説明

車両用窓ガラス

【課題】本発明は、車両用窓ガラスに係り、複数の発熱線条へ必要十分な給電を行うのに、発熱線条の線幅を従前より大きくすることなく給電用電極を正極及び負極一つずつに限定することにある。
【解決手段】ガラス板12の面上に形成され、発熱領域24a,24bを加熱する発熱線条28a,28bと該発熱線条28a,28bに接続する給電用電極30とを有する導電体からなる導電体パターン26を備え、給電用電極30を介して発熱線条28a,28bへ給電が行われる車両用窓ガラス12において、発熱領域24a,24bは、ガラス板12の面上の互いに異なる複数の領域に設けられ、給電用電極30は、発熱線条28a,28bに接続される正極及び負極を一つずつ有し、発熱線条28a,28bは、発熱領域24a,24bそれぞれに対応して複数形成され、正極と負極との間で互いに並列化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用窓ガラスに係り、特に、車両用窓ガラスに付着した霜や雪,氷などを融かすべく、ガラス板の面上の発熱領域に形成された発熱線条へ給電用電極から給電を行う給電構造を備える車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板に付着した霜や雪,氷などを融かすための給電装置を備えた車両用窓ガラスが知られている(例えば、特許文献1参照)。この給電装置は、車両用窓ガラスとしてのガラス板の面上に形成された導電体からなる導電体パターンを備え、その導電体パターンとして、ガラス板の面上の発熱領域に形成された発熱線条と、その発熱線条に接続する給電用電極と、を有している。発熱領域は、ガラス板の面上の互いに異なる複数の領域それぞれに対応して設けられており、ワイパーが通常待機する待機位置に対応してガラス板の下辺に沿って延びるように設けられた第1発熱領域と、ワイパーが稼動時に反転する稼動反転位置に対応したガラス板の側辺に沿って延びるように設けられた第2発熱領域と、からなる。発熱線条は、第1発熱領域に対応して設けられた第1発熱線条と、第2発熱領域に対応して設けられた第2発熱線条と、を有している。給電用電極は、直流電圧(例えば12ボルト)が印加される正極と、車両の車体に接続される負極と、を有している。
【0003】
上記の給電装置において、給電用電極の正極は、第1発熱線条及び第2発熱線条に対応して2つ設けられており、また、給電用電極の負極は、唯一つ設けられている。2つの正極及び1つの負極は、ガラス板の下端近傍において互いに並んで配置されており、2つの正極は、負極を挟んで配置されている。また、ガラス板は、車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を挟んで圧着された合わせガラスであって、上記した給電用電極は、車外側ガラス板の内面上に配置されている。車内側ガラス板には、車外側ガラス板の面上の給電用電極が露出するように切欠部が形成されている。各正極及び負極はそれぞれ、車内側ガラスの切欠部において外部配線に接続されており、その外部配線を介して直流電源又は車体に接続される。更に、一方の正極と負極とは第1発熱線条を介して接続され、更に、他方の正極と負極とは第2発熱線条を介して接続される。
【0004】
上記の給電装置によれば、第1発熱線条は、一方の正極に直流電圧が印加されることによりその一方の正極と負極との間に流れる電流により発熱し、また、第2発熱線条は、他方の正極に直流電圧が印加されることによりその他方の正極と負極との間に流れる電流により発熱する。従って、上記の給電装置によれば、第1発熱線条及び第2発熱線条の発熱により車両用窓ガラスに付着した霜や雪,氷などを融かすことができる。尚、給電用電極の正極が第1発熱線条及び第2発熱線条に対応して2つ設けられかつ負極が唯一つ設けられる給電構造に代えて、正極が唯一つ設けられかつ負極が第1発熱線条及び第2発熱線条に対応して2つ設けられる給電構造を用いることとしても、同様の効果を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−1027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した給電構造では、2つの発熱領域に対して2つの正極(又は2つの負極)を設けることすなわち発熱領域ごとに正極(又は負極)を設けることが必要であるため、製造コストが増大し、組み付け工数が増大する事態が生じる。一方、2つの正極(又は2つの負極)は、同じ直流電圧が印加される(又は同じ車体に接続される)電極であるので、2つの発熱領域の線条へ給電する正極(又は負極)を一つの共通化したものとすることができれば、電極に接続される端子や配線などの部品点数などの製造コストや組み付け工数を削減することが可能である。
【0007】
ここで、ガラス板の面上の発熱領域ごとに対応して設けられた2つの発熱線条に対して正極(又は負極)を一つとする給電構造としては、正極と負極とを接続する導電体パターンを、正極と負極との間で2つ以上の発熱領域を通過して直列に接続した直列パターンとする構成が考えられる。しかし、かかる直列パターンの構成では、正極から2つ以上の発熱領域を介して負極へ至るまでの導電体パターンの線長が、それぞれの発熱領域に対応して発熱線条が設けられる並列パターンの構成における正極と負極との間の導電体パターンの線長に比べて長くなる。よって、発熱領域全体での発熱量を同じだけ確保するうえでは、発熱線条の線幅を線長比の二乗分だけ大きくすることが必要である。この点、上記の直列パターンの構成では、ガラス板の面上に形成する導電体パターンを、ガラス板の周縁に設けられるセラミックマスキングの範囲内に収めることが困難となる可能性があり、車両運転者の視界域が侵されるおそれがある。
【0008】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、運転者の視界を遮らず複数の発熱領域に対して必要十分な給電を行うのに、発熱線条の線幅、膜厚、材料などの製造条件を給電用電極が従来の3極式であるものと比較して大きく変更することなく給電用電極を正極及び負極一つずつに限定することが可能な車両用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、ガラス板の面上に形成され、発熱領域を加熱する発熱線条と該発熱線条に接続する給電用電極とを有する導電体からなる導電体パターンを備え、前記給電用電極を介して前記発熱線条へ給電が行われる車両用窓ガラスであって、前記発熱領域は、前記ガラス板の面上の互いに異なる複数の領域に設けられ、前記給電用電極は、前記発熱線条に接続される正極及び負極を一つずつ有し、前記発熱線条は、前記発熱領域それぞれに対応して複数形成され、前記正極と前記負極との間で互いに並列化されている車両用窓ガラスにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運転者の視界を遮らず複数の発熱線条へ必要十分な給電を行うのに、発熱線条の線幅を従前より大きくすることなく給電用電極を正極及び負極一つずつに限定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例である給電構造を備える車両用窓ガラスの車外側から見た正面図である。
【図2】本実施例の車両用窓ガラスの要部断面図である。
【図3】本実施例の車両用窓ガラスが取り付けられる車両の車体ピラー付近の断面図である。
【図4】本実施例の車両用窓ガラスが取り付けられる車両のガラス下辺付近の断面図である。
【図5】本実施例の車両用窓ガラスの給電構造の要部正面図である。
【図6】本実施例の車両用窓ガラスの給電構造における回路構成図である。
【図7】従来例である車両用窓ガラスの給電構造の要部正面図である。
【図8】他の従来例である車両用窓ガラスの給電構造における回路構成図である。
【図9】本実施例の給電構造における、導電体パターンの給電用電極と発熱線条の折返部との間の線長、及び、ガラス板の外周縁の長さを、それぞれ模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明に係る車両用窓ガラスの具体的な実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例である給電構造10を備える車両用窓ガラス12の車外側から見た正面図を示す。図2は、本実施例の給電構造10を備える車両用窓ガラス12の要部断面図を示す。図3は、本実施例の給電構造10を備える車両用窓ガラス12が取り付けられる車両の車体ピラー付近の断面図を示す。図4は、本実施例の給電構造10を備える車両用窓ガラス12が取り付けられる車両のガラス下辺付近の断面図を示す。図5は、本実施例の車両用窓ガラス12の給電構造10の要部正面図を示す。また、図6は、本実施例の車両用窓ガラス12の給電構造10における回路構成図を示す。
【0014】
本実施例の車両用窓ガラス12は、車両に取り付けられ、車両の前面に取り付けられるウィンドシールドに適用されるガラス板であって、2枚のガラス板14,16が圧着された合わせガラスである。合わせガラスとしての車外側ガラス板14と車内側ガラス板16とは、ポリビニルブチラールなどの樹脂製の中間膜18を挟んで圧着されている。以下、車両用窓ガラス12をガラス板12とする。
【0015】
ガラス板12の周縁部には、黒色などの暗色不透明の遮蔽層(暗色セラミック層)20が全周にわたって帯状に形成されている。遮蔽層20は、車外側ガラス板14の内面側に設けられている。尚、ここでは、車外側ガラス板14の内面側に設けられる遮蔽層20は、中間膜18と車外側ガラス板14との間に挟まれるように配設される例を示したが、中間膜18と車内側ガラス板16との間に挟まれるように配設されてもよく、また、双方に設けられてもよい。遮蔽層20は、ガラス板12を車体に接着保持するウレタンシーラントなどを紫外線による劣化から保護する機能を有している。遮蔽層20は、セラミックペーストをガラス板12の面上に塗布した後に焼成することにより形成される。ガラス下辺側にある遮蔽層20の幅は、50〜100mm程度であり、ガラス側辺側にある遮蔽層20の幅は、20〜40mm程度である。
【0016】
ガラス板12が取り付けられる車両は、そのガラス板12の外面上を払拭することが可能なワイパー(図示せず)を備えている。ワイパーは、ガラス板12の下辺に略平行に位置する状態(待機位置)と、ガラス板12の側辺(或いはサイドピラー22)に略平行に位置する状態(稼動反転位置)と、の間で稼動することが可能である。ワイパーは、ガラス板12の外面上に付着した水滴や氷,雪,霜などを払拭することが可能であり、稼働中に払拭した水滴や氷,雪,霜などをガラス板12の下端側及び運転席側のサイドピラー22側へ押し出す機能を有している。
【0017】
ガラス板12の面上には、加熱が行われる発熱領域24が設けられている。発熱領域24は、ガラス板12の面上の互いに異なる複数の領域に設けられている。具体的には、発熱領域24は、ガラス板12の面上におけるワイパーの待機位置に対応する領域すなわちガラス板12の下辺に沿った領域に設けられる第1発熱領域24aと、ガラス板12の面上におけるワイパーの稼動反転位置に対応する領域すなわちガラス板12の側辺に沿った領域に設けられる第2発熱領域24bと、からなる。
【0018】
ガラス板12の面上には、デアイサーを構成する導電体からなる導電体パターン26が形成されている。導電体パターン26は、例えば導電性銀ペースト(抵抗率が0.5〜9.0×10−8Ω・mである材料)をガラス板12の面上に印刷・塗布した後に焼成することにより形成される。導電体パターン26は、発熱領域24を加熱する発熱線条28と、発熱線条28に接続する給電用電極30と、を有している。
【0019】
給電用電極30は、正極32と負極34とを一つずつ有している。給電用電極30の正極32及び負極34は、ガラス板12の面上に形成されており、具体的には、そのガラス板12の下端近傍に配置されている。正極32及び負極34は、互いに僅かな距離だけ離間して配置されている。給電用電極30は、外部配線からの電流を発熱線条28に供給する機能を有している。
【0020】
発熱線条28は、発熱領域24ごとに対応して設けられており、第1発熱領域24aに形成された第1発熱線条28aと、第2発熱領域24bに形成された第2発熱線条28bと、を有している。発熱線条28a,28bはそれぞれ、給電により発熱することが可能であり、その発熱によりガラス板12の面上の発熱領域24a,24bに付着した氷や雪を融かすことが可能である。
【0021】
第1発熱線条28aは、ガラス板12の下端側(ワイパーが通常待機する待機位置に対応する第1発熱領域24a)に複数本設けられており、具体的には、給電用電極30の正極32及び負極34に接続してガラス板12の下辺に沿って延び、折返部36で又はその手前で反転して負極34及び正極32に戻るパターンを有している。また、第2発熱線条28bは、ガラス板12の側端側(ワイパーが稼動反転する稼動反転位置に対応する第2発熱領域24b)に設けられており、具体的には、給電用電極30の正極32及び負極34に接続してガラス板12の側辺(すなわちサイドピラー22)に沿って延び、折返部38で反転して負極34及び正極32に戻るパターンを有している。
【0022】
導電体パターン26は、更に、発熱線条28a,28bと給電用電極30との間に介在して発熱線条28a,28bと給電用電極30の正極32及び負極34とを接続する給電線条40を有している。給電線条40は、発熱線条28とは異なり、発熱を目的とせず発熱線条28に電流を供給するバスバとしての機能を有している。導電体パターン26は、ガラス板12の周縁の所定領域内に形成される。発熱線条28a,28bの線幅は、0.1〜5mm程度であることが好ましく、0.3〜1.0mm程度であることが更に好ましい。また、給電線条40は、発熱線条28よりも幅広に形成されており、その線幅は、3〜30mm程度であることが好ましく、0.5〜15mm程度であることが更に好ましく、1〜3mm程度であってもよい。
【0023】
導電体パターン26は、車外側ガラス板14と車内側ガラス板16との間に挟まれるように配設される。導電体パターン26は、車外側から透視されないように、ガラス板12の面上で遮蔽層20に重なる範囲内に配置され、具体的には、上記した車外側ガラス板14の内面側に設けられる遮蔽層20の表層上(内面側)に形成されており、中間膜18と車外側ガラス板14とに挟持される。遮蔽層20は、発熱線条28a,28b、給電用電極30の正極32及び負極34、並びに、給電線条40を車外側から透視できないように意匠性を向上させる機能を有している。
【0024】
ガラス板12の車内側ガラス板16には、円弧状の切欠部42が設けられている。切欠部42は、車内側ガラス板16の一部(具体的には、その下辺の一部)に形成されている。車外側ガラス板14の面上の、上記した切欠部42に対応する部位には、上記した給電用電極30の正極32及び負極34が配設されている。すなわち、給電用電極30の正極32及び負極34は、車外側ガラス板14の内面上に形成されており、切欠部42において外部に露出している。
【0025】
給電用電極30の正極32及び負極34には、半田付けされたターミナル44を介してワイヤハーネス46が接続されている。正極32及び負極34とワイヤハーネス46との接続は、切欠部42において行われる。正極32及び負極34とワイヤハーネス46との接続部には、その接続部を封止するシリコン又はポリウレタンポリマーにより構成されたシーラント48が設けられている。正極32は、ワイヤハーネス46を通じて外部の直流電圧(例えば12ボルト)Vが印加される電極であり、また、負極34は、ワイヤハーネス46を通じて車体に接続される電極である。
【0026】
正極32及び負極34には、ガラス板12の面上において延びる発熱線条28a,28bが接続されている。第1発熱線条28aは、第1発熱領域24aに形成され、正極32と負極34とを接続する。第1発熱線条28aは、ガラス板12の下辺に沿って伸延し、折返部36で反転して往復するように延びている。第1発熱線条28aは、正極32と負極34との間で複数本形成されており、ガラス板12の面上において互いに略平行に延びている。また、第2発熱線条28bは、第2発熱領域24bに形成され、正極32と負極34とを接続する。第2発熱線条28bは、ガラス板12の周縁に沿ってL字状に延び、具体的には、正極32及び負極34からガラス板12の下辺に沿って延びつつ、その下辺からガラス板12の側辺に沿って伸延し、折返部38で反転して往復するように延びている。第1発熱線条28aと第2発熱線条28bとは、正極32と負極34との間で互いに並列化されている。
【0027】
正極32及び負極34は、ガラス板12の面上で互いにスライド配置されている。具体的には、図5に示す如く、車外側ガラス板14の内面上で、正極32は助手席側に配置されかつ負極34は運転席側に配置されていると共に、正極32は、車外側ガラス板14の端部(外周縁)に接するように配置されており、負極34は、車外側ガラス板14の端部との間に僅かな隙間49が空くように配置されている。正極32の外縁側の端部と車外側ガラス板14の外周縁との距離(正側離間距離)は比較的短く、負極34の外縁側の端部と車外側ガラス板14の外周縁との距離(負側離間距離)は比較的長い。これらの正側離間距離と負側離間距離とは互いに異なり、正側離間距離が負側離間距離よりも短い。車外側ガラス板14の内面上における車外側ガラス板14の端部と負極34との隙間49には、第2発熱線条28bに給電する給電線条40の、正極32に接続する部位が形成されている。
【0028】
尚、第1発熱線条28aを正極32と負極34との間で複数本互いに平行に形成するのは、一般に、ガラス板12の下辺側には運転者の視界域でないデッドスペースが多くて幅広の遮蔽層20を形成することが可能であるからである。一方、第2発熱線条28bについては、第1発熱線条28aと異なり、正極32と負極34との間で複数本互いに平行に形成してもよく、1本だけ形成してもよい。これは、一般に、ガラス板12の側辺側には運転者の視界域でないデッドスペースが少なく幅広の遮蔽層20を形成することが困難であるからである。
【0029】
また、ガラス板12の下辺側にある第1発熱線条28aは、図1に示す如く、運転席側の発熱量を多くかつ助手席側の発熱量を少なくするため、その第1発熱線条28aの本数を運転席側と助手席側とで変えるように、具体的には、運転席側の第1発熱線条28aの本数を多くかつ助手席側の第1発熱線条28aの本数を少なくするように形成されることとしてもよい。
【0030】
上記した車両用窓ガラス12の給電構造10において、直流電圧Vが正極32に印加されると、正極32から第1発熱線条28aを通じて負極34へ電流が流れると共に、正極32から第2発熱線条28bを通じて負極34へ電流が流れる。第1発熱線条28aへ給電が行われると、その第1発熱線条28aが発熱することで第1発熱領域24aが加熱される。また、第2発熱線条28bへ給電が行われると、その第2発熱線条28bが発熱することで第2発熱領域24bが加熱される。
【0031】
発熱線条28a,28bは、給電により30〜80℃程度まで加熱される。かかる加熱が行われると、その第1発熱線条28aの発熱によりガラス板12の下端側に付着した氷や雪などが融解すると共に、その第2発熱線条28bの発熱によりガラス板12の側端側に付着した氷や雪などが融解する。従って、本実施例の給電構造10によれば、発熱線条28a,28bの発熱により車両用窓ガラス12の面上に付着した氷や雪を融かすことが可能である。
【0032】
次に、本実施例の車両用窓ガラス12の給電構造10の効果について説明する。図7は、本実施例の給電構造10と対比される従来例である車両用窓ガラス52の給電構造50の要部正面図を示す。また、図8は、本実施例の給電構造10と対比される従来例である車両用窓ガラスの給電構造70における回路構成図を示す。尚、図7及び図8において、上記図5に示す構成部分と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0033】
ガラス板52の下端側に設けられた第1発熱線条54a及びガラス板52の側端側に設けられた第2発熱線条54bをそれぞれ発熱させるためには、図7に示す如く、給電構造50の給電用電極56として、両発熱線条54a,54bに対して2つの正極58,60を設けることすなわち発熱線条54a,54bごとに正極58,60を設けることが考えられる。給電用電極56は、2つの正極58,60と、一つの負極62と、を有する。正極58,60及び負極62は、車外側ガラス板64の端部に接するように互いに並んで配置されている。第1発熱線条54aは、第1発熱領域24aに形成されて正極58と負極60とを接続し、また、第2発熱線条54bは、第2発熱領域24bに形成されて正極60と負極62とを接続する。しかし、かかる従来例の給電構造50においては、互いに領域が異なる2箇所の発熱領域24a,24bを加熱するのに必要な給電用電極56として、全体として3つの電極58,60,62を設けることが必要であるため、製造コストが増大し、組み付け工数が増大する事態が生じる。
【0034】
これに対して、本実施例の給電構造10においては、互いに領域が異なる2箇所の発熱領域24a,24bを加熱するための給電用電極30として、正極32及び負極34がそれぞれ一つずつ設けられている。第1発熱線条28aは、第1発熱領域24aに形成されて正極32と負極34とを接続し、また、第2発熱線条28bは、第2発熱領域24bに形成されて正極32と負極34とを接続する。すなわち、発熱線条28a,28bは、発熱領域24a,24bごとに対応して設けられ、両発熱線条28a,28bは、正極32と負極34との間で互いに並列化されている。尚、正極32及び負極34は、上記の如く、ガラス板12の面上においてスライド配置されているので、発熱線条28a,28bを、ガラス板12の面上において交差させることなく、互いに異なる2箇所の領域(発熱領域28a,28b)へ形成することが可能である。
【0035】
このため、本実施例の給電構造10においては、2つの発熱領域24a,24bに設けられた発熱線条28a,28bに給電する給電用電極30として、全体として2つの電極32,34を設けることとすれば十分であって、それらの発熱線条28a,28bへ給電する正極32を一つの共通化したものとすることができるので、製造コストの削減を図ることができると共に、組み付け工数の削減を図ることができる。
【0036】
また、2つの発熱領域24a,24bに設けられた発熱線条72a,72bに対して正極74及び負極76をそれぞれ一つずつとする給電構造としては、図8に示す如く、正極74と負極76とを発熱線条72a,72bを介して接続する導電体パターンを、それらの発熱線条72a,72bを正極74と負極76との間で直列接続した直列パターンとする給電構造70の構成が考えられる。しかし、かかる従来例の給電構造70においては、正極74から2つの発熱線条72a,72bを介して負極76へ至るまでの導電体パターン78の線長が、本実施例の如き発熱領域24a,24bごとに正極32と負極34とを接続する発熱線条28a,28bが設けられる構成での正極32から発熱線条28a,28bを介して負極34へ至るまでの導電体パターン26の線長に比べて長くなるので、発熱領域24a,24b全体での発熱量を同じだけ確保するうえでは、発熱線条72a,72bの線幅を線長比の二乗分だけ大きくすることが必要である。このため、従来例の給電構造70では、ガラス板の面上に形成する導電体パターン78を、ガラス板の周縁に設けられる遮蔽層の範囲内に収めることが困難となる可能性があり、車両運転者の視界域が侵されるおそれがある。
【0037】
これに対して、本実施例の給電構造10においては、ガラス板12の面上の発熱領域24a,24bごとに発熱線条28a,28bが設けられ、かつ、それら2つの発熱線条28a,28bが正極32と負極34との間で互いに並列化されている。このため、導電体パターン26の、第1発熱領域24aを加熱する第1発熱線条28a側の正極32と負極34との間の線長、及び、第2発熱領域24bを加熱する第2発熱線条28b側の正極32と負極34との間の線長が共に、上記した3極式の導電体パターンの線長と同程度であるため、発熱線条28a,28bの線幅,膜厚などの製造条件を給電用電極が従来の3極式である導電体パターンのものから大きく変更することなく発熱領域24a,24bでの発熱量を確保することができる。
【0038】
図9は、本実施例の給電構造10における、導電体パターン26の給電用電極30と発熱線条28a,28bの折返部36,38との間の線長、及び、ガラス板12の外周縁の長さを、それぞれ模式的に表した図を示す。
【0039】
本実施例の給電構造10において、図9に示す如く、導電体パターン26の発熱線条28a,28bごとの給電用電極30から折返部36,38までの最も長い線長をL1−1,L1−2とし、かつ、ガラス板12面上における給電用電極30の位置に対応するガラス板12の外周縁上の位置Xa1,Xa2とガラス板12面上における折返部36,38の位置に対応するガラス板12の外周縁上の位置Xb1,Xb2との間のガラス板12の外周縁における長さをL0−1,L0−2としたとき、線長L1−1と長さL0−1との差及び線長L1−2と長さL0−2との差はそれぞれ小さくされる。この場合、線長L−1,L1−2は、長さL0−1,L0−2の1.2倍以下であること(L1−1≦1.2×L0−1及びL1−2≦1.2×L0−2)が好ましく、長さL0−1,L0−2の1.1倍以下であること(L1−1≦1.1×L0−1及びL1−2≦1.1×L0−2)が更に好ましい。また、導電体パターン26の形状によっては、線長L1−1,L1−2は、長さL0−1,L0−2よりも短くなってもよく、例えば、第2発熱線条28b側の導電体パターン26を、ガラス板12の面上の遮蔽層20(図9では図示せず)の内縁のコーナー部を介して給電用電極30と折返部38とを結んだ線分で形成することは、外観意匠の完成度を保ったままその導電体パターンの線長L1−2をガラス12の外周縁における長さL0−2に比べて短くすることができるため好ましい。尚、上記の線長L1−2は、導電体パターン26が給電用電極30と折返部38とを結ぶ線分で形成される場合に最短となる。
【0040】
従って、本実施例の給電構造10によれば、2つの発熱線条28a,28bへ必要十分な給電を行うのに、発熱線条28a,228bの線幅を従前より大きくすることなく給電用電極30の正極32及び負極34を一つずつに限定することができる。このため、ガラス板12の面上に形成する発熱線条28a,28bを遮蔽層20の範囲内に収めることが容易となることで車両運転者の視界域が侵されるのを防止することができると共に、製造コスト及び組み付け工数を削減することができる。
【0041】
ところで、上記の実施例においては、車外側ガラス板14の内面上で、正極32を助手席側に配置しかつ負極34を運転席側に配置することとしたが、正極32を運転席側に配置しかつ負極34を助手席側に配置することとしてもよい。
【0042】
また、上記の実施例においては、正極32を車外側ガラス板14の端部に接するように配置し、かつ、負極34を車外側ガラス板14の端部との間に僅かな隙間49が空くように配置することとしたが、逆に、正極32を車外側ガラス板14の端部との間に僅かな隙間49が空くように配置し、かつ、負極34を車外側ガラス板14の端部に接するように配置することとしてもよい。かかる変形例においては、車外側ガラス板14の内面上における車外側ガラス板14の端部と正極32との隙間49には、第1発熱線条28aに給電する給電線条40の、負極34に接続する部位が形成されることとなる。
【0043】
また、上記の実施例においては、ガラス板12の下端近傍に給電用電極30を配置することとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、給電用電極30をガラス板12の下端近傍以外の部位(例えば、その側端近傍)に配置することとしてもよい。
【0044】
また、上記の実施例においては、給電構造10を、第1発熱領域24aをワイパーが待機するガラス板12の下端側に設けかつ第2発熱領域24bをワイパーが稼動反転するガラス板12の運転席側の側端側に設けたL字状の発熱領域に対応したものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ワイパーの稼動領域に合わせて発熱領域24a,24bが設けられこととすればよい。
【0045】
例えば、ガラス板12の外面上を払拭するワイパーが一本のみ存在する場合は、給電用電極30をガラス板12の下端中央近傍に配置したうえで、発熱領域24a,24bを給電用電極30を挟んで両側方の領域に設けることとすればよい。また、ワイパー2本がガラス板12の外面上で左右対称に稼動する場合は、給電用電極30をガラス板12の下端中央近傍に配置したうえで、発熱領域24a,24bをガラス板12の下端側及び両側端側に設けてU字状の発熱領域を形成することとすればよい。
【0046】
また、上記の実施例においては、導電体パターン26を合わせガラスの車外側ガラス板14の内面側に形成し、車内側ガラス板16に切欠部42を形成する例を示したが、導電体パターン26を車内側ガラス板16の外面側に形成し、車外側ガラス板14に切欠部42を形成してもよく、導電体パターン26を予め中間膜18に形成しておき車外側ガラス板14又は車内側ガラス板16と挟持することとしてもよい。
【0047】
また、車両用窓ガラス12の最車内側の面に導電体パターン26を形成することとしてもよい。この場合、合わせガラスであれば、車内側ガラス板16の内面に導電体パターン26を形成することになるので、ガラス板12に切欠部42を設けることは不要になる。
【0048】
また、車外側ガラス板14に設けられる遮蔽層20よりも車外側に導電体パターン26を形成することとしてもよい。この場合は、車外側から導電パターン26を視認することが可能になるが、遮蔽層20を介さずにガラス板12の発熱領域24a,24bを加熱することが可能になり、ガラス板12に付着した氷雪などを融かすうえでの効率を高めることできる。
【0049】
また、運転席の位置と助手席の位置とが左右で異なる場合は、図に示した例と左右反転した態様とすることが可能である。
【0050】
また、上記の実施例においては、ガラス板12をウィンドシールドに適用するものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、リアガラス、サイドガラス、クォータガラス、ルーフガラスなどに適用することとしてもよい。また、ガラス板12を2枚のガラスを圧着した合わせガラスとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、1枚のガラスで構成されるガラス板やポリカーボネートなどの透明有機樹脂からなる所謂樹脂ガラス窓に適用することとしてもよい。
【0051】
更に、上記の実施例においては、導電体パターン26として導電性の銀ペーストを用いることとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の導電性部材を用いることとしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 給電構造
12 車両用窓ガラス(ガラス板)
14 車外側ガラス板
16 車内側ガラス板
18 中間膜
20 遮蔽層
22 サイドピラー
24,24a,24b 発熱領域
26 導電体パターン
28,28a,28b 発熱線条
30 給電用電極
32 正極
34 負極
36,38 折返部
40 給電線条
42 切欠部
49 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の面上に形成され、発熱領域を加熱する発熱線条と該発熱線条に接続する給電用電極とを有する導電体からなる導電体パターンを備え、前記給電用電極を介して前記発熱線条へ給電が行われる車両用窓ガラスであって、
前記発熱領域は、前記ガラス板の面上の互いに異なる複数の領域に設けられ、
前記給電用電極は、前記発熱線条に接続される正極及び負極を一つずつ有し、
前記発熱線条は、前記発熱領域それぞれに対応して複数形成され、前記正極と前記負極との間で互いに並列化されていることを特徴とする車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記導電体パターンは、更に、前記発熱線条と前記給電用電極とを接続する給電線条を有することを特徴とする請求項1記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記導電体パターンは、前記給電用電極と前記発熱線条の折返部との間の最も長い線長をLとし、かつ、前記給電用電極の位置に対応する前記ガラス板の外周縁上の位置と前記折返部の位置に対応する前記ガラス板の外周縁上の位置との間の該外周縁における長さをLとした場合、L≦1.2×Lが成立するように形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記導電体パターンは、前記ガラス板に付着した氷又は雪を融かすことが可能なデアイサーを構成し、
前記ガラス板は、ワイパーにより払拭される外面を有し、
前記発熱領域は、前記ガラス板の面上における前記ワイパーの待機位置に対応する領域及び前記ワイパーの稼動反転位置に対応する領域それぞれに設けられることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記ガラス板は、車両の前面に設けられるウィンドシールドであり、
前記ガラス板の面上における前記ワイパーの待機位置に対応する領域は、前記ガラス板の下辺に沿った領域であり、
前記ガラス板の面上における前記ワイパーの稼動反転位置に対応する領域は、前記ガラス板の側辺に沿った領域であることを特徴とする請求項4記載の車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記導電体パターンは、前記ガラス板の面上における、該ガラス板の周縁に設けられる暗色セラミック層に重なる範囲内に配置されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記ガラス板は、車内側ガラス板に切欠部が設けられた合わせガラスであり、
前記導電体パターンは、前記正極及び前記負極が前記切欠部を通じて露出するように車外側ガラス板の内面上に設けられ、
前記正極及び前記負極は、該正極の外縁側の端部と前記車外側ガラス板の外周縁との距離と該負極の外縁側の端部と前記車外側ガラス板の外周縁との距離とが互いに異なるようにスライドして、前記車外側ガラス板の内面上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の車両用窓ガラス。
【請求項8】
前記車外側ガラス板の外周縁との距離が比較的短い前記正極又は前記負極に接続するすべての前記発熱線条又は前記給電線条のうち少なくとも一つの前記発熱線条又は前記給電線条の一部は、前記車外側ガラス板の内面上で、該車外側ガラス板の外周縁と該外周縁との距離が比較的長い前記負極又は前記正極との間に形成されていることを特徴とする請求項7記載の車両用窓ガラス。
【請求項9】
前記発熱線条は、0.5〜9.0×10−8Ω・mの抵抗率を有する材料により構成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項記載の車両用窓ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140086(P2012−140086A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293927(P2010−293927)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】