説明

車両用振動制御装置

【構成】 振動を検出する周期検出センサ1と、騒音dの振動エネルギを低減させるアンチ騒音Zを発生させるスピーカ2と、設置地点の騒音を検出するマイク3と、アンチ騒音Zの振動エネルギを設定するコントローラ4と、コントローラ4の出力をマイク3の出力信号およびこのマイク3とスピーカ2の間の伝達特性に基づいて補正するプロセッサとを備え、プロセッサの出力によりスピーカ2でアンチ騒音Zを発生させる。
【効果】 スピーカに出力するプロセッサの出力信号ベクトルを直接、逐次的に最適化するため、計算量が従来のLMSアルゴリズムの数分の一以下となり、通常のプロセッサ等の演算処理能力で充分に対応でき、計算時間が短縮される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両に設置され、車両のエンジンのような振動源によって発生される周期的な振動を低減させる車両用振動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、特表平1−501344号公報に記載されているように、例えば自動車のエンジンの回転(第一振動源)により発生する第一振動(以下、騒音と称する)の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させる車両用振動制御装置は、図5に示すように、リファレンス信号発生器31、適応型フィルタ33およびLMS(Least Mean Square Method)アルゴリズム演算装置34を内蔵したコントローラ32、スピーカ35およびマイク36で構成されている。そして、上記車両用振動制御装置30は、以下の方法により第二振動を発生させる。
【0003】先ず、リファレンス信号発生器31において、図示しないエンジンの振動に相当するものとして、イグニッションコイルで発生するイグニッションパルス(以下、IGパルスと称する)を検出し、このIGパルスからリファレンス信号発生器31はディジタル信号であるリファレンス信号xを発生させてコントローラ32に出力する。
【0004】コントローラ32では、リファレンス信号xは、内蔵する適応型フィルタ33に導入され、マイク36の設置位置で、エンジンの振動に起因する騒音dとスピーカ35で再生されたスピーカ音d’(第二振動)とが逆位相となって互いに打ち消し合うように、リファレンス信号xのゲインや位相等を調整して、スピーカ入力信号y’とし、スピーカ35に入力する。
【0005】一方、コントローラ32において、リファレンス信号xは内蔵するLMSアルゴリズム演算装置34にも入力され、また、同時にマイク36から出力されるマイク出力信号e’を、LMSアルゴリズム演算装置34に導入し、マイク出力信号e’のレベルが低くなるように、適応型フィルタ33のディジタルのフィルタ係数fを逐次的に変化させて最適化する。尚、フィルタ係数fは、エンジンの回転数が変化しなければある一定の値に収束するが、通常、エンジンの回転数は逐次変化するため、フィルタ係数fも逐次変化させなければならない。
【0006】このLMSアルゴリズム演算装置34で行われるLMSアルゴリズムの演算は、コントローラ32に内蔵されている適応型フィルタ33のフィルタ係数fのベクトルである、ヘ゛クトル1 ヘ゛クトル2 ,……,ヘ゛クトL を逐次更新するために行われる。
【0007】一般に、このフィルタ係数fのヘ゛クトルfの計算式は、L :スピーカの個数M :マイクの個数ヘ゛クトルl :第lスピーカ出力を決定するフィルタ係数ベクトルヘ゛クトルlm:第lスピーカ・第mマイク間の伝達特性を与えるフィルタ係数ベクトルx :騒音と同一の周波数成分を含むリファレンス信号
r :適応型フィルタを通過した後のリファレンス信号
k :任意の時刻em :第mマイク出力信号
μ :収束係数I :ヘ゛クトルl のタップ長J :ヘ゛クトルlmのタップ長と定義すると、次式(21)で表される。
【0008】
【数1】


【0009】但し、 ヘ゛クトルl (k) =〔fl1(k) fl2(k) …… flI(k) 〕T ヘ゛クトルlm(k) =〔rlm1(k) rlm2(k) …… rlmI (k) 〕T lmi (k) =ヘ゛クトルlm Tヘ゛クトルx(k-i+1) ヘ゛クトルlm=〔hlm1 lm2 …… hlmJ T ヘ゛クトルx(k) =〔x(k) x(k-1) …… x(k-J+1) 〕T l=1,2,……,L m=1,2,……,Mそして、第lスピーカのスピーカ入力信号y' l (k) は、次式(22)で求められる。
y' l (k) =ヘ゛クトルl (k) T ヘ゛クトル' (k) ……(22)
但し、 ヘ゛クトル' (k) =〔x(k) x(k-1) …… x(k-I+1) 〕T 上記式(22)で求められるスピーカ入力信号y’を、対応するスピーカ35に入力し第二振動であるスピーカ音d’として発すると、対応するマイク36の設置位置で第一振動である騒音dと、このスピーカ音d’とが打ち消し合って、自動車のキャビン内の騒音を低減する。
【0010】このように、従来の車両用振動制御装置は、いわゆるフィードフォワード制御を行っている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来のLMSアルゴリズムは、式(22)中に多数の計算項が存在し、第lスピーカ出力を決定するフィルタ係数ベクトルであるヘ゛クトルlを逐次的に最適化するためには、短時間に膨大な計算量をこなす必要がある。そして、このLMSアルゴリズムは、任意の1組のスピーカとマイクに対しての演算であるから、通常、スピーカおよびマイクを多数用いる車両用振動制御では、この計算量がさらに数倍となる。
【0012】ところが、車両用振動制御装置に一般に搭載されているプロセッサ等の演算処理能力では、上記LMSアルゴリズムの計算量を短時間にこなすことは不可能である。そこで、上記従来のLMSアルゴリズムを使用した車両用振動制御装置は、プロセッサ等の演算処理能力に合わせて、自動車のキャビン内に設置するスピーカおよびマイクの数を制限しなければならない。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の車両用振動制御装置は、上記課題を解決するために、第一振動源によって発生される周期的な第一振動を低減させる車両用振動制御装置であって、上記第一振動の周期を検出する周期検出手段と、この第一振動の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させる第二振動源と、車両に設置され、その設置地点の振動を検出する振動検出手段と、上記第二振動の振動エネルギを設定する設定手段と、上記設定手段の出力を上記振動検出手段の出力およびこの振動検出手段と第二振動源の間の伝達特性に基づいて補正する補正手段とを備え、上記補正手段の出力により第二振動源で第二振動を発生させることを特徴としている。
【0014】
【作用】上記構成においては、第一振動源によって発生される周期的な第一振動の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させる第二振動源に出力される補正手段の出力信号ベクトルを直接、逐次的に最適化するため、計算量が従来のLMSアルゴリズムの数分の一以下となり、通常のプロセッサ等の演算処理能力で充分に対応でき、計算時間が短縮される。また、例えば、車両のキャビン内に設置するスピーカおよびマイクの数に制限を設ける必要がなくなるので、車両のキャビン内の多数の場所で、第一振動を低減することが可能となる。
【0015】
【実施例】本発明の一実施例について図1および図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。尚、本実施例では、車両用振動制御装置を4人乗りの自動車に設置する場合を例に挙げて説明する。
【0016】図2に示すように、本実施例にかかる車両用振動制御装置10は、例えば車両である自動車21に搭載されている周期的な第一振動を発生させる第一振動源として、直列4気筒のエンジン22を対象に設けられている。この周期的な振動は、周期的な騒音(以下、騒音と称する)を発生するが、この騒音は、エンジン22の振動が自動車21のボディー等を伝わり、例えばキャビン25内の装備品の振動により、空気を振動させて発生する。
【0017】上記車両用振動制御装置10は、振動の周期を検出する周期検出センサ1(周期検出手段)と、この振動の振動エネルギを低減させる第二振動(以下、アンチ騒音と称する)を発生させる5個のスピーカ2…(第二振動源)と、自動車21のキャビン25内に設置され、その設置地点の騒音を検出する8個のマイク3…(振動検出手段)と、上記アンチ騒音の振動エネルギを設定するコントローラ4(設定手段)と、コントローラ4に内蔵され、上記コントローラ4の出力を上記マイク3…の出力およびこのマイク3…とスピーカ2…の間の伝達特性に基づいて補正する図示しないプロセッサ(processor 、補正手段)とから構成されている。
【0018】上記周期検出センサ1は、自動車21のエンジンルーム23に設置されているイグニッションコイル24の一次コイル側24aに配置されており、エンジン22に送られるイグニッションパルス(以下、IGパルスと称する)を検出して、エンジン22の回転周期を計測し、この結果をディジタル信号としてコントローラ4に出力する。尚、周期検出センサ1は、イグニッションコイル24の一次コイル側24aに配置することにより、二次コイル側24bに配置する場合よりも、低電圧で精度良くIGパルスを検出することができる。
【0019】上記スピーカ2…は、自動車21のキャビン25内に5個設置されており、このうち4個は座席26…に着席している乗員の耳の近傍に、残りの1個はフロントガラス近傍の上方にそれぞれ配置されている。そして、これら5個のスピーカ2…は、後述するように、コントローラ4から入力されるディジタルのスピーカ入力信号をアンチ騒音として再生し、自動車21のキャビン25内に流す。
【0020】また、マイク3…は、自動車21のキャビン25内に8個設置されており、座席26…に着席している乗員の耳の近傍に、例えば座席26に埋め込むようにしてそれぞれ配置されている。そして、これら8個のマイク3…は、その設置地点の騒音を検出して、この結果をディジタル信号としてコントローラ4に内蔵された図示しないプロセッサに入力する。尚、上記設置地点の騒音とは、この場合、アンチ騒音の振動エネルギによって打ち消されて振動エネルギが減少した騒音を示している。
【0021】上記コントローラ4は、フロントガラス近傍の下方に設置されており、騒音の振動エネルギを減少させるアンチ騒音の振動エネルギを設定して、スピーカ2…に入力する。また、コントローラ4は、LSI(Large Scale Integrated Circuit)等で構成されたデータ処理装置であるプロセッサを内蔵している。
【0022】このプロセッサは、上記マイク3…から入力されるディジタル信号およびこのマイク3…とスピーカ2…の間の伝達特性に基づいてコントローラ4からスピーカ2…に出力される上記騒音の振動エネルギを低減させるアンチ騒音の振動エネルギの設定を補正する。
【0023】尚、車両用振動制御装置10のスピーカ2…およびコントローラ4は、ステレオ等の図示しないオーディオ装置と共用することが可能であり、その切り換えや車両用振動制御装置10のオン・オフは、自動車21のキャビン25内に設置されている操作スイッチ5により行われる。
【0024】上記構成の車両用振動制御装置10の制御方法について、図1に基づいて、以下に説明する。尚、説明を簡略化するために、それぞれ複数個設置されているマイク3…およびスピーカ2…のうち、任意の一対のマイク3およびスピーカ2を選び、これについて説明する。
【0025】先ず、エンジン22に送られるIGパルスを検出して、周期検出センサ1でエンジン22の回転周期を計測し、この結果をディジタル信号としてコントローラ4に出力する。
【0026】コントローラ4は、周期検出センサ1から入力された結果によってスピーカ2に出力するスピーカ入力信号yのヘ゛クトルyの周期を調整する(ステップ1、以下ステップをSと略す)と共に、内蔵しているプロセッサで、マイク3・スピーカ2間の伝達特性であるインパルス応答hの行列hを、時系列hに変換する(S2)。
【0027】次に、コントローラ4はプロセッサで、インパルス応答hの時系列hとマイク3から入力されるマイク出力信号eとでヘ゛クトルyを逐次的に最適化し(S3)、その後、このヘ゛クトルyを時系列yに変換してスピーカ入力信号yとし(S4)、スピーカ2に出力する。
【0028】スピーカ2は、このスピーカ入力信号yをアンチ騒音Zとして再生する。一方、マイク3は、騒音dとアンチ騒音Zが打ち消し合って振動エネルギが低減した騒音を検出して、この結果をディジタルのマイク出力信号eとしてコントローラ4に内蔵されたプロセッサに出力する。以下、再びプロセッサは、上記ステップ3およびステップ4を繰り返し行い、スピーカ入力信号yのヘ゛クトルyを逐次的に最適化して、最終的にマイク出力信号eの値が0となるようにスピーカ入力信号yのヘ゛クトyを設定する。
【0029】次に、コントローラ4で行われる上記各ステップのアルゴリズムの演算について、以下に説明する。
【0030】先ず、コントローラ4によるマイク3のマイク出力信号eのサンプリング周期をΔtとする。マイク3・スピーカ2間の伝達特性であるインパルス応答hが有限時間JΔt以内で0に収束すると仮定し、インパルス入力が与えられてからjΔt時間経過後のインパルス応答hの値をhj とすると、エンジン22から発生した第一振動である騒音d、スピーカ入力信号yが与えられたときのスピーカ2から発生する第二振動であるアンチ騒音Zおよびそのときの時刻kにおけるマイク出力信号eの第kサンプル値e(k) の関係は、次式(1)で表すことができる。
【0031】
e(k) =d(k) +Z(k) =d(k) +行列hT ・行列y(k) ……(1)
但し、 行列h=〔h0 1 2 …… hJ-1 T 行列y(k) =〔y(k) y(k-1) y(k-2) …… y(k-J+1) 〕T d(k) : e(k) に含まれている騒音dの成分Z(k) : e(k) に含まれているアンチ騒音Zの成分y(k) : スピーカ入力信号yの第kサンプル値従って、式(1)中のZ(k) は、
【0032】
【数2】


【0033】ところで、騒音dは、ある周期NΔtを持っている周期性振動であるので、この騒音dの振動エネルギを低減させるアンチ騒音Zおよびスピーカ入力信号yも、騒音dと同じ周期NΔtを持っている周期性振動および周期性信号でなければならない。
【0034】従って、スピーカ入力信号yに関して次式(3)が成立する。
y(k) = y(k-qN) =y(k) y(k-1) = y(k-qN-1) =y(k+N-1) y(k-2) = y(k-qN-2) =y(k+N-2) ……(3)
… … … y(k-N+1) =y(k-(q+1)N+1)=y(k+1) 但し、 q=0,1,2,… ゆえに、式(1)は、 e(k) =d(k) +ヘ゛クトルT ・時系列y(k) ……(4)
但し、 時系列y(k) =〔y(k) y(k+N-1) y(k+N-2) …… y(k+1) 〕T
【0035】
【数3】


【0036】尚、Qは、J≦(q+1)Nを満たす整数qの最小値である。
【0037】次に、時刻kからさらにiだけ時間が経過した時刻k+i のマイク出力信号eの第k+i サンプル値e(k+i) (但し、i=0,1,2,……)は、次式(5)で表すことができる。
【0038】
e(k+i) =d(k+i) +ヘ゛クトルT ・時系列y(k+i) =d(k+i) +時系列h(i) T ・時系列y(k) ……(5)
但し、 時系列y(k+i) =〔y(k+i') y(k+i'-1) …… y(k) y(k+N-1) y(k+N-2) …… y(k+i'+1)〕T 時系列h(i) =〔ハ゛ーi' ハ゛ーi'+1 …… ハ゛ーN+1 ハ゛ー0 ハ゛ー1 …… ハ゛ーi'-1T 尚、i’は、iをNで割ったときの整数剰余である。
【0039】ところで、式(5)において、kはマイク出力信号eの任意の初期時点を表しているに過ぎない。よって、k=0と置き、iを改めてkに置き直すと、次式(6)が得られる。
【0040】
e(k) =d(k) +時系列h(k) T ・時系列y(0) =d(k) +時系列h(k) T ヘ゛クトルy ……(6)
但し、 ヘ゛クトルy=〔y(0) y(N-1) y(N-2) …… y(1) 〕T =〔y0N-1N-2 …… y1T ここで、次の評価関数を導入する。
F=E〔e(k)2
=E〔d(k) +時系列h(k) T ヘ゛クトルy〕 =E〔d(k)2〕+2ヘ゛クトルT ・E〔d(k) ・時系列h(k) 〕
ヘ゛クトルT ・E〔時系列h(k) ・時系列h(k) T ヘ゛クトルy ……(7)
但し、E〔 〕は、期待値を表すものとする(Eは期待演算子)。式(7)より、この評価関数のヘ゛クトルyに関する勾配は、次式(8)で与えられる。
∂F/∂ヘ゛クトルy=2E〔d(k) ・時系列h(k) 〕 +2E〔時系列h(k) ・時系列h(k) T ヘ゛クトルy =2E〔時系列h(k) {d(k) +時系列h(k) T ヘ゛クトルy}〕
=2E〔時系列h(k) ・e(k) 〕 ……(8)
ここで、E〔時系列h(k) ・e(k) 〕の瞬時推定値として、時系列h(k) ・e(k) を用いることにすれば、Fの最小値を与える周期NΔt(すなわち要素数N)を持つスピーカ出力信号ベクトルであるヘ゛クトルyの値は、最急降下法に基づく次の漸化式(9)を反復計算することにより最適化することができる。
【0041】
ヘ゛クトルy(k+1) =ヘ゛クトルy(k) −μ・e(k) ・時系列h(k) ……(9)
但し、μ/2は収束係数である。
【0042】このようにして求めた漸化式(9)は、実際にコントローラ4に内蔵されたデータ処理装置であるプロセッサが騒音の振動エネルギを低減させるアンチ騒音の振動エネルギの設定を補正する際には、以下に示すような、より簡単なアルゴリズムに置き換えられる。
【0043】先ず、一対のスピーカ2およびマイク3を用いる場合には、漸化式(9)は次式(10)に置き換えられる。
(k-j+QN)' (k+1) =y(k-j+QN)' (k) −μ・e(k) ・hj ……(10)
このときプロセッサは、時刻kにおいては、例えば以下に示す4つの動作手順を行っている。
【0044】動作1 :スピーカ入力信号yk'(k) をスピーカ2に対して出力する動作2 :マイク出力信号e(k) をマイク3から入力する動作3 :周期検出センサ1から入力されたエンジン22の回転周期にOrd/Δtまたは1/(Ord・Δt)を乗じた値に最も近い整数値をNとする動作4 :j=0,1,2,……,J−1について漸化式(10)の計算を行う但し、k’,(k−j+QN)’は、それぞれk,(k−j+QN)をNで割ったときの整数剰余であり、また、Ordは、低減させようとしている騒音のエンジン回転数に対する最低次数を設定するための任意の一定の整数である。
【0045】次に、複数のスピーカ2…とマイク3…とを用いる場合には、例えば、最急降下法に基づき、
【0046】
【数4】


【0047】の瞬時推定値として、
【0048】
【数5】


【0049】を用いると、評価関数
【0050】
【数6】


【0051】を最小化する第lスピーカ出力信号ベクトルであるヘ゛クトルl の最適値は、次の漸化式(11)を反復計算することにより求められる。
【0052】
【数7】


【0053】但し、ylk' :時刻kにおける第lスピーカ入力信号
m :第mマイク出力信号
lm j :第lスピーカ・第mマイク間のインパルス応答のjΔt時間後の値L :スピーカの個数M :マイクの個数J :全てのスピーカ・マイク間のインパルス応答が有限時間jΔt以内で0に収束することを示す整数値また、 ヘ゛クトルl =〔yl 0 l N-1 l N-2 …… yl 1 T 時系列hlm(k) =〔ハ゛ーlm k' ハ゛ーlm k'+1 …… ハ゛ーlm N+1 ハ゛ーlm 0 ハ゛ーlm 1 …… ハ゛ーlm k'-1 Tさらに、 ハ゛ーlm 0 =hlm 0 +hlm N +……+hlm QN ハ゛ーlm 1 =hlm 1 +hlm N+1 +……+hlm QN+1 …… …… …… …… ハ゛ーlm J-QN-1 =hlm J-QN-1 +hlm J-(Q-1)N-1 +……+hlm J-1 ハ゛ーlm J-QN =hlm J-QN +hlm J-(Q-1)N +……+ 0 …… …… …… …… ハ゛ーlm N-1 =hlm N-1 +hlm 2N-1 +……+ 0 l=1,2,……,L m=1,2,……,M 従って、漸化式(9)は次式(12)に置き換えられる。
【0054】
【数8】


【0055】このときプロセッサは、時刻kにおいては、例えば以下に示す4つの動作手順を行っている。
【0056】動作11:スピーカ入力信号y1k' (k) ,y2k' (k) ,……,yLk' (k) をそれぞれ第1スピーカ,第2スピーカ,……,第Lスピーカに対して出力する動作12:マイク出力信号e1(k),e2(k),……,eM (k) をそれぞれ第1マイク,第2マイク,……,第Mマイクから入力する動作13:周期検出センサ1から入力されたエンジン22の回転周期にOrd/Δtまたは1/(Ord・Δt)を乗じた値に最も近い整数値をNとする動作14:l=1,2,……,Lおよびj=0,1,2,……,J−1について漸化式(12)の計算を行うまた、上記の複数のスピーカ2…とマイク3…とを用いる場合について、
【0057】
【数9】


【0058】の瞬時推定値として、α・時系列hlk" (k) ・ek"(k) を用いると、最急降下法に基づいて評価関数
【0059】
【数10】


【0060】を最小化する第lスピーカ出力信号ベクトルであるヘ゛クトルl の最適値は、次の漸化式(13)を反復計算することにより求められる。
ヘ゛クトルl (k+1) =ヘ゛クトルl (k) −μ・α・時系列hlk" (k) ・ek"(k) ……(13)
但し、k”は、kをMで割ったときの整数剰余に1を加えた値であり、また、αは任意の定数である。この漸化式(13)は、漸化式(11)よりも短時間で演算できる。
【0061】従って、漸化式(9)は次式(14)に置き換えられる。
l(k-j+QN)' (k+1)=yl(k-j+QN)' (k)−μ・α・ek"(k) ・hlk"j ……(14)
このときプロセッサは、時刻kにおいては、例えば以下に示す4つの動作手順を行っている。
【0062】動作21:スピーカ入力信号y1k' (k) ,y2k' (k) ,……,yLk' (k) をそれぞれ第1スピーカ,第2スピーカ,……,第Lスピーカに対して出力する動作22:マイク出力信号ek"(k) を第k”マイクから入力する動作23:周期検出センサ1から入力されたエンジン22の回転周期にOrd/Δtまたは1/(Ord・Δt)を乗じた値に最も近い整数値をNとする動作24:l=1,2,……,Lおよびj=0,1,2,……,J−1について漸化式(14)の計算を行う従って、上記アルゴリズムの演算は、漸化式(9)、(11)および(13)、あるいはこれら漸化式を単純化した漸化式(10)、(12)および(14)を反復計算するだけで良いので、スピーカ入力信号制御の計算時間を短縮することが可能となる。
【0063】次に、本発明の他の実施例として、上記構成の車両用振動制御装置10のスピーカ2…の代わりに、図3に示すように、エンジン22を自動車21のエンジン設置部21aに設置する際に用いられるエンジンマウント28に、図示しないアクチュエータを設けた構成の車両用振動制御装置であっても良い。
【0064】このアクチュエータは、例えばシリンダーとピストンで構成され、ピストンに設置されたエンジン22をシリンダー内に満たしたオイルの油圧で支える構造になっている。そして、エンジン22の振動により、例えばピストンに押す力が加わったときにシリンダー内のオイルをシリンダー外部に出し、ピストンに引く力が加わったときにオイルをシリンダー内部に入れるように、コントローラ4の信号で上記シリンダー内のオイルの出し入れを制御して、エンジン22の振動エネルギを吸収し、エンジン22の振動を自動車21のエンジン設置部21aに伝えないようになっている。尚、上記のアクチュエータや加速度センサは、自動車21内に複数個設置しても良い。
【0065】さらに、本発明の他の実施例として、上記構成の車両用振動制御装置10のスピーカ2…の代わりに、図4に示すように、上述した図示しないアクチュエータを設け、マイク3…の代わりに、自動車21のエンジン設置部21aに加速度センサ29を設けた構成の車両用振動制御装置であっても良い。
【0066】この加速度センサ29は、自動車21の加速度を測定することにより、エンジン22の振動を検知するようになっている。
【0067】そして、加速度センサ29で検知した振動をコントローラ4で解析し、この結果に基づいて、コントローラ4はアクチュエータのシリンダー内のオイルの出し入れを制御して、エンジン22の振動エネルギを吸収し、エンジン22の振動を自動車21のエンジン設置部21aに伝えないようになっている。尚、上記のアクチュエータや加速度センサは、自動車21内に複数個設置しても良い。
【0068】このように、上記構成の車両用振動制御装置を用いることで、例えばエンジンによって発生される周期的な第一振動の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させるスピーカあるいはアクチュエータに出力されるプロセッサ等の出力信号ベクトルを直接、逐次的に最適化するため、計算量が従来のLMSアルゴリズムの数分の一以下となり、通常のプロセッサ等の演算処理能力で充分に対応でき、計算時間が短縮される。また、例えば、車両のキャビン内に設置するスピーカおよびマイクの数に制限を設ける必要がなくなるので、車両のキャビン内の多数の場所で、騒音を低減することが可能となる。
【0069】
【発明の効果】本発明の車両用振動制御装置は、以上のように、第一振動源によって発生される周期的な第一振動を低減させる車両用振動制御装置であって、上記第一振動の周期を検出する周期検出手段と、この第一振動の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させる第二振動源と、車両に設置され、その設置地点の振動を検出する振動検出手段と、上記第二振動の振動エネルギを設定する設定手段と、上記設定手段の出力を上記振動検出手段の出力およびこの振動検出手段と第二振動源の間の伝達特性に基づいて補正する補正手段とを備え、上記補正手段の出力により第二振動源で第二振動を発生させる構成である。
【0070】それゆえ、第一振動源によって発生される周期的な第一振動の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させる第二振動源に出力される補正手段の出力信号ベクトルを直接、逐次的に最適化するため、計算量が従来のLMSアルゴリズムの数分の一以下となり、通常のプロセッサ等の演算処理能力で充分に対応でき、計算時間が短縮される。また、例えば、車両のキャビン内に設置するスピーカおよびマイクの数に制限を設ける必要がなくなるので、車両のキャビン内の多数の場所で、騒音を低減することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における車両用振動制御装置の制御方法を示すブロック図である。
【図2】上記車両用振動制御装置を自動車に搭載した状態を示す平面図である。
【図3】本発明の他の実施例における車両用振動制御装置を自動車に搭載した状態を示す側面図である。
【図4】本発明の他の実施例における車両用振動制御装置を自動車に搭載した状態を示す側面図である。
【図5】従来の車両用振動制御装置の制御方法を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 周期検出センサ
2 スピーカ
3 マイク
4 コントローラ
5 操作スイッチ
10 車両用振動制御装置
22 エンジン
24 イグニッションコイル
25 キャビン
28 エンジンマウント
29 加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】第一振動源によって発生される周期的な第一振動を低減させる車両用振動制御装置であって、上記第一振動の周期を検出する周期検出手段と、この第一振動の振動エネルギを低減させる第二振動を発生させる第二振動源と、車両に設置され、その設置地点の振動を検出する振動検出手段と、上記第二振動の振動エネルギを設定する設定手段と、上記設定手段の出力を上記振動検出手段の出力およびこの振動検出手段と第二振動源の間の伝達特性に基づいて補正する補正手段とを備え、上記補正手段の出力により第二振動源で第二振動を発生させることを特徴とする車両用振動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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