向車ドライバーにまぶしさを感じさせることなく、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の視認性を向上させることにより、雨天時に視認性が低下した車両前方の路面状況をドライバーに確実に把握させる車両用前照灯の技術である。
【背景技術】
【0002】
雨天走行時の濡れた路面は、乾燥時の路面と比べて反射特性が変化するため、車両前方の路面の視認性が路面乾燥時より著しく低下し、ドライバーが路面の状況を視認しにくくなる。また、濡れた路面は、鏡面化によってランプの照射光を対向車ドライバーに向けて反射しやすくなるため、対向車ドライバーが反射光によってまぶしさを感じる場合がある。
【0003】
下記特許文献1には、光源からの出射光を放物面リフレクターによって前方に照射する車両用前照灯であって、前記放物面リフレクターにおける有効反射面の一部を可変リフレクターで構成した車両用前照灯が開示されている。下記特許文献1に開示された前照灯は、雨天時に前記可変リフレクターを後傾させ、有効反射面として利用しないようにすることにより、車両前方20mから手前までの領域における照射光量を低減させて、雨天時の前記領域における路面反射を弱めることにより、対向車ドライバーにまぶしさを与える反射光の発生を防止するものである。
【0004】
一方、車両前方へ向けた照射光量を減少させた場合には、車両前方の照明度は全体的に低下するため視認性は低下する。従って、特許文献1の車両用前照灯は、リフレクターの一部にレーンマーク方向へ向けた反射部を設け、光源からの出射光の一部をレーンマーク方向へ反射し、レーンマークを明るく照明することによって車両前方の視認性を改善している。
【0005】
【特許文献1】特開2002−190202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射光によるまぶしさを対向車のドライバーに与えないことを前提としつつ、雨天走行時における車両前方のレーンマークに加えて路肩から路肩上の歩行者に至る範囲を明るく照明し、これらの視認性を向上させることは、ドライバーに視認性の低下した道路の形状をより確実に把握させると共に、横断歩行者の有無を早期かつ確実に把握させることに繋がるため、運転の安全性を確保する上で重要である。更に、路肩上の歩行者を照明する場合には、レーンマークや路肩の照明と異なり、歩行者の視界に光を照射することによってまぶしさを与えない配慮が必要になる。
【0007】
しかし、特許文献1の車両用前照灯は、対向車のドライバーにまぶしさを与える反射光の発生とレーンマークの視認性が改善されるものの、路肩から路肩上の歩行者の視認性は改善されない。また特許文献1の車両用前照灯では、光源からの出射光を強くし、車両前方へ向けた照射光量を全体的に増加させて路肩から路肩上の歩行者へ向けた照射光量を確保することも考えられるものの、照射光量の単なる増加は、路肩上の歩行者にまぶしさを感じさせるおそれがある。
【0008】
そこで発明者は、対向車のドライバーにまぶしさを与えず、更には路肩上の歩行者にまぶしさを与えることなく、ドライバーからみた車両前方のレーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者を明るく照射し、これらの視認性を向上させることが出来ないか考えた。
【0009】
ランプの出射光がランプと路肩との間の路面に照射される場合の路面反射光は、ランプから路肩上の歩行者までの距離をLとすると、L/2より手前の領域に照射された場合、路肩上の歩行者に向けてランプの地上高よりも高く反射し、L/2から路肩方向の領域に照射された場合、路肩上の歩行者に向けてランプの地上高より低く反射する。
【0010】
従って、本願発明者は、ランプと歩行者までの距離と、ランプと路肩との間の路面に対する照射位置によって決定される路面反射光の照射高さを路肩上の歩行者及び対向車ドライバーの視線より低くしつつ、車両前方のレーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者を明るく照射するスポット光を通常のロービーム用ランプユニットとは別の雨天用ランプユニットにより、前記歩行者と対向車ドライバーの目線に入らないロービーム配光パターンの内側領域に重ねて照射することにより、路肩上の歩行者と対向車ドライバーにまぶしさを感じさせることなく、これらの視認性を向上させることが出来るのでは無いかと考えた。
【0011】
本願の車両用前照灯は、上記検討に基づき、雨天走行時において対向車ドライバーと路肩上の歩行者にまぶしさを感じさせるグレア光の発生を抑制しつつ、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者を集中的に照明し、これらの視認性を向上させることで路面状況をドライバーに確実に把握させることを目的として発明されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に係る車両用前照灯は、カットオフラインを有するロービーム用配光パターンを形成する第一のランプユニットと、投射レンズ、投射レンズの後方焦点近傍に配置したカットオフライン形成シェード、光源バルブ及び前記光源バルブの発光を投射レンズ側に反射するリフレクタを備えた第二のランプユニットが灯室内に収容された自動車用前照灯において、前記第二のランプユニットは、同ランプユニットと路肩との間から路肩方向への路面を照明し、前記ロービーム用配光パターンよりも内側の雨天用配光パターンを形成する
(作用)請求項1の発明は、ロービーム用ランプユニットから独立した雨天用ランプユニットが、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者を照射範囲に含みつつ車両の前方下側を照射するロービーム用配光パターンの内側に更にレーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者を補助的に照射する雨天用配光パターンを重ねて形成することにより、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の範囲に照射される光量を大幅に増加させる。
【0013】
その際、雨天用ランプユニットと路肩との間から路肩までの路面に照射された光は、照射範囲の下端において路面で反射し、前方の対向車や路肩上の歩行者に照射されるが、前記路面で反射した光は、対向車ドライバー及び路肩上の歩行者の目線より低く照射されるため、対向車ドライバーと歩行者の視界に入ることなく、レーンマークから路肩上の歩行者に至る領域の照明度を向上させる。
【0014】
請求項2は、請求項1に記載された車両用前照灯であって、前記雨天用配光パターンは、自車線側を照明する自車線側配光パターンと、対向車線側を照明する対向車線側配光パターンを備えている。
【0015】
(作用)請求項2の発明は、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者を補助的に照明する範囲を道路の両側に形成することにより、道路両側のレーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の視認性が向上する。
【0016】
請求項3は、請求項2に記載された車両用前照灯であって、前記自車線側配光パターンは、ロービーム用配光パターンの水平カットオフラインとほぼ平行で自車線側に設けられた上端水平カットオフラインと、自車線のレーンマークにほぼ沿って左下がりに傾斜する斜めカットオフラインを有し、前記対向車線側配光パターンは、ロービーム用配光パターンのカットオフラインにほぼ沿った上端水平カットオフラインと、対向車線のレーンマークにほぼ沿って右下がりに傾斜する斜めカットオフラインを有する。
【0017】
(作用)請求項3の発明は、自車線側配光パターン及び対向車線側配光パターンの上端水平カットオフラインの高さがそれぞれロービーム用配光パターンの上端カットオフラインとほぼ一致するため、歩行者の視線の高さと対向車ドライバーの視線から上の高さに照射され、まぶしさを感じさせるグレア光が発生しない。また、自車線側配光パターン及び対向車線側配光パターンの斜めカットオフラインが道路両側の路肩及びレーンマークに沿って略平行となる配光を形成することにより、レーンマークより上の範囲であって、かつ路肩及び路肩上の歩行者の目線より下の限定された範囲の照明度が、集中的に向上してこれらの視認性が向上する。
【0018】
請求項4は、請求項1から3のうちいずれかに記載された車両用前照灯であって、前記第一のランプユニットは、ロービーム用配光パターンと、ロービーム用配光パターンの下端中央部に暗部を形成したウェット用配光パターンを切替え可能に構成し、前記第二のランプユニットは、前記雨天用配光パターン形成用シェードを前記投射レンズの後方焦点近傍位置から退避可能な可動型シェードとして構成することにより、雨天走行時には前記ウエット用配光パターンよりも内側に前記雨天用配光パターンを重ねて形成するとともに、投射レンズの後方焦点近傍位置から退避した際には、前記雨天用配光パターンからハイビーム用配光パターンに切替え可能に構成した。
【0019】
(作用)請求項4の発明は、ロービーム用ランプユニット(第一のランプユニット)と雨天用ランプユニット(第二のランプユニット)によって形成される配光パターンの形状が、路面状況に応じて切り替わる。即ち、乾燥路面を走行する場合には、ロービーム用配光パターン(第一ランプ)にハイビーム用配光パターン(第二ランプ)を重ねた合成配光パターンを形成する。一方、濡れた路面を走行する場合には、配光パターンをそれぞれ雨天向きの形状に切替えて、ウェット用配光パターン(第一ランプ)の内側にレーンマークから路肩上の歩行者に至る領域を補助的に照明する雨天用配光パターン(第二ランプ)を重ねることにより、対向車ドライバーに対するまぶしさをより低減しつつ、レーンマークから路肩上の歩行者の照明度を向上させた雨天向きの合成配光パターンを形成する。
【0020】
尚、第二のランプユニットは、雨天用配光パターン形成用シェードを投射レンズの後方焦点近傍位置から光線に干渉しない位置に退避させることにより、雨天用配光パターンがハイビーム用配光パターンに切り替わる。また、前記ウェット用配光パターンは、濡れた路面を走行する際にロービーム用配光パターンの一部である下端中央部を暗くすることにより、ロービーム用配光パターンに比べ、車両前方手前側の路面で高く反射して対向車ドライバーの視界に入りまぶしさを感じさせる反射光を低減させている。
【0021】
請求項5は、請求項1から4のうちいずれかに記載の車両用前照灯であって、前記第一,第二のランプユニットにおける各光源バルブは、各ランプユニットの側方から挿脱着できるように構成する。
【0022】
(作用)請求項5の発明は、各光源バルブをランプユニットの側方から挿脱着(横刺し)することで横長の配光イメージを形成することが出来、カットオフライン形成シェードに向けて横長の影像を照射する。また、ランプユニットの奥行きが短くなる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から明らかなように、請求項1の発明によれば、雨天走行時において対向車ドライバーと路肩上の歩行者が、路面反射光によるまぶしさを感じること無く、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の照明度が向上し、これらの視認性が向上するため、雨天時の路面状況(路面形状と横断歩行者の有無)をドライバーに確実に把握させることが出来る。
【0024】
請求項2の発明によれば、レーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の視認性が道路両側において向上するため、ドライバーが路面状況をより確実に認識できる。
【0025】
請求項3の発明によれば、雨天用配光パターンの上端水平カットオフラインが対向車ドライバーと路肩上の歩行者の目線より下方に形成されるためにまぶしさを感じさせることが無くなり、下端カットオフラインがほぼレーンマークに沿った位置に斜めに形成されるために、路面状況の把握に必要なレーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の照明度が向上し、これらの視認性が向上するため、ドライバーが道路全体の形状を確実に認識できる。
【0026】
請求項4の発明によれば、乾燥路面を走行する際には、ロービーム用配光パターン(第一のランプユニット)にハイビーム用配光パターン(第二のランプユニット)を重ねた乾燥路面向きの合成配光パターンを形成することによりドライバーが車両前方の路面を確実に視認できる。一方、濡れた路面を走行する際には、各配光パターンをより雨天時に適した形状に切り替えて、対向車ドライバーへのグレア光を低減させたウェット用配光パターンに(第一のランプユニット)、レーンマークから路肩上の歩行者の視認性を向上させる雨天用配光パターン(第二のランプユニット)を重ねて雨天時の路面により適した合成配光パターンを形成することにより、対向車ドライバーと自車ドライバーの視界を確保し、雨天走行時における安全性を更に向上させることが出来る。
【0027】
また、通常のロービーム+ハイビーム用ランプユニットに雨天用のランプユニットの機能を兼用させることで、雨天向きの配光パターンを形成するランプユニットを別途設ける必要が無くなる点でコストダウンと省スペース化を図ることが出来る。
【0028】
請求項5の発明によれば、各光源バルブをランプユニットの側方から挿脱着(横刺し)することでカットオフライン形成用シェードに照射して遮光する影像自体を横長にすることが可能になり、横長の雨天用(ウェット用)配光パターンの形成が容易になり、集光させやすくなるため、強力なハイビーム配光パターンの形成が可能になる。また、ランプの奥行きを短くしてコンパクトにすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の公的な実施形態を説明する。
【0030】
図1〜図12は、本発明の各実施例を示すもので、図1は、実施例1の車両用前照灯1の正面図、図2は、図1における雨天用ランプユニットのI−I断面図、図3は、図1における雨天用ランプユニットのII−II断面図、図4(a)は、雨天用ランプユニットのカットオフライン形成用シェードをリフレクタ方向から見た正面図。図4(b)は、カットオフライン形成用シェードの開口端面を表すIII−III断面図、図5は、雨天用ランプユニットのII−II断面図における光路説明図、図6はハイビーム配光パターンの配光説明図、図7は、雨天用配光パターンの配光説明図、図8は、図1におけるロービーム用ランプユニットのIV−IV断面図による光路説明図、図9は、ロービーム用ランプユニットのカットオフライン形成用シェードをリフレクタ方向から見た正面図。図10は、実施例2における雨天用配光パターンの配光説明図、図11は、車両上方から見た路面へ向けた照射範囲の説明図、図12は、照射範囲下端の路面反射に関する説明図である。
【0031】
図1において、自動車用前照灯1(車両右側用)は、ランプボディ2と透明な前面カバー3によって画成された灯室S内に、2個のランプユニット、即ち雨天用ランプユニット4Aとロービーム用ランプユニット4Bをランプブラケット5に一体化したランプユニット集合体4が収容された構造で、ランプユニット集合体4は、ランプブラケット5とランプボディ2との間に介装されたエイミング機構Eによって、上下左右方向に傾動可能(エイミング調整可能)に支持されている。
【0032】
エイミング機構Eは、ランプボディ2の背面壁に設けた前後挿通孔に回転可能に支承された3本のエイミングスクリュー6a、6b、6cと、各エイミングスクリュー6a、6b、6cに螺合する形態でランプブラケット5に固定されたエイミングナット7a、7b、7cで構成されており、エイミングスクリュー6a,6cの回動操作によって、ランプユニット集合体4(ランプブラケット5)を水平傾動軸(ナット7b、7cを通る軸)Lx,垂直傾動軸(ナット7b、7aを通る軸)Ly回りに傾動調整できる。即ち、エイミングスクリュー6aは、前照灯1の光軸を上下方向に調整する上下エイミングスクリュー,エイミングスクリュー6cは、前照灯1の光軸を左右方向に調整する左右エイミングスクリューとしてそれぞれ機能する。
【0033】
ランプユニット集合体4は、アルミニウムなどの熱伝導率の高い金属製ランプブラケット5の前面側に雨天用ランプユニット4Aとロービーム用ランプユニット4Bが並列に一体化されている。
【0034】
ここで、図2と図3により雨天用ランプユニット4Aの構成を説明すると、雨天用ランプユニット4Aは、主に前面レンズ8,レンズホルダー9、リフレクタ10、光源バルブ11、雨天用配光パターン形成用シェード12、ソレノイド13によって構成されている。
【0035】
レンズホルダー9は、上部(9G)と図示しない左右両端においてランプブラケット5に固定され、前面レンズ8が前部開口部9Aに取り付けられ、リフレクタ10が後部にネジ止め(9B)されている。レンズホルダー9の下部とランプブラケット5との間には、アクチュエータピン13Aを上下動させるソレノイド13が固定されている。また、前面レンズ8の後方において、レンズホルダ9の内側上部、下部及び左右両側には、それぞれグレア光の発生を防止するシェード(9C〜9F)が設けられ、シェード(9C〜9F)の後方におけるリフレクタ10の側方には、取付部10Aが設けられ、光源バルブ11がリフレクタ10の側方から装脱着自在に取り付けられている。
【0036】
アクチュエータピン13Aは、回動軸13Bの周りを回動する回動アーム13Cと連動させ、雨天用配光パターン形成用シェード12は、回動アーム13Cに一体化し、シェード12を配光パターン(ハイビームモードと雨天モード)の切替えに応じて可動させることにより異なる配光パターン(ハイビーム用配光パターンと雨天用配光パターン)を形成する。
【0037】
即ち、ハイビームモードの場合においては、雨天用配光パターン形成用シェード12をアクチュエータピン13Aの上昇に連動させて図2の最下点位置(図2の二点鎖線位置。以降は単に「最下点位置」という。)まで下降させ、リフレクタ10によって前面レンズ8へ反射される反射光に干渉しない位置に退避させ、後述する図6のハイビーム用配光パターンPsaを形成させる。一方、雨天モードにおいては、シェード12をアクチュエータピン13Aの下降に連動させて図2の最上点位置(図2の実線位置。以降は単に「最上点位置」という。)まで上昇させ、前面レンズ8とリフレクタ10との間に前面レンズ8の後端面8Aと平行に配置して反射光に干渉させて、後述する図7(図10)の雨天用配光パターンPscを形成させる。
【0038】
取付部10Aは、光源バルブ11を取り付けたときにバルブの中心軸L2と軸L1が直行し、かつ光源バルブ11が光軸L1の下方に位置するように構成する。光源バルブ11は、例えば光源11Aが中心軸L2に沿って伸張した線光源となるものを使用することにより、光源11Aをシェード12に平行な横長光源とする。リフレクタ10の反射面10Bは、図2の縦断面形状及び図3の横断面形状共それぞれ光源11Aの中心点が第一焦点F1となる略楕円面形状に形成し、反射面10Bによる反射光を前面レンズ8後方の光軸近傍における第二焦点F2(縦断面)と第三焦点F3(横断面)に集光させる。
【0039】
図4(a)により雨天用配光パターン形成用シェード12を説明すると、シェード12は、前面レンズ後端面8Aと対向する面に形成した雨天用配光パターン形成用スリット14によって構成される。スリット14は、自車線側用光透過スリット14Aと対向車線側用光透過スリット14Bから構成される。スリット(14A,14B)は、共有する頂点T1から左右に形成された二つの略直角三角形状に開口することによって眼鏡型の開口スリット14を形成し、頂点T1から左右方向へそれぞれ水平に伸びた底辺(14A1、14B1)と、頂点T1から左右上方へ伸びた斜辺(14A2、14B2)と、前記底辺及び斜辺を繋ぐ対辺(14A3、14B3)によってそれぞれ形成される。尚、シェード12は、図2の最上点位置に配置された際に光軸L1が頂点T1を通過するようにシェード12を配置する。
【0040】
尚、図4(b)に示すように、スリット14の上下開口端部(図示しない左右端部も含む)に対し、反射面10Bから前面レンズ方向に開口が狭くなる傾斜部(14C,14D)を設ければ(例えば傾斜角を45°とする)、開口端部を水平に形成するよりも前面レンズ8方向に反射光を入射させやすくなるため、開口端部で弾かれる光線の有効利用を図ることが出来る。
【0041】
図3及び図5〜図7により雨天用ランプユニット4Aにおける光路と配光パターンを説明すると、第一焦点F1となる光源11Aの中心より出射した光は、リフレクタ10の反射面10Bで前面レンズ方向に反射し、反射光(R1〜R4とR1’〜R4’)は、縦断面において第二焦点F2の近傍に集光し、横断面において第三焦点F3の近傍に集光しつつ前面レンズ8から車両前方へ出射する。ハイビームモードにおいては、前記反射光がシェード12の干渉を受けず、図6の略楕円型のハイビーム用配光Psaを形成する。雨天モードにおいては、R1〜R3、R4〜R2(R1’〜R3’、R4’〜R2’)の範囲の光線が、シェード12によって遮光されるため、スリット14を通過するR3〜R4(R3’〜R4’)の範囲の光線が、図7(図10)に示す眼鏡型の雨天用配光Pscを形成する。尚、光線R3は、光軸L1に略平行である。
【0042】
雨天用配光パターンPscは、自社線側配光パターンPsc1と対向車線側配光パターンPsc5によって構成され、両配光パターン(Psc1、Psc5)の上端水平カットオフライン(Psc2、Psc6)は、スリット14の底辺(14A1、14B1)によって対向車ドライバー及び路肩上の歩行者の目線より低い位置であって、かつWetモード用配光パターンPsd(ロービーム用配光パターンPsb)のカットオフラインPsd1(Psb1)とほぼ同じ高さにそれぞれ形成され、斜めカットオフライン(Psc3、Psc7)は、スリット14の斜辺(14A2、14B2)によって、道路両側のレーンマークにほぼ沿った位置にそれぞれ形成され、上端水平及び斜めカットオフラインを繋ぐ縦方向のカットオフライン(Psc4、Psc8)は、スリット14の対辺(14A3、14B3)によってそれぞれ形成されている(Wetモード用配光パターンPsdは、AFS規格に準ずる配光パターンを利用することが望ましい)。
【0043】
次に、図8によりロービームランプユニット4Bの構成を説明すると、ロービームランプユニット4Bは、主に前面レンズ21,レンズホルダー22、リフレクタ23、光源バルブ24、ソレノイド25及び雨天用下端カットオフライン形成用シェード(ウェット用配光パターン形成用シェード)26によって構成されている。
【0044】
レンズホルダー22は、上部(22E)と図示しない左右両端がランプブラケット5に固定され、前面レンズ21が前部開口部22Aに取り付けられ、リフレクタ23が後部にネジ止め(22B)されている。レンズホルダー22の下部とランプブラケット5との間には、アクチュエータピン25Aを上下動させるソレノイド25が固定されている。また、前面レンズ21の後方において、レンズホルダ22の内側下部には、Wetモード配光(ロービーム配光)の上端カットオフラインを形成する上端カットオフライン形成用シェード22Cが設けられ、内側上部(符号22D)と左右両側(図示せず)には、それぞれグレア光の発生を防止するシェードが設けられている。シェード22Cの後方における、リフレクタ23の側方には、取付部(図示せず)が設けられ、光源バルブ24がリフレクタ23の側方から装脱着自在に取り付けられている。
【0045】
アクチュエータピン25Aは、回動軸25Bの周りを回動する回動アーム25Cと連動させ、回動アーム25Cには、ウェット用配光パターンの下端を形成するウェット用配光パターン形成用シェード26を一体化し、シェード26を配光パターン(ハイビームモードと雨天モード)の切替えに応じて可動させることにより異なる配光パターン(ロービーム配光パターンとWetモード配光パターン)を形成する。
【0046】
即ち、ハイビームモードの場合においては、ウェット用配光パターン形成用シェード26をアクチュエータピン25Aの下降に連動させて図8の最上点位置(図2の二点鎖線位置。以降は単に「最上点位置」という。)まで上昇させ、光源バルブ24から出射した光に干渉しない位置に退避させ、後述する一般的なロービーム用配光パターンPscを形成させる。一方、雨天モードにおいては、シェード26をアクチュエータピン25Aの上昇に連動させて図8の最下点(図8の実線位置。以降は単に「最上点位置」という。)まで下降させ、前面レンズ21とリフレクタ23との間に配置して通過する光束に干渉させて下端カットオフラインを山型に凹ませて、後述するWetモード用配光パターンPsdを形成させる。
【0047】
光源バルブ24は、中心軸に沿って伸張した線光源となるものを使用してその中心軸が光軸L3と直行するように光軸L3の下方に取り付け、取り付け時にシェード22Cと平行な横長光源となるようにする。リフレクタ23の反射面23Bは、図8の縦断面形状及び図示しない横断面形状共にそれぞれ光源の中心点24Aが第一焦点F1’となる略楕円面形状に形成し、反射面23Bによる反射光を前面レンズ21後方の光軸近傍における第二焦点F2’(縦断面)と第三焦点(横断面は図示せず)に集光させる。
【0048】
図9によりウェット用配光パターン形成用シェード26を説明すると、上端カットオフライン形成用シェード22Cは、水平カットオフラインを形成する水平辺22C1と、自車線側歩道へ光を照射する斜めカットオフラインを形成する傾斜辺22C2を有する。一方、雨天用下端カットオフライン形成用シェード26は、下端カットオフラインを形成する山型カットオフライン形成辺26Aを下方に凸型の曲線形状(凸部を26Bとする)に有している。
【0049】
次に図6〜図9により雨天用ランプユニット4Bにおける光路と配光パターンを説明すると、光源24Aの出射光は、リフレクタ23の反射面23Bで前面レンズ21方向に反射し、反射光(R5〜R7)は、第二焦点F2’の近傍に集光しつつ前面レンズ21から車両前方へ出射する。ハイビームモードにおいては、前記反射光がシェード26の干渉を受けず、図6の通常のロービーム配光パターンPsbを形成する。雨天モードにおいては、R6〜R7の範囲の光線がシェード26の凸部26Bによって遮光されるため、シェード22Cと26の間を通過するR5〜R6の範囲の光線が、図6のロービーム配光パターンPsbにおける下端カットオフラインが上方に山型に凹んだ配光パターンであって、車両前方の手前を暗くした図7に示すWetモード用配光パターンPsdを形成する。尚、光線R5は、光軸L3に略平行である。
【0050】
ロービーム配光パターンPsbとWetモード用配光パターンPsdの水平カットオフライン(Psb1,Psd1)は、上端カットオフライン形成用シェード22cの水平辺22C1によって対向車ドライバー及び路肩上の歩行者の目線より低い位置にそれぞれ形成され、斜めカットオフライン(Psb2、Psd2)は、シェード22cの斜辺22C2に対応してそれぞれ形成され、車両前方の手前を暗くする上方に向かって凸型の山型カットオフラインPsd3は、下端カットオフライン形成用シェード26の山型カットオフライン形成辺26Aによって形成されている。
【0051】
ここで、図6及び図7により、ハイビーム用ランプユニットによる用配光パターン(Psa、Psb)と雨天用ランプユニットによる配光パターン(Psc、Psd)全体について説明する。ハイビームモードにおいて、実施例1の雨天用ランプユニット4Aは、路面にほぼ平行な強い光により楕円状のハイビーム配光パターンPsaを形成し、ロービーム用ランプユニット4Bは、拡散光により自車線及び対向車線から路肩上の歩行者に至るまで広域を照明するロービーム用配光パターンPsbを形成する。
【0052】
ハイビームモードから雨天モードに切替えた場合、雨天用ランプユニット4A及びロービーム用ランプユニット4Bの内部でカットオフライン形成用シェード(12,26)の位置が変わり、ハイビーム配光パターンPsaは、路肩上の歩行者(H1、H2)と対向車Tのドライバーの視界に入る上向きの光線とレーンマークから路肩を照射する光線以外の光線が遮光され、下向きかつ眼鏡型の雨天用配光パターンPscに変形する、雨天用配光パターンPscは、車両前方のレーンマーク、路肩及び路肩上の歩行者の照明度を向上させ、視認性を向上させる。このとき、ロービーム配光パターンPsbは、配光の下端カットオフラインが上方に向かって山型に凹む山型カットオフラインPsd3を備えたWetモード用配光パターンPsdに変形して車両前方の路面の照明度を落とし、対向車Tのドライバーにまぶしさを与える反射光を低減する。
【0053】
尚、図10は雨天モードにおける配光パターンの第2実施例を示すものである。実施例2は、雨天モードにおいて、雨天用ランプユニット4Aによって形成される雨天用配光パターンPscをランプユニット4Bによって形成される通常のロービーム用配光パターンPsbに組み合わせた配光にしている。雨天モードにおいては、ランプユニット4Bにより車両前方の手前側で発生する反射光が対向車ドライバーの視界に入ることを考えた場合、車両前方手前側の反射光を低減したWetモード配光パターンPsdとすることが望ましいが、通常のロービーム用配光パターンPsbは、拡散光であって車両手前の路面に照射される光自体あまり強くないため、ランプユニット4Bによる配光は、通常のロービーム用配光パターンPsbとしても差し支えない。
【0054】
また、図11により車両上方から見た雨天モードにおける路面へ向けた前照灯出射光の照射範囲について説明する。S0はセンターライン、S1及びS2は対向車線側及び自車線側の路肩を示す線、右側及び左側雨天用ランプユニットを(4B1,4B2)、各ランプユニットの前方(D1,D2,D3)の距離に存在する自車線側路肩上の歩行者を(H1〜H3)、対向車線側路肩上の歩行者の位置を(H4〜H6)とする。
【0055】
また、図11により車両上方から見た雨天モードにおける路面へ向けた前照灯出射光の照射範囲について説明する。S0はセンターライン、S1及びS2は対向車線側及び自車線側の路肩を示す線、右側及び左側雨天用ランプユニットを(4B1,4B2)、自車線側路肩上の歩行者の位置を(H1〜H3)、対向車線側路肩上の歩行者の位置を(H4〜H6)とする。
【0056】
例えば、ランプユニットの地上高を約0.65mと想定し、路肩上の歩行者の一般的な首の高さを地上高約1.5mと想定した場合、雨天モードにおいて左右の雨天用ランプユニット(4A1,4A2)は、各雨天用ランプユニット位置から路肩上の歩行者(H1〜H6)を結ぶ直線を略10分の3に分割する地点(C11〜C16、C21〜C26)から路肩方向に向かう範囲であって、かつWetモード配光パターンの照射範囲Psd’(図の破線の範囲)の内側の範囲を照射する。そのように照射すると、雨天用ランプユニット(4A1,4A2)による自車線側及び対向車線側の照射範囲は、図11に示すとおり、自車線側では、路肩S2から遠い右側ランプ4A1と路肩S2を略10分の3に分割する地点(C14〜C16を含む)の集合線を手前とし、路肩S2方向に向かってWetモード配光パターンの照射範囲の内側までの範囲Psc1’が、照射範囲であり、対向車線側では、路肩S1から遠い左側ランプ4A2と路肩S1を略10分の3に分割する地点(C21〜C23を含む)の集合線を手前とし、路肩S1方向に向かってWetモード配光パターンの照射範囲の内側までの範囲Psc5’である。
【0057】
このような範囲で雨天用ランプユニット(4A1,4A2)から歩行者に光を照射すると、照射範囲の上端はロービーム用ランプユニット4Bの上端カットオフラインに準じて歩行者のみならず対向車線ドライバーの目線より下になる。その際、図12に示すようにランプからの照射光は、照射範囲の下端が、ランプ(ユニット4A1及び4A2)と歩行者(路肩)との距離を略10分の3(0.65/(0.65+1.5)≒0.3)に分割する地点より路肩側の路面で反射する。この場合ランプ(地上高約0.65mと想定)から照射された光は、路肩上の歩行者の一般的な首の高さとして想定する地上高約1.5mより上方には反射されないため、照射範囲下端の路面反射光が、歩行者の視線に入ってまぶしさを感じさせるグレア光となることなく有効に歩行者の顔から下の範囲を照明する。
尚、上記実施例1,2においては、ランプの地上高を約0.65m、一般的な歩行者の首の地上高を約1.5mと例示して照射範囲を定めているが、路肩とランプの中間点を反射点とした場合には、照射範囲下端の路面反射光は、歩行者に対してランプの高さにしか反射されないように、ランプの地上高と歩行者の目線の高さに応じて、路面上の照射位置(反射点)をランプユニットと路肩との間で前後させれば、想定する歩行者とランプユニットの地上高に応じて路肩上の歩行者及び対向車ドライバーの目線に入るグレア光を発生させることなく、レーンマークから路肩上の歩行者にかけた範囲にスポット光を照射して視認性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1の車両用前照灯1の正面図である。
【図2】図1における雨天用ランプユニットのI−I断面図である。
【図3】図1における雨天用ランプユニットのII−II断面図である。
【図4】(a)雨天用ランプユニットのカットオフライン形成用シェードをリフレクタ方向から見た正面図。(b)カットオフライン形成用シェードの開口端面を表すIII−III断面図である。
【図5】雨天用ランプユニットのII−II断面図による光路説明図である。
【図6】ハイビーム配光パターンの配光説明図である。
【図7】雨天用配光パターンの配光説明図である。
【図8】図1におけるロービーム用ランプユニットのIV−IV断面図による光路説明図である。
【図9】ロービーム用ランプユニットのカットオフライン形成用シェードをリフレクタ方向から見た正面図である。
【図10】実施例2における雨天用配光パターンの配光説明図である。
【図11】車両上方から見た路面へ向けた照射範囲の説明図である。
【図12】ランプ(前照灯)と歩行者を横から見た照射範囲下端の路面反射に関する説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用前照灯
4A 雨天用ランプユニット(第二のランプユニット)
4B ロービーム用ランプユニット(第一のランプユニット)
8 前面レンズ(投射レンズ)
10 リフレクタ
11 光源バルブ
12 雨天用配光パターン形成用シェード
14 雨天用配光パターン形成用スリット
26 ウェット用配光パターン形成用シェード
Psb ロービーム用配光パターン
Psc 雨天用配光パターン
Psd ウェット用配光パターン
F2 前面レンズの後方焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットオフラインを有するロービーム用配光パターンを形成する第一のランプユニットと、投射レンズ、投射レンズの後方焦点近傍に配置したカットオフライン形成シェード、光源バルブ及び前記光源バルブの発光を投射レンズ側に反射するリフレクタを備えた第二のランプユニットが灯室内に収容された自動車用前照灯において、
前記第二のランプユニットは、同ランプユニットと路肩との間から路肩方向への路面を照明し、前記ロービーム用配光パターンよりも内側に雨天用配光パターンを重ねて形成する雨天用ランプユニットであることを特徴とする自動車用前照灯。
【請求項2】
前記雨天用配光パターンは、自車線側を照明する自車線側配光パターンと、対向車線側を照明する対向車線側配光パターンを備えたことを特徴とする請求項1記載の自動車用前照灯。
【請求項3】
前記自車線側配光パターンは、ロービーム用配光パターンの水平カットオフラインとほぼ平行で自車線側に設けられた上端水平カットオフラインと、自車線のレーンマークにほぼ沿って左下がりに傾斜する斜めカットオフラインを有し、前記対向車線側配光パターンは、ロービーム用配光パターンのカットオフラインにほぼ沿った上端水平カットオフラインと、対向車線のレーンマークにほぼ沿って右下がりに傾斜する斜めカットオフラインを有することを特徴とする請求項2記載の自動車用前照灯。
【請求項4】
前記第一のランプユニットは、ロービーム用配光パターンと、ロービーム用配光パターンの下端中央部に暗部を形成したウェット用配光パターンを切替え可能に構成し、
前記第二のランプユニットは、前記雨天用配光パターン形成用シェードを前記投射レンズの後方焦点近傍位置から退避可能な可動型シェードとして構成することにより、雨天走行時には前記ウエット用配光パターンよりも内側に前記雨天用配光パターンを重ねて形成するとともに、投射レンズの後方焦点近傍位置から退避した際には、前記雨天用配光パターンからハイビーム用配光パターンに切替え可能に構成したことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれかに記載の自動車用前照灯。
【請求項5】
前記第一,第二のランプユニットにおける各光源バルブは、各ランプユニットの側方から挿脱着できるように構成したことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれかに記載の自動車用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−146854(P2009−146854A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325707(P2007−325707)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】