説明

車両

【課題】搭載スペースを増大させることなく、インバータと回転電機との間の相対的な配置関係が変化した場合においても、インバータと回転電機との電気的接続を維持させる。
【解決手段】車両100は、インバータ30と、筐体40内に収容された回転電機32,34と、インバータ30と回転電機32,34とを電気的に接続する電線と、を備える。該電線は、筐体40内に収納された余長部を有し、インバータ30と回転電機32,34との相対移動でインバータ30と回転電機32,34との間の距離が増大すると、筐体40内から該電線の少なくとも一部が引き出され、インバータ30と回転電機32,34との間の電気的接続を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータと回転電機とを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両は一般に、回転電機を備える。図9に例示する回転電機10は、内側部分に中空部分を形成する、固定子としてのステータ12と、ステータ12の内側部分と対面し、シャフト16を軸として回転可能な、回転子としてのロータ14とを備える。
【0003】
図9において、ステータ12は、ステータコア13と、ステータコア13を巻回するステータコイル22とを含み、構成されている。また、ステータコア13の両端に突出するようにコイルエンド22a,22bが形成されている。
【0004】
回転電機10は、一般に、モータおよび発電機として機能し得るいわゆるモータジェネレータとして利用することができる。回転電機がモータとして機能するときには、二次電池や燃料電池などの電源からの直流電力を、必要に応じて昇圧コンバータを用いて所望の電圧に昇圧させて、インバータにより多相交流電力に変換した後にステータコイル22に通電し、ロータ14を回転させる。一方、回転電機が発電機として機能するときには、ロータ14の回転によってステータコイル22に流れる電流を取り出し、回生電力として二次電池に充電され、または補機等の駆動電力として消費される。
【0005】
特許文献1には、エンジンルームに配置されたインバータと電動モータとを接続する高圧電線を束ね、車両前後方向に対してエンジンの後方に配策し、車両前方方向からの衝撃に伴う高圧電線の損傷を回避することについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−306846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば衝突など、車両が外力を受けることにより、車両に搭載したインバータおよび/または回転電機が、当初の適正な配置から移動することがある。このような場合において、インバータと回転電機とを電気的に接続する高圧電線(パワーケーブル)が損傷および/または断線するという不具合を回避するために、インバータと回転電機との間の直線距離に対して適当な余長を付加させた線路長を有するパワーケーブルを適用する態様が考えられる。
【0008】
しかしながら、例えば引用文献1に記載の高圧電線に付加した余長部分を弛ませた状態で配策する態様では、パワーケーブルの曲げ半径が大きくなり、高圧電線の配策の自由度が小さくなる可能性がある。このため、体格が増大し、車両への搭載スペースが十分に確保できないという懸念があり得た。
【0009】
本発明は、車両への搭載スペースを増大させることなく、インバータと回転電機との間の相対的な配置関係が変化した場合においても、インバータと回転電機との電気的接続を維持させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成は、以下の通りである。
【0011】
(1)インバータと、筐体内に収容された回転電機と、前記インバータと前記回転電機とを電気的に接続する線路と、を備え、前記線路は、前記筐体内に収納された余長部を有し、前記インバータと前記回転電機との相対移動で前記インバータと前記回転電機との間の距離が増大すると前記筐体内から前記線路の少なくとも一部が引き出され、前記インバータと前記回転電機との間の電気的接続を維持する、車両。
【0012】
(2)上記(1)に記載の車両において、前記余長部と前記インバータとの間に、前記線路が受ける外力が所定の負荷に満たないときには前記筐体内からの前記線路の引き出しを抑制し、前記線路が受ける外力が所定の負荷を超えたときには前記筐体内からの前記線路の引き出しを許容する規制機構を備える、車両。
【0013】
(3)上記(2)に記載の車両において、前記規制機構は、前記線路の少なくとも一部と固設され、かつ基材に固定されており、前記線路が受ける外力が所定の負荷を超えると、前記規制機構の少なくとも一部が前記基材から離脱し、前記筐体内からの前記線路の引き出しを許容する、車両。
【発明の効果】
【0014】
車両への搭載スペースを増大させることなく、インバータと回転電機との間の相対的な配置関係が変化した場合においても、インバータと回転電機との電気的接続を維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両の構成の概略を説明するための図である。
【図2】インバータと筺体内の回転電機との間の電気的接続の一例について説明するための図である。
【図3】規制機構46の一例を説明するための断面拡大図である。
【図4】規制機構46の作製方法の一例について説明するための図である。
【図5】規制機構46の破断の様子について説明するための図である。
【図6】インバータと筺体内の回転電機との間の電気的接続の他の例について説明するための図である。
【図7】規制機構66の一例を説明するための、断面および背面視した拡大図である。
【図8】規制機構66の破断の様子について説明するための図である。
【図9】回転電機の構成の概略を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、各図面において同じ構成については同じ符号を付し、場合によってはその説明を省略する。また、図面中および各図面間における各部材の寸法比は必ずしも実際の寸法比に一致していない。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態における車両に搭載された、インバータと回転電機とを電気的に接続する導電線路(線路)の配索例について示したものである。図1に示す車両100は、インバータ30と、トランスミッションまたはトランスアクスルを構成する筐体40内に配置された回転電機32,34と、を備える。筐体40がトランスアクスルを構成する場合には、筐体40の内部に、回転電機32および/または回転電機34の回転を車輪(図示せず)に伝達するための差動装置またはデファレンシャルギア36を併設することができる。
【0018】
回転電機32,34はそれぞれ、インバータ30と電気的に接続されている。より具体的には、各回転電機32,34のステータコイルを構成する、例えば三相動力線など、多相のステータ動力線の端部と、このステータ動力線に対応するようにインバータ30から延出される複数の電線とが、回転電機32,34またはその近傍に設けられた、ここでは図示しない端子台上でそれぞれ電気的に接続されている。そして、インバータ30から筐体40内に延出される複数の電線は、1または複数本に束ねられ、例えば、架橋ポリエチレンなどの絶縁性材料により被覆されたパワーケーブル38が構成されている。
【0019】
車両100に搭載されたインバータ30が外力を受けて、例えば図1の右図に例示するように移動すると、筐体40内に収容されていたパワーケーブル38が筐体40の外部に引き出される。このため、インバータ30と筐体40または回転電機32,34との間隔が広くなった場合でも、パワーケーブル38が断線することなく、インバータ30と回転電機32,34との間の電気的接続を維持することができる。
【0020】
図2は、図1に示す車両100における、インバータ30と、筐体40内に収容された回転電機32との配設の一例について説明するための図である。ここでは、筐体40内の回転電機34やデファレンシャルギア36の配置については省略し、以下、回転電機32と筐体40外部のインバータ30との間の電気的接続にのみ着目して説明する。
【0021】
図2において、回転電機32のステータコアに巻回されたステータコイルから延出されたステータ動力線22cの端部と、その一端がここでは図示しないインバータと電気的に接続されているパワーケーブル38の端部とが、端子台24上で電気的に接続されている。パワーケーブル38には、端子台24とインバータとの間であって、筐体40内部に、パワーケーブル38を弛ませて余裕を持たせた余長部42が形成されており、筐体40には、筐体40内からのパワーケーブル38の引き出しを規制する規制機構46が設けられている。
【0022】
図3は、図2に示す規制機構46の一例を説明するための断面拡大図である。規制機構46は、筐体40の内部に余長部が収容されたパワーケーブル38の引き出しを規制する規制フランジ48と、筐体40との間で規制フランジ48を押圧挟持し、固定するための押圧フランジ50と、を備える。
【0023】
図4は、図3に示す規制機構46の作製方法の一例について説明するための図である。図4に示すように、規制フランジ48は、パワーケーブル38の周囲を覆うように形成された筒形状の主部48aと、主部48aの外周部分に延出する鍔部48bとを備える。規制フランジ48は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂や、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)など、所望の剛性および電気絶縁性を兼備する部材で構成されており、主部48aと鍔部48bとの境界部分には、過度の外力を受けると破断するよう、主部48aや鍔部48bの他の部位と比較して狭幅のネック部48cが形成されている。主部48aは、パワーケーブル38の外周部分に例えばエラストマーなどの所望の接着性およびシール性を有する接着剤52を用いて接着、固定されている。
【0024】
一方、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金などで作製することができる筐体40には、主部48aを嵌め込み、固定するための開口56が形成されている。また、開口56の周囲には、鍔部48bおよび流体シール部材54を収容し、装着するための装着溝58が形成されている。流体シール部材54は、回転電機を冷却するための冷却液および/またはATフルード(ATF)などの液状の流体が、筐体40内から外部に漏出するのを防止するために設けられるもので、例えば、Oリングとも称される環状パッキンを適用することができる。
【0025】
押圧フランジ50は、装着溝58に装着された鍔部48bに対応するように形成されており、例えば、環状構造を有することができる。押圧フランジ50は、規制フランジ48を押圧保持することができる程度の剛性を有する部材で作製することができ、例えば、規制フランジ48または筐体40と同じ材料を用いて作製することができる。押圧フランジ50を、例えばボルトやネジなどの図示しない締結部材により固定すると、筐体40と押圧フランジ50との間で鍔部48bが押圧挟持され、規制機構46が作製される。
【0026】
このようにして作製された規制機構46を備えることにより、通常時、つまりパワーケーブル38が受ける外力が所定の負荷に満たないときには、パワーケーブル38の余長部42(図2参照)は、筐体40内に留まったままである。一方、パワーケーブル38が筐体40の外側方向、つまり図5の矢印方向に過度に引っ張られると、規制フランジ48が、ネック部48cおよびその近傍で破断する。そして、パワーケーブル38が主部48aとともに筐体40から離脱し、筐体40の外側、つまりインバータ方向に引き出される。このため、パワーケーブル38に過度の負荷が加わる場合においても、パワーケーブル38は断線しない。
【0027】
本実施の形態によれば、最大で余長部42の長さだけ筐体40の内部からパワーケーブル38が引き出されることができる。このため、予め適切な長さの余長部42を設けたパワーケーブル38を適用することにより、筐体40の内部に収容された回転電機32,34と、インバータ30(図1参照)との間の電気的接続が維持される。また、筐体40の内部に収容された余長部42を含むパワーケーブル38の大部分は、通常時は外部に露出していないため、過度に機械的強度を向上させる必要がない。このため、筐体40の外側に余長部を設けた場合と比較してパワーケーブルを含む線路の曲げ半径を小さくすることができる。
【0028】
図6は、図1に示す車両100における、インバータ30と、筐体40内に収容された回転電機32との他の配設例について説明するための図である。規制機構46とパワーケーブル38に形成された余長部42とに代えて、規制機構66とステータ動力線22cに形成された余長部62とを備えることを除き、図2に示した配設例とほぼ同様の構成を有している。
【0029】
図6において、ステータ動力線22cには、回転電機32と、回転電機32の近傍に設けられる端子台24との間に、ステータ動力線22cを弛ませて余裕を持たせた余長部62が形成されている。端子台24には、筐体40内からのパワーケーブル38および場合によってはステータ動力線22cの引き出しを規制する規制機構66が設けられている。
【0030】
なお、説明を単純にするために、図6および以下の説明では、端子台24上で一本のステータ動力線22cおよびパワーケーブル38が接続された例を示しているが、複数のステータ動力線および対応するパワーケーブル38を一つの端子台24上でそれぞれ電気的に接続させる態様としてもよく、ステータ動力線22cごとにそれぞれ別の端子台24上で対応するパワーケーブル38と電気的に接続させる態様としてもよい。
【0031】
図7は、図6に示す規制機構66の一例を説明するための、断面および背面視した拡大図である。規制機構66は、例えばPPS樹脂など、所望の剛性および電気絶縁性を兼備する部材で構成された端子台24と、端子台24上に固定され、互いに電気的に接続されたパワーケーブル38およびステータ動力線22cと、を備える。
【0032】
電気的に接続させる際の接触抵抗を低減させるためにそれぞれ端末処理されたパワーケーブル38の端部74およびステータ動力線22cの端部76が、締結部材72,73により固定されている。また、短絡を防止するために、端子台24と接触する凹型締結部材73(例えば、ナット)と、凸型締結部材72(例えば、ボルト)の先端部分72aはそれぞれ、例えば、PPS樹脂などの、絶縁性を有する部材で作製することができる。
【0033】
また、端子台24の背面26側には、締結部材72,73による締結領域を囲むように円または多角形状の環状溝70が形成されており、全体としてほぼ均一な厚みを有する端子台24における薄肉部を構成している。このような構成を有する規制機構66は、パワーケーブル38が過度の外力を受けるように引っ張られると、環状溝70と、環状溝70に対応する端子台24の表面との間で破断する。そして、図8に示すように、パワーケーブル38およびステータ動力線22cの接続部分が、端子台片24aとともに端子台24から離脱し、図6に示す筐体40の外側、つまりインバータ方向に引き出される。このため、パワーケーブル38に過度の負荷が加わる場合においても、パワーケーブル38およびステータ動力線22cは断線しない。
【0034】
本実施の形態によれば、最大で余長部62の長さだけ筐体40の内部からパワーケーブル38およびステータ動力線22cが引き出されることができる。このため、予め適切な長さの余長部62を設けたステータ動力線22cを適用することにより、筐体40の内部に収容された回転電機32,34と、インバータ30(図1参照)との間の電気的接続が維持される。また、筐体40の内部に収容された余長部62を含むステータ動力線22cの大部分は、通常時は外部に露出していないため、過度に機械的強度を向上させる必要がなく、一般に用いられる材料で作製されたステータ動力線22cをそのまま適用することができる。このため、筐体40の外側に余長部を設けた場合と比較してパワーケーブルおよびステータ動力線22cを含む線路の曲げ半径を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ハイブリッド自動車、電気自動車等の、インバータと回転電機とを電気的に接続する線路を有する車両において利用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 回転電機、12 ステータ、13 ステータコア、14 ロータ、16 シャフト、22 ステータコイル、22a,22b コイルエンド、22c ステータ動力線、24 端子台、24a 端子台片、26 背面、30 インバータ、32,34 回転電機、36 デファレンシャルギア、38 パワーケーブル、40 筐体、42,62 余長部、46,66 規制機構、48 規制フランジ、48a 主部、48b 鍔部、48c ネック部、50 押圧フランジ、52 接着剤、54 流体シール部材、56 開口、58 装着溝、70 環状溝、72,73 締結部材、100 車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと、
筐体内に収容された回転電機と、
前記インバータと前記回転電機とを電気的に接続する線路と、
を備え、
前記線路は、前記筐体内に収納された余長部を有し、
前記インバータと前記回転電機との相対移動で前記インバータと前記回転電機との間の距離が増大すると前記筐体内から前記線路の少なくとも一部が引き出され、前記インバータと前記回転電機との間の電気的接続を維持することを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記余長部と前記インバータとの間に、前記線路が受ける外力が所定の負荷に満たないときには前記筐体内からの前記線路の引き出しを抑制し、前記線路が受ける外力が所定の負荷を超えたときには前記筐体内からの前記線路の引き出しを許容する規制機構を備えることを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項2に記載の車両において、
前記規制機構は、前記線路の少なくとも一部と固設され、かつ基材に固定されており、
前記線路が受ける外力が所定の負荷を超えると、前記規制機構の少なくとも一部が前記基材から離脱し、前記筐体内からの前記線路の引き出しを許容することを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−144154(P2012−144154A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4239(P2011−4239)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】