説明

車両運搬車、及びトレーラに対する車両の積降し方法

【課題】トレーラの側に油圧ユニットを搭載して、トラクタのバッテリにより当該油圧ユニットの電動モータを駆動して、専用のバッテリを不要にすることである。
【解決手段】牽引車であるトラクタDと、当該トラクタに連結されて牽引されるトレーラTとから成り、下段先頭の固定された第4フロアF4と、当該第4フロアに後続する第5フロアF5とを接続可能にするための補助第4フロアF’が前記第4フロアの後端部に回動可能に連結され、車両の積卸し時において、前記補助第4フロアを垂直姿勢で格納する補助フロア格納スペースJが前記第4フロアの後端部下方に設けられた車両運搬車であって、油圧ユニットUは前記補助フロア格納スペースJの下部のデッドスペースに前記トレーラの車幅方向に沿って配置され、前記電動モータの駆動源であるバッテリは前記トラクタに搭載の既存のバッテリである構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタと、当該トラクタに牽引されて複数台の車両を搭載して運搬するトレーラとから成る車両運搬車、及びトレーラに対する車両の積卸し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した車両運搬車は、車両を一台ずつ搭載する複数のフロアが上下二段となって前後方向に直列に配置されている(最も一般的な車両運搬車は、上下段にそれぞれ3つのフロアが配置されている)。当該複数のフロアは、下段の先頭のフロアを除いて、全て油圧シリンダにより昇降又は傾動が可能な構造になっていて、上段の先頭のフロアから順次車両を積み込んだ後に、下段の先頭のフロアから順次車両を積み込み、車両を卸す際には、積込み時と逆の順序で車両卸し作業を行っている。
【0003】
従来の車両運搬車における各油圧シリンダを駆動する油圧ポンプは、トラクタのエンジンの動力により駆動されていた(特許文献1参照)。よって、車両の積卸し時には、トラクタの大容量のエンジンを作動し続ける必要があった。このため、車両の積卸し時には、前記エンジンの騒音、及び振動が激しく、特に、車両のストックヤードの近辺に住宅が存在する場合には、前記騒音及び振動は、当該住宅の住民からの苦情の原因となる。
【0004】
そこで、油圧ポンプを電動モータで駆動することが発案され、一部の事業者において稼動している。しかし、本タイプの従来の車両運搬車は、電動モータの駆動のためのみの専用のバッテリを搭載していたために、油圧ポンプ、電動モータ及び油タンクで構成される油圧ユニットが大きな容積を占有するのに加えて、専用のバッテリが大きな容積を占有する。例えば、図8(b)に示される配置例では、トラクタDの運転席の後方に油タンクK’を配置し、油タンクを除く油圧ユニットU’である油圧ポンプを、トラクタのトレーラとの荷台状連結部(「プラットホーム」とも称される)の下方における前後輪の間の空間に配置していた。この構成では、油タンクと各油圧シリンダとを連結する油圧ホースは、トラクタの荷台状連結部上に配置せざるを得ない。このため、車両運搬車の多数回の旋回等の繰り返しにより、トラクタの荷台状連結部と前記油圧ホースとの接触が繰り返されて、当該油圧ホースが損傷され、油が染み出たり、最悪の場合には、前記損傷の成長により、油が噴出することさえあった。車両の積卸し時に圧油が噴出して飛散した場合には、積卸し中の車両、或いはストックヤードの車両に飛散した油が当該車両を汚損させるという致命的な問題が生じていた。
【0005】
そこで、油タンクを含めて、油圧ユニットの全体、及び専用のバッテリを、トラクタの荷台状連結部の下方における前後輪の間の空間に配置することにより、トラクタの荷台状連結部上に油圧ホースが配置しない構造を実現している。しかし、油圧ポンプの駆動のための専用のバッテリを必要とし、しかも当該専用のバッテリ自体が大きな容積を占有する構造であった。
【0006】
一方、図5に示されるように、下段の先頭のフロア(第4フロアF4 )の後端部の斜後下方であって、下段の二番目のフロア(第5フロアF5 )の直前の部分には、車両の積卸し時においてのみ使用されて、前記第4フロアF4 の後端部に垂下げ可能に接続される補助第4フロアF4'が配置され、車両搬送時には、当該補助第4フロアF4'は、垂れ下げられた状態で格納可能にする補助フロア格納スペースJが全幅に亘って存在している(特許文献2の図1及び図2参照)。しかし、当該補助フロア格納スペースJの下部は、トレーラの剛性確保のためのフレーム構造からして使用不能な空間であるデッドスペースとなっており、本発明者は、当該デッドスペースの存在に着目した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−132074号公報
【特許文献2】特開2002−120640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、トレーラに設けられた前記デッドスペースに着目し、当該デッドスペースに油圧ユニットを配置すると共に、当該油圧ユニットを構成する電動モータの駆動源をトラクタに搭載された既存のバッテリとすることにより、専用のバッテリを不要にし、しかも車両の積卸し中に使用する電力により「バッテリ上り」が発生しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、牽引車であるトラクタと、当該トラクタに連結されて牽引されるトレーラとから成り、当該トレーラには、車両を一台ずつ搭載する複数のフロアが上下二段となって前後方向に直列に配置され、当該複数のフロアのうち、下段先頭のフロアを除く残りの全てのフロアは、油圧シリンダにより昇降又は傾動が可能となっていて、前記下段先頭のフロアの後端部下方には、当該下段先頭のフロアと、当該フロアに後続する別のフロアとを接続可能にするための補助フロアを非使用時に垂直姿勢で格納するための補助フロア格納スペースが設けられていて、前記各油圧シリンダを駆動する油圧ポンプは、バッテリを駆動源とする電動モータにより駆動される構成の車両運搬車であって、前記補助フロア格納スペースの下部に、前記油圧ポンプ、前記電動モータ及び油タンクで構成される油圧ユニットが、前記補助フロアと干渉することなく、当該トレーラの車幅方向に沿って配置され、前記電動モータの駆動源であるバッテリは、前記トラクタに搭載の既存のバッテリであることを特徴としている。
【0010】
請求項1の発明によれば、車両運搬車のトレーラの下段の先頭フロアの後端部下方に全幅に亘って存在する前記補助フロア格納スペースは、その高さ方向が570mm程度であり、その下部には、全く使用されないデッドスペースとなっている。当該デッドスペースに収納可能な幅と高さを有する細長い直方体状の油タンクを製作して、当該油タンクに、油圧ポンプと電動モータを取付けることにより、油圧ポンプ、電動モータ及び油タンクで構成される油圧ユニットは、下段先頭のフロアの後端部に連結された補助フロアの回動を許容すべく、当該補助フロアと非干渉の状態で、トレーラの車幅方向に配置されて、前記デッドスペースに収容可能となる。この結果、トレーラに積込み可能な車両台数を減ずることなく、従来の台数をそのまま確保し、しかもトラクタの荷台状連結部に油圧ホースを配管することなく、車両の運搬、及び積卸しの各作業を行える。
【0011】
また、電動モータの電力は、トラクタに搭載の既存の直流24Vのバッテリを使用することにより、電動モータの駆動が可能となって、専用のバッテリ、及び当該専用のバッテリの配置スペースが不要となる。トラクタのバッテリを電動モータの動力源としているため、「バッテリ上り」の恐れがあるが、当該恐れは、請求項4の発明により解決される。また、トラクタに搭載のバッテリと、トレーラに搭載の油圧ユニットの電動モータとを接続する電線は、当該トラクタの荷台状連結部の部分に配置されるが、油圧ホースと異なって、内圧は作用しないので、トレーラの旋回を繰り返しても、当該損傷されることは殆どなく、当該電線を空中配置すれば、損傷の問題は全くなくなる。
【0012】
従って、請求項1の発明によれば、トレーラの補助フロア格納スペースの下部に残存した前記デッドスペースを利用して、油タンクを含めた油圧ユニットを当該デッドスペースに、補助第4フロアと干渉することなく車幅方向に配置して、油圧ユニットを構成する電動モータの駆動源として、トラクタに搭載の既存のバッテリの使用により、電動モータの駆動のためのみの専用のバッテリを使用せずに、トレーラに対する車両の積卸し作業が可能となる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記油タンクは、細長い直方体状であって、当該タンクの一方の側面に、油圧ポンプ及び電動モータが直列状になって、一体に取付けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項2の発明によれば、細長い直方体状のタンクの一方の側面に、油圧ポンプ及び電動モータが直列状になって一体に取付けられていて、油圧ユニットの全体形状が細長くできるので、トレーラの前後方向に沿った寸法である幅、及び高さの各寸法が限られた前記デッドスペースに対して油圧ユニットの全体を収容し易くなる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記油圧ユニットの全長、最大幅及び最大高さは、(1,900×240×210)mmであることを特徴としている。
【0016】
請求項3の発明によれば、前記補助フロア格納スペースの全長及び高さは、(2,330×570)mm程度であり、補助フロアの幅は、300mm程度であるので、当該補助フロア格納スペースの下部に残存したデッドスペースに油圧ユニットの全体を、垂直配置された格納状態の補助第4フロアと干渉することなく収容できる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の車両運搬車において前記トレーラに対する車両の積卸し方法であって、前記トレーラに対する車両の積卸し作業中において、前記トラクタに搭載のバッテリの電圧を継続して測定し、当該電圧が設定値以下になった場合には、各フロアの油圧シリンダに対する起動信号を無効化して、一時的に車両の積卸し作業を不能にした後に、当該トラクタのエンジンを起動させて、前記バッテリに対して充電しながら、オルタネータからの供給電力により電動モータを起動させて、車両の積卸し作業を再開可能とすることを特徴としている。
【0018】
トラクタに搭載のバッテリは、当該トラクタの運転中は充電されるために、エンジンの起動、各種ランプの点灯等のために必要とされる容量であれば足り、当該バッテリの電力により、トレーラの各油圧シリンダを駆動する油圧ポンプを駆動しようとすると、車両の積卸し中において、「バッテリ上り」が生ずる恐れがある。そこで、請求項4の発明では、車両の積卸し中において、トラクタに搭載のバッテリの電圧を継続測定して、当該電圧が設定値以下になった場合には、各フロアを昇降させる油圧シリンダに対する起動信号を無効化して、以後の車両の積卸し作業を一時的にできなくする。その後に、トラクタのエンジンの起動により、当該バッテリを充電しながら、オルタネータにより供給される電力により電動モータを駆動させて、車両の積卸し作業の再開を可能とする。これにより、トラクタに搭載のバッテリの「バッテリ上り」を防止できる。
【0019】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記エンジンの作動時には、オルタネータの発電電力により油圧ユニットの電動モータを駆動することを特徴としている。
【0020】
請求項5の発明によれば、エンジンの作動によりオルタネータが回転され、その発電電力により、トラクタに搭載のバッテリを充電しながら、トレーラに搭載の油圧ユニットの電動モータを駆動する構成であるので、バッテリの充電が促進されて、充電時間を短くできる。
【0021】
請求項6の発明は、請求項4又は5の発明において、前記トラクタに搭載のバッテリの電圧が設定値以下になった場合には、その旨の警報を発することを特徴としている。
【0022】
請求項6の発明によれば、トラクタに搭載のバッテリの電圧が設定値以下になった場合には、その旨の警報が発せられることにより、トラクタに搭載のバッテリの電圧(容量)が設計値以下になったことが、車両の積卸し作業者に知らされるので、当該警報を聞いて、トラクタのエンジンを起動させることにより、「バッテリ上り」を確実に防止できる。しかも、前記警報の発生時には、トラクタのエンジンは停止しているので、前記警報の「聞き損じ」の恐れがない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、車両運搬車のトレーラの下段の先頭フロアの後端部直下に全幅に亘って存在する前記補助フロア格納スペースは、長さ方向及び高さ方向の各寸法がそれぞれ2,330mm、570mm程度であり、当該補助フロア格納スペースの下部に形成されるデッドスペースに収納可能な幅と高さを有する細長い直方体状の油タンクを製作して、当該油タンクに、油圧ポンプと電動モータを取付けることにより、油圧ポンプ、電動モータ及び油タンクで構成される油圧ユニットは、下段先頭のフロアの後端部に連結された補助フロアの回動を許容すべく、当該補助フロアと非干渉の状態で、トレーラの車幅方向に配置されて、前記デッドスペースに収容可能となる。
【0024】
また、電動モータの電力は、トラクタに搭載の既存の直流24Vのバッテリを使用することにより、電動モータの駆動が可能となって、専用のバッテリ、及び当該専用のバッテリの配置スペースが不要となる。トラクタのバッテリを電動モータの動力源としているため、「バッテリ上り」の恐れがあるが、車両の積卸し中において、トラクタに搭載のバッテリの電圧を継続測定して、当該電圧が設定値以下になった場合には、トラクタのエンジンの起動により、当該バッテリを充電しながら、車両の積卸し作業を行う。これにより、トラクタに搭載のバッテリの「バッテリ上り」を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】トレーラTに上下二段に設けられる第1〜第6の各フロアF1 〜F6 と、当該各フロアF1 〜F6 の昇降等に使用される第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11の配置を示す模式的側面図である。
【図2】上段の先頭に配置された第1フロアF1 の後端側の昇降構造を示す模式的斜視図である。
【図3】(a),(b)は、それぞれトレーラTの一対の後輪11の拡幅の前後を示す模式的平面図である。
【図4】第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11の特性を示す図である。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ油圧ユニットUの平面図、正面図及び左側面図である。
【図6】トラクタDに搭載されたエンジンE、オルタネータA、バッテリB、電圧計VT及び警報器Nと、油圧ユニットUの電動モータMとの関係を示すブロック線図である。
【図7】車両の積卸し時におけるトラクタDに搭載のバッテリBの充電の要否を主体とするフローチャートである。
【図8】(a),(b)は、それぞれ本発明と従来の各車両搬送車の油圧ユニットUの搭載場所を示す模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。最初に、図1〜図3を参照して、車両運搬車を構成するトレーラTの基本構造について簡単に説明する。図1は、トレーラTに上下二段に設けられる第1〜第6の各フロアF1 〜F6 と、当該各フロアF1 〜F6 の昇降等に使用される第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11の配置を示す模式的側面図であり、図2は、上段の先頭に配置された第1フロアF1 の後端側の昇降構造を示す模式的斜視図であり、図3(a),(b)は、それぞれトレーラTの一対の後輪11の拡幅の前後を示す模式的平面図である。トレーラTは、牽引車であるトラクタDの荷台状連結部12における一対の後輪14の直上の部分に連結されて、当該トラクタDにより牽引走行される。トレーラTがトラクタDに連結された状態において、当該トレーラTの前端部は、トラクタDの前輪13と後輪14の中間部まで達している。
【0027】
トレーラTには、上下二段となり、しかも各段には、いずれも3つのフロアF1 〜F3 ,F4 〜F6 が前後方向に沿って直列に配置されていて、下段の先頭の第4フロアF4 は、前方が高くなるような傾斜姿勢で、トレーラフレームGに対して固定されており、当該第4フロアF4 を除いて、残りの全てのフロアF1 〜F3 ,F5 ,F6 は、油圧シリンダの作用により昇降する構成となっている。上段の第1フロアF1 は、前端部が垂直配置された左右一対の2本の第1油圧シリンダS1 により昇降可能に支持されており、後端部は、1本の第2油圧シリンダS2 とワイヤロープ機構との組み合せにより、昇降する構成となっている。即ち、図2に示されるように、第1フロアF1 の後側の各隅部には、軸心を水平にした左右一対のプーリー1が配置されていると共に、第1フロアF1 の前側の各隅部には、軸心を垂直にした左右一対のプーリー2が配置され、更に、第1フロアF1 の幅方向の一端側であって、しかも後端側には、1本の第2油圧シリンダS2 が前後方向Qに沿って配置されて、そのロッドの先端部に軸心を垂直にしたプーリー3が取付けられていて、当該プーリー3よりも前方には、別のプーリー4が軸心を水平にして配置され、計6個の各プーリー1〜4にワイヤロープ5が掛装されて、当該ワイヤロープ5の両端部は、トレーラフレームGの左右一対の支柱15(図1参照)に連結固定されている。よって、第1フロアF1 の前端部の位置を固定した状態において、第2油圧シリンダS2 のロッドを出入りさせると、ワイヤロープ5の余長が変化されることにり、当該第1フロアF1 の後端部は昇降させられる。左右一対の2本の第1油圧シリンダS1 と1本の第2油圧シリンダS2 との各作動を組み合わせることにより、第1フロアF1 の配置高さ、及び傾斜角度の双方が調整される。
【0028】
下段の第5フロアF5 の後端部は、トレーラフレームGに対して回動可能なようにピン連結されている。上段の第2フロアF2 の前端部と、下段の第5フロアF5 の前端部とは、いずれも垂直配置された左右一対の2本の両ロッド型の第3油圧シリンダS3 により同期して昇降する構成となっている。第2フロアF2 の後端部と第3フロアF3 の前端部は、ヒンジ連結状に連結されていて、当該連結部は、垂直配置された左右一対の第4油圧シリンダS4 により昇降する構成となっており、当該第3フロアF3 の前後方向の中間部は、後方に向けて傾斜配置された左右一対の第5油圧シリンダS5 により昇降する構成となっている。
【0029】
また、トレーラTの一対の後輪11の部分に配置される第6フロアF6 は、当該一対の後輪11の幅分だけ狭くなっていて、第6フロアF6 に対して車両の積卸しを行う際に、車両の積卸し自体は可能であるが、左右一対の後輪11の存在により、第6フロアF6 に積み込まれた車両に対して運転者の出入りができないので、トレーラフレームGにおける一対の後輪11の前方に垂直に配置されたジャッキ用の左右一対の第6油圧シリンダS6 により、一対の後輪11を持ち上げた状態で、当該一対の後輪11は、拡幅可能な構造となっている。即ち、図3に示されるように、左右一対の後輪11の各車軸16は、車幅方向Rに配置された左右一対の第7油圧シリンダS7 により出入り可能な構造になっていて、第8及び第9の各油圧シリンダS8 ,S9 により、走行時には、固定軸17に対して各車軸16はロックされると共に、後輪11の車幅の拡大時には、前記ロックが解除される構成になっている。
【0030】
第6フロアF6 の前端部は、トレーラフレームGを構成する斜支柱21に斜配置されて支持された左右一対の第10油圧シリンダS10により昇降されると共に、その後端部は、垂直配置された左右一対の第11油圧シリンダS11により昇降されるように構成されている。
【0031】
上記した第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11の使用本数、シリンダ内径及びストロークは、図4に示される通りである。ここで、トレーラTに対する車両の積卸し時には、各油圧シリンダS1 〜S11は、個別に作用するか、或いは特定の組み合わせに係る数本が同時に作用し、全油圧シリンダS1 〜S11が同時に作用することはないと共に、各油圧シリンダS1 〜S11のロッドが全て最大に突出又は引っ込むことはないが、全油圧シリンダS1 〜S11のロッドが最大に突出、又は引っ込むと仮定した場合に必要な総油量が示されている。上記実施例のトレーラTでは、計19本の各油圧シリンダS1 〜S11のロッドの全てが最大に突出又は引っ込むのに必要な総油量は、約38リットルである。従って、現実に必要な最大総油量は、38リットルよりも少ない。
【0032】
また、第4フロアF4 の後端部の斜後下方であって、第5フロアF5 の直前の部分には、補助第4フロアF4'を格納可能にするための空間が形成されて、当該空間は、補助フロア格納スペースJとなっている。即ち、図5において、補助第4フロアF4'は、第4フロアF4 の後端部に回動可能なようにヒンジ連結されて、車両の積卸し時においてのみ、ほぼ水平に配置させて、第4フロアF4 と第5フロアF5 とを接続することにより、第4及び第5の各フロアF4 ,F5 との間における車両の移動を可能にしている。当該補助フロア格納スペースJの車幅方向Rの長さ(L01)及び高さ(H0 )は、(2,330×570)mmである。なお、図5において、31は、補助フロア格納スペースJの下部のデッドスペースJ’の底部に配置されるように、水平姿勢の第5フロアF5 の前方に水平に配置された底板であり、32は、当該底板31の前端に垂直に配置された前板を示す。
【0033】
次に、図5〜図7を参照にして、油圧ユニットU、その駆動源であるトラクタDに搭載のバッテリB、及び車両の積卸し時における当該バッテリBの充電時期等について説明する。図5(a),(b),(c)は、それぞれ油圧ユニットUの平面図、正面図及び左側面図であり、図6は、トラクタDに搭載されたエンジンE、オルタネータA、バッテリB、電圧計VT及び警報器Nと、油圧ユニットUの(直流)電動モータMとの関係を示すブロック線図であり、図7は、車両の積卸し時におけるトラクタDに搭載のバッテリBの充電の要否を主体とするフローチャートである。油圧ユニットUとは、上記した第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11、油圧バルブ、油圧ホース等を除いて、油圧ポンプP、電動モータM及び油タンクKで構成される。細長い直方体状をした油タンクKの長手方向の一方の端面に、油圧ポンプPと電動モータMが一体化された装置が直列状となって一体に取付けられている。油タンクKの長さ(L1 )、幅(W1 )及び高さ(H1 )は、(1,500×240×210)mmであって、最大収容量は、60リットルである。なお、油タンクKの体積は、約105(cm3)〔=100リットル〕である。従って、第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11の全てのロッドが最大に突出又は引っ込んだと仮定した場合の総必要油量は、約38リットルであるので、最大収容量が60リットルの油タンクKであれば、第1〜第11の各油圧シリンダS1 〜S11の作動に必要な油を十分に収容可能であることが分かる。
【0034】
また、上記した油圧ユニットUの全体の長さ(L2 )、幅(W2 )及び高さ(H2 )は、(1,902×240×225)mmであり、補助第4フロアF4'の幅(W4 )は、300mm程度である。従って、高さが約570mmであって、車幅方向Rに沿って貫通状態となっている補助フロア格納スペースJに補助第4フロアF4'が格納された状態で、当該補助第4フロアF4'と干渉することなく、前記寸法を有する油圧ユニットUは、補助フロア格納スペースJの下部のデッドスペースJ’に収納して、前記底板31の上面に車幅方向Rに配置可能となる。この結果、図8に示されるように、トレーラTに積載可能な車両の台数は、減ぜられることなく、従来の台数をそのまま確保できる。なお、図8において、Cは、トレーラTに積載された車両を示す。また、図5において、L01,L02は、それぞれトレーラTの荷台幅、及びトレーラTの全幅(トレーラフレームGの幅)を示し、L01=2,330mm、L02=2,490mmである。
【0035】
また、図6及び図7に示されるように、油圧ユニットUを構成する電動モータMの電源は、トラクタDに搭載の直流24VのバッテリBであって、当該バッテリBの電圧は、車両の積卸し時には、電圧計VTにより常時計測されている。上記した第1〜第11の各油圧シンリダS1 〜S11には、それぞれ個別に起動スイッチ(図示せず)が設けられていて、第4フロアF4 を除く全てのフロアF1 〜F3 ,F5 ,F6 に対応する油圧シリンダS1 〜S5 ,S10,S11の起動スイッチを「ON」にすると、電動モータMが起動して対応の油圧シリンダが作動することにより、、各フロア毎に車両の積卸しが順次行われる。そして、前記バッテリBの電圧が設定電圧(例えば、20V)以下になった場合には、第4フロアF4 を除く残りの全てのフロアF1 〜F3 ,F5 ,F6 を作動させる全ての油圧シリンダS1 〜S5 ,S10,S11に対する起動信号が無効化回路Xにより無効化されて、以後の車両の積卸し作業ができなくなると共に、警報器Nから警報音が発せられる構成になっている。そして、前記バッテリBの電圧が設定電圧以下になった場合には、トラクタDのエンジンEが作動することにより、オルタネータ(交流発電機)Aが起動され、当該オルタネータAからの供給電力により電動モータMが起動されて、車両の積卸し作業が再開可能となると共に、電圧が低下したバッテリBに充電される構成になっている。なお、フロアの昇降中において、前記バッテリBの電圧が設定電圧以下になった場合には、当該フロアの昇降が完了するまで、対応の油圧シリンダが有効に作用して、以降のフロアの昇降操作を行う場合において、油圧シリンダに対する起動信号が無効化される。
【0036】
このため、トラクタDのエンジンEを停止させて、トラクタDに搭載のバッテリBにより、油圧ユニットUの電動モータMが作動されている状態で、車両の積卸し作業を行う場合には、トラクタDのエンジンEの騒音、振動は、一切ないので、静かな状態で車両の積卸し作業を行える。また、車両の搬送中、及び積卸し中の双方において、トレーラTに車両を積んで搬送する場合には、トラクタDの荷台状連結部12に油圧ホースが存在しないので、当該油圧ホースの損傷により、圧油が飛散する恐れは全くない。
【0037】
また、トラクタDに搭載のバッテリBと、トレーラTに搭載の油圧ユニットUの電動モータMとを接続する電線(図示せず)は、当該トラクタDの荷台状連結部12の部分に配置されるが、油圧ホースと異なって、内圧は作用しないので、車両運搬車の走行時において、トレーラTの旋回を繰り返しても当該電線が損傷されることは殆どない。
【0038】
即ち、車両の積卸し時において、バッテリBの消費電力が過大な状態が継続すると、「バッテリ上り」が発生して、トラクタDのエンジンEの起動が不能になる恐れがあるが、上記したように、車両の積卸しにより電力消費されるバッテリBの電圧、即ち、当該バッテリBの容量を常時計測していて、当該バッテリBの電圧が設定値以下になった場合には、警報器Nから警報音が発せられて、車両の積卸しの作業者(車両運搬車の運転者)に対して、バッテリBの充電の必要性が知らされる。なお、警報音の発生時には、トラクタDのエンジンEは停止しているので、当該警報音の「聞き損じ」はない。この時点で、トラクタDのエンジンEを起動して、オルタネータAが駆動回転されることにより、バッテリBに充電が開始される。ここで、トラクタDのエンジンEの起動時には、オルタネータAの発生電力により油圧ユニットUの電動モータMを直接に駆動させることも可能であり、これにより、バッテリBの充電を促進できて、充電時間を短くできる。このため、油圧ユニットUを構成する電動モータMをトラクタDのバッテリBにより駆動する構成であっても、「バッテリ上り」を確実に防止できるため、車両の積卸し作業者は、安心して作業を行える。
【0039】
なお、既存のトレーラにおいても、上記した補助フロア格納スペースの下部には、全く使用されていないデッドスペースが残存しているので、本発明は、新規に製作するトレーラは勿論のこと、既存のトレーラに対しても、簡単に実施できる。
【0040】
また、トレーラを新規に製作する場合には、補助フロアの幅を従来幅に対して狭くして、下段先頭のフロアに後続する別のフロアの先端を従来位置よりも車両前方に配置する設計変更を行うことにより、補助フロア格納スペースの下部のデッドスペースの高さを高くすることが可能となって、油圧ユニットを構成する油タンク、電動モータ及び油圧ポンプの寸法設計が容易となる。
【符号の説明】
【0041】
A:オルタネータ
B:バッテリ
D:トラクタ
E:エンジン
1 〜F6 :第1〜第6の各フロア
4':補助第4フロア(補助フロア)
G:トレーラフレーム
J:補助フロア格納スペース
J’:デッドスペース
M:電動モータ
N:警報器
Q:前後方向
R:車幅方向
1 〜S11:第1〜第11の各油圧シリンダ
T:トレーラ
U:油圧ユニット
VT:電圧計
X:油圧シリンダの起動スイッチの起動信号無効化回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車であるトラクタと、当該トラクタに連結されて牽引されるトレーラとから成り、
当該トレーラには、車両を一台ずつ搭載する複数のフロアが上下二段となって前後方向に直列に配置され、当該複数のフロアのうち、下段先頭のフロアを除く残りの全てのフロアは、油圧シリンダにより昇降又は傾動が可能となっていて、前記下段先頭のフロアの後端部下方には、当該下段先頭のフロアと、当該フロアに後続する別のフロアとを接続可能にするための補助フロアを非使用時に垂直姿勢で格納するための補助フロア格納スペースが設けられていて、
前記各油圧シリンダを駆動する油圧ポンプは、バッテリを駆動源とする電動モータにより駆動される構成の車両運搬車であって、
前記補助フロア格納スペースの下部に、前記油圧ポンプ、前記電動モータ及び油タンクで構成される油圧ユニットが、前記補助フロアと干渉することなく、当該トレーラの車幅方向に沿って配置され、
前記電動モータの駆動源であるバッテリは、前記トラクタに搭載の既存のバッテリであることを特徴とする車両運搬車。
【請求項2】
前記油タンクは、細長い直方体状であって、当該タンクの一方の側面に、油圧ポンプ及び電動モータが直列状になって、一体に取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両運搬車。
【請求項3】
前記油圧ユニットの全長、最大幅及び最大高さは、(1,900×240×210)mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両運搬車。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の車両運搬車において前記トレーラに対する車両の積卸し方法であって、
前記トレーラに対する車両の積卸し作業中において、前記トラクタに搭載のバッテリの電圧を継続して測定し、当該電圧が設定値以下になった場合には、各フロアの油圧シリンダに対する起動信号を無効化して、一時的に車両の積卸し作業を不能にした後に、当該トラクタのエンジンを起動させて、前記バッテリに対して充電しながら、オルタネータからの供給電力により前記電動モータを起動させて、車両の積卸し作業を再開可能とすることを特徴とするトレーラに対する車両の積卸し方法。
【請求項5】
前記エンジンの作動時には、オルタネータの発電電力により油圧ユニットの電動モータを駆動することを特徴とする請求項4に記載のトレーラに対する車両の積卸し方法。
【請求項6】
前記トラクタに搭載のバッテリの電圧が設定値以下になった場合には、その旨の警報を発することを特徴とする請求項4又は5に記載のトレーラに対する車両の積卸し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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