説明

車両用空調装置およびその制御方法

【課題】特定状況下でも自動的に最適な空調設定を行うことが可能な車両用空調装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】車両用空調装置は、空調空気を車内に供給する空調部10と、情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された車両に関する状態情報を学習データ群として記憶する記憶部61と、現状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築する学習部68と、確率モデルに現状態情報を入力して、所定の設定操作を行う推薦確率を算出する推薦確率算出部64と、所定の規則に従って推薦確率を修正する推薦確率修正部65と、修正された推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部66と、制御情報にしたがって、空調部10の空調制御を行う空調制御部67とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置およびその制御方法に関し、特に、搭乗者の温感又は状況に応じて自動的に空調状態を最適化する車両用空調装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置では、設定温度、外気温、内気温、日射量などの各種パラメータに応じて、各吹き出し口から送出される空調空気の温度、風量などを自動的に決定する。しかし、搭乗者の温感(暑がり、寒がりなど)には個人差が存在する。そのため、自動的に決定された空調空気の温度、風量などが、最適な値とならないことがある。そのような場合、搭乗者は、必要に応じて操作パネルを操作して、設定温度を高くしたり、あるいは低くしたり、あるいは、風量を増加又は減少させるように空調装置を調節する。そこで、搭乗者が操作パネルを操作して、設定温度、風量などを変更した場合、そのときの各種パラメータを用いて、空調空気の温度や風量を決定する関係式を修正する学習制御を組み込んだ空調制御装置が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、搭乗者が空調装置の設定を変更するのは、必ずしも温感などの違いによるものではなく、特定状況下における外部環境的な要因による場合もある。例えば、搭乗者が運転を行う直前に運動を行っていた場合には、通常よりも設定温度を低くすることもある。また、いつも渋滞する地点に差し掛かった場合に、車の排ガスが車内に充満するのを防ぐために、内気循環モードに設定することもある。しかし、特許文献1に記載された空調制御装置では、特定状況下における外部環境的要因のせいで空調装置の設定を変更したのか、温感などの違いによって変更したのかを区別することができない。そのため、上記のような特定状況に合わせて空調温度などを自動的に最適化することは困難であった。
【0004】
一方、走行中の自車両の位置を示すデータを学習データに加えて、温調学習とそれ以外の学習とを識別可能とした自動車用空気調和装置が開発されている(特許文献2参照)。しかし、特許文献2に記載された自動車用空気調和装置は、自車両の位置及び日時を参照して、温調学習を行うか否かを決定するのみであり、具体的な決定方法の記載はなく、上記のような特定の状況に合わせて空調温度などの最適化を行うことまでは考慮されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−293204号公報
【特許文献2】特開2000−62431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、搭乗者の温感に合わせた最適化だけでなく、特定状況に応じた最適な空調設定を搭乗者に推薦することが可能な車両用空調装置およびその制御方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、搭乗者の温感又は特定状況下に対する最適な空調設定を自動的に学習することが可能な車両用空調装置およびその制御方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、学習に使用するデータの信頼性若しくは搭乗者の設定操作時の反応などを考慮することにより、搭乗者にとって最適な空調設定をより適切に推薦することが可能な車両用空調装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の記載によれば、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された、車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶する記憶部(61)と、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築する学習部(68)と、学習部(68)で構築された確率モデルに、車両に関する現状態を表す現状態情報を入力して、所定の設定操作を行う推薦確率を算出する推薦確率算出部(64)と、所定の規則に従って推薦確率を修正する推薦確率修正部(65)と、修正された推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(66)と、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調空気を車両内に供給する空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(67)とを有する。
【0010】
また請求項2に記載のように、推薦確率修正部(65)は、現状態情報の信頼度が高いほど、推薦確率を高くすることが好ましい。
あるいは請求項3に記載のように、推薦確率修正部(65)は、学習データ群に含まれる状態情報の数が少ないほど、推薦確率を高くすることが好ましい。
【0011】
さらに請求項4に記載のように、推薦確率修正部(65)は、所定の設定操作となるように修正された設定情報又は制御情報と、修正前の設定情報又は制御情報との差が大きいほど、推薦確率を高くすることが好ましい。
【0012】
さらに請求項5に記載のように、推薦確率修正部(65)は、車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、推薦確率を高くすることが好ましい。
あるいは請求項6に記載のように、推薦確率修正部(65)は、現状態情報が所定の値を有する場合に車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、推薦確率を高くすることが好ましい。
【0013】
また請求項7の記載によれば、本発明に係る車両用自動空調装置は、所定の設定操作の内容を搭乗者に提示し、且つ所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、確認操作部(59)を通じて所定の設定操作を行うことが確認された場合、制御情報修正部(66)は、設定情報又は制御情報を修正することが好ましい。
【0014】
この場合において、請求項8に記載のように、記憶部(61)は、確認操作部(59)による提示から、搭乗者により所定の設定操作を行うか否かを決定する操作が行われるまでの反応時間を記憶し、推薦確率修正部(65)は、反応時間の平均値が短いほど推薦確率を高くすることが好ましい。
【0015】
あるいは、請求項9に記載のように、記憶部(61)は、確認操作部(59)により所定の設定操作を行うことが提示された提示回数、及び確認操作部(59)を通じて搭乗者により所定の設定操作を行うことを決定する操作が行われた肯定操作回数を確率モデルに関連付けて記憶し、推薦確率修正部(65)は、提示回数に占める肯定操作回数の比率が高いほど推薦確率を高くすることが好ましい。
【0016】
また、請求項10の記載によれば、本発明の他の形態に係る車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された、車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶する記憶部(61)と、学習データ群に含まれる状態情報を、所定の規則に従って重み付けするデータ重み付け部(69)と、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築する学習部(68)と、学習部(68)で構築された確率モデルに、車両に関する現状態を表す現状態情報を入力して推薦確率を算出し、その推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(66)と、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調空気を車両内に供給する空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(67)とを有する。
【0017】
また請求項11に記載のように、データ重み付け部(69)は、学習データ群に含まれる状態情報の信頼度が高いほど、その状態情報の比重が高くなるように重み付けすることが好ましい。
あるいは請求項12に記載のように、データ重み付け部(69)は、学習データ群に含まれる状態情報の数が所定数以下の場合、その状態情報の数が所定数よりも多い場合と比較して比重が高くなるように重み付けすることが好ましい。
【0018】
さらに請求項13に記載のように、情報取得部(51〜53、55〜58)は、搭乗者が車両用空調装置の設定操作を行ったときに状態情報を取得し、データ重み付け部(69)は、設定操作を行う前の設定情報又は制御情報と、設定操作を行った後の設定情報又は制御情報との差が大きいほど、状態情報の比重が高くなるように重み付けすることが好ましい。
【0019】
さらに請求項14に記載のように、データ重み付け部(69)は、車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いときに取得された状態情報の比重が高くなるように重み付けすることが好ましい。
あるいは請求項15に記載のように、データ重み付け部(69)は、学習データ群に含まれる状態情報が所定の値を有する場合に車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、その所定の値を有する状態情報の比重が高くなるように重み付けすることが好ましい。
【0020】
また請求項16に記載のように、本発明に係る車両用空調装置は、所定の設定操作の内容を搭乗者に提示し、且つ所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、確認操作部(59)を通じて所定の設定操作を行うことが確認された場合、制御情報修正部(66)は、設定情報又は制御情報を修正することが好ましい。
【0021】
この場合において、請求項17に記載のように、記憶部(61)は、確認操作部(59)による提示から、搭乗者により所定の設定操作を行うか否かを決定する操作が行われるまでの反応時間を記憶し、データ重み付け部(69)は、反応時間の平均値が短いほど所定の設定操作について算出された推薦確率に関連する状態情報の比重を高くすることが好ましい。
あるいは請求項18に記載のように、記憶部(61)は、確認操作部(59)により所定の設定操作を行うことが提示された提示回数、及び確認操作部(59)を通じて搭乗者により所定の設定操作を行うことを決定する操作が行われた肯定操作回数を確率モデルに関連付けて記憶し、データ重み付け部(69)は、提示回数に占める肯定操作回数の比率が高いほど、所定の設定操作について算出された推薦確率に関連する状態情報の比重を高くすることが好ましい。
【0022】
また請求項19に記載のように、データ重み付け部(69)は、学習データ群に含まれた状態情報のうち、取得されてからの経過時間が長い状態情報ほど比重が低くなるように重み付けすることが好ましい。
【0023】
また請求項20の記載によれば、本発明の他の形態に係る車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された、車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶する記憶部(61)と、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築する学習部(68)と、学習部(68)で構築された確率モデルに、車両に関する現状態を表す現状態情報を入力して、所定の設定操作を行う推薦確率を算出する推薦確率算出部(64)と、所定の規則に従って所定の閾値を設定する閾値設定部(70)と、推薦確率が第1の閾値以上の場合、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(66)と、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調空気を車両内に供給する空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(67)とを有する。
【0024】
また請求項21に記載のように、本発明に係る車両用空調装置は、推薦確率算出部(64)により求めた推薦確率が、第1の閾値未満であり、且つ第1の閾値よりも低い第2の閾値以上である場合、所定の設定操作の内容を搭乗者に提示し、且つ所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、確認操作部(59)を通じて所定の設定操作を行うことが確認された場合、制御情報修正部(66)は、設定情報又は制御情報を修正することが好ましい。
【0025】
この場合において、請求項22に記載のように、閾値設定部(70)は、現状態情報の信頼度が高いほど、第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
あるいは請求項23に記載のように、閾値設定部(70)は、学習データ群に含まれる状態情報の数が少ないほど、第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
【0026】
さらに請求項24に記載のように、閾値設定部(70)は、所定の設定操作となるように修正された設定情報又は制御情報と、その修正前の設定情報又は制御情報との差が大きいほど、第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
【0027】
さらに請求項25に記載のように、閾値設定部(70)は、車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
あるいは請求項26に記載のように、閾値設定部(70)は、現状態情報が所定の値を有する場合に車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
【0028】
また請求項27に記載のように、記憶部(61)は、確認操作部(59)による提示から、搭乗者により所定の設定操作を行うか否かを決定する操作が行われるまでの反応時間を記憶し、閾値設定部(70)は、反応時間の平均値が短いほど第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
【0029】
さらに請求項28に記載のように、記憶部(61)は、確認操作部(59)により所定の設定操作を行うことが提示された提示回数、及び確認操作部(59)を通じて搭乗者により所定の設定操作を行うことを決定する操作が行われた肯定操作回数を確率モデルに関連付けて記憶し、閾値設定部(70)は、提示回数に占める肯定操作回数の比率が高いほど第1の閾値または第2の閾値を低くすることが好ましい。
【0030】
さらに、請求項29の記載によれば、本発明の他の形態に係る、空調空気を車両内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶するステップと、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築するステップと、確率モデルに、車両の現状態を表す現状態情報を入力して、所定の設定操作を行う推薦確率を算出するステップと、所定の規則に従って推薦確率を修正するステップと、修正された推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正するステップと、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調部(10)の空調制御を行うステップとを有する。
【0031】
さらに、請求項30の記載によれば、本発明の他の形態に係る、空調空気を車両内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶するステップと、学習データ群に含まれる状態情報を、所定の規則に従って重み付けするステップと、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築するステップと、確率モデルに、車両の現状態を表す現状態情報を入力して、所定の設定操作を行う推薦確率を算出するステップと、推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正するステップと、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調部(10)の空調制御を行うステップとを有する。
【0032】
さらに、請求項31の記載によれば、本発明の他の形態に係る、空調空気を車両内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶するステップと、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データ群を用いて構築するステップと、確率モデルに、車両の現状態を表す現状態情報を入力して、所定の設定操作を行う推薦確率を算出するステップと、所定の規則に従って所定の閾値を設定するステップと、推薦確率が所定の閾値以上の場合、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正するステップと、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調部(10)の空調制御を行うステップとを有する。
【0033】
なお、状態情報は、車両に関する状態を表すものであり、車両内外の空調情報(具体的には、外気温、内気温及び日射量)、車両の位置情報、車両の挙動情報、時間情報又は車両の搭乗者の生体情報の少なくとも一つを含む。また、所定の設定操作とは、設定温度の変更、風量の変更、内気循環モードに設定する、デフロスタを作動あるいは停止させるといった、車両用空調装置の動作状態を変更させる操作をいう。また、設定情報とは、設定温度、風量、内外気の吸気比、各吹出口から送出される空調空気の風量比など、車両用空調装置の動作を規定する情報をいう。さらに、制御情報とは、空調空気の温度、ブロアファンの回転数、ブロア電圧、エアミックスドアの開度など、設定情報に基づいて求められ、空調部の各部の動作を制御する情報をいう。また、確率モデルの構築には、新たに確率モデルを生成すること、及び既に生成されている確率モデルを修正して更新することを含む。
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。
本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置は、搭乗者の温感又は特定状況に合わせて学習された少なくとも一つの確率モデルに基づいて、搭乗者の空調設定操作を推定した推薦確率を求め、その推薦確率に応じて適切と考えられる空調設定を自動的に実行または搭乗者に推薦するものである。特に、推薦確率の算出に使用するパラメータ、搭乗者の過去の設定操作時の反応などに応じて、推薦確率を修正することにより、最適な空調設定を適切に実行または推薦するものである。
【0035】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1の全体構成を示す構成図である。図1に示すように、車両用空調装置1は、主に機械的構成からなる空調部10と、この空調部10を制御する制御部60とを有する。
【0036】
まず、空調部10の冷凍サイクルRの構成を説明する。車両用空調装置1の冷凍サイクルRは閉回路で構成され、その閉回路はコンプレッサ11より時計回りにコンデンサ15、レシーバ16、膨張弁17、およびエバポレータ18を含む。そして、コンプレッサ11は、冷媒を圧縮して高圧ガスにする。また、コンプレッサ11は、ベルト12を介して車載エンジン13より伝わる動力断続用の電磁クラッチ14を備える。コンデンサ15は、コンプレッサ11より送られてきた高温、高圧の冷媒ガスを冷却し、液化させる。レシーバ16は、液化された冷媒ガスを貯蔵する。また、冷却性能の低下を防ぐため、液化された冷媒に含まれるガス状の気泡を取り除き、完全に液化された冷媒のみを膨張弁17へ送る。膨張弁17は、液化された冷媒を断熱膨張させて低温、低圧化し、エバポレータ18へ送る。エバポレータ18は、低温、低圧化された冷媒と、エバポレータ18に送り込まれた空気との間で熱交換を行ってその空気を冷却する。
【0037】
次に、空調部10の空調ケース20内の構成について説明する。エバポレータ18の上流側には、ブロワファン21が配置されている。ブロワファン21は遠心式送風ファンで構成され、駆動用モータ22により回転駆動される。ブロワファン21の吸入側には、内外気切替箱23が配置される。内外気切替箱23内には、内外気サーボモータ24で駆動される内外気切替ドア25が配置される。そして内外気切替ドア25は、内気吸込口26と外気吸込口27とを切り替えて開閉する。そして、内気吸込口26又は外気吸込口27から取り込まれた空気は、内外気切替箱23を経由して、ブロアファン21によってエバポレータ18へ送られる。なお、ブロアファン21の回転速度を調整することにより、車両用空調装置1から送出される風量を調節することができる。
【0038】
エバポレータ18の下流側には、エバポレータ18側から順に、エアミックスドア28、およびヒータコア29が配置される。ヒータコア29には、ヒータコア29を通る空気を暖めるために、車載エンジン13の冷却に使用された冷却水が循環供給される。また、空調ケース20には、ヒータコア29をバイパスするバイパス通路30が形成されている。エアミックスドア28は、温調サーボモータ31により回動され、各吹き出し口から送出される空気を所定の温度にするために、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とバイパス通路30を通過する冷風との風量割合を調整する。
【0039】
さらに、バイパス通路30を経由した冷風と、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とが混合される空気混合部33の下流側には、空調空気を車室内に送出するフット吹き出し口34、フェイス吹き出し口35、デフロスタ吹き出し口36が設けられている。そして、各吹き出し口には、各吹き出し口を開閉するためのフットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39がそれぞれ設けられている。なお、フット吹き出し口34は、運転席または助手席の足元へ空調空気を送出し、フェイス吹き出し口35は、フロントパネルから運転席または助手席に向けて空調空気を送出する。また、デフロスタ吹き出し口36は、フロントガラスへ向けて空調空気を送出する。各ドア37、38及び39は、モードサーボモータ40により駆動される。
【0040】
次に、車両用空調装置1が有する情報取得部として機能する各種センサについて説明する。内気温センサ51は、車室内の温度Trを測定するために、ハンドル近傍のインストルメントパネルなどにアスピレータとともに設置される。また、外気温センサ52は、車室外の温度Tamを測定するために、コンデンサ15の外側前面の車両前方ラジエターグリルに設置される。さらに、車室内に照りつける日射光の強さ(日射量)Sを測定するために、日射センサ53が車室内のフロントガラス近傍に取り付けられる。なお、日射センサ53はフォトダイオードなどで構成される。
【0041】
さらに、エバポレータ18から吹き出される空気の温度(エバポレータ出口温度)を測定するためのエバポレータ出口温度センサ、ヒータコア29へのエンジン冷却水の冷却水の水温を測定するためのヒータ入口水温センサ、及び冷凍サイクルR内を循環する冷媒の圧力を測定するための圧力センサなどが設けられる。その他、車室内には、搭乗者情報取得部としても機能する、運転席及びその他の席に搭乗している乗員の顔を撮影するための1台以上の車内カメラ54が設置される。また、車外の様子を撮影する車外カメラ55も設置される。
【0042】
車両用空調装置1は、上記の各センサからのセンシング情報の他、ナビゲーションシステム56から、車両の現在位置、進行方向、周辺地域情報、Gbook情報などの位置情報を取得する。また、車両操作機器57から、アクセル開度、ハンドル、ブレーキ、パワーウインドウ開度、ワイパー、ターンレバー若しくはカーオーディオのON/OFFなどの各種操作情報及び車速、車両挙動情報などを取得する。さらに、車載時計58より、曜日、現在時刻などの時間情報を取得する。また、車両用空調装置1は、運転席などに心電検出センサ、心拍・呼吸センサ、体温センサ若しくは皮膚温センサなどを設置して、搭乗者の生体情報を取得するようにしてもよい。
このように、ナビゲーションシステム56、車両操作機器57及び車載時計58もまた、情報取得部として機能する。
【0043】
図2は、車両用空調装置1の制御部60の機能ブロック図である。
制御部60は、図示していないCPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示してないマイクロコンピュータ、その周辺回路、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ等からなる記憶部61、及び各種センサ、ナビゲーションシステム56又は車両操作機器57などとコントロールエリアネットワーク(CAN)のような車載通信規格に従って通信を行う通信部62から構成される。
【0044】
さらに、制御部60は、このマイクロコンピュータ及びマイクロコンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、照合部63、推薦確率算出部64、推薦確率修正部65、制御情報修正部66、空調制御部67及び学習部68を有する。
【0045】
制御部60は、上記のセンシング情報、位置情報、車両挙動情報などの状態情報を、各種のセンサ、ナビゲータシステム、車両操作機器などから取得すると、それらをRAMに一時的に記憶する。同様に、操作部であるA/C操作パネル59から取得された操作信号もRAMに一時的に記憶する。そして制御部60は、それら状態情報及び操作信号に基づいて空調部10を制御する。例えば、制御部60は、電磁クラッチ14を制御してコンプレッサ11のON/OFF切り換えを行ったり、ブロアファン21の回転数調整のために駆動用モータ22を制御する。また制御部60は、内外気サーボモータ24、温調サーボモータ31及びモードサーボモータ40を制御して各ドアの開度を調節する。これらの制御を行うことによって、車室内の温度を、搭乗者の設定した温度に近づけるように、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比、全体の風量及び温度を調節する。ここで制御部60は、空調空気の温度や風量などを決定するために、利用可能な確率モデルに、所定の状態情報を入力し、搭乗者が所定の操作(例えば、設定温度を下げる、風量を最大にする、内気循環モードに設定する等)を行う確率を推定する。その確率が所定閾値以上の場合には、自動的にその所定の操作を行う。
【0046】
さらに制御部60は、搭乗者が車両用空調装置1を操作した場合には、その操作内容及びその操作時の各種情報を蓄積する。そして、そのような情報が所定数蓄積されると、統計的学習処理を行って確率モデルを生成する。以下、これらの動作を行う各機能モジュールについて説明する。
【0047】
照合部63は、エンジンスイッチをONすると、車内カメラ54で撮影された画像と、車両用空調装置1に予め登録された登録済利用者に関する照合情報に基づいて、搭乗者の照合及び認証を行い、搭乗者が何れの登録済利用者か判定する。そして、搭乗者と判定された登録済利用者の識別情報(ID)及び登録済利用者に関連する個人情報を記憶部61から読み出す。
【0048】
ここで、照合部63は、例えば以下の方法によって搭乗者の照合及び認証を行う。照合部63は、車内カメラ54で撮影された画像を2値化したり、エッジ検出を行って搭乗者の顔に相当する領域を識別する。そして、識別された顔領域から、目、鼻、唇など特徴的な部分をエッジ検出等の手段によって検出し、その特徴的な部分の大きさ、相対的な位置関係などを特徴量の組として抽出する。次に、照合部63は、抽出された特徴量の組を、予め記憶部61に記憶されている、各登録済利用者に関して求められた特徴量の組と比較し、相関演算などを用いて一致度を算出する。そして、最も高い一致度が、所定の閾値以上となる場合、照合部63は、搭乗者を、その最も高い一致度となった登録済利用者として認証する。なお、上記の照合方法は、一例に過ぎず、照合部63は、他の周知の照合方法を使用して、搭乗者の照合及び認証を行うことができる。例えば、照合部63は、特開2005−202786号公報に記載された車両用顔認証システムを用いることができる。また、画像認証以外の方法を用いることも可能であり、例えば、スマートキーシステムを用いて搭乗者の照合及び認証を行うようにしてもよい。さらに、特開2005−67353号公報に記載された車両用盗難防止装置のように、スマートキーシステムと画像認証を組み合わせて照合及び認証を行うようにしてもよい。
【0049】
推薦確率算出部64は、所定の設定操作と関連した少なくとも一つの確率モデルを有し、状態情報をその確率モデルに入力して所定の設定操作を行う推薦確率を算出する。
本実施形態では、確率モデルとして、ベイジアンネットワークを用いた。ベイジアンネットワークは、複数の事象の確率的な因果関係をモデル化するものであり、各ノード間の伝播を条件付き確率で求める、非循環有向グラフで表されるネットワークである。なお、ベイジアンネットワークの詳細については、本村陽一、岩崎弘利著、「ベイジアンネットワーク技術」、初版、電機大出版局、2006年7月、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、又は尾上守夫監修、「パターン識別」、初版、新技術コミュニケーションズ、2001年7月などに開示されている。
【0050】
本実施形態では、確率モデルは、車両用空調装置1に登録された利用者毎に生成される。また、確率モデルは、設定操作ごと(例えば、設定温度Tsetを下げる若しくは上げる、風量Wを調節する、内気循環モードにする等)に生成される。そして、記憶部61には、確率モデルの構造情報が、各利用者情報及び設定操作と関連付けて記憶される。具体的には、確率モデルを構成する各ノード間の接続関係を表すグラフ構造、入力ノードに与えられる入力情報のタイプ、各ノードの条件付き確率表(以下、CPTという)とともに、利用者の識別番号(ID)、設定操作の内容と一意に対応する設定操作番号k、その設定操作で修正される設定情報あるいは制御情報及びその修正値(例えば、設定温度Tsetが3℃下げられる場合には、(Tset,-3)、風量Wを最大値Wmaxにする場合には、(W,Wmax)など)が各確率モデルごとに規定され、記憶部61に記憶される。
【0051】
推薦確率算出部64は、照合部63によって搭乗者として特定された登録済み利用者に関連付けられた確率モデルを記憶部61から読み出す。推薦確率算出部64は、読み出された1以上の確率モデルのそれぞれに、所定の状態情報を入力して、搭乗者が各確率モデルに関連付けられた設定操作を行う確率(すなわち、推薦確率)を求める。すなわち、各確率モデルについて一意に規定され、各確率モデルとともに記憶部61に記憶された設定操作番号kで表される設定操作を行う確率を求める。その確率は、例えば確率伝播法(belief propagation)を用いて計算することができる。
【0052】
推薦確率修正部65は、推薦確率算出部64によって求められた推薦確率を、確率モデルに入力したパラメータの信頼度などに基づいて修正する。推薦確率修正部65は、この推薦確率の修正を、様々な観点から設定された規則に従って行う。以下、この推薦確率の修正について幾つかの例を用いて説明する。
【0053】
推薦確率の修正に関する第1の規則は、推薦確率を求めるために確率モデルに入力された入力パラメータの信頼度に基づくものである。例えば、推薦確率を求めるために、ナビゲーションシステム56から取得した位置情報を入力パラメータとして用いた場合、推薦確率修正部65は、ナビゲーションシステム56とGPS衛星との通信状態が良好であるほど、その位置情報の信頼度が高いと判定する。そして、推薦確率修正部65は、その位置情報の信頼度が高いほど、推薦確率を高くする。例えば、ナビゲーションシステム56とGPS衛星との通信状態が0〜3の4段階で表されるとする(ただし、数値が大きいほど通信状態が良好であるとする)。このとき、推薦確率修正部65は、通信状態が0のときは推薦確率を0とする。また、推薦確率修正部65は、通信状態が1のときは、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に1/3を乗じる。同様に、推薦確率修正部65は、通信状態が2のときは、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に2/3を乗じる。さらに、推薦確率修正部65は、通信状態が3のときは、推薦確率算出部64で算出された推薦確率を修正しない。
【0054】
推薦確率の修正に関する第2の規則は、推薦された設定操作を搭乗者に提示したときの、その提示を行った時点から、搭乗者が何らかの設定操作を行うまでに要した反応時間の平均値に基づくものである。この第2の規則を適用する場合、後述するように、制御情報修正部66は、所定の設定操作を行う推薦確率が所定の範囲のとき、搭乗者に対してその所定の設定操作の内容を提示する。そして、搭乗者がその設定操作を行うことについて承認する操作を行った場合、制御情報修正部66は、その設定操作となるように、設定情報または制御情報を修正する。ここで、制御部60は、推薦された設定操作が提示される度、内蔵のタイマを用いて上記の反応時間を計測する。そして制御情報修正部66は、その反応時間を、その推薦された設定操作に関する推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて、記憶部61に記憶する。
推薦確率修正部65は、推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて記憶されている反応時間の平均値を求める。そして、推薦確率修正部65は、反応時間の平均値が短いほど、推薦確率を高くする。例えば、推薦確率修正部65は、反応時間の平均値が5秒未満であれば、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に1.1を乗じ、反応時間の平均値が5秒以上であれば、推薦確率算出部64で算出された推薦確率を修正しない。なお、推薦確率修正部65は、反応時間の平均値を3段階以上に区分して、その平均値が短い区分ほど推薦確率に乗じる係数が大きくなるようにしてもよい。
【0055】
推薦確率の修正に関する第3の規則は、推薦された設定操作を搭乗者に提示したときの、その推薦された設定操作に対して承認操作を行った割合に基づくものである。車両用空調装置1によって提示された設定操作を承認する割合が高いほど、その搭乗者のニーズに応じた設定操作を推薦していると考えられるので、推薦確率修正部65は、その承認割合が高いほど、推薦確率を高くする。
第3の規則を適用する場合も、推薦された設定操作に対して搭乗者が承認操作を行ったか否かを記録することが必要であるため、上記の第2の規則と同様に、制御情報修正部66は、所定の設定操作を行う推薦確率が所定の範囲のとき、搭乗者に対してその所定の設定操作の内容を提示する。そして制御情報修正部66は、その所定の設定操作を提示した累計回数、及びその提示に対して搭乗者が承認操作を行った累計回数を求め、その所定の設定操作に関する推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて、記憶部61に記憶する。
【0056】
推薦確率修正部65は、推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて記憶されている、その所定の設定操作が提示された累計回数に占める承認操作が行われた累計回数の比率を求める。そして、推薦確率修正部65は、その比率が高いほど、推薦確率を高くする。例えば、推薦確率修正部65は、求めた比率が50%未満であれば、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に0.9を乗じ、求めた比率が50%以上であれば、推薦確率算出部64で算出された推薦確率を修正しない。なお、推薦確率修正部65は、上記の比率を3段階以上に区分して、その比率が低い区分ほど推薦確率に乗じる係数が小さくなるようにしてもよい。
【0057】
また、承認操作を行った累計回数の代わりに、拒否操作あるいは推薦された設定操作の提示後の所定期間内(例えば、1分間)に手動で提示された設定操作と同一の操作を行った累計回数を使用してもよい。この場合には、推薦確率修正部65は、その拒否操作などの累計回数が、その設定操作が提示された累計回数に占める割合が少ないほど、推薦確率を高くする。
【0058】
推薦確率の修正に関する第4の規則は、確率モデルの構築に用いた学習データ数に基づくものである。学習データ数が少ないとき、すなわち、搭乗者が本発明に係る車両用自動空調装置1を使い始めてからあまり日数を経ていないと考えられる場合、推薦確率を高めに設定する。そのように推薦確率を修正することで、搭乗者に、車両用自動空調装置1が学習していることを体感してもらい易くなる。なお、確率モデルの構築に用いる学習データの詳細については、後述する。
例えば、推薦確率修正部65は、確率モデルの学習に用いた学習データに含まれる状態情報の組の数が30個未満であれば、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に1.1を乗じ、その状態情報の組の数が30個以上であれば、推薦確率算出部64で算出された推薦確率を修正しない。
また、上記と逆に、推薦確率修正部65は、確率モデルの構築に用いた学習データ数が多いほど、推薦確率が高くなるように修正してもよい。学習データ数が多いほど、搭乗者が設定操作を行う状況を的確に把握できると考えられるためである。
【0059】
推薦確率の修正に関する第5の規則は、推薦された設定操作により修正される設定情報または制御情報と、その設定操作を実施する前の設定情報または制御情報との差、すなわち修正量に基づくものである。この場合、推薦確率修正部65は、推薦された設定操作による設定情報または制御情報の修正量が大きくなるほど、推薦確率を高くする。例えば、推薦確率修正部65は、推薦された設定操作により、設定温度Tsetが3℃以上変更される場合、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に1.1を乗じ、設定温度Tsetの変更量が3℃未満の場合、推薦確率算出部64で算出された推薦確率を修正しない。同様に、推薦確率修正部65は、推薦された設定操作により、ブロア電圧が3V以上変更される場合、あるいは空調空気を吹き出す方向が30°以上変更される場合、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に1.1を乗じ、ブロア電圧及び空調空気の吹き出し方向がそこまで変更されない場合、推薦確率を修正しない。なお、推薦確率修正部65は、上記のように、修正量を2段階に区分する代わりに、3段階以上に区分して、その修正量が大きい区分ほど、推薦確率に乗じる係数が大きくなるようにしてもよい。
【0060】
推薦確率の修正に関する第6の規則は、特定の状況において搭乗者が設定操作を行った操作頻度に基づくものである。その操作頻度が高いほど、その特定状況に対する車両用空調装置1の設定内容が搭乗者の温感に合っていないと考えられるので、設定操作の推薦が行われ易い方が好ましい。そこで、推薦確率修正部65は、その操作頻度が高いほど、推薦確率を高くする。
【0061】
この場合、予め操作頻度を調べる特定状況を設定する。そして、制御部60は、各センサから得た状態情報が、その特定状況に相当する値を有するか否かを判定する。制御部60は、特定状況に至ったと判定してから所定期間(例えば、1分間)中に、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行ったか否かを調べる。そして、制御部60は、その特定状況に至った累計回数と、その特定状況下において搭乗者が設定操作を行った累計回数とを求め、その特定状況を表すデータに関連付けて、記憶部61に記憶する。なお、特定状況を表すデータは、例えば、その特定状況に関連する状態情報のタイプと、その値との組み合わせである。また、特定状況の例として、内気温Trあるいは外気温Tamが所定温度(例えば、30℃、0℃など)である状況、車両が所定位置(例えば、国道上、搭乗者の勤務先など)の近傍にいる状況などが挙げられる。
また、推薦確率算出部64は、その特定状況に対応する確率モデルを用いて、所定の設定操作を行う推薦確率を算出する。
【0062】
推薦確率修正部65は、その設定操作が行われた累計回数がその特定状況に至った累計回数に占める割合が50%以上の場合、推薦確率算出部64で算出された推薦確率に1.1を乗じ、その割合が50%未満の場合、推薦確率を修正しない。なお、推薦確率修正部65は、上記の割合を2段階に区分する代わりに、3段階以上に区分して、その割合が大きい区分ほど、推薦確率に乗じる係数が大きくなるようにしてもよい。
【0063】
推薦確率の修正に関する第7の規則は、所定期間内において搭乗者が設定操作を行った操作頻度に基づくものである。その操作頻度が高いほど、車両用空調装置1の設定内容が搭乗者の温感に合っていないと考えられるので、設定操作の推薦が行われ易い方が好ましい。そこで、推薦確率修正部65は、その操作頻度が高いほど、推薦確率を高くする。
【0064】
この場合、制御部60は、設定操作の内容、設定操作が行われたときの状況にかかわらず、設定操作が行われたことを、A/C操作パネル59などを通じて検知し、所定期間内に設定操作が行われた累計回数を求める。その所定期間は、例えば、1回の乗車(エンジンが始動してから停止するまでの期間)、1週間、1ヶ月などとすることができる。
そして、例えば、推薦確率修正部65は、1回の乗車当たりの操作頻度の平均値が5以上であれば、推薦確率算出部64で得られた推薦確率に1.1を乗じ、その平均値が5未満であれば、推薦確率を修正しない。
【0065】
推薦確率修正部65は、上述した様々な規則の全てに従って推薦確率を修正する。あるいは、推薦確率修正部65は、その規則のうちの幾つかに基づいて、推薦確率を修正してもよい。そして、推薦確率修正部65は、修正された推薦確率が所定の上限値を超える場合、推薦確率をその所定の上限値に設定する。同様に、推薦確率修正部65は、修正された推薦確率が所定の下限値を下回る場合、推薦確率をその所定の下限値に設定する。ここで、所定の上限値は、例えば、1.0、あるいは、推薦確率算出部64で求められた推薦確率に所定の係数(例えば、1.3)を乗じた値とすることができる。また、所定の下限値は、例えば、0.0、あるいは、推薦確率算出部64で求められた推薦確率に所定の係数(例えば、0.7)を乗じた値とすることができる。
【0066】
制御情報修正部66は、得られた推薦確率に基づいて、設定温度Tset、風量Wなど、搭乗者が設定可能な設定情報、または、空調空気の温度、ブロアファンの回転数、ブロア電圧、エアミックスドアの開度などの制御情報を自動調整するか否かを決定する。
そして、制御情報修正部66は、得られた推薦確率が、搭乗者がその設定操作を行うことがほぼ確実であると考えられる第1の閾値Th1(例えば、Th1=0.9)以上の場合、その設定操作を自動的に実行する。具体的には、その設定操作に関連する設定情報または制御情報の値を、確率モデルに関連付けられた、すなわち、その確率モデルに対して一意に規定され、各確率モデルとともに記憶部61に記憶された設定情報または制御情報の修正情報を用いて修正する。
【0067】
また、得られた推薦確率が第1の閾値Th1未満であるものの、搭乗者がその設定操作を行う可能性が高いと考えられる第2の閾値Th2(例えば、Th2=0.6)以上である場合には、制御情報修正部66は、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステム56などの表示部を通じてその設定操作内容を表示して搭乗者に知らせる。そして、搭乗者にその設定操作を行うか否かを確認する。そして、搭乗者がその設定操作を行うことを承認する操作(例えば、所定の操作ボタンを押す)をA/C操作パネル59などを通じて行った場合、制御情報修正部66は、その設定操作を行う。なお、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステム56を通じて設定操作内容を音声で搭乗者に知らせてもよい。また、車両用空調装置1にマイクロフォンを接続し、制御部60に音声認識プログラムを搭載することにより、搭乗者の音声に反応して設定操作を行うか否かを確認してもよい。
【0068】
以下、設定温度Tsetを3℃下げることを例として、推薦確率算出部64及び制御情報修正部66の処理を詳しく説明する。ここで、上記の第1の閾値Th1は0.9とし、第2の閾値Th2は0.6とする。また以下の説明では、内容の理解を容易にするために、推薦確率修正部65は、推薦確率算出部64で算出された推薦確率の値を修正しなかったものとする。
図3に、このような特定状況の一例を示す。ここで示される状況は、搭乗者(Aさん)が、土曜日の午後はいつも運動公園でテニスを行い、その後、4時ごろ自家用車に乗ると、車両用空調装置の設定温度を普段よりも下げることを好むといったものである。一方、それ以外の場合、例えば、職場からの帰宅時などでは、そのような設定操作を行わないような場合を考える。
【0069】
図4に、車両用空調装置1の設定情報または制御情報を自動調節するために使用される確率モデルの一例のグラフ構造を示す。図4に示す確率モデル101では、3個の入力ノード102、103、104がそれぞれ出力ノード105に接続されている。また、各入力ノード102、103、104には、それぞれ入力される状態情報として曜日(x1)、時間帯(x2)、現在位置(x3)が与えられる。そして、出力ノード105は、設定温度Tsetを3℃下げる確率を出力とする。
【0070】
図5(a)〜(d)に、図4に示した確率モデル101の各ノードについてのCPT106〜109を示す。CPT106〜108は、それぞれ入力ノード102〜104に対応し、入力される状態情報に対する事前確率を規定する。また、CPT109は、出力ノード105に対応し、各入力ノードの情報の値ごとに割り当てられた条件付き確率分布を規定する。
【0071】
ここで、曜日が土曜日(x1=1)、時間帯が昼(x2=1)、現在位置が公園(x3=1)と各入力ノードに与えられる情報が全て既知の場合、設定温度Tsetを3℃下げる確率P(x4=1|x1=1,x2=1,x3=1)は、図5(d)より、0.95となる。したがって、得られた推薦確率は、第1の閾値Th1以上であるため、制御情報修正部66は、設定温度Tsetを3℃下げる。
【0072】
また、曜日が土曜日(x1=1)、時間帯が昼(x2=1)であるものの、例えば、ナビゲーションシステム56の電源が入っておらず、現在位置を知ることができない場合、図5(c)に示した現在位置が公園である場合の事前確率P(x3)を用いて、P(x4=1|x1=1,x2=1,x3)が計算される。この場合、
P(x4=1|x1=1,x2=1,x3)
= P(x4=1|x1=1,x2=1,x3=1)・P(x3=1)
+ P(x4=1|x1=1,x2=1,x3=0)・P(x3=0)
= 0.95・0.15 + 0.55・0.85 = 0.61
となる。したがって、得られた確率は、第1の閾値Th1よりも小さいが、第2の閾値Th2以上であるため、制御情報修正部66は、設定温度Tsetを3℃下げるか否か、A/C操作パネル59などを通じて搭乗者に確認する。
【0073】
さらに、曜日が月曜日(x1=0)、時間帯が夜(x2=0)、現在位置が職場(x3=0)の場合、設定温度を3℃下げる確率P(x4=1|x1=0,x2=0,x3=0)は、図5(d)より、0.1となる。したがって、得られた確率は、第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2よりも小さいため、制御情報修正部66は、設定温度Tsetを変更せず、設定温度Tsetを変更することについて、搭乗者に確認することもしない。
【0074】
なお、上記の例では、簡単化のために、2層のネットワーク構成としたが、中間層を含む、3層以上のネットワーク構成としてもよい。また、入力情報としての曜日を、土曜日とそれ以外に区分したが、他の区分、例えば、各曜日ごとに区分するものであってもよい。同様に、現在位置についても、公園とその他に区分するのではなく、搭乗者が訪問する頻度が高い場所ごとに区分するものであってもよい。さらに、時間帯についても、さらに細分化したり、午前、午後などに区分してもよい。
【0075】
また、同一の操作グループ(設定温度の修正、風量の変更、内外気の切り替え若しくは風量比の設定など)に関連する確率モデルが複数存在する場合、すなわち、特定の設定情報または制御情報の修正を行う確率を出力とする確率モデルが複数存在する場合、推薦確率算出部64は、それら複数の確率モデルそれぞれについてその確率を計算する。そして、得られた確率のうち、最大となるものを選択して推薦確率Pとする。例えば、風量設定に関する確率モデルM1(風量Wを最大にする)とM2(風量Wを中程度にする)が存在する場合を考える。この場合、推薦確率算出部64は、確率モデルM1に基づいて風量Wを最大にする確率PM1を求め、同様に、確率モデルM2に基づいて風量Wを中程度にする確率PM2を算出する。そして、制御情報修正部66は、PM1>PM2であれば、PM1を上記の閾値Th1、Th2と比較して、風量Wを最大にするか否かを決定する。逆に、PM2>PM1であれば、PM2を上記の閾値Th1、Th2と比較して、風量Wを中程度にするか否かを決定する。
【0076】
なお、上記では、理解を容易にするために、確率モデルM1とM2が、異なる設定操作に関連付けられるように規定した。しかし、確率モデルM1とM2は、同じ設定操作(例えば、ともに風量Wを最大にする)に関連付けられてもよい。このことは、例えば、搭乗者が異なる2以上の状況(一方は、日中で晴天の場合、他方は、スポーツジムの帰り道の場合等)で、同一の操作を行う場合があることに対応する。それぞれの状況に対応する確率モデルが生成されていれば、それらの確率モデルは、同一の操作グループに属する設定操作が関連付けられることになる。
制御情報修正部66は、上記の処理によって、設定情報または制御情報を必要に応じて修正すると、それらの設定情報または制御情報を制御部60の各部で利用可能なように、制御部60のRAMに一時記憶する。
【0077】
空調制御部67は、各設定情報または制御情報の値及び各センサから取得したセンシング情報をRAMから読み出し、それらの値に基づいて、空調部10の制御を行う。そのために、空調制御部67は、温度調節部671、コンプレッサ制御部672、吹出口制御部673、吸込口制御部674及び送風量設定部675を有する。また、空調制御部67は、制御情報修正部66において修正された設定情報または制御情報がRAMに記憶されている場合には、その修正された情報を読み出して使用する。
【0078】
温度調節部671は、設定温度Tset及び各温度センサ及び日射センサ53の測定信号に基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の必要吹出口温度(空調温度Tao)を決定する。そして、その空調空気の温度が空調温度Taoとなるように、エアミックスドア28の開度を決定し、温調サーボモータ31へ、エアミックスドア28の開度が設定された位置になるように制御信号を送信する。例えば、エアミックスドア28の開度は、内気温Trと設定温度Tsetの差を、外気温Tam、日射量Sなどで補正した値を入力とし、エアミックスドア28の開度を出力とする関係式に基づいて決定される。ここで、エアミックスドア28の開度を、一定の時間間隔(例えば、5秒間隔)毎に判定する。そのような制御を行うための各測定値とエアミックスドア28の開度の関係式を以下に示す。
【数1】

上式において、Doは、エアミックスドア28の開度を表す。また、係数kset、kr、kam、ks、C、a、bは定数であり、Tset、Tr、Tam、Sは、それぞれ、設定温度、内気温、外気温及び日射量を表す。ここで、制御情報修正部66が設定温度Tsetを修正している場合、その修正された設定温度Tsetを使用する。また、エアミックスドア28の開度Doは、ヒータコア29を経由する通路32を閉じた状態(すなわち、冷房のみが動作する状態)を0%、バイパス通路30を閉じた状態(すなわち、暖房のみが動作する状態)を100%として設定される。温調制御式の各係数kset、kr、kam、ks、C及びエアミックスドアの開度を求める関係式の係数a、bは温調制御パラメータとして、登録済利用者ごとに設定され、登録済利用者の個人設定情報に含まれる。
なお、温度調節部671は、空調温度Tao及びエアミックスドア28の開度を、ニューラルネットワークを用いた制御やファジイ制御など、他の周知の制御方法を用いて決定してもよい。算出された空調温度Taoは、制御部60の他の部で参照できるように、記憶部61に記憶される。
【0079】
コンプレッサ制御部672は、温度調節部671で求められた空調温度(必要吹出口温度)Tao、設定温度Tset及びエバポレータ出口温度などに基づいて、コンプレッサ11のON/OFFを制御する。コンプレッサ制御部672は、車室内を冷房する場合、デフロスタを作動させる場合などには、原則としてコンプレッサ11を作動させ、冷凍サイクルRを作動させる。ただし、エバポレータ18がフロストすることを避けるために、エバポレータ出口温度が、エバポレータ18がフロストする温度近くまで低下すると、コンプレッサ11を停止する。そして、エバポレータ出口温度がある程度上昇すると、再度コンプレッサ11を作動させる。なお、コンプレッサ11の制御は、可変容量制御など周知の方法を用いて行えるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0080】
吹出口制御部673は、A/C操作パネル59を通じて搭乗者が設定した風量比の設定値、温度調節部671で求められた空調温度Tao、設定温度Tsetなどに基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比を求め、その風量比に対応するように、フットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39の開度を決定する。吹出口制御部673は、風量比の設定値、空調温度Tao、設定温度Tsetなどと各ドア37〜39の開度との関係を表す関係式にしたがって各ドア37〜39の開度を決定する。このような関係式は予め規定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吹出口制御部673は、他の周知の方法を用いて、各ドア37〜39の開度を決定することもできる。そして、各ドア37〜39が決定された開度となるように、モードサーボモータ40を制御する。
また、吹出口制御部673は、制御情報修正部66が風量比の設定値又は設定温度Tsetを修正している場合には、その修正された設定値又は設定温度Tsetを使用して各ドア37〜39の開度を決定する。
【0081】
吸込口制御部674は、A/C操作パネル59から取得した吸込口設定、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Trなどに基づいて、車両用空調装置1が内気吸気口26から吸気する空気と外気吸気口27から吸気する空気の比率を設定する。吸込口制御部674は、外気温Tam、内気温Trと設定温度Tsetとの差などと吸気比との関係を表す関係式にしたがって内外気切替ドア25の開度を決定する。このような関係式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吸込口制御部674は、他の周知の方法を用いて、内外気切替ドア25の開度を決定することもできる。吸込口制御部674は、内外気サーボモータ24を制御し、内外気切替ドア25を求めた吸気比となるように回動させる。また、吸込口制御部674は、制御情報修正部66が吸気設定値又は設定温度Tsetを修正している場合には、その修正された吸気設定値又は設定温度Tsetを使用して内外気切替ドア25の開度を決定する。
【0082】
送風量設定部675は、A/C操作パネル59から取得した風量W、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sなどに基づいて、ブロアファン21の回転速度を決定し、駆動モータ22に印加するブロア電圧を決定する。そして、送風量設定部675は、ブロアファン21の回転速度が設定値になるように、駆動用モータ22に求めたブロア電圧を印加する。例えば、風量設定が手動設定になっている場合には、送風量設定部675は、A/C操作パネル59から取得した風量Wとなるようにブロアファン21の回転速度あるいはブロア電圧を決定する。また、風量設定が自動設定になっている場合には、送風量設定部675は、内気温Tr、空調温度Taoなどと風量Wとの関係を表す風量制御式にしたがってブロアファン21の回転速度あるいはブロア電圧を決定する。あるいは、風量制御式を、設定温度Tset及び空調情報(内気温Tr、外気温Tam及び日射量S)と、風量Wの関係を直接的に表すものとしてもよい。このような風量制御式として、周知の様々なものを用いることができる。なお、このような風量制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。あるいは、送風量設定部675は、空調情報と風量Wの関係を定めたマップを予め準備しておき、そのマップを参照して測定された空調情報に対応する風量Wを決定するマップ制御など、他の周知の方法を用いて、ブロアファン21の回転速度あるいはブロア電圧を決定することもできる。また、送風量設定部675は、制御情報修正部66が風量W又は設定温度Tsetを修正している場合には、その修正された風量W又は設定温度Tsetを使用してブロアファン21の回転速度を決定する。
【0083】
学習部68は、搭乗者が車両用空調装置1の操作を行った場合に、新しい確率モデルの生成を行うか否か、又は既存の確率モデルの更新を行うか否かを判定し、必要な場合、確率モデルの生成又は更新を行う。
【0084】
一般的に、搭乗者は、車室内が搭乗者にとって適切な空調状態となっていない場合、車両用空調装置1の設定操作を行う。そのため、搭乗者が車両用装置1の設定操作を頻繁に行う場合、搭乗者の設定操作を推定する確率モデルの構築が必要と考えられる。しかし、適切な確率モデルを構築するためには、統計的に正しい推定を行えるだけのデータが必要となる。そこで、学習部68は、車両用空調装置1の設定操作が行われる度に、その操作時に取得した各状態情報(外気温Tamなどの空調情報、車両の現在位置などの位置情報、車速などの車両挙動情報、心拍数などの生体情報)を学習データとして、上述した設定操作番号k及び搭乗者のIDに関連付けて、記憶部61に記憶する。また、搭乗者Aが、設定操作番号kに対応する設定操作α(例えば、設定温度を3℃下げる、風量Wを最大にするなど)を行った操作回数iAkも記憶部61に記憶する。なお、上記の学習データDAkは、例えば次式のように表される。
【数2】

ここで、dijkは、各状態情報の値である。iは、上記の操作回数iAkを示す。また、jは、状態情報の各値に対して便宜的に指定される状態項目番号であり、本実施形態では、j=1に対して内気温Tr、j=2に対して外気温Tam、j=3に対して日射量Sが割り当てられる。そして、j=4以降に、位置情報、車両挙動情報、生体情報などが割り当てられる。また、kは設定操作番号である。
これら学習データDAk及び操作回数iAkは、登録済み利用者及び設定操作ごとに別個に記憶される。
【0085】
学習部68は、操作回数iAkが、所定回数n1(例えば、20回)に等しくなると、記憶部61に記憶されている学習データDAkを用いて、その設定操作に関する確率モデルMAqkを構築する。なお、q(=1,2,..)は、搭乗者Aの設定操作番号kの設定操作について構築された確率モデルの数を表す。その後、搭乗者Aが、さらに設定操作αを繰り返す場合、学習部68は、前回の確率モデルMAqk構築後のその操作回数iAkがn1回に到達する度に(すなわち、操作回数iAk=n1・j(ただし、j=1,2,..)となる場合)、記憶部61に記憶された学習データDAkを用いて、確率モデルMAqkを更新する。
【0086】
そして、その操作回数iAkが、所定回数n2(例えば、60回)に等しくなると、学習部68は、その時点で記憶部61に記憶されている確率モデルMAqkを確立されたものとし、以後その確率モデルMAqkの更新は行わない。学習部68は、確立された確率モデルMAqkに対して、更新されないことを示すフラグ情報を付す。例えば、更新フラグfを確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶し、その更新フラグfが'1'の場合は、更新(すなわち、書き換え)禁止、更新フラグfが'0'の場合は更新可能として、更新可否を判別可能とすることができる。そして、学習部68は、記憶部61に記憶されている学習データDAkを消去し、操作回数iAkを初期化して、値を0にリセットする。なお、所定回数n2は、n1よりも大きな数で、統計的に十分正確な確率モデルを構築可能と考えられるデータ数に対応する。所定回数n1及びn2は、経験的、実験的に最適化することができる。
【0087】
確率モデルMAqkが確立された後、さらに搭乗者Aが同じ設定操作αを繰り返す場合には、上記と同様の手順に従って、新たな確率モデルMAq+1kを構築する。このように、必要に応じて複数の確率モデルを構築することにより、同一種類の設定操作が行われる特定状況が複数存在する場合(例えば、内気循環モードに設定する操作が行われる状況として、トンネル内に入ったという状況と、大型トラックの後ろになったという状況がある場合)に対応することができる。また、発生頻度の高い特定状況については、その状況に対応する情報が学習データ中に多数含まれるので、早期に対応する確率モデルが構築される。そして、対応する確率モデルが構築された特定状況に対しては、制御情報修正部66は、その確率モデルに基づく確率推論によって自動的に設定操作を行うようになるので、搭乗者は車両用空調装置1の設定操作を行わなくなる。そのため、学習部68は、学習が進むにつれて、発生頻度の低い特定状況が生じたときのみ、搭乗者は設定操作を行うようになるので、発生頻度の低い特定状況に対応する確率モデルを構築することもできる。
【0088】
次に、確率モデルの構築手順について説明する。
様々な状況に対応可能な、汎用的な確率モデルを構築するためには、多数のノードを含む、非常に大きな確率モデルを構築する必要がある。しかし、そのような確率モデルの学習には、非常に長い計算時間を要し、また、学習に必要なハードウェアリソースも膨大なものとなる。そこで、本実施形態では、状態情報のうち、設定操作と特に関連が深そうなものを幾つか入力パラメータとして選択し、それら入力パラメータの組み合わせに対する条件付き確率によって設定操作を行う確率を求める2層構成のグラフ構造を標準モデルとして15種類準備した。しかし、標準モデルの数は、15種類に限られない。標準モデルの数は、得られる状態情報の数や、学習対象とする設定操作の種類に応じて、適宜最適化できる。また、標準モデルは、入力パラメータを1個だけとするものや、取得可能な全ての状態情報を入力パラメータとするものであってもよい。さらに、標準モデルは、2層構成のグラフ構造に限られず、制御部60を構成するCPUの能力に応じて、3層以上のグラフ構造のものを標準モデルとして使用してもよい。
それらの標準モデルは、記憶部61に記憶される。そして、学習時には、各標準モデルについて、その標準モデルに含まれる各ノード間の条件付き確率を決定して仮の確率モデルを構築する。その後、情報量基準を用いて、最も適切なグラフ構造を有する仮の確率モデルを選択する。その選択されたモデルが、構築された確率モデルとなる。
【0089】
以下、図を用いて詳細に説明する。
図6(a)〜(d)に、15個の標準モデルのうちの4個を例として示す。図6(a)〜(d)に示す標準モデル501〜504は、何れも入力ノードと出力ノードからなる2層構成のベイジアンネットワークである。各標準モデル501〜504は、入力ノードに与えられるパラメータが異なる。
【0090】
また、各標準モデル501〜504の入力ノードに対しては、その入力ノードに割り当てられた入力パラメータに対する事前確率を規定するCPTが設定される。なお、入力情報の区分は、クラスタリングなどの手法を用いて行う。例えば、図6(b)に示す標準モデル502において、現在位置を入力パラメータ(パラメータy11)とする入力ノードについて、学習部68は、学習データを、最短距離法などの階層的手法またはk−平均法などの分割最適化手法を用いてクラスタリングする。そして学習部68は、各クラスタについて、クラスタに含まれるデータの重心を中心とし、その重心から最も遠い位置までを半径とする円を、そのクラスタに対応するパラメータ値の区分とする。あるいは、パラメータ値の区分を、自宅のときy11=0、職場のときy11=1、近所の公園のときy11=2のように区分を予め決めておくようにしてもよい。同様に、出力ノードに対しては、入力ノードに与えられた情報に基づく条件付き確率の分布を示すCPTが設定される。なお、初期状態では、CPTは、全ての状態に対して等しい値となるように設定される。あるいは、自宅のときy11=0、職場のときy11=1、近所の公園のときy11=2のように区分を予め決めておくようにしてもよい。同様に、出力ノードに対しては、入力ノードに与えられた情報に基づく条件付き確率の分布を示すCPTが設定される。なお、初期状態では、CPTは、全ての状態に対して等しい値となるように設定される。
【0091】
図7に示したフローチャートは、確率モデルを構築する手順である。
学習が開始されると、学習部68は、まず、各標準モデルに対して、学習データDAkから対象となる入力パラメータを抽出して各ノードの条件付き確率を求め、CPTを作成して確率モデルを構築する(ステップS201)。
そこで、学習部68は、記憶部61から読み出した、学習データDAkから、各ノードについて、各パラメータの状態ごとに該当する数nを数える。そして、その数nを全事象数Nで除した値を、事前確率及び条件付き確率の値とする。例えば、図6(b)の標準モデル502を例として説明する。ここで、30個のデータの組を含む学習データDAkがあり、このうち、入力ノードの一つに割り当てられている現在位置について調べると、自宅である回数(y11=0)が15回、職場である回数(y11=1)が12回、近所の公園である回数(y11=2)が3回とすると、現在位置に対する事前確率P(y11)は、それぞれ、P(y11=0)=0.5、P(y11=1)=0.4、P(y11=2)=0.1となる。同様に、出力ノードについては、親ノードである各入力ノードに与えられる入力情報の現在位置(y11)、曜日(y12)、時間帯(y13)の取り得る値の組み合わせのそれぞれについて、学習データDAk中に出現する数を計算し、それを全データ数である30で割ることによって、条件付き確率を求められる。このように、事前確率及び条件付き確率を求めることにより、各ノードに対応するCPTを決定する。
【0092】
なお、学習部68は、学習に用いるデータ数が十分でないと考えられる場合には、ベータ分布を用いて確率分布を推定するようにしてもよい。また、学習データDAkの中に、一部の入力情報の値の組み合わせが存在しない、すなわち、未観測データがある場合、未観測データに対する確率分布を推定し、その分布に基づいて期待値を計算することで、対応する条件付き確率を計算する。このような条件付き確率の学習については、例えば、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、p.35-38、p.85-87に記載された方法を用いることができる。
【0093】
各標準モデルに対するCPTが求められると、学習部68は、構築された確率モデルを評価するために、各確率モデルについて情報量基準を算出する(ステップS202)。
本実施形態では、情報量基準として、AIC(赤池情報量基準)を用いた。AICは、確率モデルの最大対数尤度と、パラメータ数に基づいて、以下の式に基づいて求めることができる。
【数3】

ここで、AICmは、確率モデルMに対するAICを表す。また、θmは、確率モデルMのパラメータ集合を、lmm|X)は、データXを所与としたときの確率モデルMにおけるそのデータの最大対数尤度の値を、kmは確率モデルMのパラメータ数をそれぞれ表す。ここでlmm|X)は、以下の手順で計算できる。まず、各ノードにおいて、親ノードの変数の各組み合わせについて、学習データDAkから出現頻度を求める。その出現頻度に条件付き確率の対数値を乗じた値を求める。最後にそれらの値を足し合わせることでlmm|X)が算出される。また、kmは、各ノードにおける、親ノード変数の組み合わせの数を足し合わせることで求められる。
【0094】
学習部68は、全ての確率モデルについてAICを求めると、AICの値が最も小さいモデルを、使用する確率モデルとして選択し、記憶部61に保存する(ステップS203)。そして、他の確率モデルを消去する(ステップS204)。
なお、情報量基準を用いた確率モデルの選択(言い換えれば、グラフ構造の学習)については、ベイズ情報量基準(BIC)、竹内情報量基準(TIC)、最小記述長(MDL)基準など他の情報量基準を用いてもよい。さらに、これらの情報量基準の算出式の正負を反転させたものを、情報量基準として用いてもよい。この場合には、情報量基準の値が最大となる確率モデルを、使用する確率モデルとして選択する。
【0095】
学習部68は、構築された確率モデルを記憶部61に記憶する。また、学習データDAkに関連付けられた搭乗者のID、設定操作番号kを取得し、構築された確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶する。さらに、その確率モデルに基づいて修正される設定情報または制御情報及びその修正値を、設定操作番号kに基づいて特定し、その確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶する。なお、設定操作番号kと、修正される設定情報または制御情報及びその修正値の関係は、例えばルックアップテーブルとして予め規定され、記憶部61に保持される。
【0096】
以下、図8及び図9に示したフローチャートを参照しつつ、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1の空調制御動作について説明する。なお、空調制御動作は、制御部60により、制御部60に組み込まれたコンピュータプログラムにしたがって行われる。
【0097】
図8に示すように、まず、エンジンスイッチがONとなると、制御部60は、車両用空調装置1を稼動させる。そして、制御部60の照合部63は、搭乗者の照合・認証を行う(ステップS101)。また、搭乗者と判定された登録済利用者の個人設定情報を記憶部61から読み出す(ステップS102)。次に、通信部62を通じて、各センサ、ナビゲーションシステム56、車両操作機器57などから各状態情報を取得する(ステップS103)。同様に、記憶部61から各設定情報を取得する。
【0098】
次に、制御部60は、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行ったか否かを判定する(ステップS104)。A/C操作パネル59から操作信号を受信すると、設定操作が行われたと判断する。搭乗者が設定操作を行っていない場合、制御部60の推薦確率算出部64は、その搭乗者に関連付けられている確率モデルMAqkのうち、何れかの操作グループに関連する設定情報または制御情報(例えば、設定温度Tset)の修正に関連する確率モデルに、観測された状態情報を入力する。そして、推薦確率算出部64は、その確率モデルに関連付けられている設定操作を行う確率を算出する(ステップS105)。推薦確率算出部64は、その設定情報または制御情報に関連する同一操作グループ内の設定操作について算出された確率のうち、最も高い確率を推薦確率Pとして求める。
その後、制御部60の推薦確率修正部65は、求めた推薦確率Pを、上述した所定の規則に従って修正する(ステップS106)。
【0099】
次に、制御部60の制御情報修正部66は、修正された推薦確率Pを、第1の所定値Th1と比較する(ステップS107)。推薦確率Pが第1の所定値Th1(例えば、0.9)以上の場合、制御情報修正部66は、推薦確率Pを出力した確率モデル(以下、選択確率モデルという)に関連付けられた修正情報に基づいて、対応する車両用空調装置1の設定情報または制御情報を修正する(ステップS108)。一方、推薦確率Pが、第1の所定値Th1未満の場合、制御情報修正部66は、推薦確率Pを、第2の所定値Th2(例えば、0.6)と比較する(ステップS109)。そして、推薦確率Pが第2の所定値Th2以上であれば、制御情報修正部66は、A/C操作パネル59の表示部などを通じて、選択確率モデルに関連付けられた設定操作番号kに対応する設定操作を行うか否かを表示し、確認する(ステップS110)。そして、搭乗者がその設定操作を行うことを承認した場合、制御情報修正部66は、選択確率モデルに関連付けられた修正情報に基づいて設定情報または制御情報を修正する(ステップS108)。一方、搭乗者が承認しなかった場合には、制御情報修正部66は、その設定情報または制御情報を修正しない。すなわち、選択確率モデルに関連付けられた設定情報または制御情報に関連する設定操作は行わない。また、ステップS109において、推薦確率Pが第2の所定値Th2未満の場合も、制御情報修正部66は、その設定情報または制御情報を修正しない。
【0100】
その後、制御情報修正部66は、全ての確率モデルに関して確率を算出したか否かを確認することにより、全ての設定情報及び制御情報の調節が終わったか否かを判定する(ステップS111)。まだ確率を算出していない確率モデルがある場合、すなわち、設定情報の修正の有無を調べていない操作グループがある場合には、制御部60は、制御をステップS105の前に戻す。一方、全ての確率モデルについて、確率算出を終了している場合には、制御部60の空調制御部67は、必要に応じて修正された設定情報及び制御情報に基づいて、所望の空調温度、風量などが得られるように、空調制御を行う(ステップS112)。具体的には、空調制御部67エアミックスドア、ブロアファンの回転数、各吹き出し口のドアの開度などを調節する。
その後、制御部60は、車両用空調装置1がOFFにされたか否かを判定する(ステップS120)。車両用空調装置1がOFFにされた場合、車両用空調装置1の動作は終了する。一方、車両用空調装置1が稼動し続ける場合、ステップS104〜S120の制御を一定期間(例えば、5秒)ごとに繰り返す。
【0101】
図9に示すように、ステップS104において、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行った場合、設定信号を参照してどの設定操作が行われたかを特定する(ステップS113)。そして、搭乗者のIDと、行われた設定操作に対応する設定操作番号kと、その設定操作が行われた操作回数iAkと関連付けて、取得された各状態情報を学習データDAkの要素として記憶部61に記憶する(ステップS114)。
【0102】
その後、制御部60の学習部68は、操作回数iAkが所定回数n1*j(j=1,2,3)と等しいか否か判定する(ステップS115)。なお、所定回数n1は、例えば20回である。そして、学習部68は、iAk=n1*jと判定した場合、その搭乗者及び設定操作番号kに関連付けられて記憶部61に記憶されている学習データDAkを用いて、確率モデルMAqkを構築する(ステップS116)。なお、確率モデルMAqkは、図7のフローチャートに示した手順に従って構築される。そして、学習部68は、その確率モデルMAqkを搭乗者のIDなどと関連付けて記憶部61に記憶する。一方、ステップS115において、iAkがn1*jと等しくない場合、制御部60は、制御をステップS117の前に移行する。
【0103】
次に、学習部68は、操作回数iAkが所定回数n2(例えば、n2=60)と等しいか否か判定する(ステップS117)。iAkがn2と等しくなければ、iAkを1だけインクリメントし(ステップS118)、制御を図8のステップS112の前へ移行する。一方、ステップS117において、iAk=n2であれば、学習部68は、その搭乗者及び設定操作番号kに関連付けられて記憶部61に記憶されている学習データDAkを消去する(ステップS119)。また、iAkを初期化し、iAk=0とする。その後、制御をステップS112の前に移行する。そして空調制御が行われ(ステップS112)、車両用空調装置1が停止されたか否かが判定されて(ステップS120)、車両用空調装置1が停止されていなければ、上記の処理が繰り返される。
【0104】
なお、上記のフローチャートのステップS104において、学習データの蓄積あるいは推薦確率の算出を行うか否かの判断を、状態情報が所定の値になったか否かに基づいて行ってもよい。
【0105】
また、上記のフローチャートのステップS115において、学習部68は、確率モデルの構築を行うか否かを判定するために、操作回数iAkと所定回数n1*j(j=1,2,3)を比較する代わりに、同一の設定操作に関連する確率モデルを前回構築したときからの経過時間が第1の所定時間(例えば、1週間、1ヶ月)経過したか否かを判定するようにしてもよい。この場合、学習部68は、その経過時間が第1の所定時間以上となったとき、確率モデルの構築を行う。すなわち、学習部68は、上記のステップS116〜S119の処理を実行する。このように、経過時間に基づいて確率モデルの構築を行うか否かを判定するために、制御部60は、確率モデルが構築された時の作成日時をその確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶しておく。そして、学習部68は、経過時間を算出する際に、設定操作αに関連する確率モデルのうち、最新の確率モデルに関連付けられた作成日時を記憶部61から取得し、現在の時間との差を求めることによって経過時間を算出する。
さらに、学習部68が経過時間に基づいて確率モデルの構築を行うか否かを判定する場合、上記のステップS117では、学習部68は、経過時間を第1の所定時間よりも長い第2の所定時間(例えば、4週間、6ヶ月)と比較するようにしてもよい。そして、経過時間が第2の所定時間よりも長い場合、学習部68は、学習データDAkの消去、更新フラグfの書き換えを行う。
【0106】
以上説明してきたように、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置は、搭乗者の温感又は特定状況に合わせて学習された少なくとも一つの確率モデルに基づいて、搭乗者の空調設定操作を推定するので、搭乗者の温感又は状況に応じて自動的に最適な空調設定を行うことができる。特に、推薦確率の算出に用いたパラメータの信頼度、搭乗者が推薦された設定操作に対して過去に行った行動などに応じて推薦確率を修正するので、特定状況に対応した設定操作をより適切に推薦することができる。
【0107】
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置は、学習に使用するデータを、その信頼度または搭乗者の過去の設定操作時の反応などに基づいて重み付けを行い、その重み付けを行ったデータを用いて確率モデルの学習を行うものである。
図10に、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図を示す。本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の制御部60は、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の制御部60と比較して、推薦確率修正部65の代わりにデータ重み付け部69を有する点でのみ相違する。また、第1及び第2の実施形態に係る車両用空調装置は、車両用空調装置の他の構成要素に関しては、同一の構成を有する。そこで、以下では、制御部60に関して、第1の実施形態と異なる点、特に、データ重み付け部69による処理について説明する。
【0108】
データ重み付け部69は、取得された状態情報の信頼度、搭乗者が推薦された設定操作に対して過去に行った行動などに応じて、学習データDAkとして記憶される状態情報に重み付けを行う。各状態情報に付される重みは、重み行列WAKとして、学習データDAkと関連付けられ、記憶部61に記憶される。重み行列WAKにおいて、Aは搭乗者の識別番号を表し、kは設定操作番号を表す。すなわち、重み行列WAKも、搭乗者毎、及び設定操作の種類ごとに作成される。そして、この重み行列WAKは、学習データDAkと同一のサイズを有し、重み行列WAKの要素wijkは、学習データDAkの要素dijkに対する重みを表す。
データ重み付け部69は、学習データDAkの要素dijkに対する重みを決定すると、重み行列WAKの要素wijkにその重みを書き込む。
【0109】
学習部68は、確率モデルの各ノードに対応するCPTを作成する際、各ノードの入力パラメータとして用いられる状態情報に関して、その状態情報の値の区分毎に、学習データDAkから、その区分に含まれる値を有する状態情報を数える代わりに、その区分に含まれる値を有する状態情報の重みを重み行列WAKから取得する。そして学習部68は、取得した重みを各区分ごとに加算して、その区分に対する出現頻度とする。また学習部68は、全事象数を、各区分の出現頻度の合計とする。学習部68は、第1の実施形態と同様に、得られた出現頻度を全事象数で除して、各ノードの出力となる事前確率及び条件付き確率の値を決定する。
データ重み付け部69は、状態情報の重み付けを、上記の推薦確率修正部65と同様に様々な観点から設定された規則に従って行う。以下、この状態情報の重み付けについて幾つかの例を用いて説明する。
【0110】
状態情報の重み付けに関する第1の規則は、取得された状態情報の信頼度に基づくものである。例えば、ナビゲーションシステム56から取得した位置情報を学習データとして記憶する場合、データ重み付け部69は、ナビゲーションシステム56とGPS衛星との通信状態が良好であるほど、その位置情報の信頼度が高いと判定する。そして、データ重み付け部69は、その位置情報の信頼度が高いほど、重みを大きくする。例えば、ナビゲーションシステム56とGPS衛星との通信状態が0〜3の4段階で表されるとする(ただし、数値が大きいほど通信状態が良好であるとする)。このとき、データ重み付け部69は、通信状態が0のときは重みを0とする。また、データ重み付け部69は、通信状態が1のときは、重みを0.3とする。同様に、データ重み付け部69は、通信状態が2のときは、重みを0.7とし、通信状態が3のときは、重みを1とする。
【0111】
状態情報の重み付けに関する第2の規則は、過去に設定操作を搭乗者に提示したときの、その提示を行った時点から、搭乗者が何らかの設定操作を行うまでに要した反応時間に基づくものである。上記のように、制御情報修正部66は、所定の設定操作を行う推薦確率が所定の範囲、すなわち、閾値Th1未満で閾値Th2以上のとき、搭乗者に対してその所定の設定操作の内容を提示する。そして、搭乗者がその設定操作を行うことについて承認する操作を行った場合、制御情報修正部66は、その設定操作となるように、設定情報または制御情報を修正する。ここで、制御部60は、推薦された設定操作を提示する度、内蔵のタイマを用いて上記の反応時間を計測する。そして制御情報修正部66は、その反応時間を、その所定の設定操作に関する推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて、記憶部61に記憶する。また、この規則を適用する場合、データ重み付け部69は、上記の所定の設定操作とその所定の設定操作の推薦確率を求めるために使用する状態情報を関連付けなければならない。そのために、データ重み付け部69は、その所定の設定操作に関する推薦確率の算出に用いた確率モデルに対して、推薦確率を上記の所定の範囲内の値に設定して確率伝播法を適用し、入力パラメータとして使用される状態情報の組について、最も確率の高い値の組を求める。そして、データ重み付け部69は、各センサから取得された状態情報の値が、その最も確率の高い値の組に相当する場合、重み付けを行う。
【0112】
データ重み付け部69は、推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて記憶されている反応時間の平均値を求める。そして、データ重み付け部69は、反応時間の平均値が短いほど、重みを大きくする。例えば、データ重み付け部69は、反応時間の平均値が5秒未満であれば、関連する状態情報に対する重みを1.1とし、反応時間の平均値が5秒以上であれば、関連する状態情報に対する重みを1とする。なお、データ重み付け部69は、反応時間の平均値を3段階以上に区分して、その平均値が短い区分ほど重みが大きくなるようにしてもよい。
【0113】
状態情報の重み付けに関する第3の規則は、過去に設定操作を搭乗者に提示したときの、その提示された設定内容に対して承認操作を行った割合に基づくものである。車両用空調装置1によって提示された設定操作を承認する割合が高いほど、その搭乗者のニーズに応じた設定操作を推薦していると考えられるので、データ重み付け部69は、その承認割合が高いほど、対応する状態情報に付する重みを大きくする。
この場合も、推薦された設定操作に対して搭乗者が承認操作を行ったか否かを記録することが必要であるため、上記の第2の規則と同様に、制御情報修正部66は、所定の設定操作を行う推薦確率が所定の範囲のとき、搭乗者に対してその所定の設定操作の内容を提示する。そして制御情報修正部66は、その所定の設定操作を提示した累計回数、及びその提示に対して搭乗者が承認操作を行った累計回数を求め、その所定の設定操作に関する推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて、記憶部61に記憶する。さらに、データ重み付け部69は、所定の設定操作とその所定の設定操作の推薦確率を求めるために使用する状態情報の関連付けについても、上記の第2の規則と同様に行い、重み付けを行う状態情報を特定する。
【0114】
データ重み付け部69は、推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて記憶されている、その所定の設定操作が提示された累計回数に占める承認操作が行われた累計回数の比率を求める。そして、データ重み付け部69は、その比率が高いほど、重みを大きくする。例えば、データ重み付け部69は、求めた比率が50%未満であれば、関連する状態情報に対する重みを0.9とし、その状態情報について、学習データとして既に蓄積されているものに対する重みも0.9に修正する。また、データ重み付け部69は、求めた比率が50%以上であれば、関連する状態情報に対する重みを1とし、その状態情報について、学習データとして既に蓄積されているものに対する重みも1に修正する。なお、データ重み付け部69は、上記の比率を3段階以上に区分して、その比率が低い区分ほど重みが小さくなるようにしてもよい。
【0115】
また、承認操作を行った累計回数の代わりに、拒否操作あるいは推薦された設定操作の提示後の所定期間内(例えば、1分間)に手動で提示された設定操作と同一の操作を行った累計回数を使用してもよい。この場合には、データ重み付け部69は、その拒否操作などの累計回数が、その設定操作が提示された累計回数に占める割合が少ないほど、重みを大きくする。
【0116】
状態情報の重み付けに関する第4の規則は、確率モデルの構築に用いた学習データ数に基づくものである。学習データ数が少ないとき、すなわち、搭乗者が本発明に係る車両用自動空調装置1を使い始めてからあまり日数を経ていないと考えられる場合、重みを大きくする。この規則を適用する場合には、学習部68は、確率モデルの構築を行うか否かの判定基準として、学習データに蓄積された状態情報の数を用いる代わりに、学習データに蓄積された状態情報に付された重みの合計を用いる。この場合、学習データとして蓄積された状態情報が少なくても学習が行われるので、車両用自動空調装置1が学習していることを体感してもらい易くなる。
例えば、データ重み付け部69は、確率モデルの学習に用いた学習データに含まれる状態情報の組の数が10個以下であれば、重みを2とし、その状態情報の組の数が10個より多くなると、それまでに学習データとして蓄積された状態情報に対する重みを全て1に修正するとともに、以後蓄積される状態情報に対する重みも1とする。
【0117】
状態情報の重み付けに関する第5の規則は、推薦された設定操作により修正される設定情報または制御情報と、その設定操作を実施する前の設定情報または制御情報との差、すなわち修正量に基づくものである。この場合、データ重み付け部69は、推薦された設定操作による設定情報または制御情報の修正量が大きくなるほど、重みを大きくする。なお、この場合にも、データ重み付け部69は、第2の規則で説明した方法により、推薦された設定操作とその設定操作に関連する状態情報を関連付ける。
【0118】
データ重み付け部69は、例えば、推薦された設定操作により、設定温度Tsetが3℃以上変更される場合、関連する状態情報の重みを2とし、設定温度Tsetの変更量が3℃未満の場合、重みを1とする。また、確率モデルが修正されることにより、その修正後において、設定温度Tsetが3℃以上変更されることになった場合、データ重み付け部69は、学習データとして既に蓄積されている状態情報のうち、関連する状態情報の重みも2に修正する。逆に、確率モデルが修正されることにより、その修正後において、設定温度Tsetが3℃未満しか変更されなくなった場合、データ重み付け部69は、学習データとして既に蓄積されている状態情報のうち、関連する状態情報の重みも1に修正する。
同様に、データ重み付け部69は、推薦された設定操作により、ブロア電圧が3V以上変更される場合、あるいは空調空気を吹き出す方向が30°以上変更される場合、関連する状態情報に対する重みを2とし、ブロア電圧及び空調空気の吹き出し方向がそこまで変更されない場合、関連する状態情報に対する重みを1とする。なお、データ重み付け部69は、上記のように、修正量を2段階に区分する代わりに、3段階以上に区分して、その修正量が大きい区分ほど、重みが大きくなるようにしてもよい。
【0119】
状態情報の重み付けに関する第6の規則は、特定の状況において搭乗者が設定操作を行った操作頻度に基づくものである。その操作頻度が高いほど、その特定状況に対する車両用空調装置1の設定内容が搭乗者の温感に合っていないと考えられるので、設定操作の推薦が行われ易い方が好ましい。そこで、データ重み付け部69は、その操作頻度が高いほど、重みを大きくする。
【0120】
この場合、予め操作頻度を調べる特定状況を設定する。そして、制御部60は、各センサから得た状態情報が、その特定状況に相当する値を有するか否かを判定する。制御部60は、特定状況に至ったと判定してから所定期間(例えば、1分間)中に、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行ったか否かを調べる。そして、制御部60は、その特定状況に至った累計回数と、その特定状況下において搭乗者が設定操作を行った累計回数とを求め、その特定状況を表すデータに関連付けて、記憶部61に記憶する。なお、特定状況を表すデータは、例えば、その特定状況に関連する状態情報のタイプと、その値との組み合わせである。また、特定状況の例として、内気温Trあるいは外気温Tamが所定温度(例えば、30℃、0℃など)である状況、車両が所定位置(例えば、国道上、搭乗者の勤務先など)の近傍にいる状況などが挙げられる。
また、推薦確率算出部64は、その特定状況に対応する確率モデルを用いて、所定の設定操作を行う推薦確率を算出する。
【0121】
データ重み付け部69は、その設定操作が行われた累計回数がその特定状況に至った累計回数に占める割合が50%以上の場合、重みを2とし、その割合が50%未満の場合、重みを1とする。なお、データ重み付け部69は、上記の割合を2段階に区分する代わりに、3段階以上に区分して、その割合が大きい区分ほど、重みが大きくなるようにしてもよい。
【0122】
状態情報の重み付けに関する第7の規則は、所定期間内において搭乗者が設定操作を行った操作頻度に基づくものである。その操作頻度が高いほど、車両用空調装置1の設定内容が搭乗者の温感に合っていないと考えられるので、設定操作の推薦が行われ易い方が好ましい。そこで、データ重み付け部69は、その操作頻度が高いほど、重みを大きくする。
【0123】
この場合、制御部60は、設定操作の内容、設定操作が行われたときの状況にかかわらず、設定操作が行われたことを、A/C操作パネル59などを通じて検知し、所定期間内に設定操作が行われた累計回数を求める。その所定期間は、例えば、1回の乗車(エンジンが始動してから停止するまでの期間)、1週間、1ヶ月などとすることができる。
そして、例えば、データ重み付け部69は、1回の乗車当たりの操作頻度の平均値が5以上であれば、重みを1.5とし、その平均値が5未満であれば、重みを1とする。
【0124】
状態情報の重み付けに関する第8の規則は、状態情報の取得時期に基づくものである。データ重み付け部69は、状態情報の取得時期が新しいほど、重みを大きくする。例えば、データ重み付け部69は、新たに取得した状態情報を学習データとして保存するとき、その状態情報に対する重みを1.5に設定する。また同時に、データ重み付け部69は、各状態情報に、取得された日時を関連付けて記憶部61に記憶する。そして、データ重み付け部69は、車両用空調装置1の起動時などにおいて、現在の日時をナビゲーションシステム56などから取得して、記憶部61に記憶されている学習データに含まれる各状態情報の日時と比較する。そして、データ重み付け部69は、学習データに含まれる各状態情報のうち、取得されてからの経過日時が10日を過ぎているものについて、その重みを1に修正する。
【0125】
データ重み付け部69は、上述した様々な規則の全てに従って状態情報を重み付けする。あるいは、データ重み付け部69は、その規則のうちの幾つかに基づいて、状態情報の重み付けを行ってもよい。また、上述した規則の幾つかに基づいて算出した重みが互いに矛盾するような場合、例えば、第1の規則に従うと重みが0.3となるのに、第2の規則に従うと重みが1.1になるような場合がある。そこで、データ重み付け部69は、各規則ごとに優先度を予め設定しておき、各規則に従って求めた重みが矛盾する場合には、優先度の最も高い規則に従って求めた重みを採用する。
【0126】
図11に、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の動作フローチャートを示す。なお、図11は、図8及び図9に示した本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の動作フローチャートと相違する部分だけを示す。また、図11に示した動作フローチャートにおいて、図8及び図9に示した動作フローチャートと同一のステップには、同一の番号を付した。
【0127】
まず、車両用空調装置が起動され、個人設定情報が取得されると(ステップS102)、制御部60のデータ重み付け部69は、学習データに含まれる各状態情報の取得日時を調べる。そして、データ重み付け部69は、上記の第8規則に従って、各状態情報について、取得されてから所定の経過時間を過ぎているものに対する重みを小さくする(ステップS121)。
【0128】
その後、搭乗者による設定操作が行われ、ステップS113において行われた設定操作が特定されると、データ重み付け部69は、特定された設定操作に関連する確率モデルを特定する。そして、データ重み付け部69は、上記の第2規則などで説明したように、その確率モデルに基づいて、重み付けを行う状態情報を特定する(ステップS122)。その後、データ重み付け部69は、その特定された状態情報に対する重みを上記の各規則にしたがって決定し、重み行列WAKを更新する(ステップS123)。その後、ステップS114に進み、取得された状態情報を記憶する。
また、ステップS104において搭乗者が設定操作を行わず、ステップS105において制御部60の推薦確率算出部64が所定の設定操作についての推薦確率を算出すると、制御部60の制御情報修正部66は、その推薦確率を修正せずに用いて、ステップS107以降の処理を行う。
【0129】
以上説明してきたように、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置は、確率モデルの構築に用いる学習データに含まれる状態情報を、各状態情報の信頼度などに基づいて重み付けし、その重みを用いて確率モデルを構築する。そのため、学習に不適切なデータによる悪影響を軽減できるので、係る車両用空調装置は、特定の状況に応じた適切な設定操作を搭乗者に推薦できる。
【0130】
次に、本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置は、推薦された設定操作を自動的に行うか否かの閾値Th1、あるいは、推薦された設定操作を搭乗者に提示するか否かの閾値Th2を、推薦確率の算出に用いた状態情報の信頼度または搭乗者の過去の設定操作時の反応などに基づいて修正するものである。
図12に、本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図を示す。本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置の制御部60は、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の制御部60と比較して、推薦確率修正部65の代わりに閾値設定部70を有する点でのみ相違する。なお、第1及び第3の実施形態に係る車両用空調装置は、車両用空調装置の他の構成要素に関しては、同一の構成を有する。そこで、以下では、制御部60に関して、第1の実施形態と異なる点、特に、閾値設定部70による処理について説明する。
【0131】
閾値設定部70は、閾値Th1あるいは閾値Th2の修正を、様々な観点から設定された規則に従って行う。以下、この閾値の修正について幾つかの例を用いて説明する。
【0132】
閾値の修正に関する第1の規則は、推薦確率を求めるために確率モデルに入力された入力パラメータの信頼度に基づくものである。例えば、推薦確率を求めるために、ナビゲーションシステム56から取得した位置情報を入力パラメータとして用いた場合、閾値設定部70は、ナビゲーションシステム56とGPS衛星との通信状態が良好であるほど、その位置情報の信頼度が高いと判定する。そして、閾値設定部70は、その位置情報の信頼度が高いほど、閾値を低くする。例えば、ナビゲーションシステム56とGPS衛星との通信状態が0〜3の4段階で表されるとする(ただし、数値が大きいほど通信状態が良好であるとする)。このとき、閾値設定部70は、通信状態が0のときは閾値Th1及び閾値Th2を1より大きな値に設定する。すなわち、確率モデルに基づいて推薦された設定操作が自動的に実施されることも、搭乗者に提示されることもない。また、閾値設定部70は、通信状態が1のときは、閾値Th1及びTh2の初期設定値に1.2を乗じる。なお、閾値Th1の初期設定値は、例えば0.9であり、閾値Th2の初期設定値は、例えば0.6である。同様に、閾値設定部70は、通信状態が2のときは、閾値Th1及びTh2の初期設定値に1.1を乗じる。さらに、閾値設定部70は、通信状態が3のときは、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。
【0133】
閾値の修正に関する第2の規則は、過去に設定操作を搭乗者に提示したときの、その提示を行った時点から、搭乗者が何らかの設定操作を行うまでに要した反応時間に基づくものである。上記の反応時間の計測は、第1の実施形態で推薦確率の修正を行う第2の規則で説明したのと同様に行われる。
閾値設定部70は、推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて記憶されている反応時間の平均値を求める。そして、閾値設定部70は、反応時間の平均値が短いほど、閾値を低くする。例えば、閾値設定部70は、反応時間の平均値が5秒以上であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値に1.1を乗じ、反応時間の平均値が5秒未満であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。なお、閾値設定部70は、反応時間の平均値を3段階以上に区分して、その平均値が短い区分ほど閾値Th1及びTh2に乗じる係数が低くなるようにしてもよい。
【0134】
閾値の修正に関する第3の規則は、過去に設定操作を搭乗者に提示したときの、その提示された設定内容に対して承認操作を行った割合に基づくものである。車両用空調装置1によって提示された設定操作を承認する割合が高いほど、その搭乗者のニーズに応じた設定操作を推薦していると考えられるので、閾値設定部70は、その承認割合が高いほど、閾値を低くする。
この場合も、推薦された設定操作に対して搭乗者が承認操作を行ったか否かを記録することが必要であるため、制御情報修正部66は、その所定の設定操作を提示した累計回数、及びその提示に対して搭乗者が承認操作を行った累計回数を求め、その所定の設定操作に関する推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて、記憶部61に記憶する。
【0135】
閾値設定部70は、推薦確率の算出に用いた確率モデルに関連付けて記憶されている、その所定の設定操作が提示された累計回数に占める承認操作が行われた累計回数の比率を求める。そして、閾値設定部70は、その比率が高いほど、閾値を低くする。例えば、閾値設定部70は、求めた比率が50%以上であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値に0.9を乗じ、求めた比率が50%未満であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。なお、閾値設定部70は、上記の比率を3段階以上に区分して、その比率が低い区分ほど閾値Th1及びTh2に乗じる係数が大きくなるようにしてもよい。
【0136】
また、承認操作を行った累計回数の代わりに、拒否操作あるいは推薦された設定操作の提示後の所定期間内(例えば、1分間)に手動で提示された設定操作と同一の操作を行った累計回数を使用してもよい。この場合には、閾値設定部70は、その拒否操作などの累計回数が、その設定操作が提示された累計回数に占める割合が少ないほど、閾値を低くする。
【0137】
閾値の修正に関する第4の規則は、確率モデルの構築に用いた学習データ数に基づくものである。学習データ数が少ないとき、すなわち、搭乗者が本発明に係る車両用自動空調装置1を使い始めてからあまり日数を経ていないと考えられる場合、閾値を低めに設定する。そのように閾値を修正することで、搭乗者に、車両用自動空調装置1が学習していることを体感してもらい易くなる。
例えば、閾値設定部70は、確率モデルの学習に用いた学習データに含まれる状態情報の組の数が30個未満であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値に0.9を乗じ、その状態情報の組の数が30個以上であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。
また、上記と逆に、閾値設定部70は、確率モデルの構築に用いた学習データ数が多いほど、閾値Th1及びTh2が低くなるように修正してもよい。学習データ数が多いほど、搭乗者が設定操作を行う状況を的確に把握できると考えられるためである。
【0138】
閾値の修正に関する第5の規則は、推薦された設定操作により修正される設定情報または制御情報と、その設定操作を実施する前の設定情報または制御情報との差、すなわち修正量に基づくものである。この場合、閾値設定部70は、推薦された設定操作による設定情報または制御情報の修正量が大きくなるほど、閾値を低くする。例えば、閾値設定部70は、推薦された設定操作により、設定温度Tsetが3℃以上変更される場合、閾値Th1及びTh2の初期設定値に0.9を乗じ、設定温度Tsetの変更量が3℃未満の場合、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。同様に、閾値設定部70は、推薦された設定操作により、ブロア電圧が3V以上変更される場合、あるいは空調空気を吹き出す方向が30°以上変更される場合、閾値Th1及びTh2の初期設定値に0.9を乗じ、ブロア電圧及び空調空気の吹き出し方向がそこまで変更されない場合、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。なお、閾値設定部70は、上記のように、修正量を2段階に区分する代わりに、3段階以上に区分して、その修正量が大きい区分ほど、閾値Th1及びTh2に乗じる係数が小さくなるようにしてもよい。
【0139】
閾値の修正に関する第6の規則は、特定の状況において搭乗者が設定操作を行った操作頻度に基づくものである。その操作頻度が高いほど、その特定状況に対する車両用空調装置1の設定内容が搭乗者の温感に合っていないと考えられるので、設定操作の推薦が行われ易い方が好ましい。そこで、閾値設定部70は、その操作頻度が高いほど、閾値を低くする。
【0140】
この場合、予め操作頻度を調べる特定状況を設定する。そして、制御部60は、各センサから得た状態情報が、その特定状況に相当する値を有するか否かを判定する。制御部60は、特定状況に至ったと判定してから所定期間(例えば、1分間)中に、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行ったか否かを調べる。そして、制御部60は、その特定状況に至った累計回数と、その特定状況下において搭乗者が設定操作を行った累計回数とを求め、その特定状況を表すデータに関連付けて、記憶部61に記憶する。なお、特定状況を表すデータは、例えば、その特定状況に関連する状態情報のタイプと、その値との組み合わせである。また、特定状況の例として、内気温Trあるいは外気温Tamが所定温度(例えば、30℃、0℃など)である状況、車両が所定位置(例えば、国道上、搭乗者の勤務先など)の近傍にいる状況などが挙げられる。
また、推薦確率算出部64は、その特定状況に対応する確率モデルを用いて、所定の設定操作を行う推薦確率を算出する。
【0141】
閾値設定部70は、その設定操作が行われた累計回数がその特定状況に至った累計回数に占める割合が50%以上の場合、閾値Th1及びTh2の初期設定値に0.9を乗じ、その割合が50%未満の場合、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。なお、閾値設定部70は、上記の割合を2段階に区分する代わりに、3段階以上に区分して、その割合が大きい区分ほど、閾値Th1及びTh2に乗じる係数が小さくなるようにしてもよい。
【0142】
閾値の修正に関する第7の規則は、所定期間内において搭乗者が設定操作を行った操作頻度に基づくものである。その操作頻度が高いほど、車両用空調装置1の設定内容が搭乗者の温感に合っていないと考えられるので、設定操作の推薦が行われ易い方が好ましい。そこで、閾値設定部70は、その操作頻度が高いほど、閾値を低くする。
【0143】
この場合、制御部60は、設定操作の内容、設定操作が行われたときの状況にかかわらず、設定操作が行われたことを、A/C操作パネル59などを通じて検知し、所定期間内に設定操作が行われた累計回数を求める。その所定期間は、例えば、1回の乗車(エンジンが始動してから停止するまでの期間)、1週間、1ヶ月などとすることができる。
そして、例えば、閾値設定部70は、1回の乗車当たりの操作頻度の平均値が5以上であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値に0.9を乗じ、その平均値が5未満であれば、閾値Th1及びTh2の初期設定値を修正しない。
【0144】
閾値設定部70は、上述した様々な規則の全てに従って閾値Th1及びTh2を修正する。あるいは、閾値設定部70は、その規則のうちの幾つかに基づいて、閾値Th1及びTh2を修正してもよい。そして、閾値設定部70は、修正された閾値Th1及びTh2が所定の上限値を超える場合、閾値Th1及びTh2をその所定の上限値に設定する。同様に、閾値設定部70は、修正された閾値Th1及びTh2が所定の下限値を下回る場合、閾値Th1及びTh2をその所定の下限値に設定する。ここで、所定の上限値は、例えば、1.1、あるいは、閾値Th1及びTh2の初期設定値に所定の係数(例えば、1.3)を乗じた値とすることができる。また、所定の下限値は、例えば、0.5、あるいは、閾値Th1及びTh2の初期設定値に所定の係数(例えば、0.7)を乗じた値とすることができる。
【0145】
図13に、本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置の動作フローチャートを示す。なお、図13は、図8及び図9に示した本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の動作フローチャートと相違する部分だけを示す。また、図13に示した動作フローチャートにおいて、図8及び図9に示した動作フローチャートと同一のステップには、同一の番号を付した。
【0146】
ステップS105において、制御部60の推薦確率算出部64が、所定の設定操作についての推薦確率を算出すると、制御部60の閾値設定部70は、上記の規則に従って、その推薦確率に対する閾値Th1及びTh2を修正する(ステップS131)。その後、制御部60の制御情報修正部66は、修正された閾値Th1及びTh2を用いて、ステップS107以降の処理を行う。
【0147】
以上説明してきたように、本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置は、推薦確率の算出に用いたパラメータの信頼度、搭乗者が推薦された設定操作に対して過去に行った行動などに応じて、推薦された設定操作を自動実行するか否かを判断するための閾値または搭乗者に提示するか否かを判断するための閾値を修正するので、特定状況に対応した設定操作をより適切に推薦することができる。
【0148】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の何れかの実施形態に係る車両用空調装置の動作に関して、上記のステップS109〜S110の処理を省略し、推薦される設定操作は、自動実行されるか否かの判定のみを行うようにしてもよい。また、上記のステップS108の処理を省略し、推薦される設定操作は、搭乗者に提示されるか否かの判定のみを行うようにしてもよい。この場合、上記の推薦確率または閾値の修正若しくは学習データの重み付けに関する規則も、実施形態に応じて適宜選択される。
また、制御部60は、推薦された設定操作を拒否する比率または搭乗者が設定操作を行う操作間隔などに基づいて、推薦される設定操作を自動実行する際、あるいは搭乗者に対して提示する際に用いるメッセージの内容を変更してもよい。この場合、制御部60は、推薦された設定操作を拒否する比率に関して、上記の推薦確率の修正に関する第3の規則で説明したのと同様の方法により求めることができる。また、制御部60は、操作間隔に関して以下のように求めることができる。制御部60は、所定の設定操作、例えば、内気循環、外気導入の切替が行われたことを、A/C操作パネル59などを通じて検知し、前回のその所定の設定操作が行われてからの経過時間を求める。そして制御部60は、その所定の設定操作が行われる度に、その経過時間の平均値を求め、操作間隔とする。
【0149】
図14に、推薦される設定操作を自動実行または搭乗者に提示する際のメッセージを変更する場合の車両用空調装置の動作のフローチャートを示す。なお、図14は、図8及び図9に示した本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の動作フローチャートと相違する部分だけを示す。さらに、図14において、上記の実施形態に係る車両用空調装置の動作ステップと同一のステップには、同一の番号を付した。
【0150】
ステップS107において、所定の設定操作についての推薦確率Pが閾値Th1以上である場合、すなわち、その所定の設定操作が推薦される場合、制御部60の制御情報修正部66は、その設定操作の対象が、比較的頻繁に操作される、設定温度Tset、風量Wまたは風向きの何れかであるか否かを判定する(ステップS141)。設定操作の対象が上記の何れでもない場合、制御情報修正部66は、その設定操作の対象に関する平均操作間隔が所定値(例えば、5分)以下か否か判定する(ステップS142)。その平均操作間隔が所定値以上の場合、搭乗者は、推薦された設定操作をたまにしか行わないと考えられる。そこで、制御情報修正部66は、推薦された設定操作の内容を搭乗者が把握できるように、その内容を詳細に知らせるメッセージをA/C操作パネル59などに表示する(ステップS143)。一方、ステップS142において、平均操作間隔が所定の閾値未満の場合、搭乗者は、推薦された設定操作を頻繁に行っていると考えられる。そこで、制御情報修正部66は、搭乗者が煩わしく感じることのないように、推薦された設定操作の内容を簡単に知らせるメッセージをA/C操作パネル59などに表示する(ステップS144)。
ここで、上記の詳細なメッセージ及び簡易なメッセージの例を挙げる。例えば、推薦された設定操作が、トンネルに近づいたことによって内気循環モードに変更するものである場合、詳細なメッセージは、設定操作の内容と、その設定操作にする理由となった特定状況を知らせるように、「トンネルに近づいてきましたので、内気循環モードにします」とする。一方、簡易なメッセージは、単に「内気循環モードにします」とする。
【0151】
またステップS141において、推薦された設定操作の対象が、比較的頻繁に操作される、設定温度Tset、風量Wまたは風向きの何れかである場合、制御情報修正部66は、何のメッセージも表示しない(ステップS145)。そして、ステップS143〜S145の後、制御情報修正部66は、推薦された設定操作となるように、設定情報または制御情報を修正する(ステップS108)。
【0152】
また、所定の設定操作についての推薦確率Pが閾値Th1未満であるものの、ステップS109で、その推薦確率Pが閾値Th2以上であると判定された場合、制御情報修正部66は、その推薦された設定操作に関して、過去に提案されたときに拒否操作される比率が0.5以上であるか否かを判定する(ステップS146)。そして、その比率が0.5以上である場合、搭乗者は、その設定操作を行うことを望まない可能性が高いので、制御情報修正部66は、その設定操作を搭乗者に報知せず、且つ設定情報及び制御情報の修正も行わない。
一方、ステップS146において、その比率が0.5未満である場合、制御情報修正部66は、その設定操作の対象が、比較的頻繁に操作される、設定温度Tset、風量Wまたは風向きの何れかであるか否かを判定する(ステップS147)。推薦された設定操作の対象が、上記の何れかである場合、制御情報修正部66は、何のメッセージも表示せず(ステップS145)、自動的に設定情報または制御情報を修正する(ステップS108)。
【0153】
一方、ステップS147において、推薦された設定操作の対象が、上記の何れにも該当しない場合、制御情報修正部66は、その設定操作の対象に関する平均操作間隔が所定値(例えば、5分)以下か否か、及び、推薦確率Pを算出した確率モデルの構築に使用された学習データに含まれる状態情報の数が所定数(例えば、20)以下か否かを判定する(ステップS148)。その平均操作間隔が所定値以上の場合、搭乗者は、推薦された設定操作をたまにしか行わないと考えられる。そこで、制御情報修正部66は、推薦された設定操作の内容を搭乗者が把握できるように、その内容を詳細に知らせる確認メッセージをA/C操作パネル59などに表示する(ステップS149)。また、確率モデルの構築に使用した状態情報の数が少ない場合も、搭乗者がその設定操作が推薦された理由が分からない可能性が高いので、詳細な確認メッセージを表示する。一方、ステップS148において、平均操作間隔が所定の閾値未満の場合、搭乗者は、推薦された設定操作を頻繁に行っていると考えられる。そこで、制御情報修正部66は、搭乗者が煩わしく感じることのないように、推薦された設定操作の内容を簡単に知らせる確認メッセージをA/C操作パネル59などに表示する(ステップS150)。
ここで、上記の詳細な確認メッセージ及び簡易な確認メッセージの例を挙げる。例えば、推薦された設定操作が、トンネルに近づいたことによって内気循環モードに変更するものである場合、詳細なメッセージは、設定操作の内容と、その設定操作にする理由となった特定状況を知らせるように、「トンネルに近づいてきました。内気循環モードにしますか?」とする。一方、簡易なメッセージは、単に「内気循環モードにしますか?」とする。
【0154】
また、上記の学習部及び記憶部を、車両とは別個に設置されたサーバに設け、確率モデルの生成又は更新を、そのサーバで行うようにしてもよい。この場合、車両用空調装置は、状態情報を取得すると、車両の識別情報を付してサーバに送信する。そしてサーバは、それらの情報を、車両ごとに区別して、学習データとして蓄積する。特定の車両についての学習データが十分に蓄積されると、サーバは、その学習データを利用して、その車両用の確率モデルを生成又は更新する。その後、サーバはそれら確率モデルを、車両の識別情報を参照して、対応する車両に送信する。なお、サーバにも、バックアップとしてそれら確率モデルを保存しておくことが好ましい。サーバは、確率モデルの更新の際、車両から更新対象となる確率モデルに関する情報を取得しなくても、そのバックアップの確率モデルを利用することができるためである。
【0155】
また、上記の実施形態において、搭乗者は運転者に限られない。車両用空調装置の設定操作を誰が行ったかを判別することにより、運転者以外の同乗者が操作する場合にも好適に用いることができる。例えば、車両用空調装置のA/C操作パネル59が、運転席用と助手席用の二つ準備されている場合、制御部60は、どちらのA/C操作パネル59が操作されたかによって、運転者が操作したのか、同乗者が操作したのかを判定してもよい。また、制御部60は、特開2002−29239号公報に記載されているように、A/C操作パネル59上に赤外線温度センサなどで構成される操作乗員検出センサを設けて、運転者か同乗者のどちらが操作を行ったかを判定するようにしてもよい。
そして、同乗者が操作を行った場合には、運転者の照合及び認証と同様に、車内カメラ54で撮影した画像データに基づいて、同乗者の照合及び認証も行い、その操作時の各センサ値などの状態情報を、運転者ではなく、その同乗者に関連付けて記憶する。
【0156】
また、搭乗者が特定人に限定されるような場合、あるいは、誰が運転する場合でも行うような設定操作について確率モデルを構築する場合には、照合部63を省略してもよい。この場合、確率モデル及び確率モデルの学習に用いる学習データは、搭乗者が誰であっても共通して使用される。
【0157】
また、確率モデルの構築において、上記の実施形態では、予めグラフ構造を規定した標準モデルを準備したが、そのような標準モデルを準備する代わりにK2アルゴリズムや遺伝的アルゴリズムを用いてグラフ構造の探索を行うようにしてもよい。例えば遺伝的アルゴリズムを用いる場合には、各ノード間の接続の有無を各要素とする遺伝子を複数準備する。そして、上記の情報量基準を用いて各遺伝子の適応度を計算する。適応度が所定以上の遺伝子を選択し、交叉、突然変異などの操作を行って次の世代の遺伝子を作成する。このような操作を複数回繰り返して、最も適合度の高い遺伝子を選択する。選択された遺伝子で記述されるグラフ構造を確率モデルの構築に使用する。さらに、これらのアルゴリズムと、標準モデルからの確率モデルの構築とを組み合わせて用いてもよい。
【0158】
なお、本発明を適用する空調装置は、フロントシングル、左右独立、リア独立、4席独立、上下独立の何れのタイプのものであってもよい。何れかの独立タイプの空調装置に本発明を適用する場合には、内気温センサ、日射センサなどが複数搭載されてもよい。
【0159】
上記のように、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図3】特定状況の一例を示す図である。
【図4】車両用空調装置の設定値の自動調節に用いられる確率モデルの一例のグラフ構造を示す図である。
【図5】(a)〜(d)は、それぞれ図4に示した確率モデルの各ノードについての条件付き確率表を示す図である。
【図6】(a)〜(d)は、それぞれ確率モデルの基礎となるグラフ構造を有する標準モデルを示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の確率モデル構築動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の制御動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の制御動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る車両用空調装置の動作を示すフローチャートである。
【図14】推薦される設定操作を自動実行または搭乗者に提示する際のメッセージを変更する場合の車両用空調装置の動作のフローチャートである。
【符号の説明】
【0161】
1 車両用空調装置
10 空調部
11 コンプレッサ
21 ブロアファン
22 駆動用モータ
24 内外気サーボモータ
25 内外気切替ドア
28 エアミックスドア
31 温調サーボモータ
37 フットドア
38 フェイスドア
39 デフロスタドア
40 モードサーボモータ
51 内気温センサ
52 外気温センサ
53 日射センサ
54 車内カメラ
55 車外カメラ
56 ナビゲーションシステム
57 車両操作機器
58 車載時計
59 A/C操作パネル
60 制御部
61 記憶部
62 通信部
63 照合部
64 推薦確率算出部
65 推薦確率修正部
66 制御情報修正部
67 空調制御部
671 温度調節部
672 コンプレッサ制御部
673 吹出口制御部
674 吸込口制御部
675 送風量設定部
68 学習部
69 データ重み付け部
70 閾値設定部
101 確率モデル
102〜105 ノード
106〜109 条件付き確率表(CPT)
501〜504 標準モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調空気を車両内に供給する空調部(10)と、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51〜53、55〜58)と、
前記情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された複数の状態情報を、学習データ群として記憶する記憶部(61)と、
状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データ群を用いて構築する学習部(68)と、
前記学習部(68)で構築された前記確率モデルに、車両に関する現状態を表す現状態情報を入力して、前記所定の設定操作を行う推薦確率を算出する推薦確率算出部(64)と、
所定の規則に従って前記推薦確率を修正する推薦確率修正部(65)と、
前記修正された推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(66)と、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(67)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記推薦確率修正部(65)は、前記現状態情報の信頼度が高いほど、前記推薦確率を高くする、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記推薦確率修正部(65)は、前記学習データ群に含まれる状態情報の数が少ないほど、前記推薦確率を高くする、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記推薦確率修正部(65)は、前記所定の設定操作となるように修正された設定情報又は制御情報と、該修正前の設定情報又は制御情報との差が大きいほど、前記推薦確率を高くする、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記推薦確率修正部(65)は、前記車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、前記推薦確率を高くする、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記推薦確率修正部(65)は、前記現状態情報が所定の値を有する場合に前記車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、前記推薦確率を高くする、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記所定の設定操作の内容を搭乗者に提示し、且つ前記所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、
前記確認操作部(59)を通じて前記所定の設定操作を行うことが確認された場合、前記制御情報修正部(66)は、前記設定情報又は制御情報を修正する、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記記憶部(61)は、前記確認操作部(59)による提示から、搭乗者により前記所定の設定操作を行うか否かを決定する操作が行われるまでの反応時間を記憶し、
前記推薦確率修正部(65)は、前記反応時間の平均値が短いほど前記推薦確率を高くする、請求項7に記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記記憶部(61)は、前記確認操作部(59)により前記所定の設定操作を行うことが提示された提示回数、及び前記確認操作部(59)を通じて搭乗者により前記所定の設定操作を行うことを決定する操作が行われた肯定操作回数を前記確率モデルに関連付けて記憶し、
前記推薦確率修正部(65)は、前記提示回数に占める前記肯定操作回数の比率が高いほど前記推薦確率を高くする、請求項7に記載の車両用空調装置。
【請求項10】
空調空気を車両内に供給する空調部(10)と、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51〜53、55〜58)と、
前記情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された複数の状態情報を、学習データ群として記憶する記憶部(61)と、
前記学習データ群に含まれる状態情報を、所定の規則に従って重み付けするデータ重み付け部(69)と、
状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データ群を用いて構築する学習部(68)と、
前記学習部(68)で構築された前記確率モデルに、車両に関する現状態を表す現状態情報を入力して前記推薦確率を算出し、該推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(66)と、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(67)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項11】
前記データ重み付け部(69)は、前記学習データ群に含まれる状態情報の信頼度が高いほど、該状態情報の比重が高くなるように重み付けする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項12】
前記データ重み付け部(69)は、前記学習データ群に含まれる状態情報の数が所定数以下の場合、該状態情報の数が該所定数よりも多い場合と比較して比重が高くなるように重み付けする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項13】
前記情報取得部(51〜53、55〜58)は、搭乗者が前記車両用空調装置の設定操作を行ったときに前記状態情報を取得し、
前記データ重み付け部(69)は、前記設定操作を行う前の設定情報又は制御情報と、前記設定操作を行った後の設定情報又は制御情報との差が大きいほど、前記状態情報の比重が高くなるように重み付けする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項14】
前記データ重み付け部(69)は、前記車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いときに取得された状態情報の比重が高くなるように重み付けする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項15】
前記データ重み付け部(69)は、前記学習データ群に含まれる状態情報が所定の値を有する場合に前記車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、該所定の値を有する状態情報の比重が高くなるように重み付けする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項16】
前記所定の設定操作の内容を搭乗者に提示し、且つ前記所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、
前記確認操作部(59)を通じて前記所定の設定操作を行うことが確認された場合、前記制御情報修正部(66)は、前記設定情報又は制御情報を修正する、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項17】
前記記憶部(61)は、前記確認操作部(59)による提示から、搭乗者により前記所定の設定操作を行うか否かを決定する操作が行われるまでの反応時間を記憶し、
前記データ重み付け部(69)は、前記反応時間の平均値が短いほど前記所定の設定操作について算出された推薦確率に関連する状態情報の比重を高くする、請求項16に記載の車両用空調装置。
【請求項18】
前記記憶部(61)は、前記確認操作部(59)により前記所定の設定操作を行うことが提示された提示回数、及び前記確認操作部(59)を通じて搭乗者により前記所定の設定操作を行うことを決定する操作が行われた肯定操作回数を前記確率モデルに関連付けて記憶し、
前記データ重み付け部(69)は、前記提示回数に占める前記肯定操作回数の比率が高いほど、前記所定の設定操作について算出された推薦確率に関連する状態情報の比重を高くする、請求項16に記載の車両用空調装置。
【請求項19】
前記データ重み付け部(69)は、前記学習データ群に含まれた状態情報のうち、取得されてからの経過時間が長い状態情報ほど比重が低くなるように重み付けする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項20】
空調空気を車両内に供給する空調部(10)と、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51〜53、55〜58)と、
前記情報取得部(51〜53、55〜58)により取得された複数の状態情報を、学習データ群として記憶する記憶部(61)と、
状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データ群を用いて構築する学習部(68)と、
前記学習部(68)で構築された前記確率モデルに、車両に関する現状態を表す現状態情報を入力して、前記所定の設定操作を行う推薦確率を算出する推薦確率算出部(64)と、
所定の規則に従って所定の閾値を設定する閾値設定部(70)と、
前記推薦確率が第1の閾値以上の場合、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(66)と、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(67)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項21】
前記推薦確率が、前記第1の閾値未満であり、且つ前記第1の閾値よりも低い第2の閾値以上である場合、前記所定の設定操作の内容を搭乗者に提示し、且つ前記所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、
前記確認操作部(59)を通じて前記所定の設定操作を行うことが確認された場合、前記制御情報修正部(66)は、前記設定情報又は制御情報を修正する、請求項20に記載の車両用空調装置。
【請求項22】
前記閾値設定部(70)は、前記現状態情報の信頼度が高いほど、前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項23】
前記閾値設定部(70)は、前記学習データ群に含まれる状態情報の数が少ないほど、前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項24】
前記閾値設定部(70)は、前記所定の設定操作となるように修正された設定情報又は制御情報と、該修正前の設定情報又は制御情報との差が大きいほど、前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項25】
前記閾値設定部(70)は、前記車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項26】
前記閾値設定部(70)は、前記現状態情報が所定の値を有する場合に前記車両用空調装置について行われる設定操作の頻度が高いほど、前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項27】
前記記憶部(61)は、前記確認操作部(59)による提示から、搭乗者により前記所定の設定操作を行うか否かを決定する操作が行われるまでの反応時間を記憶し、
前記閾値設定部(70)は、前記反応時間の平均値が短いほど前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項28】
前記記憶部(61)は、前記確認操作部(59)により前記所定の設定操作を行うことが提示された提示回数、及び前記確認操作部(59)を通じて搭乗者により前記所定の設定操作を行うことを決定する操作が行われた肯定操作回数を前記確率モデルに関連付けて記憶し、
前記閾値設定部(70)は、前記提示回数に占める前記肯定操作回数の比率が高いほど前記第1の閾値または前記第2の閾値を低くする、請求項21に記載の車両用空調装置。
【請求項29】
空調空気を車両内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
前記車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶するステップと、
状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データ群を用いて構築するステップと、
前記確率モデルに、前記車両の現状態を表す現状態情報を入力して、前記所定の設定操作を行う推薦確率を算出するステップと、
所定の規則に従って前記推薦確率を修正するステップと、
前記修正された推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正するステップと、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行うステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項30】
空調空気を車両内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
前記車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶するステップと、
前記学習データ群に含まれる状態情報を、所定の規則に従って重み付けするステップと、
状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データ群を用いて構築するステップと、
前記確率モデルに、前記車両の現状態を表す現状態情報を入力して、前記所定の設定操作を行う推薦確率を算出するステップと、
前記推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正するステップと、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行うステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項31】
空調空気を車両内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
前記車両に関する状態を表す複数の状態情報を、学習データ群として記憶するステップと、
状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データ群を用いて構築するステップと、
前記確率モデルに、前記車両の現状態を表す現状態情報を入力して、前記所定の設定操作を行う推薦確率を算出するステップと、
所定の規則に従って所定の閾値を設定するステップと、
前記推薦確率が前記所定の閾値以上の場合、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正するステップと、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行うステップと、
を有することを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−285111(P2008−285111A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134342(P2007−134342)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】