説明

車両用衝撃吸収部材

【課題】襲撃吸収特性に優れた車両用衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】本発明の衝撃吸収部材は、小径管4の基端部が大径管5の先端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工されて、外向き凸部41,51が形成される。大径管5が、サイドフレーム6に収容された状態でサイドフレーム6に固定されて、小径管4がサイドフレーム6の先端から突出する態様に配置される。小径管4にその先端側から衝撃が加わった際に、小径管4の外向き凸部41によって、大径管5の周壁が外径方向に塑性変形されつつ、小径管4が大径管5内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるとともに、前記小径管の少なくとも基端部が前記サイドフレーム内に収容されるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用バンパービームのクラッシュボックス等として用いられる車両用衝撃吸収部材およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の例えばフロントエンドに設けられるバンパーの内側には、衝突時の衝撃を吸収するためにバンパービームが設けられている。
【0003】
バンパービームは、車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、そのバンパーリインフォースを車両構造体に支持する左右一対のクラッシュボックスとを備え、クラッシュボックスの圧縮塑性変形によって衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【0004】
このような衝撃吸収用のクラッシュボックスとしては、下記特許文献1〜3に示すものが周知である。
【0005】
特許文献1,2に示すクラッシュボックスは、一方側半分を構成する小径管部と、他方側半分を構成する大径管部と、両管を接続する段差部とを一体に備え、大径管部の段差部を内側に連続して捲き込ませるように塑性変形させながら、小径管部を大径管部の内部に没入させることによって、衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【0006】
特許文献3に示すクラッシュボックスは、縮径変形と、圧壊変形との2段階の塑性変形によって衝突エネルギーを吸収するようにしている。すなわち、このクラッシュボックスは、小径管と、その小径管の一端が圧入固定される大径管とを別体に備え、衝突時の初期には、小径管を縮径変形させつつ、大径管内に圧入させることによって、衝突エネルギーを吸収するとともに、小径管が大径管内に圧入された後は、大径管を蛇腹状に圧壊変形させることによって、衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4436620号
【特許文献2】特表2007−503561号
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/00727764号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、衝撃吸収部材としてのクラッシュボックスは、軸方向(車両前後方向)に圧縮変形させて、衝突エネルギーを吸収するものであるため、圧縮変形が終了した時点で、クラッシュボックスによる衝撃エネルギーの吸収が終了することになり、それ以降は、衝撃が車両構造体に直接加わることになってしまう。従って、クラッシュボックスの軸方向の長さを長くして、衝突時の圧縮変位量(有効ストローク長)を長くすることができれば、大きな衝突エネルギーであってもスムーズに吸収でき、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0009】
しなしながら、クラッシュボックスは、バンパーリインフォースと、車両構造体との間の限られた狭い取付スペース内に配置されるものであるため、クラッシュボックスの軸方向の長さを十分に確保することが困難である。
【0010】
このような技術背景の下、例えば上記特許文献1,2に示すクラッシュボックスでは、小径管部を大径管部内に没入させるものであるため、有効ストローク長は、クラッシュボックスの全長のほぼ半分程度となってしまい、有効ストローク長を十分に確保できず、衝撃吸収特性を向上させることが困難である、という課題があった。
【0011】
また特許文献3に示すクラッシュボックスにおいては、大径管の圧壊変形が終了した時点で、クラッシュボックスによる衝撃吸収が完了することになるが、その時点では、圧壊した蛇腹状の大径管(潰れ残り部)がバンパーリインフォースと車両構造体との間に残存する。この残存部分は、有効ストローク長として機能しないので、その分、有効ストローク長が短くなり、上記と同様、衝撃吸収特性を向上させることが困難である、という課題があった。
【0012】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、十分な有効ストローク長を確保でき、衝撃吸収特性を向上させることができる車両用衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0014】
[1]中空構造のサイドフレームを有する車両に適用される車両用衝撃吸収部材であって、
小径管の基端部が大径管の先端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工または縮管加工されて、外径方向または内径方向に突出する重合凸部が形成されることにより、前記小径管および前記大径管が連結され、
前記大径管が、その少なくとも一部が前記サイドフレームの先端部内に収容された状態で前記サイドフレームに固定されて、前記小径管が前記サイドフレームの先端から突出する態様に配置され、
前記小径管および大径管のうち、前記重合凸部の突出方向側に配置される管を変形管とし、残り一方の管を非変形管として、
前記小径管にその先端側から軸方向に沿う衝撃が加わった際に、前記非変形管の重合凸部によって、前記変形管の周壁が外径方向または内径方向に塑性変形されつつ、前記小径管が前記大径管内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるとともに、前記小径管の少なくとも基端部が前記サイドフレーム内に収容されるようにしたことを特徴とする車両用衝撃吸収部材。
【0015】
[2]前記大径管の軸方向の先端部を除いたほぼ全域が前記サイドフレーム内に配置されるとともに、
前記小径管のほぼ全域が、前記大径管内に圧入可能に構成される前項1に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0016】
[3]前記重合凸部は、前記サイドフレーム内に配置される前項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0017】
[4]前記重合凸部は外径方向に突出する外向き凸部によって構成され、
前記小径管に衝撃が加わった際に、前記小径管の前記外向き凸部によって、前記変形管をなす前記大径管の周壁が外径方向に押し広げられるように塑性変形されるようにした前項1〜3のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0018】
[5]前記重合凸部は内径方向に突出する内向き凸部によって構成され、
前記小径管に衝撃が加わった際に、前記大径管の前記内向き凸部によって、前記変形管をなす前記小径管の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形されるようにした前項1〜3のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0019】
[6]前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管における周方向の全域に形成される前項1〜5のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0020】
[7]前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管の周方向の一部に形成される前項1〜5のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0021】
[8]前記重合凸部は、金型を用いた拡管加工または縮管加工によって形成される前項1〜7のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【0022】
[9]車両の両側に前後方向に延びる中空構造のサイドフレームを有する車両に適用される衝撃吸収装置であって、
前項1〜8のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材によって構成されるクラッシュボックスと、
前記クラッシュボックスにおける小径管の先端に取り付けられ、かつ車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースとを備えたことを特徴とする車両用衝撃吸収装置。
【0023】
[10]前記サイドフレームの先端面にステイが取り付けられ、そのステイに設けられた大径管取付孔に、前記大径管が挿通配置された状態で、前記大径管の先端が拡管加工されて、その拡管部が前記ステイの大径管取付孔周縁部に圧接係合されることにより、前記大径管が前記ステイを介して前記サイドフレームに取り付けられる前項9に記載の車両用衝撃吸収装置。
【0024】
[11]前記バンパーリインフォースに設けられた小径管取付孔に、前記小径管が軸方向に沿って挿通配置された状態で、前記小径管の先端部が拡管加工されて、その拡管部が前記バンパーリインフォースの小径管取付孔周縁部に圧接係合されることにより、前記小径管に前記バンパーリインフォースが取り付けられる前項9または10に記載の車両用衝撃吸収装置。
【0025】
[12]車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースを支持し、かつ前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスであって、
前項1〜8のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材によって構成されるとともに、
前記小径管の先端に前記バンパーリインフォースが取り付けられることを特徴とするクラッシュボックス。
【0026】
[13]車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、
前記バンパーリインフォースを支持し、かつ前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスとを備え、
前記クラッシュボックスが、前項1〜8のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材によって構成されるとともに、
前記小径管の先端に前記バンパーリインフォースが取り付けられることを特徴とするバンパービーム。
【発明の効果】
【0027】
発明[1]の車両用衝撃吸収部材によれば、衝撃吸収時に小径管が圧入される大径管の少なくとも一部が、サイドフレーム内に収容されるとともに、衝撃吸収時には小径管の基端部がサイドフレーム収容されるものであるため、有効ストローク長を長く確保することができる。さらに小径管および大径管のいずれか一方の管の重合凸部によって、残り一方の管の周壁を径方向に連続的に塑性変形させて、衝突エネルギーを吸収するものであるため、終始、バランス良く衝突エネルギーを吸収できるとともに、衝突直後から衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、優れた衝撃吸収特性を得ることができる。
【0028】
発明[2]の車両用衝撃吸収部材によれば、有効ストローク長を一層長くすることができ、衝撃吸収特性をより確実に向上させることができる。
【0029】
発明[3]の車両用衝撃吸収部材によれば、有効ストローク長をより一層長くすることができ、衝撃吸収特性をより一層確実に向上させることができる。
【0030】
発明[4][5]の車両用衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーをより確実に吸収することができる。
【0031】
発明[6]の車両用衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーを吸収量を多くすることができる。
【0032】
発明[7]の車両用衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーを吸収量を適宜調整することができる。
【0033】
発明[8]の車両用衝撃吸収部材によれば、寸法精度に優れた重合凸部をより確実に形成することができる。
【0034】
発明[9]によれば、上記車両用衝撃吸収部材と同様の作用効果を奏する車両用衝撃吸収装置を提供することができる。
【0035】
発明[10]によれば、クラッシュボックスをサイドフレームに簡単かつ確実に取り付けることができる。
【0036】
発明[11]によれば、バンパーリインフォースをクラッシュボックスに簡単かつ確実に取り付けることができる。
【0037】
発明[12]によれば、上記車両用衝撃吸収部材と同様の作用効果を奏するクラッシュボックスを提供することができる。
【0038】
発明[13]によれば、上記車両用衝撃吸収部材と同様の作用効果を奏するバンパービームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1はこの発明の実施形態であるクラッシュボックスが適用された自動車用衝撃吸収装置を示す斜視図である。
【図2】図2は実施形態の衝撃吸収装置を示す水平断面図である。
【図3】図3は実施形態の衝撃吸収装置におけるクラッシュボックス周辺を拡大して示す水平断面図である。
【図4】図4は図3の二点鎖線で囲まれる部分を拡大して示す水平断面図である。
【図5】図5は図2の二点鎖線で囲まれる部分を拡大して示す水平断面図である。
【図6】図6は実施形態のクラッシュボックスにおける圧縮変形時の挙動を説明するための水平断面図である。
【図7】図7は実施形態の衝撃吸収装置における衝突時の荷重とクラッシュボックスの変位量との関係を示すグラフである。
【図8】図8はこの発明の変形例である自動車用衝撃吸収装置におけるクラッシュボックス周辺を拡大して示す水平断面図である。
【図9】図9は従来の圧壊変形型の衝撃吸収装置における衝突時の荷重とクラッシュボックスの変位量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1はこの発明の実施形態であるクラッシュボックスが適用された自動車用衝撃吸収装置を示す斜視図、図2はその衝撃吸収装置を示す水平断面図である。
【0041】
両図に示すように、この実施形態における自動車用衝撃吸収装置は、車両前部に設けられるものである。この衝撃吸収装置が適用される自動車のボディーには、左右両側に、前後方向に沿って延びる左右一対のサイドメンバ6,6が配置されており、そのサイドメンバ6,6の前端に、後に詳述するバンパービーム1が組み付けられることによって、本実施形態の衝撃吸収装置が構成されている。
【0042】
サイドメンバ6は、車両構造体としてのサイドフレームを構成するものであり、断面矩形状で長さ方向に連続して延びる中空部65が設けられた中空構造を有している。
【0043】
図3に示すようにサイドメンバ6の前端内周には、内側に突出する内向きフランジ61が形成されている。
【0044】
サイドメンバ6の前端面には、ステイ7が設けられる。このステイ7は、車両前方から見た状態(正面視状態)において、サイドメンバ6の前端開口形状に対応して矩形状に形成されており、中央にクラッシュボックス取付孔(大径管取付孔)75が形成されている。この取付孔75は、後述するクラッシュボックス3の大径管5に対応して円形に形成されており、その大径管5を挿入できるように、大径管5よりも径寸法が大きく形成されている。
【0045】
このステイ7が、サイドメンバ6の前端開口を閉塞するように配置された状態で、外周部がサイドメンバ6の内向きフランジ61にボルト止めや溶接等の固定手段によって固定される。
【0046】
図1,2に示すように、本実施形態におけるバンパービーム1は、自動車のフロントエンドに、車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォース2と、そのバンパーリインフォース2の両側部に設けられ、バンパーリインフォース2をサイドメンバ6に支持するクラッシュボックス3とを備えている。
【0047】
図2,3に示すようにクラッシュボックス3は、衝撃吸収部材として機能するものであり、前側(先端側)に配置される小径管4と、後側(基端側)に配置され、かつ小径管4とは別体の大径管5とを備えている。
【0048】
小径管4および大径管5は、例えばアルミニウムまたはその合金を素材とする押出形材や引抜形材等によって構成されている。
【0049】
小径管4および大径管5は共に円形の断面を有している。小径管4は大径管5に対し径寸法が短くて、一回り小さいサイズに形成されており、大径管5の内部に互いの軸心を一致させつつ挿入可能に構成されている。
【0050】
そしてクラッシュボックス3の大径管5における前端(先端)を除いたほぼ全域が、ステイ7のクラッシュボックス取付孔75を介してサイドメンバ6の中空部65内に収容された状態で、大径管5の前端がステイ7に拡管加工(エキスバンド加工)によって固定される。すなわち図4に示すように大径管5の前端におけるステイ7のクラッシュボックス取付孔75の前後両側に、拡管加工によって、外径方向に突出し、かつ周方向に連続する拡管部55,55を形成し、この拡管部55,55をステイ7における取付孔75の周縁部に圧接係合させることにより、クラッシュボックス3の大径管5をステイ7に連結固定するものである。
【0051】
本発明において、拡管加工方法は、特に限定されるものではないが、金型を用いた拡管加工方法を好適に採用することができる。金型を用いた拡管加工方法としては、管内に設置される拡管金型に対し、マンドレルを押し込むプッシュ(Push)式のもの、マンドレルを引き込むプル(Pull)式のものが周知であるが、本発明においては、いずれの方式も好適に採用することができる。このように金型を用いた拡管加工を用いることによって、上記拡管部55や、後述の重合凸部41,51および拡管部45を、精度良く確実に形成することができる。
【0052】
またクラッシュボックス3における小径管4の後端部(基端部)が、大径管5の前端部(先端部)に挿入された状態で、両管4,5が重なり合った部分(重合部)、つまり小径管4の後端(基端)および大径管5の前端(先端)が拡管加工によって固定される。すなわち図4に示すように小径管4の後端および大径管5の前端に、上記と同様の拡管加工によって、外径方向に突出する重合凸部としての外向き凸部41,51を形成し、小径管4側の外向き凸部41の外周面を、大径管5側の外向き凸部51の内周面に圧接係合することによって、小径管4を大径管5に連結固定(締結固定)するものである。
【0053】
なお、本実施形態においては、外向き凸部41,51は、小径管4および大径管5の周方向に連続して全周にわたって形成されている。
【0054】
ここで、本実施形態においては、小径管4および大径管5のうち、大径管5が、重合凸部41,51の突出方向(管4,5の外径方向)側に配置されるため、変形管として構成されるとともに、小径管4が、重合凸部41,51の反突出方向(管4,5の内径方向)側に配置されるため、残りの管をなす非変形管として構成される。
【0055】
また本実施形態において、外向き凸部41,51は、ステイ7よりも内側、つまりサイドメンバ6の内部に配置されている。
【0056】
図1,2に示すようにバンパーリインフォース2は、アルミニウムまたはその合金を素材とする押出形材、板材、引抜形材等や、鋼材を素材とする板プレス品等によって構成されている。
【0057】
このバンパーリインフォース2は、断面形状において、上下方向が長い縦長の長方形に形成された外周壁21と、その外周壁21の高さ方向中間位置で、外周壁21の前後壁間に架橋状に一体形成された水平な補強用間仕切り壁22(図1参照)とを備え、いわゆる断面「日」の字形状に形成されている。なお間仕切り壁22は、クラッシュボックス3が取り付けられる部分を除いて、バンパーリインフォース2の長さ方向に連続して形成されている。
【0058】
さらにバンパーリインフォース2は、平面視において、車幅方向の両側部が後方へ曲げ加工されることによって、中間部が前方へ少し張り出すように形成されている。
【0059】
またバンパーリインフォース2における長さ方向(車幅方向)の両側端部には、外周壁21の前後壁に、それぞれ前後に貫通するクラッシュボックス取付孔(小径管取付孔)25,25が形成されている。
【0060】
そして図2,5に示すようにクラッシュボックス3における小径管4の前部(先端部)が、バンパーリインフォース2における前後両壁のクラッシュボックス取付孔25,25に挿入された状態で、小径管4の前部がバンパーリインフォース2に拡管加工によって固定される。すなわち小径管5の前部におけるバンパーリインフォース2のクラッシュボックス取付孔25,25の前後両側に、上記と同様の拡管加工によって、外径方向に突出し、かつ周方向に連続する拡管部45,45を形成し、この拡管部45,45をバンパーリインフォース2における取付孔25,25の周縁部に圧接係合させることにより、クラッシュボックス2の小径管4をバンパーリインフォース2に連結固定するものである。
【0061】
本実施形態の衝撃吸収装置において、組付手順は、特に限定されるものではないが、小径管4と大径管5とを連結する前に、大径管5をステイ7に取り付けるのが良い。
【0062】
すなわち、小径管4および大径管5を連結した後、大径管5をステイ7に取り付けようとすると、大径管5の内側に内径管4が配置された状態で、大径管5のみを拡管加工してステイ7に取り付ける必要があり、その拡管加工が困難になるおそれがある。従って既述したように、小径管4および大径管5を連結する前に、大径管5をステイ7に取り付けておくのが良い。
【0063】
また小径管4のバンパーリインフォース2への取付は、どの段階で行っても良く、例えば小径管4のバンパーリインフォース2への取付と、小径管4および大径管5の連結とを同時に行うことも可能である。
【0064】
以上の構成における本実施形態の自動車用衝撃吸収装置において、図6の実線に示す状態(初期状態)で、バンパーリインフォース2に衝突による衝撃が加わった際には、同図の想像線に示すように、クラッシュボックス3における小径管4が、その外向き凸部41によって大径管5の周壁を外径方向に押し広げるように塑性変形(拡径変形)させながら、大径管5内に圧入されていき、そのときの拡径変形によって衝突エネルギーが吸収される。なお、図6においては、拡管変形の挙動等の発明の理解を容易にするため、外向き凸部41,51の形状や大きさを、図2,3のものとは異ならせて示している。
【0065】
以上の構成による本実施形態の衝撃吸収装置によれば、クラッシュボックス3における小径管4の外向き凸部41によって大径管5の周壁を連続して拡径変形させて、衝突エネルギーを吸収するものであるため、従来のクラッシュボックスを有する衝撃吸収装置と比較して、衝撃吸収特性を著しく向上させることができる。
【0066】
すなわち、小径管を縮径変形させつつ大径管に圧入させる縮径変形と、縮径変形後に大径管を蛇腹状に変形させる圧壊変形との2段階の塑性変形を行う従来のクラッシュボックス(上記特許文献3参照)が設けられた衝撃吸収装置においては、図9に示すように、衝突初期では、小径管の縮径変形によって衝突エネルギーを吸収し、その縮径変形終了後は、外側の大径管による蛇腹状の圧壊変形に移行して、その圧壊変形によって衝撃エネルギーを吸収するようにしているため、軸方向の変形量によって荷重(塑性変形に必要な荷重)が大きく変動してしまう。このため図9に示す従来の衝撃吸収装置では、最大荷重と平均荷重との間に大きな差が生じてしまい、衝突エネルギーを軸方向全域において安定して吸収できず、衝撃吸収特性の低下を来すことになる。さらに縮径変形から蛇腹状の圧壊変形に移行した直後の最大荷重が極端に大きくなるため、軸方向の変位量に対する荷重の変動が一層大きくなってしまい、衝撃吸収特性を一層低下させてしまう。
【0067】
これに対し、本実施形態の衝撃吸収装置では、クラッシュボックス3における小径管4の外向き凸部41によって大径管5の周壁を連続して拡径変形させるものであるため、図7の実線に示すように、拡径変形による荷重(拡径変形に必要な荷重)は、軸方向の変位量にかかわらず、変動が小さくほぼ一定となり、最大荷重に対する平均荷重の比(平均荷重/最大荷重)が、0.8を超える理想的な衝撃吸収特性を得ることができ、衝突エネルギーを軸方向全域においてバランス良く安定して吸収することができる。しかも、本実施形態のクラッシュボックス3では、変形初期の最大荷重(初期荷重)は、小径管4の外向き凸部41による大径管5の拡径方向の変形に基づくものであるため、蛇腹状に圧壊変形させる際の初期最大荷重に比べて、初期荷重が小さくなって、それ以降の荷重との差も小さくなり、衝突直後から衝突エネルギーをスムーズに吸収することができる。
【0068】
また、拡径変形量を変更することによって、エネルギー吸収量の増減を変更できるため、必要に応じて、衝突エネルギーの吸収量を簡単に調整することができる。例えば拡径変形量を調整するだけで、図7の一点鎖線に示すような低速衝突用の衝撃吸収特性や、同図の実線に示すような高速衝突用の衝撃吸収特性を有する衝撃吸収部材を簡単かつ確実に得ることができる。
【0069】
このように本実施形態のクラッシュボックス3によれば、従来の圧壊変形させるクラッシュボックス(図9参照)と比較して、クラッシュボックスの有効ストローク長が増大するとともに、最大荷重と平均荷重との差が小さく、かつ軸方向の変位量にかかわらず、荷重がほとんど変動しないという理想的な衝撃吸収特性を得ることができる。
【0070】
また本実施形態のクラッシュボックス3においては、衝突エネルギー吸収時に小径管4が圧入される大径管5の長さ方向(軸方向)ほぼ全域を、サイドメンバ6内に配置しているため、小径管4が大径管5(サイドメンバ6)内に押し込まれて、バンパーリインフォース2がサイドメンバ6に衝突するまで、衝突エネルギーを吸収することができる。換言すれば、サイドメンバ6の前端とバンパーリインフォース2との間に潰れ残り部(小径管4)が残存することがなく、その間を全て有効ストローク長として活用することができる。このため本実施形態のクラッシュボックス3は、例えば従来の蛇腹状に圧壊変形させるクラッシュボックスや、小径管部を大径管部に、両者間の段差部を内側に捲き込ませつつ没入させるクラッシュボックス(特許文献1,2参照)等のように、サイドメンバとバンパーリインフォースとの間に潰れ残り部が残存するものと比べて、有効ストローク長を長くすることができる。
【0071】
このように本実施形態のクラッシュボックス3は、限られた狭い設置スペース内であっても、その設置スペースの全長を有効ストローク長として活用することができる。すなわち本実施形態のクラッシュボックス3によれば、有効ストローク長を最大限に設定でき、衝突エネルギーの吸収量を増大できて、より一層優れた衝撃吸収特性を得ることができる。
【0072】
ところで、上記実施形態においては、大径管5を拡径変形させて、衝突エネルギーを吸収するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、小径管を縮径変形させて、衝突エネルギーを吸収するようにしても良い。
【0073】
例えば図8に示すように、クラッシュボックス3における小径管4と大径管5とを連結する際に、両管4,5の重合部において、金型を用いた縮管加工によって、内径方向に突出する重合凸部としての内向き凸部42,52を形成して、大径管5を小径管4に連結固定する。この変形例においては、小径管4および大径管5のうち、小径管4が内向き凸部(重合凸部42,52)の突出方向側に配置されるとともに、大径管5が非突出方向側に配置されている。従って、この変形例では、上記実施形態とは異なり、小径管4が変形管として構成されるとともに、大径管5が残り一方の管である非変形管として構成される。この変形例において、他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0074】
そしてこの変形例においては、衝突時に小径管4が大径管5内に圧入される際に、大径管5の内向き凸部52によって小径管4の周壁を内径方向に押し込まれるように塑性変形(縮管変形)させることにより、衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【0075】
なお、上記実施形態においては、クラッシュボックス3における小径管4および大径管5の全周に、周方向に連続する重合凸部を設けるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、周方向の少なくとも一部に重合凸部を設けるようにしても良い。例えば、周方向に間隔をおいて、2つ以上の重合凸部を設けるようにしても良い。
【0076】
また本発明において、外向き凸部や内向き凸部等の重合凸部の高さ(拡管量や縮管量)は特に限定されるものではない。すなわち重合凸部の高さによって、荷重(エネルギー吸収量)が変動するものであるため、重合凸部の高さは、衝撃吸収部材(クラッシュボックス)として必要な荷重に合わせて適宜設定すれば良い。
【0077】
さらに上記実施形態においては、小径管4および大径管5として断面円形のものを用いているが、小径管および大径管の断面形状は、特に限定されるものではなく、四角形等の多角形状、楕円形状、長円形状、異形状の断面形状の小径管および大径管を用いるようにしても良い。さらに小径管と大径管とを必ずしも相似形に形成する必要はなく、小径管を大径管内に挿入できる形状であれば、小径管と大径管とを異なる断面形状に形成するようにしても良い。
【0078】
また上記実施形態においては、クラッシュボックスの大径管のほぼ全域をサイドフレーム内に収容するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、大径管の少なくとも一部が、サイドフレーム内に収容されていれば良い。もっとも、有効ストローク長を長くするためには、上記実施形態や図8の変形例のように、可能な限り、大径管をサイドフレームに収容しておくのが良い。
【0079】
さらに本発明においては、特に、図8の変形例のように、重合凸部を内向き凸部42,52によって構成する場合には、大径管5の先端部をサイドフレームよりも前方に突出するように配置しておき、その突出部(サイドフレームの前方)に、上記内向き凸部42,52等の重合凸部を形成するようにしても良い。もっとも、上記実施形態のように、重合凸部を外向き凸部41,51によって構成する場合には特に、外向き凸部41,51をサイドフレームの内部に形成しておくのが良い。すなわち外向き凸部41,51をサイドフレーム内に配置しておくことにより、大径管5における拡径変形部を全てサイドフレーム内に配置できるため、有効ストローク長を長く形成することができる。
【0080】
また上記実施形態においては、本発明の衝撃吸収部材としてのクラッシュボックスを、自動車のフロントエンドに設けられるバンパ−のバンパービームに適用した場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明の衝撃吸収部材は、大型車両のフロントアンダーランプロテクタのクラッシュボックス、さらには歩行者保護用や乗務員保護用のクラッシュボックスにも適用することができる。
【0081】
また、本発明の衝撃吸収部材は、自動車のリアエンドに設けられるバンパービームにも採用することができる。リアエンドに設けられる場合には、言うまでもなく、先端側が後側となり、基端側が前側となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
この発明の車両用衝撃吸収部材は、自動車用のバンパービームのクラッシュボックス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1:バンパービーム
2:バンパーリインフォース
25:クラッシュボックス取付孔(小径管取付孔)
3:クラッシュボックス
4:小径管
41:外向き凸部(重合凸部)
42:内向き凸部(重合凸部)
45:拡管部
5:大径管
51:外向き凸部(重合凸部)
52:内向き凸部(重合凸部)
55:拡管部
6:サイドメンバ(サイドフレーム)
65:中空部
7:ステイ
75:クラッシュボックス取付孔(大径管取付孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造のサイドフレームを有する車両に適用される車両用衝撃吸収部材であって、
小径管の基端部が大径管の先端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工または縮管加工されて、外径方向または内径方向に突出する重合凸部が形成されることにより、前記小径管および前記大径管が連結され、
前記大径管が、その少なくとも一部が前記サイドフレームの先端部内に収容された状態で前記サイドフレームに固定されて、前記小径管が前記サイドフレームの先端から突出する態様に配置され、
前記小径管および大径管のうち、前記重合凸部の突出方向側に配置される管を変形管とし、残り一方の管を非変形管として、
前記小径管にその先端側から軸方向に沿う衝撃が加わった際に、前記非変形管の重合凸部によって、前記変形管の周壁が外径方向または内径方向に塑性変形されつつ、前記小径管が前記大径管内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるとともに、前記小径管の少なくとも基端部が前記サイドフレーム内に収容されるようにしたことを特徴とする車両用衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記大径管の軸方向の先端部を除いたほぼ全域が前記サイドフレーム内に配置されるとともに、
前記小径管のほぼ全域が、前記大径管内に圧入可能に構成される請求項1に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記重合凸部は、前記サイドフレーム内に配置される請求項1または2に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記重合凸部は外径方向に突出する外向き凸部によって構成され、
前記小径管に衝撃が加わった際に、前記小径管の前記外向き凸部によって、前記変形管をなす前記大径管の周壁が外径方向に押し広げられるように塑性変形されるようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記重合凸部は内径方向に突出する内向き凸部によって構成され、
前記小径管に衝撃が加わった際に、前記大径管の前記内向き凸部によって、前記変形管をなす前記小径管の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形されるようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管における周方向の全域に形成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管の周方向の一部に形成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記重合凸部は、金型を用いた拡管加工または縮管加工によって形成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項9】
車両の両側に前後方向に延びる中空構造のサイドフレームを有する車両に適用される衝撃吸収装置であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材によって構成されるクラッシュボックスと、
前記クラッシュボックスにおける小径管の先端に取り付けられ、かつ車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースとを備えたことを特徴とする車両用衝撃吸収装置。
【請求項10】
前記サイドフレームの先端面にステイが取り付けられ、そのステイに設けられた大径管取付孔に、前記大径管が挿通配置された状態で、前記大径管の先端が拡管加工されて、その拡管部が前記ステイの大径管取付孔周縁部に圧接係合されることにより、前記大径管が前記ステイを介して前記サイドフレームに取り付けられる請求項9に記載の車両用衝撃吸収装置。
【請求項11】
前記バンパーリインフォースに設けられた小径管取付孔に、前記小径管が軸方向に沿って挿通配置された状態で、前記小径管の先端部が拡管加工されて、その拡管部が前記バンパーリインフォースの小径管取付孔周縁部に圧接係合されることにより、前記小径管に前記バンパーリインフォースが取り付けられる請求項9または10に記載の車両用衝撃吸収装置。
【請求項12】
車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースを支持し、かつ前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスであって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材によって構成されるとともに、
前記小径管の先端に前記バンパーリインフォースが取り付けられることを特徴とするクラッシュボックス。
【請求項13】
車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、
前記バンパーリインフォースを支持し、かつ前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスとを備え、
前記クラッシュボックスが、請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収部材によって構成されるとともに、
前記小径管の先端に前記バンパーリインフォースが取り付けられることを特徴とするバンパービーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40917(P2012−40917A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182780(P2010−182780)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)