説明

車両用前照灯

【課題】 車両用前照灯の防曇膜が膜変形して白濁を生じる問題を解決する。
【解決手段】 本発明の車両用前照灯(1)は、ハウジング(10)と、内表面に合成樹脂を主成分とする防曇膜(24)が形成された合成樹脂製のレンズカバー(20)と、光源(2)と、エクステンション(45)とを備え、前記エクステンション(45)は、前記レンズカバー(20)の上部内表面に沿って配設され、前記光源(2)は、光源(2)よりも上方向に延びる壁面を有する熱硬化性樹脂からなる光源固定板(30)に取り付けられており、前記光源固定板(30)の上端部の近傍に位置する前記エクステンション(45)の裏面にガス吸着剤(50)を配設したものである。これにより、光源(2)が点灯したころにより生じる発熱で生じる脱ガス成分をガス吸着剤(50)が吸着し、防曇膜(24)の白濁を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のレンズカバーを設けた車両用前照灯に関し、特にレンズカバーの内面に防曇膜を形成した車両用前照灯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用前照灯は合成樹脂製のレンズカバーを最外面側に備えたものが主流となっている。また、素通し状のレンズカバーが多く用いられており、このようなレンズカバーにおいて、その内表面の曇りが外観品質上問題となる。
【0003】
そこで、レンズカバーの内表面に防曇膜を形成した車両用灯具が用いられている。この種の防曇膜は、例えば特許文献1に記載したような塗装装置を用いて形成される。図6は特許文献1のハードコート膜および防曇コート膜を同時形成可能な箱型形状治具にレンズをセットした時の断面図である。箱型形状のレンズ受け治具およびマスキング治具を兼用した治具100にレンズカバー110を設置する。治具100の内側に塗装ガン101が配置され、外側に塗装ガン102が配置されている。レンズカバー110の内表面111には内側の塗装ガン101から防曇膜用用材料がスプレー方式にて塗布され、外表面112には外側の塗装ガン102からハードコート用材料がスプレー方式にて塗布する。なお、治具100には符号103で示すマスキング部が設けられており、マスキング部103で覆われた内表面112には防曇膜が塗布されないようになっている。
【特許文献1】特開2003−007105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプレー方式にて塗布形成する防曇膜は、一般的に有機溶剤を溶媒とする樹脂材料溶液を用い、塗布した後に過熱乾燥させて防曇膜を内表面に形成する。
【0005】
しかしながら、防曇膜を設けたレンズカバーを使用した車両用前照灯において、防曇膜を形成した直後においては、高い透明性を維持していたにもかかわらず、試験環境によっては部分的に白濁することがあった。部分的な白濁は外観不良となってしまう。白濁した防曇膜を走査型顕微鏡にて観察すると、防曇膜が部分的に壁状に浮き上っていることが原因と推察された。図5は部分的に白濁したレンズカバーのSEM写真であり、網目状に見える細い線が、防曇膜の表面側に浮き上っている壁状の部分である。浮き上った壁状の部分が凸壁となり乱反射する凹凸表面となり白濁しているものと考えられる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、防曇膜が凹凸化する膜変形の問題を解決した車両用前照灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の車両用前照灯(1)は、照射方向前面が開口したハウジング(10)と、前記開口を覆い内表面には合成樹脂を主成分とする防曇膜(24)が形成された合成樹脂製のレンズカバー(20)と、ハウジング(10)とレンズカバー(20)とで囲まれた空間内に光源(2)およびエクステンション(45)を備え、前記エクステンション(45)は、前記レンズカバー(20)の上部内表面に沿って配設され、前記光源(2)は、光源(2)よりも上方向に延びる壁面を有する熱硬化性樹脂からなる光源固定板(30)に取り付けられており、前記光源固定板(30)の上端部の近傍に位置する前記エクステンション(45)の裏面にガス吸着剤(50)を配設したものである。
【0008】
また、本発明の車両用前照灯(1)は、前記ガス吸着剤(50)がパルチミン酸を吸収するものであることを特徴とすることが好ましい。
【0009】
この発明によれば、ガス吸着剤にてパルチミン酸を含むガス成分を吸着することができ、防曇膜の変形を低減することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明の車両用前照灯(1)は、前記光源固定板(30)がバルクモールディングコンパウンドからなり、光源側表面にアルミニウムを主成分とする反射膜を備え、上端部(32)が前記レンズカバー(20)近傍に位置していることを特徴とすることが好ましい。
【0011】
特にBMCからなる反射鏡を用いた場合に生じる脱ガスの影響を抑制し、車両用灯具の信頼性を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防曇膜の表面が凹凸化する膜変形を抑制し、防曇膜の白濁を低減した車両用前照灯を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る第1の実施の形態の車両用前照灯を示す概略正面図である。
【図2】図2は、図1に示した車両用前照灯の概略側面図である。
【図3】図3は、図1に示した車両用前照灯のA−A線に沿った概略断面図である。
【図4】図4は、検証実験に用いた実験装置の概略を示す斜視図である。
【図5】図5は、変形した防曇膜を顕微鏡にて確認した状態を示す拡大図である。
【図6】図6は、従来の車両用灯具のレンズカバーへの防曇膜形成方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態である車両用前照灯について図1から図4を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の車両用前照灯を示す概略正面図で、図2が側面図、図3が図1のA−A線に沿った概略断面図である。車両用前照灯1は、光源2を内部に収容する合成樹脂製のハウジング10と、その照射方向前方の開口を覆うレンズカバー20とからなる。ハウジング10とレンズカバー20とで囲まれた灯室空間40内には、例えば3つの灯室41,42,43が設けられ、各々の灯室に夫々光源2が設置されている。灯室41は走行配光とすれ違い配光を切換え可能なヘッドランプの機能をなす。灯室42はターンランプ、灯室43はデイタイムランニングランプの機能をなし、夫々の灯室内には複数のプリズムレンズ素子を設けたインナーレンズ34が配設されている。符号45はエクステンションであり、3つの灯室41,42,43の周辺を覆うように囲っている。
【0016】
ハウジング10は、照射方向前方が開口した概略箱形状をなし、凹部11内に灯室41,42,43を収容する。凹部11周囲のハウジング周縁部12に凹溝12aが形成され、当該凹溝12aにレンズカバー20のシール脚23が嵌合して水密的にシールされる
【0017】
レンズカバ−20は、ポリカーボネート等の透光性と衝撃性に優れた樹脂材料により形成される。レンズカバー20は素通し状とされ、一部の内面にはレンズカット27が形成されている。レンズカット27は、各々の灯室41,42,43の照射方向前方の適宜の位置に形成される。本実施の形態では、図1および図2に示すように灯室42から照射された光が所定の配光をなすよう、灯室42の照射方向前方に位置するレンズカバー20内面にプリズム素子を形成している。レンズカバー20の内面には防曇膜24が塗布形成されている。防曇膜24としては、例えば特開2005−146227号、特開2006−28335号、特開2008−150454号、特開2008−184550号などに記載の硬化型防曇膜を用いることができる。本実施形態においてはアクリル系樹脂組成物よりなる防曇剤組成物を溶剤に溶解した状態で塗布し、その後、乾燥硬化させて防曇膜24を形成した。塗布乾燥の方法は特許文献1に記載の方法などの公知の方法により実施した。
【0018】
反射鏡30は、配光規格にあった配光パターンに調整できるようにエーミング機構を介してハウジング10に取付固定されている。反射鏡30はお碗状の凹面とされ、その中央付近には光源固定孔31が形成されている。光源固定孔31より上方は上端縁32が発光部2aより前方に位置するように前方に向かって傾斜して延びる傾斜面とされている。また、反射鏡30は熱硬化性樹脂であるバルクモールディングコンパウンド(以下、BMCと略す)により成形され、前照灯の照射方向前方側、すなわち光源2に対向する側の表面にアルミニウムを主成分とする反射膜を蒸着して反射面を形成している。
【0019】
光源2は、例えばハロゲンランプ、放電灯などからなる光源であり、発光部2aより発光する。光源2は反射鏡の光源固定孔31に嵌合して固定している。発光部2aが半導体発光素子、例えば発光ダイオードからなる光源とすることもできる。本実施の形態では放電灯からなる光源2を灯室41に備えている。
【0020】
シェード35は、灯室41の光源2の前方に位置し、一部が可動可能として反射鏡30に取付固定される。光源2前方に設けたシェード35の一部、例えば図3において光源2の上側に位置する可動シェード35aを固定シェード35bの内側にソレノイド35cにて移動させる。可動シェード35aを移動させる前に当該シェードで遮断されていた部分の光を反射鏡30により反射して照射することで、可動シェード35aにて遮断することで所定の形状の配光パターンを照射するすれ違いビーム用配光から走行ビーム用配光に切り換えることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る実施の形態においては、エクステンション45を反射鏡30の周囲に配設し、エクステンション45の裏面にガス吸着剤50を配置している。ガス吸着剤50は、図1および図3に示すように、光源2を通る垂直線に沿った反射鏡30の上側に位置する光源上方領域46のエクステンション45の背面に設ける。エクステンションの背面に設けることで、車両用灯具1をレンズカバー20を通して観察したときでもガス吸着剤が視認されることがなく、外観の統一性を損なわない。
【0022】
光源上方領域46とは、すれ違いビーム配光用の灯室および/または走行ビーム配光用の灯室の上方であって、すれ違いビーム配光用の灯室および/または走行ビーム配光用の灯室とその上のハウジング周縁部12との間の光源2の垂直線上を含む領域である。すれ違いビーム配光用の灯室と走行ビーム配光用の灯室が別個に設けてある車両用前照灯においては、夫々の灯室の上方に光源上方領域が存在する。図1の実施形態において点線で囲んだ領域は光源上方領域46を示している。また、光源上方領域46においては、エクステンション45と反射鏡30との間に隙間D1が形成されている。隙間D1は、エクステンションとレンズカバー20との間の隙間D2より広く形成している。
【0023】
ガス吸着剤50は、ゼオライト、活性炭などの吸着性を備えた粒子をシート状に成形したものを用いる。例えば、ガス透過性のある2枚のシート間に吸着性を備えた粒子と、吸着性粒子よりも径の小さい熱可塑性樹脂粉末とを挟持して加熱接着することで2枚のシート間に網目状に配列する熱可塑性樹脂状および吸着性粒子を固定したものや、メッシュ状の袋内に吸着性粒子を入れたものなどを用いることができる。シート状としたガス吸着剤50は、光源上方領域46に位置するエクステンション45背面に両面テープなどの接着材にて接着固定される。吸着可能なガス成分としてBMCから脱ガスする成分、特にパルミチン酸を吸着するものを用いる。
【0024】
次に、ガス吸着剤50を設けたときの作用について説明する。
【0025】
図3に光源2が点灯したときに生じる発光部2aの発熱より起こる灯室41内の空気の流れを矢印にて付している。発光部2aが発光したときに、光エネルギーとともに熱エネルギーも発生する。発生した熱エネルギーは灯室41内の空気を暖める。光源2近傍においては、光源2により暖められた空気が上方に向かう対流を生じる。上方に向かう空気の流れは反射鏡30の光源固定孔31と上端縁32との間の壁面に沿って上方に向かう。このとき、光源固定孔31およびその近傍は、光源2の点灯により他の部分よりも加熱される。反射鏡30をなすBMCは加熱により脱ガスが生じる。脱ガスしたガス成分は、前記した対流とともに反射鏡の上端縁32に向かって上昇する。上端縁32に到達した流れは、レンズカバー20、エクステンション45との間の隙間に流入する。最初にエクステンション45と反射鏡30との間に隙間D1に流入する。その後、一部の流れが光源上方領域46におけるエクステンション45の裏面側空間D3に流入する。D3に流入したガスは、ガス吸着剤50にて吸着される。エクステンション裏面側空間D3にてガスが吸着され、また、徐々に温度が下がって下方に向かう空気の流れを生じ、車両用灯具1の下方に向かって流れる。
【0026】
比較のためにガス吸着剤50を設けるか否かの点のみが相違する同一の車両用灯具1を用いて比較実験を行なった。比較実験は、車両用灯具1を恒温槽に入れて加熱した状態で光源2を点灯させて行なった。ガス吸着剤50を設置した本実施の形態の場合においては、図5に示したような網目状の変形が見られなかった。一方、ガス吸着剤50を設けない場合においては、部分的に白濁の発生が観察された。ガス吸着剤50が脱ガス成分を吸着したことで白濁が生じなかったものと考えられる。
【0027】
続いて、防曇膜24が白濁する原因について検討した検証実験について説明する。
【0028】
図4は、検証実験に用いた実験装置の概略構成を示す斜視図である。検証実験は、防曇膜が変形する原因を検討するために実施した。
2個の外径32mmΦ、高さ15mmのフラットシャーレSH(容積約10.5ml)を用意し、夫々のシャーレSH内部にパルチミン酸のアセトン希釈溶液(1mg/ml)を入れ、アセトンを十分に乾燥させた。続いて、ポリカーボネートの平板S1上に防曇膜S2を上記した実施の形態と同一の条件にて塗布形成して試料片を、防曇膜S2を下にして夫々のフラットシャーレSH上に蓋をするように配置した。このとき、一方のフラットシャーレSH中にのみシリカゲルAbsをセットし、他方のシャーレSHにはシリカゲルをセットしなかった。2個のシャーレSHを同時にホットプレートHP上で180℃の加熱を実施した。
【0029】
10分間の加熱にて、シリカゲルAbsを入れない防曇膜S2の白濁化が観察された。シリカゲルAbsを入れたシャーレSH中の防曇膜S2は白濁していなかった。加熱後30分経過した状態においてもシリカゲルAbsを入れたシャーレSH中の防曇膜S2は白濁しなかった。なお、白濁した防曇膜を顕微鏡にて確認したところ、図5に示す網目状をなしており、防曇膜表面が壁状に浮き上って網目模様を形成していた。
【0030】
次にシャーレSH中に最初にセットするパルチミン酸の代わりに他の有機材料をセットして同じ実験を実施した。セットした有機材料は、使用したBMCのMS測定分析(質量分析測定分析)により得られた有機材料を用いて実施した。例えばフタル酸ジアリルではMS測定分析においてパルチミン酸よりも検出強度が高かったが、シリカゲルAbsをセットしないシャーレSHにおける防曇膜S2の白濁はパルチミン酸に比べて小さく、僅かにムラが見られる程度であった。また、その防曇膜S2表面を顕微鏡観察したところ図5のような網目状の変形は見られず、盛り上がった箇所が散在していた。なお、シリカゲルAbsを同時にセットしたシャーレSHの試験片には白濁が生じなかった。
【0031】
以上の検証実験の結果から、防曇膜24の変形の原因は、BMCから放出される脱ガス、特にパルチミン酸が原因と推測される。また、ガス吸着剤50を設けることで、防曇膜24の変形が抑制される。
【0032】
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。例えば、本実施の形態においてお碗形状の反射鏡30の例にて説明したが、複数の平面形状の集合体からなる反射鏡としても良い。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るすれ違いビーム用配光と走行ビーム用配光を単一光源にて切換え可能とした車両用前照灯に限らず、すれ違いビーム用配光と走行ビーム用配光を別個の灯室にて行なう車両用前照灯や、フォグランプなどの熱硬化性の反射鏡を用いた各種製品に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 車両用前照灯
2 光源
10 ハウジング
11 凹部
12 ハウジング周縁部
20 レンズカバー
22 レンズカバー周縁部
23 シール脚
24 防曇膜
27 レンズカット
30 反射鏡
31 光源固定孔
32 上端縁
35 シェード
40 灯室空間
41,42,43 灯室
44 インナーレンズ
45 エクステンション
50 ガス吸着剤
100 治具
101,102 塗装ガン
103 マスキング部
110 レンズカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射方向前面が開口したハウジングと、前記開口を覆い内表面には合成樹脂を主成分とする防曇膜が形成された合成樹脂製のレンズカバーと、ハウジングとレンズカバーとで囲まれた空間内に光源およびエクステンションを備え、
前記エクステンションは、前記レンズカバーの上部内表面に沿って配設され、
前記光源は、光源よりも上方向に延びる壁面を有する熱硬化性樹脂からなる光源固定板に取り付けられており、
前記光源固定板の上端部の近傍に位置する前記エクステンションの裏面には、ガス吸着剤を配設していることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記ガス吸着剤がパルチミン酸を吸収するものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記光源固定板がバルクモールディングコンパウンドからなり、光源側表面にアルミニウムを主成分とする反射膜を備え、上端部が前記レンズカバー近傍に位置していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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