説明

車両用衝撃吸収部材

【課題】生産性の向上、コストの削減を図り得る車両用衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】本発明の車両用衝撃吸収部材は、筒状のクラッシュボックス2と、カップ状部30の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジ33が外径方向に張り出すように設けられたステイ部材3と、を備える。クラッシュボックス2の基端側がカップ状部30に収容されて、クラッシュボックス2の基端面がカップ状部30の底壁32に接触した状態で、ステイ部材3がクラッシュボックス2に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車のフロントエンドに設けられる車両用衝撃吸収部材およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントエンドにおけるバンパーの内側には、衝突時の衝撃を吸収するために衝撃吸収部材としてのバンパービームが設けられている。
【0003】
バンパービームは、筒状の一対のクラッシュボックスと、一対のクラッシュボックスの前端部に設けられるバンパーリインフォースと、一対のクラッシュボックスの後端部にそれぞれ設けられ、かつクラッシュボックスを車両構造体に固定するバンパーステイとを備えている。そして、衝突時には、クラッシュボックスが圧縮変形することによって、衝突エネルギーが吸収されるようにしている。
【0004】
一方、自動車を牽引する際や、輸送時に自動車を固定する際に、牽引フックが用いられるが、この牽引フックを取り付けるためのナット(雌ねじ部材)が、上記クラッシュボックスの内部に取り付けられる自動車が周知である。
【0005】
クラッシュボックスは、通常、筒状の中空構造であるため、その内部に牽引フック取付用の雌ねじ部材を取り付けるには、クラッシュボックスの内部にブラケット等の取付部を設けて、その取付部に雌ねじ部材を取り付けるようにしている。
【0006】
例えば特許文献1に示すバンパービームは、クラッシュボックスの後端にボルト止めにより、取付部付きのバンパーステイが取り付けられ、そのバンパーステイの取付部に牽引フック取付用ナットが固定されている。さらに同文献には、クラッシュボックスの後端に、取付部付きのバンパーステイが電磁成形にり固定され、そのバンパーステイの取付部に牽引フック取付用のナットが固定されている。
【0007】
また特許文献2に示すバンパービームは、クラッシュボックスの後端にボルト止めによりプレート部材が固定され、そのプレート部材に牽引フック取付用のナットが固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−37220号
【特許文献2】特開2009−292175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のバンパービームにおいては、取付部付きのバンパーステイをクラッシュボックスに組み付ける際に、バンパーステイのクラッシュボックスに対する位置合わせ等が面倒で、組付作業が困難となり、生産性の低下およびコストの増大を招くという課題があった。
【0010】
なお言うまでもなく、クラッシュボックス等の衝撃吸収部材に、牽引フック取付用雌ねじ部材を取り付けるためのブラケット等の取付部を設置する場合には、その取付部の設置によって、衝撃吸収部材本来の機能、つまり衝撃吸収特性に悪影響を与えるような事態は確実に避ける必要がある。
【0011】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、優れた衝撃吸収特性を維持しつつ、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる上さらに、クラッシュボックス内に取付プレートを確実に設置することができる車両用衝撃吸収部材およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0013】
[1]筒状のクラッシュボックスと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を備え、
前記クラッシュボックスの基端側が前記カップ状部に収容されて、前記クラッシュボックスの基端面が前記カップ状部の底壁に接触した状態で、前記ステイ部材が前記クラッシュボックスに固定されたことを特徴とする車両用衝撃吸収部材。
【0014】
[2]前記カップ状部の底壁に、牽引フック取付用の雌ねじが設けられる前項1に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0015】
[3]前記クラッシュボックスおよび前記カップ状部の両周壁における互いに対応する位置に、拡管金型を用いた拡管加工によって、外径方向に突出する凸部がそれぞれ形成されることにより、前記カップ状部が前記クラッシュボックスに締結固定される前項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0016】
[4]前記クラッシュボックスおよび前記カップ状部の両周壁における互いに対応する位置に、縮管金型を用いた縮管加工によって、内径方向に突出する凸部がそれぞれ形成されることにより、前記カップ状部が前記クラッシュボックスに締結固定される前項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0017】
[5]前記カップ状部の開口縁部に内径方向に張り出す態様に抜け止め突起が設けられ、
前記クラッシュボックスの周壁における前記カップ状部に対応する位置に、拡管金型を用いた拡管加工によって外径方向に突出する凸部が形成され、その凸部に前記抜け止め突起が係止することにより、前記カップ状部が前記クラッシュボックスに対し抜け止め状態に固定される前項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0018】
[6]前記カップ状部が前記クラッシュボックスに接着材によって固定される前項1〜5のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0019】
[7]前記クラッシュボックスに、その内部を仕切る間仕切り壁が軸心方向に沿って延びるように形成される前項1〜6のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0020】
[8]前記ステイ部材におけるフランジがカップ状部に一体に形成される前項1〜7のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0021】
[9]車両用衝撃吸収部材における筒状のクラッシュボックスに取り付けられるステイ部材であって、
カップ状部と、
前記カップ状部の開口縁部に外径方向に張り出すように設けられ、かつ車両構造体に固定可能なフランジと、を備え、
クラッシュボックスの基端側が前記カップ状部に収容されて、クラッシュボックスの基端面が前記カップ状部の底壁に接触した状態で、クラッシュボックスに固定可能に構成されたことを特徴とするステイ部材。
【0022】
[10]筒状のクラッシュボックスと、
バンパーリインフォースと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を備え、
前記バンパーリインフォースが前記クラッシュボックスの先端側に取り付けられるとともに、
前記クラッシュボックスの基端側が前記カップ状部に収容されて、前記クラッシュボックスの基端面が前記カップ状部の底壁に接触した状態で、前記ステイ部材が前記クラッシュボックスに固定されたことを特徴とする車両用バンパービーム。
【0023】
[11]筒状のクラッシュボックスと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を準備しておき、
前記クラッシュボックスの基端側を前記カップ状部に収容して、前記クラッシュボックスの基端面を前記カップ状部の底壁に接触させた状態で、前記ステイ部材を前記クラッシュボックスに固定するものとしたことを特徴とする車両用衝撃吸収部材の製造方法。
【0024】
[12]筒状のクラッシュボックスと、
バンパーリインフォースと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を準備しておき、
前記バンパーリインフォースを前記クラッシュボックスの先端側に取り付けるとともに、
前記クラッシュボックスの基端側を前記カップ状部に収容して、前記クラッシュボックスの基端面を前記カップ状部の底壁に接触させた状態で、前記ステイ部材を前記クラッシュボックスに固定するものとしたことを特徴とする車両用バンパービームの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
発明[1]の車両用衝撃吸収部材によれば、ステイ部材をクラッシュボックスに組み付けるだけで、車両構造体に固定するためのバンパーステイとして機能するフランジと、牽引フック等の部材取付用のブラケット(部材取付部)として機能する底壁とを確実に設置することができる。従って、ブラケットやバンパーステイを別々に組み付ける場合と比較して、組立作業を簡単かつスムーズに行うことができて、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる。さらにカップ状部の底壁をクラッシュボックスの基端面に接触させることにより、ステイ部材のクラッシュボックスに対する位置決めを簡単に図ることができ、組立作業を一層簡単かつスムーズに行うことができて、生産性の向上およびコストの削減をより確実に図ることができる。
【0026】
またクラッシュボックスは、ステイ部材を介して車両構造体に支持されるため、バンパーリインフォースに加わる衝撃エネルギーを、クラッシュボックスの変形によって確実に吸収でき、優れた衝撃吸収特性を得ることができる。
【0027】
発明[2]の車両用衝撃吸収部材によれば、必要に応じて、ステイ部材の底壁に牽引フックを取り付けることができる。なお、ステイ部材の底壁に取り付けられる牽引フックには、他車の牽引等によって引張方向および押込方向に力が加わるが、本発明において、牽引フックに加わる引張力は、クラッシュボックス端面や、ステイ部材のフランジを介して車両構造体に作用する。さらに牽引フックを押し込む押付力は、クラッシュボックスに作用せず、ステイ部材を介して車両構造体に作用する。従って、牽引フックに加わる力によって、クラッシュボックスやバンパーリインフォース等が不用意に変形するような不具合を防止することができる。
【0028】
発明[3]〜[6]の車両用衝撃吸収部材によれば、ステイ部材をクラッシュボックスに簡単かつ確実に固定することができる。
【0029】
発明[7]の車両用衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーの吸収量をより適切に調整できて、襲撃吸収特性を一層向上させることができる。
【0030】
発明[8]の車両用衝撃吸収部材によれば、ステイ部材を簡単に製作することができる。
【0031】
発明[9]のステイ部材によれば、上記と同様に、優れた衝撃吸収特性を維持しつつ、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる上さらに、部材取付部として機能する底壁を設置することができる。
【0032】
発明[10]の車両用バンパービームによれば、上記と同様に、優れた衝撃吸収特性を維持しつつ、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる上さらに、部材取付部として機能する底壁を確実に設置することができる。
【0033】
発明[11]によれば、上記と同様の効果を有する車両用衝撃吸収部材を製造することができる。
【0034】
発明[12]によれば、上記と同様の効果を有する車両用バンパービームを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1はこの発明の第1実施形態である車両用バンパービームを示す平面図である。
【図2】図2は第1実施形態のバンパービームを示す概略斜視図である。
【図3】図3は第1実施形態のバンパービームを示す背面図である。
【図4】図4は第1実施形態のバンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図である。
【図5A】図5Aは第1実施形態における一方側のクラッシュボックス周辺を拡管加工前の状態で示す分解斜視図である。
【図5B】図5Bは第1実施形態における他方側のクラッシュボックス周辺を拡管加工前の状態で示す分解斜視図である。
【図6】図6は第1実施形態のバンパービームを拡管金型を挿入した状態で示す平面図である。
【図7】図7は図6のバンパービームを上下反転状態で示す正面図である。
【図8A】図8Aは図7のA−A線断面図である。
【図8B】図8Bは図7のB−B線断面図である。
【図9】図9はこの発明の変形例である車両用バンパービームに用いられたステイ部材を示す斜視図である。
【図10】図10は変形例のバンパービームにおけるクラッシュボックス周辺を金型挿入直後の状態で示す断面図であって、図7のB−B線断面に相当する断面図である。
【図11】図11はこの発明の第2実施形態である車両用バンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図である。
【図12】図12は図11の一点鎖線で囲まれた部分を拡大して示す断面図である。
【図13】図13はこの発明の第3実施形態である車両用バンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図である。
【図14】図14はこの発明の第4実施形態である車両用バンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態である車両用バンパービームを示す平面図、図2は概略斜視図、図3は背面図、図4は第1実施形態のバンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を示す側面断面図、図5Aは一方側のクラッシュボックス周辺を拡管加工前の状態で示す分解斜視図、図5Bは他方側のクラッシュボックス周辺を拡管加工前の状態で示す分解斜視図である。
【0037】
これらの図に示すように、本第1実施形態のバンパービームは、自動車のフロントエンドに設けられ、衝突時の衝撃エネルギーを吸収する車両用衝撃吸収部材を構成している。このバンパービームは、バンパーリインフォース1と、左右一対のクラッシュボックス2と、図1の右側に配置される一方側のクラッシュボックス2に設けられるステイ部材3と、図1の左側に配置される他方側のクラッシュボックス2に設けられるバンパーステイ4とを備えている。
【0038】
本実施形態において、バンパーリインフォース1は、例えばアルミニウムまたはその合金を素材とする押出加工品や引抜加工品等によって構成されている。
【0039】
本実施形態におけるバンパーリインフォース1は、車幅方向の両側部が後方へ曲げ成形されることによって、中間部が前方へ少し張り出すように形成されている。
【0040】
このバンパーリインフォース1は、長さ方向に直交する平面で切断した際の断面形状において、上下方向が長い縦長の長方形に形成された周壁11と、その周壁11における高さ方向中間位置に、前後壁間に架け渡されるように一体形成された間仕切り壁12とを備える。換言すればバンパーリインフォース1は、いわゆる断面「日」の字形状に形成されている。なお間仕切り壁12は、後述の取付孔51が形成される部分を除いて、バンパーリインフォース1の長さ方向(車幅方向)に連続して形成されている。
【0041】
バンパーリインフォース1における長さ方向の両側端部には、周壁11の前壁および後壁に、前後に貫通する取付孔15,15が形成されている。
【0042】
この取付孔15の内周形状は、クラッシュボックス2の先端部の外周形状に対応して形成されており、取付孔15にクラッシュボックス2の先端部を遊挿できるようになっている。
【0043】
クラッシュボックス2は、上記と同様、アルミニウムまたはその合金を素材とする押出加工品や引抜加工品等によって構成されている。
【0044】
このクラッシュボックス2は、先端側および基端側の両端側が開口された中空筒状の周壁21を備えている。この周壁21は、軸心方向に垂直な平面で切断した断面形状において、丸みをおびた略正六角形状に形成されている。
【0045】
またクラッシュボックス2の内部には、断面視状態で、中心から径方向(放射状)に延びる6つの補強用間仕切り壁22…が周方向に等間隔おきに一体に形成されている。
【0046】
間仕切り壁22は、クラッシュボックス2の軸心方向(前後方向)に連続して形成されている。従って間仕切り壁22…の各間を介して、クラッシュボックス2はその先端側(前端側)開口と基端側(後端側)開口とが連通している。
【0047】
この構成のクラッシュボックス2の先端部(前端部)が、バンパーリインフォース1の前後両壁の取付孔15,15に貫通配置された状態で、後に詳述する拡管加工によって、クラッシュボックス2の周壁21における取付孔15,15の前後に径方向外側(外径方向)に突出する凸部25…がそれぞれ形成される。そしてこの凸部25…がバンパーリインフォース1における取付孔15,15の周縁部に圧接係合することにより、クラッシュボックス2がバンパーリインフォース1に対し締結固定される。
【0048】
なお本実施形態において、凸部25…は、間仕切り壁22…に対応する位置を除いて、クラッシュボックス2のほぼ全周にわたって周方向に沿って設けられている。換言すればクラッシュボックス2の外周面における取付孔15,15の前後位置に、周方向に延びる6つの凸部25…が周方向に等間隔おきに形成されている。
【0049】
図4,5に示すように、ステイ部材3は、アルミニウム、アルミニウム合金、または鋼材等によって構成されている。さらにステイ部材3は、例えばプレス加工、ダイカスト、鍛造等の成形加工品によって構成されている。
【0050】
ステイ部材3は、カップ形状に形成されたカップ状部30の開口縁部に、外側(外径方向)に張り出すようにフランジ33が形成された略ハット型の形状を有している。カップ状部30は、筒状の周壁31と、その周壁31の基端側(後端側)開口を閉塞する態様に一体形成された底壁32とを有している。
【0051】
このステイ部材3は、底壁32が、牽引フック等の部材を取付可能な部材取付部(ブラケット)として機能するとともに、フランジ33が、車両構造体に固定可能なバンパーステイとして機能するものである。
【0052】
ステイ部材3における周壁31は、クラッシュボックス2の基端部の内周形状に対応して略正六角形状に形成されている。従ってその周壁31内、つまりカップ状部30内にクラッシュボックス2の基端部を収容できるようになっている。換言すれば、ステイ部材3のカップ状部30を、クラッシュボックス2の基端部に外嵌できるようになっている。
【0053】
ステイ部材3における底壁32の外面(後面)には、軸心方向をステイ部材3の軸心方向に一致させるようにして牽引フック取付用のナット5が設けられている。
【0054】
このナット5におけるねじ孔51の先端側開口(前端側開口)は、ステイ部材3の底壁32の内面、つまりカップ状部30の内側に開放されている。従って、ステイ部材3の開口から挿入された牽引フック6の雄ねじ63を、ナット5のねじ孔51にねじ込めるようになっている。
【0055】
なお、本実施形態においては、ナット5のねじ孔51によって、雌ねじが構成されている。
【0056】
またステイ部材3の底壁32の中央部には、ナット5の取付領域を除いて、楔挿通孔35が形成されている。この楔挿通孔35は、後に詳述するように、拡管加工時に、楔83がステイ部材3の底壁32に干渉するのを防止するために設けられている。
【0057】
ここで、本実施形態においては、この楔挿通孔35によって、金型干渉防止孔が構成されている。
【0058】
なお、本発明において、ステイ部材3におけるフランジ33は、カップ状部30に対し必ずしも一体に形成しなくても良く、カップ状部およびフランジ(バンパーステイ)を別体で作製しておいて、適当な固定手段を用いて、両者を連結固定するようにしても良い。この場合には、カップ状部およびフランジ(バンパーステイ)をそれぞれ異なる素材により構成することができる。
【0059】
同様に、本発明において、カップ状部30における底壁32は、周壁31に対し必ずしも一体に形成しなくても良く、周壁および底壁を別体に作製しておいて、適当な固定方法を用いて、両者を連結固定するようにしても良い。この場合には、周壁および底壁をそれぞれ異なる素材により構成することができる。
【0060】
上記構成のステイ部材3が、そのカップ状部30内に一方側のクラッシュボックス2の基端部が収容されるように配置される。これにより、ステイ部材3の底壁32によって、クラッシュボックス2の基端側開口がされる。なおこの状態において、ステイ部材3の底壁32の内面は、クラッシュボックス2の基端面に接触するように配置されている。
【0061】
そしてこの状態で、後述の拡管加工によって、クラッシュボックス2の周壁21およびステイ部材3の周壁31に、外径方向にそれぞれ突出する凸部26,36が形成される。これによりクラッシュボックス2の凸部26がステイ部材3の凸部36の内側に圧入固定されて、ステイ部材3がクラッシュボックス2に締結固定される。
【0062】
なお本実施形態において、凸部26,36は、間仕切り壁22…に対応する位置を除いて、クラッシュボックス2およびステイ部材3(カップ状部30)のほぼ全周にわたって周方向に沿って設けられている。換言すればクラッシュボックス2の基端側外周面およびステイ部材3の周壁31に、周方向に延びる6つの凸部26,36が周方向に等間隔おきに形成されている。
【0063】
またこのようにステイ部材3がクラッシュボックス2の基端部に組み付けられた状態では、ステイ部材3のフランジ33は、クラッシュボックス2の基端部の所定位置において、外径方向に張り出すように配置される。
【0064】
さらにステイ部材3の底壁32に設けられたナット5は、クラッシュボックス2内の隣り合ういずれか2つの間仕切り壁22,22間に対応して配置されるようになっている。従って、ナット5の取付部周辺は、クラッシュボックス2の上記いずれか2つの間仕切り壁(所定の間仕切り壁)22,22間を通じて、クラッシュボックス2の先端側開口に連通している。
【0065】
図1の左側に配置されるクラッシュボックス2に設けられるバンパーステイ4は、アルミニウムまたはその合金製のプレート状の成形加工品によって形成されている。
【0066】
図5Bに示すように、このバンパーステイ4には、その中央に取付孔46が形成されている。この取付孔46の内周形状は、他方側(図1の左側)のクラッシュボックス2の基端部の外周形状に対応して略正六角形状に形成されており、この取付孔46にクラッシュボックス2の基端部を遊挿できるようになっている。
【0067】
そして、バンパーステイ4の取付孔46に他方側のクラッシュボックス2の基端部が貫通配置された状態で、後述の拡管加工によって、クラッシュボックス2の周壁21における取付孔46の前後に外径方向に突出する凸部26,26が形成される。これにより凸部26,26がバンパーステイ4における取付孔46の周縁部に圧接係合して、バンパーステイ4が他方側のクラッシュボックス2に対し締結固定される。
【0068】
なお本実施形態において、他方側のクラッシュボックス2の凸部26は、間仕切り壁22…に対応する位置を除いて、クラッシュボックス2のほぼ全周にわたって周方向に沿って設けられている。換言すればクラッシュボックス2の外周面における取付孔46の前後位置に、周方向に延びる6つの凸部26が周方向に等間隔おきに形成されている。
【0069】
本実施形態において、クラッシュボックス2,2にバンパーリインフォース1を連結固定する作業と、一方側のクラッシュボックス2にステイ部材3を連結固定する作業と、他方側のクラッシュボックス2にバンパーステイ4を連結固定する作業とは、拡管金型(エキスパンドダイ)を用いた拡管加工(エキスパンド加工)によって行う。
【0070】
さらに本実施形態において、一方側のクラッシュボックス2にバンパーリインフォース1の一側部(図1の右側)を連結固定する作業(拡管加工)と、一方側のクラッシュボックス2にステイ部材3を連結固定する作業(拡管加工)とは同時に行うものである。なおこの拡管加工を本実施形態では、一方側の拡管加工と称する。
【0071】
また本実施形態において、他方側のクラッシュボックス2にバンパーリインフォース1の他側部(図1の左側)を連結固定する作業(拡管加工)と、他方側のクラッシュボックス2にバンパーステイ4を連結固定する作業(拡管加工)とは、同時に行うものである。なおこの拡管加工を本実施形態では、他方側の拡管加工と称する。
【0072】
図6は本実施形態のバンパービームを拡管金型を挿入した状態で示す平面図、図7はその正面図、図8Aは図7のA−A線断面図、図8Bは図7のB−B線断面図である。なお、発明の理解を容易にするために、図7の正面図は上下反転状態で示している。
【0073】
これらの図に示すように、一方側の拡管加工を行う拡管金型7は、クラッシュボックス2における間仕切り壁22の各間にそれぞれ挿通される複数(6つ)の割型71…を備えている。各割型71…の断面形状は、間仕切り壁22…の各間の内周形状に対応して、略扇形状に形成されている。なお各割型71…は互いに同一の断面形状を有している。
【0074】
また各割型71…の外周面には、クラッシュボックス2におけるバンパーリインフォース1側の凸部25,25を形成する位置に対応して、先端側成形用凸部75,75が形成されている。さらに各割型71…の外周面には、クラッシュボックス2およびステイ部材3の凸部26,36を形成する位置に対応して、基端側成形用凸部76が形成されている。
【0075】
さらに各割型71…には、軸心に沿って、楔挿入部73…が設けられている。各割型71…の楔挿入部73…は、全部をまとめた状態で略正六角錐形状となるように、各楔挿入部73が略1/6六角錐形状にそれぞれ形成されている。
【0076】
また拡管金型7を拡径駆動するマンドレル8は、各割型71…の楔挿入部73…に対応して、楔83…を有している。各楔83…は、先端側(挿入方向側)が先細り状に形成されて、各楔挿入部73…の内周形状に対応して形成されている。つまり楔83…は、全部をまとめた状態で略正六角錐形状となるように、各楔83が…略1/6正六角錐形状にそれぞれ形成されている。なお各楔83…の外周面におけるテーパ角は、各楔挿入部73…における内周面のテーパ角に等しく設定されている。
【0077】
また、複数(6つ)の楔83のうち、ステイ部材3のナット5の位置に対応する楔83は、換言すれば、ステイ部材3の底壁32における楔挿入孔35が形成されない領域に対応する楔83は、その先端(挿入側端部)が切除されて、他の楔83よりも短く形成されている。これは、後に詳述するように、拡管金型7の楔83が、ステイ部材3の底壁32に干渉するのを防止するためである。
【0078】
この構成の拡管金型7を用いて、一方側の拡管加工を行う場合には、一方側のクラッシュボックス2の先端部を、バンパーリインフォース1の一側部の取付孔15に貫通配置するとともに、一方側のクラッシュボックス2の基端部に、ステイ部材3のカップ状部30を外嵌する。なお、この外嵌時には、ステイ部材3の底壁32の内面を、一方側のクラッシュボックス2の基端面に当接させることにより、ステイ部材3のクラッシュボックス2に対する位置合わせを行うことができる。従って、ステイ部材3をクラッシュボックス2に外嵌するだけで、フランジ33がクラッシュボックス2に対して所望の位置に正確に配置される。
【0079】
そしてその状態で図6〜8に示すように、拡管金型7の各割型71…をクラッシュボックス2内の間仕切り壁22…の各間にそれぞれ先端側(前端側)開口から挿入して配置する。この場合、各割型71の成形用凸部75,76を、クラッシュボックス2およびステイ部材3の凸部25,26,36を形成する予定の領域(凸部形成予定領域)に配置する。
【0080】
この状態で、マンドレル8を軸心方向に押圧することにより、各楔83…を各割型71…の各楔挿入部73…内に強制的に押し込む。これにより割型71…を外径方向に移動させて、クラッシュボックス2およびステイ部材3の凸部形成予定領域を拡管加工(エキスパンド加工)する。
【0081】
この拡管加工では、クラッシュボックス2およびステイ部材3の凸部形成予定領域が局所的に径方向に押し広げられて、クラッシュボックス2およびステイ部材3に、上記の凸部25,26,36が形成される。こうして、一方側のクラッシュボックス2およびバンパーリインフォース1の一側部の連結固定作業と、一方側のクラッシュボックス2およびステイ部材3の連結固定作業とが同時に行われる。
【0082】
なお本実施形態において、マンドレル8を押込操作した際に、各楔83…がステイ部材3の底壁32に干渉するのを確実に防止することができる。すなわち既述したように、マンドレル8の複数(6つ)の楔83…のうち、ステイ部材3のナット5に対応する位置に配置される楔83は、その先端が切断されて、他の楔83よりも短く形成されている。さらにステイ部材3の底壁32におけるナット5が取り付けられていない領域には、楔挿通孔35が形成されている。このため、マンドレル8を押込操作した際に、ナット5に対応する楔83は、ナット5が取り付けられる底壁32に到達することがなく、ステイ部材3の底壁32やナット5に干渉するのを防止することができる。さらに他の楔83…は、楔挿通孔55に挿通されることにより、ステイ部材3の底壁32に干渉するのを防止することができる。
【0083】
凸部25,26,36を成形した後は、マンドレル8を抜き取って、拡管金型7を縮径させてクラッシュボックス2から抜き取る。
【0084】
他方側の拡管加工は、上記一方側の拡管加工と実質的に同様に行われる。この他方側の拡管加工において用いられる拡管金型7は、複数の割型83…が全て同じ長さのものが用いられる。さらに各割型83…における基端側成形用凸部76は、他方側のバンパーステイ4の取付孔46の前後に対応してそれぞれ設けられている。この他方側の拡管金型7において、その他の構成は、既述した一方側の拡管金型7と実施的に同様である。
【0085】
また拡管加工の操作手順も実質的に同様である。すなわち他方側のクラッシュボックス2の先端部を、バンパーリインフォース1の他側部の取付孔15に貫通配置するとともに、他方側のクラッシュボックス2の基端部を、他方側のバンパーステイ4の取付孔46に貫通配置する。その状態で、拡管金型7の各割型71…をクラッシュボックス2内の間仕切り壁22…の各間にそれぞれ挿入配置して、マンドレル8を押し込む。これにより、クラッシュボックス2の凸部形成予定領域を局所的に拡管加工して、外径方向に突出する凸部25,26を形成する。こうして、他方側のクラッシュボックス2のバンパーリインフォース1の連結固定作業と、他方側のクラッシュボックス2のバンパーステイ4との連結固定作業とを同時に行うものである。
【0086】
なお本発明においては、一方側および他方側のクラッシュボックス2,2内に拡管金型7,7を配置しておいて、同時にマンドレル8,8を圧入することにより、一方側の拡管加工と、他方側の拡管加工とを同時行うことができる。この場合には、生産性をさらに向上させることができる。
【0087】
以上のように、クラッシュボックス2にバンパーリインフォース1、ステイ部材3およびバンパーステイ4が互いに連結固定されて、バンパービーム(車両用衝撃吸収部材)が組み立てられる。
【0088】
そしてこのバンパービームは、その一方側のクラッシュボックス2が、ステイ部材3のフランジ(バンパーステイ)33を介して車体に組み付けられるとともに、他方側のクラッシュボックス2が、バンパーステイ4を介して車体に組み付けられる。すなわち、フランジ33およびバンパーステイ4が、車両構造体としての図示しない両サイドフレーム(両サイドメンバ)の先端に、ボルト止めや溶接等によってそれぞれ固定される。これによりバンパービームが車体に組み付けられる。
【0089】
このバンパービームが組み付けられた自動車において、衝突によってバンパーリインフォース1に衝撃が加わった際には、クラッシュボックス2が軸方向(車両前後方向)に圧縮変形し、その変形によって、衝撃エネルギーが吸収されるようになっている。
【0090】
一方、図4,5Aに示すように、牽引フック6は、軸部61と、軸部61の先端に設けられたフック本体62と、軸部61の基端部(挿入側端部)に刻設された雄ねじ63を有している。
【0091】
そして上記バンパービームが組み付けられた自動車に、牽引フック6を取り付ける場合には、一方側のクラッシュボックス2の先端側開口を介して、雄ねじ63側を挿入側として牽引フック6の軸部61を、クラッシュボックス2における上記所定の間仕切り壁22,22間に挿入する。そして牽引フック6の雄ねじ63がナット5に到達したところで、牽引フック6を回転させて、雄ねじ63をナット5のねじ孔51にねじ込んで固定する。これにより、フック本体62がクラッシュボックス2の先端(前端)よりも前方に配置された状態で、牽引フック6が車体に組み付けられる。
【0092】
また牽引フック6を取り外す場合には、上記と逆の操作を行えば良い。すなわち牽引フック6を回転させてねじを緩めていき、雄ねじ63をナット5から外してから、牽引フック6をクラッシュボックス2の先端側開口から抜き取れば良い。
【0093】
以上のように、本実施形態のバンパービームによれば、底壁32にナット5が設けられたカップ状部30と、フランジ33とを一体に有するステイ部材3を、クラッシュボックス2に組み付けるものであるため、ステイ部材3をクラッシュボックス2に組み付けるだけで、牽引フック取付用部材(ブラケット)として機能する底壁32と、車両への組付用のバンパーステイとして機能するフランジ33との2つの部材を設置することができる。従って、ブラケットやバンパーステイを別々に組み付ける場合と比較して、組立作業を簡単かつスムーズに行うことができて、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0094】
さらに本実施形態のバンパービームにおいては、ステイ部材3をクラッシュボックス2に外嵌する際に、ステイ部材3の底壁32をクラッシュボックス2の基端面に接触させるだけで簡単に、ステイ部材3のクラッシュボックス2に対する位置決めを図ることができる。従って、組立作業を一層簡単かつスムーズに行うことができて、生産性の向上およびコストの削減をより確実に図ることができる。
【0095】
また本実施形態のバンパービームによれば、拡管金型7を用いた拡管加工によって、クラッシュボックス2およびステイ部材3に、凸部26,36を形成することにより、クラッシュボックス2にステイ部材3を連結固定すると同時に、クラッシュボックス2にバンパーリインフォース1を連結固定するものである。このようにバンパーリインフォース1、クラッシュボックス2およびステイ部材3を一度の加工で組み付けることができ、組立作業をより一層簡単に行うことができて、生産性の向上およびコストの削減をより一層確実に図ることができる。
【0096】
さらにステイ部材3は、ハット状のシンプルな構造であるため、バンパービーム全体として構造の簡素化を図ることができる。
【0097】
また本実施形態においては、クラッシュボックス2を拡管加工して、クラッシュボックス2に、バンパーリインフォース1や、ステイ部材3およびバンパーステイ4を連結固定するものであるため、クラッシュボックス2として、比較的自由な断面形状のものを採用することができる。つまり、本実施形態のように、補強用の間仕切り壁22が複数形成されたクラッシュボックス2であっても、バンパーリインフォース1、ステイ部材3およびバンパーステイ4を確実に連結固定することができる。このため、クラッシュボックス2の強度を高めるには、間仕切り壁22の形状を変更したり数を増やすことによって対応することができる。従って、クラッシュボックスの肉厚やサイズを増大させる必要がなくなり、クラッシュボックス2の小型軽量化およびコストの削減をより一層確実に図ることができる。
【0098】
さらに間仕切り壁22の形状や数を調整することによって、衝突によるクラッシュボックス2の圧壊変形(圧縮変形)時の挙動(潰れ方)を適切に制御することができる。このため例えば、衝突時の初期最大荷重と、初期荷重以降の平均荷重との差を小さくできて、エネルギー吸収(EA)量の増大を図りつつ、EA効率を向上させることができ、理想的な衝撃吸収特性を確実に得ることができる。
【0099】
また本実施形態において、ステイ部材3の底壁32に、クラッシュボックス2の基端面(後端面)を接触させているため、ステイ部材3に取り付けられた牽引フック6を引っ張るような引張力は、ステイ部材3の底壁32を介して、クラッシュボックス2の基端面を前方へ押し込むように作用する。この引張力は、クラッシュボックス2の基端面や、ステイ部材3のフランジ33を介して車両構造体に作用するため、クラッシュボックス2が変形するような不具合を確実に防止できる。さらに牽引フック6を押し込むような押込力は、クラッシュボックス2に直接作用することなく、ステイ部材3を介して車両サイドフレーム(構造体)によって直接作用する。従ってこの押込力に対しても、クラッシュボックス2が変形するような不具合を確実に防止できる。このように牽引フック6に加わる力によって、クラッシュボックス2やバンパーリインフォース1等が変形するよう不具合を確実に防止することができる。従って、牽引フック6を用いた牽引作業や車体固定作業等を支障なく確実に行うことができる。
【0100】
また本実施形態において、クラッシュボックス2の基端面が、ステイ部材3を介して車両構造体としてのサイドフレームによって支持されているため、衝突によりバンパーリインフォース1に加わった衝撃荷重は、クラッシュボックス2を確実に圧縮変形(圧壊変形)させるように作用し、その変形によって衝撃エネルギーを吸収することができる。このため、衝撃荷重によって、ステイ部材3が不用意に変形して、所望のEA量を変動させてしまうような不具合を確実に防止でき、優れた衝撃吸収特性を確実に維持することができる。
【0101】
なお本実施形態において、ステイ部材3の周壁内面と、クラッシュボックス2の周壁外面との間は、ステイ部材3がクラッシュボックス2に対し抜け出さない程度の小さい取付強度(接合強度)で取り付けるだけで良い。
【0102】
すなわち、本実施形態のバンパービームにおいて、牽引フック6を介して加わる押込力や引張力や、クラッシュボックス2の圧縮変形時の押込力等の底壁32に作用する軸心方向(車両前後方向)の力は、ステイ部材3の周壁内面およびクラッシュボックス2の周壁外面間に直接作用せず、ステイ部材3のフランジ33を介して車両構造体に作用する。つまり、ステイ部材3の周壁内面とクラッシュボックス2の周壁外面との間の接合強度にかかわらず、軸心方向に作用する力を、車両構造体によって確実に受け止めることができる。
【0103】
従って、クラッシュボックス2およびステイ部材3の周壁21,31間の接合強度を小さくすることができる。このため、クラッシュボックス2およびステイ部材3間を連結固定するための上記拡管加工時の荷重を小さくでき、その拡管加工をスムーズに行うことができる。
【0104】
また本実施形態においては、拡管加工によって、バンパービーム構成部材1〜4を連結固定するものであるため、換言すれば、溶接やボルト締めによって固定するものではない。従って、溶接に伴うコストの増大を防止でき、より一層コストを削減できるとともに、ボルト締めに起因する衝突時の不用意なせん断破壊や、組付作業性の低下を防止でき、より一層優れた衝撃吸収特性を得ることができる上、生産性をさらに向上させることができる。
【0105】
なお、上記実施形態においては、ステイ部材3として、その底壁32の外面(後面)にナット5が配置されたものを用いているが、それだけに限られず、本発明においては、図9に示すように、ナット5をステイ部材3の底壁32における内面(前面)に配置するようにしても良い。
【0106】
この場合には、ステイ部材3をクラッシュボックス2に連結固定するために用いられる拡管金型7として、図10に示すようなものを使用するのが良い。
【0107】
すなわち、ステイ部材3の底壁32の内面に配置されたナット5は、クラッシュボックス2内における基端位置よりも先端側に配置されるため、拡管金型7の割型71が、ナット5に干渉することにより、割型71を挿入することができないおそれがある。このためこの変形例では、拡管金型7の複数の割型71…のうち、ナット5に対応する割型71として、その先端(挿入側端部)を切除した短いのものを用いている。
【0108】
この拡管金型7を用いれば、割型71をナット5に干渉させることなく、拡管加工を支障なく行うことができる。
【0109】
なお、この拡管金型7においては、ナット5に対応する部分に、割型71が存在しないため、クラッシュボックス2およびステイ部材3におけるナット5に対応する部分に、連結固定用の凸部26,36を形成することができない。しかしながら、凸部26,36が形成されない部分は、周方向の一部分のみであり、残りの多くの部分に、支障なく連結用凸部26,36を形成できる。従って、クラッシュボックス2にステイ部材3を上記と同様に確実に連結固定することができる。
【0110】
また上記第1実施形態においては、拡管金型としてマンドレルを金型に押し込むプッシュ(push)式のものを用いているが、それだけに限られず、本発明は、拡管加工が可能であれば、どのような拡管金型を用いても良い。例えばマンドレルを金型から引き込むプル(pull)式の拡管金型を用いるようにしても良い。
【0111】
<第2実施形態>
図11はこの発明の第2実施形態である車両用バンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図、図12は図11の一点鎖線で囲まれた部分を拡大して示す断面図である。
【0112】
これらの図に示すように、この第2実施形態の車両用バンパービームに用いられるステイ部材3は、カップ状部30における周壁31の内径サイズが、上記第1実施形態の周壁31よりも大きく形成されて、そのカップ状部30内に、クラッシュボックス2の基端側を余裕をもって収容できるようになっている。さらにステイ部材3の開口縁部には、内径方向に張り出す態様に内向きフランジ状の抜け止め突起34が周方向の全域にわたって形成されている。
【0113】
そして、ステイ部材3のカップ状部30にクラッシュボックス2の基端側が収容された状態で、クラッシュボックス2の周壁21におけるカップ状部30に対応する位置に、拡管金型7を用いた拡管加工によって、外径方向に突出する凸部26が形成される。この構造においては、抜け止め突起34が凸部26に係止することにより、ステイ部材3がクラッシュボックス2に対し後方へ移動するのが規制されて抜け止めが図られる。また言うまでもなく、ステイ部材3の底壁32が、クラッシュボックス2の基端面に当接係止することにより、ステイ部材3がクラッシュボックス2に対し前方へ移動するのが規制されている。こうしてステイ部材3がクラッシュボックス2に対し前後方向への移動が規制された状態で連結固定されている。
【0114】
なおこの拡管加工においては、ステイ部材3の周壁31に凸部が形成されることはない。
【0115】
この第2実施形態のバンパービームにおいて、他の構成は、上記第1実施形態と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明は省略する。
【0116】
この第2実施形態のバンパービームにおいては、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏する上さらに、抜け止め突起34が補強部材として機能するため、ステイ部材3の強度、特に引張方向および押込方向(軸心方向)の強度が増加する。従って、軸心方向に作用する力に対し、ステイ部材3が変形するような不具合をより確実に防止でき、牽引フック6を用いた牽引作業や車体固定作業等をより一層確実に行うことができるとともに、衝突時にクラッシュボックス2がスムーズに圧縮変形して、衝撃吸収特性をより一層向上させることができる。
【0117】
さらにステイ部材3を拡管加工せずに、クラッシュボックス2だけを拡管加工するものであるため、拡管加工時の荷重を小さくでき、拡管加工を容易に行うことができる。
【0118】
<第3実施形態>
図13はこの発明の第3実施形態である車両用バンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図である。
【0119】
同図に示すように、この第3実施形態では、ステイ部材3をクラッシュボックス2に対し接着材37を用いて連結するものである。すなわちこの第3実施形態においては、クラッシュボックス2およびステイ部材3に拡管加工による凸部を形成せずに、クラッシュボックス2の周壁外面とステイ部材3の周壁内面とを接着材37を介して接着している。
【0120】
接着材37としては、ステイ部材3がクラッシュボックス2に対し抜け出さない程度に接着できるものであれば良く、一般的なものを使用することができる。すなわち上記第1実施形態で説明したように、ステイ部材3の底壁32に作用する軸心方向(車両前後方向)の力は、クラッシュボックス2およびステイ部材3の周壁間に直接作用せず、ステイ部材3のフランジ33を介して車両構造体等に作用するため、クラッシュボックス2およびステイ部材3の周壁間の接合強度は小さくても良い。従って、両部材2,3の周壁間は、ごく一般的な周知の接着材37を用いて接着固定することができる。
【0121】
この第3実施形態において、他の構成は、上記第1,2実施形態と実質的に同様であるため、同一部分に同一符号を付して重複説明は省略する。
【0122】
この第3実施形態のバンパービームにおいても、上記と同様に同様の作用効果を得ることができる。その上さらに、ステイ部材3をクラッシュボックス2に接着材37によって接着するものであるため、両部材2,3を簡単に組み付けることができる。
【0123】
なお図13に示すように、本第3実施形態のステイ部材3の底壁32には、楔挿通孔35が形成されているが、第3実施形態のようにステイ部材3をクラッシュボックス2に接着材37で接合する場合には、楔挿通孔35は必ずしも設ける必要はない。
【0124】
<第4実施形態>
図14はこの発明の第4実施形態である車両用バンパービームにおける一方側のクラッシュボックス周辺を牽引フック取付状態で示す側面断面図である。
【0125】
同図に示すように、この第4実施形態では、クラッシュボックス2およびステイ部材3の両周壁21,31の対応部分を、周知の縮管金型を用いた周知の縮管加工を行って局所的に内側に凹ませることにより、両周壁21,31の対応部分に、内径方向に突出する凸部28,38を形成する。こうしてステイ部材3の凸部38をクラッシュボックス2の凸部28の内側に圧入固定し、ステイ部材3をクラッシュボックス2に連結固定するものである。
【0126】
なお本第4実施形態において、内向き凸部28,38は、間仕切り壁22…に対応する位置を除いて、クラッシュボックス2およびステイ部材3(カップ状部30)のほぼ全周にわたって周方向に沿って設けられている。換言すればクラッシュボックス2の基端側外周面およびステイ部材3の周壁31に、周方向に延びる6つの内向き凸部28,38が周方向に等間隔おきに形成されている。
【0127】
本第4実施形態において、他の構成は上記第1〜3実施形態等と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明は省略する。
【0128】
この第4実施形態のバンパービームにおいても、上記と同様に同様の作用効果を得ることができる。
【0129】
<他の変形例>
上記実施形態等においては、ステイ部材3をクラッシュボックス2に連結する方法として、上記第1実施形態のように拡管加工を用いる方法、上記第4実施形態のように縮管加工を用いる方法、上記第3実施形態のように接着材を用いる方法を採用しているが、これらの方法を併用しても良い。例えばクラッシュボックス2およびステイ部材3間に接着材を供給した上で、さらに両部材2,3に拡管加工や縮管加工による凸部を形成することにより、接着材および拡管加工を併用して、または接着材および縮管加工を併用して、両部材2,3を連結固定するようにしても良い。
【0130】
さらに上記第2実施形態のように抜け止め突起34により両部材2,3を連結する方法と、上記第3実施形態のように接着材を用いて連結する方法とを併用するようにしても良い。
【0131】
また上記実施形態においては、クラッシュボックスとして周壁の断面が略正六角形のものを用いているが、それだけに限られず、本発明においては、他の断面形状のクラッシュボックスを用いるようにしても良い。例えば断面が、円形、楕円形、長円形のもの、六角形以外の多角形状のもの、異形のものを用いるようにしても良い。
【0132】
また上記実施形態においては、クラッシュボックスに間仕切り壁を、6つ形成する場合を例に挙げて説明したが、本発明において、間仕切り壁の数は、限定されるものではなく、また必ずしも間仕切り壁を設ける必要もない。
【0133】
さらに間仕切り壁の形状は特に限定されるものではなく、どのような形状に形成しても良い。例えば間仕切り壁は、断面視において、必ずしも径方向に沿って放射線状に形成する必要はなく、軸心を通らないような間仕切り壁を形成するようにしても良い。
【0134】
また上記実施形態においては、ステイ部材の底壁に設けたナットのねじ孔を、雌ねじとして構成しているが、それだけに限られず、本発明においては、ステイ部材の底壁(ブラケット)にねじ孔を直接切り込んで、そのねじ切り孔を雌ねじとして構成するようにしても良い。
【0135】
また上記実施形態においては、バンパーリインフォースとして周壁の断面が長方形のものを用いているが、それだけに限られず、本発明においては、他の断面形状のバンパーリインフォースを用いても良い。例えば断面が、三角形や五角形以上の多角形状のものや、円形、楕円形、長円形のもの、異形のものを用いるようにしても良い。
【0136】
さらにバンパーリインフォースに設けられる間仕切り壁も、1つに限られず、2つ以上設けるようにしても良いし、設けなくとも良い。
【0137】
また上記本実施形態では、バンパーリインフォースを押出加工品や引抜加工品等によって形成しているが、それだけに限られず、本発明においては、バンパーリインフォースを、例えば金属板のプレス加工品等によって形成することも可能である。
【0138】
また上記実施形態においては、本発明のバンパービームをバンパー内部の構造体として利用する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明のバンパービームは大型車両のフロントアンダーランプロテクタにも適用することができる。この場合には、クラッシュボックスの先端側が車両後方側となり、クラッシュボックスの基端側が車両前方側となる。
【0139】
また言うまでもなく、本発明のバンパービームは、自動車のリアエンドに設けられるバンパーにも採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
この発明の車両用衝撃吸収部材は、自動車のバンパー内側の構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0141】
1:バンパーリインフォース
2:クラッシュボックス
21:周壁
22:間仕切り壁
25,26:凸部
3:ステイ部材
30:カップ状部
31:周壁
32:底壁
33:フランジ
34:抜け止め突起
36:凸部
37:接着材
51:ねじ孔(雌ねじ)
6:牽引フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のクラッシュボックスと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を備え、
前記クラッシュボックスの基端側が前記カップ状部に収容されて、前記クラッシュボックスの基端面が前記カップ状部の底壁に接触した状態で、前記ステイ部材が前記クラッシュボックスに固定されたことを特徴とする車両用衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記カップ状部の底壁に、牽引フック取付用の雌ねじが設けられる請求項1に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記クラッシュボックスおよび前記カップ状部の両周壁における互いに対応する位置に、拡管金型を用いた拡管加工によって、外径方向に突出する凸部がそれぞれ形成されることにより、前記カップ状部が前記クラッシュボックスに締結固定される請求項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記クラッシュボックスおよび前記カップ状部の両周壁における互いに対応する位置に、縮管金型を用いた縮管加工によって、内径方向に突出する凸部がそれぞれ形成されることにより、前記カップ状部が前記クラッシュボックスに締結固定される請求項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記カップ状部の開口縁部に内径方向に張り出す態様に抜け止め突起が設けられ、
前記クラッシュボックスの周壁における前記カップ状部に対応する位置に、拡管金型を用いた拡管加工によって外径方向に突出する凸部が形成され、その凸部に前記抜け止め突起が係止することにより、前記カップ状部が前記クラッシュボックスに対し抜け止め状態に固定される請求項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記カップ状部が前記クラッシュボックスに接着材によって固定される請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記クラッシュボックスに、その内部を仕切る間仕切り壁が軸心方向に沿って延びるように形成される請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記ステイ部材におけるフランジがカップ状部に一体に形成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項9】
車両用衝撃吸収部材における筒状のクラッシュボックスに取り付けられるステイ部材であって、
カップ状部と、
前記カップ状部の開口縁部に外径方向に張り出すように設けられ、かつ車両構造体に固定可能なフランジと、を備え、
クラッシュボックスの基端側が前記カップ状部に収容されて、クラッシュボックスの基端面が前記カップ状部の底壁に接触した状態で、クラッシュボックスに固定可能に構成されたことを特徴とするステイ部材。
【請求項10】
筒状のクラッシュボックスと、
バンパーリインフォースと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を備え、
前記バンパーリインフォースが前記クラッシュボックスの先端側に取り付けられるとともに、
前記クラッシュボックスの基端側が前記カップ状部に収容されて、前記クラッシュボックスの基端面が前記カップ状部の底壁に接触した状態で、前記ステイ部材が前記クラッシュボックスに固定されたことを特徴とする車両用バンパービーム。
【請求項11】
筒状のクラッシュボックスと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を準備しておき、
前記クラッシュボックスの基端側を前記カップ状部に収容して、前記クラッシュボックスの基端面を前記カップ状部の底壁に接触させた状態で、前記ステイ部材を前記クラッシュボックスに固定するものとしたことを特徴とする車両用衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項12】
筒状のクラッシュボックスと、
バンパーリインフォースと、
カップ状部の開口縁部に、車両構造体に固定可能なフランジが外径方向に張り出すように設けられたステイ部材と、を準備しておき、
前記バンパーリインフォースを前記クラッシュボックスの先端側に取り付けるとともに、
前記クラッシュボックスの基端側を前記カップ状部に収容して、前記クラッシュボックスの基端面を前記カップ状部の底壁に接触させた状態で、前記ステイ部材を前記クラッシュボックスに固定するものとしたことを特徴とする車両用バンパービームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−153254(P2012−153254A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14072(P2011−14072)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)