説明

車両用空調装置

【課題】室内暖房用熱交換器を車室内側に配置するヒートポンプシステムを採用した場合に、高温高圧の熱交換媒体が配管から漏洩しても、熱交換媒体が車室内空間に漏洩するのを防止して、高温高圧の熱交換媒体が搭乗者に当たらないようにし、車室内空間に霧状に充満して車両前方に対する視界不良を起こすのを防止した車両用空調装置を提供する。
【解決手段】ヒートポンプシステム25を構成する配管35のうち室内暖房用熱交換器9を収納するケース7外で且つ車室内空間4内に位置するケース外配管35aを、カバー38で覆って、ケース外配管35aの周囲に気密性の高い閉鎖空間44を画成する。ファイヤーボード5に取付けられたグロメット55に、閉鎖空間44と車室外域3とを連通させて閉鎖空間44内に漏洩した熱交換媒体を車室外域3に排出するための通路部60を設ける。そして、通路部60の開口61を開閉する開閉手段を弁構造64とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用、特に電気自動車用として好適な空調装置であり、ヒートポンプシステムを用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、電気自動車(electric vehicle 略称:EV)の開発が急速に進み、化石燃料利用エンジンを自動車に搭載しない傾向となっているので、従来のようにエンジン冷却水を加熱用熱交換器の熱源として利用することが容易でなくなることからヒートポンプシステムが注目されるようになっている。これに伴い、例えば特許文献1に示されるように、かかるヒートポンプシステムを電気自動車用冷暖房装置として用いた発明そのものは既に公知となっている。
【0003】
もっとも、前記特許文献1に示される車両用のヒートポンプシステムでは、車室内に配置される室内暖房用熱交換器(特許文献1では、サブコンデンサとして表示されている。)は、高温高圧の熱交換媒体(特許文献1では冷媒として表示されている。)が流れる構成となっている。従って、室内暖房用熱交換器と他のヒートポンプシステムの機器とを接続する配管に対し、シール部材の不具合や配管への軽微な外力等により高温高圧の熱交換媒体が車室内に漏洩することが考えられ、車室内に漏洩した高温高圧の熱交換媒体が霧状に車室内に充満し、車両前方に対する視界不良を生じたりする不具合があった。
【0004】
このため、高温高圧の熱交換媒体の漏洩への対策が要望されているところ、例えば特許文献2の車両用空調装置に示される、ヒータコアの温水配管から水が漏れても車室内に漏れ出さないようにケース外の配管を包むようにカバーを設けた構成や、特許文献3の空調装置に示される、冷媒が漏れやすい配管接続部を車室外に配置する構成や、特許文献4の車両用安全装置に示される、漏れた冷媒を車室外に排出する排出口を車両のドアに配置する構成が既に公知になっており、これらの構成を、前記ヒートポンプシステムを備える車両用空調装置の熱交換媒体の漏洩対策として用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−238923号公報
【特許文献2】特開平10−315752号公報
【特許文献3】特開2004−198060号公報
【特許文献4】国際公開WO00/34065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献2に示される車両用空調装置で開示された熱交換媒体の漏洩対策の構成は、加熱用熱交換器に一方端が接続されると共にケースの外部に引き回された配管をカバーで覆うのみであるので、配管やコネクタから漏れた熱交換媒体は車室内側に位置するカバーとケースとの間に画成された空間内に留まったままである。従って、前記空間内に漏洩して留まったままの高温の熱交換媒体が、カバーの破損等によって最終的には車室内に漏洩してしまうおそれがある。
【0007】
また、前記特許文献3に示される空調装置で開示された熱交換媒体の漏洩対策の構成は、配管接続部が必ず車室外に配置されるので、室内暖房用熱交換器から配管接続部まで相対的に長い配管を常に用意する必要がある。そして、配管接続部を設置する位置も車室外域に限定されてしまうので、室内暖房用熱交換器からケース外に延びた配管のレイアウトの自由度が損なわれる。
【0008】
更に、前記特許文献4に示される車両用安全装置で開示された熱交換媒体の漏洩対策の構成は、熱交換媒体が車室内に漏洩してしまった後に車外に排出するためのものであって、熱交換媒体が車室内に漏洩するのを防止することを目的としていない。このため、特許文献4に示される車両用安全装置では、高温高圧の熱交換媒体が車室内に漏洩してしまうことによる不具合の防止や車両前方に対する視界不良について未然に防止することができない。
【0009】
そこで、本発明は、車両用、特に電気自動車用として好適とするために、車室内に室内暖房用熱交換器を配置する構成のヒートポンプシステムを備えるにあたって、高温高圧の熱交換媒体が配管やコネクタから漏洩して、この熱交換媒体が車室内にまで漏洩する不具合や、車室内で霧状に充満して車両前方に対する視界不良を起こしたりするのを防止した車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る車両用空調装置は、コンプレッサと、車室外域に配置される室外熱交換器と、車室内空間に配置される室内暖房用熱交換器と、膨張装置と、車室内空間に配置される室内冷却用熱交換器とを配管及びコネクタにより適宜連結すると共に、前記コンプレッサから吐出された相対的に高温高圧の熱交換媒体を、冷房運転時には前記室外熱交換器に送り、暖房運転時には前記室内暖房用熱交換器に送るための熱交換媒体流路切換手段を有するヒートポンプシステムを備えた車両用空調装置において、前記配管のうち前記室内暖房用熱交換器に対する熱交換媒体の流入・流出を行うと共に前記室内暖房用熱交換器を収納するケース外で且つ車室内空間内に位置するケース外配管、又は前記ケース外配管と前記ケース外配管同士を接続するコネクタとをカバーで覆って、前記ケース外配管の周囲、又は前記ケース外配管と前記コネクタとの周囲に、気密性の高い閉鎖空間を画成すると共に、車室内空間と車室外域とを仕切る仕切り部に、前記ケース外配管の周囲、又は前記ケース外配管と前記コネクタとの周囲の前記カバーで覆われた閉鎖空間と、前記車室外域とを、連通してこの閉鎖空間内に漏洩した熱交換媒体を前記車室外域に排出するための通路部を設けたことを特徴としている(請求項1)。ここで、室外熱交換器は例えば車室外コンデンサ等とも称される。室内暖房用熱交換器は例えば車室内コンデンサ或いはサブコンデンサ等とも称される。室内冷却用熱交換器は車室内に配置され、例えば(室内)エバポレータ等とも称される。膨張装置は、例えば膨張弁とも称される。仕切り部は、例えばファイヤーボード等とも称される。熱交換媒体は例えばR134a冷媒やCO冷媒である。熱交換媒体流路切換手段は、例えば四方弁や三方弁等の3以上の方向への切換えを可能とする方向切換弁である。
【0011】
これにより、室内暖房用熱交換器を収納するケース外に位置するケース外配管、又はこのケース外配管やケース外配管同士を接続するコネクタから高温高圧の熱交換媒体が漏洩してもその漏洩先はカバーとケースとで気密性良く画成された閉鎖空間内であり、しかも、この閉鎖空間内に漏洩した熱交換媒体は閉鎖空間に殆ど留まらずに閉鎖空間と車室内外との双方に連通した通路部から車室外に速やかに排出される。
【0012】
ここで、前記通路部は、前記閉鎖空間と前記車室外域とを連通する開口と、前記閉鎖空間から前記車室外域に向けて熱交換媒体が排出するように前記開口を開閉する開閉手段とを有していることを特徴としている(請求項2)。これにより、通路部は閉鎖空間と車室外域とを常時において連通させた状態にせず、閉鎖空間と車室外域の連通状態を開閉手段により開閉制御することが可能となる。また、走行風圧やゴミ、水等が車室内側の閉鎖空間に入るのを防ぐことが可能になる。
【0013】
そして、前記開閉手段は、前記閉鎖空間と前記車室外域との気圧差が無いか相対的に小さな時には前記通路部の開口を閉鎖し、前記車室外域よりも前記閉鎖空間の気圧が相対的に高くなった場合に、前記閉鎖空間から前記車室外方向に前記開口を開放する弁体を備えた弁構造であることを特徴としている(請求項3)。これにより、閉鎖空間に高温高圧の熱交換媒体が漏洩していない状態では、閉鎖空間と車室外域との気圧差がないか相対的に小さくなっているところ、この場合には通路部の開口を弁構造の弁体で閉塞し、閉鎖空間に高温高圧の熱交換媒体が漏洩して閉鎖空間の圧力が車室外域、すなわち大気圧よりも相対的に高くなった時にはじめて弁構造の弁体が通路部の開口を開放して漏洩した高温高圧の熱交換媒体を通路部の開口から車室外域に排出することが可能である。
【0014】
更に、前記通路部の開口は、前記仕切り部に形成されて前記車室内空間と前記車室外域とを連通する開口部に前記配管を挿通して保持するためのグロメットに形成されていると共に、前記通路部の弁構造は、前記弁体が前記グロメットと連結されて一体に形成されていることを特徴としている(請求項4)。このようにグロメットと一体に形成することにより、弁構造の製造性が向上し、その製造コストを抑制することができる。もっとも、弁構造は、グロメットと別体であっても良く、この場合には、弁構造として汎用のものを用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、室内暖房用熱交換器を収納するケース外に位置するケース外配管、又はこのケース外配管とケース外配管同士を接続するコネクタとから高温高圧の熱交換媒体が漏洩してもその漏洩先をカバーとケースとで気密性良く画成された閉鎖空間内とすることができ、更には、この閉鎖空間内に漏洩した熱交換媒体を閉鎖空間内に殆ど留まらずこの閉鎖空間及び車室外域と連通した通路部から車室外に速やかに排出することができるので、高温高圧の漏洩した熱交換媒体が車室内空間に漏洩してしまうことを防止することが可能である。
よって、車室内空間に漏洩した高温高圧の熱交換媒体が搭乗者に当たることを防止したり、車室内空間に漏洩した高温高圧の熱交換媒体が車室内空間で霧状に拡がって車両前方に対する視界不良が生じたりするのを防止することが可能となり、車室内空間に高温高圧の熱交換媒体を利用する室内暖房用熱交換器を配置したヒートポンプシステムを採用しても、熱交換媒体の漏洩による不具合から搭乗者を保護し、搭乗者の安全の向上を図ることができる。
【0016】
特に、請求項2に記載の発明によれば、通路部は閉鎖空間と車室外域とを常時において連通した状態にせず、閉鎖空間と車室外域との連通状態を開閉手段により開閉制御することができるので、開閉手段の構成の工夫で高温高圧の熱交換媒体の配管、コネクタからの漏洩に対し迅速に対応することが可能となる。また、走行風圧やゴミ、水等が車室内側の閉鎖空間に入るのを防ぐことが可能になる。
【0017】
特に、請求項3に記載の発明によれば、閉鎖空間に高温高圧の熱交換媒体が漏洩していない場合には通路部の開口を弁構造の弁体で閉塞して閉鎖空間と車室外域とが連通した状態となるのを回避しておき、閉鎖空間に高温高圧の熱交換媒体が漏洩して閉鎖空間の圧力が車室外域よりも高くなった時には、閉鎖空間と車室外域との圧力差を利用して弁構造の弁体が通路部の開口を迅速に開放して漏洩した高温高圧の熱交換媒体を通路部の開口から車室外域に速やかに排出することが可能である。
【0018】
特に、請求項4に記載の発明によれば、弁構造をグロメットと一体に成形することにより弁構造の製造が簡易になり、通路部に配置される弁構造の製造コスト、ひいては車両用空調装置全体の製造コストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、この発明の車両用空調装置の構成及び当該車両用空調装置とファイヤーボードとの位置関係を示した概略図であり、特にこの発明の車両用空調装置が用いるヒートポンプシステムの構成の一例を示したものである。
【図2】図2(a)は、図1の車両用空調装置のHVACユニットとファイヤーボードとを示した平面図であり、図2(b)は、HVACユニットのケースとカバーとで画成された閉鎖空間の内部を平面的に示した断面図である。
【図3】図3(a)は、図1の車両用空調装置のHVACユニットとファイヤーボードとを示した側面図であり、図3(b)は、HVACユニットのケースとカバーとで画成された閉鎖空間の特にグロメット近傍を側方から示した断面図である。
【図4】図4は、図3の車両用空調装置のケースの表面及びケースから車両前後方向の前方に突出して設けられた被嵌合部にカバーを装着する工程を示す工程図である。
【図5】図5は、この発明の車両用空調装置の通路部の開閉手段の一例を示す説明図であり、図5(a)は、車室外域と閉鎖空間とがそれぞれ大気圧と同じ圧力値での開閉手段の状態を示した図であり、図5(b)は、車室外域が大気圧と同じ圧力値であるのに対し閉鎖空間が冷媒漏洩で大気圧よりも高くなったときに、閉鎖空間と車室外域との圧力差を利用して開閉手段を作動させる態様を示した図である。
【図6】図6は、この発明の車両用空調装置の通路部の開閉手段について図5とは異なる構成例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1、図2及び図3において、車両、例えば電気自動車用の空調装置の一例として、当該電気自動車等の車両のセンターコンソール部に搭載されるセンター置きタイプの空調装置1が示されている。この空調装置1のHVACユニット2は、特に図1に示されるように、車室外域3と車室内空間4とを仕切るファイヤーボード5よりも車室内空間4側に配されているもので、内部に空気流路6が形成されたケース7に、後述するヒートポンプシステム25の一部を構成するエバポレータ等の室内冷却用熱交換器8、同じくヒートポンプシステム25の一部を構成する室内暖房用熱交換器9が車両の前後方向に並んだかたちでそれぞれ立設して収納され、室内冷却用熱交換器8に対し車両上下方向の上方に送風機10が配されている。
【0022】
この送風機10に対して車両左右方向に沿って運転席側又は助手席側となる位置には、特に図2に示されるように、インテーク装置11がオフセットして設けられていると共に、このインテーク装置11は、特に図3に示されるように、送風機10の回転により内気又は外気がインテーク装置11のインテークドア12の位置(開度)に応じて外気導入口13又は内気導入口14から導入されるようになっている。
【0023】
ケース7内には、特に図1に示されるように、室内冷却用熱交換器8を通過して冷却・除湿された空気について室内暖房用熱交換器9をバイパスして空気流路6の下流側へ導く冷風流路15と、室内暖房用熱交換器9を通過した空気を空気流路6の下流側へ導く温風流路16とが当該空気流路6の一部として形成されている。そして、これらの冷風流路15を通過する空気と温風流路16とを通過する空気の割合は、図1及び図3に示される、室内暖房用熱交換器9に対し車両上下方向の上方で且つ車両前後方向にあっては室内冷却用熱交換器8と室内暖房用熱交換器9との間に設けられたエアミックスドア17によって調節された後、冷風流路15から流れてきた空気と温風流路16とから流れてきた空気とが空気流路6のエアミックスドア17よりも下流側で適宜混合されて温調されるようになっている。
【0024】
空気流路6の最下流側には、図示しないフロントガラスに向けて空気を吹き出すデフロスト開口部18、車室内空間4の上方へ空気を吹き出すベント開口部19、車室内空間4の下方へ空気を吹き出すフット開口部20が図1及び図3に示されるように形成されており、それぞれの開口部18、19、20の開度は、対応する開口部18、19、20の手前側に設けられたモードドア21、22、23によって調節される。
【0025】
次に、この空調装置1で用いられているヒートポンプシステム25の一例について図1に基づいて説明する。
【0026】
この図1に示されるヒートポンプシステム25は、前記した室内冷却用熱交換器8と室内暖房用熱交換器9とによって車室内空間4の冷房と暖房とを行うもので、これらのHVACユニット2の空気流路6内に配置された熱交換器8、9の他に、室外熱交換器26、コンプレッサ27、第1の膨張装置28、第2の膨張装置29、アキュムレータ30、及び熱交換媒体の流れる方向を切り換える方向切換弁32、熱交換媒体の流れを開閉制御する開閉弁31、熱交換媒体が逆方向に流れるのを防止する逆止弁33、34を有して構成されている。そして、これらの室内冷却用熱交換器8、室内暖房用熱交換器9、室外熱交換器26、コンプレッサ27、第1の膨張装置28、第2の膨張装置29、アキュムレータ30、方向切換弁32、開閉弁31及び逆止弁33、34は、配管35により適宜接続されて、R134a冷媒等の熱交換媒体が、後述する暖房運転時、冷房運転時又は除湿運転時において適宜な経路で巡るようになっている。そして、図1中の配管においてU1、U2、U3として指標される点は、配管35同士が相互に連通しつつ交差する部位を示している。
【0027】
室外熱交換器26は、図1に示されるように、車室外域3に配置されて、車室外域の空気(大気)と熱交換媒体との熱交換を行うもので、モータとこのモータに回転軸で回動自在に連結されたインペラとから成る室外送風機36を有していると共に車両の走行時に車両前方から送られて来る風の当たる位置に設置されている。
また、コンプレッサ27も、図1に示されるように、車室外域3に配置されているもので、図示しない電気モータにより駆動して熱交換媒体を吸引し、圧縮して、吐出するようになっている。但し、コンプレッサ27は、ハイブリッド型の自動車では、車両エンジンを動力源とするものであっても良い。
第1の膨張装置28は、この実施例では、図2及び図3に示されるように、ブロック型膨張弁が用いられていると共に、図1から図3に示されるように、ファイヤーボード5に取付けられることにより車室外域3と車室内空間4との境界上に配置されている。第1の膨張装置28の配置についてより詳述すると、図2及び図3に示されるように、ファイヤーボード5に対し、車室外域3と車室内空間4との双方に連通した開口部37を設け、この開口部37に第1の膨張装置28を嵌め込むと共に配管35、35の集束保持用のグロメット39を底部側に有するカップ状のカバー38でこの第1の膨張装置28の車室内空間4側の周囲を気密性良く覆っている。もっとも、第1の膨張装置28は、室外熱交換器26から室内冷却用熱交換器8に送られる熱交換媒体の減圧膨張機能を備えていれば良いもので、上記したブロック型膨張弁に限定されず、例えばキャピラリーチューブ等であっても良い。そして、この第1の膨張装置28は、熱交換媒体の経路の一方側では配管35を介して室内冷却用熱交換器8と接続され、他方側では室外熱交換器26及び方向切換弁32と配管35を介して接続されており、この実施例では配管35のU2点とU3点との間に、第1の膨張装置28から方向切換弁32への熱交換媒体の流れ又は方向切換弁32から第1の膨張装置28への熱交換媒体の流れを開閉制御する開閉弁31が配置されている。
第2の膨張装置29は、室内暖房用熱交換器9から室外熱交換器26に送られる熱交換媒体を減圧膨張させるためのもので、これに伴い、室内暖房用熱交換器9及び室外熱交換器26とそれぞれ配管35を介して接続されており、この実施例では、この第2の膨張装置29と配管35のU1点との間に室外熱交換器26から第2の膨張装置29への熱交換媒体の流れを防止する逆止弁33が配置されている。そして、この第2の膨張装置29としては、例えばキャピラリーチューブ等が用いられる。
アキュムレータ30は、このヒートポンプシステム25内の余剰熱交換媒体を貯めると共にコンプレッサ27に気相熱交換媒体のみを送り、液状熱交換媒体がコンプレッサ27に吸込まれるのを防止するためのものである。これに伴い、アキュムレータ30は、熱交換媒体の経路の一方側では配管35を介してコンプレッサ27と接続されていると共に、他方側では配管35のU2点、U3点を経ることで室内冷却用熱交換器8及び室外熱交換器26と接続されている。
方向切換弁32は、冷房運転時、暖房運転時及び除湿運転時の運転モードに応じて熱交換媒体の流れを切り換えるためのもので、コンプレッサ27、室外熱交換器26、第1の膨張装置28、室内暖房用熱交換器9と配管35を介して接続されており、室外熱交換器26との間に室外熱交換器26から方向切換弁32への熱交換媒体の流れを防止する逆止弁34が配置されている。方向切換弁32は、この実施例では、四方弁が用いられているが三方弁を用いても良い。
【0028】
このようなヒートポンプシステム25の構成とすることにより、冷房運転時には、開閉弁31が閉じられて方向切換弁32は点線の回路になっており、コンプレッサ27から吐出された熱交換媒体は、方向切換弁32、室外熱交換器26、第1の膨張装置28、室内冷却用熱交換器8、アキュムレータ30、コンプレッサ27の順に流れる。また、暖房運転時には、開閉弁31が開かれて方向切換弁32は実線の回路になっており、コンプレッサ27から吐出された熱交換媒体は、方向切換弁32、室内暖房用熱交換器9、第2の膨張装置29、室外熱交換器26、アキュムレータ30、コンプレッサ27の順に流れる。そして、除湿運転時には、開閉弁31が閉じられて方向切換弁32は実線の回路になっており、コンプレッサ27から吐出された熱交換媒体は、方向切換弁32、室内暖房用熱交換器9、第2の膨張装置29、室外熱交換器26、第1の膨張装置28、室内冷却用熱交換器8、アキュムレータ30、コンプレッサ27の順に流れる。
【0029】
ところで、図2及び図3に示されるように、室内冷却用熱交換器8からケース7外に引き出された配管35、35は、車室内空間4を進み、グロメット39で集束、保持された後、カバー38内に入って、更に第1の膨張装置28のブロックの通孔の車室内空間4側と接続されるようになっている。そして、第1の膨張装置28のブロックの通孔の車室外域3側でも配管35、35が接続されている。
【0030】
そして、室内冷却用熱交換器8が引き出された側とは車両左右方向の反対側において、図4に示されるように、室内暖房用熱交換器9からケース7外で且つ車室内空間4内に引き出されたケース外配管35aは、図2及び図3に示されるように、ファイヤーボード5の開口部41に向かって延びていると共に、特に図2(b)に示されるように、ケース7外に出た段階からファイヤーボード5の開口部41に入るまでの範囲が、ケース7に設けられた被嵌合部42及びカバー43を組み合わせることにより気密性良く画成された閉鎖空間44内に収納されている。
【0031】
このうち、被嵌合部42は、ケース7に一体成形されたもので、室内暖房用熱交換器9がケース7に臨む開口部45の周囲を囲むように略四角の枠状に延びる枠状部位42aと、ケース外配管35aの軸方向に沿って且つ当該ケース外配管35aに対し車両上下方向の双方でケース外配管35aを挟むかたちで条状に延びる条状部位42b、42cと、この条状部位42b、42cと連接すると共に、且つケース7の上記部位以外42a、42b、42c以外の面と連なるかたちで断面が略コ字状で且つ車両進行方向の前方側が開口するかたちで延びるコ字状部位42dとで構成されている。
【0032】
そして、被嵌合部42は、コ字状部位42dの車両前後方向の前方側に、ファイヤーボード5の車室内空間4側面と当接するフランジ47が形成されている。そして、この実施例では、カバー43と螺合するために、螺子孔48が形成された突出部49が、フランジ47とコ字状部位42dとの境界外側角部位、枠状部位42aの車両前後方向の後側の外側面の上側と下側とに設けられている。更に、被嵌合部42は、図2(b)にも示されるように、フランジ47近傍にて後述するグロメット55を保持するための保持部50が内面に突出形成されている。
【0033】
カバー43は、この実施例では、被嵌合部42の枠状部位42a、条状部位42b、42c及びコ字状部位42dの車両左右側に位置する頂部と隙間なく係合可能な係合手段を有する枠状部位43aと、この枠状部位42aの被嵌合部42側とは反対側を覆う板状部位43bとを有して構成されている。そして、カバー43の車両前後方向の前方側には、ファイヤーボード5の車室内空間4側面と当接すると共に被嵌合部42のフランジ47と隙間なく接合するフランジ52が形成されていると共に、前記突出部49と対応する位置、すなわち、フランジ52と枠状部位43aとの境界外側角部位及び枠状部位42aの車両前後方向の後側の外側面の上側と下側とに、螺子孔48が形成されたプレート部53が形成されている。更に、カバー43は、図2(b)に示されるように、フランジ52近傍にて後述するグロメット55を保持するための保持部54が内面に突出形成されている。
【0034】
そして、グロメット55は、図2(b)及び図3(b)に示されるように、被嵌合部42の保持部50とカバー43の保持部54とで隙間なく挟持されて保持されるもので、ケース外配管35aを挿通させるための通孔56が形成されている。この通孔56と配管35の外面との間も隙間が生じないように接している。
【0035】
これにより、ケース7の被嵌合部42の枠状部位42a、条状部位42b、42c及びコ字状部位42dの頂部にカバー43の枠状部位43aを、グロメット55が保持部50、54で挟持しつつプレート部53の螺子孔48と突出部49の螺子孔48とが一致し且つフランジ47、52同士が接合するように組み付けた後、図4に示されるように、螺子57をプレート部53の螺子孔48と突出部49の螺子孔48にねじ込むことによって、ケース外配管35aの周囲には上記した閉鎖空間44が画成される。
【0036】
更に、グロメット55は、図3(b)、図5及び図6に示されるように、閉鎖空間44と車室外域3とを連通させることができる通路部60を有している。
【0037】
このうち、図3(b)及び図5に示される通路部60は、グロメット55にケース外配管35a用の通孔56とは別に形成された開口61と、この開口61の開閉手段である弁構造64とを有して構成されている。
【0038】
弁構造64は、図5に示されるように、グロメット55に直接的に形成された開口61の一方を車室外域3から閉塞する弁体62と、この弁体62とグロメット55とを連接する連接部63とを有し、弁体62と連接部63とは一体に形成されていると共に連接部63はグロメット55に一体に形成されている。そして、この実施例では、開口61は少なくとも車室外域3側の開口端から車室内空間4側にかけて略円筒状に延びていると共に、弁体62は、開口61の内径寸法と略同じ外径寸法を有する円柱状に形成されている。更に、開口61の軸方向のうち相対的に見て車室外域3側に、当該開口61の径方向に延びる楔状の窪みが環状に形成されていると共に、弁体62はこの開口61の楔状の窪みと嵌合可能な突起部がフランジ状に形成されている。また、連接部63は、少なくともグロメット55と連接する基部部分が可撓性を有している。
【0039】
このような通路部60の構成により、図5(a)に示されるように、車室外域3の空気圧の値Aと閉鎖空間44の空気圧の値Bとが共に大気圧の値と同じである場合には、開口61は弁構造64の弁体62で車室外域3の開口端が閉塞された状態にあり、車室外域3と閉鎖空間44とは非連通の状態が保持されている。そして、ケース外配管35a又は後述するケース外配管35a同士を接続するコネクタ22(図2(b)に示す。)から高温高圧の熱交換媒体が閉鎖空間44内に漏洩した場合には、図5(b)に示されるように、閉鎖空間44の空気圧の値Bが大気圧の値よりも例えば短時間で大きくなり、このことは、閉鎖空間44の空気圧の値Bが大気圧の値と同じである車室外域3の空気圧の値Aよりも短時間で大きくなることを意味する。よって、弁構造64の弁体62に対し車室内空間4から相対的に高い圧力が加わるため、弁体62が開口61の開口端から抜けて開口61を開放するので、閉鎖空間44内に漏洩した高温高圧の熱交換媒体は、図5(b)の矢印に示されるように、開口61から車室外域3へと排出される。一方で、弁体62は連接部63を介してグロメット55と連接しているので、開口61から抜けても行方不明にはならない。
【0040】
但し、通路部60が有する弁構造64の構造は、上記のようにグロメット55に直接に設けた開口61を、グロメット55に連接部63を介して連接した弁体62で開閉するものに限定されず、グロメット55とは別体のものであっても良い。弁構造64の他の例について、以下、図6を用いて説明する。
【0041】
図6に示される弁構造64は、グロメット55に形成された開口61に気密性良く装着されると共に貫通孔状の開口65が形成された筒状部66と、この筒状部66の車室外域3側に突出した部位に回転軸67を介して回転自在に装着された開閉ドア68とを有して構成されている。開閉ドア68は、開口65を気密性良く閉塞することができるように、通常時では、バネ力等で図6の白抜き矢印の方向に付勢されている一方で、閉鎖空間44内に高温高圧の熱交換媒体が漏洩した場合には圧力値が短時間に上昇した閉鎖空間44内の空気の押圧により、この白抜き矢印の付勢力に抗して、図6の想像線に示されるように回転するようになっている。
【0042】
このような弁構造64を有する場合でも、図5(a)に示される車室外域3の空気圧の値Aと閉鎖空間44の空気圧の値Bとが共に大気圧の値と同じである場合には、開口65は弁構造64の開閉ドア68で車室外域3の開口端が閉塞された状態にあり、車室外域3と閉鎖空間44とは非連通の状態が保持されている。そして、ケース外配管35a又は後述するケース外配管35a同士を接続するコネクタ22から高温高圧の熱交換媒体が閉鎖空間44内に漏洩した場合には、図5(b)に示されるように閉鎖空間44の空気圧の値Bが車室外域3の空気圧の値Aよりも短時間で大きくなり、弁構造64の開閉ドア68に対し付勢力よりも高い圧力が閉鎖空間44から加わるため、開閉ドア68が開口65から離れる方向に回転して開口65を開放するので、閉鎖空間44内に漏洩した高温高圧の熱交換媒体は、図5(b)の矢印に示される作用と同様に、開口61から車室外域3へと排出される。
【0043】
以上によれば、室内暖房用熱交換器9からケース7外に引き出されたケース外配管35a及びこのケース外配管35a同士を接続するコネクタ22から様々な要因で高温高圧の熱交換媒体が漏洩しても、その漏洩先は気密性良く閉塞された閉鎖空間44内であり、しかも、この閉鎖空間44内に漏洩した高温高圧の熱交換媒体は閉鎖空間44内に留まらず、この熱交換媒体の漏洩による閉鎖空間44内の空気圧の上昇を利用して、弁体62を開口61から抜けさせ又は開閉ドア68を開口65から離れる方向に回転させることにより、速やかに開口61、65から車室外域3に排出させることができる。
【0044】
そして、ケース外配管35aとケース外配管35aとを接続するコネクタ22の位置は、図2(b)に示されるように、閉鎖空間44内でグロメット55に近接した位置(II)の他、同じく図2(b)に示されるように、閉鎖空間44内で相対的に室内暖房用熱交換器9に近接した位置(I)、及び車室外域3内(III)であっても、コネクタ22から漏洩した高温高圧の熱交換媒体が車室内空間4の特に乗務員が着座する空間内に漏洩することを防止することができるので、ケース外配管35aとケース外配管35aとを接続するコネクタ22のレイアウトひいてはケース外配管35aの長さを自由に決めることができる。
【0045】
更には、室内冷却用熱交換器8からケース7外に引き出される配管35とは車両の左右方向において反対側からケース外配管35aを引き出し、このケース外配管35aをケース7と43とで囲む構成とすることにより、カバー43が室内冷却用熱交換器8からケース7外に引き出される配管35に対し妨げとなることも回避される。
【符号の説明】
【0046】
1 空調装置
2 HVACユニット
3 車室外域
4 車室内空間
5 ファイヤーボード(仕切り部)
6 空気流路
7 ケース
8 室内冷却用熱交換器
9 室内暖房用熱交換器
22 コネクタ
25 ヒートポンプシステム
26 室外熱交換器
27 コンプレッサ
28 第1の膨張装置
29 第2の膨張装置
30 アキュムレータ
31 開閉弁
32 方向切換弁(熱交換媒体流路切換手段)
33 逆止弁
34 逆止弁
35 配管
35a ケース外配管
41 開口部
42 被嵌合部
43 カバー
44 閉鎖空間
45 開口部
47 フランジ
48 螺子孔
49 突出部
50 保持部
52 フランジ
53 プレート部
54 保持部
55 グロメット
56 通孔
57 螺子
60 通路部
61 開口
62 弁本体
63 連接部
64 弁構造
65 開口
66 筒状部
67 回転軸
68 開閉ドア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサと、車室外域に配置される室外熱交換器と、車室内空間に配置される室内暖房用熱交換器と、膨張装置と、車室内空間に配置される室内冷却用熱交換器とを配管及びコネクタにより適宜連結すると共に、前記コンプレッサから吐出された相対的に高温高圧の熱交換媒体を、冷房運転時には前記室外熱交換器に送り、暖房運転時には前記室内暖房用熱交換器に送るための熱交換媒体流路切換手段を有するヒートポンプシステムを備えた車両用空調装置において、
前記配管のうち前記室内暖房用熱交換器に対する熱交換媒体の流入・流出を行うと共に前記室内暖房用熱交換器を収納するケース外で且つ車室内空間内に位置するケース外配管、又は前記ケース外配管と前記ケース外配管同士を接続するコネクタとをカバーで覆って、前記ケース外配管の周囲、又は前記ケース外配管と前記コネクタとの周囲に、気密性の高い閉鎖空間を画成すると共に、
車室内空間と車室外域とを仕切る仕切り部に、前記ケース外配管の周囲、又は前記ケース外配管と前記コネクタとの周囲の前記カバーで覆われた閉鎖空間と、前記車室外域とを、連通してこの閉鎖空間内に漏洩した熱交換媒体を前記車室外域に排出するための通路部を設けたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記通路部は、前記閉鎖空間と前記車室外域とを連通する開口と、前記閉鎖空間から前記車室外域に向けて熱交換媒体が排出するように前記開口を開閉する開閉手段とを有していることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記開閉手段は、前記閉鎖空間と前記車室外域との気圧差が無いか相対的に小さな時には前記通路部の開口を閉鎖し、前記車室外域よりも前記閉鎖空間の気圧が相対的に高くなった場合に、前記閉鎖空間から前記車室外方向に前記開口を開放する弁体を備えた弁構造であることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記通路部の開口は、前記仕切り部に形成されて前記車室内空間と前記車室外域とを連通する開口部に前記配管を挿通して保持するためのグロメットに形成されていると共に、
前記通路部の弁構造は、前記弁体が前記グロメットと連結されて一体に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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