説明

車両重量の推定装置、車両重量の推定方法及び車両の横転抑制装置

【課題】様々な精度の車両重量データが収集される車両の走行条件の基で、車両重量の推定値の正確性を、車両重量データの収集状況に応じて向上させることができる車両重量の推定装置、車両重量の推定方法及び車両の横転抑制装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ用ECUは、所定周期毎に、車両の前後方向加速度Gxを演算し(ステップS13)、該前後方向加速度Gxを用いて車両重量データMを演算する(ステップS20)。そして、ブレーキ用ECUは、前後方向加速度Gxが大きい場合にステップS20で演算した車両重量データMに対する比重を、前後方向加速度Gxが小さい場合にステップS20で演算した車両重量データMに対する比重よりも大きくする重み付け平均処理を行い、該処理で演算された値を車両重量の推定値MSとする(ステップS23)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両重量の推定装置及び車両重量の推定方法に関する。また、本発明は、車両の横転の抑制を図る車両の横転抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両重量の推定値を演算する装置では、車両走行時に取得される車両の車体加速度と、該車体加速度を取得した時点の駆動トルクとに基づいた車両重量データが予め設定された周期毎に演算される。そして、車両重量データの演算回数が予め設定された規定回数に到達した場合に、各車両重量データの平均値が演算され、該演算結果が車両重量の推定値とされる。
【0003】
特許文献1には、取得される車体加速度や駆動トルクに含まれる周期的な変動を示すノイズ成分を除去するために、取得された車体加速度や駆動トルクに対してフィルタ処理を行う旨が開示されている。このようにフィルタ処理を行った後の車体加速度や駆動トルクを用いて車両重量データを演算することにより、車両重量の推定値の推定精度の向上が図られている。
【0004】
また、特許文献2には、前回までに取得された車両重量データと、今回に取得した車両重量データとの移動平均を演算し、該演算結果に基づき車両重量の推定値を取得する技術が開示されている。
【0005】
そして、このように取得された車両重量の推定値は、各種車両制御の制御パラメータとして用いられる。例えば、特許文献3には、車両重量の推定値を、車両の横転を抑制するための横転抑制制御の制御パラメータとして用いる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−333365号公報
【特許文献2】実開平5−84834号公報
【特許文献3】特表2008−537707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記フィルタ処理では、駆動トルクや車体加速度に含まれるノイズ成分を完全に取り除けるわけではない。例えば、車体加速度センサからの検出信号に基づき演算される車体加速度には、車両の真の加速度に基づき変動する加速度値の大小に関係なく、ほぼ一定量のノイズ値が含まれている。そのため、車体加速度において車両の真の加速度値に対するノイズ値の比率は、車体加速度が小さいほど大きくなる。同様に、駆動トルクでも、値の小さい場合ほど、真の駆動トルク値に対するノイズ値の比率が大きくなる。
【0008】
上記特許文献2に記載の推定方法では、取得された車両重量データから移動平均で車両重量の推定値を演算する際に、車両の車体加速度や駆動トルクの大小に関係のないフィルタ係数を今回の車両重量データに掛け合わせ、車両重量の推定値を取得している。
【0009】
車体加速度及び駆動トルクは、車両発進時には小さな値から急激に大きな値となるものの、その後に車両が一定速度走行に至るにつれて次第に小さくなる。こうして車両が一定速度走行に至ると、値の小さな車体加速度及び駆動トルク、即ちノイズ値の比率が大きな車体加速度及び駆動トルクを用いて車両重量データが演算されることになる。すなわち、精度の低い車両重量データが取得されることになり、車両重量の推定値の精度向上にも限界がある。なお、ここでいう「精度の低い」とは、取得される車両重量データのばらつきが大きいことを示す一方、「精度の高い」とは、取得される車両重量データMのばらつきが小さいことを示している。
【0010】
車体加速度及び駆動トルクなどの走行時に取得されるデータを用いて演算された車両重量の推定値を、横転防止などを目的とした制御の制御パラメータとした場合、該制御の実行の機会がいつ訪れるかは不明である。そのため、積載量の変化によって車両重量が変化した場合には、その後に取得される車両重量データに基づき速やか且つ正確に車両重量の推定値を取得する必要がある。これは、車両重量の推定値を速やか且つ正確に取得できないと、上記制御の開始タイミングがばらつくためである。
【0011】
しかしながら、上述したように、車両の発進直後においては、車体加速度及び駆動トルクの値が小さいため、精度の低い車両重量データしか取得できない。そのため、複数の車両重量データを単純に平均する方法や上記特許文献2に記載の方法では、積載量の変化後の車両の発進直後においては、精度の低い車両重量データMが多く取得される一方で、精度の高い車両重量データの取得量が少ないため、車両重量の推定値の正確性が低い。そのため、車両の発進直後においては、上記制御が適切なタイミングで開始されないおそれがある。なお、ここでいう「正確性」とは、実際の重量を基準とした誤差が少ないことを示している。
【0012】
その一方で、積載量の変化後に車両が発進して長時間が経過する間の中で、車両の急加速が多く行われた場合には、大きな値の車体加速度及び駆動トルクに基づいた車両重量データが多数取得される。こうした車両重量データの精度は、大きな値の車体加速度及び駆動トルクに基づき取得された車両重量データの精度よりも高い。そのため、こうした精度の高い車両重量データを利用することにより、車両重量の推定値の精度が向上するものと考えられる。そして、精度の高い車両重量の推定値を制御パラメータとする制御は、適切なタイミングで開始される。
【0013】
上述したように、車両走行中に取得される多数の車両重量データの中で、精度の高い車両重量データが占める割合は、車両の走行状況によって様々である。こうした車両の走行状況下で取得される多数の車両重量データに対してどのような統計処理を行うことによって、より正確な車両重量の推定値を取得できるかについての提案はされていない。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、様々な精度の車両重量データが収集される車両の走行条件の基で、車両重量の推定値の正確性を、車両重量データの収集状況に応じて向上させることができる車両重量の推定装置、車両重量の推定方法及び車両の横転抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の車両重量の推定装置は、車両の車体加速度(Gx)を演算する加速度演算手段(30、S13)と、予め設定された周期毎に、前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算する車重データ演算手段(30、S20)と、前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)が大きいか小さいかを判別する加速度判別手段(30、S21)と、車両重量データ(M)の演算に用いられた車体加速度(Gx)が小さいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、車体加速度(Gx)が大きいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別手段(30、S21)と、前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重を、前記小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重よりも大きくする重み付け平均処理を行い、該処理で演算された値を車両重量の推定値(MS)とする重量推定値演算手段(30、S23)と、を備えることを要旨とする。
【0016】
車体加速度が大きい場合においては、演算される車両重量データの精度が、車体加速度が小さい場合と比較して高い。そこで、本発明では、予め設定された周期毎に演算された複数の車両重量データに基づき車両重量の推定値を演算する場合には、重み付け平均処理が行われる。重み付け平均処理では、大きな車体加速度に基づき演算された車両重量データの比重を小さな車体加速度に基づき演算された車両重量データの比重よりも大きくしている。その結果、車両重量データの精度の高低を考慮することなく車両重量の推定値を演算する場合と比較して、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データの記憶数が多くなるほど車両重量の推定値の正確性を向上させることができる。したがって、様々な精度の車両重量データが収集される車両の走行条件の基で、車両重量の推定値の正確性を、車両重量データの収集状況に応じて向上させることができる。
【0017】
本発明の車両重量の推定装置は、車両の車体加速度(Gx)を演算する加速度演算手段(30、S13)と、予め設定された周期毎に、前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算する車重データ演算手段(30、S20)と、前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)が大きいか小さいかを判別する加速度判別手段(30、S21)と、車両重量データ(M)の演算に用いられた車体加速度(Gx)が小さいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、車体加速度(Gx)が大きいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別手段(30、S21)と、前記小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の平均値を小加速時平均値として取得し、前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の平均値を大加速時平均値として取得する平均値演算手段(30、S22)と、前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の記憶数が多い場合には、記憶数が少ない場合と比較して、車両重量の推定値(MS)の重み付け平均処理で用いられる小加速度係数を小さな値に設定する係数設定手段(30、S23)と、前記平均値演算手段(30、S22)によって演算された小加速時平均値に対して前記係数設定手段(30、S23)によって設定された小加速度係数を乗算した値と、演算された大加速時平均値に対して大加速度係数を乗算した値とを加算する重み付け平均処理を行い、該処理によって演算された値を車両重量の推定値(MS)とする重量推定値演算手段(30、S23)と、を備えることを要旨とする。
【0018】
上記構成によれば、小加速度係数は、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データの記憶数が多い場合には、記憶数が少ない場合よりも小さな値に設定される。言い換えると、小加速度係数は、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データの記憶数が少ない場合には、記憶数が多い場合よりも大きな値に設定される。そのため、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データの記憶数が少ない場合であっても、小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データを用いて、車両重量の推定値を演算することができる。
【0019】
その一方で、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データの記憶数が多い場合には、小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ、即ち誤差の大きな車両重量データの比重が小さくなる。そして、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ、即ち誤差の小さな車両重量データの比重を大きくした重み付け平均処理が行われ、より正確性の高い車両重量の推定値が取得される。したがって、様々な精度の車両重量データが収集される車両の走行条件の基で、車両重量の推定値の正確性を、車両重量データの収集状況に応じて一層向上させることができる。
【0020】
本発明は、車両の横転を抑制する横転抑制制御を行う車両の横転抑制装置であって、上記車両重量の推定装置(14,30)と、車両の横方向加速度(Gy)を演算する横方向加速度演算手段(30、S41)と、前記横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値(Gyth)を、前記車両の推定装置(14,30)によって演算された車両重量の推定値(MS)が大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定する閾値設定手段(30、S42)と、前記横方向加速度演算手段(30、S41)によって取得された横方向加速度(Gy)が、前記閾値設定手段(30、S42)によって設定された閾値(Gyth)以上である場合に、前記横転抑制制御を開始する制御手段(30、S44)と、を備えることが好ましい。
【0021】
重量が重いほど車両の重心が上方に移動するため、車両の横転の可能性が高くなる。そこで、本発明では、横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値は、より正確性の高い車両重量の推定値に基づき設定される。そして、横方向加速度が閾値以上である場合に、車両重量の推定値を制御パラメータとする横転抑制制御が開始される。
【0022】
なお、本発明では、車両の積載量が変化した後においては、車両重量の変化後に演算された車両重量データを用いて車両重量の推定値が演算される。しかも、車両重量の推定値の正確性は、車両が急加速する機会が多くなるように運転手が車両を走行させる場合ほど高くなる。その結果、上記閾値は、車両の走行条件に応じた正確さで演算された車両重量の推定値に基づいた値に設定される。そのため、車両の積載量が変化した後でも、横転抑制制御を適切なタイミングで開始させることができる。
【0023】
本発明の車両重量の推定方法は、車両の車体加速度(Gx)を演算させる加速度演算ステップ(S13)と、予め設定された周期毎に実行されるステップであって、前記加速度演算ステップ(S13)で演算した車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算させる車重データ演算ステップ(S20)と、前記加速度演算ステップ(S13)で演算した車体加速度(Gx)が大きいか小さいかを判別させる加速度判別ステップ(S21)と、車両重量データ(M)の演算に用いた車体加速度(Gx)が小さいと判別した場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、車体加速度(Gx)が大きいと判別した場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別ステップ(S21)と、前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重を、前記小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重よりも大きくする重み付け平均処理を行い、該処理で演算された値を車両重量の推定値(MS)とさせる重量推定値演算ステップ(S23)と、を有することを要旨とする。
【0024】
上記構成によれば、上記車両重量の推定装置と同等の作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の車両重量の推定装置を備える車両の一実施形態を示すブロック図。
【図2】(a)(b)(c)は、演算した車両重量を加速度領域毎に区分けしてプロットした場合を示すグラフ。
【図3】(a)は小加速時記憶領域に記憶される車両重量データに対する比重を設定するためのマップ、(b)(c)は中加速時記憶領域に記憶される車両重量データに対する比重を設定するためのマップ、(d)は大加速時記憶領域に記憶される車両重量データに対する比重を設定するためのマップ。
【図4】車両重量推定処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図5】横転抑制処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図6】車両重量の推定値の変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0027】
図1に示すように、車両には、複数(例えば、4つ)の車輪10に対して、エンジン11で発生した駆動力を伝達するための動力伝達機構12が設けられている。この動力伝達機構12は、動力伝達経路においてエンジン11側に配置される変速機120と、動力伝達経路において車輪10側に配置されるディファレンシャル121となどを備えている。本実施形態の変速機120は、車両の運転手による図示しない変速操作部の操作態様に応じた変速段に設定される。
【0028】
また、車両には、運転手によるアクセルペダル13の操作態様に基づきエンジン11を制御するエンジン用ECU14(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)が設けられている。このエンジン用ECU14には、アクセルペダル13の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1と、変速機120の出力軸122の回転数を検出するための回転数検出センサSE2とが電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU14は、アクセル開度センサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づきエンジン11を制御する。また、エンジン用ECU14は、回転数検出センサSE2からの検出信号に基づき変速機120の出力軸122の回転数を演算し、該演算した回転数に基づきエンジン11の駆動に基づき車両に付与される駆動トルクを演算する。
【0029】
また、車両には、各車輪10に制動力を付与するための制動装置20が設けられている。この制動装置20は、図示しないブースタ、マスタシリンダ及びリザーバを有する液圧発生装置21と、ブレーキアクチュエータ22とを備えている。そして、運転手がブレーキペダル23を操作した場合、液圧発生装置21のマスタシリンダ内には、ブレーキペダル23の操作量に応じた液圧が発生する。すると、マスタシリンダ内の液圧に応じた液量のブレーキ液が、ブレーキアクチュエータ22の図示しない液圧回路を介して車輪10毎に設けられたホイールシリンダ24内に流入する。その結果、各車輪10には、対応するホイールシリンダ24内の液圧に応じた制動力が付与される。
【0030】
本実施形態の制動装置20は、運転手によるブレーキペダル23の操作時に制動力の大きさを車輪10毎に調整する機能と、ブレーキペダル23の非操作時に車輪10に制動力を付与する機能とを有している。こうした機能を実現させるために、ブレーキアクチュエータ22には、マスタシリンダ内とホイールシリンダ24内との間に差圧を発生させるための差圧弁、ホイールシリンダ24内にブレーキ液を供給するためのポンプ、ホイールシリンダ24内を減圧させる際に作動する減圧弁、及びホイールシリンダ24内の増圧を規制する際に作動する保持弁などが設けられている。
【0031】
また、車両には、運転手による図示しないパーキング操作部が操作された場合に、各車輪10のうち一部の車輪に制動力を付与するパーキングブレーキ25が設けられている。パーキングブレーキ25は、各車輪10のうち一部の車輪に制動力を付与すべく作動する場合には作動信号を車両重量の推定装置の一例としてのブレーキ用ECU30(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)を出力する。
【0032】
ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定値の演算し、該車両重量の推定値を用いて、車両の旋回時における横転を抑制するための横転抑制制御を行う。すなわち、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、車両の横転抑制装置としても機能する。本実施形態において、車両重量とは、車両自体の重量(「車体重量」ともいう。)と、車両に積載された荷物の積載量及び車両に搭乗した乗員に基づく重量とを少なくとも含んだ重量である。また、横転抑制制御とは、車両の横方向加速度を小さくすべく、各車輪10に対する制動力を個別に調整すべくブレーキアクチュエータ22を作動させる制御である。
【0033】
こうしたブレーキ用ECU30には、運転手によるブレーキペダル23の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチSW1と、車輪10の車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3とが電気的に接続されている。また、ブレーキ用ECU30には、車両の前後方向加速度(車体加速度)を検出するための前後方向加速度センサSE4と、車両の横方向加速度を検出するための横方向加速度センサSE5とが電気的に接続されている。さらに、ブレーキ用ECU30は、エンジン用ECU14と通信可能となっている。例えば、ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定に必要な情報(例えば、駆動トルク)を、バス40を介してエンジン用ECU14から受信する。
【0034】
なお、前後方向加速度センサSE4からは、車両の重心が後方に移動する際に正の値となるような信号が出力される一方、車両の重心が前方に移動する際に負の値となるような信号が出力される。そのため、車両が登坂路で停車中である場合、前後方向加速度センサSE4からの検出信号に基づき演算される前後方向加速度は正の値となる。また、車両が降坂路で停車中である場合、前後方向加速度センサSE4からの検出信号に基づき演算される前後方向加速度は負の値となる。
【0035】
また、ブレーキ用ECU30は、CPU31、ROM32、RAM33及び不揮発性メモリの一例としてのEEPROM34などを備えている。ROM32には、車両重量の推定を行う際や各種制動制御を行う際にCPU31が実行する制御プログラム及び各種マップなどが予め記憶されている。RAM33には、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報(車輪速度等)などが記憶される。EEPROM34には、対応する加速度領域が互いに異なる複数(本実施形態では3つ)の記憶領域341,342,343が設けられている。これら各記憶領域341〜343には、詳しくは後述するが、車両の前後方向加速度及びエンジン用ECU14から受信した駆動トルクに基づき演算された車両重量データが記憶される。したがって、本実施形態では、EEPROM34が、記憶手段として機能する。
【0036】
次に、各記憶領域341〜343について、図2を参照して説明する。
図2(a)に示すように、小加速時記憶領域341は、車両の前後方向加速度Gxが小さい場合に演算された車両重量データMが記憶される記憶領域である。具体的には、小加速時記憶領域341には、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1(例えば、0.1G)以下である場合に演算された車両重量データMが記憶される。つまり、図2(a)は、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1以下である場合に演算(推定)された車両重量データMを取得順にプロットしたグラフである。
【0037】
なお、車両の前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1よりも小さい検出限界値(例えば、0.05G)未満である場合には、前後方向加速度センサSE4の性能による限界によって、前後方向加速度Gxの精度が極端に低下する、又は前後方向加速度Gxを演算できない。そのため、正確には、小加速時記憶領域341には、前後方向加速度Gxが検出限界値以上であって且つ第1の基準値Gth1以下である場合に演算された車両重量データMが記憶される。
【0038】
図2(b)に示すように、中加速時記憶領域342は、車両の前後方向加速度Gxが中程度である場合に演算された車両重量データMが記憶される記憶領域である。すなわち、中加速時記憶領域342は、加速度領域が最も小さい記憶領域及び加速度領域が最も大きい記憶領域とは異なる記憶領域である。そのため、小加速時記憶領域341を小加速度領域用の記憶領域とした場合、中加速時記憶領域342は大加速度領域用の記憶領域に相当する。その一方で、大加速時記憶領域343を大加速度領域用の記憶領域とした場合、中加速時記憶領域342は小加速度領域用の記憶領域に相当する。こうした中加速時記憶領域342には、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1よりも大きく且つ第1の基準値Gth1よりも大きな第2の基準値Gth2(例えば、0.15G)以下である場合に演算された車両重量データMが記憶される。つまり、図2(b)は、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1よりも大きく且つ第2の基準値Gth2以下である場合に演算された車両重量データMを取得順にプロットしたグラフである。
【0039】
図2(c)に示すように、大加速時記憶領域343は、車両の前後方向加速度Gxが大きい場合に対応する記憶領域、即ち加速度領域が最も大きい記憶領域である。すなわち、小加速時記憶領域341及び中加速時記憶領域342を小加速度領域用の記憶領域とした場合、大加速時記憶領域343は大加速度領域用の記憶領域に相当する。こうした大加速時記憶領域343には、前後方向加速度Gxが第2の基準値Gth2よりも大きい場合に演算された車両重量データMが記憶される。つまり、図2(c)は、前後方向加速度Gxが第2の基準値Gth2を超えた場合に演算された車両重量データMを取得順にプロットしたグラフである。
【0040】
なお、回転数検出センサSE2及び前後方向加速度センサSE4からの各検出信号には、信号の大きさに関係なく、ほぼ一定量のノイズ成分が含まれている。そして、回転数検出センサSE2及び前後方向加速度センサSE4を用いて検出される駆動トルク及び前後方向加速度Gxは、それらの値が小さいほど、検出信号に含まれるノイズ成分の影響を大きく受ける。図2(a)〜(c)からも明らかなように、車両重量が実際には変化していない場合であっても、前後方向加速度Gxが小さい場合ほど、車両重量データMの演算結果のばらつきが大きくなる。その一方で、前後方向加速度Gxが大きい場合ほど、車両重量データMの演算結果のばらつきが小さくなる。つまり、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの精度は、他の記憶領域341,342に記憶される車両重量データMのよりも高く、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMの精度は、小加速時記憶領域341に記憶される車両重量データMのよりも高い。
【0041】
本実施形態では、演算された複数の車両重量データMを用いて、車両重量の推定値が演算される。このとき、前後方向加速度Gxが大きい場合に演算された車両重量データMに対する比重を、前後方向加速度Gxが小さい場合に演算された車両重量データMに対する比重よりも大きくする重み付け平均処理に基づき、車両重量の推定値が取得される。
【0042】
そこで次に、演算された車両重量データMを、演算時の前後方向加速度Gxに応じて重み付けする際に利用される各マップについて、図3を参照して説明する。
図3(a)に示す第1のマップは、小加速時記憶領域341に記憶される車両重量データMに対する比重を設定するための第1係数(小加速度係数)Iを、サンプル数SIに応じた値に設定するためのマップである。サンプル数SIは、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMの記憶数と、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数との合計、即ち他の各記憶領域342,343に記憶される車両重量データMの記憶数の合計を示している。図3(a)に示すように、第1係数Iは、サンプル数SIが所定サンプル数SI1未満である場合にはサンプル数SIが多いほど小さな値に設定され、サンプル数SIが所定サンプル数SI1以上である場合には最小値I1(>0(零))に設定される。
【0043】
図3(b)に示す第2のマップは、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMに対する比重を設定するための第2係数Jを、サンプル数SJに応じた値に設定するためのマップである。サンプル数SJは、中加速時記憶領域342よりも大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数の合計である。本実施形態では、サンプル数SJは、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数である。図3(b)に示すように、第2係数Jは、サンプル数SJが所定サンプル数SJ1未満である場合にはサンプル数SJが多いほど小さな値に設定され、サンプル数SJが所定サンプル数SJ1以上である場合には最小値J1(>0(零))に設定される。したがって、中加速時記憶領域342を小加速度領域用の記憶領域とした場合、第2係数Jは、小加速度係数に該当する。
【0044】
図3(c)に示す第3のマップは、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMに対する比重を設定するための第3係数Kを、サンプル数SKに応じた値に設定するためのマップである。サンプル数SKは、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMの記憶数である。図3(c)に示すように、第3係数Kは、サンプル数SKが「0(零)」である場合には「0(零)」に設定され、サンプル数SKが所定サンプル数SK1(>0(零))未満である場合にはサンプル数SKが多いほど大きな値に設定され、サンプル数SKが所定サンプル数SK1以上である場合には最大値K1に設定される。したがって、中加速時記憶領域342を大加速度領域用の記憶領域とした場合、第3係数Kは、大加速度係数に該当する。
【0045】
図3(d)に示す第4のマップは、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMに対する比重を設定するための第4係数(大加速度係数)Lを、サンプル数SLに応じた値に設定するためのマップである。サンプル数SLは、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数である。図3(d)に示すように、第4係数Lは、サンプル数SLが「0(零)」である場合には「0(零)」に設定され、サンプル数SLが所定サンプル数SL1(>0(零))未満である場合にはサンプル数SLが多いほど大きな値に設定され、サンプル数SLが所定サンプル数SL1以上である場合には最大値L1に設定される。なお、最大値L1は、最大値K1と同一値であってもよいし、最大値K1とは異なる値であってもよい。
【0046】
次に、本実施形態のブレーキ用ECU30が実行する各種制御処理ルーチンについて、図4及び図5に示すフローチャートと、図6に示すタイミングチャートとを参照して説明する。なお、図4は車両重量の推定値を演算する際に実行される重量推定処理ルーチンを説明するフローチャートを示すと共に、図5は車両の横転を抑制するための横転抑制処理ルーチンを説明するフローチャートを示している。また、図6は、停車中に車両重量が変化しない場合における車両重量の推定値の変化態様を説明するタイミングチャートを示している。
【0047】
始めに、重量推定処理ルーチンについて説明する。
さて、重量推定処理ルーチンは、予め設定された所定時間毎(例えば、6ミリ秒毎)に実行される。そして、重量推定処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU30は、各車輪用の車輪速度センサSE3からの検出信号に基づき、各車輪10の車輪速度VWを演算する(ステップS10)。続いて、ブレーキ用ECU30は、演算した各車輪10の車輪速度VWのうち少なくとも一つの車輪の車輪速度VWに基づき車両の車体速度VSを演算し(ステップS11)、該車体速度VSの単位時間あたりの変化量である車体速度微分値DVSを演算する(ステップS12)。
【0048】
そして、ブレーキ用ECU30は、前後方向加速度センサSE4からの検出信号に基づき車両の前後方向加速度(車体加速度)Gxを演算する(ステップS13)。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、加速度演算手段としても機能する。また、ステップS13が、加速度演算ステップに相当する。続いて、ブレーキ用ECU30は、ステップS12で演算した車体速度微分値DVSからステップS13で演算した前後方向加速度Gxを減算し、該演算結果に基づき路面勾配θを取得する(ステップS14)。車体速度微分値DVSと前後方向加速度Gxとの間には、車両の走行する路面の勾配に応じた差が発生する。この差を利用して、路面勾配θが取得される。
【0049】
そして、ブレーキ用ECU30は、エンジン用ECU14から駆動トルクFを取得する(ステップS15)。続いて、ブレーキ用ECU30は、パーキングブレーキ25が作動中であるか否かを判定する(ステップS16)。このステップS16では、パーキングブレーキ25によって各車輪10のうち一部の車輪に制動力が付与されているか否かが判定される。パーキングブレーキ25が作動中である場合(ステップS16:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両が停車したと判断するための停車条件が成立したと判定し、その処理を後述するステップS24に移行する。一方、パーキングブレーキ25が作動中ではない場合(ステップS16:NO)、ブレーキ用ECU30は、ステップS11で演算した車体速度VSが予め設定された停車判定速度VSth(例えば、3km/h)未満であるか否かを判定する(ステップS17)。
【0050】
車体速度VSが停車判定速度VSth以上である場合(ステップS17:NO)、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立していないと判定し、その処理を後述するステップS19に移行する。一方、車体速度VSが停車判定速度VSth未満である場合(ステップS17:YES)、ブレーキ用ECU30は、車体速度VSが停車判定速度VSth未満となってからの経過時間Tsが予め設定された停車判定時間Tsth(例えば、30秒)以上であるか否かを判定する(ステップS18)。この停車判定時間Tsthは、例えば、車両への荷物の運び込みや運び出しに要する最低限度の時間に基づき設定されている。なお、経過時間Tsは、車体速度VSが停車判定速度VSth以上になると、「0(零)」秒にリセットされる。
【0051】
経過時間Tsが停車判定時間Tsth以上である場合(ステップS18:YES)、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立したと判定し、その処理を後述するステップS24に移行する。一方、経過時間Tsが停車判定時間Tsth未満である場合(ステップS18:NO)、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立していないと判定し、その処理を次のステップS19に移行する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、停車判定手段としても機能する。また、ステップS16,S17,S18により、停車判定ステップが構成される。
【0052】
ステップS19において、ブレーキ用ECU30は、ブレーキスイッチSW1がオフであるか否かを判定する。ブレーキスイッチSW1がオンである場合(ステップS19:NO)、ブレーキ用ECU30は、運転手によるブレーキペダル23の操作によって各車輪10に制動力が付与されているため、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキスイッチSW1がオフである場合(ステップS19:YES)、ブレーキ用ECU30は、車輪10に制動力が付与されていないため、車両重量データMの演算処理を行う(ステップS20)。例えば、ブレーキ用ECU30は、以下に示す各関係式(式1)〜(式5)を用いて車両重量データMを演算する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、予め設定された所定周期毎に、前後方向加速度Gxを用いて車両重量データMを演算する車重データ演算手段としても機能する。また、ステップS20が、車重データ演算ステップに相当する。なお、前後方向加速度Gxが上記検出限界値未満である場合、車両重量データMの演算は行われない。
【0053】
【数1】


ただし、F…駆動トルク、F1…車両の慣性力、F2…路面勾配に基づく勾配抵抗、F3…路面と車輪との間の摩擦抵抗(走行抵抗)、F4…車両に対する空気抵抗、g…重力加速度、μ…摩擦係数、A…空気抵抗を取得するために設定された所定値
そして、ブレーキ用ECU30は、ステップS20で演算した今回の車両重量データMを、上記各記憶領域341〜343のうち何れか一つの記憶領域に記憶させる(ステップS21)。具体的には、ブレーキ用ECU30は、今回のステップS13で演算した前後方向加速度Gxが、小さいか、中程度であるか、大きいかを判別する。そして、ブレーキ用ECU30は、今回の車両重量データMを、前後方向加速度Gxが小さい場合には小加速時記憶領域341に記憶させ、中程度である場合には中加速時記憶領域342に記憶させ、大きい場合には大加速時記憶領域343に記憶させる。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、前後方向加速度Gxが大きいか小さいかを判別する加速度判別手段としても機能する。また、ブレーキ用ECU30が、前後方向加速度Gxが小さいと判別された場合には今回の車両重量データMを小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、前後方向加速度Gxが大きいと判別された場合には今回の車両重量データMを大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別手段としても機能する。また、ステップS21が、加速度判別ステップ及び車重データ選別ステップに相当する。
【0054】
続いて、ブレーキ用ECU30は、小加速時記憶領域341に記憶される全ての車両重量データMの平均値M1ave、中加速時記憶領域342に記憶される全ての車両重量データMの平均値M2ave、及び大加速時記憶領域343に記憶される全ての車両重量データMの平均値M3aveを演算する(ステップS22)。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、記憶領域に記憶される各車両重量データMの平均値M1ave,M2ave,M3aveを記憶領域341〜343毎に演算する平均値演算手段としても機能する。中加速時記憶領域342を小加速度領域用の記憶領域と見なした場合、平均値M1ave,M2aveが小加速時平均値に該当し、平均値M3aveが大加速時平均値に該当する。また、中加速時記憶領域342を大加速度領域用の記憶領域と見なした場合、平均値M1aveが小加速時平均値に該当し、平均値M2ave,M3aveが大加速時平均値に該当する。
【0055】
そして、ブレーキ用ECU30は、重み付け平均処理を行い、該処理結果を車両重量の推定値MSとし(ステップS23)、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。具体的には、ブレーキ用ECU30は、以下に示す関係式(式6)を用いて車両重量の推定値MSを演算する。このとき、ブレーキ用ECU30は、第1〜第4の各マップ(図3参照)に基づき各係数I,J,K,Lを設定し、該各係数I,J,K,Lを関係式(式6)に代入する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数が多い場合には、記憶数が少ない場合と比較して、小加速度係数を小さな値に設定する係数設定手段としても機能する。また、ブレーキ用ECU30が、重量推定値演算手段としても機能する。また、ステップS23が、重量推定値演算ステップに相当する。
【0056】
【数2】


ここで、第1係数Iは、車両重量の推定値MSを演算するに当り、前後方向加速度Gxが小さい場合における車両重量の平均値M1aveに対する比重を決定するための値である。サンプル数SIが少ない場合における車両重量の平均値M2ave,M3aveは、サンプル数SIが多い場合における車両重量の平均値M2ave,M3aveよりも車両の実際の重量から乖離した値となりやすい。そのため、車両重量の平均値M1aveに対する比重は、サンプル数SIが少ない場合には多い場合よりも大きくなる。
【0057】
また、第2係数J及び第3係数Kは、車両重量の推定値MSを演算するに当り、前後方向加速度Gxが中程度である場合における車両重量の平均値M2aveに対する比重を決定するための値である。サンプル数SKが少ない場合における車両重量の平均値M2aveは、サンプル数SKが多い場合における車両重量の平均値M2aveよりも実際の車両重量から乖離した値となりやすい。換言すると、車両重量の平均値M2aveは、サンプル数SKが多いほど、車両の実際の重量に近い値となる。そのため、車両重量の平均値M2aveに対する比重は、車両重量データMのサンプル数SKが多い場合には少ない場合よりも大きくなる。
【0058】
また、サンプル数SJが少ない場合における車両重量の平均値M3aveは、サンプル数SJが多い場合における車両重量の平均値M3aveよりも車両の実際の重量から乖離した値となりやすい。そのため、車両重量の平均値M2aveに対する比重は、サンプル数SJが少ない場合には多い場合よりも大きくなる。
【0059】
また、第4係数Lは、車両重量の推定値MSを演算するに当り、前後方向加速度Gxが大きい場合における車両重量の平均値M3aveに対する比重を決定するための値である。サンプル数SLが少ない場合における車両重量の平均値M3aveは、サンプル数SLが多い場合における車両重量の平均値M3aveよりも実際の車両重量から乖離した値となりやすい。そのため、車両重量の平均値M3aveに対する比重は、サンプル数SLが少ない場合には多い場合よりも小さくなる。
【0060】
すなわち、図6のタイミングチャートに示すように、停車状態の車両が発進した直後の第1のタイミングt11では、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1以下であるため、所定周期毎に推定される車両重量データMは小加速時記憶領域341に記憶される。すなわち、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1以上となる第2のタイミングt12以前では、中加速時記憶領域342及び大加速時記憶領域343には車両重量データMが記憶されていない。この場合、第3係数K及び第4係数Lは「0(零)」となる(図3(c)(d)参照)。したがって、車両重量の推定値MSは、前後方向加速度Gxが小さい場合における車両重量の平均値M1aveとなる。
【0061】
そして、第2のタイミングt12を経過すると、前後方向加速度Gxが第1の基準値Gth1以上となるため、所定周期毎に推定される車両重量データMは中加速時記憶領域342に記憶されるようになる。ただし、前後方向加速度Gxが第2の基準値Gth2以上となる第3のタイミングt13以前では、大加速時記憶領域343には車両重量データMが記憶されていないため、第2係数Jは「0(零)」となる(図3(b)参照)。また、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMの記憶数が多くなるに連れて、第1係数Iは次第に小さくなる一方、第3係数Kは次第に大きくなる(図3(a)(c)参照)。
【0062】
そのため、第2のタイミングt12と第3のタイミングt13との間では、前後方向加速度Gxが中程度である場合における車両重量の平均値M2aveに対する比重を大きくし、前後方向加速度Gxが小さい場合における車両重量の平均値M1aveに対する比重を小さくする重み付け平均処理に基づき、車両重量の推定値MSが演算される。その結果、誤差成分が少ない加速度領域における平均値に対する比重が大きくなる分、車両重量の推定値MSの推定精度が高くなる。しかも、中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMの記憶数が多くなるほど、車両重量の推定値MSの推定精度が高くなる。
【0063】
そして、第3のタイミングt13を経過すると、前後方向加速度Gxが第2の基準値Gth2以上となるため、所定周期毎に推定される車両重量データMは大加速時記憶領域343に記憶されるようになる。すると、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数が多くなるに連れて、第1係数I及び第2係数Jは次第に小さくなる一方、第4係数Lは次第に大きくなる(図3(a)(b)(d)参照)。なお、第3のタイミングt13が経過すると、前後方向加速度Gxが第2の基準値Gth2未満となるタイミングt135までは、サンプル数SK、即ち中加速時記憶領域342に記憶される車両重量データMの記憶数は増えないため、第3係数Kは第3のタイミングt13が経過した時点の値で維持される。
【0064】
その結果、第3のタイミングt13以降のタイミングt135になるまでは、前後方向加速度Gxが大きい場合における車両重量の平均値M3aveに対する比重を大きくし、車両重量の平均値M1ave,M2aveに対する比重を小さくする重み付け平均処理に基づき、車両重量の推定値MSが演算される。そのため、誤差成分が少ない加速度領域における平均値に対する比重が大きくなる分、車両重量の推定値MSの推定精度がさらに向上する。しかも、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数が多くなるほど、車両重量の推定値MSの推定精度が高くなる。
【0065】
なお、図6においてタイミングt11,t12,t13は、変速機の変速段が低変速段(例えば、第1速の変速段)である状態を示している。また、後述する第4のタイミングt14は、変速段が低変速段のままで減速を開始した状態を示し、第5のタイミングt15は、変速段が低変速段のままで停車した状態を示している。実際の車両走行においては、変速段を中変速段(例えば、第2速の変速段)、高変速段(例えば、第3速の変速段)に変速され、この状態で停車されることもある。しかし、ここでは、こうした場合についての図示を省略している。
【0066】
低変速段での車両の加速後に、中変速段や高変速段で車両が加速する場合、図6において車体速度VSの変化を示す前後方向加速度Gxは、変速段が高変速段側に変速されるほど小さくなる。つまり、中変速段での車両の加速時では、前後方向加速度Gxの変化量は、低変速段での車両の加速時と比較して少ない。同様に、高変速段での車両の加速時では、前後方向加速度Gxの変化量は、低変速段や中変速段での車両の加速時と比較してさらに少ない。
【0067】
こうした中変速段や高変速段での車両走行時においては、時間が経過するに連れて、小加速時記憶領域341に記憶される車両重量データMの記憶数が多くなる。そのため、本実施形態の重み付け平均処理(統計処理)によって、車両重量の推定値MSは、実際の重量MRに次第に近づいていく。
【0068】
その一方で、車両が急加速するような運転を運転手が行う場合には、前後方向加速度Gxが大きな値となるため、誤差の少ない車両重量データMが多く取得される。こうした車両重量データMが大加速時記憶領域343に多く記憶されるようなると、上記第4係数Lが大きくなる。その結果、本実施形態の重み付け平均処理(統計処理)によって、誤差の小さい車両重量データMの比重が大きくなり、車両重量の推定値MSは、実際の重量MRに次第に近づいていく。
【0069】
その後、運転手がブレーキペダル23を操作すると、車両重量データMの演算が行われなくなる(第4のタイミングt14)。この場合、車両重量の推定値MSは、第4のタイミングt14の直前に演算された値で維持される。
【0070】
図4のフローチャートに戻り、ステップS17,S18での判定結果が肯定(YES)である場合、ブレーキ用ECU30は、ステップS24の処理を実行する。このステップS24において、ブレーキ用ECU30は、車両停車中に車両重量が変化する可能性があるため、車両重量の推定値MSを初期値MS_Reとする(ステップS24)。この初期値MS_Reは、車両の積載量が最大となった際における車両重量に相当する値又は該車両重量よりも大きな値である。その後、ブレーキ用ECU30は、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0071】
すなわち、図6のタイミングチャートに示すように、車両が停車する第5のタイミングt15では、車両重量の推定値MSは初期値MS_Reにリセットされる。そして、車両が再発進する第6のタイミングt16までは、車両重量の推定値MSは初期値MS_Reで維持される。そして、第6のタイミングt16で、ブレーキスイッチSW1がオフになると、車両が再発進する。その後、前後方向加速度Gxが上記検出限界値以上になると、車両重量データMが所定周期毎に演算される。
【0072】
次に、横転抑制処理ルーチンについて、図5のフローチャートを参照して説明する。
さて、横転抑制処理ルーチンは、予め設定された所定時間毎(例えば、6ミリ秒毎)に実行される。そして、横転抑制処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU30は、ブレーキスイッチSW1がオフであるか否かを判定する(ステップS40)。ブレーキスイッチSW1がオンである場合(ステップS40:NO)、ブレーキ用ECU30は、運転手がブレーキペダル23を操作中であるため、横転抑制処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキスイッチSW1がオフである場合(ステップS40:YES)、ブレーキ用ECU30は、横方向加速度センサSE5からの検出信号に基づき車両の横方向加速度Gyを演算する(ステップS41)。したがって、本実施形態では、横方向加速度演算手段としても機能する。
【0073】
続いて、ブレーキ用ECU30は、横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値Gythを、車両重量の推定値MSが大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定する(ステップS42)。例えば、ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定値MSが予め設定された重量閾値以上である場合には閾値Gythを第1の値に設定し、車両重量の推定値MSが重量閾値未満である場合には閾値Gythを第1の値よりも大きな第2の値に設定する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、閾値設定手段としても機能する。
【0074】
そして、ブレーキ用ECU30は、ステップS41で演算した横方向加速度GyがステップS42で設定した閾値Gyth以上であるか否かを判定する(ステップS43)。横方向加速度Gyが閾値Gyth未満である場合(ステップS43:NO)、ブレーキ用ECU30は、車両の横転の可能性が低いと判断し、横転抑制処理ルーチンを一旦終了する。一方、横方向加速度Gyが閾値Gyth以上である場合(ステップS43:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両の横転の可能性があると判断し、横転抑制制御を行い(ステップS44)、横転抑制処理ルーチンを一旦終了する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、制御手段としても機能する。
【0075】
閾値Gythは、車両重量の推定値MSに基づいた値に設定される。しかも、上記車両重量推定処理ルーチンの実行によって、車両重量の推定値MSは、車両の実際の重量MRに非常に近い値に設定される。そのため、横転抑制制御の制御開始が遅れたり、不必要に横転抑制制御が開始されたりすることが抑制される。すなわち、横転抑制制御が必要な場合には、横転抑制制御が適切なタイミングで開始される。
【0076】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両重量の推定値MSは、所定周期毎に推定された複数の車両重量データMに基づき演算される。このとき、車両重量の推定値MSは、前後方向加速度Gxが小さい場合に推定された車両重量データMに対する比重よりも、前後方向加速度Gxが大きい場合に推定された車両重量データMに対する比重を大きくする重み付け平均処理によって取得される。したがって、車両重量データMの演算時における前後方向加速度Gxの大小によって車両重量データMの重み付けを変えて車両重量の推定値MSを演算することにより、車両重量の推定値MSの推定精度を向上させることができる。
【0077】
(2)所定周期毎に演算される車両重量データMは、そのときの前後方向加速度Gxに応じた記憶領域341〜343に記憶される。そして、各記憶領域341〜343に記憶される車両重量データMに対する比重は、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数に応じて設定される。したがって、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数が多いほど、車両重量の推定値MSの推定精度を向上させることができる。
【0078】
(3)車両が発進すると、前後方向加速度Gxは徐々に大きくなる。すなわち、車両が発進した直後では、中加速時記憶領域342及び大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMよりも小加速時記憶領域341に記憶される車両重量データMのほうが多い。そこで、本実施形態では、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数が少ない場合には記憶数が多い場合よりも、小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMに対する比重を大きくすると共に、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMに対する比重を小さくする重み付け平均処理によって車両重量の推定値MSが取得される。したがって、車両が発進すると、車両重量の推定値MSを速やかに演算することができる。
【0079】
(4)そして、前後方向加速度Gxが徐々に大きくなると、中加速時記憶領域342や大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数が多くなる。すると、車両重量の推定値MSを演算する際には、小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMに対する比重が小さくなると共に、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMに対する比重を大きくなる。したがって、車両重量の推定値MSに用いる車両重量データMのサンプル数が多くなるほど、車両重量の推定値MSの推定精度を向上させることができる。
【0080】
(5)大加速時記憶領域343に車両重量データMが一つも記憶されていない第3のタイミングt13までの期間の場合、中加速時記憶領域342は、加速度領域が最も大きい記憶領域となる。そこで、本実施形態では、前後方向加速度Gxが中程度である場合における車両重量の平均値M2aveに対する比重を決定するための係数としては、第2係数Jだけではなく第3係数Kが用意されている。そのため、大加速時記憶領域343における車両重量データMの記憶数が「0(零)」であったとしても、各車両重量の平均値M1ave,M2aveの比重を適切に設定することができ、記憶領域内の精度の高い車両重量データMを用いて車両重量の推定値MSを取得することができる。
【0081】
(6)車両重量の推定値MSを制御パラメータとする車両制御としては、横転抑制制御が挙げられる。本実施形態では、横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値Gythは、車両重量の推定値MSが大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定される。そのため、重量の重い車両では、早いタイミングで横転抑制制御が開始されるため、車両の横転を抑制することができる。一方、重量の軽い車両では、横転の可能性の低いタイミングで横転抑制制御が開始されることが抑制される。すなわち、横転抑制制御の不用意な実行を抑制することができる。特に、本実施形態では、車両の再発進後における車両重量の推定値MSの推定精度が向上している。そのため、車両の再発進直後であっても、横転抑制制御を適切に行うことができる。
【0082】
(7)近年、運転手の環境に対する意識は高まっている。そのため、信号待ち時などのように比較的長時間、車両を停車させる場合に、イグニッションスイッチが自主的にオフにされ、エンジン11が停止されることがある。ここで、もし仮に、各記憶領域341〜343がRAM33に設けられていたとすると、車両の再発進時には、各記憶領域341〜343が初期化されてしまい、車両重量の推定値MSの演算に用いる車両重量データMを取得し直す必要が生じる。この場合、精度の高い車両重量の推定値MSを取得できるようになるまでには、ある程度の時間が必要となる。
【0083】
この点、本実施形態では、各記憶領域341〜343はEEPROM34に設けられている。そのため、車両の停車時にイグニッションスイッチがオフにされた場合であっても、その後の再発進時には、各記憶領域341〜343に記憶されている各車両重量データMを用いて、車両重量の推定値MSを演算することができる。したがって、車両の停車時にイグニッションスイッチがオフにされた場合であっても、その後の再発進後における車両重量の推定値MSの推定精度を向上させることができる。
【0084】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、停車条件は、パーキングブレーキ25が操作されたことを含まなくてもよい。この場合、車両重量推定処理ルーチンからは、ステップS16の判定処理が省略される。
【0085】
・実施形態において、停車判定時間Tsthは、「30秒」以外の任意の時間(例えば、20秒)であってもよい。
・実施形態において、車両重量推定処理ルーチンから、ステップS17,S18の各判定処理を省略してもよい。この場合、パーキングブレーキ25が操作された場合にのみ、車両が停車したと判定される。
【0086】
・実施形態において、車両がパワーテイクオフ装置付きの車両である場合、停車条件は、パワーテイクオフ装置が作動中であることを含んでもよい。また、車載の変速機120が自動変速機である場合、停車条件は、変速機120のレンジがパーキングレンジであることを含んでもよい。
【0087】
・実施形態において、各記憶領域341〜343をRAM33に設けてもよい。
・実施形態において、記憶領域を、小加速時記憶領域341と大加速時記憶領域343だけとしてもよい。この場合、第1係数Iを設定するためのサンプル数SIは、大加速時記憶領域343に記憶される車両重量データMの記憶数となる。
【0088】
・実施形態において、加速度領域の異なる記憶領域を、4つ以上の任意数(例えば、4つ)設けてもよい。この場合、小加速度領域に対する係数(例えば、第1係数I)を設定するためのサンプル数は、他の3つの記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数の合計となる。また、2番目に小さい加速度領域用の記憶領域に対する一の係数(例えば、第2係数J)を設定するためのサンプル数は、3番目に小さい加速度領域用の記憶領域と最も大きい大加速度領域用の記憶領域とに記憶される車両重量データMの記憶数の合計となる。2番目に小さい加速度領域用の記憶領域に対する他の係数(例えば、第3係数K)を設定するためのサンプル数は、2番目に小さい加速度領域用の記憶領域の車両重量データMの記憶数となる。
【0089】
また、3番目に小さい加速度領域用の記憶領域に対する一の係数を設定するためのサンプル数は、大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数の合計となる。3番目に小さい加速度領域用の記憶領域に対する他の係数を設定するためのサンプル数は、3番目に小さい加速度領域用の記憶領域の車両重量データMの記憶数となる。そして、大加速度領域用の記憶領域に対する係数(例えば、第4係数L)を設定するためのサンプル数は、加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データMの記憶数となる。
【0090】
・実施形態において、駆動トルクFを、センサを用いずに予め用意されたエンジントルクマップなどの特性マップを用いて取得してもよい。
・実施形態において、前後方向加速度センサSE4の代わりに車輪速度センサSE3からの検出信号に基づき演算される車輪10の車輪速度VWを微分し、この車輪速度微分値を、車体加速度として用いてもよい。この場合、車輪速度微分値を、路面勾配θによる加速度値への影響を補正するようにしてもよい。すなわち、加速度演算手段は、車輪速度センサSE3を用いて車輪速度微分値を演算するものであってもよい。
【0091】
・実施形態において、センサ(例えば、車輪速センサSE3)からの検出信号に基づきパラメータ(車輪速度VW)を演算する場合には、当該検出信号に所定のフィルタ処理を施し、該フィルタ処理後の信号に基づきパラメータを演算するようにしてもよい。また、センサ(例えば、車輪速センサSE3)からの検出信号に基づき演算したパラメータ(車輪速度VW)に所定のフィルタ処理を施し、フィルタ処理後のパラメータを用いて車両制御を行うようにしてもよい。
【0092】
・本発明の車両重量の推定装置を、ブレーキ用ECU30以外の他の車載のECU(例えば、エンジン用ECU14)で具体化してもよい。もちろん、車両に、車両重量の推定値MSの演算専用のECUを設けてもよい。
【0093】
・実施形態において、横転抑制制御の開始判定用の閾値Gythを、所定の関係式を用いて設定してもよい。この所定の関係式は、車両重量の推定値MSが大きいほど閾値Gythを小さくする一次関数であってもよいし、二次関数であってもよい。
【0094】
・実施形態において、演算した車両重量の推定値MSを、エンジン用ECU14でのエンジン制御時の制御パラメータとして用いてもよい。また、車載の変速機120が自動変速機である場合には、車両重量の推定値MSを、自動変速機での変速制御時の制御パラメータとして用いてもよい。
【0095】
次に、上記各実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記係数設定手段(30、S23)は、前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の記憶数が多い場合には、記憶数が少ない場合と比較して、車両重量の推定値(MS)の重み付け平均処理で用いられる大加速度係数を大きな値に設定することを特徴とする車両重量の推定装置。
【符号の説明】
【0096】
10…車輪、14…車両重量の推定装置の一例としてのエンジン用ECU、30…車両重量の推定装置、横転抑制装置の一例としてのブレーキ用ECU(加速度演算手段、重量推定手段、重量推定値演算手段、領域選別手段、横方向加速度取得手段、閾値設定手段、制御手段)、33…記憶手段の一例としてのRAM、34…記憶手段の一例としてのEEPROM、341〜343…記憶領域、M…車両重量データ、M1ave,M2ave,M3ave…平均値、MS…車両重量の推定値、Gx…車体加速度としての前後方向加速度、Gy…横方向加速度、Gyth…閾値、Ts…経過時間、Tsth…停車判定時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体加速度(Gx)を演算する加速度演算手段(30、S13)と、
予め設定された周期毎に、前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算する車重データ演算手段(30、S20)と、
前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)が大きいか小さいかを判別する加速度判別手段(30、S21)と、
車両重量データ(M)の演算に用いられた車体加速度(Gx)が小さいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、車体加速度(Gx)が大きいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別手段(30、S21)と、
前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重を、前記小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重よりも大きくする重み付け平均処理を行い、該処理で演算された値を車両重量の推定値(MS)とする重量推定値演算手段(30、S23)と、を備えることを特徴とする車両重量の推定装置。
【請求項2】
車両の車体加速度(Gx)を演算する加速度演算手段(30、S13)と、
予め設定された周期毎に、前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算する車重データ演算手段(30、S20)と、
前記加速度演算手段(30、S13)によって演算された車体加速度(Gx)が大きいか小さいかを判別する加速度判別手段(30、S21)と、
車両重量データ(M)の演算に用いられた車体加速度(Gx)が小さいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、車体加速度(Gx)が大きいと判別された場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別手段(30、S21)と、
前記小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の平均値を小加速時平均値として取得し、前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の平均値を大加速時平均値として取得する平均値演算手段(30、S22)と、
前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の記憶数が多い場合には、記憶数が少ない場合と比較して、車両重量の推定値(MS)の重み付け平均処理で用いられる小加速度係数を小さな値に設定する係数設定手段(30、S23)と、
前記平均値演算手段(30、S22)によって演算された小加速時平均値に対して前記係数設定手段(30、S23)によって設定された小加速度係数を乗算した値と、演算された大加速時平均値に対して大加速度係数を乗算した値とを加算する重み付け平均処理を行い、該処理によって演算された値を車両重量の推定値(MS)とする重量推定値演算手段(30、S23)と、を備えることを特徴とする車両重量の推定装置。
【請求項3】
車両の横転を抑制する横転抑制制御を行う車両の横転抑制装置であって、
請求項1又は請求項2に記載の車両重量の推定装置(14,30)と、
車両の横方向加速度(Gy)を演算する横方向加速度演算手段(30、S41)と、
前記横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値(Gyth)を、前記車両の推定装置(14,30)によって演算された車両重量の推定値(MS)が大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定する閾値設定手段(30、S42)と、
前記横方向加速度演算手段(30、S41)によって取得された横方向加速度(Gy)が、前記閾値設定手段(30、S42)によって設定された閾値(Gyth)以上である場合に、前記横転抑制制御を開始する制御手段(30、S44)と、を備えることを特徴とする車両の横転抑制装置。
【請求項4】
車両の車体加速度(Gx)を演算させる加速度演算ステップ(S13)と、
予め設定された周期毎に実行されるステップであって、前記加速度演算ステップ(S13)で演算した車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算させる車重データ演算ステップ(S20)と、
前記加速度演算ステップ(S13)で演算した車体加速度(Gx)が大きいか小さいかを判別させる加速度判別ステップ(S21)と、
車両重量データ(M)の演算に用いた車体加速度(Gx)が小さいと判別した場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を小加速度領域用の記憶領域に記憶させ、車体加速度(Gx)が大きいと判別した場合には当該車体加速度(Gx)を用いて演算された車両重量データ(M)を大加速度領域用の記憶領域に記憶させる車重データ選別ステップ(S21)と、
前記大加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重を、前記小加速度領域用の記憶領域に記憶される車両重量データ(M)の比重よりも大きくする重み付け平均処理を行い、該処理で演算された値を車両重量の推定値(MS)とさせる重量推定値演算ステップ(S23)と、を有することを特徴とする車両重量の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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