説明

車両用灯具

【課題】機械的な作動部を用いずに照射光を制御でき、かつ光利用効率を高めることが可能な車両用灯具を提供する。
【解決手段】車両用灯具は、光源1と、光源からの光の進路中に配置され、当該光のほぼ全ての成分を同一の振動方向の偏光に変換する偏光変換素子4と、偏光変換素子からの偏光の進路中に配置され、当該偏光の進路を制御する光学素子5、を含む。光学素子は、対向配置された第1基板及び第2基板、第1基板上に配置された第1電極、第2基板上に配置された第2電極、第1基板と第2基板の間に配置された液晶層、および第1基板と液晶層との間に配置されたプリズムアレイを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子等の光学素子を用いて構成される車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006−341696号公報(特許文献1)には、投影レンズ、光源、光源からの照射光を反射するリフレクタ、リフレクタからの光の一部を遮光する可動シェード、この可動シェードを動作させるアクチュエータ等を備えた車両用灯具が開示されている。この車両用灯具においては、可動シェードの位置を制御することによって、いわゆるハイビームとロービームの切り替えが実行される。
【0003】
しかしながら、上記文献に開示される先行例においては、機械的な作動部を用いて照射光の状態(例えばハイビームとロービーム)を切り替えるので、動作不良を生じやすいという不都合がある。また、可動シェードによって光の一部を遮る場合があることから、光利用効率が低いという点でも未だ改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−136838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、機械的な作動部を用いずに照射光を制御でき、かつ光利用効率を高めることが可能な車両用灯具を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の車両用灯具は、(a)光源と、(b)上記光源からの光の進路中に配置され、当該光のほぼ全ての成分を同一の振動方向の偏光に変換する偏光変換素子と、(c)上記偏光変換素子からの上記偏光の進路中に配置され、当該偏光の進路を制御する光学素子、を含む。そして、上記光学素子は、対向配置された第1基板及び第2基板、上記第1基板上に配置された第1電極、上記第2基板上に配置された第2電極、上記第1基板と上記第2基板の間に配置された液晶層、および上記第1基板と上記液晶層の間に配置されたプリズムアレイを有する。
【0007】
上記の車両用灯具においては、光学素子へ入射した偏光は、プリズムアレイと液晶層との屈折率差に応じた屈折角を与えられて光学素子から出射する。このとき、光学素子の液晶層へ与える電圧の大きさを適宜に設定して当該液晶層内の液晶分子の配向状態を制御することにより、上記の屈折角を自在に変化させることができる。したがって、機械的な作動部を用いずに照射光の進路を制御可能となる。また、光学素子へ入射させる偏光を発生させるための手段として、光源からの光のほぼ全ての成分を同一の振動方向に変換する偏光変換素子を用いているので、光の利用効率を高めることができる。
【0008】
上記の車両用灯具においては、上記偏光変換素子から出射する上記偏光の振動方向と上記光学素子の上記液晶層における液晶分子の配向方向が略一致していることも好ましい。
【0009】
それにより、光の利用効率を更に高めることができる。
【0010】
上記の車両用灯具において、上記偏光変換素子は、例えば、対向する2面、上記2面の間に当該2面と略平行な一方向に沿って間欠的に配置された複数のプリズム部、上記2面の間に当該2面と略平行な一方向に沿って間欠的に配置された複数のミラー部、および上記2面のうち上記光学素子に近い側の面上に、上記複数のミラー部と重畳しないように間欠的に配置された複数のλ/2波長板を有する。
【0011】
また、上記の車両用灯具は、上記偏光変換素子の前段に配置されたマイクロレンズアレイを更に備えることも好ましい。
【0012】
それにより、光源からの光をより効率よく偏光変換素子へ入射させることが可能となるので、光利用効率を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の車両用灯具の構成を示す図である。
【図2】偏光素子の詳細構造を説明するための模式的な上面図である。
【図3】光学素子の構造を示す模式的な断面図である。
【図4】プリズムアレイの模式的な斜視図を示す図である。
【図5】ロービームを照射する場合の車両用灯具の動作状態を示す図である。
【図6】ハイビームを照射する場合の車両用灯具の動作状態を示す図である。
【図7】光学素子の他の構成例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、一実施形態の車両用灯具の構成を示す図である。詳細には、図1(a)は車両用灯具の上面図であり、図1(b)は車両用灯具の側面図である。図1に示す本実施形態の車両用灯具は、光源1、反射部(リフレクタ)2、マイクロレンズアレイ3、偏光素子(偏光変換素子)4、光学素子(液晶素子)5を含んで構成されている。
【0016】
光源1は、例えば高輝度LEDであり、図示しない駆動手段により駆動されて外部へ光を放出する。なお、光源1は、LED以外のもの、例えば白熱電球、ハロゲン電球、HID、FE光源、蛍光灯等であってもよい。
【0017】
反射部2は、光源1の周囲に設けられている。光源1から出射した光の一部はこの反射部2で反射され、マイクロレンズアレイ3へ向けてほぼ一方向に進行する。なお、反射部2は省略されてもよい。
【0018】
マイクロレンズアレイ3は、複数のマイクロレンズを配列して構成されており、光源1から出射する光の進路中に配置されている。マイクロレンズアレイ3によって集光された光は偏光素子4へ入射する。
【0019】
偏光素子4は、マイクロレンズアレイ3を挟んで光源1の前方(光源1からの光の進行方向)に配置されている。光源1から出射し、マイクロレンズアレイ3によって集光された光が偏光素子4を通過することにより、当該光はそのほぼ全ての成分が同一の振動方向の直線偏光となる。偏光素子4の構造の詳細については後述する。
【0020】
光学素子5は、外観上ほぼ透明な薄板状の素子であり、偏光素子4の前方に配置されている。この光学素子5は、図示しない駆動装置から供給される駆動信号に応じて、入射する光の進路を制御する。光学素子5の構造の詳細については後述する。
【0021】
図2は、偏光素子4の詳細構造を説明するための模式的な上面図である。図2(a)に示すように、偏光素子(偏光プリズム)4は、対向する2面(第1面および第2面)の間に設けられた複数のプリズム部41および複数のミラー部42と、複数のλ/2波長板(1/2波長板)43を備える。各プリズム部41は、上記した2面に対して略45度に傾いた斜面を有しており、当該2面と平行な一方向に沿って間欠的に配置されている。各ミラー部42は、上記した2面に対して略45度に傾いた斜面を有しており、当該2面と平行な一方向に沿って間欠的に配置されている。また、図示のように各プリズム部41と各ミラー部42は、上記した2面と平行な一方向に沿って交互に配置されている。各λ/2波長板43は、上記した2面のうち光学素子5に近い側の面に、各ミラー部42と重畳しないように間欠的に配置されている。また、図示のように偏光素子4は、各λ/2波長板43とマイクロレンズアレイ3の各マイクロレンズの位置がほぼ対向するように配置されている。図2(b)に示すように、マイクロレンズアレイ3の各マイクロレンズに入射した光は、各λ/2波長板43の配置方向へ向けて集光される。
【0022】
ここで、図2(c)を用いて、偏光素子4に入射した光を同一の振動方向の直線偏光に変換される原理を説明する。マイクロレンズアレイ3に入射した光は、各プリズム部41に集光される。すなわち、偏光素子4に入射した光(ランダム光)は、偏光素子4の内部において複数箇所に分散して集光される。各プリズム部41に入射した光のうち、S偏光は各プリズム部41の斜面で反射され、P偏光はそのまま透過する。各プリズム部41の斜面で反射されたS偏光は、ミラー部42へ入射し、当該ミラー部42で反射され、S偏光のまま偏光素子4から出射する。一方、各プリズム部41を透過したP偏光は、各λ/2波長板43に入射し、当該λ/2波長板43によってS偏光に変換されて偏光素子4から出射する。以上のように、原理上、偏光素子4へ入射した光の全成分はS偏光となって偏光素子4から出射する。このため、一般的な偏光素子を用いる場合に比べて光の利用効率を高めることができる。
【0023】
図3は、光学素子5の構造を示す模式的な断面図である。なお、便宜上、一部構成を除いてハッチング記載を省略する。図5に示すように本実施形態の光学素子5は、第1基板51、第1電極52、プリズムアレイ53、配向膜(第1配向膜)54、第2基板55、第2電極56、配向膜(第2配向膜)57、液晶層58を含んで構成される。
【0024】
第1基板51および第2基板55は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板51と第2基板55との相互間には、例えば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており、それらのスペーサーによって第1基板51と第2基板55との相互間隔が保たれる。
【0025】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。同様に、第2電極56は、第2基板55の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極56、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を用いて構成される。例えば本実施形態では、第1電極52、第2電極56ともに、基板一面に形成されている。なお、第1電極52、第2電極56は、適宜パターニングされていてもよい。
【0026】
プリズムアレイ53は、複数の微少な傾斜状の突起形状(プリズム)を一方向に配列して構成されている。図4にプリズムアレイ53の模式的な斜視図を示す。図4のように、本実施形態における各プリズムの断面形状は直角三角形(例えば頂角75°、底角が15°と90°)である。また、各プリズムの配置ピッチPは例えば20μm程度、高さtは例えば5.2μm程度である。図4に示すように、プリズムアレイ53は、上面側から見るとスリット形状に形成されている。このプリズムアレイ53は、例えば耐熱性および密着性に優れた樹脂材料を成形することにより得られる。プリズムアレイ53の成形方法の詳細については後述する。
【0027】
配向膜54は、第1基板51の一面側に、第1電極52およびプリズムアレイ53を覆うようにして設けられている。また、配向膜57は、第2基板55の一面側に、第2電極56を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、配向膜54および配向膜57として、液晶層58の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を水平配向状態に規制するもの(水平配向膜)が用いられている。これらの配向膜54、57に対しては、所定の配向処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。図4に示したように、第1基板51の配向膜54には、プリズムアレイ53の各プリズムの長手方向(延在方向)とほぼ直交する方向に配向処理が施されている。また、第2基板55の配向膜57に対しても一方向に配向処理が施されている。そして、第1基板51と第2基板55は、各々の配向膜に施された配向処理がアンチパラレルの関係になるように配置されている。
【0028】
液晶層58は、第1基板51の一面と第2基板55の一面の相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)、屈折率異方性Δnが0.298程度のネマティック液晶材料を用いて液晶層58が構成されている。液晶層58に図示された太線は、液晶層58内の液晶分子を模式的に示したものである。図示のように、電圧無印加時における液晶分子は、第1基板51および第2基板55の各基板面に対して所定のプレチルト角を有してほぼ水平に配向する。
【0029】
図3に示す光学素子5においては、第1電極52および第2電極56を介して液晶層58に電圧を印加することにより液晶分子の配列が変化する。これにより、液晶層58の屈折率値が変化するため、複数の微少な傾斜状の突起形状であるプリズムアレイ53と液晶層58との界面を透過する光の屈折角が変化する(スネルの法則)。液晶層58へ印加される電圧を交流電圧とすることで、プリズムアレイ53と液晶層58との界面を通過する光の屈折角の大きさを変化させることができる。偏光素子4から出射する光の偏光方向と、液晶層58における液晶分子の配向方向とをほぼ一致させておくことにより、光学素子5を透過する全ての光の屈折角を電気的に制御できる。屈折角の大きさは、プリズムアレイ53の形状や液晶層58の屈折率異方性の値等により一概にいえないが、上記した数値例で製造した光学素子5においては6°程度である。また、プリズムアレイ53の斜面の傾斜角度を45°にすると最大で18°程度までの範囲で屈折角を変えることができる。
【0030】
本実施形態の車両用灯具は上記の構成を備えており、次にその動作について詳細に説明する。
【0031】
図5は、ロービーム(第1照射光)を照射する場合の車両用灯具の動作状態を示す図である。詳細には、図5(a)は車両用灯具の上面図であり、図5(b)は車両用灯具の側面図である。光学素子5の液晶層58に電圧を印加していない場合には、プリズムアレイ53と液晶層58との界面を通過する光の屈折角が相対的に大きくなる。それにより、図5(b)の側面図に示すように、液晶層58を透過する光の進路が下向きに変わる。すなわち、車両用灯具からロービームが照射される。
【0032】
図6は、ハイビーム(第2照射光)を照射する場合の車両用灯具の動作状態を示す図である。詳細には、図6(a)は車両用灯具の上面図であり、図6(b)は車両用灯具の側面図である。光学素子5の液晶層58にしきい値以上の適宜な大きさの電圧を印加した場合には、プリズムアレイ53と液晶層58との界面を通過する光の屈折角が相対的に小さくなり、場合によっては屈折角がゼロとなる。それにより、図6(b)の側面図に示す洋に、液晶層58を透過する光の進路はほとんど変化しない。すなわち、車両用灯具からハイビームが照射される。
【0033】
なお、上記ではロービームとハイビームを発生させる場合について例示したが、マイクロレンズアレイ3、偏光素子4および光学素子5の配置を適宜設定することにより、車両用灯具からの照射光の向きを、車両を基準として前方向または横方向のいずれかに変えることも可能である。この場合は、例えばAFS(Adaptive Front-lighting System)機能を搭載した前照灯として本実施形態の車両用灯具を用いることができる。
【0034】
次に、本実施形態の車両用灯具における光学素子5の製造方法の一例について詳述する。
【0035】
まず、第1基板51および第2基板55として用いるためのガラス基板を用意する。これらのガラス基板としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するものがより好ましい。例えば、厚さが1500ÅのITO膜を有し、板厚が0.7mm、ガラス材質が無アルカリガラスであるガラス基板を1セット用意する。第1基板51、第2基板55のそれぞれについて、ITO膜を適宜パターニングすることにより、第1電極52、第2電極56を形成する。
【0036】
次に、第1基板51の第1電極52上にプリズムアレイ53を形成する。ここでは、断面が三角形状であり、そのピッチPが20ミクロン、高さtが約5.2μm、頂角75°、底角が15°と90°であり、上面から見るとスリット形状を有する金型(全体の大きさが例えば横80mm×縦80mm)を用いた樹脂成形によってプリズムアレイ53を形成する。ここで、一般にプリズム用材料は耐熱性が低く、プリズムアレイ53上に配向膜54を形成する際の熱処理(例えば180℃以上)により特性が劣化してしまう場合が多い。これに対して、本実施形態では熱処理前後での透過率特性の低下がほとんど生じない光硬化性(紫外線硬化性)のアクリル系樹脂を用いる。ここで用いるアクリル系樹脂は、耐熱性だけでなくガラスへの密着性も優れているとともに金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、本実施形態のプリズムアレイ53を形成する材料として好適である。なお、これ以外のエポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、適用可能と考えられる。
【0037】
次いで、プリズムアレイ53が形成された第1基板51を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0038】
次いで、第1基板51に配向膜54を形成する。同様に、第2基板55に配向膜57を形成する。ここでは例えばポリイミドを配向膜として用いる。フレキソ印刷法、インクジェット法、スピンコート法、スリットコート法、スリット法とスピンコート法の組みあわせ等の適宜の方法で配向膜材料を第1基板51上、第2基板55上にそれぞれ適当な膜厚(例えば800Å程度)で塗布し、熱処理(例えば180℃で1.5時間の焼成)を行う。そして、熱処理によって得られた配向膜54、57のそれぞれに対して配向処理を行う。ここでは配向処理として、例えばラビング処理を行うが、光配向処理等の配向処理であってもよい。また、この配向処理は、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。また、上記したように配向膜54に対する配向処理の方向は、プリズムアレイ53の各プリズムの長手方向(延在方向)とほぼ直交する方向に設定される。
【0039】
次いで、一方の基板(例えば第1基板51)上に、ギャップコントロール剤を適量(例えば2〜5wt%)含んだメインシール剤を形成する。メインシール剤の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサーによる。また、ギャップコントロール剤の径は、プリズムアレイ53のベース層(本例では20μm〜40μm程度)とプリズムの高さ(本例では0より大きく5μm以下程度)を含め、液晶層58の厚さが5μm〜15μm程度となるように材料を選ぶことができる。本実施形態では、ギャップコントロール剤としてその径が50μm程度のプラスチックボールを用いる。また、他方の基板(例えば第2基板55)上にはギャップコントロール剤を散布する。例えば本実施形態では10μm径のプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布する。
【0040】
次いで、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。ここでは、例えば150℃で3時間の熱処理を行う。その後、第1基板51と第2基板55の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層58を形成する。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行う。本実施形態では、誘電率異方性△εが正、屈折率異方性Δnが0.298の液晶材料を用いる。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理(例えば120℃で1時間)を行うことにより、液晶層58の液晶分子の配向状態を整える。
【0041】
以上により、内部に微小なプリズムアレイ53を有する光学素子5が作製される。なお、本実施形態の光学素子5においてはプリズムアレイ53と液晶層58との界面での屈折率差を利用できることが重要である。このため、第1基板51と第2基板55の間隙(換言すればセル厚)は光学素子5の性能にほとんど影響を与えない。
【0042】
ところで、上述した実施形態においては、第1電極52の上側にプリズムアレイ53を配置した光学素子5を用いていたが、プリズムアレイ上に第1電極を配置してもよい。上記したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ上であれば、その上側にITO等の透明導電材料からなる第1電極を設けることができる。以下、詳細に説明する。なお、車両用灯具の全体構成および動作は上記した実施形態の場合と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0043】
図7は、光学素子の他の構成例を示す模式的な断面図である。図7に示す光学素子5aは、第1基板51、第1電極52a、プリズムアレイ53a、配向膜54a、第2基板55、第2電極56、配向膜57、液晶層58を含んで構成される。上記実施形態に係る光学素子5との相違点は、第1基板51上にプリズムアレイ53aが形成され、その上側に第1電極52a、配向膜54aが形成されている点である。それ以外の共通要素については詳細な説明を省略する。
【0044】
次に、図7に示した光学素子5aの製造方法の一例を詳述する。
【0045】
まず、第1基板51および第2基板55として用いるためのガラス基板を用意する。本例では、第1基板51としては導電膜を有しないガラス基板を用意する。また、第2基板55としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するガラス基板を用意することが好ましい。
【0046】
次いで、第1基板51の一面上に、プリズムアレイ53aを形成する。プリズムアレイ53aの形成方法については上記した実施形態におけるプリズムアレイ53の場合と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0047】
次いで、第1基板51のプリズムアレイ53a上に、第1電極52aを形成する。例えば、まずプリズムアレイ53aが形成された第1基板51を洗浄機にて洗浄する。洗浄方法としては、例えばアルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、IR乾燥の順に行うことができるが、これに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。その次に、プリズムアレイ53a上に、第1電極52aとなるべき透明導電膜を形成する。本例ではプリズムアレイ53a上にITO膜を成膜する。
【0048】
ここで、プリズムアレイ53a上に直接にITO膜を成膜してもよいが、ITO膜の密着性をより向上させるために、プリズムアレイ53a上に酸化珪素(SiO)膜を薄く形成することも好ましい。酸化珪素膜の形成は、例えばスパッタ法(交流放電)を用いて行うことができる。例えば、第1基板51を80℃に加熱しながら成膜を行うことにより、500Å程度の膜厚の酸化珪素膜を形成する。それに引き続き、例えばスパッタ法(交流放電)にてITO膜を形成する。例えば、第1基板51を100℃に加熱しながら成膜を行うことにより、約1000Å程度の膜厚のITO膜を形成する。このときSUSマスクなどを用いて余分な所にはITO膜が形成されないようにしてもよい。その後、必要に応じてITO膜をパターニングすることにより、第1電極52aが得られる。なお、ここでは成膜方法の一例としてスパッタ法を挙げたが、真空蒸着法、イオンビーム法、化学気相堆積法(CVD法)などの成膜方法を用いてもよい。
【0049】
また、第2基板55について、ITO膜を適宜パターニングすることにより第2電極56を形成する。例えば、ITO膜付きのガラス基板を上記方法で洗浄した後に、一般的なフォトリソ工程を用いてITO膜をパターニングする。エッチング方法としては、例えば第二塩化鉄を用いたウェットエッチングを採用できる。
【0050】
次いで、第1基板51、第2基板55のそれぞれを洗浄機により洗浄する。洗浄方法としては、例えばアルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、IR乾燥の順に行うことができるが、これに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0051】
次いで、プリズムアレイ53aが形成された第1基板51に配向膜54aを形成する。同様に、第2基板55に配向膜57を形成する。ここでは例えばポリイミドを配向膜として用いる。各配向膜54a、57の形成方法については上記した実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。この配向処理は、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。
【0052】
次いで、一方の基板(例えば第1基板51)上に、ギャップコントロール剤を適量含んだメインシール剤を形成する。また、他方の基板(例えば第2基板55)上にはギャップコントロール剤を散布する。本工程についてもその詳細は実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0053】
次いで、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。その後、第1基板51と第2基板55の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層58を形成する。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理を行うことにより、液晶層58の液晶分子の配向状態を整える。本工程についてもその詳細は第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。以上により図7に示した構成例の光学素子5aが得られる。
【0054】
本例の光学素子5aにおいては、液晶層58に印加する電圧の大きさは数ボルト程度で十分であり、上記実施形態の光学素子5に比較して駆動電圧の低電圧化が図られる。これは、光学素子5aにおいては、第1基板51上の第1電極52aと液晶層58との間にプリズムアレイ53aが存在することなく、第1電極52aから直接的に液晶層58へ電圧を印加できることが一因であると考え得る。
【0055】
以上のように本実施形態の車両用灯具においては、光学素子へ入射した偏光は、プリズムアレイと液晶層との屈折率差に応じた屈折角を与えられて光学素子から出射する。このとき、液晶層へ与える電圧の大きさを適宜に設定して当該液晶層内の液晶分子の配向状態を制御することにより、上記の屈折角を自在に変化させることができる。したがって、機械的な作動部を用いずに照射光の進路を制御可能となる。また、光学素子へ入射させる偏光を発生させるための手段として、光源からの光のほぼ全ての成分を同一の振動方向に変換する偏光変換素子を用いているので、光の利用効率を高めることができる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0057】
例えば上記した実施形態においては、光学素子に含まれるプリズムアレイの断面形状を片ノコギリ状としていたが、当該形状はこれに限定されない。例えば、プリズムアレイの断面形状をピラミッド状とした場合には、光学素子の液晶層へ電圧を無印加のときには照射光が広がって進む状態となり、電圧を印加したときには照射光が集光した状態となるように、車両用灯具の照射光を制御できる。そのほか、プリズムアレイの形状等の条件を適宜に設定することにより、自在な配光設計を実現できる。
【0058】
また、上記した実施形態においては、電圧無印加状態における液晶分子の配向モードが水平配向に設定された液晶層を有する光学素子が用いられていたが、液晶層の配向モードはこれに限定されない。
【符号の説明】
【0059】
1…光源 2…反射部 3…マイクロレンズアレイ 4…偏光素子 5、5a…光学素子 41…プリズム部 42…ミラー部 43…λ/2波長板(1/2波長板) 51…第1基板 52、52a…第1電極 53、53a…プリズムアレイ 54、54a…配向膜(第1配向膜) 55…第2基板 56…第2電極 57…配向膜(第2配向膜) 58…液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光の進路中に配置され、当該光のほぼ全ての成分を同一の振動方向の偏光に変換する偏光変換素子と、
前記偏光変換素子からの前記偏光の進路中に配置され、当該偏光の進路を制御する光学素子、
を含み、
前記光学素子は、
対向配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板上に配置された第1電極と、
前記第2基板上に配置された第2電極と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置された液晶層と、
前記第1基板と前記液晶層の間に配置されたプリズムアレイ、
を有する車両用灯具。
【請求項2】
前記偏光変換素子から出射する前記偏光の振動方向と前記光学素子の前記液晶層における液晶分子の配向方向が略一致している、請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記偏光変換素子は、
対向する2面と、
前記2面の間に当該2面と略平行な一方向に沿って間欠的に配置された複数のプリズム部と、
前記2面の間に当該2面と略平行な一方向に沿って間欠的に配置された複数のミラー部と、
前記2面のうち前記光学素子に近い側の面に、前記複数のミラー部と重畳しないように間欠的に配置された複数のλ/2波長板、
を有する、請求項1又は2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
複数のマイクロレンズを有し、前記偏光変換素子の前段に配置されたマイクロレンズアレイを更に備える、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用灯具。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−258500(P2011−258500A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133819(P2010−133819)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】