説明

車両用合わせガラス

【課題】 合わせガラスに投射した画像の二重写りを簡単な構造で最小限に抑える。
【解決手段】 ヘッドアップディスプレイを備えた車両のフロントガラス11は、外側ガラス12、中間層13、画像表示層14および内側ガラス15を積層してなり、内側ガラス15と中間層13との間(あるいは外側ガラス12と中間層13との間)に画像表示層14を挟み、外側ガラス12の厚さを内側ガラス15の厚さよりも小さくしたので、画像表示層14から外側ガラス12の外表面までの距離Tを小さくすることができる。よって画像表示層14の画像14aから運転者に向けて直接出た光よりなる実像と、前記画像14aから出て外側ガラス12の外表面で反射された光よりなる反射像とのずれを減少させて、画像の二重写りを最小限に抑えて視認性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に配置されたときに車外側になる外側ガラスと車内側になる内側ガラスとの間に樹脂製の中間層を挟んだ車両用合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車のフロントガラス等に使用される合わせガラスは、車外側に位置する外側ガラスと車内側に位置する内側ガラスとの間に、ポリビニルブチラールや塩化ビニル等の樹脂で構成した中間層を圧着することで、破損時におけるガラスの破片の飛散を防止するようになっている。
【0003】
またフロントガラスに種々の情報を視認可能に表示して運転者に提供する、いわゆるヘッドアップディスプレイが公知である。図5は、かかるヘッドアップディスプレイの一例を示すもので、フロントガラス01の車内側の表面にハーフミラー(コンバイナ)よりなる画像表示部02を設け、ダッシュボードに設けた画像投射器03から投射した画像02aを前記画像表示部02で反射させ、フロントガラス01前方の数メートル先に結像させることで、その画像02aを運転者に視認可能にすることができる。
【0004】
しかしながら、コンバイナは半透明であるため、それをフロントガラスの広い面積に設置すると、フロントガラスを通しての運転者の視界を遮ることになるため、コンバイナの面積を充分に大きく確保できないという問題がある。
【0005】
そこで、フロントガラスの内部に蛍光体粒子を担持した透明な発光層を設置し、それに紫外光を照射して蛍光体粒子を励起して発光させることで、発光層に画像を表示するものが提案されている。しかしながら、発光層上の画像から前方に出た光の一部はフロントガラスの車外側の表面に反射されて運転者の目に届くことになる。そのため、運転者の目には、発光層上の画像から直接出た光よりなる実像と、前記画像から出てフロントガラスの車外側の表面に反射された反射像との両方が、図3に示すように二重になって視認されてしまう。これを防止するには、運転者の視線の方向に対してフロントガラス01を垂直に配置すれば良いが、空力上の理由、あるいはデザイン上の理由でそれは困難である。
【0006】
そこで下記特許文献1に記載されたものは、上側が後方に傾斜したフロントガラスの厚さを、下側ほど薄くなるように変化させることで、発光層上の画像の実像および反射像のずれを最小限に抑えて視認性の向上を図っている。
【特許文献1】特開平2−279437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記特許文献1に記載されたものは、フロントガラスの厚さを、下側ほど薄くなるように変化させる必要があるため、その製造が困難でコストが増加するだけでなく、フロントガラスの下端で必要なガラスの強度を確保しようとすると、フロントガラスの上部でガラスの厚さが極端に厚くなって重量が増加するという問題があった。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、合わせガラスに投射した画像の二重写りを簡単な構造で最小限に抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両に配置されたときに車外側になる外側ガラスと車内側になる内側ガラスとの間に樹脂製の中間層を挟んだ車両用合わせガラスにおいて、前記外側ガラスと前記中間層との間、あるいは前記内側ガラスと前記中間層との間に画像表示層を挟み、前記外側ガラスの厚さを前記内側ガラスの厚さよりも小さくしたことを特徴とする車両用合わせガラスが提案される。
【0010】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、画像表示層を、前記内側ガラスと前記中間層との間に挟んだことを特徴とする車両用合わせガラスが提案される。
【0011】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記画像表示層は、画像投射器から投射された励起光を受けて発光する蛍光体が担持された透明な層であることを特徴とする車両用合わせガラスが提案される。
【0012】
また請求項4に記載された発明によれば、車両に配置されたときに車外側になる外側ガラスと車内側になる内側ガラスとの間に樹脂製の中間層を挟んだ車両用合わせガラスにおいて、前記中間層の一部または全体に、励起光を受けて発光する蛍光体が担持され、前記外側ガラスの厚さを前記内側ガラスの厚さよりも小さくしたことを特徴とする車両用合わせガラスが提案される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、車両用合わせガラスの外側ガラスと中間層との間、あるいは内側ガラスと中間層との間に画像表示層を挟み、外側ガラスの厚さを内側ガラスの厚さよりも小さくしたので、画像表示層から外側ガラスの外表面までの距離が小さくなる。よって画像表示層に表示した画像から直接出た光よりなる実像と、前記画像から出て外側ガラスの外表面で反射された光よりなる反射像とのずれを減少させて、車両用合わせガラスの強度を確保したまま画像の二重写りを最小限に抑えて視認性を高めることができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、内側ガラスと中間層との間に画像表示層を挟んだので、車室内から画像表示層に投射される光や、画像表示層に表示した画像から運転者に向かって出た光が中間層を透過することがなくなり、中間層における減衰を最小限に抑えて鮮明な画像を視認することができる。しかも車外側から入ってくる外光は中間層を透過して減衰した状態で画像表示層に達するので、画像表示層に表示した画像を更に鮮明に視認することができる。更に、車外からの紫外線を中間層で遮って画像表示層に照射されるのを防止するとともに、車内から紫外線を励起光として照射する場合には、その紫外線を中間層で遮って車外に透過するのを防止することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、画像投射器から投射された励起光を受けて発光する蛍光体が担持された透明な層で画像表示層を構成したので、従来のコンバイナ方式に比して画像投射器の構成がシンプルにできるため省スペース化が可能であるばかりか、画像表示層を透明度が低い従来のコンバイナで構成したものに比べて、フロントガラスを通しての前方視界をクリアなものにすることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、車両用合わせガラスの外側ガラスと内側ガラスとの間に挟んだ樹脂製の中間層に励起光を受けて発光する蛍光体を担持し、外側ガラスの厚さを内側ガラスの厚さよりも小さくしたので、中間層から外側ガラスの外表面までの距離が小さくなる。よって励起光により中間層に表示した画像から直接出た光よりなる実像と、前記画像から出て外側ガラスの外表面で反射された光よりなる反射像とのずれを減少させて、車両用合わせガラスの強度を確保したまま画像の二重写りを最小限に抑えて視認性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図3は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1はヘッドアップディスプレイを備えた自動車のフロントガラスの断面図、図2は画像投射器の構成を示すブロック図、図3は二重になった画像を示す図である。
【0019】
図1に示すように、合わせガラスで構成される自動車のフロントガラス11は、車外側から車内側に向けて外側ガラス12と、ポリビニルブチラールや塩化ビニル等の樹脂で構成した中間層13と、ナノ粒子蛍光体を担持した透明膜よりなる画像表示層14と、内側ガラス15とを4層に積層して構成される。外側ガラス12の厚さは例えば1.5mmであり、中間層13の厚さは例えば0.8mmであり、画像表示層14の厚さは例えば100μmであり、内側ガラス15の厚さは例えば2.5mmである。ここで重要なのは、外側ガラス12の厚さが内側ガラス15の厚さよりも小さくなっていることである。
【0020】
中間層13は、フロントガラス11の破損時における外側ガラス12および内側ガラス15の破片の飛散を防止する機能を有する以外に、紫外線を遮断する効果を有する。また画像表示層14は、それに担持されたナノ粒子蛍光体が画像投射器16から投射される紫外光により励起して発光することで、運転者により視認可能な画像を生成する。
【0021】
図2に示すように、画像投射器16は、制御回路21と、紫外光発生手段22と、ガルバノミラー駆動回路23と、ガルバノミラー24とで構成される。制御回路21に接続された紫外光発生手段22がヘッドアップディスプレイに表示すべき所定の画像を生成するための紫外光を送光し、制御回路21に接続されたガルバノミラー駆動回路23により作動するガルバノミラー24が、前記紫外光を反射して上下方向および左右方向に走査する。その結果、紫外光が当たった画像表示層14のナノ粒子蛍光体が励起して発光することで、画像表示層14上に所定の画像を生成する。画像表示層14上に生成した画像は風景に重畳して運転者により目視される。
【0022】
画像表示層14の画像14a(図1参照)から車内側に出た光は、内側ガラス15を透過して運転者の眼に入るが、画像14aから車外側に出た光は、中間層13および外側ガラス12を透過して該外側ガラス12の外表面で反射し、更に外側ガラス12、中間層13および画像表示層14および内側ガラス15を透過して運転者の眼に入る。このとき、画像14aから直接的に運転者の眼に入る光(実線参照)と、外側ガラス12の外表面で反射して間接的に運転者の眼に入る光(破線参照)とがずれるため、図3に示すように運転者には実像と反射像とが一部重なった画像が見えることになる。
【0023】
実像と反射像とのずれ量は、画像表示層14と外側ガラス12の外表面との距離Tに比例するが、本実施の形態では外側ガラス12と内側ガラス15とを合わせた厚さを所定の厚さ以上にし、かつ外側ガラス12を内側ガラス15よりも薄くしたことで、外側ガラス12および内側ガラス15を同じ厚さにする場合に比べて、前記距離Tを小さくして実像と反射像とのずれ量を減少させ、ガラスの強度を確保したまま画像14aの視認性を高めることができる。
【0024】
また中間層13と内側ガラス15との間に画像表示層14を配置したので、画像投射器16から画像表示層14に投射される紫外光や、画像14aから運転者に向けて出た光が中間層13を透過することがなくなり、中間層13における減衰による画像14aの視認性の低下を防止することができ、しかも車外側から入ってくる外光に含まれる紫外線を大幅にカットすることができるため、画像表示層14全体がぼんやりと発光することを防止でき、画像表示層14に表示させた画像を更に鮮明に視認することができる。
【0025】
更に、画像投射器16から投射された紫外光を受けて発光するナノ粒子蛍光体が担持された透明膜で画像表示層14を構成したので、従来のコンバイナ方式に比して画像投射器16の構成がシンプルにできるため省スペース化が可能であるばかりか、画像表示層14を半透明のハーフミラーで構成したものに比べて、フロントガラス11を通しての前方視界をクリアなものにすることができる。
【0026】
更にまた、画像表示層14の外側に配置される中間層13は紫外線を遮断する機能があるため、車外からの紫外線を中間層13で遮断して画像表示層14に達するのを防止することができ、しかも画像投射器16から投射された紫外光を中間層13で遮断して車外に透過するのを防止することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0028】
例えば、実施の形態では中間層13と内側ガラス15との間に画像表示層14を配置しているが、図4の第2の実施の形態に示すように、画像表示層14を中間層13と外側ガラス12との間に配置しても良い。画像表示層14と外側ガラス12の外表面との距離Tを小さくするには、画像表示層14を中間層13と外側ガラス12との間に配置した方が良いが、このようにすると画像14aから後方に向けて出た光が中間層13を透過して運転者の眼に入るため、中間層13での減衰により画像14aの視認性が低下するとともに、励起光に紫外線を用いる場合は画像投射器16から投射された励起光が中間層13で吸収され、表示される画像の輝度が低下することが考えられる。
【0029】
また実施の形態ではナノ粒子蛍光体を担持した透明膜よりなる画像表示層14に紫外光を投射して画像14aを生成しているが、感光性の微細ガラス粒を担持した透明膜よりなる画像表示層14に赤外レーザー光を投射して画像14aを生成しても良い。
【0030】
また実施の形態では画像表示層14に画像を表示しているが、請求項4に記載された発明の如く、画像表示層14を省略し、中間層13にナノ粒子蛍光体を担持して画像を表示しても良い。この場合、外側ガラス12の厚さを内側ガラス15の厚さよりも小さくすることは勿論である。
【0031】
また画像表示層14をハーフミラー(コンバイナ)で構成し、画像投射器16から投射した画像の一部を画像表示層14で運転者側に反射させても良い。この場合、ハーフミラーは半透明であるため、ハーフミラーを通して見る前方の風景がやや不鮮明になる。
【0032】
また実施の形態で示した外側ガラス12、中間層13、画像表示層14および内側ガラス15の厚さは一例であり、それに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】

【図1】第1の実施の形態に係るヘッドアップディスプレイを備えた自動車のフロントガラスの断面図
【図2】画像投射器の構成を示すブロック図
【図3】二重になった画像を示す図
【図4】第2の実施の形態に係る、前記図1に対応する図
【図5】従来例に係る、前記図1に対応する図
【符号の説明】
【0034】
12 外側ガラス
13 中間層
14 画像表示層
15 内側ガラス
16 画像投射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に配置されたときに車外側になる外側ガラス(12)と車内側になる内側ガラス(15)との間に樹脂製の中間層(13)を挟んだ車両用合わせガラスにおいて、
前記外側ガラス(12)と前記中間層(13)との間、あるいは前記内側ガラス(15)と前記中間層(13)との間に画像表示層(14)を挟み、前記外側ガラス(12)の厚さを前記内側ガラス(15)の厚さよりも小さくしたことを特徴とする車両用合わせガラス。
【請求項2】
前記画像表示層(14)を、前記内側ガラス(15)と前記中間層(13)との間に挟んだことを特徴とする、請求項1に記載の車両用合わせガラス。
【請求項3】
前記画像表示層(14)は、画像投射器(16)から投射された励起光を受けて発光する蛍光体が担持された透明な層であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用合わせガラス。
【請求項4】
車両に配置されたときに車外側になる外側ガラス(12)と車内側になる内側ガラス(15)との間に樹脂製の中間層(13)を挟んだ車両用合わせガラスにおいて、
前記中間層(13)の一部または全体に、励起光を受けて発光する蛍光体が担持され、前記外側ガラス(12)の厚さを前記内側ガラス(15)の厚さよりも小さくしたことを特徴とする車両用合わせガラス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−285389(P2008−285389A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134622(P2007−134622)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】