説明

車両用空調装置の遠心式送風機

【課題】施工が簡単な構造でありながら、NZ音を確実に低減する。
【解決手段】自動車用の空調装置に用いる遠心圧縮機1において、スクロールケーシング10の内周面と多翼ファン20の外周面との間に多孔板40を配置して、多孔板40とスクロールケーシング10の間に消音用の空気層Aを形成する。多孔板40は、上側円弧部材42と上側歯部43とでなる上側櫛状部材41と、下側円弧部材47と下側歯部48とでなる下側櫛状部材46とを組み合わせるだけで、簡単に構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用空調装置の遠心式送風機に関し、騒音を効果的に低減し、しかも、騒音低減構造を簡単に施工することができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
車両用(自動車用)の空調装置としてHVAC(Heating Ventilating and Air Conditioning)ユニットがある。HVACユニットでは、冷房用のエバポレータ,暖房用のヒータコア,吸気用の遠心式送風機を一体化したユニット構造となっており、小型軽量化を図っている。
遠心式送風機のファンとしては、多翼ファン(シロッコファン)が採用されている。
【0003】
遠心式送風機のファンとして使用する多翼ファン(シロッコファン)では、NZ音と呼ばれる耳障りな音が、回転数に応じて発生する。
つまり、多翼ファンでは、羽根車の羽根が固定部(ケーシング等)付近を通過する際に空気の圧力変動が発生し、この圧力変動の周波数に基づいた周波数となっているNZ音(純音:単一周波数の音)が発生する。
多翼ファンの回転数をN(rpm)、羽根車の羽根の枚数をZ(枚)とすると、NZ音の周波数f(Hz)は、f=(N/60)×Zで表される。一般的に、多翼ファンでは、羽根枚数は数十枚、回転数が数千(rpm)であるため、NZ音の周波数は、人間の聴覚上もっとも耳につく1〜4KHzの音域に入ることとなる。
【0004】
この結果、HVACユニットの遠心式送風機(多翼ファン)を起動すると、その回転数に応じた周波数のNZ音が発生してしまう。
このとき、HVACユニットのハウジングの内部空間は空気流路となり、この空気流路により形成される音場は固有振動数を有している。
したがって、HVACユニットの遠心式送風機(多翼ファン)が起動してその回転が上昇しNZ音の周波数が上昇してくると、NZ音の周波数が、空気流路の音場の固有振動数と一致することがある。このようにして、NZ音の周波数と、音場の固有振動数とが一致すると、共振が発生してNZ音が大きくなる。
しかも、空気流路の音場は複数の固有振動数を有していることがあり、この場合には、複数の周波数域において、共振が発生してNZ音が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−74302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NZ音を含めた騒音を低減する手法として、空気流路を形成する壁面等に、多孔板に吸音材を貼付した消音部材を配置する従来技術があった(例えば特許文献1参照)。
しかし、車両(自動車)では、重量制限があるため、吸音材を用いるとそれだけ重量が増加するという問題があった。
また、自動車は量産品であるため、騒音(異音)を低減させる構造を簡単に施工することが要求されるが、吸音材を用いたものでは、かかる要求に対応することができなかった。
【0007】
本発明は、NZ音を含めた騒音を効果的に低減できると共に、騒音低減構造を容易に施工することができる、車両用空調装置の遠心式送風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の構成は、
底面と周壁面とからなるケーシング本体と、前記ケーシング本体の上面を塞ぐ蓋部とを結合して形成されたスクロールケーシングと、
前記スクロールケーシング内に配置されており、回転することにより、前記スクロールケーシングに形成されている吸込口から空気を吸込み、前記スクロールケーシングに形成されている吐出口から空気を吐出する多翼ファンと、
前記多翼ファンを回転駆動するモータを備えた、車両用空調装置の遠心式送風機において、
前記スクロールケーシングの内周面と、前記多翼ファンの外周面との間の位置に周方向に沿って多孔板を配置しており、
しかも前記多孔板は、
円弧状の上側円弧部材と、この上側円弧部材の円弧方向に沿う一定間隔位置においてそれぞれ前記上側円弧部材の下面から下方に伸びる複数の上側歯部と、を一体成形してなる上側櫛状部材と
円弧状の下側円弧部材と、この下側円弧部材の円弧方向に沿う一定間隔位置においてそれぞれ前記下側円弧部材の上面から上方に伸びる複数の下側歯部と、を一体成形してなる下側櫛状部材とでなり、
しかも、上側歯部と下側歯部とが円弧方向に沿い交互にならび、且つ、上側歯部と下側歯部との間に隙間が開き、更に、上側歯部の下縁が下側円弧部材に接し、下側歯部の上縁が上側円弧部材に接する状態で、前記上側櫛状部材と前記下側櫛状部材とが組み合わされて構成されていることを特徴とする。
【0009】
また本発明の構成は、前記上側櫛状部材と前記下側櫛状部材は、加熱溶融したプラスチックを共通の金型に入れて成形されて、同一形状になっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スクロールケーシングの内周面と多翼ファンの外周面との間に多孔板を配置して、多孔板とスクロールケーシングの間に空間層を形成したため、NZ音を含む騒音を効果的に低減することができる。
しかも、多孔板は上側櫛状部材と下側櫛状部材とを組み合わせて構成しているため、多孔板を容易に施工することができ、量産品にてきする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る遠心式送風機を示す断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る遠心式送風機を示す分解斜視図。
【図3】本発明の実施例1に係る遠心式送風機を蓋部を省いた状態で示す平面図。
【図4】本発明の実施例1に用いる多孔板を平面的に展開して示す展開図。
【図5】本発明の実施例1に係る遠心式送風機の吸音特性を示す特性図。
【図6】本発明の実施例1の変形例を示す斜視図。
【図7】本発明の実施例2に係る遠心式送風機を蓋部を省いた状態で示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例1に係る遠心式送風機1を、断面図である図1、分解斜視図である図2、蓋部を省いた平面図である図3、略円筒状の多孔板を平面的に展開して示す図4を参照して説明する。
【0014】
本実施例の遠心式送風機1は、自動車用空調装置であるHVACユニットに組み込まれるものである。
この遠心式送風機1では、スクロールケーシング10内に多翼ファン20を備え、この多翼ファン20をモータ30により回転させるものであり、更に、独得な構成を有している多孔板40を備えている。
【0015】
スクロールケーシング10は、ケーシング本体11と、このケーシング本体11の上面を塞ぐ蓋部12とを、ボルト等により締結して構成されている。
ケーシング本体11は、モータ取付用の穴が形成された底面11aと、周壁面11bとで構成されている。蓋部12には吸込口13が形成されている。また、ケーシング本体11と蓋部12とが締結された状態で、吐出口14が形成されている。
【0016】
多翼ファン20は、その回転中心が吸気口13の中心に一致する状態で、スクロールケーシング10内に配置されている。
【0017】
モータ30は、スクロールケーシング10の底面11aに取り付けられており、多翼ファン20を回転させる。
モータ30により多翼ファン20を回転させると、吸込口13から空気を吸込み、吸い込んだ空気を吐出口14から吐出することができる。
【0018】
多孔板40は、スクロールケーシング10の内周面と、多翼ファン20の外周面との間の位置で、周方向に沿って配置されている。多孔板40は、周方向に関しては、吐出口14が形成された部分を除く範囲に配置され、高さ方向(図1では上下方向)に関しては、蓋部12の下面から底面11aの上面に亘り配置されている。
このように多孔板40を配置しているため、多孔板40とスクロールケーシング10の内周面との間に、空気層Aが形成される。
【0019】
多孔板40は、上側櫛状部材41と下側櫛状部材46とを組み合わせて構成した構造体であり、図1及び図4において上下方向に伸びるスリット状の孔hが、周方向に沿い一定間隔で形成されている。
【0020】
上側櫛状部材41は、円弧状の上側円弧部材42と、この上側円弧部材42の円弧方向に沿う一定間隔位置においてそれぞれ上側円弧部材42の下面から下方に伸びる複数の上側歯部43とを一体成形したものである。
【0021】
下側櫛状部材46は、円弧状の下側円弧部材47と、この下側円弧部材47の円弧方向に沿う一定間隔位置においてそれぞれ下側円弧部材47の上面から上方に伸びる複数の下側歯部48とを一体成形したものである。
【0022】
しかも、上側歯部43と下側歯部48とが円弧方向に沿い交互にならび、且つ、上側歯部43と下側歯部48との間に孔hとなる隙間が開き、更に、上側歯部43の下縁が下側円弧部材47に接し、下側歯部48の上縁が上側円弧部材42に接する状態で、上側櫛状部材41と下側櫛状部材46とが組み合わされて構成されている。
【0023】
なお、上側歯部43の下縁が下側円弧部材47に接する部分に嵌入溝を形成して、上側歯部43の下縁をこの嵌入溝に嵌入して結合をし、同様に、下側歯部48の上縁が上側円弧部材42に接する部分に嵌入溝を形成して、下側歯部48の上縁をこの嵌入溝に嵌入して結合して、結合強度を向上させることもできる。
【0024】
上側櫛状部材41の上側円弧部材42は、蓋部11の下面に固定されている。また下側櫛状部材46の下側円弧部材47は、ケーシング本体11の底面11aに固定されている。
【0025】
なお、上側櫛状部材41と下側櫛状部材46は、加熱溶融したプラスチックを共通の(同一形状の)金型に入れて成形したものである。したがって、上側櫛状部材41と下側櫛状部材46は、配置位置が上下で逆になっているが、形状そのものは同一形状になっている。
【0026】
本実施例では、NZ音を含めた騒音は、多孔板40の孔hを介して空気層Aに放射されて拡散して消音(吸音)されて、大幅に減衰する。
図5は、本実施例の多孔板40による吸音特性(消音特性)を示すものであり、広い周波数帯域において消音することができることが分かった。このため、空気流路の音場が複数の固有振動数を有している場合であっても、NZ音を含めた騒音を確実に低減することができる。
【0027】
また、多孔板40は、上側櫛状部材41と下側櫛状部材46を組み合わせるだけで構成することができるため、容易に構成して施工することができる。したがって、多孔板40の施工の困難性はなく、大量且つ容易に生産することが要望される、自動車用の送風機として極めて好適なものである。
更に、上側櫛状部材41と下側櫛状部材46は、同一形状であり、金型成形により大量かつ容易に形成することができるため、この点からも、製造の容易化を図ることができる。
なお、本実施例では、吸音材は使用していない。
【0028】
なお上側櫛状部材41や下側櫛状部材46の円弧方向長さを短くするには、図6に示すように、円弧状部材42(47)の途中を分割しておき、多孔板40を組み立てるときに、分割した物同士を接合するようにすることもできる。
なお分割部分は、ジグザクにしておくと、接合が容易になる。
【実施例2】
【0029】
本発明の実施例2に係る遠心式送風機1Aを、蓋部を省いた平面図である図7を参照して説明する。
本実施例2では、多孔板40は、実施例1と同様な構造であるが、その円弧方向の長さが短く、吐出口14の角部14aの近くにのみ配置されている。
そして、この多孔板40とスクロールケーシングの内周面との間に、空気層Aを形成している。
【0030】
NZ音は、吐出口14の角部14aにおいて顕著に発生するため、このNZ音発生源に近い部分に、空気層Aを形成してNZ音の低減を図っている。
他の部分の構成は、実施例1と同様である。
【符号の説明】
【0031】
1,1A 遠心式送風機
10 スクロールケーシング
20 多翼ファン
30 モータ
40 多孔板
41 上側櫛状部材
46 下側櫛状部材
A 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面と周壁面とからなるケーシング本体と、前記ケーシング本体の上面を塞ぐ蓋部とを結合して形成されたスクロールケーシングと、
前記スクロールケーシング内に配置されており、回転することにより、前記スクロールケーシングに形成されている吸込口から空気を吸込み、前記スクロールケーシングに形成されている吐出口から空気を吐出する多翼ファンと、
前記多翼ファンを回転駆動するモータを備えた、車両用空調装置の遠心式送風機において、
前記スクロールケーシングの内周面と、前記多翼ファンの外周面との間の位置に周方向に沿って多孔板を配置しており、
しかも前記多孔板は、
円弧状の上側円弧部材と、この上側円弧部材の円弧方向に沿う一定間隔位置においてそれぞれ前記上側円弧部材の下面から下方に伸びる複数の上側歯部と、を一体成形してなる上側櫛状部材と
円弧状の下側円弧部材と、この下側円弧部材の円弧方向に沿う一定間隔位置においてそれぞれ前記下側円弧部材の上面から上方に伸びる複数の下側歯部と、を一体成形してなる下側櫛状部材とでなり、
しかも、上側歯部と下側歯部とが円弧方向に沿い交互にならび、且つ、上側歯部と下側歯部との間に隙間が開き、更に、上側歯部の下縁が下側円弧部材に接し、下側歯部の上縁が上側円弧部材に接する状態で、前記上側櫛状部材と前記下側櫛状部材とが組み合わされて構成されていることを特徴とする車両用空調装置の遠心式送風機。
【請求項2】
前記上側櫛状部材と前記下側櫛状部材は、加熱溶融したプラスチックを共通の金型に入れて成形されて、同一形状になっていることを特徴とする車両用空調装置の遠心式送風機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−1067(P2012−1067A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136811(P2010−136811)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】