説明

車両用放電灯の制御方法

【課題】電波雑音の発生が抑えられた状態で最適な点灯状態で点灯できる車両用放電灯の制御方法の提供。
【解決手段】車両用放電灯の制御方法は、放電灯と、電力制御装置と、を備えた車両用放電灯を点灯したときに、電力制御装置が、放電灯に起動電力を付与して点灯開始し、その後、起動電力より電力の低い定常電力まで電力を低下する車両用放電灯の制御方法であって、起動電力から定常電力まで電力が低下したときに、放電灯の温度低下の温度勾配が所定以下となるように行われることを特徴とする。車両用放電灯の制御方法は、点灯開始直後のラジオノイズの発生が抑えられたライトとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯を備えた車両用放電灯の点灯状態を最適とする車両用放電灯の制御方法に関し、詳しくは、点灯開始時には定常時以上の電力を注入し、その後の定常状態時には定常電力を供給する車両用放電灯の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のヘッドライトにディスチャージライトと呼ばれる放電により光を発するランプ(放電灯)を備えたライトが使用されるようになってきている。このライト(車両用放電灯)は、消費電力、明るさ、ランプの寿命などの特性が、従来のフィラメントを利用したランプより大幅に向上している。このような車両用放電灯は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
従来の車両用放電灯は、光を発する放電灯と、放電灯に点灯のための電力を供給するとともに供給される電力を制御する電力制御装置と、を備えている。そして、このような車両用放電灯は、点灯開始時と、その後の点灯状態にある時には異なる電力が放電灯に付与されている。つまり、点灯開始時には、放電灯内の電極間に放電を生じさせ、点灯直後から所望の光度を得るために大きな電力が要求されており、実際に大きな電力(起動電力)が付与されている。そして次に放電灯内で放電が発生した後は、安定した放電状態を維持することが要求され、このための電力(定常電力)が付与される。たとえば、起動電力は75Wであり、定常電力は35Wで点灯している。定常電力は起動電力よりも低い電力であり、放電灯に付与される電力の変動は電力制御装置により行われる。そして、従来の車両用放電灯を点灯したときの起動電力から定常電力までの電力の変動は、時間あたりの変化量(勾配)が急な直線となるように行われていた。
【0004】
車両用放電灯が点灯していない状態で長時間保持された後に点灯した(コールドスタート)直後、放電を行う電極が十分に暖まっていない。そして、この状態で起動電力から定常電力に急激に電力を低下させると電極に温度ムラが発生する。この電極の温度ムラは、電極の放電箇所の部分的な変動をまねく。電極の放電箇所が変動すると、放電灯で電極間に発生するアークが変動し(アークが揺れ)、その結果として、放電灯から発せられる光が安定しなくなる。
【0005】
さらに、従来の車両用放電灯においては、放電灯での放電および急激な電力の変化により電波雑音が発生していた。
【特許文献1】特開2003−151787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、電波雑音の発生が抑えられた状態で最適な点灯状態で点灯できる車両用放電灯の制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明者らは車両用放電灯の制御方法について検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0008】
本発明の請求項1に記載の車両用放電灯の制御方法は、放電灯と、放電灯に制御された電力を供給する電力制御装置と、を備えた車両用放電灯を点灯したときに、電力制御装置が、点灯開始後に放電灯に起動電力を付与して点灯開始し、その後、起動電力より電力の低い定常電力まで電力を低下する車両用放電灯の制御方法であって、起動電力から定常電力まで電力が低下したときに、放電灯の温度低下の温度勾配が所定以下となるように行われることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の本発明の車両用放電灯は、電力制御装置が放電灯に供給される電力を制御する。そして、本発明の制御方法は、電力制御手段が、放電灯に付与される電力を変動させたときに生じる放電灯の温度変化が所定の値より小さくなるように電力を制御する。つまり、本発明の制御方法は、起動電力から定常電力への電力の変動を長時間かけて行う。電力の変動が長時間かけて行われることで、放電灯の電極の温度ムラが生じなくなり、放電により発生するアークが発生する電極の位置が変動しなくなる。この結果、アークが安定し、放電灯が安定して発光する。
【0010】
また、本発明の制御方法は、電力の変動を長時間かけて行うことで、ラジオノイズの発生を抑えることができる。放電灯が十分に暖まっていない状態で短時間で電力の変動を行うと、放電灯のある温度領域では、放電アークの変動によるラジオノイズが発生する。しかし、本発明の制御方法は、電力の変動を長時間かけて行うため、放電アークが変動しなくなり、この温度領域においてもラジオノイズが発生しなくなっている。
【0011】
本発明の制御方法は、放電灯の電極の温度ムラによるアークの変動(ズレ)を抑えることで効果を発揮する。温度ムラは、長時間放置された後など放電灯が冷えた状態から点灯したときに発生しやすい。対して、放電灯を長時間点灯した後に短時間消灯し、再び点灯したときには、放電灯に熱が残留して十分に冷やされていない。本発明の制御方法は、このような十分に冷えていない放電灯の状態においても効果を発揮するが、温度ムラが生じやすい放電灯が冷えた状態から点灯したときに特に効果を発揮する。
【0012】
請求項2に記載の本発明の車両用放電灯の制御方法は、請求項1に記載の制御方法において、起動電力から定常電力までの電力の低下は、第一の低下速度と、第一の低下速度より遅い第二の低下速度と、の少なくともふたつの低下速度で行われる。
【0013】
起動電力から定常電力まで電力を低下させるときに、少なくとも二つの低下速度で電力を低下させることで、放電灯が安定して点灯する。つまり、車両用放電灯が不具合を発生する放電灯の温度領域は、放電灯の電力の低下速度と相関性をもつ。たとえば、第一の低下速度である温度に到達したときに不具合が発生したとしても、第二の低下速度ではその温度で不具合が発生しない。このことから、少なくとも二つの電力の低下速度を適宜選択することができ、放電灯が不具合を生じなくなる。
【0014】
請求項2に記載の本発明の制御方法の低下速度は、第一の低下速度および第二の低下速度とも異なる少なくともひとつの第三の低下速度を有していてもよい。また、請求項2に記載の本発明の制御方法の低下速度は、第一の低下速度、第二の低下速度、‥‥第nの低下速度のそれぞれの順番は限定されない。
【0015】
請求項3に記載の本発明の車両用放電灯の制御方法は、請求項2に記載の制御方法において、起動電力から定常電力までの電力の低下は、電力の低下の開始から放電灯が所定の温度に低下するまでは第一の低下速度で、その後は、第一の低下速度よりも遅い速度の第二の低下速度で行われる。
【0016】
つまり、請求項3に記載の本発明の制御方法は、起動電力から定常電力まで電力を低下させるときに、まず、速い第一の低下速度で電力を低下し、その後、第二の低下速度で電力を低下する。つまり、低下速度の速い第一の低下速度で電力を低下し、第一の低下速度で不具合の発生する領域以降では第二の低下速度で電力を低下させる。
【0017】
請求項4に記載の本発明の制御方法は、請求項3に記載の制御方法において、放電灯の所定の温度は、放電灯に付与される電力の変化により、放電灯がラジオノイズを発生するようになる温度である。つまり、請求項4に記載の制御方法は、電力の低下速度を切り替えることで、ラジオノイズが発生する不具合が生じなくなる。
【0018】
請求項5に記載の本発明の制御方法は、電力制御装置は、第一の低下速度の時の電力を供給する第一の電源と、第二の低下速度の時の電力を供給する第二の電源と、第一の電源からの電力あるいは第二の電源からの電力を放電灯に供給する電力供給部と、電力供給部に供給される電力を第一の電源と第二の電源との間で切り替える電源選択部と、を備える。つまり、二つの電源部からの電力を切り替えることで、放電灯に第一の低下速度と第二の低下速度の二つの速度で電力を供給できる。また、電源がひとつの場合には、電流を制御して電力を切り替えるが、この場合には、放電がゆっくりになり、次に点灯する時に十分な電力が放電灯に供給されなくなる。
【0019】
請求項6に記載の本発明の制御方法は、電源選択部は、第一の電源からの入力に基づいて切り替えを行うタイマーコンデンサをもつ。つまり、電源選択部がタイマーコンデンサを備えたことで、タイマーコンデンサを備えた回路を用いて電力を低下させることができる効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を示す具体的な実施例を用いて本発明を説明する。
【0021】
(実施例)
本実施例の車両用放電灯は、図1に示したブロック図の回路をもつ電力制御装置からの電力を放電灯(図示せず)に供給して放電灯が発光する。
【0022】
本実施例の車両用放電灯の電力制御装置は、第一の電源(VC1)および第二の電源(VC2)の二つの電源と、二つの電源から充電されるタイマーコンデンサ(C)と、タイマーコンデンサ(C)の間に配置された抵抗(R1)と、タイマーコンデンサ(C)からの入力にもとづいて二つの電源を切り替えるスイッチと、を備えている。また、本実施例の車両用放電灯の電力制御装置は、タイマーコンデンサ(C)に蓄えられた電荷を放電するための抵抗(R2)を有している。本実施例の車両用放電灯の放電灯、二つの電源(VC1,VC2)、タイマーコンデンサ(C)、二つの抵抗(R1,R2)などは、従来公知の市販品を用いることができる。また、二つの電源(VC1,VC2)は、ともに出力する電力量を調節できる。
【0023】
本実施例の車両用放電灯は、放電灯の電極間に高電圧を印加して放電させ、その後二つの電源(VC1,VC2)のうちの一方から決定される電力を放電灯に供給し、発光させる。そして、本実施例の車両用放電灯は、点灯開始時に大きな電力を放電灯に注入し、その後、点灯開始時の大きな電力よりも小さな電力を供給するように制御されている。
【0024】
本実施例の車両用放電灯をコールドスタートの状態(長時間点灯していない状態)で点灯したときの動作を以下に説明する。本実施例の車両用放電灯において放電灯に供給される放電のための電力の変化を図2(a)に、放電灯の電極の温度変化を図2(b)に示した。
【0025】
本実施例の車両用放電灯は、車両にもうけられた点灯のためのスイッチ(図示せず)からの指示により点灯・消灯を行う。本実施例の車両用放電灯は、点灯を開始したときには、スイッチが第一の電源(VC1)を選択しており、第一の電源(VC1)からタイマーコンデンサ(C)に充電された電圧に応じた電力が放電灯に供給される。そして、電極間の放電により放電灯の電極の温度が上昇していく。
【0026】
そして、点灯開始から所定時間が経過した(図2中のT1)ら、第一の電源(VC1)から放電灯に供給される電力が低下する。この電力の低下は、抵抗(R1)とタイマーコンデンサ(C)との関係による。つまり、タイマーコンデンサ(C)に充電された電圧値に応じて放電灯に供給される電力が低減する。この起動時の電力、たとえば75Wからの電力の低下は、ほぼ直線状の第一の低下速度となるように行われた。
【0027】
第一の電源(VC1)からの電力の低下にともなって放電灯の電極の温度も低下する。そして、放電灯の電極温度が所定の温度に到達したら、電力の低下速度を第一の低下速度より小さな第二の低下速度にする。そして、第二の低下速度による電力の低下を継続し、放電灯に供給される電力を35Wまで低下させ、その後、35Wで放電灯を点灯させる。なお、本実施例において電極の低下速度を第一の低下速度から第二の低下速度に切り替える判断は、放電灯の放電開始からの時間に基づいて行われた。つまり、放電灯の電極温度を測定する測温手段を取り付けると、その測温手段が放電により生じた光を遮るため、あらかじめ電極温度を測定,算出あるいは決定しておき、付与される電力から電極温度を決定し、その電極温度の変化から低下速度を切り替える時間(図2中のT2)を決定した。
【0028】
本実施例において、電力の低下速度が切り替わる所定の温度は、第一の低下速度で電力の低下を行ったときに放電灯がラジオノイズを発生するようになる温度である。具体的には、第一の低下速度のままで放電灯の電力を低下すると、急激な電力の変化を生じる。電力の変化は、電極の温度変化(低下)を招く。電極に温度変化を生じると、放電を生じている部分と生じていない部分とで部分的な温度変化を生じる。この温度変化により、放電のアーク位置にズレが生じ、このアークのズレがラジオノイズを生じさせる。そして、本実施例においては、ラジオノイズが発生する温度領域においては、電力の低下速度が小さくなった。これにより、ラジオノイズの発生が抑えられた。
【0029】
さらに、本実施例においては、放電灯への電力の低下速度を切り替えるときに、電力制御装置が放電灯に供給する電力を第一の電源(VC1)の電力から第二の電源(VC2)の電力に切り替える。この電源の切り替えは、タイマーコンデンサ(C)からの指示により行われる。タイマーコンデンサ(C)は、自身の容量とコンデンサに供給される電圧とにより切り替えの時間を決定する。具体的には、本実施例の車両用放電灯は、放電灯に電力が流れるとタイマーコンデンサ(C)にも電力が供給される。そして、タイマーコンデンサ(C)は、車両用放電灯が消灯しているときには充電されておらず、電力の供給開始とともに充電される。そして、タイマーコンデンサ(C)は、第一の電源(VC1)からの電力が所定の充電量まで充電される。タイマーコンデンサ(C)が所定の充電量まで充電されると、スイッチを切り替え、放電灯に供給される電力を第一の電源(VC1)の電力から第二の電源(VC2)の電力に切り替える。
【0030】
本実施例の車両用放電灯は、放電灯に供給される電力を第一の電源(VC1)を操作して低下させるだけでなく、第一の電源(VC1)から第二の電源(VC2)に電源を切り替えている。第二の電源を用いても、小さい電圧で同じ特性が得られる(第一の電源と同じ特性が得られる)。小さい電圧でコンデンサの充電を行うことができる。このことについて以下に説明する。
【0031】
まず、コンデンサ電圧Vは、下記数1式でもとめることができることが知られている。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、Vc1は充電電圧であリ、抵抗値とコンデンサ容量以外に充電電圧の変化でもコンデンサの電圧を変化させることが可能である。つまり、充電を穏やかにするためには充電電圧を低くすればよいことになる。図1中の電源(VC1あるいはVC2)、抵抗(R1)およびタイマーコンデンサ(C)をこの配置で備えた回路を作成し、コンデンサ容量が10μFで一定で充電電圧と抵抗値を変化させたときの充電時間とコンデンサ電圧との関係を測定し、図3に示した。なお、条件1は充電電圧=2V、抵抗(R1)の抵抗値=5MΩであり、条件2は充電電圧=0.5V、抵抗(R1)の抵抗値=1MΩであった。
【0034】
図3に示されたように、条件1と条件2はほぼ同じ特性を備えていることがわかる。つまり、コンデンサに接続された抵抗の抵抗値が小さい場合でも充電電圧を低くすることにより、抵抗値が大きな場合と同じコンデンサ電圧を得ることができる。また、抵抗値が大きな場合においては、放電が遅くなるという問題も発生していたが、本実施例は小さな抵抗値の抵抗を用いることができるため、放電の遅れも発生しない。さらに、容量の大きなコンデンサは、高価であることから容量の小さなコンデンサを用いることで、コストの上昇を抑えることができる効果を発揮する。
【0035】
なお、本実施例の車両用放電灯を点灯したときに、放電灯に供給される電力が第二の電力で低下しているときに、さらに第三の低下速度に低下速度を変更してもよい。ただし、第三の低下速度としたときにラジオノイズが発生しないものとする。この第三の低下速度は、第二の低下速度よりも遅くても早くてもよい。第三の低下速度が第二の低下速度よりも速い場合は所定の電力(35W)まですばやく到達することとなり、遅い場合は電極の温度ムラの発生が抑えられ、より安定したアーク放電を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例の車両用放電灯のブロック図である。
【図2】実施例の車両用放電灯の放電灯に供給される電力と電極の温度の変化を示した図である。
【図3】コンデンサ特性を示した図である。
【符号の説明】
【0037】
C1,VC2:電源
1,R2:抵抗
C:タイマーコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電灯と、該放電灯に制御された電力を供給する電力制御装置と、を備えた車両用放電灯を点灯するとき、該電力制御装置が、該放電灯に起動電力を付与して点灯開始し、その後、該起動電力より電力の低い定常電力まで電力を低下する車両用放電灯の制御方法であって、
該起動電力から該定常電力まで電力が低下したときに、該放電灯の温度低下の温度勾配が所定以下となるように行われることを特徴とする車両用放電灯の制御方法。
【請求項2】
前記起動電力から前記定常電力までの電力の低下は、第一の低下速度と、該第一の低下速度より遅い第二の低下速度と、の少なくともふたつの低下速度で行われる請求項1記載の車両用放電灯の制御方法。
【請求項3】
前記起動電力から前記定常電力までの電力の低下は、電力の低下の開始から前記放電灯が所定の温度に低下するまでは第一の低下速度で、その後は、該第一の低下速度よりも遅い速度の第二の低下速度で行われる請求項2記載の車両用放電灯の制御方法。
【請求項4】
前記放電灯の前記所定の温度は、該放電灯に付与される電力の変化により、該放電灯がラジオノイズを発生するようになる温度である請求項3記載の車両用放電灯の制御方法。
【請求項5】
前記電力制御装置は、前記第一の低下速度の時の電力を供給する第一の電源と、前記第二の低下速度の時の電力を供給する第二の電源と、前記第一の電源からの電力あるいは前記第二の電源からの電力を前記放電灯に供給する電力供給部と、該電力供給部に供給される電力を該第一の電源と該第二の電源との間で切り替える電源選択部と、を備えた請求項3記載の車両用放電灯の制御方法。
【請求項6】
前記電源選択部は、前記第一の電源からの入力に基づいて切り替えを行うタイマーコンデンサをもつ請求項5記載の車両用放電灯の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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