車両用空気調和機
【課題】急激な温度変化に対する応答性を高めることができる車両用空気調和機を提供する。
【解決手段】車内温度、及び車内湿度である現在値に対して、車内環境の目標値への適合度合いを示す適合度を求めるメンバシップ関数と、その適合度を条件とする推論規則と、に基づいて圧縮機を制御するファジー制御部211と、温度センサにより検出された車内温度と、湿度センサにより検出された車内湿度と、に基づいて圧縮機を制御する領域制御部212と、車内環境の現在値と目標値の温度差、または、その温度差とファジー演算に要する実行時間、に基づいて圧縮機の制御を割り当てる制御割当部210と、を備えたことを特徴とする車両用空気調和機。
【解決手段】車内温度、及び車内湿度である現在値に対して、車内環境の目標値への適合度合いを示す適合度を求めるメンバシップ関数と、その適合度を条件とする推論規則と、に基づいて圧縮機を制御するファジー制御部211と、温度センサにより検出された車内温度と、湿度センサにより検出された車内湿度と、に基づいて圧縮機を制御する領域制御部212と、車内環境の現在値と目標値の温度差、または、その温度差とファジー演算に要する実行時間、に基づいて圧縮機の制御を割り当てる制御割当部210と、を備えたことを特徴とする車両用空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空気調和機、例えば、ファジー制御と領域制御とを組み合わせた車両用空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空気調和機として、例えば、「制御条件検索部13,14により検索された制御条件を所定の制御ルールと照合して冷暖房装置5における冷暖房能力の変化量Pwを決定する」(特許文献1参照)というものがある。
【0003】
このようなものにおいては、「室内温度Taが設定温度Tsと近い場合においても、室内温度Taの温度変化率ΔTr等を考慮したきめ細かな制御がなされる結果、設定温度Tsに対する室内温度Taの一致度が極めて高くなる効果を奏する」(特許文献1参照)とされている。
【0004】
また、例えば、「圧縮機出力および再熱器出力は、制御ルール記憶手段54に記憶されている制御ルールに従って、ファジィ演算により計算する」(特許文献2参照)というものがある。
【0005】
このようなものにおいては、「空調負荷および空調負荷の変化量を推定して外乱の影響を打ち消すように制御を行っているので、外乱が入った場合でも車内温度が設定車内温度から大きくはずれることを避けることができ、省エネルギでかつ快適な空気調和が行なえる」(特許文献2参照)とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−159246号公報(段落0037)
【特許文献2】特開平5−264086号公報(段落0048、0052)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のいずれにおいてもファジー制御で空調制御がなされるため、急激な温度変化に対する応答性が低いという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる車両用空気調和機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両用空気調和機は、圧縮機、凝縮器、減圧手段、及び蒸発器を冷媒配管で順次接続して構成する冷媒サイクルと、鉄道車両の車内温度を検出する温度センサと、前記鉄道車両の車内湿度を検出する湿度センサと、を備えた車両用空気調和機であって、少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により定めれる車内環境の現在値に対して、前記現在値の前記車内環境の目標値への適合度合いを示す適合度を求めるメンバシップ関数、及び前記適合度を条件とする推論規則、によりファジー制御演算を実行することで空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御するファジー制御手段と、少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により一律に定められた割当範囲に基づいて空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御する領域制御手段と、前記現在値と前記目標値との温度差に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当て、または、前記現在値と前記目標値との温度差と前記ファジー制御演算の実行時間に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当てる、制御割当手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用空気調和機は、ファジー制御と領域制御とを適宜切り替えることにより、急激な温度変化に対する応答性を高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における車両用空気調和機が搭載された編成列車を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1における空調装置の冷凍サイクルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における空調制御装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の詳細機能ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態1における領域制御部の詳細機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態1における領域制御運転パターンを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1における空調制御装置の制御シーケンス図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の状態遷移図である。
【図9】本発明の実施の形態1における領域制御部の状態遷移図である。
【図10】本発明の実施の形態1におけるメモリ領域の内容説明図である。
【図11】本発明の実施の形態1における制御割当フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両用空気調和機の実施形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における車両用空気調和機が搭載された編成列車を示す概略図である。同図に示されるように、編成車両100は、先頭車両101、中間車両102、中間車両102に後続する中間車両103、中間車両103に後続する図示しない複数の車両から編成される。
【0014】
次に、各車両の詳細について説明する。先頭車両101には、空調装置110、空調制御装置111、車両情報制御装置112、列車情報管理装置113、リターン温度センサ120、車内環境センサ121、応荷重センサ122が備えられている。中間車両102にも同様に、空調装置130、空調制御装置131、車両情報制御装置132、リターン温度センサ140、車内環境センサ141、応荷重センサ142が備えられている。また、図示は省略しているが、中間車両103についても同様のものが備えられており、さらに中間車両103に後続する図示しない複数の車両にも同様のものが備えられている。なお、中間車両102、103、中間車両103に後続する複数の車両においては、言うまでもないことであるが、先頭車両ではないため、乗務員室はない。そのため、列車情報管理装置113は備えられていない。
【0015】
ここで、空調装置110、130は、空調制御装置111、131によって車内の環境が快適となるように制御される。まず、車内天井に設置された図示しないリターンエアフィルタより流れてくる車内空気の温度を車内天井裏に設置されたリターン温度センサ120、140が検出する。さらに、車内のつり革付近の高さの壁面に設置された車内環境センサ121、141が、常時車内湿度を検出するとともに、暖房時には車内空気の温度を検出する。また、車両下部に設置された応荷重センサ122、142が車両に加わる圧力を検出する。そして検出された圧力に基づいて車両情報制御装置112、132により乗車率が算出される。具体的には、車両が空車であるときの圧力と検出された圧力との差が算出され、その差分を標準的な体格の乗客の重さによる圧力値で除することにより、現在の乗車人数が算出される。そして、算出された乗車人数を予め定められた乗車定員数で除することにより乗車率が算出される。例えば、算出された乗車率は車両のドアが閉じられてから1秒経過したときの値が乗車率として利用される。この値は次のドア開閉時までの乗車率として保持される。
【0016】
また、先頭車両101の乗務員室に設置された列車情報管理装置113は伝送線を介して集約される情報を基に車両情報制御装置112、132に指令を出す。具体的には、列車情報管理装置113では、ドア開閉状態、空調運転状態、乗車率、外気温等が統合管理されている。そして空調運転状態には車内温度、車内湿度、冷房、暖房、送風、除湿、空調強運転、空調微運転、空調停止などが含まれている。このような状態で、列車情報管理装置113から適宜、車両情報制御装置112、132に伝送線を介して冷房指令、暖房指令、設定温度、乗車率、ドア開閉状態としての扉情報などの情報が送られる。
【0017】
また、空調装置110、130は、冷凍サイクルを備えている。詳細については図2に示す。図2は、本発明の実施の形態1における空調装置の冷凍サイクルを示す図である。冷凍サイクルは、圧縮機150と、凝縮器151と、減圧装置(例えば、キャピラリーチューブ)153と、蒸発器154とが冷媒配管で循環するように接続されて形成されている。また、図2に示されるように、室外送風機155及び室内送風機156を備えている。同図中、実線矢印は冷媒の流れる方向を示し、破線矢印は、室外送風機155からであれば、室外送風機155から凝縮器151を通した排熱の流れを示し、室内送風機156を通るものであれば、蒸発器154を通して室内送風機156から送風される冷風の流れを示す。これらにより、車内の冷房運転が行われる。すなわち、圧縮機150により冷媒は高温高圧に圧縮され、凝縮器151により車外へ熱を放散し、ドライヤにより過冷却液の不純物を取り除き、減圧装置153により冷媒は低温低圧に膨張され、蒸発器154により車内の暖かい空気から熱を奪う。そのような冷凍サイクルにより、車内を冷房することができる。付言すれば、空調装置110、130は、いわゆる一体型冷房装置であり、ユニットクーラとして車両の屋根上に搭載される。
【0018】
続いて、空調制御装置111、131は、車両情報制御装置112、132からそれぞれ伝送される先に説明した情報や、リターン温度センサ120、140や車内環境センサ121、141から得られる情報に基づいて空調の制御を実行させる。
【0019】
次に、空調制御装置111、131について説明する。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態1における空調制御装置の機能ブロック図である。同図に示されるように、空調制御装置111、131は、それぞれ、入力部200と、空調制御部201と、結果出力部202とを備えている。付言すれば、空調制御装置は、例えば、マイコンにより実装されるマイコン制御であり、例えば、温度、湿度、乗車率等の情報をマイコンに取り込み、その車両に必要な冷房能力を計算し、自動的に制御するものである。
【0021】
入力部200は、外部からの入力を受け付ける。すなわち、リターン温度センサ120、140から検出された車内温度、車内環境センサ121、141から検出された車内温度や車内湿度、車両情報制御装置112、132から伝送された着衣量補正、基準温度、車内温度の変化時間、乗車率、扉の開閉等の扉情報、などの入力を受け付ける。
【0022】
空調制御部201は、後に詳細に説明するが、要するに、条件に応じて空調の制御方法を、ファジー制御か領域制御かを割り当てる処理を実行する。それにより、ファジー制御による応答遅れが生じる可能性があったとしても、領域制御により空調を制御することができる。そのため、車内環境の変化に即座に対応することが可能となる。
【0023】
結果出力部202は、空調制御部201で算出された結果を外部の空調装置に出力する。これにより、図示しないアクチュエータ等が制御されるので、空調装置が制御される。
【0024】
次に、空調制御部201の詳細について説明する。
【0025】
すなわち、空調制御部201は、制御割当部210と、ファジー制御部211と、領域制御部212とを備えている。さらに、制御割当部210は、温度変化検出部220と、割当指令部222と、出力結果時間間隔計時部221とを備えており、これにより、車内環境の変化が急激に起きたときには、通常のファジー制御ではなく、領域制御に切り替えるようにしている。また、ファジー制御の演算に時間を要するときにも、領域制御に切り替えるようにしている。これらの処理により、常に、車内の空調環境を快適に保つことができるのである。
【0026】
具体的には、温度変化検出部220は、車内の温度が所定の基準値、例えば、冷房基準温度に対して+1.0℃以上であるかどうかを検出する。それに基づいて割当指令部222は、空調制御をファジー制御部211に割り当てるか、領域制御部212に割り当てるかの指令を出す。また、ファジー制御部211で制御内容を算出させるときに、ある一定の時間以上かかるときには、ある一定の時間、例えば、算出途中でさらに車内温度が上昇してしまうような時間間隔であるかを出力結果時間間隔計時部221がカウントし、その結果を割当指令部222に送ることにより、割当指令部222は、ファジー制御に要する時間をも考慮した割当指令を出すことが可能となる。このようにすることで、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。
【0027】
次に、ファジー制御部211の詳細について説明する。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の詳細機能ブロック図である。同図に示されるように、ファジー制御部211は、基準温度補正部300と、ファジー推論部301と、ステップカロリー算出部302とを備えている。さらに、ファジー推論部301は、能力変更量補正部310と、能力変更量演算部311と、リニアカロリー算出部312とを備えている。ファジー制御は、要するに、設定温度と車内温度との差、時々刻々と変化する車内温度等に基づいて空調能力を選択する。それにより、設定温度と車内温度とが一致するように空調装置を制御することができる。なお、冷房時には、湿度が高ければ除湿運転を実行させることで蒸し暑さに対処させてもよい。
【0029】
基準温度補正部300は、予め設定された温度である基準温度と、通年の乗客の着衣量により人体の快適温度が変動する点を考慮に入れた冷房基準温度としての着衣量補正と、に基づいて、基準温度を補正する。例えば、春期では、夏期に比べて着衣量は多いため、そのような点を考慮に入れて基準温度が調整される。
【0030】
次に、基準温度補正部300で補正された基準温度と、車内温度と、車内温度の変化勾配をパラメータとした車内温度の変化時間と、車内湿度と、に基づいて能力変更量、すなわち、空調能力変更量が補正される。換言すれば、入力された車内環境情報から空調能力変更量が補正される。例えば、詳細については後述するが、どの程度各車内環境情報へ属しているかを示す値として、0から1の間の値である適合度へ写像される。
【0031】
次いで、能力変更量演算部311は、適合度に変換された各種条件を予め制御ルールとして設定されている推論規則に当てはめることにより、ファジー推論を実行させ、現在稼働している冷房能力に対する補正量を算出する。なお、推論規則は、例えば、後述するメモリ領域の制御ルール格納領域905に予め格納されていてもよい。
【0032】
具体的には、ファジー推論には、例えば、2つの段階がある。ここでは空調装置110、130の制御である。従って、車両の物理量に関するメンバシップ関数による適合度の算出という段階と、算出された適合度を前提条件として推論する推論規則による空調能力の制御量、すなわち、冷房能力補正量算出という段階である。より具体的には、車両に関する物理量としての各変化量、例えば、目標値である基準温度と現在値である検出された現在温度との温度差に関するメンバシップ関数により、車内環境に対するそれぞれの条件、例えば、基準温度に対する適合度が算出される。また、例えば、温度の変化状況のメンバシップ関数であっても同様に適合度が算出される。続いて、算出された適合度を推論規則に当てはめることにより、ファジー推論が実行される。これにより、制御条件が境界値近傍であったとしても、自動的に制御量が算出され、空調装置が制御される。例えば、ファジー制御により冷房基準温度±1.0℃の間での細かい制御が自動的になされるのである。
【0033】
さらに具体的には、例えば、基準温度との温度差のメンバシップ関数は入力値を0から1の間の適合度に写像する。また、例えば、温度の変化状況のメンバシップ関数は入力値を0から1の間の適合度に写像する。また、乗車率や扉情報なども条件に設定してもよい。その場合、乗車率のメンバシップ関数は入力された乗車率を0から1の間の適合度に写像し、扉情報のメンバシップ関数は入力された扉情報を0から1の間の適合度に写像する。要するに、メンバシップ関数は、各変数をどの程度その集合に属しているかの適合度へ写像するものである。これによりあいまいな条件であっても、そのような条件が設定されている推論規則に当てはめることにより自動的に制御結果が算出されるのである。また、例えば、同じ目標値に対して、複数の複合した条件が重なるときには、より適合度の高い条件を採用することにより、より目標値に対して的確な制御を行うことができるようになる。
【0034】
次いで、メンバシップ関数により写像された各条件の適合度を予め定めた推論規則に当てはめさせる。より具体的には、上記で述べた適合度は複数の範囲の領域のいずれかに属するようにさせていてもよい。例えば、基準温度との温度差が0℃から0.2℃の範囲であれば適合度は「高い」領域にあり、0.2℃から0.4℃の範囲であれば適合度は「やや高い」領域にあり、0.4℃から0.6℃の範囲であれば適合度は「中」領域にあり、0.6℃から0.8℃の範囲であれば適合度は「やや低い」領域にあり、0.8℃から1.0℃の範囲であれば適合度は「低い」領域にあるとしてもよい。このように定義された「高い」、「やや高い」、「中」、「やや低い」、「低い」のそれぞれは推論規則の前提部に当てはめられる。その他のメンバシップ関数においても同様の処理がなされる。このとき、例えば、基準温度との温度差が0℃から0.2℃の範囲では適合度が一定値であるわけである必要はなく、基準温度から車内温度が離れていくに従って、適合度が減少していくようにしてもよい。
【0035】
また、これとは別に、基準温度との温度差を0.2℃、0.4℃、0.6℃、0.8℃、1.0℃と分類したとする。そのとき、0.2℃を「高い」、0.4℃を「やや高い」、0.6℃を「中」、0.8℃を「やや低い」、1.0℃を「低い」としたとする。このときには、0.2℃から離れるにつれて「高い」領域の適合度は下がり、0.4℃から離れるにつれて「やや高い」領域の適合度は下がり、0.6℃から離れるにつれて「中」領域の適合度は下がり、0.8℃から離れるにつれて「やや低い」領域の適合度は下がり、1.0℃から離れるにつれて「低い」領域の適合度は下がる。そのため、基準温度と車内温度との温度差が「高い」領域と「やや高い」領域との両方に所属する場合も考えられる。このときには、より適合度の高い条件が採用される。例えば、同じ温度差に対して「高い」領域の適合度が0.85、「やや高い」領域の適合度が0.25であれば、「高い」領域に属するとみなし、このときには温度差の適合度は「高い」として推論規則の前提条件に適用される。このようにして、ファジー制御は、境界値があいまいな状態であっても、演算処理を続けていけるのである。
【0036】
また、例えば、他の条件として着衣量のメンバシップ関数も考えられる。この場合、着衣量なので、例えば、「厚着」、「やや厚着」、「中」、「やや薄着」、「薄着」というように分類したとする。このときには、「厚着」の領域と「やや厚着」の領域とが重なる場合が考えられる。このときには、より適合度の高い方を条件として採用する。例えば、「厚着」の領域の適合度が0.8であり、「やや厚着」の領域の適合度が0.2であれば、「厚着」の領域にあるとみなし、適合度を0.8として推論規則に利用して処理される。
【0037】
次に、例えば、以下のような推論規則(数1)により現在の冷房能力に対する補正量が算出される。
【0038】
[数1]
if (基準温度との温度差 is 「低い」) and (温度の変化状況 is 「小さい」) and (乗車率 is 「満員」) and (扉情報 is 「開」) then 空調能力100% (数1)
【0039】
上記の式はほんの一例であり、各適合度の条件に当てはまるような多くの規則を順番に探索して解が求められる。そのため、場合によっては解の探索に膨大な時間がかかるものとなる。すなわち、ファジー制御は累積演算処理のため、細かな微調整の制御には向いているものの、急激な変化への応答性は低い。そこで、そのときには、後述する領域制御部212に処理を割り当てるのである。付言すると、if文の条件である(基準温度との温度差 is 「低い」)は、基準温度との温度差が低いという意味ではなく、基準温度との温度差への適合度が低い、すなわち、基準温度とはかけ離れているという意味であり、他の条件についても同様に解釈される。
【0040】
より具体的には、推論規則としてのif文は数値に変換された適合度の演算となる。そして、多数のif文による演算の結果を累積的に加算していくことにより最終的な制御量が算出されるのである。すなわち、累積演算処理が実行される。そのため、各if文の演算結果が全てそろうまで、最終的な制御量の算出処理は待たされることとなる。このことからも明らかなように、ファジー制御の演算は条件によって処理時間を要するものとなる。
【0041】
続いて、リニアカロリー算出部312は、能力変更量演算部311で求めた能力変更量に基づいてリニアカロリーを変更する。つまり、現在の冷房能力を必要な冷房能力にするための変更処理を実行する。
【0042】
続いて、ステップカロリー算出部302は、空調能力の段階であるステップカロリーを算出する。具体的には、リニアカロリーから実際の空調出力であるステップカロリーの平均値に変換する。
【0043】
このようにして、通常は、ファジー推論に基づいて、車内の環境の変化に応じた空調制御のためのステップカロリーが算出される。なお、以上のファジー制御部211の処理は常に実行されており、割当指令が到来したときに、外部に算出結果が出力され、それに基づいて空調装置の制御が実行される。
【0044】
次に、領域制御部212の詳細について説明する。
【0045】
図5は、本発明の実施の形態1における領域制御部の詳細機能ブロック図である。同図に示されるように、領域制御部212は、冷房基準温度判定部400と、車内温度範囲判定部401と、ステップカロリー設定部402と、車内湿度判定部403と、送風運転判定部404と、送風運転設定部405とを備えている。領域制御は、要するに、車内温度を決まった範囲ごとに運転能力を割り当てる制御である。これにより、空調装置の制御が実行される。なお、冷房時には、湿度が高ければ除湿運転を実行させることで蒸し暑さに対処させてもよい。
【0046】
すなわち、冷房基準温度判定部400は、車内温度が入力されたときには、車内温度が冷房基準温度を超えているかを判定する。具体的には、冷房基準温度を超えているときには車内温度範囲判定部401にさらに細かい温度範囲の判定をさせ、冷房基準温度を超えていないときには車内湿度判定部403に車内湿度の範囲を判定させる。付言すると、冷房基準温度は列車情報管理装置113で設定されてもよい。要するに、設定された冷房基準温度になるように空調装置110、130が制御されるのである。
【0047】
続いて、車内温度範囲判定部401は、判定された結果に基づいて、さらに車内温度がどの領域にあるかを判定する。具体的には、車内温度が冷房基準温度から+0.5℃の範囲にあるとき、+0.5℃から+1.0℃の範囲にあるとき、+1.0℃から+2.0℃の範囲にあるとき、をそれぞれ判定する。次に、ステップカロリー設定部402は、判定された範囲に基づいて空調能力の段階であるステップカロリーを設定する。具体的には、冷房基準温度から+0.5℃の範囲にあるときには圧縮機の稼働率を50%と設定し、+0.5℃から+1.0℃の範囲にあるときには圧縮機の稼働率を75%と設定し、+1.0℃から+2.0℃の範囲にあるときには圧縮機の稼働率を100%に設定するような設定指令を出せるようにしておく。なお、以上の領域制御部212の処理は常に実行されており、割当指令が到来したときに、外部に設定結果が出力され、それに基づいて空調装置の制御が実行される。
【0048】
次に、車内湿度判定部403は、車内湿度が入力されたときには、湿度が所定の範囲にあるかを判定し、さらに、冷房基準温度判定部400から送られた車内温度に基づいて所定の範囲に車内温度があるか後の処理で判定させるために値を保持するとともに次の送風運転判定部404に送る。具体的には、車内湿度が60%から100%の範囲にあるかを判定する。続いて、そのときの車内温度を送風運転判定部404に送る。
【0049】
次に、送風運転判定部404は、所定の条件を満たしたときに送風運転を実行するように判定する。具体的には、車内湿度が60%から100%の範囲で、かつ車内温度が冷房基準温度から−0.5℃の範囲であれば、ステップカロリー設定部402は圧縮機の稼働率を25%と設定し、それ以外であれば送風運転判定部404は圧縮機の稼働率を0%、すなわち、送風運転と判定する。
【0050】
次いで、送風運転設定部405では送風運転となるように空調装置に対する設定指令を出せるようにしておく。なお、以上の領域制御部212の処理は常に実行されており、割当指令が到来したときに、外部に設定結果が出力され、それに基づいて空調装置の制御が実行される。
【0051】
このようにして、領域制御では、最小0.5℃間隔で空調能力が仕分けられている。そのため、例えば、冷房基準温度と冷房基準温度から+1.0℃の間での空調制御に、ファジー制御が割り当てられていたときに、ファジー制御の演算遅れが生じたときであっても、領域制御に空調制御の割り当てを切り替えることにより、車内温度の上昇を防ぐことができる。また、領域制御では、空調能力を50%以上にする場合の車内温度の下限値は冷房基準温度である。そのため、領域制御を割り当てたときであっても、車内温度が過度に下げられることがない。それにより、車内温度は冷房基準温度近傍になり、その結果、過冷房となることにはならない。以上のことから明らかなように、ファジー制御に領域制御を取り入れることにより、空調能力を変更するときのタイムラグを生じさせないようにすることができる。従って、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。
【0052】
なお、言うまでもないことであるが、領域制御はファジー制御と異なり、推論規則による演算を必要としないため、累積演算処理は不要である。そのため、それだけ速く処理することが可能である。従って、車内の温度が急激に変化したときや、ファジー制御の演算に時間がかかるときには、領域制御に空調制御を割り当てることにより、応答性の高い処理を実行することができる。
【0053】
次に、領域制御運転パターンについて説明する。
【0054】
図6は、本発明の実施の形態1における領域制御運転パターンを示す図である。同図に示されるように、車内温度である制御温度(℃)と、相対湿度である車内湿度(%RH)と、に基づいて帯状の範囲として温度領域、湿度領域、をそれぞれ設定し、その領域毎に空調の運転能力、具体的には、圧縮機の稼働率を割り当てることにより空調装置を制御する。なお、TSCとは、冷房基準温度のことである。
【0055】
例えば、ステップカロリーをここでは5段階としている。具体的には段階1であるP1では空調能力0%、すなわち送風運転とし、段階2であるP2では空調能力25%、段階3であるP3では空調能力50%、段階4であるP4では空調能力75%、段階5であるP5では空調能力100%としている。このようにして合計5段階の空調能力制御を設定することができる。
【0056】
より具体的には、車内温度が冷房基準温度と冷房基準温度から+0.5℃との範囲のときには空調能力50%、冷房基準温度に対して+0.5℃と+1.0℃の範囲のときには空調能力75%、冷房基準温度に対して+1.0℃と+2.0℃の範囲のときには空調能力100%、冷房基準温度と冷房基準温度から−0.5℃かつ車内湿度が60%RHと100%RHの範囲にあるときには空調能力25%、車内湿度が60%RH以下かつ車内温度が冷房基準温度と冷房基準温度に対して−1.5℃の範囲にあるときには空調能力0%である送風運転、車内湿度が60%RHと100%RHの範囲かつ車内温度が冷房基準温度に対して−0.5℃と−1.5℃の範囲にあるときには空調能力0%である送風運転、とそれぞれ範囲が設定されている。
【0057】
このようにすることで、車内温度と車内湿度とが予め決められた範囲にあるときに、決められた空調制御を設定することができる。そのため、設定するための演算に余計な時間がかかることなく高速に設定させることができる。従って、ファジー制御では処理に時間がかかるときに領域制御を割り当てさせることにより、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。付言すれば、領域制御ではファジー制御に比べて解を求めるステップ数が極めて少ないために、その解の探索はファジー制御に比べて極めて速いのである。
【0058】
なお、領域制御運転パターンは、例えば、後述するメモリ領域の領域制御用運転パターン格納領域904に予め格納されていてもよい。
【0059】
次に、ファジー制御部211、制御割当部210、領域制御部212、それぞれの関係を図7の空調制御装置の制御シーケンス、図8のファジー制御部の状態遷移図、図9の領域制御部の状態遷移図、図10のメモリ領域の内容説明図を用いて説明する。
【0060】
図7は、本発明の実施の形態1における空調制御装置の制御シーケンス図である。図8は、本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の状態遷移図である。図9は、本発明の実施の形態1における領域制御部の状態遷移図である。図10は、本発明の実施の形態1におけるメモリ領域の内容説明図である。図7に示されるように、制御割当部210は、ファジー制御部211、領域制御部212のそれぞれに対して後述する車内環境の変化に応じて指令を出す。
【0061】
例えば、制御割当部210からファジー制御部211に実行停止指令600がなされたときには、図8に示されるように、ファジー制御部211は、実行状態700から中断状態701になる。このとき、ファジー制御部211で演算用に保持されていた各種パラメータは演算用領域901から図示しない待機用領域にいったん移動がなされる。移動が完了したときには、各種フラグ領域902にあるファジー制御待機フラグを1にして、待機状態702になり、制御割当部210に了解601と伝える。
【0062】
次に、制御割当部210は、領域制御部212に実行指令602を送る。このときには、領域制御部212は、図9に示されるように、待機状態802から実行状態800になる。すなわち、図示しない別の待機用領域に格納されていた領域制御用各種パラメータを演算用領域901に移動させ、上記で説明した各種処理が実行される。処理が終了したときには、停止状態801に移行し、演算用領域にある領域制御用各種パラメータを図示しない別の待機用領域に待避させ、各種フラグ領域902にある領域制御待機フラグを1にして、待機状態802になり、制御割当部210に実行終了603と伝える。
【0063】
次に、制御割当部210は、ファジー制御部211に実行指令604を出す。ファジー制御部211は実行指令604を受け取ったときには、待機状態702から実行状態700に移行する。すなわち、待機用領域にあった各種パラメータを再び演算用領域901に移動させ、ファジー制御待機フラグを0にして、実行状態700になり、制御割当部210に了解605と伝える。
【0064】
なお、ここで説明したファジー制御待機フラグ、領域制御待機フラグについては、制御割当の動作説明のときに詳述する。
【0065】
次に、メモリ領域について説明する。
【0066】
上記で述べたように、メモリ領域には、例えば、演算用領域901、各種フラグ領域902、車両温度等を格納するための車両情報格納領域903、領域制御用運転パターン格納領域904、制御ルール格納領域905がそれぞれ割り当てられている。このようにすることで、各種演算時に能率良くデータを取得できることができるとともに、誤ってデータを上書きするのを防ぐことができる。また、各種フラグ領域には、例えば、上記で説明したように、待機状態であるかを判定するフラグを立てておくことにより、ファジー制御部211が待機状態であるのか、領域制御部が待機状態であるかを判定することができる。このことにより、割当ミスを防ぐことができるようになる。このようなメモリ領域は、例えば、空調制御装置111、131に実装され、空調能力の算出時に利用される。
【0067】
次に、本発明の要部となる、制御割当の動作をフローチャートを用いて説明する。
【0068】
図11は、本発明の実施の形態1における制御割当フローチャートである。同図に示されるように、車内温度が冷房基準温度と比較され、それに応じてファジー制御にするか領域制御にするかの割り当て制御が実行される(S1000〜S1400)。
【0069】
すなわち、温度変化検出部220により、比較処理が実行される。具体的には、リターン温度センサ120により入力された車内温度が入力部200を介して温度変化検出部220に入力され、入力された車内温度と、予め列車情報管理装置113により設定された冷房基準温度との比較処理が実行される。冷房基準温度+1.0℃以上でないときには(S1000NO)、通常はファジー制御部211に空調処理を割り当てているため、ファジー制御待機フラグが0であることを確認後、ファジー制御演算結果が出力されたときには(S1100YES)、ファジー制御部211に割当指令を出し、ファジー制御部211はステップカロリー算出結果を外部に出力し(S1300)、処理は終了する。この後、各種アクチュエータを作動させ、算出結果に基づいて空調装置110の空調能力の制御がなされる。
【0070】
また、ファジー制御演算結果が出力されないときには(S1100NO)、ファジー制御の演算に時間がかかっているため、演算結果のレスポンスが車内温度の上昇する所定の時間に間に合うかを確認する。具体的には、所定時間経過していないときには(S1200NO)、通常通り、ファジー制御による空調制御を実行させるために、再び、ファジー制御演算結果が出力されるかの判定処理に移行する(S1100)。これに対して、所定時間経過したときには(S1200YES)、車内温度が上昇する前に演算結果が出力されない虞があるため、領域制御待機フラグが1であることを確認後、領域制御に処理を移行させ、領域制御部212に割当指令を出し、領域制御待機フラグを0にした後、領域制御部212はステップカロリー設定結果を外部に出力し(S1400)、出力後に領域制御待機フラグを再び1に設定して処理は終了する。この後、各種アクチュエータを作動させ、設定結果に基づいて空調装置110の空調能力の制御がなされる。
【0071】
また、冷房基準温度+1.0℃以上であるときには(S1000YES)、車内温度が急激に上昇している。そこで、応答性の速い領域制御を実行させるため、ファジー制御待機フラグを1に設定し、領域制御待機フラグが1であることを確認後、領域制御部212に割当指令を出し、領域制御待機フラグを0にした後、領域制御部212はステップカロリー設定結果を外部に出力し(S1400)、出力後に領域制御待機フラグを再び1に設定し、ファジー制御待機フラグを0に設定した後に処理は終了する。処理終了後、デフォルトのファジー制御による空調制御処理に戻る。
【0072】
このように、ファジー制御部211と領域制御部212とはそれぞれが常に車内環境に関する情報を取得して空調制御に必要なステップカロリーが求められており、制御割当部210の割当指令部222から割当指令が到来したときには、その結果を出力させる。このため、車内の温度が急激に上昇したときには応答性の速い領域制御部212に処理を割り当てることができる。このため、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。
【符号の説明】
【0073】
100:編成車両、101:先頭車両、102、103:中間車両、110、130:空調装置、111、131:空調制御装置、112、132:車両情報制御装置、113:列車情報管理装置、120、140:リターン温度センサ、121、141:車内環境センサ、122、142:応荷重センサ、200:入力部、201:空調制御部、202:結果出力部、210:制御割当部、211:ファジー制御部、212:領域制御部、150:圧縮機、151:凝縮器、152:ドライヤ、153:減圧装置、154:蒸発器、155:室外送風機、156:室内送風機、220:温度変化検出部、221:出力結果時間間隔計時部、222:割当指令部、300:基準温度補正部、301:ファジー推論部、302:ステップカロリー算出部、310:能力変更量補正部、311:能力変更量演算部、312:リニアカロリー算出部、400:冷房基準温度判定部、401:車内温度範囲判定部、402:ステップカロリー設定部、403:車内湿度判定部、404:送風運転判定部、405:送風運転設定部、700:実行状態、701:中断状態、702:待機状態、800:実行状態、801:停止状態、802:待機状態、901:演算用領域、902:各種フラグ領域、903:車両情報格納領域、904:領域制御用運転パターン格納領域、905:制御ルール格納領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空気調和機、例えば、ファジー制御と領域制御とを組み合わせた車両用空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空気調和機として、例えば、「制御条件検索部13,14により検索された制御条件を所定の制御ルールと照合して冷暖房装置5における冷暖房能力の変化量Pwを決定する」(特許文献1参照)というものがある。
【0003】
このようなものにおいては、「室内温度Taが設定温度Tsと近い場合においても、室内温度Taの温度変化率ΔTr等を考慮したきめ細かな制御がなされる結果、設定温度Tsに対する室内温度Taの一致度が極めて高くなる効果を奏する」(特許文献1参照)とされている。
【0004】
また、例えば、「圧縮機出力および再熱器出力は、制御ルール記憶手段54に記憶されている制御ルールに従って、ファジィ演算により計算する」(特許文献2参照)というものがある。
【0005】
このようなものにおいては、「空調負荷および空調負荷の変化量を推定して外乱の影響を打ち消すように制御を行っているので、外乱が入った場合でも車内温度が設定車内温度から大きくはずれることを避けることができ、省エネルギでかつ快適な空気調和が行なえる」(特許文献2参照)とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−159246号公報(段落0037)
【特許文献2】特開平5−264086号公報(段落0048、0052)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のいずれにおいてもファジー制御で空調制御がなされるため、急激な温度変化に対する応答性が低いという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる車両用空気調和機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両用空気調和機は、圧縮機、凝縮器、減圧手段、及び蒸発器を冷媒配管で順次接続して構成する冷媒サイクルと、鉄道車両の車内温度を検出する温度センサと、前記鉄道車両の車内湿度を検出する湿度センサと、を備えた車両用空気調和機であって、少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により定めれる車内環境の現在値に対して、前記現在値の前記車内環境の目標値への適合度合いを示す適合度を求めるメンバシップ関数、及び前記適合度を条件とする推論規則、によりファジー制御演算を実行することで空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御するファジー制御手段と、少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により一律に定められた割当範囲に基づいて空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御する領域制御手段と、前記現在値と前記目標値との温度差に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当て、または、前記現在値と前記目標値との温度差と前記ファジー制御演算の実行時間に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当てる、制御割当手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用空気調和機は、ファジー制御と領域制御とを適宜切り替えることにより、急激な温度変化に対する応答性を高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における車両用空気調和機が搭載された編成列車を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1における空調装置の冷凍サイクルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における空調制御装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の詳細機能ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態1における領域制御部の詳細機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態1における領域制御運転パターンを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1における空調制御装置の制御シーケンス図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の状態遷移図である。
【図9】本発明の実施の形態1における領域制御部の状態遷移図である。
【図10】本発明の実施の形態1におけるメモリ領域の内容説明図である。
【図11】本発明の実施の形態1における制御割当フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両用空気調和機の実施形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における車両用空気調和機が搭載された編成列車を示す概略図である。同図に示されるように、編成車両100は、先頭車両101、中間車両102、中間車両102に後続する中間車両103、中間車両103に後続する図示しない複数の車両から編成される。
【0014】
次に、各車両の詳細について説明する。先頭車両101には、空調装置110、空調制御装置111、車両情報制御装置112、列車情報管理装置113、リターン温度センサ120、車内環境センサ121、応荷重センサ122が備えられている。中間車両102にも同様に、空調装置130、空調制御装置131、車両情報制御装置132、リターン温度センサ140、車内環境センサ141、応荷重センサ142が備えられている。また、図示は省略しているが、中間車両103についても同様のものが備えられており、さらに中間車両103に後続する図示しない複数の車両にも同様のものが備えられている。なお、中間車両102、103、中間車両103に後続する複数の車両においては、言うまでもないことであるが、先頭車両ではないため、乗務員室はない。そのため、列車情報管理装置113は備えられていない。
【0015】
ここで、空調装置110、130は、空調制御装置111、131によって車内の環境が快適となるように制御される。まず、車内天井に設置された図示しないリターンエアフィルタより流れてくる車内空気の温度を車内天井裏に設置されたリターン温度センサ120、140が検出する。さらに、車内のつり革付近の高さの壁面に設置された車内環境センサ121、141が、常時車内湿度を検出するとともに、暖房時には車内空気の温度を検出する。また、車両下部に設置された応荷重センサ122、142が車両に加わる圧力を検出する。そして検出された圧力に基づいて車両情報制御装置112、132により乗車率が算出される。具体的には、車両が空車であるときの圧力と検出された圧力との差が算出され、その差分を標準的な体格の乗客の重さによる圧力値で除することにより、現在の乗車人数が算出される。そして、算出された乗車人数を予め定められた乗車定員数で除することにより乗車率が算出される。例えば、算出された乗車率は車両のドアが閉じられてから1秒経過したときの値が乗車率として利用される。この値は次のドア開閉時までの乗車率として保持される。
【0016】
また、先頭車両101の乗務員室に設置された列車情報管理装置113は伝送線を介して集約される情報を基に車両情報制御装置112、132に指令を出す。具体的には、列車情報管理装置113では、ドア開閉状態、空調運転状態、乗車率、外気温等が統合管理されている。そして空調運転状態には車内温度、車内湿度、冷房、暖房、送風、除湿、空調強運転、空調微運転、空調停止などが含まれている。このような状態で、列車情報管理装置113から適宜、車両情報制御装置112、132に伝送線を介して冷房指令、暖房指令、設定温度、乗車率、ドア開閉状態としての扉情報などの情報が送られる。
【0017】
また、空調装置110、130は、冷凍サイクルを備えている。詳細については図2に示す。図2は、本発明の実施の形態1における空調装置の冷凍サイクルを示す図である。冷凍サイクルは、圧縮機150と、凝縮器151と、減圧装置(例えば、キャピラリーチューブ)153と、蒸発器154とが冷媒配管で循環するように接続されて形成されている。また、図2に示されるように、室外送風機155及び室内送風機156を備えている。同図中、実線矢印は冷媒の流れる方向を示し、破線矢印は、室外送風機155からであれば、室外送風機155から凝縮器151を通した排熱の流れを示し、室内送風機156を通るものであれば、蒸発器154を通して室内送風機156から送風される冷風の流れを示す。これらにより、車内の冷房運転が行われる。すなわち、圧縮機150により冷媒は高温高圧に圧縮され、凝縮器151により車外へ熱を放散し、ドライヤにより過冷却液の不純物を取り除き、減圧装置153により冷媒は低温低圧に膨張され、蒸発器154により車内の暖かい空気から熱を奪う。そのような冷凍サイクルにより、車内を冷房することができる。付言すれば、空調装置110、130は、いわゆる一体型冷房装置であり、ユニットクーラとして車両の屋根上に搭載される。
【0018】
続いて、空調制御装置111、131は、車両情報制御装置112、132からそれぞれ伝送される先に説明した情報や、リターン温度センサ120、140や車内環境センサ121、141から得られる情報に基づいて空調の制御を実行させる。
【0019】
次に、空調制御装置111、131について説明する。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態1における空調制御装置の機能ブロック図である。同図に示されるように、空調制御装置111、131は、それぞれ、入力部200と、空調制御部201と、結果出力部202とを備えている。付言すれば、空調制御装置は、例えば、マイコンにより実装されるマイコン制御であり、例えば、温度、湿度、乗車率等の情報をマイコンに取り込み、その車両に必要な冷房能力を計算し、自動的に制御するものである。
【0021】
入力部200は、外部からの入力を受け付ける。すなわち、リターン温度センサ120、140から検出された車内温度、車内環境センサ121、141から検出された車内温度や車内湿度、車両情報制御装置112、132から伝送された着衣量補正、基準温度、車内温度の変化時間、乗車率、扉の開閉等の扉情報、などの入力を受け付ける。
【0022】
空調制御部201は、後に詳細に説明するが、要するに、条件に応じて空調の制御方法を、ファジー制御か領域制御かを割り当てる処理を実行する。それにより、ファジー制御による応答遅れが生じる可能性があったとしても、領域制御により空調を制御することができる。そのため、車内環境の変化に即座に対応することが可能となる。
【0023】
結果出力部202は、空調制御部201で算出された結果を外部の空調装置に出力する。これにより、図示しないアクチュエータ等が制御されるので、空調装置が制御される。
【0024】
次に、空調制御部201の詳細について説明する。
【0025】
すなわち、空調制御部201は、制御割当部210と、ファジー制御部211と、領域制御部212とを備えている。さらに、制御割当部210は、温度変化検出部220と、割当指令部222と、出力結果時間間隔計時部221とを備えており、これにより、車内環境の変化が急激に起きたときには、通常のファジー制御ではなく、領域制御に切り替えるようにしている。また、ファジー制御の演算に時間を要するときにも、領域制御に切り替えるようにしている。これらの処理により、常に、車内の空調環境を快適に保つことができるのである。
【0026】
具体的には、温度変化検出部220は、車内の温度が所定の基準値、例えば、冷房基準温度に対して+1.0℃以上であるかどうかを検出する。それに基づいて割当指令部222は、空調制御をファジー制御部211に割り当てるか、領域制御部212に割り当てるかの指令を出す。また、ファジー制御部211で制御内容を算出させるときに、ある一定の時間以上かかるときには、ある一定の時間、例えば、算出途中でさらに車内温度が上昇してしまうような時間間隔であるかを出力結果時間間隔計時部221がカウントし、その結果を割当指令部222に送ることにより、割当指令部222は、ファジー制御に要する時間をも考慮した割当指令を出すことが可能となる。このようにすることで、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。
【0027】
次に、ファジー制御部211の詳細について説明する。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の詳細機能ブロック図である。同図に示されるように、ファジー制御部211は、基準温度補正部300と、ファジー推論部301と、ステップカロリー算出部302とを備えている。さらに、ファジー推論部301は、能力変更量補正部310と、能力変更量演算部311と、リニアカロリー算出部312とを備えている。ファジー制御は、要するに、設定温度と車内温度との差、時々刻々と変化する車内温度等に基づいて空調能力を選択する。それにより、設定温度と車内温度とが一致するように空調装置を制御することができる。なお、冷房時には、湿度が高ければ除湿運転を実行させることで蒸し暑さに対処させてもよい。
【0029】
基準温度補正部300は、予め設定された温度である基準温度と、通年の乗客の着衣量により人体の快適温度が変動する点を考慮に入れた冷房基準温度としての着衣量補正と、に基づいて、基準温度を補正する。例えば、春期では、夏期に比べて着衣量は多いため、そのような点を考慮に入れて基準温度が調整される。
【0030】
次に、基準温度補正部300で補正された基準温度と、車内温度と、車内温度の変化勾配をパラメータとした車内温度の変化時間と、車内湿度と、に基づいて能力変更量、すなわち、空調能力変更量が補正される。換言すれば、入力された車内環境情報から空調能力変更量が補正される。例えば、詳細については後述するが、どの程度各車内環境情報へ属しているかを示す値として、0から1の間の値である適合度へ写像される。
【0031】
次いで、能力変更量演算部311は、適合度に変換された各種条件を予め制御ルールとして設定されている推論規則に当てはめることにより、ファジー推論を実行させ、現在稼働している冷房能力に対する補正量を算出する。なお、推論規則は、例えば、後述するメモリ領域の制御ルール格納領域905に予め格納されていてもよい。
【0032】
具体的には、ファジー推論には、例えば、2つの段階がある。ここでは空調装置110、130の制御である。従って、車両の物理量に関するメンバシップ関数による適合度の算出という段階と、算出された適合度を前提条件として推論する推論規則による空調能力の制御量、すなわち、冷房能力補正量算出という段階である。より具体的には、車両に関する物理量としての各変化量、例えば、目標値である基準温度と現在値である検出された現在温度との温度差に関するメンバシップ関数により、車内環境に対するそれぞれの条件、例えば、基準温度に対する適合度が算出される。また、例えば、温度の変化状況のメンバシップ関数であっても同様に適合度が算出される。続いて、算出された適合度を推論規則に当てはめることにより、ファジー推論が実行される。これにより、制御条件が境界値近傍であったとしても、自動的に制御量が算出され、空調装置が制御される。例えば、ファジー制御により冷房基準温度±1.0℃の間での細かい制御が自動的になされるのである。
【0033】
さらに具体的には、例えば、基準温度との温度差のメンバシップ関数は入力値を0から1の間の適合度に写像する。また、例えば、温度の変化状況のメンバシップ関数は入力値を0から1の間の適合度に写像する。また、乗車率や扉情報なども条件に設定してもよい。その場合、乗車率のメンバシップ関数は入力された乗車率を0から1の間の適合度に写像し、扉情報のメンバシップ関数は入力された扉情報を0から1の間の適合度に写像する。要するに、メンバシップ関数は、各変数をどの程度その集合に属しているかの適合度へ写像するものである。これによりあいまいな条件であっても、そのような条件が設定されている推論規則に当てはめることにより自動的に制御結果が算出されるのである。また、例えば、同じ目標値に対して、複数の複合した条件が重なるときには、より適合度の高い条件を採用することにより、より目標値に対して的確な制御を行うことができるようになる。
【0034】
次いで、メンバシップ関数により写像された各条件の適合度を予め定めた推論規則に当てはめさせる。より具体的には、上記で述べた適合度は複数の範囲の領域のいずれかに属するようにさせていてもよい。例えば、基準温度との温度差が0℃から0.2℃の範囲であれば適合度は「高い」領域にあり、0.2℃から0.4℃の範囲であれば適合度は「やや高い」領域にあり、0.4℃から0.6℃の範囲であれば適合度は「中」領域にあり、0.6℃から0.8℃の範囲であれば適合度は「やや低い」領域にあり、0.8℃から1.0℃の範囲であれば適合度は「低い」領域にあるとしてもよい。このように定義された「高い」、「やや高い」、「中」、「やや低い」、「低い」のそれぞれは推論規則の前提部に当てはめられる。その他のメンバシップ関数においても同様の処理がなされる。このとき、例えば、基準温度との温度差が0℃から0.2℃の範囲では適合度が一定値であるわけである必要はなく、基準温度から車内温度が離れていくに従って、適合度が減少していくようにしてもよい。
【0035】
また、これとは別に、基準温度との温度差を0.2℃、0.4℃、0.6℃、0.8℃、1.0℃と分類したとする。そのとき、0.2℃を「高い」、0.4℃を「やや高い」、0.6℃を「中」、0.8℃を「やや低い」、1.0℃を「低い」としたとする。このときには、0.2℃から離れるにつれて「高い」領域の適合度は下がり、0.4℃から離れるにつれて「やや高い」領域の適合度は下がり、0.6℃から離れるにつれて「中」領域の適合度は下がり、0.8℃から離れるにつれて「やや低い」領域の適合度は下がり、1.0℃から離れるにつれて「低い」領域の適合度は下がる。そのため、基準温度と車内温度との温度差が「高い」領域と「やや高い」領域との両方に所属する場合も考えられる。このときには、より適合度の高い条件が採用される。例えば、同じ温度差に対して「高い」領域の適合度が0.85、「やや高い」領域の適合度が0.25であれば、「高い」領域に属するとみなし、このときには温度差の適合度は「高い」として推論規則の前提条件に適用される。このようにして、ファジー制御は、境界値があいまいな状態であっても、演算処理を続けていけるのである。
【0036】
また、例えば、他の条件として着衣量のメンバシップ関数も考えられる。この場合、着衣量なので、例えば、「厚着」、「やや厚着」、「中」、「やや薄着」、「薄着」というように分類したとする。このときには、「厚着」の領域と「やや厚着」の領域とが重なる場合が考えられる。このときには、より適合度の高い方を条件として採用する。例えば、「厚着」の領域の適合度が0.8であり、「やや厚着」の領域の適合度が0.2であれば、「厚着」の領域にあるとみなし、適合度を0.8として推論規則に利用して処理される。
【0037】
次に、例えば、以下のような推論規則(数1)により現在の冷房能力に対する補正量が算出される。
【0038】
[数1]
if (基準温度との温度差 is 「低い」) and (温度の変化状況 is 「小さい」) and (乗車率 is 「満員」) and (扉情報 is 「開」) then 空調能力100% (数1)
【0039】
上記の式はほんの一例であり、各適合度の条件に当てはまるような多くの規則を順番に探索して解が求められる。そのため、場合によっては解の探索に膨大な時間がかかるものとなる。すなわち、ファジー制御は累積演算処理のため、細かな微調整の制御には向いているものの、急激な変化への応答性は低い。そこで、そのときには、後述する領域制御部212に処理を割り当てるのである。付言すると、if文の条件である(基準温度との温度差 is 「低い」)は、基準温度との温度差が低いという意味ではなく、基準温度との温度差への適合度が低い、すなわち、基準温度とはかけ離れているという意味であり、他の条件についても同様に解釈される。
【0040】
より具体的には、推論規則としてのif文は数値に変換された適合度の演算となる。そして、多数のif文による演算の結果を累積的に加算していくことにより最終的な制御量が算出されるのである。すなわち、累積演算処理が実行される。そのため、各if文の演算結果が全てそろうまで、最終的な制御量の算出処理は待たされることとなる。このことからも明らかなように、ファジー制御の演算は条件によって処理時間を要するものとなる。
【0041】
続いて、リニアカロリー算出部312は、能力変更量演算部311で求めた能力変更量に基づいてリニアカロリーを変更する。つまり、現在の冷房能力を必要な冷房能力にするための変更処理を実行する。
【0042】
続いて、ステップカロリー算出部302は、空調能力の段階であるステップカロリーを算出する。具体的には、リニアカロリーから実際の空調出力であるステップカロリーの平均値に変換する。
【0043】
このようにして、通常は、ファジー推論に基づいて、車内の環境の変化に応じた空調制御のためのステップカロリーが算出される。なお、以上のファジー制御部211の処理は常に実行されており、割当指令が到来したときに、外部に算出結果が出力され、それに基づいて空調装置の制御が実行される。
【0044】
次に、領域制御部212の詳細について説明する。
【0045】
図5は、本発明の実施の形態1における領域制御部の詳細機能ブロック図である。同図に示されるように、領域制御部212は、冷房基準温度判定部400と、車内温度範囲判定部401と、ステップカロリー設定部402と、車内湿度判定部403と、送風運転判定部404と、送風運転設定部405とを備えている。領域制御は、要するに、車内温度を決まった範囲ごとに運転能力を割り当てる制御である。これにより、空調装置の制御が実行される。なお、冷房時には、湿度が高ければ除湿運転を実行させることで蒸し暑さに対処させてもよい。
【0046】
すなわち、冷房基準温度判定部400は、車内温度が入力されたときには、車内温度が冷房基準温度を超えているかを判定する。具体的には、冷房基準温度を超えているときには車内温度範囲判定部401にさらに細かい温度範囲の判定をさせ、冷房基準温度を超えていないときには車内湿度判定部403に車内湿度の範囲を判定させる。付言すると、冷房基準温度は列車情報管理装置113で設定されてもよい。要するに、設定された冷房基準温度になるように空調装置110、130が制御されるのである。
【0047】
続いて、車内温度範囲判定部401は、判定された結果に基づいて、さらに車内温度がどの領域にあるかを判定する。具体的には、車内温度が冷房基準温度から+0.5℃の範囲にあるとき、+0.5℃から+1.0℃の範囲にあるとき、+1.0℃から+2.0℃の範囲にあるとき、をそれぞれ判定する。次に、ステップカロリー設定部402は、判定された範囲に基づいて空調能力の段階であるステップカロリーを設定する。具体的には、冷房基準温度から+0.5℃の範囲にあるときには圧縮機の稼働率を50%と設定し、+0.5℃から+1.0℃の範囲にあるときには圧縮機の稼働率を75%と設定し、+1.0℃から+2.0℃の範囲にあるときには圧縮機の稼働率を100%に設定するような設定指令を出せるようにしておく。なお、以上の領域制御部212の処理は常に実行されており、割当指令が到来したときに、外部に設定結果が出力され、それに基づいて空調装置の制御が実行される。
【0048】
次に、車内湿度判定部403は、車内湿度が入力されたときには、湿度が所定の範囲にあるかを判定し、さらに、冷房基準温度判定部400から送られた車内温度に基づいて所定の範囲に車内温度があるか後の処理で判定させるために値を保持するとともに次の送風運転判定部404に送る。具体的には、車内湿度が60%から100%の範囲にあるかを判定する。続いて、そのときの車内温度を送風運転判定部404に送る。
【0049】
次に、送風運転判定部404は、所定の条件を満たしたときに送風運転を実行するように判定する。具体的には、車内湿度が60%から100%の範囲で、かつ車内温度が冷房基準温度から−0.5℃の範囲であれば、ステップカロリー設定部402は圧縮機の稼働率を25%と設定し、それ以外であれば送風運転判定部404は圧縮機の稼働率を0%、すなわち、送風運転と判定する。
【0050】
次いで、送風運転設定部405では送風運転となるように空調装置に対する設定指令を出せるようにしておく。なお、以上の領域制御部212の処理は常に実行されており、割当指令が到来したときに、外部に設定結果が出力され、それに基づいて空調装置の制御が実行される。
【0051】
このようにして、領域制御では、最小0.5℃間隔で空調能力が仕分けられている。そのため、例えば、冷房基準温度と冷房基準温度から+1.0℃の間での空調制御に、ファジー制御が割り当てられていたときに、ファジー制御の演算遅れが生じたときであっても、領域制御に空調制御の割り当てを切り替えることにより、車内温度の上昇を防ぐことができる。また、領域制御では、空調能力を50%以上にする場合の車内温度の下限値は冷房基準温度である。そのため、領域制御を割り当てたときであっても、車内温度が過度に下げられることがない。それにより、車内温度は冷房基準温度近傍になり、その結果、過冷房となることにはならない。以上のことから明らかなように、ファジー制御に領域制御を取り入れることにより、空調能力を変更するときのタイムラグを生じさせないようにすることができる。従って、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。
【0052】
なお、言うまでもないことであるが、領域制御はファジー制御と異なり、推論規則による演算を必要としないため、累積演算処理は不要である。そのため、それだけ速く処理することが可能である。従って、車内の温度が急激に変化したときや、ファジー制御の演算に時間がかかるときには、領域制御に空調制御を割り当てることにより、応答性の高い処理を実行することができる。
【0053】
次に、領域制御運転パターンについて説明する。
【0054】
図6は、本発明の実施の形態1における領域制御運転パターンを示す図である。同図に示されるように、車内温度である制御温度(℃)と、相対湿度である車内湿度(%RH)と、に基づいて帯状の範囲として温度領域、湿度領域、をそれぞれ設定し、その領域毎に空調の運転能力、具体的には、圧縮機の稼働率を割り当てることにより空調装置を制御する。なお、TSCとは、冷房基準温度のことである。
【0055】
例えば、ステップカロリーをここでは5段階としている。具体的には段階1であるP1では空調能力0%、すなわち送風運転とし、段階2であるP2では空調能力25%、段階3であるP3では空調能力50%、段階4であるP4では空調能力75%、段階5であるP5では空調能力100%としている。このようにして合計5段階の空調能力制御を設定することができる。
【0056】
より具体的には、車内温度が冷房基準温度と冷房基準温度から+0.5℃との範囲のときには空調能力50%、冷房基準温度に対して+0.5℃と+1.0℃の範囲のときには空調能力75%、冷房基準温度に対して+1.0℃と+2.0℃の範囲のときには空調能力100%、冷房基準温度と冷房基準温度から−0.5℃かつ車内湿度が60%RHと100%RHの範囲にあるときには空調能力25%、車内湿度が60%RH以下かつ車内温度が冷房基準温度と冷房基準温度に対して−1.5℃の範囲にあるときには空調能力0%である送風運転、車内湿度が60%RHと100%RHの範囲かつ車内温度が冷房基準温度に対して−0.5℃と−1.5℃の範囲にあるときには空調能力0%である送風運転、とそれぞれ範囲が設定されている。
【0057】
このようにすることで、車内温度と車内湿度とが予め決められた範囲にあるときに、決められた空調制御を設定することができる。そのため、設定するための演算に余計な時間がかかることなく高速に設定させることができる。従って、ファジー制御では処理に時間がかかるときに領域制御を割り当てさせることにより、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。付言すれば、領域制御ではファジー制御に比べて解を求めるステップ数が極めて少ないために、その解の探索はファジー制御に比べて極めて速いのである。
【0058】
なお、領域制御運転パターンは、例えば、後述するメモリ領域の領域制御用運転パターン格納領域904に予め格納されていてもよい。
【0059】
次に、ファジー制御部211、制御割当部210、領域制御部212、それぞれの関係を図7の空調制御装置の制御シーケンス、図8のファジー制御部の状態遷移図、図9の領域制御部の状態遷移図、図10のメモリ領域の内容説明図を用いて説明する。
【0060】
図7は、本発明の実施の形態1における空調制御装置の制御シーケンス図である。図8は、本発明の実施の形態1におけるファジー制御部の状態遷移図である。図9は、本発明の実施の形態1における領域制御部の状態遷移図である。図10は、本発明の実施の形態1におけるメモリ領域の内容説明図である。図7に示されるように、制御割当部210は、ファジー制御部211、領域制御部212のそれぞれに対して後述する車内環境の変化に応じて指令を出す。
【0061】
例えば、制御割当部210からファジー制御部211に実行停止指令600がなされたときには、図8に示されるように、ファジー制御部211は、実行状態700から中断状態701になる。このとき、ファジー制御部211で演算用に保持されていた各種パラメータは演算用領域901から図示しない待機用領域にいったん移動がなされる。移動が完了したときには、各種フラグ領域902にあるファジー制御待機フラグを1にして、待機状態702になり、制御割当部210に了解601と伝える。
【0062】
次に、制御割当部210は、領域制御部212に実行指令602を送る。このときには、領域制御部212は、図9に示されるように、待機状態802から実行状態800になる。すなわち、図示しない別の待機用領域に格納されていた領域制御用各種パラメータを演算用領域901に移動させ、上記で説明した各種処理が実行される。処理が終了したときには、停止状態801に移行し、演算用領域にある領域制御用各種パラメータを図示しない別の待機用領域に待避させ、各種フラグ領域902にある領域制御待機フラグを1にして、待機状態802になり、制御割当部210に実行終了603と伝える。
【0063】
次に、制御割当部210は、ファジー制御部211に実行指令604を出す。ファジー制御部211は実行指令604を受け取ったときには、待機状態702から実行状態700に移行する。すなわち、待機用領域にあった各種パラメータを再び演算用領域901に移動させ、ファジー制御待機フラグを0にして、実行状態700になり、制御割当部210に了解605と伝える。
【0064】
なお、ここで説明したファジー制御待機フラグ、領域制御待機フラグについては、制御割当の動作説明のときに詳述する。
【0065】
次に、メモリ領域について説明する。
【0066】
上記で述べたように、メモリ領域には、例えば、演算用領域901、各種フラグ領域902、車両温度等を格納するための車両情報格納領域903、領域制御用運転パターン格納領域904、制御ルール格納領域905がそれぞれ割り当てられている。このようにすることで、各種演算時に能率良くデータを取得できることができるとともに、誤ってデータを上書きするのを防ぐことができる。また、各種フラグ領域には、例えば、上記で説明したように、待機状態であるかを判定するフラグを立てておくことにより、ファジー制御部211が待機状態であるのか、領域制御部が待機状態であるかを判定することができる。このことにより、割当ミスを防ぐことができるようになる。このようなメモリ領域は、例えば、空調制御装置111、131に実装され、空調能力の算出時に利用される。
【0067】
次に、本発明の要部となる、制御割当の動作をフローチャートを用いて説明する。
【0068】
図11は、本発明の実施の形態1における制御割当フローチャートである。同図に示されるように、車内温度が冷房基準温度と比較され、それに応じてファジー制御にするか領域制御にするかの割り当て制御が実行される(S1000〜S1400)。
【0069】
すなわち、温度変化検出部220により、比較処理が実行される。具体的には、リターン温度センサ120により入力された車内温度が入力部200を介して温度変化検出部220に入力され、入力された車内温度と、予め列車情報管理装置113により設定された冷房基準温度との比較処理が実行される。冷房基準温度+1.0℃以上でないときには(S1000NO)、通常はファジー制御部211に空調処理を割り当てているため、ファジー制御待機フラグが0であることを確認後、ファジー制御演算結果が出力されたときには(S1100YES)、ファジー制御部211に割当指令を出し、ファジー制御部211はステップカロリー算出結果を外部に出力し(S1300)、処理は終了する。この後、各種アクチュエータを作動させ、算出結果に基づいて空調装置110の空調能力の制御がなされる。
【0070】
また、ファジー制御演算結果が出力されないときには(S1100NO)、ファジー制御の演算に時間がかかっているため、演算結果のレスポンスが車内温度の上昇する所定の時間に間に合うかを確認する。具体的には、所定時間経過していないときには(S1200NO)、通常通り、ファジー制御による空調制御を実行させるために、再び、ファジー制御演算結果が出力されるかの判定処理に移行する(S1100)。これに対して、所定時間経過したときには(S1200YES)、車内温度が上昇する前に演算結果が出力されない虞があるため、領域制御待機フラグが1であることを確認後、領域制御に処理を移行させ、領域制御部212に割当指令を出し、領域制御待機フラグを0にした後、領域制御部212はステップカロリー設定結果を外部に出力し(S1400)、出力後に領域制御待機フラグを再び1に設定して処理は終了する。この後、各種アクチュエータを作動させ、設定結果に基づいて空調装置110の空調能力の制御がなされる。
【0071】
また、冷房基準温度+1.0℃以上であるときには(S1000YES)、車内温度が急激に上昇している。そこで、応答性の速い領域制御を実行させるため、ファジー制御待機フラグを1に設定し、領域制御待機フラグが1であることを確認後、領域制御部212に割当指令を出し、領域制御待機フラグを0にした後、領域制御部212はステップカロリー設定結果を外部に出力し(S1400)、出力後に領域制御待機フラグを再び1に設定し、ファジー制御待機フラグを0に設定した後に処理は終了する。処理終了後、デフォルトのファジー制御による空調制御処理に戻る。
【0072】
このように、ファジー制御部211と領域制御部212とはそれぞれが常に車内環境に関する情報を取得して空調制御に必要なステップカロリーが求められており、制御割当部210の割当指令部222から割当指令が到来したときには、その結果を出力させる。このため、車内の温度が急激に上昇したときには応答性の速い領域制御部212に処理を割り当てることができる。このため、急激な温度変化に対する応答性を高めることができる。
【符号の説明】
【0073】
100:編成車両、101:先頭車両、102、103:中間車両、110、130:空調装置、111、131:空調制御装置、112、132:車両情報制御装置、113:列車情報管理装置、120、140:リターン温度センサ、121、141:車内環境センサ、122、142:応荷重センサ、200:入力部、201:空調制御部、202:結果出力部、210:制御割当部、211:ファジー制御部、212:領域制御部、150:圧縮機、151:凝縮器、152:ドライヤ、153:減圧装置、154:蒸発器、155:室外送風機、156:室内送風機、220:温度変化検出部、221:出力結果時間間隔計時部、222:割当指令部、300:基準温度補正部、301:ファジー推論部、302:ステップカロリー算出部、310:能力変更量補正部、311:能力変更量演算部、312:リニアカロリー算出部、400:冷房基準温度判定部、401:車内温度範囲判定部、402:ステップカロリー設定部、403:車内湿度判定部、404:送風運転判定部、405:送風運転設定部、700:実行状態、701:中断状態、702:待機状態、800:実行状態、801:停止状態、802:待機状態、901:演算用領域、902:各種フラグ領域、903:車両情報格納領域、904:領域制御用運転パターン格納領域、905:制御ルール格納領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、減圧手段、及び蒸発器を冷媒配管で順次接続して構成する冷媒サイクルと、
鉄道車両の車内温度を検出する温度センサと、
前記鉄道車両の車内湿度を検出する湿度センサと、
を備えた車両用空気調和機であって、
少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により定めれる車内環境の現在値に対して、前記現在値の前記車内環境の目標値への適合度合いを示す適合度を求めるメンバシップ関数、及び前記適合度を条件とする推論規則、によりファジー制御演算を実行することで空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御するファジー制御手段と、
少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により一律に定められた割当範囲に基づいて空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御する領域制御手段と、
前記現在値と前記目標値との温度差に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当て、または、前記現在値と前記目標値との温度差と前記ファジー制御演算の実行時間に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当てる、制御割当手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空気調和機。
【請求項2】
前記制御割当手段は、前記ファジー制御手段及び前記領域制御手段に、常時、前記空調運転能力の制御量を求める演算を行わさせておき、いずれかに前記圧縮機の制御を割り当てたときには、前記ファジー制御手段または前記領域制御手段により前記圧縮機の制御を実行させる、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和機。
【請求項3】
前記制御割当手段は、前記温度差が所定値以上であるときには、前記領域制御手段により前記圧縮機の制御を実行させる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空気調和機。
【請求項4】
前記制御割当手段は、前記温度差が前記所定値未満であり、かつ、前記実行時間が所定時間以上であるときには、前記領域制御手段により前記圧縮機の制御を実行させ、前記温度差が前記所定値未満であり、かつ、前記実行時間が前記所定時間未満であるときには、前記ファジー制御手段により前記圧縮機の制御を実行させる、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用空気調和機。
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、減圧手段、及び蒸発器を冷媒配管で順次接続して構成する冷媒サイクルと、
鉄道車両の車内温度を検出する温度センサと、
前記鉄道車両の車内湿度を検出する湿度センサと、
を備えた車両用空気調和機であって、
少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により定めれる車内環境の現在値に対して、前記現在値の前記車内環境の目標値への適合度合いを示す適合度を求めるメンバシップ関数、及び前記適合度を条件とする推論規則、によりファジー制御演算を実行することで空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御するファジー制御手段と、
少なくとも、前記温度センサにより検出された前記車内温度、及び前記湿度センサにより検出された前記車内湿度、により一律に定められた割当範囲に基づいて空調運転能力の制御量を求め、それにより前記圧縮機を制御する領域制御手段と、
前記現在値と前記目標値との温度差に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当て、または、前記現在値と前記目標値との温度差と前記ファジー制御演算の実行時間に基づいて前記ファジー制御手段か前記領域制御手段のいずれかに前記圧縮機の制御を割り当てる、制御割当手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空気調和機。
【請求項2】
前記制御割当手段は、前記ファジー制御手段及び前記領域制御手段に、常時、前記空調運転能力の制御量を求める演算を行わさせておき、いずれかに前記圧縮機の制御を割り当てたときには、前記ファジー制御手段または前記領域制御手段により前記圧縮機の制御を実行させる、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和機。
【請求項3】
前記制御割当手段は、前記温度差が所定値以上であるときには、前記領域制御手段により前記圧縮機の制御を実行させる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空気調和機。
【請求項4】
前記制御割当手段は、前記温度差が前記所定値未満であり、かつ、前記実行時間が所定時間以上であるときには、前記領域制御手段により前記圧縮機の制御を実行させ、前記温度差が前記所定値未満であり、かつ、前記実行時間が前記所定時間未満であるときには、前記ファジー制御手段により前記圧縮機の制御を実行させる、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用空気調和機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−240571(P2012−240571A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113552(P2011−113552)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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