説明

車両用通信装置及びその車両用通信装置を用いた車両用データ通信システム

【課題】各ノードが、外部装置に対して車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送する際に、通信負荷の増加や、不揮発性メモリの使用容量の増加を抑制すること。
【解決手段】複数のノードの中で、外部装置である診断装置30と直接的に通信を行うDoIPエッジノード14,24に車両識別コードVINを記憶させ、他のノード16,18,26への車両識別要求メッセージに対して車両識別応答メッセージを返送する際にも、そのDoIPエッジノード14,24に記憶された車両識別コードVINを利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPベースのネットワークを介して外部装置と通信可能に接続される車両用通信装置、及び、それら外部装置と車両用通信装置とからなる車両用データ通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載された電子制御システムと外部装置(診断装置)とを通信可能に接続し、例えば電子制御システムから異常データ(ダイアグコード)などを読みだすことなどが行われている。この電子制御システムと外部装置との通信は、例えば特許文献1に記載されるように、CANやKWPといったISO14230に規定された通信規格に従って実現されている。また、電子制御システムにおける制御ECUの内部データの読み出しや、制御プログラムの書き換えを行う必要がある場合などにも、同様に外部装置を電子制御システムに通信可能に接続して、必要なデータのやり取りを行う場合もある。
【0003】
近年、車両に搭載される電子制御システムの数が増加していることに加え、それぞれの電子制御システムの機能数の増加や、記憶容量の増大等のため、外部装置との間でやり取りされるデータ量も今後飛躍的に増加することが予想される。このため、コンピュータネットワークと同様の通信規格(インターネットプロトコル:IP)を用いて、車載電子制御システムと外部装置との通信をより効率的に行うことが検討されている。
【0004】
具体的には、IPベースのネットワークを利用して、車両に搭載された車載電子制御システムと外部装置とが通信を行うための規格が、ISO13400として検討されている。このIPベースのネットワークでは、ネットワークに接続される通信端末(ノード)はそれぞれ固有のIPアドレスを持ち、そのIPアドレスにより、通信されるメッセージの送信元や送信先のノードが指定される。そして、外部装置及び車両は、それぞれ通信端末を有し、外部装置は、これの通信端末を経由して、電子制御システムの制御ECUとの間でメッセージの交換を行い、各種のデータの読み出しや、データの書き換えを行ったりする。なお、車両においては、当該車両内における電子制御システムの内部ネットワーク構成などに応じて、通常、複数の通信端末が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−318996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、IPベースのネットワークを利用する場合、そのネットワークに、複数の車両の通信端末が同時に接続されることが起こりえる。そのため、外部装置は、ネットワークに接続された通信端末が、いずれの車両に紐づくものであるかを識別する必要がある。
【0007】
ISO13400では、この識別のために、車両識別コード(Vehicle Identification Number:VIN)を用いることが規定されている。例えば、外部装置は、ネットワークに接続された各通信端末に対して識別要求メッセージを送信し、各通信端末は、そのIPアドレスとともに車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送するようにする。これにより、外部装置は、車両識別コードを手がかりとして、各通信端末がいずれの車両に紐づくものであるかを識別できるようになる。
【0008】
なお、車両識別コードは、車の仕様やオプション、製造工場などを示す文字列について規格化されたものであり、各車両に固有のものである。この車両識別コードは、車両本体や各部品に付される他、例えば、エンジン制御システムの制御ECUの不揮発性メモリなどに書き込まれたりする。これは、その車両識別コードを読み出すことにより、制御ECUの仕様等を把握することができ、例えば診断装置において診断を行う際に、どのような診断プログラムを使用すべきかを適切に定めることができるためである。
【0009】
従って、各通信端末が、車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送する際、車両識別コードを記憶した制御ECUから、その車両識別コードを読み出して、識別応答メッセージに付加することが考えられる。
【0010】
しかしながら、この場合、各通信端末は、予め車両識別コードを記憶している制御ECUを記憶しておき、それぞれ、その制御ECUと通信を行って、車両識別コードを読み出さなければならない。その結果、車両の内部ネットワークにおける通信負荷が増加するとともに、識別応答メッセージを返送するまでの時間が長くなるという問題が生じる。
【0011】
一方、このような問題を回避するために、各通信端末の不揮発性メモリに、それぞれ車両識別コードを記憶させておき、外部装置からの識別要求メッセージに対して、その記憶された車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送するように構成することが考えられる。しかしながら、この場合には、同一の車両に設けられた複数の通信端末において、同じデータがそれぞれ記憶されることになるので、不揮発性メモリのメモリ容量が増加してしまう点や、それぞれの不揮発性メモリに車両識別コードを記憶させる作業が必要となる点で問題がある。
【0012】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、上記の問題点を解決しつつ、車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送することが可能な車両用通信装置及びその車両用通信装置を用いた車両用データ通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の車両用通信装置は、IPベースのネットワークを介して外部装置と通信可能に接続されるものであって、
それぞれIPアドレスが付与される複数のノードを有し、その複数のノードの中の1つのノードが、外部装置から送信されるメッセージを受信し、そのメッセージの送信先に応じて、他のノードにルーティングしたり、制御ECUにゲートウェイしたりするエッジノードであり、
エッジノードは、各車両に固有の車両識別コードを記憶しており、外部装置から各ノードに対して送信される識別要求メッセージに対し、エッジノードに記憶された車両識別コードを用いて、その車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送することを特徴とする。
【0014】
上述したように、請求項1に記載の車両用通信装置では、複数のノードの中で、外部装置と直接的に通信を行うエッジノードに車両識別コードを記憶させ、他のノードへの識別要求メッセージに対して識別応答メッセージを返送する際にも、そのエッジノードに記憶された車両識別コードを利用することとした。このため、それぞれのノードへの識別要求メッセージに対して識別応答メッセージを返送する際に、各ノードが、それぞれ、車両識別コードを記憶した制御ECUから車両識別コードを読み出す必要がない。このため、通信負荷の増加や、応答識別メッセージを返送するまでの時間が長くなることを回避することができる。また、各ノードの不揮発性メモリに車両識別コードを予め記憶させておく必要もないので、不揮発性メモリの容量を低減できるとともに、各ノードにそれぞれ車両識別コードを記憶させるための作業も不要とすることができる。
【0015】
請求項2に記載したように、エッジノードは、外部装置から他のノードに対する識別要求メッセージを受信したとき、その識別要求メッセージを、該当する他のノードにルーティングすることなく、その該当する他のノードに代わって、車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送するようにしても良い。この場合、エッジノードから他のノードへの識別要求メッセージのルーティングや、他のノードにて作成された識別応答メッセージの外部装置へのルーティングを行う必要がないので、識別応答メッセージを返送するための処理を効率的に行うことができる。
【0016】
ただし、請求項3に記載したように、エッジノードを除く他のノードは、エッジノードによりルーティングされた外部装置からの識別要求メッセージを受信したとき、車両識別コードを含まない識別応答メッセージを作成して、エッジノードに向けて送信し、エッジノードは、車両識別コードを含まない識別応答メッセージを外部装置に向けてルーティングする際に、その識別応答メッセージに、自身に記憶された車両識別コードを付与するようにしても良い。このようにしても、少なくとも他のノードは、制御ECUから車両識別コードを取得せずに済むので、通信負荷の低減や、識別応答メッセージの返送までの時間の短縮に効果がある。
【0017】
また、請求項4に記載したように、エッジノードを除く他のノードは、外部装置からの識別要求メッセージに対する識別応答メッセージを作成する以前に、エッジノードに記憶された車両識別コードを取得して一時的に保存しておき、その一時保存した車両識別コードを用いて識別応答メッセージを作成するようにしても良い。このように、他のノードが、エッジノードから車両識別コードを取得して一時的に保存しておき、その一時保存した車両識別コードを用いて識別応答メッセージを返送するようにすると、ノード間の通信のみで車両識別コードを取得できるので、制御ECUから車両識別コードを取得する場合に比較して通信負荷を低減することができる。また、他のノードは、例えば、車両の電源が投入されたときなどに、識別応答メッセージを作成する以前に、車両識別コードを取得しておくため、識別応答メッセージを返送するまでの時間の短縮に効果がある。なお、他のノードは、車両識別コードを一時的に保存するだけであるため、車両識別コードを予め記憶しておくための不揮発性メモリを用意する必要はなく、また、不揮発性メモリへ記憶させるための作業も不要である。
【0018】
請求項5に記載したように、車両識別コードは、予め制御ECUの1つに記憶されており、エッジノードは、外部装置から識別要求メッセージを受信するまでに、その制御ECUから車両識別コードを読み出して、自身のメモリに記憶しておくようにしても良い。すなわち、例えば、車両の電源が投入されたときに、車両識別コードを記憶する制御ECUにアクセスして、その制御ECUから車両識別コードを読み出すようにしても良い。この場合、制御ECUから車両識別コードを取得するのはエッジノードのみであるため、各ノードがそれぞれ車両識別コードVINを取得する場合に比較すれば通信負荷を低減することができる。また、車両識別コードの記憶は、外部装置から識別要求メッセージを受信するまでに行われているので、識別応答メッセージを返送するまでの時間が長くなってしまうこともない。
【0019】
また、請求項6に記載したように、車両識別コードを含むメッセージが、ネットワークに接続された外部装置からエッジノードを介して1つの制御ECUに送信されることにより、その制御ECUに車両識別コードが記憶される場合、エッジノードは、車両識別コードを含むメッセージを中継する際に、その車両識別コードを自身のメモリにも記憶するようにしても良い。これにより、車両識別コードを記憶している制御ECUから、別途、車両識別コードを取得する処理を行わずに済むので、極めて容易に、エッジノードに車両識別コードを記憶させることができる。
【0020】
請求項7〜12に記載した発明は、車両用通信装置と外部装置とが、IPベースのネットワークを介して通信可能に接続された車両用データ通信システムに関するものであるが、それらの作用効果については、上記請求項1〜6と同様であるため、説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態による車両用データ通信システムの構成を示す構成図である。
【図2】各ノードを識別するための情報を得るための通信手順の概略を示す図である。
【図3】DoIPエンティティ12の各ノード14,16,18が、ECU1から車両識別コードVINを取得する場合の処理手順を示すシーケンス図である。
【図4】DoIPエッジノード14によって実行される、車両識別応答メッセージの返送処理が組み込まれたルーティング処理を示すフローチャートである。
【図5】図4のフローチャートに示す車両識別応答メッセージの返送処理手順を示すシーケンス図である。
【図6】第2実施形態における、車両識別応答メッセージの返送処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートに示す車両識別応答メッセージの返送処理手順を示すシーケンス図である。
【図8】第3実施形態における、車両識別応答メッセージの返送処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートに示す車両識別応答メッセージの返送処理手順を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。まず、図1において、10は車両Aのネットワークを示し、20は車両Bのネットワークを示している。
【0023】
車両Aのネットワーク10は、IPベースのネットワークに接続され、通信プロトコルとして、ISO13400に規定されたDiagnostics on Internet Protocol(DoIP)を用いるDoIPエンティティ12を有している。DoIPエンティティ12は、外部装置である診断装置30と直接的にメッセージのやり取りを行うDoIPエッジノード14を含んでいる。DoIPエッジノード14は、診断装置30からのメッセージを受信したとき、そのメッセージの送信先が、他のDoIPエンティティ12、具体的には、DoIPゲートウェイノード16あるいはDoIPノード18である場合、その送信先に向けてメッセージをルーティングする。なお、メッセージの送信先が、エッジノード14自身であれば、当然ではあるが、ルーティングを行わず、自身でそのメッセージを受信する。
【0024】
また、診断装置30からのメッセージの送信先が、DoIPエッジノード14に接続されたサブネットワーク内の制御ECU(ECU1,ECU2)である場合には、メッセージのプロトコル変換を行うとともに、プロトコル変換されたメッセージを送信先に転送する。このようなプロトコル変換を伴うメッセージの転送を、以下、ゲートウェイと呼ぶ。このようなプロトコル変換が必要となるのは、サブネットワークにおいて用いられる通信プロトコルが、例えばCANやLINなど、IPベースのネットワークとは異なるためである。
【0025】
なお、DoIPエッジノード14は、図1に示すように、IPベースのネットワークに接続された第1の接続ポートと、他のDoIPエンティティ12とのネットワークに接続された第2の接続ポートとを有し、それぞれの接続ポートにIPアドレスが付与されている。
【0026】
DoIPエンティティ12は、さらに、DoIPゲートウェイノード16及びDoIPノード18を備えている。DoIPゲートウェイノード16は、IPアドレスを有し、そのIPアドレスを用いて、自身と、自身に接続されたサブネットワーク内の制御ECU(ECU3)へのアクセスを提供するものである。そして、診断装置30からのメッセージの送信先が、自身に接続されたサブネットワーク内の制御ECU(ECU3)である場合、そのメッセージを該当する制御ECUに向けてゲートウェイする。
【0027】
ただし、DoIPゲートウェイノード16は、車両におけるサブネットワークの数に応じて設けられたり、設けられなかったりする。すなわち、図1に示す例では、車両Aのネットワークが、サブネットワークA1とサブネットワークA2を有するため、それぞれのサブネットワークとIPベースのネットワーク間でメッセージをゲートウェイさせる必要がある。そのため、DoIPエッジノード14に加えて、DoIPゲートウェイノード16が設けられている。また、車両のネットワークが、より多くのサブネットワークを含む場合には、より多数のDoIPゲートウェイノード16が設けられる場合もあり得る。一方、車両Bのネットワークのように、サブネットワークB1しか設けられていない場合には、DoIPエッジノード24のみで対応可能である。このため、車両Bのネットワーク20のDoIPエンティティ22には、DoIPゲートウェイノードが設けられていない。
【0028】
DoIPノード18は、サブネットワークに接続されておらず、自身に対するアクセスを提供するために、IPアドレスを有している。
【0029】
車両Bのネットワーク20も、DoIPゲートウェイノードが設けられていない点を除き、車両Aのネットワーク10とほぼ同じ構成を有している。なお、車両Aのネットワーク10及び車両Bのネットワーク20にそれぞれ含まれる、DoIPエンティティ12,22及び制御ECUが、本発明における車両用通信装置に相当する。
【0030】
これら車両Aのネットワーク10及び車両Bのネットワークが、診断装置30を含む外部ネットワークと接続される。その診断装置30もIPアドレスを有しており、上述したDoIPエンティティ12,22における各ノードとの間で、IPアドレスを用いて送信先を特定しつつ、メッセージのやり取りを行うことが可能である。診断装置30は、そのようなメッセージのやり取りを通じて、制御ECUからダイアグコードを読みだしたり、内部データを読みだしたり、車両不良時の診断を行ったりする。さらに、診断装置30は、制御ECUにおける制御プログラムを更新するために、制御プログラムの書き換えを行うこともある。
【0031】
なお、診断装置30と、各車両のDoIPエンティティ12,22とをIPベースのネットワークを介して接続する際、その接続は有線にて行なっても良いし、無線にて行なっても良い。
【0032】
ここで、上述したようなIPベースのネットワークを介して、診断装置30に対して車両ネットワークにおけるDoIPエンティティ12,22を通信可能に接続する場合、図1に示すように、複数の車両A,BのDoIPエンティティ12,22が同時に接続されることが起こりえる。診断装置30は、上述したように、ダイアグコードや内部データを読みだしたり、車両診断を行ったり、制御プログラムの書き換えを行ったりするものである。従って、診断装置30は、そのような処理の対象となる車両を特定する必要があり、そのためには、DoIPエンティティ12,22に属し、IPアドレスを有する各ノードが、いずれの車両に紐付けられるものかを識別する必要がある。
【0033】
この識別のために、ISO13400では、車両識別コード(Vehicle Identification Number:VIN)を用いることが規定されている。図2に、ISO13400に規定されている識別のための通信手順を示す。図2に示すように、まず、DoIPエンティティ12,22と診断装置30とは、IPアドレスの取得処理40を行う。このIPアドレスの取得処理では、例えば診断装置30に、いわゆるDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)サーバ機能を持たせ、DoIPエンティティ12,22の各ノード及び自身に、自動的に固有のIPアドレスを割り当てるようにする。あるいは、IPv6のように、ネットワークに流れている情報から、各ノードがそれぞれ自動でIPアドレスを設定するようにすることも可能である。
【0034】
IPアドレスの取得処理40の後、DoIPエンティティ12,22に属する各ノード14,16,18,24,26は、それぞれマルチキャストにて、自身のIPアドレスを含むアナウンスメッセージを500msの間隔で3回送信する。診断装置30は、そのアナウンスメッセージを受信し、対応するノード14,16,18,24,26に対して、車両識別要求メッセージを送信する。対応するノード14,16,18,24,26が、その車両識別要求メッセージを受信すると、それに応答して、メッセージ送信元の診断装置30に、車両識別コードを含む車両識別応答メッセージを返送する。これにより、診断装置30は、各ノード14,16,18,24,26が、いずれの車両に属するものであるかを識別することが可能になる。
【0035】
ここで、車両Aのネットワークにおいて、例えばECU1に車両識別コードVINが記憶されており、DoIPエンティティ12の各ノード14,16,18が、車両識別応答メッセージを返送するために、ECU1から車両識別コードVINを取得する場合の処理シーケンスの一例を図3に示す。なお、車両識別コードVINは、記憶容量削減や、製造工程での書き込みの手間を減らすため、単一の制御ECUのみに書き込まれることが多い。
【0036】
図3に示す例では、診断装置30は、DoIPゲートウェイノード16に対して車両識別要求メッセージを送信している。車両識別要求メッセージは、まず、DoIPエッジノード14にて受信される。そして、DoIPエッジノード14は、自身が保持しているIPアドレスの経路制御表に従って、車両識別要求メッセージをDoIPゲートウェイノード16にルーティングする。
【0037】
DoIPゲートウェイノード16は、車両識別要求メッセージを受信すると、DoIPエッジノード14を介して、ECU1にVIN取得要求メッセージを送信する。なお、DoIPエンティティ12の各ノード14,16,18には、ECU1が車両識別コードVINを記憶しているとの情報が予め与えられている。
【0038】
ECU1は、VIN取得要求メッセージを受信すると、DoIPエッジノード14を介して、車両識別コードVINを含む応答メッセージをDoIPゲートウェイノード16に返送する。すると、DoIPゲートウェイノード16は、その車両識別コードVINを含む車両識別応答メッセージを生成し、DoIPエッジノード14を介して、診断装置30に返送する。
【0039】
このように、制御ECUのいずれかに車両識別コードVINが記憶されていると、DoIPエンティティ12の各ノード14,16,18が車両識別要求メッセージを受信するごとに、その制御ECUから車両識別コードを取得する必要がある。このため、車両内のネットワークにおける通信負荷が増加するとともに、車両識別応答メッセージを返送するまでの時間が長くなるという問題が生じる。
【0040】
そこで、本実施形態では、複数のノード14,16,18、24,26の中で、診断装置30と直接的に通信を行うDoIPエッジノード14,24に車両識別コードVINを記憶させた。そして、その他のノード16,18,26への車両識別要求メッセージに対して車両識別応答メッセージを返送する際にも、そのDoIPエッジノード14,24に記憶された車両識別コードを利用することとした。これにより、通信負荷が増加することを防止するとともに、車両識別コードVINを記憶する記憶容量の増加も抑制することが可能となる。
【0041】
具体的には、本実施形態では、DoIPエッジノード14,24の不揮発性メモリ14a,24aに、予め、それぞれの車両識別コードVIN1,VIN2を記憶させておく。そして、DoIPエッジノード14,24に対して送信された車両識別要求メッセージはいうまでもなく、他のノード16,18,26に対して送信された車両識別要求メッセージについても、DoIPエッジノード14,24が、記憶した車両識別コードVINを用いて、車両識別応答メッセージを返送する。
【0042】
以下、このような車両識別応答メッセージの返送処理について、車両Aのネットワーク10を例として、図4のフローチャート及び図5のシーケンス図を用いて詳細に説明する。なお、図4のフローチャートは、DoIPエッジノード14によって実行されるルーティング処理を示しており、そのルーティング処理の特例として、上述した車両識別応答メッセージの返送処理が組み込まれている。
【0043】
まず、図4のフローチャートのステップS100では、DoIPエッジノード14が、自身に接続された他のDoIPエンティティ(DoIPゲードウェイノード16,DoIPノード18)のIPアドレスを取得する。この取得されたIPアドレスは、DoIPエッジノード14における経路制御表に登録される。そして、以後、診断装置30からのメッセージを受信した場合、経路制御表を参照して、そのメッセージに含まれるIPアドレスに対応する送信先に、メッセージをルーティングする。
【0044】
ステップS110では、DoIPエッジノード14が、なんらかのメッセージを受信した場合、そのメッセージに含まれるIPアドレスから、そのメッセージが、車両Aのネットワーク10のDoIPエンティティ12のいずれかのノード14,16,18に向けられたものか否かを判断する。このとき、DoIPエンティティ12のいずれかのノード14,16,18に向けられたものと判定されると、ステップS120の処理に進む。
【0045】
ステップS120では、受信したメッセージが車両識別要求メッセージであるか否かを判定する。この判定は、メッセージ本体(ペイロード)に含まれるメッセージの種別(ペイロードタイプ)を示すデータを参照することにより行われる。なお、診断装置30は、DoIPエンティティ12に含まれるすべてのノード14,16,18について、いずれの車両に紐付けられるものであるかを知る必要があるので、それら全てのノード14,16,18に対して、順次、車両識別要求メッセージを送信する。
【0046】
ステップS120の判定処理において、車両識別要求メッセージと判定された場合には、ステップS130の処理に進み、車両識別要求メッセージではないと判定された場合には、ステップS140の処理に進む。
【0047】
ステップS130では、DoIPエッジノード14において、記憶した車両識別コードVINを用いて、車両識別応答メッセージを作成して、返送する。この場合、車両識別要求メッセージに含まれる送信先のIPアドレスを、車両識別応答メッセージの送信元を示すIPアドレスとして流用する。
【0048】
一方、ステップS140では、DoIPエッジノード14は、通常どおり、自身の経路制御表を参照して、メッセージに含まれるIPアドレスに応じた送信先に、受信したメッセージをルーティングする。
【0049】
本実施形態における車両識別応答メッセージの返送処理によれば、図5に示すように、車両識別要求メッセージが、DoIPエッジノード14以外の、例えばDoIPゲートウェイノード16に向けられたものであっても、DoIPエッジノード14は、その車両識別要求メッセージをDoIPゲートウェイノード16にルーティングせず、DoIPゲートウェイノード16に成り代わって、車両識別応答メッセージを作成して返送する。
【0050】
このようにすると、DoIPエッジノード14からDoIPゲートウェイノード16などの他のノードへの車両識別要求メッセージのルーティングを行う必要がなくなる。さらに、それに起因して、DoIPエッジノード14は、他のノードにて作成された車両識別応答メッセージを、診断装置30へルーティングする必要もなくなる。このため、DoIPエンティティ12において、車両識別応答メッセージを返送するために必要となる通信負荷を大幅に低減することができるとともに、その返送までの時間を短縮することができ、車両識別応答メッセージの返送処理を効率的に行うことができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図6のフローチャート及び図7のシーケンス図に基づいて説明する。
【0052】
本実施形態では、上述した第1実施形態とは異なり、DoIPエッジノード14,24は、他のノードに対する車両識別要求メッセージをルーティングする。そして、車両識別要求メッセージを受信した他のノードが、車両識別応答メッセージを作成する。
【0053】
ただし、他のノードが車両識別応答メッセージを作成したとき、その車両識別応答メッセージ内の車両識別コードVINを書き込むべき領域は空のままにしておく。この車両識別応答メッセージは、DoIPエッジノード14,24を経由して、診断装置30に送信される。DoIPエッジノード14,24は、VIN書き込み領域が空のままの車両識別応答メッセージを診断装置30にルーティングするときに、その車両識別応答メッセージに、記憶している車両識別コードVINを書き込む。
【0054】
図6は、本実施形態における、車両識別応答メッセージの返信処理を説明するためのフローチャートである。図6において、まず、ステップS200及びステップS210は、第1実施形態のステップS100及びステップS110と同様の処理を行う。
【0055】
続くステップS220では、DoIPエッジノード14は、自身の経路制御表を参照して、メッセージに含まれるIPアドレスに応じた送信先に、受信したメッセージをルーティングする。そして、ステップS230において、他のノード16,18から、診断装置30にルーティングすべき、車両識別応答メッセージを受信したか否かを判定する。車両識別応答メッセージを受信したと判定した場合には、ステップS240の処理に進む。
【0056】
DoIPエッジノード14が受信した、他のノードからの車両識別応答メッセージは、まだ車両識別コードVINが書き込まれておらず、その書き込み領域は空のままである。そのため、車両識別応答メッセージをルーティングする前に、DoIPエッジノード14は、記憶している車両識別コードVINを用いて、車両識別応答メッセージに車両識別コードを書き込んで付与する。
【0057】
このようにしても、少なくとも他のノード(DoIPゲートウェイノード16,DoIPノードは、図7に示すように、車両識別コードVINを取得するために制御ECUと通信を行わずに済むので、通信負荷の低減や、車両識別応答メッセージの返送までの時間の短縮に効果がある。
【0058】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、図8のフローチャート及び図9のシーケンス図に基づいて説明する。
【0059】
本実施形態では、DoIPエッジノード14,24は、通常どおり、他のノードに対する車両識別要求メッセージを、IPアドレスに従い、該当する他のノードに向けてルーティングする。そして、車両識別要求メッセージを受信した他のノードが、車両識別コードVINを含んだ車両識別応答メッセージを作成する。
【0060】
ただし、他のノードは、車両識別コードVINを制御ECUから取得するのではなく、DoIPエッジノード14,24から取得する。また、その取得時期は、例えば、車両の電源投入時など、他のノードが、診断装置30から車両識別要求メッセージを受信する以前に行われる。
【0061】
図8は、本実施形態における、車両識別応答メッセージの返送処理を説明するためのフローチャートである。図8において、まず、ステップS300では、DoIPエッジノードが、記憶している車両識別コードVINを、他のDoIPエンティティ12に対して送信する。すると、他のDoIPエンティティ12、すなわち、DoIPゲートウェイノード16及びDoIPノード18は、車両識別コードVINを受け取り、自身のメモリに保存する。この場合、DoIPゲートウェイノード16及びDoIPノード18は、車両識別コードVINを不揮発性メモリに記憶する必要はなく、揮発性メモリに一時的に保存するだけで十分である。
【0062】
続くステップS300〜S330では、第2実施形態のステップS200〜S220と同様の処理が行われる。そして、本実施形態では、車両識別要求メッセージが、DoIPゲートウェイノード16やDoIPノード18にルーティングされると、DoIPゲートウェイノード16やDoIPノード18が、自身で、車両識別コードVINを含む車両識別応答メッセージを作成して、返送する。
【0063】
従って、DoIPエッジノード14は、ステップS340で、他のノードから診断装置30に向けた車両識別応答メッセージを受信したと判定したとき、ステップS350において、単に、その車両識別応答メッセージを診断装置30に向けてルーティングするだけで良い。
【0064】
つまり、本実施形態では、図9に示すように、DoIPゲートウェイノード16やDoIPノード18が、DoIPエッジノード14から車両識別コードを取得して一時的に保存しておき、その一時保存した車両識別コードを用いて識別応答メッセージを作成するようにした。従って、DoIPゲートウェイノード16やDoIPノード18は、ノード間の通信のみで車両識別コードVINを取得できるので、制御ECUから車両識別コードVINを取得する場合に比較して、通信負荷を低減することができる。また、DoIPゲートウェイノード16やDoIPノード18は、例えば、車両の電源が投入されたときなどに、車両識別コードVINを取得して一時保存しておくため、車両識別応答メッセージを返送するまでの時間も短縮することができる。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
【0066】
例えば、上述した第1〜第3実施形態では、車両識別コードVINは、DoIPエッジノード14,24の不揮発性メモリ14a,24aに予め書き込まれているものとして説明したが、車両識別コードVINのDoIPエッジノードへの書き込み方法は種々の方法が考えられる。
【0067】
例えば、車両識別コードVINは、予め制御ECUの1つに記憶されており、DoIPエッジノード14,24は、診断装置30から車両識別要求メッセージを受信する以前に、その制御ECUから車両識別コードVINを読み出して、自身のメモリに記憶しておくようにしても良い。例えば、車両の電源が投入されたときに、車両識別コードVINを記憶する制御ECUにアクセスして、車両識別コードVINを読み出すようにしても良い。この場合、DoIPエッジノード14,24は、車両識別コードVINを不揮発性メモリに記憶する必要はなく、揮発性メモリに保存しておけば十分である。
【0068】
この場合、制御ECUから車両識別コードを取得するのはDoIPエッジノードのみであるため、すべてのノードがそれぞれ制御ECUから車両識別コードを取得する場合に比較して、通信負荷を低減することができる。また、車両識別コードVINの記憶は、車両識別要求メッセージを受信する以前に行われるので、車両識別応答メッセージを返送するまでの時間が長くなってしまうこともない。
【0069】
また、車両識別コードVINの制御ECUへの書き込みが、制御ECU単体の状態で行われるのではなく、制御ECUが車両のネットワーク内に組み込まれた状態で行われる場合、車両識別コードVINを含むメッセージが、ネットワークに接続された外部装置からDoIPエッジノード14,24を介して該当する制御ECUに送信されることになる。
【0070】
このような場合、DoIPエッジノード14,18は、車両識別コードを含むメッセージを中継するので、その際に、その車両識別コードVINを読み出し、自身のメモリに記憶するようにしても良い。これにより、車両識別コードを記憶している制御ECUから、別途、車両識別コードを取得する処理を行わずに済むので、極めて容易に、DoIPエッジノード14,24に車両識別コードVINを記憶させることができる。
【符号の説明】
【0071】
12,22…DoIPエンティティ
14,24…DoIPエッジノード
16…DoIPゲートウェイノード
18,26…DoIPノード
30…診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IPベースのネットワークを介して外部装置と通信可能に接続される車両用通信装置であって、
それぞれIPアドレスが付与される複数のノードを有し、その複数のノードの中の1つのノードが、前記外部装置から送信されるメッセージを受信し、そのメッセージの送信先に応じて、他のノードにルーティングしたり、制御ECUにゲートウェイしたりするエッジノードであり、
前記エッジノードは、各車両に固有の車両識別コードを記憶しており、前記外部装置から各ノードに対して送信される識別要求メッセージに対し、前記エッジノードに記憶された車両識別コードを用いて、その車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送することを特徴とする車両用通信装置。
【請求項2】
前記エッジノードは、前記外部装置から他のノードに対する識別要求メッセージを受信したとき、その識別要求メッセージを、該当する他のノードにルーティングすることなく、その該当する他のノードに代わって、前記車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送することを特徴とする請求項1に記載の車両用通信装置。
【請求項3】
前記エッジノードを除く他のノードは、前記エッジノードによりルーティングされた前記外部装置からの識別要求メッセージを受信したとき、前記車両識別コードを含まない識別応答メッセージを作成して、前記エッジノードに向けて送信し、
前記エッジノードは、前記車両識別コードを含まない識別応答メッセージを前記外部装置に向けてルーティングする際に、その識別応答メッセージに、自身に記憶された車両識別コードを付与することを特徴とする請求項1に記載の車両用通信装置。
【請求項4】
前記エッジノードを除く他のノードは、前記外部装置からの識別要求メッセージに対する識別応答メッセージを作成する以前に、前記エッジノードに記憶された前記車両識別コードを取得して一時的に保存しておき、その一時保存した車両識別コードを用いて識別応答メッセージを作成することを特徴とする請求項1に記載の車両用通信装置。
【請求項5】
前記車両識別コードは、予め制御ECUの1つに記憶されており、前記エッジノードは、前記外部装置から識別要求メッセージを受信するまでに、前記制御ECUから車両識別コードを読み出して、自身のメモリに記憶しておくことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用通信装置。
【請求項6】
前記車両識別コードを含むメッセージが、前記ネットワークに接続された外部装置から前記エッジノードを介して1つの制御ECUに送信されることにより、その制御ECUに前記車両識別コードが記憶される場合、前記エッジノードは、前記車両識別コードを含むメッセージを中継する際に、その車両識別コードを自身のメモリにも記憶しておくことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用通信装置。
【請求項7】
IPベースのネットワークを介して通信可能に接続される、外部装置と車両用通信装置とからなる車両用データ通信システムであって、
前記車両用通信装置は、IPアドレスが付与される複数のノードを有し、その複数のノードの中の1つのノードが、前記外部装置から送信されるメッセージを受信し、そのメッセージの送信先に応じて、他のノードにルーティングしたり、制御ECUにゲートウェイしたりするエッジノードであり、
前記エッジノードは、各車両に固有の車両識別コードを記憶しており、前記外部装置から各ノードに対して送信される識別要求メッセージに対し、前記エッジノードに記憶された車両識別コードを用いて、その車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送することを特徴とする車両用データ通信システム。
【請求項8】
前記エッジノードは、前記外部装置から他のノードに対する識別要求メッセージを受信したとき、その識別要求メッセージを、該当する他のノードにルーティングすることなく、その該当する他のノードに代わって、前記車両識別コードを含む識別応答メッセージを返送することを特徴とする請求項7に記載の車両用データ通信システム。
【請求項9】
前記エッジノードを除く他のノードは、前記エッジノードによりルーティングされた前記外部装置からの識別要求メッセージを受信したとき、前記車両識別コードを含まない識別応答メッセージを作成して、前記エッジノードに向けて送信し、
前記エッジノードは、前記車両識別コードを含まない識別応答メッセージを前記外部装置に向けてルーティングする際に、その識別応答メッセージに、自身に記憶された車両識別コードを付与することを特徴とする請求項7に記載の車両用データ通信システム。
【請求項10】
前記エッジノードを除く他のノードは、前記外部装置からの識別要求メッセージに対する識別応答メッセージを作成する以前に、前記エッジノードに記憶された前記車両識別コードを取得して一時的に保存しておき、その一時保存した車両識別コードを用いて識別応答メッセージを作成することを特徴とする請求項7に記載の車両用データ通信システム。
【請求項11】
前記車両識別コードは、予め制御ECUの1つに記憶されており、前記エッジノードは、前記外部装置から識別要求メッセージを受信するまでに、前記制御ECUから車両識別コードを読み出して、自身のメモリに記憶しておくことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の車両用データ通信システム。
【請求項12】
前記車両識別コードを含むメッセージが、前記ネットワークに接続された外部装置から前記エッジノードを介して1つの制御ECUに送信されることにより、その制御ECUに前記車両識別コードが記憶される場合、前記エッジノードは、前記車両識別コードを含むメッセージを中継する際に、その車両識別コードを自身のメモリにも記憶しておくことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の車両用データ通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−102393(P2013−102393A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245861(P2011−245861)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】