車両用空調装置
【課題】ケーシングに可動部材を取り付ける場合に、可動部材をケーシングに取り付けた状態でグリスを塗布できるようにして作業効率を向上させる。
【解決手段】車両用空調装置1は、熱交換器を収容するケーシング2と、ケーシング2に取り付けられる可動部材20とを備えている。可動部材20には、可動部材20の摺動面にグリスを供給するためのグリス供給路Rが形成されている。グリス供給路Rは可動部材20の外表面に開口しており、この開口からグリスを注入することができるようになっている。
【解決手段】車両用空調装置1は、熱交換器を収容するケーシング2と、ケーシング2に取り付けられる可動部材20とを備えている。可動部材20には、可動部材20の摺動面にグリスを供給するためのグリス供給路Rが形成されている。グリス供給路Rは可動部材20の外表面に開口しており、この開口からグリスを注入することができるようになっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に搭載される車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置は、熱交換器やダンパ等を収容するケーシングを備えている。ダンパはケーシングの外部からリンク部材を介して駆動されるようになっている(例えば、特許文献1、2参照)。ケーシングの外面には、リンク部材を取り付けるためのボスがダンパの収容位置に対応して設けられている。このボスにリンク部材が回動可能に取り付けられている。ボスとリンク部材との摺動部分にはグリスを塗布することによって摩耗や異音の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−347222号公報
【特許文献2】特開2008−195377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1、2のようにボスとリンク部材との摺動部分にグリスを塗布する場合には、リンク部材にグリスを塗布した後、リンク部材をボスに取り付ける必要がある。車両用空調装置には、複数のダンパが設けられることがあり、ダンパの数に対応してリンク部材も複数設けられることになる。この場合、1つのリンク部材にグリスを塗布し、そのリンク部材をボスに取り付けた後、別のリンク部材にグリスを塗布してリンク部材をボスに取り付けるという作業を繰り返さなければならず、作業効率が悪い。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ケーシングに可動部材を取り付ける場合に、可動部材をケーシングに取り付けた状態でグリスを塗布できるようにすることで作業効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、可動部材に形成したグリス供給路からグリスを導入するようにした。
【0007】
第1の発明は、熱交換器を収容するケーシングと、上記ケーシングに取り付けられる可動部材とを備えた車両用空調装置において、上記可動部材には、該可動部材の摺動面にグリスを供給するためのグリス供給路が形成され、該グリス供給路は該可動部材の外表面に開口していることを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、可動部材をケーシングに取り付けた状態で、可動部材のグリス供給路が可動部材の外表面に開口しているので、グリスを外部からグリス供給路に容易に注入可能となる。グリス供給路に注入したグリスは、グリス供給路を通って摺動面に達し、該摺動面に塗布される。このように可動部材をケーシングに取り付けた状態でグリスを塗布できるので、例えば、複数の可動部材をケーシングに取り付ける場合には、複数の可動部材をケーシングに取り付ける作業を一括して行った後、グリスを塗布する作業も一括して行うことが可能になる。これにより、可動部材に1つずつグリスを塗布してケーシングに取り付けるという作業の繰り返しを行わずに済むので、作業効率が向上する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、可動部材は、回動軸を有し、ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、グリス供給路は、上記回動軸の外周面と軸方向の先端面とに開口していることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によれば、グリス供給路に注入されたグリスが可動部材の回動軸における外周面及び軸方向の先端面の両方の開口から流出することになる。これにより、グリスがケーシングの筒部と可動部材の回動軸との間の略全体に亘って流入することになる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、ケーシングは、該ケーシング外面から突出する支軸と、ケーシング外面における支軸周りに形成された固定面とを有し、可動部材は、上記支軸が挿入される軸受孔と、固定面に対応する可動面とを有し、グリス供給路は、上記可動面に開口にし、上記可動面と上記固定面との隙間と、上記支軸の外周面と上記軸受孔の内周面との隙間が互いに連通していることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、グリス供給路に注入されたグリスが可動部材の可動面の開口から流出し、流出したグリスは、可動面と固定面との隙間から支軸の外周面と軸受孔の内周面との隙間に流入する。これにより、グリスが摺動面の略全体に亘って塗布されることになる。
【0013】
第4の発明は、第1の発明において、可動部材は、回動軸を有し、ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、グリス供給路は、上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間に連通し、上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間と、上記回動軸の軸方向の先端面と上記筒部の底面との隙間とが互いに連通していることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、グリス供給路に注入されたグリスが可動部材の回動軸の外周面と筒部の内周面との隙間に流入した後、回動軸の軸方向の先端面と筒部の底面との隙間に流入する。これにより、グリスが摺動面の略全体に亘って塗布されることになる。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、グリス供給路を可動部材に設けたので、可動部材をケーシングに取り付けた状態で摺動面にグリスを塗布することができる。よって、例えば可動部材を複数取り付ける場合に作業効率を向上させることができる。
【0016】
第2の発明によれば、ケーシングの筒部に可動部材の回動軸を挿入することによって可動部材をケーシングに取り付ける場合に、摺動面の略全体に亘ってグリスを確実に塗布することができる。
【0017】
第3の発明によれば、ケーシングの支軸を可動部材の軸受孔に挿入することによって可動部材をケーシングに取り付ける場合に、摺動面の略全体に亘ってグリスを確実に塗布することができる。
【0018】
第4の発明によれば、ケーシングの筒部に可動部材の回動軸に挿入することによって可動部材をケーシングに取り付ける場合に、摺動面の略全体に亘ってグリスを確実に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1にかかる車両用空調装置のリンク部材の取付部分近傍の拡大断面図である。
【図2】ケーシングにおけるリンク部材の取付部分近傍の拡大断面図である。
【図3】リンク部材を反ケーシング側から見た平面図である。
【図4】リンク部材の正面図である。
【図5】図3のV−V線における断面図である。
【図6】リンク部材の爪近傍の拡大断面図である。
【図7】グリス供給路にグリスを注入した状態の図1相当図である。
【図8】実施形態2にかかる図1相当図である。
【図9】実施形態2にかかる図2相当図である。
【図10】実施形態2にかかるリンク部材をケーシング側から見た底面図である。
【図11】図10のXI−XI線における断面図である。
【図12】実施形態2にかかるリンク部材を反ケーシング側から見た平面図である。
【図13】図12のXIII−XIII線における断面図である。
【図14】実施形態2にかかる図7相当図である。
【図15】実施形態3にかかる図1相当図である。
【図16】実施形態3にかかる図2相当図である。
【図17】実施形態3にかかる図10相当図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII線における断面図である。
【図19】実施形態3にかかる図12相当図である。
【図20】実施形態3にかかる図7相当図である。
【図21】実施形態4にかかるリンク部材とロッドとの連結部分の断面図である。
【図22】実施形態4にかかるリンク部材を反ケーシング側から見た平面図である。
【図23】実施形態4にかかるリンク部材の正面図である。
【図24】図22のXXIV−XXIV線における断面図である。
【図25】ジョイント部材の断面図である。
【図26】実施形態4にかかる図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)20の取付部分を示す断面図である。車両用空調装置1は、乗用自動車の車室内に搭載されるものであり、冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器(共に図示せず)を収容するケーシング2を備えている。ケーシング2には、デフロスタ吹出口、ベント吹出口及びヒート吹出口が形成されている。ケーシング2内には、図示しないが、冷却用熱交換器を通過した冷風と、加熱用熱交換器を通過した温風との混合割合を変化させるためのエアミックスダンパ、ケーシング2のデフロスタ吹出口を開閉するデフロスタダンパ、ケーシング2のベント吹出口を開閉するベントダンパ、ケーシング2のヒート吹出口を開閉するヒートダンパ等が収容されている。これらダンパは、ケーシング2に回動可能に支持される回動軸を備えており、回動軸には上記リンク部材20が直接又は間接的に連結されている。乗員による操作力やアクチュエータの駆動力は、ワイヤや、リンク部材20、他のリンク部材、ロッド等を介して各ダンパに伝達され、各ダンパが回動操作されるようになっている。リンク部材20には、操作力や駆動力が直接伝達される場合と、他のリンク部材等を介して間接的に伝達される場合とがある。
【0022】
ケーシング2は樹脂材を射出成形してなるものである。図2に示すように、ケーシング2の外面には、リンク部材20を取り付けるための円筒部3がケーシング2外へ向けて突設されている。円筒部3の形成部位は、ケーシング2の他の部位に比べてケーシング2外に位置している。
【0023】
また、ケーシング2の外面には、円筒部3の外周面に連なるリブ4,4が形成されている。円筒部3の突出方向先端側の内周面には、面取り部3aが形成されている。円筒部3の底面には、ケーシング2の壁部を貫通する貫通孔5が形成されている。貫通孔5の内周面は、ケーシング2外側に行くに従って拡径するテーパー面で構成されている。ケーシング2内面における貫通孔5の周縁部には、ケーシング2内へ突出して円環状に延びる円環部6が形成されている。円環部6の外径は、円筒部3の内径よりも小さく設定されている。ケーシング2内面の円環部6周りには、全周に亘って凹部7が形成されている。
【0024】
リンク部材20は樹脂材を射出成形してなるものであり、図3及び図4に示すように、所定方向に長い板状となっている。リンク部材20の長手方向一側(図3及び図4の左側)には、一側ピン21が突設されている。一側ピン21の突設方向は、ケーシング2への取付状態でケーシング2外へ向く方向(反ケーシング2方向)である。一側ピン21には、図示しないが他のリンク部材が係合するようになっている。リンク部材20の長手方向他側(図3及び図4の右側)には、他側ピン22が上記一側ピン21と同方向に突設されている。この他側ピン22にも他のリンク部材が係合するようになっている。
【0025】
図4に示すように、リンク部材20の一側ピン21と他側ピン22との間には、一側ピン21とは反対側(ケーシング2側)へ突出する回動軸23が設けられている。図1に示すように、この回動軸23は、ケーシング2の円筒部3に軸方向先端側から挿入されるようになっている。回動軸23は円筒部3によって回動可能に支持される。つまり、リンク部材20は、回動軸23周りに回動する。
【0026】
図1に示すように、回動軸23は、ケーシング2の円筒部3の内径よりも若干小径の略円筒状に形成されており、内部は中空となっている。回動軸23の中空部は、リンク部材20の外表面に開口している。また、回動軸23の軸方向先端部に位置する端壁部23aの外面は、ケーシング2の円筒部3の底面に摺接するようになっている。
【0027】
図3に示すように、回動軸23の内部には、該回動軸23の端壁部23aから軸方向に突出する円筒状リブ27と、円筒状リブ27の外周面から放射状に延びる3枚の平板状リブ28,28,28とが設けられている。円筒状リブ27は、端壁部23aの中央部に位置しており、その中心線は回動軸23の中心線と一致している。平板状リブ28,28,28は、周方向に等間隔に配置され、回動軸23の周壁部内面に連なるとともに、端壁部23aにも連なっている。
【0028】
図3〜図5に示すように、回動軸23の周壁部には、該周壁部を貫通する3つの周壁開口部29,29,29が形成されている。周壁開口部29,29,29は、周方向に略等間隔に配置されており、具体的には、周方向に隣り合う平板状リブ28,28の間に各周壁開口部29が開口するようになっている。各周壁開口部29は、回動軸23の軸方向の開口寸法よりも周方向の開口寸法の方が長い略矩形状である。また、各周壁開口部29は、回動軸23の中空部分に連通している。
【0029】
図4に示すように、回動軸23の周壁部の外面には、3つの突部23c,23c,23c(図3には3つとも示し、図4には2つのみ示す)が形成されている。3つの突部23c,23c,23cは周方向に略等間隔に配置されており、具体的には、周方向に隣り合う周壁開口部29,29の間に各突部23cが位置するようになっている。突部23cの突出方向の端面は、ケーシング2の円筒部3の内周面に沿う円弧面で構成されており、この円弧面がケーシング2の円筒部3の内周面に摺接する摺動面23dである。
【0030】
図3に示すように、回動軸23の端壁部23aには、3つの端壁開口部30,30,30が形成されている。端壁開口部30,30,30は、周方向に略等間隔に配置されており、具体的には、周方向について周壁開口部29,29,29に対応する位置、即ち、周方向に隣り合う平板状リブ28,28の間に開口するようになっている。端壁開口部30は、端壁部23aの外周側に位置付けられており、周方向に長いスリット状をなしている。端壁開口部30の周方向の開口寸法は、周壁開口部29の周方向の開口寸法と略同じに設定されている。各端壁開口部30は、回動軸23の中空部分に連通している。端壁開口部30における端壁部23a内側の縁部(内側縁部)には、略V字状の切欠部30aが形成されている。切欠部30aは、端壁開口部30の長手方向中央部近傍に位置している。
【0031】
また、図4及び図5に示すように、回動軸23の端壁部23aの外面には、3つの爪32,32,32が設けられている。爪32,32,32は、周方向に略等間隔に配置されており、端壁開口部30,30,30に対応するように位置している。
【0032】
図6にも示すように、爪32の基端部は、端壁部23aにおける端壁開口部30の内側縁部に連なっており、そこから回動軸23の軸方向に突出し、周方向に板状に延びている。爪32は、図1に示すように、ケーシング2の円環部6の内周面に摺接するようになっている。爪32における回動軸23の径方向外側の面には、上記切欠部30aに連なる溝32bが形成されている。溝32bは、爪32の基端部から先端部近傍まで延びている。
【0033】
図4にも示すように、爪32の先端部には、回動軸23の径方向外方に突出する突起32aが形成されている。図1に示すように、突起32aは、ケーシング2の円環部6におけるケーシング2内側の端面に引っ掛かって係合するようになっている。図6に仮想線で示すように、爪32は、全体として回動軸23の径方向に弾性変形するようになっている。
【0034】
図3に示すように、回動軸23の内部には、グリスを摺動面23dに供給するための3つのグリス供給路R,R,Rが形成されている。各グリス供給路Rは、周方向に隣り合う平板状リブ28,28の間の中空部分で構成されている。従って、グリス供給路Rは、リンク部材20の外表面に開口しており、この開口部分がグリスの注入口R1となっている。
【0035】
また、各グリス供給路Rは、周壁開口部29及び端壁開口部30に連通している。注入口R1からグリス供給路Rに注入されたグリスは、周壁開口部29及び端壁開口部30から流出するようになっている。
【0036】
次に、上記リンク部材20をケーシング2に取り付ける場合について説明する。まず、リンク部材20にはグリスを塗布せずに、該リンク部材20の爪32,32,32をケーシング2の円筒部3に先端部から挿入していく。これにより、リンク部材20の回動軸23も円筒部3に挿入される。
【0037】
爪32を円筒部3に挿入すると、爪32の突起32aが貫通孔5の内周面に摺接して径方向内方へ押されていき、爪32が径方向内方へ撓むように弾性変形する(図6に仮想線で示す)。このとき、貫通孔5の内周面がテーパー形状となっているので、内周面に摺接した突起32aをスムーズに径方向内方へ押すことができる。
【0038】
爪32を貫通孔5へ更に挿入していくと、突起32aは円環部6の内周面に摺接し、円環部6を越えた時点で爪32の形状が復元すると同時に突起32aが円環部6のケーシング2内側の端面に引っ掛かって係合状態となる(図1に示す)。このとき、回動軸23は円筒部3に完全に挿入されて端壁部23aの外面が円筒部3の底面に当接する。
【0039】
図7に示すように、リンク部材20をケーシング2に取り付けた後、周知のグリスガン等(図示せず)を用いてグリスをリンク部材20の注入口R1からグリス供給路Rに注入する。グリス供給路Rに注入されたグリスは、回動軸23の周壁開口部29から回動軸23の外部へ流出し、円筒部3の内周面と回動軸23の外周面との間に達する。そして、リンク部材20を回動させることにより、グリスが摺動面23dに塗布され、回動軸23及び円筒部3の摩耗が抑制されるとともに、異音の発生が抑制される。
【0040】
また、グリス供給路Rに注入されたグリスは、回動軸23の端壁開口部30からも回動軸23の外部へ流出する。これにより、回動軸23の端壁部23a外面(摺動面)にもグリスが塗布される。
【0041】
さらに、グリス供給路Rに注入されたグリスは、回動軸23の端壁開口部30の切欠部30aからも流出する。切欠部30aから流出したグリスは、爪32の溝32bを通って爪32の先端側へ流動する。この溝32b内のグリスが爪32の側面に塗布されるとともに、突起32aにも塗布される。
【0042】
グリスが爪32の溝32bに充填されるとともに、回動軸23の外側に充填されることで、回動軸23と貫通孔5との間がシールされる。これにより、ケーシング2内の空気が貫通孔5から外部へ漏れにくくなる。
【0043】
以上説明したように、この実施形態1にかかる車両用空調装置1によれば、グリス供給路Rをリンク部材20に設けたので、リンク部材20をケーシング2に取り付けた状態で摺動面23dにグリスを塗布することができる。よって、複数のリンク部材20をケーシング2に取り付ける場合に、リンク部材20を一括してケーシング2に取り付けた後、グリスを塗布する作業を一括して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0044】
また、グリス供給路Rに注入されたグリスを、リンク部材20の回動軸23における周壁開口部29及び端壁開口部30から流出させるようにしている。これにより、グリスをグリス供給路Rに注入するだけでケーシング2の筒部3とリンク部材20の回動軸23との略全体に亘って確実に塗布できる。
【0045】
尚、実施形態1において、グリスを注入する場合には、3つのグリス供給路Rにそれぞれグリスを注入してもよいし、1つ又は2のグリス供給路Rに注入してもよい。
【0046】
また、周壁開口部29、端壁開口部30、爪32の数は、3つに限られるものではなく、1つや2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0047】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)20の取付部分を拡大して示す断面図である。実施形態2は、リンク部材40の構造と、リンク部材40のケーシング2への取付構造とが実施形態1のものとは異なり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0048】
実施形態2では、図9にも示すように、ケーシング2外面に、リンク部材40を回動可能に支持するための円柱状の支軸9を設けている。すなわち、ケーシング2の壁部には、ケーシング2外へ膨出する支軸形成用膨出部10が設けられている。支軸形成用膨出部10の膨出方向の先端面(固定面)10aは、膨出方向と略直交する方向に延びる円形の面で構成されている。先端面10aの周縁部には、ケーシング2外へ突出して周方向に連続して延びる環状の突条部10bが形成されている。
【0049】
支軸9は、先端面10aの略中央部に設けられており、そこからケーシング2外へ延びるとともにケーシング2内へも延びている。支軸9には、ネジ孔9aが同心状に形成されている。このネジ孔9aは、支軸9の先端面に開口しており、後述するがリンク部材40を固定するためのネジB(図8に示す)が螺合するようになっている。
【0050】
支軸9の外周面には、複数のリブ9b,9b,…が形成されている。リブ9b,9b,…は、支軸9の周方向に略等間隔に配置され、軸方向に延びている。
【0051】
また、ケーシング2の壁部の支軸形成用膨出部10の近傍には、別の膨出部11が形成されている。さらに、ケーシング2の壁部には、支軸形成用膨出部10の外周面に連なるリブ4が形成されている。
【0052】
図10〜図12に示すように、リンク部材40は、樹脂材を射出成形してなるものであり、円板部材で構成されている。リンク部材40の中心部には、上記支軸9が挿入される円形の軸受孔41が該リンク部材40を貫通するように形成されている。図8に示すように、軸受孔41の内周面(摺動面)には、支軸9のリブ9bの先端面が摺接するようになっている。リブ9bの形成により、軸受孔41の内周面と支軸9の外周面との間には隙間S1が形成される。
【0053】
図10に示すように、リンク部材40の外周部には、ケーシング2側に開口する溝42,42,42が形成されている。溝42,42,42は、周方向に延びており、途中で屈曲している。溝42,42,42には、上記実施形態1のリンク部材20のピン22が嵌るようになっている。
【0054】
図13に示すように、リンク部材40の軸受孔41の内周面におけるケーシング2側には、ケーシング2側へ行くほど拡径するテーパー面41aが形成されている。また、リンク部材40の反ケーシング2側の面には、軸受孔41の周りに軸方向と直交する方向に延びる平坦面43が形成されている。
【0055】
リンク部材40の平坦面43よりも外周側には、リンク部材40の外表面に開口する2つのグリス供給路R,Rが形成されている。グリス供給路R,Rは、リンク部材40の中心を対称の中心とする点対称に配置されており、互いに同じ形状となっている。すなわち、グリス供給路Rの注入口R1は、リンク部材40の反ケーシング2側の面に開口している。図12に示すように、注入口R1は、リンク部材40の径方向に長い形状となっている。図13に示すように、グリス供給路Rは、注入口R1から軸受孔41の軸方向に延びた後、径方向内方へ屈曲して延びている。グリス供給路Rは中途部の断面積が流入口R1の開口面積よりも小さくなっている。リンク部材40における支軸形成用膨出部10の先端面10aに対向する対向面(可動面)40aには、グリス供給路Rの下流端である流出口R2が開口している。図10に示すように、流出口R2は、軸受孔41の周方向に長い形状となっている。
【0056】
図8に示すように、リンク部材40をケーシング2に取り付けた状態で流出口R2は、ケーシング2の支軸形成用膨出部10の先端面10aに対向するように配置されている。流出口R2の開口面積は、注入口R1の開口面積よりも大きく設定されている。
【0057】
リンク部材40は、円板状の固定部材45を用いてネジBでケーシング2に取り付けられる。すなわち、固定部材45の中心部には、ネジBが挿通するネジ挿通孔45aが厚み方向に貫通するように形成されている。固定部材45の外周部には、リンク部材40の平坦面43に摺接して該平坦面43をケーシング2側へ押さえる押さえ部45bが形成されている。
【0058】
ケーシング2の支軸形成用膨出部10の先端面10aと、リンク部材40の対向面40aとの間には、グリスが流入可能な隙間S2が形成される。この隙間S2は、軸受孔41の内周面と支軸9の外周面との間に形成される隙間S1と連通している。隙間S1もグリスの流入が可能である。
【0059】
次に、上記リンク部材40をケーシング2に取り付ける場合について説明する。まず、グリスを塗布しない状態のリンク部材40の軸受孔41にケーシング2の支軸9を挿入する。この状態で、リンク部材40のケーシング2側の面が、ケーシング2の突条部10bの先端部に当接する。
【0060】
その後、固定部材45をリンク部材40の平坦面43上に置く。そして、ネジBを固定部材45のネジ挿通孔45aに挿通し、ケーシング2の支軸9のネジ孔9aに螺合させる。すると、固定部材45の押さえ部45bがリンク部材40の平坦面43をケーシング2側に押さえ、これにより、リンク部材40がケーシング2に取り付けられる。この状態でリンク部材40は支軸9周りに回動可能となる。
【0061】
リンク部材40をケーシング2に取り付けた後、図14に示すように、グリスをリンク部材40の注入口R1からグリス供給路Rに注入する。グリス供給路Rに注入されたグリスは、グリス供給路Rを下流側へ流動して流出孔R2から流出する。この流出孔R2は、支軸形成用膨出部10の先端面10aと対向しているので、グリスは支軸形成用膨出部10の先端面10aとリンク部材40の対向面40aとの間に充填される。先端面10aと対向面40aとの間のグリスは、突条部10bの存在によって該突条部10bよりも外部へ漏れ出るのが抑制される。これにより、グリスが支軸9の外周面に確実に達することになる。支軸9には複数のリブ9b,9b,…が間隔をあけて設けられているので、リブ9b,9b,…の間にグリスが流入し、これにより、リブ9b,9b,…の突出方向先端面(摺動面)に塗布される。
【0062】
隣り合うリブ9b,9bの間に流入したグリスは、固定部材45側に達し、固定部材45の押さえ部45bとリンク部材40の平坦面43とに塗布される。
【0063】
以上説明したように、この実施形態2にかかる車両用空調装置1によれば、グリス供給路Rをリンク部材40に設けたので、実施形態1と同様に、複数のリンク部材40をケーシング2に取り付ける場合に、リンク部材40を一括してケーシング2に取り付けた後、グリスを塗布する作業を一括して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0064】
また、リンク部材40とケーシング2との間に形成される隙間S1及び隙間S2を連通させたので、グリス供給路Rに注入されたグリスを、隙間S2から隙間S1に流入させることができる。これにより、グリスが摺動面の略全体に亘って塗布されることになる。
【0065】
(実施形態3)
図15は、本発明の実施形態3にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)50の取付部分を拡大して示す断面図である。実施形態3は、リンク部材50の構造と、リンク部材50のケーシング2への取付構造とが実施形態1のものとは異なり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0066】
図16に示すように、ケーシング2外面には、膨出部12が形成されており、膨出部12の膨出方向先端面には、円筒部13が形成されている。円筒部13の底面の中央部には、ケーシング2内へ向けて窪む凹部14が形成されている。円筒部13の内周面には、実施形態1の円筒部3と同様に面取り部13aが設けられている。
【0067】
また、ケーシング2外面には、リンク部材50を駆動するためのアクチュエータ(図示せず)が締結されるボス15が設けられている。さらに、ケーシング2外面には、膨出部12及び円筒部13に連なるリブ4が設けられている。
【0068】
図17〜図19に示すように、リンク部材50は、実施形態2のリンク部材40と同様な円板状に形成されている。図15にも示すように、リンク部材50の中心部には、厚み方向に突出する回動軸51が形成されている。また、図17に示すように、リンク部材50の外周部には、ケーシング2側に開口する溝56,56,56が形成されている。
【0069】
図15に示すように、回動軸51は、ケーシング2の円筒部13に挿入されて回動可能に支持される。回動軸51の中心部には、厚み方向に貫通する貫通孔52が形成されている。貫通孔52の内径は、そのケーシング2側が反ケーシング2側よりも大きく設定されている。貫通孔52の内周面における反ケーシング2側には、アクチュエータの出力軸に係合する爪53が設けられている。
【0070】
図17に示すように、回動軸51の外周面には、2つのグリス溝51a,51aが周方向に間隔をあけて設けられている。グリス溝51aは、回動軸51の軸方向両端に亘って延びている。
【0071】
図19に示すように、リンク部材50の中心寄りの部位には、リンク部材50の外表面に開口する2つのグリス供給路R,Rが形成されている。グリス供給路R,Rは、互いに回動軸51の周方向に間隔をあけて、グリス溝51a,51aと対応する位置に配置されている。
【0072】
図15にも示すように、グリス供給路Rの注入口R1は、リンク部材50の反ケーシング2側の面に開口している。図19に示すように、注入口R1は、リンク部材40の周方向に長い形状となっている。各グリス供給路Rは、各グリス溝51aに連通している。
【0073】
次に、上記リンク部材50をケーシング2に取り付ける場合について説明する。まず、リンク部材50にはグリスを塗布せずに、該リンク部材50の回動軸51をケーシング2の円筒部13に挿入する。この状態で、リンク部材50のケーシング2側の面が、ケーシング2の円筒部13の先端部に当接し、回動軸51の先端面と円筒部13の底面との間にはグリスの流入が可能な隙間S3が形成される。
【0074】
また、グリス溝51aが形成されていることにより、回動軸51の外周面と、円筒部13の内周面との間には、グリスの流入が可能な隙間S4が形成される。隙間S4と隙間S3とは連通している。
【0075】
その後、アクチュエータをケーシング2に取り付ける。まず、アクチュエータの出力軸をリンク部材50の貫通孔52に挿入して爪53を出力軸に係合させる。次に、アクチュエータはケーシングに締結固定する。これにより、リンク部材50がケーシング2に取り付けられる。
【0076】
リンク部材50をケーシング2に取り付けた後、図20に示すように、グリスをリンク部材50の注入口R1からグリス供給路Rに注入する。グリス供給路Rに注入されたグリスは、グリス供給路Rを下流側へ流動してグリス溝51aに流入し、隙間S4に行き渡る。これにより、グリスがリンク部材50の回動軸51の外周面(摺動面)に塗布される。
【0077】
以上説明したように、この実施形態3にかかる車両用空調装置1によれば、グリス供給路Rをリンク部材50に設けたので、実施形態1と同様に、複数のリンク部材50をケーシング2に取り付ける場合に、リンク部材50を一括してケーシング2に取り付けた後、グリスを塗布する作業を一括して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0078】
(実施形態4)
図21は、本発明の実施形態4にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)60とロッド70との連結部分を拡大して示す断面図である。実施形態4は、リンク部材60とロッド70との連結部分にグリスを供給するようにした点で実施形態1のものとは異なり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0079】
図22及び図23に示すように、リンク部材60は樹脂材を射出成形してなるものであり、所定方向に長い板状となっている。リンク部材60の長手方向一側(図22及び図23の左側)には、ロッド70を連結するための連結孔61がリンク部材60を厚み方向に貫通するように形成されている。また、リンク部材60の長手方向他側(図22及び図23の右側)には、ピン62が形成されている。さらに、リンク部材60の中央部近傍には、ケーシング2に回動可能に支持される回動軸63が設けられている。この回動軸63は、実施形態1のリンク部材20の回動軸23と同様に構成されている。
【0080】
リンク部材60の長手方向一側には、反ケーシング2側の面(外表面)に開口する溝65が形成されている。溝65の端部は、連結孔61に連なっており、そこからリンク部材60の長手方向中央へ向かって連結孔61と回動軸63との中間位置まで直線状に延びている。溝65の長手方向に直交する断面は、略V字状とされている。この溝65の内部がグリス供給路Rである。従って、グリス供給路Rは、リンク部材60の外表面に開口している。尚、溝65の断面はV字状に限られるものではない。
【0081】
図25にも示すように、リンク部材60の反ケーシング2側の面には、溝65の長手方向他側の端部近傍から突出する突板66が形成されている。
【0082】
図21に示すように、ロッド70の端部は、略L字状に屈曲している。ロッド70の端部には、ジョイント部材80が設けられている。ロッド70は、ジョイント部材80を介してリンク部材60に連結されている。図25に示すように、ジョイント部材80は、樹脂材の成形品であり、ロッド70が挿入される挿入筒部81と、挿入筒部81の外周面に形成された係合爪82と、ロッド70を保持するクリップ部83とを備えている。ロッド70は、挿入筒部81に挿入され、かつ、クリップ部83に保持された状態でジョイント部材80と一体化する。
【0083】
図21に示すように、ジョイント部材80の挿入筒部81はリンク部材60の連結孔61に差し込まれるようになっている。連結孔61の差し込まれた状態でジョイント部材80は連結孔61周りに回動する。挿入筒部81が連結孔61に完全に挿入されると、係合爪82が連結孔61の周縁部に引っ掛かって係合する。これにより、ジョイント部材80の挿入筒部81が連結孔61から抜けなくなる。
【0084】
次に、上記ロッド70とリンク部材60とを連結する場合について説明する。まず、リンク部材60をケーシング2に取り付ける。このとき、リンク部材60にはグリスを塗布せず、取付方法は実施形態1のようにする。
【0085】
その後、ジョイント部材80の挿入筒部81をリンク部材60の連結孔61に完全に挿入して係合爪82を連結孔61の周縁部に係合させる。このときジョイント部材80にはグリスを塗布していない。
【0086】
次いで、ロッド70の端部をジョイント部材80の挿入筒部81に挿入する。しかる後、ロッド70を動かし、該ロッド70をクリップ部83で保持する。
【0087】
上記ロッド70のもう一方の端部は、他のリンク部材等に連結する。こうしてロッド70及びジョイント部材80がリンク部材60を介してケーシング2に取り付けられる。
【0088】
次いで、図26に示すように、グリスをグリス供給路Rに注入する。このとき、溝65の長手方向他端部には突板66が存在しているので、グリスが溝65の他端部から流れ出にくくなる。従って、グリス供給路Rに注入されたグリスは、グリス供給路Rを連結孔61側へ流れて連結孔61の内周面(摺動面)に達する。そして、リンク部材60が回動することにより、グリスが連結孔61の内周面に塗布される。
【0089】
以上説明したように、この実施形態4によれば、グリス供給路Rをリンク部材60に設けたので、実施形態1と同様に、作業効率を向上させることができる。
【0090】
また、図示しないが、車両用空調装置1には、車室外の空気をケーシング2に取り入れるための外気取入口と、車室内の空気をケーシング2に取り入れるための内気取入口とが形成されており、外気取入口及び内気取入口は内外気切替ダンパにより開閉されるようになっている。この内外気切替ダンパを駆動するリンク部材にも本発明を適用することができる。
【0091】
また、上記実施形態1〜4では、可動部材がリンク部材20,40,50,60である場合について説明したが、これに限らず、可動部材は例えばダンパ等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、例えば各種ダンパをリンク部材で駆動する構造の車両用空調装置に適用できる。
【符号の説明】
【0093】
1 車両用空調装置
2 ケーシング
3 円筒部
9 支軸
10 支軸形成用膨出部
10a 先端面(固定面)
13 円筒部
20,40,50,60 リンク部材(可動部材)
23 回動軸
23d 摺動面
40a 対向面(可動面)
41 軸受孔
R グリス供給路
S1〜S3 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に搭載される車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置は、熱交換器やダンパ等を収容するケーシングを備えている。ダンパはケーシングの外部からリンク部材を介して駆動されるようになっている(例えば、特許文献1、2参照)。ケーシングの外面には、リンク部材を取り付けるためのボスがダンパの収容位置に対応して設けられている。このボスにリンク部材が回動可能に取り付けられている。ボスとリンク部材との摺動部分にはグリスを塗布することによって摩耗や異音の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−347222号公報
【特許文献2】特開2008−195377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1、2のようにボスとリンク部材との摺動部分にグリスを塗布する場合には、リンク部材にグリスを塗布した後、リンク部材をボスに取り付ける必要がある。車両用空調装置には、複数のダンパが設けられることがあり、ダンパの数に対応してリンク部材も複数設けられることになる。この場合、1つのリンク部材にグリスを塗布し、そのリンク部材をボスに取り付けた後、別のリンク部材にグリスを塗布してリンク部材をボスに取り付けるという作業を繰り返さなければならず、作業効率が悪い。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ケーシングに可動部材を取り付ける場合に、可動部材をケーシングに取り付けた状態でグリスを塗布できるようにすることで作業効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、可動部材に形成したグリス供給路からグリスを導入するようにした。
【0007】
第1の発明は、熱交換器を収容するケーシングと、上記ケーシングに取り付けられる可動部材とを備えた車両用空調装置において、上記可動部材には、該可動部材の摺動面にグリスを供給するためのグリス供給路が形成され、該グリス供給路は該可動部材の外表面に開口していることを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、可動部材をケーシングに取り付けた状態で、可動部材のグリス供給路が可動部材の外表面に開口しているので、グリスを外部からグリス供給路に容易に注入可能となる。グリス供給路に注入したグリスは、グリス供給路を通って摺動面に達し、該摺動面に塗布される。このように可動部材をケーシングに取り付けた状態でグリスを塗布できるので、例えば、複数の可動部材をケーシングに取り付ける場合には、複数の可動部材をケーシングに取り付ける作業を一括して行った後、グリスを塗布する作業も一括して行うことが可能になる。これにより、可動部材に1つずつグリスを塗布してケーシングに取り付けるという作業の繰り返しを行わずに済むので、作業効率が向上する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、可動部材は、回動軸を有し、ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、グリス供給路は、上記回動軸の外周面と軸方向の先端面とに開口していることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によれば、グリス供給路に注入されたグリスが可動部材の回動軸における外周面及び軸方向の先端面の両方の開口から流出することになる。これにより、グリスがケーシングの筒部と可動部材の回動軸との間の略全体に亘って流入することになる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、ケーシングは、該ケーシング外面から突出する支軸と、ケーシング外面における支軸周りに形成された固定面とを有し、可動部材は、上記支軸が挿入される軸受孔と、固定面に対応する可動面とを有し、グリス供給路は、上記可動面に開口にし、上記可動面と上記固定面との隙間と、上記支軸の外周面と上記軸受孔の内周面との隙間が互いに連通していることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、グリス供給路に注入されたグリスが可動部材の可動面の開口から流出し、流出したグリスは、可動面と固定面との隙間から支軸の外周面と軸受孔の内周面との隙間に流入する。これにより、グリスが摺動面の略全体に亘って塗布されることになる。
【0013】
第4の発明は、第1の発明において、可動部材は、回動軸を有し、ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、グリス供給路は、上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間に連通し、上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間と、上記回動軸の軸方向の先端面と上記筒部の底面との隙間とが互いに連通していることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、グリス供給路に注入されたグリスが可動部材の回動軸の外周面と筒部の内周面との隙間に流入した後、回動軸の軸方向の先端面と筒部の底面との隙間に流入する。これにより、グリスが摺動面の略全体に亘って塗布されることになる。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、グリス供給路を可動部材に設けたので、可動部材をケーシングに取り付けた状態で摺動面にグリスを塗布することができる。よって、例えば可動部材を複数取り付ける場合に作業効率を向上させることができる。
【0016】
第2の発明によれば、ケーシングの筒部に可動部材の回動軸を挿入することによって可動部材をケーシングに取り付ける場合に、摺動面の略全体に亘ってグリスを確実に塗布することができる。
【0017】
第3の発明によれば、ケーシングの支軸を可動部材の軸受孔に挿入することによって可動部材をケーシングに取り付ける場合に、摺動面の略全体に亘ってグリスを確実に塗布することができる。
【0018】
第4の発明によれば、ケーシングの筒部に可動部材の回動軸に挿入することによって可動部材をケーシングに取り付ける場合に、摺動面の略全体に亘ってグリスを確実に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1にかかる車両用空調装置のリンク部材の取付部分近傍の拡大断面図である。
【図2】ケーシングにおけるリンク部材の取付部分近傍の拡大断面図である。
【図3】リンク部材を反ケーシング側から見た平面図である。
【図4】リンク部材の正面図である。
【図5】図3のV−V線における断面図である。
【図6】リンク部材の爪近傍の拡大断面図である。
【図7】グリス供給路にグリスを注入した状態の図1相当図である。
【図8】実施形態2にかかる図1相当図である。
【図9】実施形態2にかかる図2相当図である。
【図10】実施形態2にかかるリンク部材をケーシング側から見た底面図である。
【図11】図10のXI−XI線における断面図である。
【図12】実施形態2にかかるリンク部材を反ケーシング側から見た平面図である。
【図13】図12のXIII−XIII線における断面図である。
【図14】実施形態2にかかる図7相当図である。
【図15】実施形態3にかかる図1相当図である。
【図16】実施形態3にかかる図2相当図である。
【図17】実施形態3にかかる図10相当図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII線における断面図である。
【図19】実施形態3にかかる図12相当図である。
【図20】実施形態3にかかる図7相当図である。
【図21】実施形態4にかかるリンク部材とロッドとの連結部分の断面図である。
【図22】実施形態4にかかるリンク部材を反ケーシング側から見た平面図である。
【図23】実施形態4にかかるリンク部材の正面図である。
【図24】図22のXXIV−XXIV線における断面図である。
【図25】ジョイント部材の断面図である。
【図26】実施形態4にかかる図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)20の取付部分を示す断面図である。車両用空調装置1は、乗用自動車の車室内に搭載されるものであり、冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器(共に図示せず)を収容するケーシング2を備えている。ケーシング2には、デフロスタ吹出口、ベント吹出口及びヒート吹出口が形成されている。ケーシング2内には、図示しないが、冷却用熱交換器を通過した冷風と、加熱用熱交換器を通過した温風との混合割合を変化させるためのエアミックスダンパ、ケーシング2のデフロスタ吹出口を開閉するデフロスタダンパ、ケーシング2のベント吹出口を開閉するベントダンパ、ケーシング2のヒート吹出口を開閉するヒートダンパ等が収容されている。これらダンパは、ケーシング2に回動可能に支持される回動軸を備えており、回動軸には上記リンク部材20が直接又は間接的に連結されている。乗員による操作力やアクチュエータの駆動力は、ワイヤや、リンク部材20、他のリンク部材、ロッド等を介して各ダンパに伝達され、各ダンパが回動操作されるようになっている。リンク部材20には、操作力や駆動力が直接伝達される場合と、他のリンク部材等を介して間接的に伝達される場合とがある。
【0022】
ケーシング2は樹脂材を射出成形してなるものである。図2に示すように、ケーシング2の外面には、リンク部材20を取り付けるための円筒部3がケーシング2外へ向けて突設されている。円筒部3の形成部位は、ケーシング2の他の部位に比べてケーシング2外に位置している。
【0023】
また、ケーシング2の外面には、円筒部3の外周面に連なるリブ4,4が形成されている。円筒部3の突出方向先端側の内周面には、面取り部3aが形成されている。円筒部3の底面には、ケーシング2の壁部を貫通する貫通孔5が形成されている。貫通孔5の内周面は、ケーシング2外側に行くに従って拡径するテーパー面で構成されている。ケーシング2内面における貫通孔5の周縁部には、ケーシング2内へ突出して円環状に延びる円環部6が形成されている。円環部6の外径は、円筒部3の内径よりも小さく設定されている。ケーシング2内面の円環部6周りには、全周に亘って凹部7が形成されている。
【0024】
リンク部材20は樹脂材を射出成形してなるものであり、図3及び図4に示すように、所定方向に長い板状となっている。リンク部材20の長手方向一側(図3及び図4の左側)には、一側ピン21が突設されている。一側ピン21の突設方向は、ケーシング2への取付状態でケーシング2外へ向く方向(反ケーシング2方向)である。一側ピン21には、図示しないが他のリンク部材が係合するようになっている。リンク部材20の長手方向他側(図3及び図4の右側)には、他側ピン22が上記一側ピン21と同方向に突設されている。この他側ピン22にも他のリンク部材が係合するようになっている。
【0025】
図4に示すように、リンク部材20の一側ピン21と他側ピン22との間には、一側ピン21とは反対側(ケーシング2側)へ突出する回動軸23が設けられている。図1に示すように、この回動軸23は、ケーシング2の円筒部3に軸方向先端側から挿入されるようになっている。回動軸23は円筒部3によって回動可能に支持される。つまり、リンク部材20は、回動軸23周りに回動する。
【0026】
図1に示すように、回動軸23は、ケーシング2の円筒部3の内径よりも若干小径の略円筒状に形成されており、内部は中空となっている。回動軸23の中空部は、リンク部材20の外表面に開口している。また、回動軸23の軸方向先端部に位置する端壁部23aの外面は、ケーシング2の円筒部3の底面に摺接するようになっている。
【0027】
図3に示すように、回動軸23の内部には、該回動軸23の端壁部23aから軸方向に突出する円筒状リブ27と、円筒状リブ27の外周面から放射状に延びる3枚の平板状リブ28,28,28とが設けられている。円筒状リブ27は、端壁部23aの中央部に位置しており、その中心線は回動軸23の中心線と一致している。平板状リブ28,28,28は、周方向に等間隔に配置され、回動軸23の周壁部内面に連なるとともに、端壁部23aにも連なっている。
【0028】
図3〜図5に示すように、回動軸23の周壁部には、該周壁部を貫通する3つの周壁開口部29,29,29が形成されている。周壁開口部29,29,29は、周方向に略等間隔に配置されており、具体的には、周方向に隣り合う平板状リブ28,28の間に各周壁開口部29が開口するようになっている。各周壁開口部29は、回動軸23の軸方向の開口寸法よりも周方向の開口寸法の方が長い略矩形状である。また、各周壁開口部29は、回動軸23の中空部分に連通している。
【0029】
図4に示すように、回動軸23の周壁部の外面には、3つの突部23c,23c,23c(図3には3つとも示し、図4には2つのみ示す)が形成されている。3つの突部23c,23c,23cは周方向に略等間隔に配置されており、具体的には、周方向に隣り合う周壁開口部29,29の間に各突部23cが位置するようになっている。突部23cの突出方向の端面は、ケーシング2の円筒部3の内周面に沿う円弧面で構成されており、この円弧面がケーシング2の円筒部3の内周面に摺接する摺動面23dである。
【0030】
図3に示すように、回動軸23の端壁部23aには、3つの端壁開口部30,30,30が形成されている。端壁開口部30,30,30は、周方向に略等間隔に配置されており、具体的には、周方向について周壁開口部29,29,29に対応する位置、即ち、周方向に隣り合う平板状リブ28,28の間に開口するようになっている。端壁開口部30は、端壁部23aの外周側に位置付けられており、周方向に長いスリット状をなしている。端壁開口部30の周方向の開口寸法は、周壁開口部29の周方向の開口寸法と略同じに設定されている。各端壁開口部30は、回動軸23の中空部分に連通している。端壁開口部30における端壁部23a内側の縁部(内側縁部)には、略V字状の切欠部30aが形成されている。切欠部30aは、端壁開口部30の長手方向中央部近傍に位置している。
【0031】
また、図4及び図5に示すように、回動軸23の端壁部23aの外面には、3つの爪32,32,32が設けられている。爪32,32,32は、周方向に略等間隔に配置されており、端壁開口部30,30,30に対応するように位置している。
【0032】
図6にも示すように、爪32の基端部は、端壁部23aにおける端壁開口部30の内側縁部に連なっており、そこから回動軸23の軸方向に突出し、周方向に板状に延びている。爪32は、図1に示すように、ケーシング2の円環部6の内周面に摺接するようになっている。爪32における回動軸23の径方向外側の面には、上記切欠部30aに連なる溝32bが形成されている。溝32bは、爪32の基端部から先端部近傍まで延びている。
【0033】
図4にも示すように、爪32の先端部には、回動軸23の径方向外方に突出する突起32aが形成されている。図1に示すように、突起32aは、ケーシング2の円環部6におけるケーシング2内側の端面に引っ掛かって係合するようになっている。図6に仮想線で示すように、爪32は、全体として回動軸23の径方向に弾性変形するようになっている。
【0034】
図3に示すように、回動軸23の内部には、グリスを摺動面23dに供給するための3つのグリス供給路R,R,Rが形成されている。各グリス供給路Rは、周方向に隣り合う平板状リブ28,28の間の中空部分で構成されている。従って、グリス供給路Rは、リンク部材20の外表面に開口しており、この開口部分がグリスの注入口R1となっている。
【0035】
また、各グリス供給路Rは、周壁開口部29及び端壁開口部30に連通している。注入口R1からグリス供給路Rに注入されたグリスは、周壁開口部29及び端壁開口部30から流出するようになっている。
【0036】
次に、上記リンク部材20をケーシング2に取り付ける場合について説明する。まず、リンク部材20にはグリスを塗布せずに、該リンク部材20の爪32,32,32をケーシング2の円筒部3に先端部から挿入していく。これにより、リンク部材20の回動軸23も円筒部3に挿入される。
【0037】
爪32を円筒部3に挿入すると、爪32の突起32aが貫通孔5の内周面に摺接して径方向内方へ押されていき、爪32が径方向内方へ撓むように弾性変形する(図6に仮想線で示す)。このとき、貫通孔5の内周面がテーパー形状となっているので、内周面に摺接した突起32aをスムーズに径方向内方へ押すことができる。
【0038】
爪32を貫通孔5へ更に挿入していくと、突起32aは円環部6の内周面に摺接し、円環部6を越えた時点で爪32の形状が復元すると同時に突起32aが円環部6のケーシング2内側の端面に引っ掛かって係合状態となる(図1に示す)。このとき、回動軸23は円筒部3に完全に挿入されて端壁部23aの外面が円筒部3の底面に当接する。
【0039】
図7に示すように、リンク部材20をケーシング2に取り付けた後、周知のグリスガン等(図示せず)を用いてグリスをリンク部材20の注入口R1からグリス供給路Rに注入する。グリス供給路Rに注入されたグリスは、回動軸23の周壁開口部29から回動軸23の外部へ流出し、円筒部3の内周面と回動軸23の外周面との間に達する。そして、リンク部材20を回動させることにより、グリスが摺動面23dに塗布され、回動軸23及び円筒部3の摩耗が抑制されるとともに、異音の発生が抑制される。
【0040】
また、グリス供給路Rに注入されたグリスは、回動軸23の端壁開口部30からも回動軸23の外部へ流出する。これにより、回動軸23の端壁部23a外面(摺動面)にもグリスが塗布される。
【0041】
さらに、グリス供給路Rに注入されたグリスは、回動軸23の端壁開口部30の切欠部30aからも流出する。切欠部30aから流出したグリスは、爪32の溝32bを通って爪32の先端側へ流動する。この溝32b内のグリスが爪32の側面に塗布されるとともに、突起32aにも塗布される。
【0042】
グリスが爪32の溝32bに充填されるとともに、回動軸23の外側に充填されることで、回動軸23と貫通孔5との間がシールされる。これにより、ケーシング2内の空気が貫通孔5から外部へ漏れにくくなる。
【0043】
以上説明したように、この実施形態1にかかる車両用空調装置1によれば、グリス供給路Rをリンク部材20に設けたので、リンク部材20をケーシング2に取り付けた状態で摺動面23dにグリスを塗布することができる。よって、複数のリンク部材20をケーシング2に取り付ける場合に、リンク部材20を一括してケーシング2に取り付けた後、グリスを塗布する作業を一括して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0044】
また、グリス供給路Rに注入されたグリスを、リンク部材20の回動軸23における周壁開口部29及び端壁開口部30から流出させるようにしている。これにより、グリスをグリス供給路Rに注入するだけでケーシング2の筒部3とリンク部材20の回動軸23との略全体に亘って確実に塗布できる。
【0045】
尚、実施形態1において、グリスを注入する場合には、3つのグリス供給路Rにそれぞれグリスを注入してもよいし、1つ又は2のグリス供給路Rに注入してもよい。
【0046】
また、周壁開口部29、端壁開口部30、爪32の数は、3つに限られるものではなく、1つや2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0047】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)20の取付部分を拡大して示す断面図である。実施形態2は、リンク部材40の構造と、リンク部材40のケーシング2への取付構造とが実施形態1のものとは異なり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0048】
実施形態2では、図9にも示すように、ケーシング2外面に、リンク部材40を回動可能に支持するための円柱状の支軸9を設けている。すなわち、ケーシング2の壁部には、ケーシング2外へ膨出する支軸形成用膨出部10が設けられている。支軸形成用膨出部10の膨出方向の先端面(固定面)10aは、膨出方向と略直交する方向に延びる円形の面で構成されている。先端面10aの周縁部には、ケーシング2外へ突出して周方向に連続して延びる環状の突条部10bが形成されている。
【0049】
支軸9は、先端面10aの略中央部に設けられており、そこからケーシング2外へ延びるとともにケーシング2内へも延びている。支軸9には、ネジ孔9aが同心状に形成されている。このネジ孔9aは、支軸9の先端面に開口しており、後述するがリンク部材40を固定するためのネジB(図8に示す)が螺合するようになっている。
【0050】
支軸9の外周面には、複数のリブ9b,9b,…が形成されている。リブ9b,9b,…は、支軸9の周方向に略等間隔に配置され、軸方向に延びている。
【0051】
また、ケーシング2の壁部の支軸形成用膨出部10の近傍には、別の膨出部11が形成されている。さらに、ケーシング2の壁部には、支軸形成用膨出部10の外周面に連なるリブ4が形成されている。
【0052】
図10〜図12に示すように、リンク部材40は、樹脂材を射出成形してなるものであり、円板部材で構成されている。リンク部材40の中心部には、上記支軸9が挿入される円形の軸受孔41が該リンク部材40を貫通するように形成されている。図8に示すように、軸受孔41の内周面(摺動面)には、支軸9のリブ9bの先端面が摺接するようになっている。リブ9bの形成により、軸受孔41の内周面と支軸9の外周面との間には隙間S1が形成される。
【0053】
図10に示すように、リンク部材40の外周部には、ケーシング2側に開口する溝42,42,42が形成されている。溝42,42,42は、周方向に延びており、途中で屈曲している。溝42,42,42には、上記実施形態1のリンク部材20のピン22が嵌るようになっている。
【0054】
図13に示すように、リンク部材40の軸受孔41の内周面におけるケーシング2側には、ケーシング2側へ行くほど拡径するテーパー面41aが形成されている。また、リンク部材40の反ケーシング2側の面には、軸受孔41の周りに軸方向と直交する方向に延びる平坦面43が形成されている。
【0055】
リンク部材40の平坦面43よりも外周側には、リンク部材40の外表面に開口する2つのグリス供給路R,Rが形成されている。グリス供給路R,Rは、リンク部材40の中心を対称の中心とする点対称に配置されており、互いに同じ形状となっている。すなわち、グリス供給路Rの注入口R1は、リンク部材40の反ケーシング2側の面に開口している。図12に示すように、注入口R1は、リンク部材40の径方向に長い形状となっている。図13に示すように、グリス供給路Rは、注入口R1から軸受孔41の軸方向に延びた後、径方向内方へ屈曲して延びている。グリス供給路Rは中途部の断面積が流入口R1の開口面積よりも小さくなっている。リンク部材40における支軸形成用膨出部10の先端面10aに対向する対向面(可動面)40aには、グリス供給路Rの下流端である流出口R2が開口している。図10に示すように、流出口R2は、軸受孔41の周方向に長い形状となっている。
【0056】
図8に示すように、リンク部材40をケーシング2に取り付けた状態で流出口R2は、ケーシング2の支軸形成用膨出部10の先端面10aに対向するように配置されている。流出口R2の開口面積は、注入口R1の開口面積よりも大きく設定されている。
【0057】
リンク部材40は、円板状の固定部材45を用いてネジBでケーシング2に取り付けられる。すなわち、固定部材45の中心部には、ネジBが挿通するネジ挿通孔45aが厚み方向に貫通するように形成されている。固定部材45の外周部には、リンク部材40の平坦面43に摺接して該平坦面43をケーシング2側へ押さえる押さえ部45bが形成されている。
【0058】
ケーシング2の支軸形成用膨出部10の先端面10aと、リンク部材40の対向面40aとの間には、グリスが流入可能な隙間S2が形成される。この隙間S2は、軸受孔41の内周面と支軸9の外周面との間に形成される隙間S1と連通している。隙間S1もグリスの流入が可能である。
【0059】
次に、上記リンク部材40をケーシング2に取り付ける場合について説明する。まず、グリスを塗布しない状態のリンク部材40の軸受孔41にケーシング2の支軸9を挿入する。この状態で、リンク部材40のケーシング2側の面が、ケーシング2の突条部10bの先端部に当接する。
【0060】
その後、固定部材45をリンク部材40の平坦面43上に置く。そして、ネジBを固定部材45のネジ挿通孔45aに挿通し、ケーシング2の支軸9のネジ孔9aに螺合させる。すると、固定部材45の押さえ部45bがリンク部材40の平坦面43をケーシング2側に押さえ、これにより、リンク部材40がケーシング2に取り付けられる。この状態でリンク部材40は支軸9周りに回動可能となる。
【0061】
リンク部材40をケーシング2に取り付けた後、図14に示すように、グリスをリンク部材40の注入口R1からグリス供給路Rに注入する。グリス供給路Rに注入されたグリスは、グリス供給路Rを下流側へ流動して流出孔R2から流出する。この流出孔R2は、支軸形成用膨出部10の先端面10aと対向しているので、グリスは支軸形成用膨出部10の先端面10aとリンク部材40の対向面40aとの間に充填される。先端面10aと対向面40aとの間のグリスは、突条部10bの存在によって該突条部10bよりも外部へ漏れ出るのが抑制される。これにより、グリスが支軸9の外周面に確実に達することになる。支軸9には複数のリブ9b,9b,…が間隔をあけて設けられているので、リブ9b,9b,…の間にグリスが流入し、これにより、リブ9b,9b,…の突出方向先端面(摺動面)に塗布される。
【0062】
隣り合うリブ9b,9bの間に流入したグリスは、固定部材45側に達し、固定部材45の押さえ部45bとリンク部材40の平坦面43とに塗布される。
【0063】
以上説明したように、この実施形態2にかかる車両用空調装置1によれば、グリス供給路Rをリンク部材40に設けたので、実施形態1と同様に、複数のリンク部材40をケーシング2に取り付ける場合に、リンク部材40を一括してケーシング2に取り付けた後、グリスを塗布する作業を一括して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0064】
また、リンク部材40とケーシング2との間に形成される隙間S1及び隙間S2を連通させたので、グリス供給路Rに注入されたグリスを、隙間S2から隙間S1に流入させることができる。これにより、グリスが摺動面の略全体に亘って塗布されることになる。
【0065】
(実施形態3)
図15は、本発明の実施形態3にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)50の取付部分を拡大して示す断面図である。実施形態3は、リンク部材50の構造と、リンク部材50のケーシング2への取付構造とが実施形態1のものとは異なり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0066】
図16に示すように、ケーシング2外面には、膨出部12が形成されており、膨出部12の膨出方向先端面には、円筒部13が形成されている。円筒部13の底面の中央部には、ケーシング2内へ向けて窪む凹部14が形成されている。円筒部13の内周面には、実施形態1の円筒部3と同様に面取り部13aが設けられている。
【0067】
また、ケーシング2外面には、リンク部材50を駆動するためのアクチュエータ(図示せず)が締結されるボス15が設けられている。さらに、ケーシング2外面には、膨出部12及び円筒部13に連なるリブ4が設けられている。
【0068】
図17〜図19に示すように、リンク部材50は、実施形態2のリンク部材40と同様な円板状に形成されている。図15にも示すように、リンク部材50の中心部には、厚み方向に突出する回動軸51が形成されている。また、図17に示すように、リンク部材50の外周部には、ケーシング2側に開口する溝56,56,56が形成されている。
【0069】
図15に示すように、回動軸51は、ケーシング2の円筒部13に挿入されて回動可能に支持される。回動軸51の中心部には、厚み方向に貫通する貫通孔52が形成されている。貫通孔52の内径は、そのケーシング2側が反ケーシング2側よりも大きく設定されている。貫通孔52の内周面における反ケーシング2側には、アクチュエータの出力軸に係合する爪53が設けられている。
【0070】
図17に示すように、回動軸51の外周面には、2つのグリス溝51a,51aが周方向に間隔をあけて設けられている。グリス溝51aは、回動軸51の軸方向両端に亘って延びている。
【0071】
図19に示すように、リンク部材50の中心寄りの部位には、リンク部材50の外表面に開口する2つのグリス供給路R,Rが形成されている。グリス供給路R,Rは、互いに回動軸51の周方向に間隔をあけて、グリス溝51a,51aと対応する位置に配置されている。
【0072】
図15にも示すように、グリス供給路Rの注入口R1は、リンク部材50の反ケーシング2側の面に開口している。図19に示すように、注入口R1は、リンク部材40の周方向に長い形状となっている。各グリス供給路Rは、各グリス溝51aに連通している。
【0073】
次に、上記リンク部材50をケーシング2に取り付ける場合について説明する。まず、リンク部材50にはグリスを塗布せずに、該リンク部材50の回動軸51をケーシング2の円筒部13に挿入する。この状態で、リンク部材50のケーシング2側の面が、ケーシング2の円筒部13の先端部に当接し、回動軸51の先端面と円筒部13の底面との間にはグリスの流入が可能な隙間S3が形成される。
【0074】
また、グリス溝51aが形成されていることにより、回動軸51の外周面と、円筒部13の内周面との間には、グリスの流入が可能な隙間S4が形成される。隙間S4と隙間S3とは連通している。
【0075】
その後、アクチュエータをケーシング2に取り付ける。まず、アクチュエータの出力軸をリンク部材50の貫通孔52に挿入して爪53を出力軸に係合させる。次に、アクチュエータはケーシングに締結固定する。これにより、リンク部材50がケーシング2に取り付けられる。
【0076】
リンク部材50をケーシング2に取り付けた後、図20に示すように、グリスをリンク部材50の注入口R1からグリス供給路Rに注入する。グリス供給路Rに注入されたグリスは、グリス供給路Rを下流側へ流動してグリス溝51aに流入し、隙間S4に行き渡る。これにより、グリスがリンク部材50の回動軸51の外周面(摺動面)に塗布される。
【0077】
以上説明したように、この実施形態3にかかる車両用空調装置1によれば、グリス供給路Rをリンク部材50に設けたので、実施形態1と同様に、複数のリンク部材50をケーシング2に取り付ける場合に、リンク部材50を一括してケーシング2に取り付けた後、グリスを塗布する作業を一括して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0078】
(実施形態4)
図21は、本発明の実施形態4にかかる車両用空調装置1におけるリンク部材(可動部材)60とロッド70との連結部分を拡大して示す断面図である。実施形態4は、リンク部材60とロッド70との連結部分にグリスを供給するようにした点で実施形態1のものとは異なり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0079】
図22及び図23に示すように、リンク部材60は樹脂材を射出成形してなるものであり、所定方向に長い板状となっている。リンク部材60の長手方向一側(図22及び図23の左側)には、ロッド70を連結するための連結孔61がリンク部材60を厚み方向に貫通するように形成されている。また、リンク部材60の長手方向他側(図22及び図23の右側)には、ピン62が形成されている。さらに、リンク部材60の中央部近傍には、ケーシング2に回動可能に支持される回動軸63が設けられている。この回動軸63は、実施形態1のリンク部材20の回動軸23と同様に構成されている。
【0080】
リンク部材60の長手方向一側には、反ケーシング2側の面(外表面)に開口する溝65が形成されている。溝65の端部は、連結孔61に連なっており、そこからリンク部材60の長手方向中央へ向かって連結孔61と回動軸63との中間位置まで直線状に延びている。溝65の長手方向に直交する断面は、略V字状とされている。この溝65の内部がグリス供給路Rである。従って、グリス供給路Rは、リンク部材60の外表面に開口している。尚、溝65の断面はV字状に限られるものではない。
【0081】
図25にも示すように、リンク部材60の反ケーシング2側の面には、溝65の長手方向他側の端部近傍から突出する突板66が形成されている。
【0082】
図21に示すように、ロッド70の端部は、略L字状に屈曲している。ロッド70の端部には、ジョイント部材80が設けられている。ロッド70は、ジョイント部材80を介してリンク部材60に連結されている。図25に示すように、ジョイント部材80は、樹脂材の成形品であり、ロッド70が挿入される挿入筒部81と、挿入筒部81の外周面に形成された係合爪82と、ロッド70を保持するクリップ部83とを備えている。ロッド70は、挿入筒部81に挿入され、かつ、クリップ部83に保持された状態でジョイント部材80と一体化する。
【0083】
図21に示すように、ジョイント部材80の挿入筒部81はリンク部材60の連結孔61に差し込まれるようになっている。連結孔61の差し込まれた状態でジョイント部材80は連結孔61周りに回動する。挿入筒部81が連結孔61に完全に挿入されると、係合爪82が連結孔61の周縁部に引っ掛かって係合する。これにより、ジョイント部材80の挿入筒部81が連結孔61から抜けなくなる。
【0084】
次に、上記ロッド70とリンク部材60とを連結する場合について説明する。まず、リンク部材60をケーシング2に取り付ける。このとき、リンク部材60にはグリスを塗布せず、取付方法は実施形態1のようにする。
【0085】
その後、ジョイント部材80の挿入筒部81をリンク部材60の連結孔61に完全に挿入して係合爪82を連結孔61の周縁部に係合させる。このときジョイント部材80にはグリスを塗布していない。
【0086】
次いで、ロッド70の端部をジョイント部材80の挿入筒部81に挿入する。しかる後、ロッド70を動かし、該ロッド70をクリップ部83で保持する。
【0087】
上記ロッド70のもう一方の端部は、他のリンク部材等に連結する。こうしてロッド70及びジョイント部材80がリンク部材60を介してケーシング2に取り付けられる。
【0088】
次いで、図26に示すように、グリスをグリス供給路Rに注入する。このとき、溝65の長手方向他端部には突板66が存在しているので、グリスが溝65の他端部から流れ出にくくなる。従って、グリス供給路Rに注入されたグリスは、グリス供給路Rを連結孔61側へ流れて連結孔61の内周面(摺動面)に達する。そして、リンク部材60が回動することにより、グリスが連結孔61の内周面に塗布される。
【0089】
以上説明したように、この実施形態4によれば、グリス供給路Rをリンク部材60に設けたので、実施形態1と同様に、作業効率を向上させることができる。
【0090】
また、図示しないが、車両用空調装置1には、車室外の空気をケーシング2に取り入れるための外気取入口と、車室内の空気をケーシング2に取り入れるための内気取入口とが形成されており、外気取入口及び内気取入口は内外気切替ダンパにより開閉されるようになっている。この内外気切替ダンパを駆動するリンク部材にも本発明を適用することができる。
【0091】
また、上記実施形態1〜4では、可動部材がリンク部材20,40,50,60である場合について説明したが、これに限らず、可動部材は例えばダンパ等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、例えば各種ダンパをリンク部材で駆動する構造の車両用空調装置に適用できる。
【符号の説明】
【0093】
1 車両用空調装置
2 ケーシング
3 円筒部
9 支軸
10 支軸形成用膨出部
10a 先端面(固定面)
13 円筒部
20,40,50,60 リンク部材(可動部材)
23 回動軸
23d 摺動面
40a 対向面(可動面)
41 軸受孔
R グリス供給路
S1〜S3 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器を収容するケーシングと、
上記ケーシングに取り付けられる可動部材とを備えた車両用空調装置において、
上記可動部材には、該可動部材の摺動面にグリスを供給するためのグリス供給路が形成され、該グリス供給路は該可動部材の外表面に開口していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
可動部材は、回動軸を有し、
ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、
グリス供給路は、上記回動軸の外周面と軸方向の先端面とに開口していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
ケーシングは、該ケーシング外面から突出する支軸と、ケーシング外面における支軸周りに形成された固定面とを有し、
可動部材は、上記支軸が挿入される軸受孔と、固定面に対応する可動面とを有し、
グリス供給路は、上記可動面に開口にし、
上記可動面と上記固定面との隙間と、上記支軸の外周面と上記軸受孔の内周面との隙間が互いに連通していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
可動部材は、回動軸を有し、
ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、
グリス供給路は、上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間に連通し、
上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間と、上記回動軸の軸方向の先端面と上記筒部の底面との隙間とが互いに連通していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項1】
熱交換器を収容するケーシングと、
上記ケーシングに取り付けられる可動部材とを備えた車両用空調装置において、
上記可動部材には、該可動部材の摺動面にグリスを供給するためのグリス供給路が形成され、該グリス供給路は該可動部材の外表面に開口していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
可動部材は、回動軸を有し、
ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、
グリス供給路は、上記回動軸の外周面と軸方向の先端面とに開口していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
ケーシングは、該ケーシング外面から突出する支軸と、ケーシング外面における支軸周りに形成された固定面とを有し、
可動部材は、上記支軸が挿入される軸受孔と、固定面に対応する可動面とを有し、
グリス供給路は、上記可動面に開口にし、
上記可動面と上記固定面との隙間と、上記支軸の外周面と上記軸受孔の内周面との隙間が互いに連通していることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
可動部材は、回動軸を有し、
ケーシングには、上記回動軸が軸方向先端側から挿入される筒部が形成され、
グリス供給路は、上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間に連通し、
上記回動軸の外周面と上記筒部の内周面との隙間と、上記回動軸の軸方向の先端面と上記筒部の底面との隙間とが互いに連通していることを特徴とする車両用空調装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2012−201229(P2012−201229A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67959(P2011−67959)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】
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