説明

車両用挙動データ記録装置

【課題】一連の車両の挙動に関連する挙動データと、それ以外の独立した挙動データとを容易に区分けすることが可能な車両用挙動データ記録装置を提供すること。
【解決手段】車両の異常な挙動が複数回発生した場合、各々の挙動データが、相互に密接に関連する一連の挙動データであるか、それとも、関連性のない独立した挙動データであるかを判別する。一連の挙動データである場合、その一連の挙動データを、予め定められた記録順序に従って各制御ユニットECU1〜7が自身のメモリに記録する。一方、挙動データが、独立した挙動データである場合には、記録順序が最先の制御ユニットECU1が、その挙動データを自身のメモリに上書き記録する。この際、記録順序が最先の制御ユニットECU1は、その他の制御ユニットECU2〜7に対し、それぞれのメモリに記録されている過去の挙動データを全て消去するよう指示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の異常な挙動に関連する挙動データを記録する車両用挙動データ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、挙動急変などの緊急時前後の車両情報を記録するようにした車両用データ記録装置が記載されている。この車両用データ記録装置では、車両データを記録する書き換え可能な複数の記録ブロックで構成される車両データ記録領域や、事故に至らない異常発進や急減速動作等の車両の挙動急変の発生を検出する挙動急変発生検出手段などを備えている。
【0003】
そして、車両データ記録領域において、車両データを記録する記録ブロックを選択して車両データを順次記録しつつ、車両に挙動急変等の要検証状況が発生したことが検出されたときに、別の記録ブロックを選択して、車両データの記録を開始させる。このとき、挙動急変等が検出されたときから所定時間後に、その検出以前から車両データを記録している記録ブロックへの記録を停止させる。このようにして、車両に挙動急変等の要検証状況が連続して発生した場合にも、車両データを的確に保存できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−312553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した車両用データ記録装置では、単に挙動急変が生じたことのみを条件として、その挙動急変時の車両データを1つの記録ブロックに保存するとともに、車両データの記録先を別の記録ブロックに変更する。このような記録ブロックの変更により、すべての記憶ブロックに車両データが保存されると、さらに車両データを記録する必要が生じた場合に、車両データが、例えば最も古くに車両データを記憶した記憶ブロックに上書きされる。
【0006】
ここで、例えば運転者によるブレーキペダルとアプセルペダルの踏み間違いにより車両に急加速が発生した状況の一例について考察する。この場合、運転者は、ブレーキペダルを踏んでいるつもりなのに、車両が急加速するためパニック状態となり、アクセルペダルの踏み増しや、踏み直しを繰り返してしまう可能性がありえる。踏み増しを行ったときには、さらに車両が加速し、踏み直しを行ったときには、ペダルを離したタイミングで車両が急減速し、ペダルを再度踏み込んだタイミングで車両が急加速する。
【0007】
事後に、このような状況が発生した原因の解析を正しく行うためには、最初の急加速が発生したときの車両データから、その後に、車両の異常な挙動が生じた際の車両データまでの一連のデータを時系列的に取得できることが好ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1の車両用データ記録装置では、上述したように、挙動急変が生じたことのみを条件として、車両データの記録先を別の記録ブロックに変更するため、上述した一連の車両データと、その一連の車両データとは関連のない独立した車両データとが混在して保存されてしまうおそれがある。このように、一連の車両データと、独立した車両データとがともに車両データ記憶領域に保存されていると、車両の挙動が急変した真因を究明することが困難になる。
【0009】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、一連の車両の挙動に関連する挙動データと、それ以外の独立した挙動データとを容易に区分けすることが可能な車両用挙動データ記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の車両用挙動データ記録装置は、
車両の挙動に関連する挙動データを出力する挙動データ出力手段と、
挙動データを記録する記録手段と、
挙動データ出力手段によって出力された挙動データに基づいて、車両の挙動が異常であるか否かを判定する異常判定手段と、
異常判定手段によって異常であると判定されたときの挙動データを、記録手段に記録させる記録制御手段と、を備えた車両用挙動データ記録装置であって、
記録手段は、挙動データを複数回分記録できる記録領域を有し、その挙動データを複数回分記録できる記録領域に対し、挙動データの記録順序が予め定められており、
記録制御手段は、異常判定手段によって異常と判定された車両の挙動の発生間隔が所定時間以内である場合に、異常な車両挙動に関連するそれぞれの挙動データを記録順序に従って異なる記録領域に記録させ、所定時間を越える場合には、新たな挙動データを、記録順序が最先である記録領域に上書き記録させるとともに、記録順序が最先の記録領域以外の記録領域に記録されている過去の挙動データを全て消去させることを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の車両用挙動データ記録装置は、所定時間以内に連続して異常な車両挙動が発生した場合には、各々の挙動データが、相互に密接に関連する一連の挙動データであるとみなす。そして、このような一連の挙動データであるとみなされた場合、記録制御手段が、一連の挙動データを、記録順序に従って異なる記録領域に記録させる。一方、異常な車両挙動の発生間隔が所定時間を越える場合には、新たに発生した異常な車両挙動に関連する挙動データは、独立した挙動データとみなす。この独立した挙動データは、記録順序が最先の記録領域に上書き記録される。この際、記録順序が最先の記録領域以外の記録領域に記録されている過去の挙動データを全て消去させる。
【0012】
従って、請求項1の車両用挙動データ記録装置においては、記録手段には、一連の挙動データか、独立した挙動データのいずれかしか記録されない。従って、記録された挙動データが、一連の挙動データであるか、独立した挙動データであるかを明確に区別することができる。そして、一連の挙動データの場合、その一連の挙動データは、予め定められた記録順序に従って異なる記録領域に記録されているので、容易に時系列的に取得することができる。
【0013】
なお、車両の異常な挙動は発生したが、その挙動データが解析に供されることなく、その後、車両が使用され、新たな異常挙動が発生した場合には、過去の挙動データは不要となり、新たな挙動データを優先的に記録すべきである。従って、請求項1の車両用挙動データ記録装置では、新たな異常挙動が発生した場合、そのときの挙動データを記録し、過去の保存されている挙動データは破棄するのである。
【0014】
請求項2に記載したように、異常判定手段によって異常と判定された車両の挙動の発生間隔が所定時間以内である状態が継続し、記録すべき挙動データの数が、記録手段の各記録領域に記録可能な挙動データの数より多くなった場合、記録制御手段は、最新の挙動データを、記録順序が最後の記録領域へ上書き記録させることが好ましい。
【0015】
記録手段の記録領域が有限である限り、一連の挙動データによる記録すべき挙動データの数が、記録領域に記録可能な挙動データの数を上回る可能性は否定できない。ここで、継続的に発生した車両の異常な挙動の原因を、一連の挙動データから正しく解析するためには、特に、異常挙動発生期間の初期の挙動データが重要な鍵を握ることが多い。そのため、記録すべき挙動データの数が、記録手段の各記録領域に記録可能な挙動データの数より多くなった場合、通常行われるように、最も古い挙動データを記録している記録領域に上書き記録するのではなく、記録された挙動データとしては最も新しい挙動データを記録している記録領域に上書き記録することが好ましい。
【0016】
請求項3に記載の車両用挙動データ記録装置は、ネットワーク接続された複数の電子制御装置により構成され、第1の電子制御装置において、車両の挙動が異常であると判定して、その異常な車両挙動に関連する挙動データを自身のメモリに記録させると、第2の電子制御装置を含む残りの電子制御装置に対して、それぞれのメモリに記録している挙動データを消去することを指示するとともに、第2の電子制御装置に、車両の挙動が異常であるときの挙動データの記録処理を引き渡し、所定時間以内に異常な車両挙動が発生しない場合には、第1の電子制御装置は、挙動データの記録処理を第2の電子制御装置から受け戻すことを特徴とする。
【0017】
このように、車両用挙動データ記録装置は、ネットワーク接続された複数の電子制御装置から構成することができ、例えば、複数の電子制御装置として、車両において各種の車載機器を制御する既存の電子制御装置を利用することができる。
【0018】
この場合、請求項4に記載したように、車両の挙動が異常であるときの挙動データの記録処理の引き渡しが、その引き渡し順序において最後の電子制御装置に対して行われ、その最後の電子制御装置において、車両の挙動が異常であるときの挙動データの記録処理が行われた後に、さらに記録すべき挙動データが生じた場合、前記最後の電子制御装置は、その記録すべき挙動データを自身のメモリに上書き記録させることが望ましい。これにより、請求項2と同様に、一連の挙動データにおいて、特に重要な意味を持つことが多い、異常挙動発生期間の初期の挙動データの記録の消去を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の車両用挙動データ記録装置の構成を示す構成図である。
【図2】記録順序が最先の制御ユニットECU1において実行される挙動データの記録処理を示すフローチャートである。
【図3】記録順序が最先の制御ユニットECU1以外の他の制御ユニットECU2〜7において実行される挙動データの記録処理を示すフローチャートである。
【図4】図2、図3のフローチャートに示す記録処理が実行されるときの、各制御ユニットECUの動作を説明するための動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態による車両用挙動データ記録装置に関して、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の車両用挙動データ記録装置の構成を示す構成図である。本実施形態の車両用挙動データ記録装置は、車両の搭載機器を電子的に制御する各種の制御ユニットECU1〜7によって構成され、各制御ユニットECU1〜7は、通信線により相互にネットワーク接続されている。また、これらの制御ユニットの中には、ゲートウェイユニットとしての機能も兼ねる制御ユニットECU5も含まれている。
【0022】
このような制御ユニットECU1〜7が制御対象とする車両の搭載機器は、エンジン、変速機、ブレーキ等のパワートレイン系機器、エアコン、シート、ドアロック等のボディ系機器、ナビ、ETC、ラジオ等の情報系機器、及びエアバック等のセイフティ系機器などである。
【0023】
各制御ユニットECU1〜7は、各々の制御対象機器を制御するために、各種のセンサ(図示せす)などからの信号を受信する。この際、各種のセンサは、いずれかの制御ユニットECU1〜7に接続されて、その接続された制御ユニットECU1〜ECU7を介して、他の制御ユニットECU1〜ECU7にも信号を与えるように構成しても良いし、センサ自体を通信線に接続して、センサから直接的に各種の制御ユニットECU1〜ECU7へ信号を出力するように構成しても良い。
【0024】
本実施形態の車両用挙動データ記録装置では、車両が異常な挙動を示したときに、上述した各種のセンサなどの中で、車両の挙動に関連する信号を出力するセンサなどからの信号を挙動データとして、制御ユニットECU1〜7が記録するように構成されている。
【0025】
特に、本実施形態の車両用挙動データ記録装置では、時間の経過とともに、車両の異常な挙動が複数回発生した場合、各々の挙動データが、相互に密接に関連する一連の挙動データであるか、それとも、関連性のない(低い)独立した挙動データであるかを判別する。そして、一連の挙動データであるとみなされた場合、その一連の挙動データを、予め定められた記録順序に従って各制御ユニットECU1〜7が自身のメモリに順番に記録する。すなわち、本実施形態では、各制御ユニットECU1〜7に対して、挙動データの記録を行う順序が定められており、その記録順序に該当する制御ユニットECU1〜7が、後に詳細に説明する挙動データの記録処理を実行する。
【0026】
一方、挙動データが、独立した挙動データであるとみなされた場合には、記録順序が最先の制御ユニットECU1が、その挙動データを自身のメモリに上書き記録する。この際、記録順序が最先の制御ユニットECU1は、その他の制御ユニットECU2〜7に対し、それぞれのメモリに記録されている過去の挙動データを全て消去するよう指示する。
【0027】
従って、本実施形態の車両用挙動データ記録装置によれば、各制御ユニットECU1〜7のメモリには、一連の挙動データか、独立した挙動データのいずれか一方しか記録されず、一連の挙動データと独立した挙動データとが混在して記録されることがない。このため、記録された挙動データが、一連の挙動データであるか、独立した挙動データであるかを明確に区別することができる。そして、一連の挙動データの場合、その一連の挙動データは、予め定められた記録順序に従って各制御ユニットECU1〜7のメモリに記録されているので、一連の挙動データを容易に時系列的に取得することができる。
【0028】
各制御ユニットECU1〜7が、挙動データを記録するメモリは、不揮発性のものであり、車両のイグニッションスイッチがオフされ、各制御ユニットECU1〜7への電源供給が停止されたとしても、各制御ユニットECU1〜7は、記録した挙動データを保持することが可能である。また、各制御ユニットECU1〜7は、一旦、挙動データを揮発性メモリに記録し、例えばイグニッションオフ時などの適宜なタイミングで揮発性メモリに記録した挙動データを不揮発性メモリに書き込むようにしても良い。なお、各制御ユニットECU1〜7は、各々のメモリに、一定時間間隔(例えば、1秒)毎に、検出された挙動データを書き込んでいく。
【0029】
各制御ユニットECU1〜7のメモリに記録される挙動データとしては、車両の挙動に影響を与える運転者による操作を検出するセンサの信号が含まれる。このようなセンサとして、例えば、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、変速機のシフト位置を検出するシフト位置センサ、及びステアリングホイールの操舵角度を検出するステアリングセンサなどが該当する。また、挙動データには、車両の挙動を直接的に検出するセンサの信号も含まれる。このようなセンサとしては、例えば、車両の走行速度を検出する速度センサ、車両の前後方向及び左右方向の加速度を検出する加速度センサ、車両の回転方向の変化速度を検出するヨーレイトセンサなどが該当する。さらに、挙動データには、車両の各種制御装置の動作信号を含めても良い。例えば、パワーステアリング制御装置の動作信号、ブレーキ制御装置による動作信号、変速機制御装置による動作信号及びエンジン制御装置による動作信号などである。これらの制御装置が動作して、パワーステアリング装置のアシスト量、ブレーキ装置における制動力、変速機のギヤ比、エンジンにおけるトルクなどが変化すると、それに応じて車両の挙動が変化するためである。
【0030】
各制御ユニットECU1〜7のメモリは、第1所定時間分の挙動データを記録することができるものであり、各制御ユニットECU1〜7は、挙動データの記録処理を実行する際、自身のメモリに対して、無限ループにて挙動データの書き込みを行う。同時に、挙動データに基づいて、車両に異常な挙動が発生したか否かを判定する。車両の異常な挙動とは、車両の急加速、急減速(急停止)、急旋回などである。そして、挙動データに基づいて、車両に異常な挙動が発生したと判定されると、その判定時点から第2所定時間が経過した時点で挙動データの記録を停止する。この結果、各制御ユニットECU1〜7のメモリには、異常挙動発生前の、第1所定時間−第2所定時間分の挙動データと、異常挙動発生後の第2所定時間分の挙動データの記録が保存されることになる。
【0031】
従って、各制御ユニットECU1〜7のメモリに記録された挙動データを解析することにより、車両に異常挙動が発生した原因の究明の一助となりえる。
【0032】
以下、本実施形態の車両用挙動データ記録装置において実行される、各制御ユニットECU1〜7において挙動データの記録を行うための記録処理に関して、図2,3のフローチャート及び図4の動作説明図を参照しつつ説明する。なお、図2のフローチャートは、記録順序が最先の制御ユニットECU1において実行される挙動データの記録処理を示すものであり、図3のフローチャートは、その他の制御ユニットECU2〜7において実行される挙動データの記録処理を示すものである。また、以下の説明においては、7個の制御ユニットECU1〜7を用いた場合について説明するが、制御ユニットの数は任意である。
【0033】
まず、図2のフローチャートに基づき、記録順序が最先の制御ユニットECU1において実行される挙動データの記録処理について説明する。図2のフローチャートに示すように、制御ユニットECU1における挙動データの記録処理は、車両のイグニッションがオンされることにより開始される。
【0034】
そして、ステップS100において、車両のイグニッションスイッチがオフされたか否かを判定する。このとき、イグニッションスイッチがオフされたと判定すると、図2のフローチャートに示す処理を終了する。一方、イグニッションスイッチがオフされていないと判定すると、ステップS110の処理に進む。
【0035】
ステップS110では、車両の挙動に関連する信号を出力するセンサなどからの信号を入力して、車両の挙動を監視する。具体的には、上述したように、制御ユニットECU1のメモリに、無限ループにて、一定時間間隔毎に挙動データを記録していく。続くステップS120では、入力した挙動データに基づいて、車両が異常な挙動を示したか否かを判定する。この判定処理では、例えば急加速、急減速(急停止)、及び急旋回などを車両の異常挙動として判定する。そして、異常挙動ではないと判定された場合にはステップS100の処理に戻り、異常挙動であると判定された場合にはステップS130の処理に進む。
【0036】
ステップS130では、図4の(a)に示すように、制御ユニットECU1以外の全制御ユニットECU2〜7に対して、記録されている挙動データを消去するように指示する。これにより、記録順序が最先の制御ユニットECU1が自身のメモリに挙動データを記録する際には、必ず他の制御ユニットECU2〜7における記録は消去される。従って、制御ユニットECU1に記録される最新の挙動データと関連性のない(低い)挙動データが、他の制御ユニット2〜7のメモリに残されて、混在して記録される状態が発生することを確実に防ぐことができる。続くステップS140では、制御ユニットECU1が、自身のメモリに挙動データを記録する。すなわち、上述したように、異常挙動発生と判定された時点から第2所定時間だけ、挙動データの記録を継続した後に、その記録を停止することにより、異常挙動発生前の第1所定時間−第2所定時間分の挙動データと、異常挙動発生後の第2所定時間分の挙動データとを、メモリに保存する。
【0037】
ステップS150では、図4(b)に示すように、次の記録順序が割り当てられている制御ユニットECU2に対して、挙動データの記録処理を実行するよう指示する通知を出力する。これにより、制御ユニットECU1において、異常挙動発生とされた直後から、後段の制御ユニットECU2において、挙動データの記録処理を開始することができる。そして、ステップS160では、制御ユニットECU2を含む、いずれかの制御ユニットECU2〜7から、挙動データの記録開始から第3所定時間以内に、新たな車両の異常挙動が発生しなかったことを伝える通知を受け取るまで待機し、その通知を受け取ると、ステップS100の処理に戻る。
【0038】
次に、図3のフローチャートに基づき、記録順序が最先の制御ユニットECU1以外の、その他の制御ユニットECU2〜7において実行される挙動データの記録処理について説明する。図3のフローチャートに示すように、その他の制御ユニットECU2〜7における挙動データの記録処理も、車両のイグニッションがオンされることにより開始される。
【0039】
ステップS200では、車両のイグニッションスイッチがオフされたか否かを判定する。このとき、イグニッションスイッチがオフされたと判定すると、図3のフローチャートに示す処理を終了する。一方、イグニッションスイッチがオフされていないと判定すると、ステップS210の処理に進む。
【0040】
ステップS210では、記録順序が最先の制御ユニットECU1から、記録済みの挙動データの消去指示があったか否かを判定する。挙動データの消去指示があったと判定された場合、ステップS220に進んで、自身のメモリに記録した挙動データを消去する。
【0041】
続くステップS230では、前段の制御ユニットECU1〜6から、挙動データの記録処理を実行するよう指示する通知を受け取ったか否かを判定する。この判定処理において、通知を受け取っていないと判定すると、ステップS200の処理に戻り、通知を受け取ったと判定すると、ステップS240の処理に進む。
【0042】
ステップS240では、車両の挙動に関連する信号を出力するセンサなどからの信号を入力して、車両の挙動を監視する。この処理は、前述した図2のフローチャートのステップS110の処理と同様である。続くステップS250では、入力した挙動データに基づいて、車両が異常な挙動を示したか否かを判定する。この判定処理も、前述した図2のフローチャートのステップS120の処理と同様である。そして、異常挙動ではないと判定された場合にはステップS280の処理に進み、異常挙動であると判定された場合にはステップS260の処理に進む。
【0043】
ステップS280では、前段の制御ユニットECU1〜6からの通知を受領してから、第3所定時間が経過したか否かを判定する。第3所定時間が経過していないと判定すると、ステップS240の処理に戻り、第3所定時間が経過したと判定すると、ステップS290の処理に進む。
【0044】
このステップS280の処理により、図4(b)に示すように、後段の制御ユニットECU2は、前段の制御ユニットECU1から通知を受けた後、第3所定時間の間だけ、車両に異常な挙動が発生したか否かを監視することになる。そして、第3所定時間以内に、車両に異常な挙動が発生した場合には、ステップS250の判定処理において肯定的な判定がなされ、ステップS260の処理が実行される。このステップS260では、図4(c)に示すように、制御ユニットECU2〜7が、自身のメモリに挙動データを記録(保存)する。続くステップS270では、記録順序において後段の制御ユニットECU3〜7に対して、挙動データの記録処理を実行するよう指示する通知を出力する。
【0045】
そして、車両の異常な挙動が、第3所定時間以内に繰り返し発生する限り、図4(d)に示すように、記録順序に従って順番に各制御ユニット2〜7にて、上述した挙動データの記録処理が実行される。
【0046】
つまり、本実施形態による車両用挙動データ記録装置では、車両において、最初に異常な挙動が発生してから第3所定時間以内に次々と異常な車両挙動が発生する場合、各々の挙動データが、相互に密接に関連する一連の挙動データであるとみなす。そして、一連の挙動データであるとみなされた場合には、それら一連の挙動データを、記録順序に従って各制御ユニット1〜7のメモリに順番に記録(保存)してゆくのである。従って、事後、一連の挙動データは、各制御ユニットECU1〜7のメモリから容易に時系列的に取り出すことが可能になる。
【0047】
一方、異常な車両挙動の発生間隔が第3所定時間を越える場合には、ステップS290にて、図4(e)に示すように、記録順序が最初の制御ユニットECU1に対して、挙動データの記録開始から第3所定時間以内に、新たな車両の異常挙動が発生しなかったことを伝える通知を送信する。
【0048】
本実施形態による車両用挙動データ記録装置では、前回の車両の異常な挙動発生から、第3所定時間経過後に、新たな異常な挙動が発生した場合には、その新たに発生した異常な車両挙動に関連する挙動データは、独立した挙動データとみなす。そして、この独立した挙動データは、上述したように、記録順序が最先の制御ユニットECU1のメモリに保存され、併せて、他の制御ユニット2〜7のメモリに記録されている挙動データは削除される。
【0049】
このように、本実施形態による車両用挙動データ記録装置では、各制御ユニットECU1〜7のメモリには、一連の挙動データか、もしくは独立した挙動データのいずれか一方しか保存されない。換言すると、最新の挙動データが保存されるときには、過去の挙動データがすべて消去される。車両の異常な挙動は発生したが、その挙動データが解析に供されることなく、その後、車両が使用され、新たな異常挙動が発生した場合には、過去の挙動データは不要となり、新たな挙動データを優先的に記録すべきだからである。
【0050】
なお、図3のフローチャートに示す挙動データの記録処理を、記録順序が最後の制御ユニットECU7が実行する場合には、ステップS270の処理は実行されない。後段の制御ユニットECUは存在しないためである。この場合、記録順序が最後の制御ユニットECU7に関しては、ステップS260の処理後、再びステップS200から処理を繰り返すときに、フラグなどを用いて、一旦、前段の制御ユニットECU6から通知を受けとった後は、ステップS290において制御ユニットECU1へ通知を行わない限り、ステップS230の判定処理が肯定判定されるようになっている。
【0051】
従って、記録順序が最後の制御ユニットECU7において、車両の異常な挙動の発生に伴って挙動データを記録しても、その記録から所定時間以内に再び車両の異常な挙動が発生すると、新たな挙動データが記録済みの挙動データに上書きされることになる。
【0052】
制御ユニットECU1〜7の数は有限であり、一連の挙動データとして記録すべき挙動データの数が、制御ユニットECU1〜7に記録可能な挙動データの数を上回る可能性は否定できない。ここで、所定時間以内に繰り返し発生した車両の異常な挙動の原因を、一連の挙動データから正しく解析するためには、特に、異常挙動発生期間の初期の挙動データが重要な鍵を握ることが多い。そのため、記録すべき挙動データの数が、制御ユニットECU1〜7に記録可能な挙動データの数より多くなった場合、通常行われるように、最も古い挙動データを記録している制御ユニットECU1のメモリから順番に上書き記録するのではなく、記録された挙動データとしては最も新しい挙動データを記録している記録順序が最後の制御ユニットECU7のメモリに上書き記録するのである。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本願発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0054】
例えば、上述した実施形態では、複数の制御ユニットECU1〜7により、本発明の車両用挙動データ記録装置を構成する例について説明した。しかしながら、本発明の車両用挙動データ記録装置は、単一の制御ユニットECUによって構成することも可能である。
【0055】
この場合、その単一の制御ユニットECUに対して、複数の挙動データを保存可能な記録領域を有するメモリを設け、そのメモリの記録領域に対して、挙動データの記録順序を予め定めておく。そして、独立した挙動データは、記録順序が最先の記録領域に記録させるとともに、同時に、他の記録領域に記録されている挙動データを消去させる。一方、一連の挙動データに関しては、記録順序に従って順番に各記録領域に記録させる。
【0056】
また、挙動データに対して、時間データを付加するようにしても良い。この時間データにより、一連の挙動データから、車両の異常な挙動の発生原因をより究明しやすくなる。
【0057】
また、本発明による車両用挙動データ記録装置は、エンジンを動力源とする通常の車両に適用することが可能であるが、特に、動力源としてエンジンとモータとを併用する、いわゆるハイブリッド車両に適用することが好ましい。ハイブリッド車両においては、エンジンとモータとの2系統において動力(トルク)を発生する。従って、ハイブリッドECUは、運転者の加速要求(アクセルペダル踏込量)に従って、エンジン及びモータの必要トルクを算出し、エンジン及びモータを制御する各ECUへ出力する。すると、各ECUが、算出された必要トルクに従って、エンジン及びモータを制御する。このように、車両のトルクが複数のECUによって制御される場合、複数のECUの連鎖的動作によって、車両の異常な挙動が引き起こされる可能性が、通常の車両に比べて高まるためである。
【符号の説明】
【0058】
ECU1〜7 制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の挙動に関連する挙動データを出力する挙動データ出力手段と、
前記挙動データを記録する記録手段と、
前記挙動データ出力手段によって出力された挙動データに基づいて、車両の挙動が異常であるか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段によって異常であると判定されたときの前記挙動データを、前記記録手段に記録させる記録制御手段と、を備えた車両用挙動データ記録装置であって、
前記記録手段は、前記挙動データを複数回分記録できる記録領域を有し、その挙動データを複数回分記録できる記録領域に対し、前記挙動データの記録順序が予め定められており、
前記記録制御手段は、前記異常判定手段によって異常と判定された車両の挙動の発生間隔が所定時間以内である場合に、異常な車両挙動に関連するそれぞれの挙動データを記録順序に従って異なる記録領域に記録させ、所定時間を越える場合には、新たな挙動データを、記録順序が最先である記録領域に上書き記録させるとともに、記録順序が最先の記録領域以外の記録領域に記録されている過去の挙動データを全て消去させることを特徴とする車両用挙動データ記録装置。
【請求項2】
前記異常判定手段によって異常と判定された車両の挙動の発生間隔が所定時間以内である状態が継続し、記録すべき挙動データの数が、前記記録手段の各記録領域に記録可能な挙動データの数より多くなった場合、前記記録制御手段は、最新の挙動データを、記録順序が最後の記録領域へ上書き記録させることを特徴とする請求項1に記載の車両用挙動データ記録装置。
【請求項3】
前記車両用挙動データ記録装置は、ネットワーク接続された複数の電子制御装置により構成され、
第1の電子制御装置において、車両の挙動が異常であると判定して、その異常な車両挙動に関連する挙動データを自身のメモリに記録させると、第2の電子制御装置を含む残りの電子制御装置に対して、それぞれのメモリに記録している挙動データを消去することを指示するとともに、前記第2の電子制御装置に、車両の挙動が異常であるときの挙動データの記録処理を引き渡し、所定時間以内に異常な車両挙動が発生しない場合には、前記第1の電子制御装置は、前記挙動データの記録処理を前記第2の電子制御装置から受け戻すことを特徴とする請求項1に記載の車両用挙動データ記録装置。
【請求項4】
車両の挙動が異常であるときの挙動データの記録処理の引き渡しが、その引き渡し順序において最後の電子制御装置に対して行われ、その最後の電子制御装置において、車両の挙動が異常であるときの挙動データの記録処理が行われた後に、さらに記録すべき挙動データが生じた場合、前記最後の電子制御装置は、その記録すべき挙動データを自身のメモリに上書き記録させることを特徴とする請求項3に記載の車両用挙動データ記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−113637(P2012−113637A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263975(P2010−263975)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】