説明

車両用塗装設備

【課題】車両受面上の塗料ミストを低減しつつ、換気エアの滞留ゾーンを小さくできる車両用塗装設備を提供する。
【解決手段】塗装ブース20には、ブース上部に配置された換気ファン21と、換気ファンからの換気エアの圧力を高めるための天井部22と、天井部内に配置された車両50の搬送方向前方且つ上方から換気エアが車両に対して傾斜して流れるように換気エアを整流する複数の整流板40と、天井部の下部に設置され複数の小孔が形成された天井フィルタ23と、搬送中の車両の塗装が行われる塗装室24と車両搬送装置2の下方に形成された格子状の床部25と、床部下方のプレート部26と、プレート部下方に形成されブース内の空気を排気する捕集室27と、車両搬送装置の左右側方において床部に固定された塗装機を備えた複数の塗装ロボットが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブース内を搬送される車両を塗装する車両用塗装設備に関し、特に換気エアを車両に対して車両の搬送方向前方且つ上方から傾斜して供給する車両用塗装設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の塗装ラインでは、電着塗装工程、中塗塗装工程、ベース塗装工程及びクリア塗装工程の作業エリアが車両搬送装置の搬送方向に沿って直列状に配置され、各塗装工程の作業エリアの周囲には工程毎の作業を行うために複数種類の塗装ブースが設けられている。塗装ブース内の車両は、所定の速度により順次搬送されつつ複数層の塗膜の重ね塗りが行われている。
【0003】
作業環境及び安全性の観点から、塗装ブース内では内部の換気が法規制により義務付けられている。塗装ブース内の換気エアは、一般に塗装ブースの天井部から塗装室に供給され塗装ブースの床部から吸引排気されるため、塗装ブース内を上方から下方へ流れる。この換気エアの速度分布が不均一な場合、塗装ブース内の気流が停滞する領域(滞留ゾーン)が生じ、塗装ブース内に浮遊する微小な塗料粒子(滞留塗料ミスト)が発生する。この滞留塗料ミストは、作業対象車両の次に搬送される車両へ付着する色移りや塗装ブース内の壁面等へ付着して、塗装品質の低下や塗装効率の低下を招いていた。
【0004】
特許文献1に記載された塗装ブースは、換気エアを塗装ブースの上方から下方へ流れるように供給する天井吹出口と、換気エアを吸引して排気可能な格子床とを備え、天井吹出口を搬送装置により搬送される車両に対して対向する中央口と、この中央口の両側に隣接し車両の不存在位置に対向する側部口とに区分し、中央口からの換気エアの吹出風速を側部口からの換気エアの吹出風速より小さい値に設定している。これにより、中央口からの換気エアが車両の両側面に集中することに起因した車両の両側面近傍における風速の高速化を防止し、高速気流によって運び去られる塗料ミストの低減を図っている。
【0005】
車両のボンネットやルーフ等の受面では、車両受面が換気エアの進行を阻害するため、換気エアの風速が低下し塗料ミストが増加する。それ故、換気エアの風速を高めるため、換気エアを車両に対して傾斜して流れるように供給することも行われている。特許文献2に記載された塗装ブースは、搬入された車両の部分塗装を行う簡易タイプの塗装ブースであって、塗装ブースの天井部に給気ファンを設け、車両の後方且つ上方から下方へ傾斜するように換気エアを供給している。これにより、車両受面上における換気エアの風速を増すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−154677号公報
【特許文献1】特開2002−336749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1の塗装ブースでは、中央口からの換気エアの吹出風速を側部口からの換気エアの吹出風速より小さくしているため、ボンネットやルーフ等の車両受面における換気エアの風速の低下を招き、車両受面上に発生する塗料ミストが増加する虞がある。それ故、車両の両側面において高速気流により運び去られる塗料ミストを低減できても、車両受面上に発生する塗料ミストが増加するため、塗装ブース全体として塗料ミストを低減することができない。
【0008】
前記特許文献2の塗装ブースでは、車両受面における換気エアの風速を高くするため、車両に対して換気エアを傾斜させずに供給する場合に比べて車両受面における塗料ミストを除去することができる。この塗料ミストの除去効率は、上下方向に対する換気エアの傾斜角度が大きい程除去効率が高くなる。しかし、換気エアを車両に対して傾斜して供給する場合、図7に示すように、塗装ブース100の前後方向境界領域、所謂換気エアAの前側上方空間と後側下方空間に塗装作業を行うことのできない風速が極端に小さな滞留ゾーン101,102が形成され、塗装ブースの大型化やこれに伴う作業効率の低下を招く虞が有る。しかも、特許文献2のように車両の後方且つ上方から下方へ傾斜するように換気エアを供給する塗装ブース内において、搬送装置により搬送される車両を塗装する場合、塗装ブース内に形成される滞留ゾーンの拡大が懸念される。つまり、塗料ミスト除去に適した所定傾斜角度(例えば45度)の換気エアを車両に供給するため、車両の搬送速度を考慮して換気エアを前記塗料ミスト除去に適した所定傾斜角度よりも大きな傾斜角度(例えば50度)に設定する必要が生じ、滞留ゾーンが増加する虞がある。
【0009】
本発明の目的は、車両受面上の塗料ミストを低減しつつ、換気エアの滞留ゾーンを小さくできる車両用塗装設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の車両用塗装設備は、車両搬送装置の周りに車両の搬送方向に沿って塗装ブースを設け、この塗装ブース内を搬送される車両に塗装する車両用塗装設備において、前記塗装ブース内にその天井部から換気エアを供給するエア供給手段と、前記塗装ブースの床部から塗装ブース内の空気を排気する排気手段と、車両の搬送方向前方且つ上方から前記換気エアが車両に対して傾斜して流れるように換気エアを案内するエア案内手段とを備えたことを特徴としている。
【0011】
この車両用塗装設備では、塗装ブース内にその天井部から換気エアを供給するエア供給手段と、塗装ブースの床部から塗装ブース内の空気を排気する排気手段とを備えたため、換気エアの流れ方向を調節することができ、塗装ブース内の気流により塗料ミストを強制的に搬送することができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記エア案内手段は、前記塗装ブースの天井部に設けられ換気エアを前記傾斜方向へ整流する整流板を備えていることを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、複数種類の塗装を行う塗装ブースを車両の搬送方向に沿って複数設け、これらの塗装ブース内を順次搬送される車両に塗装することを特徴としている。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記エア供給手段とエア案内手段とが装備されたベース塗装用塗装ブースと、このベース塗装用塗装ブースの下流に連続して設けられ且つ前記エア供給手段が装備されたクリア塗装用塗装ブースを有し、前記ベース塗装用塗装ブースの換気エアの圧力を前記クリア塗装用塗装ブースの換気エアの圧力よりも大きく設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、車両の搬送方向前方且つ上方から前記換気エアが車両に対して傾斜して流れるように換気エアを案内するエア案内手段を備えたため、ボンネットやルーフ等の車両受面における換気エアの風速低下を防止でき、換気エアにより塗料ミストを強制的に除去することができ、その結果、塗装品質低下や塗装効率低下を防止することができる。しかも、換気エアが車両の搬送方向前方且つ上方から傾斜して流れるため、車両の搬送速度を利用して換気エアを塗料ミスト除去に適した傾斜角度よりも小さな傾斜角度で供給しても大きな傾斜角度の換気エアを供給したときと同等の除去効果を得ることができ、その結果、塗装ブース内の滞留ゾーンを小さくすることができ、塗装ブースの大型化やこれに伴う作業効率の低下を防止することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、エア案内手段を簡単化でき、換気エアを車両に対して搬送方向前方且つ上方から傾斜して流れるように整流することができる。
請求項3の発明によれば、複数種類の塗装を行う塗装ブースを車両の搬送方向に沿って複数設けても、塗装ブースの境界領域に形成される滞留ゾーンを小さくでき、車両用塗装設備を小型化することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、クリア塗装用塗装ブース内の換気エアへの影響を抑えつつベース塗装用塗装ブース内の塗料ミストの低減と滞留ゾーンの小型化とを両立することができ、車両に対するベース塗装の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の塗装設備の全体図である。
【図2】ベース塗装用塗装ブースの側面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】各塗装ブース内の気流を示す図である。
【図5】車両に対して換気エアを垂直に供給した場合の風速分布を示す図である。
【図6】車両に対して搬送方向前方且つ上方から換気エアを供給した場合の風速分布を示す図である。
【図7】換気エアを傾斜して供給した場合の塗装ブースの気流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、車両の搬送方向を前方、車両の搬送方向と反対側を後方とし、車両の搬送方向に対する左右方向を左右方向として説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例について図1〜図6に基づいて説明する。
本塗装設備1では、車両搬送装置2により車両50を搬送しつつ、前工程で電着塗膜が形成された車両50に対して、中塗塗装、ベース塗装及びクリア塗装を施し、車両50のボディ表面に3コート系の塗膜層を形成している。
【0020】
図1に示すように、塗装設備1は、車両搬送装置2の周りに車両50の搬送方向に沿って中塗用塗装ブース10と、中塗用塗装ブース10の前方(下流)に連続して配置されたベース塗装用塗装ブース20と、ベース塗装用塗装ブース20の前方(下流)に連続して配置されたクリア塗装用塗装ブース30等により塗装ラインを形成している。車両搬送装置2は、塗装対象としての車両50を1台づつ所定の間隔をあけて載置可能なコンベアを有し、このコンベアが各車両50を一定の搬送速度で各ブース内を矢印方向へ移送するよう構成されている。
【0021】
塗装ブース10では、電着塗装工程を完了し且つ車両搬送装置2により搬入された車両50に対して中塗塗料を塗布する中塗塗装を行っている。塗装ブース10における塗装方法は、特に制限されず、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が適用でき、ベル塗装機を用いた静電塗装法を採用することも可能である。
【0022】
塗装ブース10には、ブース上部に配置された換気ファン11と、換気ファン11からの換気エアの圧力を高めるための天井部12と、天井部12の下部に設置され複数の小孔が形成された天井フィルタ13と、搬送中の車両50の塗装が行われる塗装室14と車両搬送装置2の下方に形成された格子状の床部15と、床部15下方のプレート部16と、プレート部16下方に形成されブース内の空気を排気する捕集室17と、床部15に固定され塗装機を備えた複数の塗装ロボット(図示略)等が設けられている。
【0023】
換気ファン11は、送気ファンを有し、複数のダクトを介して換気エアを天井部12へ供給している。天井部12は、換気エアを膨張させて風速を低下させ、天井部12内の換気エア圧力を高くしている。天井フィルタ13は、高圧にされた換気エアを小孔から下方に吹出すよう構成されている。これにより、天井部12から下方へ吹出された換気エアは、塗装室14内の塗料ミストや揮発性有機化合物等を回収しつつ塗装室14内を上方から下方へ略垂直方向に流れる。
【0024】
プレート部16は、左右側端部に1対の給水溝(図示略)を有し、循環水を後方から前方へ常時流すよう構成されている。プレート部16の左右方向中央部分には、車両搬送装置2に沿ってプレート部16の上下空間を連通するセパレータ(図示略)が形成されている。捕集室17内には、循環水が後方から前方へ常時流れている。これにより、床部15を通過した塗料ミスト等を含む換気エアは、セパレータに強制的に接触しながら捕集室17へ移動する。捕集室17は捕集室27に連通され、塗料ミスト等が分離された換気エアは捕集室17を通り前方の捕集室27へ移動する。セパレータに付着した塗料ミスト等は、給水溝からの循環水により回収され捕集室17を通り前方の捕集室27へ移動する。
【0025】
塗装ブース20では、中塗工程を完了し且つ車両搬送装置2により搬入された車両50に対してベース塗料を塗布するベース塗装を行っている。塗装ブース20における塗装方法は、特に制限されず、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が適用でき、ベル塗装機を用いた静電塗装法を採用することも可能である。ベース塗料には、樹脂成分と、硬化剤と、顔料等が含有され、顔料には、例えば着色顔料、アルミニウム粉、パールマイカ等が単独または2種以上が併用されている。
【0026】
図1〜図3に示すように、塗装ブース20には、ブース上部に配置された換気ファン21と、換気ファン21からの換気エアの圧力を高めるための天井部22と、天井部22内に配置され車両50の搬送方向前方且つ上方から換気エアが車両50に対して傾斜して流れるように換気エアを整流する複数の整流板40と、天井部22の下部に設置され複数の小孔が形成された天井フィルタ23と、搬送中の車両50の塗装が行われる塗装室24と車両搬送装置2の下方に形成された格子状の床部25と、床部25下方のプレート部26と、プレート部26下方に形成されブース内の空気を排気する捕集室27と、車両搬送装置2の左右側方において床部25に固定され塗装機を備えた複数の塗装ロボット3等が設けられている。
【0027】
換気ファン21は、送気ファンを有し、複数のダクト29を介して換気エアを天井部22へ供給している。複数のダクト29には、夫々、開閉可能な風量調整ダンパ21aが設けられる。この風量調整ダンパ21aは、天井部22内の換気エア圧力を天井部12及び天井部32内の換気エア圧力より大きくなるよう天井部22へ供給する風量を調整している。
【0028】
天井部22は、換気エアを膨張させて流速を低下させ、天井部22内の換気エア圧力を高くしている。天井部22は、天井部12と仕切り壁22aにより前後に仕切られ、天井部32と仕切り壁22bにより前後に仕切られている。これにより、各天井部12,22,32間における換気エアの混合を防止でき、天井部22内の換気エア圧力を天井部12及び天井部32内の換気エア圧力より大きくなるよう設定している。
【0029】
天井部22には、搬送中の車両50の上方に対応した中央部28aと、この中央部28aの左右に隣接した左右側部28bと、中央部28aと左右側部28bとを仕切る1対の仕切り壁22cが設けられている。前記複数のダクト29は中央部28a及び左右側部28bに接続されている。これにより、中央部28aと左右側部28bとの間における換気エアの混合を防止でき、中央部28aの換気エア圧力を左右側部28bの換気エア圧力より大きくなるよう設定している。
【0030】
複数の整流板40は、中央部28a及び左右側部28bに対応して前後方向に各1列、計3列になるよう配置されている。上下方向に対する各整流板40の傾斜角度θは、次式(1)により設定している。
θ=θ−α …(1)
θは停止車両の受面(ボンネットやルーフ等)の塗料ミスト除去に適した換気エアの傾斜角度、αは車両搬送装置2の車両搬送速度に基づく車両50側から見た補正角度である。θは実験により予め求めることができ、αは換気エアの速度ベクトルと、この速度ベクトルと車両搬送速度ベクトルとの合成ベクトルとが形成する角度として算出することができる。
【0031】
天井フィルタ23は、天井部22内で高圧にされ且つ整流板40により車両50の搬送方向前方且つ上方から車両50へ傾斜角度θで流れるように整流された換気エアを小孔から吹出すよう構成されている。これにより、図4に示すように、車両50に対して傾斜角度θ(例えば45度)で換気エアを吹付ける場合、車両50は所定の車両搬送速度で前方に搬送されているため、整流板40を傾斜角度θ(例えば40度)に設置することができる。それ故、塗装ブース30に隣接した前側下方空間に形成された塗装作業を行うことのできない風速が極端に小さな滞留ゾーンZ1と、塗装ブース10に隣接した後側上方空間に形成された塗装作業を行うことのできない風速が極端に小さな滞留ゾーンZ2とを小型化でき、塗装ブース10と塗装ブース30との換気エアの気流を阻害しない。
【0032】
図3に示すように、中央部28aから吹出された換気エアの中央部初期風速V1と左右側部28bから吹出された換気エアの側部初期風速V2とは、風速V1が風速V2よりも大きく且つ車両50周りの風速が予め設定された設備への塗料付着防止のための設備周り風速よりも大きくなるように設定されている。これにより、天井部22から傾斜角度θで下方へ吹出された換気エアは、車両受面上に滞留する塗料ミストや滞留ゾーンZ1,Z2に浮遊する塗料ミスト等を回収しつつ塗装室24内を斜め下方方向に流れる。
【0033】
プレート部26は、左右側端部に1対の給水溝(図示略)を有し、循環水を後方から前方へ常時流すよう構成されている。プレート部26の左右方向中央部分には、車両搬送装置2に沿ってプレート部16の上下空間を連通するセパレータ26aが形成されている。捕集室27内には、循環水が後方から前方へ常時流れている。これにより、床部25を通過した塗料ミスト等を含む換気エアは、セパレータ26aに強制的に接触しながら捕集室27へ移動する。捕集室27は捕集室37に連通され、塗料ミスト等が分離された換気エアは捕集室27を通り前方の捕集室37へ移動する。セパレータに付着した塗料ミスト等は、給水溝からの循環水により回収され捕集室27を通り前方の捕集室37へ移動する。
【0034】
塗装ブース30には、塗装ブース10と同様に、ブース上部に配置された換気ファン31と、換気ファン31からの換気エアの圧力を高めるための天井部32と、天井部32の下部に設置され複数の小孔が形成された天井フィルタ33と、搬送中の車両50の塗装が行われる塗装室34と車両搬送装置2の下方に形成された格子状の床部35と、床部35下方のプレート部36と、プレート部36下方に形成されブース内の空気を排気する捕集室37と、床部35に固定され塗装機を備えた複数の塗装ロボット(図示略)等が設けられている。
【0035】
換気ファン31は、送気ファンを有し、複数のダクトを介して換気エアを天井部32へ供給している。天井部32は、換気エアを膨張させて流速を低下させ、天井部32内の換気エア圧力を高くしている。天井フィルタ33は、高圧にされた換気エアを小孔から下方に吹出すよう構成されている。これにより、天井部32から下方へ吹出された換気エアは、塗装室34内の塗料ミスト等を回収しながら塗装室34内を上方から下方へ略垂直方向に流れる。
【0036】
プレート部36は、左右側端部に1対の給水溝(図示略)を有し、循環水を後方から前方へ常時流すよう構成されている。プレート部36の左右方向中央部分には、車両搬送装置2に沿ってプレート部36の上下空間を連通するセパレータ(図示略)が形成されている。捕集室37内には、循環水が後方から前方へ常時流れている。これにより、床部35を通過した塗料ミスト等を含む換気エアは、セパレータに強制的に接触しながら捕集室37へ移動し排気される。捕集室37は排気ファンを備えた排気装置4(排気手段)に連結され、塗料ミスト等が分離された換気エアは捕集室37を通り前方の排気装置4へ移動する。セパレータに付着した塗料ミスト等は、給水溝からの循環水により回収され捕集室37を通り前方の後処理工程へ移動する。
【0037】
以上により、車両50の中塗塗膜の表面にベース塗膜及びクリア塗膜が積層された積層塗膜を形成することができる。クリア塗装工程後、車両50は乾燥炉(図示略)に搬送され公知の乾燥処理が施され、最終検査工程に搬送される。
【0038】
次に、図5,図6に基づき、本実施例に係る塗装設備1のシミュレーション結果を説明する。尚、図中、各線分はブース20内の換気エアの速度ベクトルを示している。
図5に示すように、車両50に対して換気エアを上方から下方へ垂直に供給した場合、ボンネット及びルーフ(車両受面)上の速度ベクトルの線分は短く、受面上の換気エアの速度成分は小さい。風速の演算結果は、受面平均風速が0.18m/s、車両側面平均風速が0.47m/s、S/N比が5.23であった。これから、車両受面と車両側面とに速度分布のばらつきが存在し、車両受面に塗料ミストが滞留し易いことが分かる。
【0039】
図6に示すように、車両50に対して換気エアを搬送方向前方且つ上方から傾斜角度45度で流れるように供給した場合、ボンネット及びルーフ上の速度ベクトルは図5に示す速度ベクトルに比べて長く、受面上の換気エアの速度成分は大きい。風速の演算結果は、受面平均風速が0.20m/s、車両側面平均風速が0.38m/s、S/N比が6.82となった。これから、換気エアを搬送方向前方且つ上方から傾斜角度45度で流れるように供給したときは、換気エアを上方から下方へ垂直に供給したときと比べて1.59の利得を得ることができ、速度分布のばらつきを解消でき、車両受面上に存在する塗料ミストを除去することができる。
【0040】
次に、本塗装設備1の作用・効果について説明する。
この車両用塗装設備1は、車両搬送装置2の周りに車両50の搬送方向に沿って塗装ブース20を設け、この塗装ブース20内を搬送される車両50に塗装する車両用塗装設備1において、塗装ブース20内にその天井部22から換気エアを供給する換気ファン21と、塗装ブース20の床部25から塗装ブース内の空気を排気する排気装置4と、車両50の搬送方向前方且つ上方から換気エアが車両に対して傾斜して流れるように換気エアを案内するエア案内手段(整流板40)とを備えている。
【0041】
この車両用塗装設備1によれば、車両50の搬送方向前方且つ上方から換気エアが車両50に対して傾斜して流れるように換気エアを案内するエア案内手段40を備えたため、ボンネットやルーフ等の車両50の受面における換気エアの流速低下を防止でき、換気エアにより塗料ミストを強制的に除去することができ、その結果、次に搬送されている車両50への色移りや塗料の設備壁面への付着を防止でき、塗装品質低下や塗装効率低下を防止することができる。しかも、換気エアが車両50の搬送方向前方且つ上方から傾斜して流れるため、換気エアを車両50の搬送速度を利用して塗料ミスト除去に適した傾斜角度よりも小さな傾斜角度で同等の除去効果を得ることができ、塗装ブース20内の滞留ゾーンZ1,Z2を小さくすることができ、その結果、塗装ブース20の大型化やこれに伴う作業効率の低下を防止することができる。
【0042】
前記エア案内手段は、塗装ブース20の天井部22に設けられ換気エアを前記傾斜方向へ整流する整流板40を備えているため、エア案内手段を構造的に簡単化でき、整流板40により換気エアを車両50に対して搬送方向前方且つ上方から所望の角度に傾斜して流れるように整流することができる。
複数種類の塗装を行う塗装ブース10,20,30を車両50の搬送方向に沿って複数設け、これらの塗装ブース10,20,30内を順次搬送される車両50に塗装するため、複数種類の塗装を行う塗装ブース10,20,30を車両50の搬送方向に沿って複数設けても、塗装ブース10と塗装ブース30との換気エアの気流を阻害することなく、塗装ブース20の前後境界領域に形成され塗装作業を行うことのできない風速が極端に小さな滞留ゾーンZ1,Z2を小さくでき、車両用塗装設備1を小型化することができる。
【0043】
換気ファン21と整流板40とが装備された塗装ブース20と、この塗装ブース20の下流に連続して設けられ且つ換気ファン31が装備された塗装ブース30を有し、塗装ブース20の換気エアの圧力を塗装ブース30の換気エアの圧力よりも大きく設定したため、塗装ブース30内の換気エアへの影響を抑えつつ顔料等を含有する塗料を用いた場合でも塗装ブース20内の塗料ミストの低減と滞留ゾーンZ1の小型化とを両立することができ、車両に対するベース塗装の品質向上を図ることができる。
【0044】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、中塗塗装用塗装ブースとベース塗装用塗装ブースとクリア塗装用塗装ブースとが直列状に連続して設けられた例を説明したが、少なくとも、車両の搬送方向前方且つ上方から換気エアを傾斜して供給可能な塗装ブースであれば良く、ベース塗装用塗装ブース単独の塗装設備に適用できる。また、ベース塗装用塗装ブースとクリア塗装用塗装ブースを備えた塗装設備や、中塗塗装用塗装ブースとベース塗装用塗装ブースを備えた塗装設備とすることも可能である。
【0045】
2〕前記実施例においては、天井部内に整流板を配置した例を説明したが、天井フィルタに車両の搬送方向前方且つ上方から換気エアが車両に対して傾斜して流れるように換気エアを案内するエア案内機能を持たせることも可能である。また、エア案内手段として、天井部内に送気ファンを設け、送風方向を前記のように設定することも可能である。
【0046】
3〕前記実施例においては、整流板の傾斜角度を固定した例を説明したが、車両の搬送速度に比例して垂直方向に対する傾斜角度を小さく調節する可動式整流板を適用することも可能である。
【0047】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、塗装ブース内を搬送される車両を塗装する車両用塗装設備において、換気エアを車両に対して車両の搬送方向前方且つ上方から傾斜して供給することにより、車両受面上の塗料ミストを低減しつつ換気エアの滞留ゾーンを小さくできる。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用塗装設備
2 車両搬送装置
4 排気装置
10 中塗塗装用塗装ブース
20 ベース塗装用塗装ブース
21 換気ファン
22 天井部
25 床部
30 クリア塗装用塗装ブース
31 換気ファン
40 整流板
50 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両搬送装置の周りに車両の搬送方向に沿って塗装ブースを設け、この塗装ブース内を搬送される車両に塗装する車両用塗装設備において、
前記塗装ブース内にその天井部から換気エアを供給するエア供給手段と、
前記塗装ブースの床部から塗装ブース内の空気を排気する排気手段と、
車両の搬送方向前方且つ上方から前記換気エアが車両に対して傾斜して流れるように換気エアを案内するエア案内手段とを備えたことを特徴とする車両用塗装設備。
【請求項2】
前記エア案内手段は、前記塗装ブースの天井部に設けられ換気エアを前記傾斜方向へ整流する整流板を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両用塗装設備。
【請求項3】
複数種類の塗装を行う塗装ブースを車両の搬送方向に沿って複数設け、これらの塗装ブース内を順次搬送される車両に塗装することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用塗装設備。
【請求項4】
前記エア供給手段とエア案内手段とが装備されたベース塗装用塗装ブースと、
このベース塗装用塗装ブースの下流に連続して設けられ且つ前記エア供給手段が装備されたクリア塗装用塗装ブースを有し、
前記ベース塗装用塗装ブースの換気エアの圧力を前記クリア塗装用塗装ブースの換気エアの圧力よりも大きく設定したことを特徴とする請求項3に記載の車両用塗装設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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