説明

車屋内装置品

【課題】閉合箇所に目開きがなく起伏のある表装生地に覆われた車屋内装置品を得る。
【解決手段】引込布69を引き込む落込溝94を設けたパディング材92を、一対の縫製生地27・27を隠しスライドファスナー25で閉じ合わせ、裏面に引込布69を設けた表装生地93で被覆して車屋内装置品90を構成する。引込布69に重ね合わせた縫製生地27に、その縫製生地の縫い代34の端縁7に側縁29の位置を合わせてスライドファスナーのベーステープ28を重ね合わせ、引込布と縫製生地の縫い代とベーステープを縫合する。その際、ストリンガ26をベーステープに垂直に立ち上げた状態で、ベーステープを縫製生地の縫い代に重ね合わせ、縫合後、ストリンガを倒してベーステープに重ね合わせ、ミシン糸目35を中心にして縫製生地の縫い代34と共に引込布69とベーステープ28を折り返し、噛合素子23をベーステープの折り目33の外側に突き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断された織物や編物、不織布、天然皮革、人工皮革、合成皮革、プラスチックシート等(以下、これらを「縫製生地」と総称する。)を縫合した表装生地(以下、単に表装生地と言う。)によって外面が覆われた家具、寝台、間仕切り、衝立、肘掛け、椅子座面、椅子背凭れ、椅子ヘッドレスト、オットマン、座椅子、座布団、天井パネル、壁面パネル、ドア等の車内装置品や屋内装置品(以下、車屋内装置品と言う。)に関するものである。
【0002】
より詳しく説明すると、本発明は、基材に支持される繊維積層ウェブや樹脂発泡材等のクッション性のあるパディング材の表面を表装生地で被覆して成る車屋内装置品に関するものである。
【背景技術】
【0003】
車屋内装置品の表面に起伏を付けて立体感を醸し出すために、表装生地の裏面に引込布を取り付け、基材の裏側に設けた係止ワイヤーにフックを介して引込布をパディング材の内部へと引っ張り込んで、パディング材を部分的に窪ませた車屋内装置品は、車両座席シートに使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
その場合、引込布を引っ張り込むための落込溝をパディング材に設け、その溝底に面ファスナーを固着させる一方、その面ファスナーに雄雌対応する面ファスナーを引込布に取り付け、落込溝に引っ張り込んだ引込布を、それらの面ファスナーを介してパディング材の落込溝に固定することも試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、面ファスナーでは、強く引っ張れば剥離するので、使用中に表装生地がパディング材から外れ易く、パディング材の落込溝の周辺を深く窪ませることは出来ない。
【0006】
そこで、縫製生地をスライドファスナーで閉じ合わせて表装生地を構成することとし、その縫製生地と縫製生地との閉合箇所に縫合した引込布を落込溝に差し込み、その引込布に予め取り付けておいた押込ワイヤーをパディング材の裏側に設けられた係止ワイヤーにフックを介して連結することを試みた。
【0007】
スライドファスナーとしては、平板なベーステープ28の側縁の外側に噛合素子23を突き出して「務歯・ムシ」と称されるストリンガ26をベーステープ28の側縁に沿って固着した一般の汎用スライドファスナー10(図8a参照)と、折り返されてストリンガ26に重なるベーステープ28の折り目33から噛合素子が外側に突き出た隠しスライドファスナー25(図8b参照)が知られている(例えば、特許文献3,4,5参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平01−317474号公報(特許第2693490号)
【特許文献2】特開平08−280956号公報
【特許文献3】特開2003−180411号公報
【特許文献4】特開2003−210212号公報
【特許文献5】特開2004−195046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スライドファスナー10・25では、ストリンガ26やベーステープ28が閉じ合わされる一対の縫製生地27aと縫製生地27bの閉合箇所に露出して表装生地の美観を損なう。
例えば、汎用スライドファスナー10では、縫い代34の幅を広く設定し、縫製生地27の折り目71が噛合素子23の上に重なるように縫い代34をミシン糸目35から突き出してベーステープ28に縫合し、その突き出た広い縫い代34によってストリンガ26を覆い隠すことが出来るとしても(図8a参照)、縫い代34の幅が広いが故に、その広い縫い代34が反り返ってストリンガ26が露出し易い。
又、隠しスライドファスナー25では、ストリンガ26を係止するベーステープ28が折り返されており、その折り目33を境にして向き合うベーステープ28にストリンガ26が被覆されて露出しないとしても、そのストリンガ26を被覆するベーステープ28が表装生地の表側に露出し易い(図8b参照)。
【0010】
そして、隠しスライドファスナー25では、ストリンガ26が露顕しないとしても、閉じ合わされる一対の縫製生地27a・27bの折り目71a・71bがそれぞれ左右非対称の曲線形状を成す場合には、その曲線形状を成す縫製生地27aと縫製生地27bとの閉合箇所において、それらのベーステープの折り目33aと折り目33bの間が広がり、その閉合箇所が目開きしてストリンガ26が露顕し易くなる。
【0011】
そこで本発明は、引込布を引き込む落込溝を設けたパディング材を、一対の縫製生地と縫製生地をスライドファスナーで閉じ合わせ、裏面に引込布を設けた表装生地で被覆して成る車屋内装置品において、(1) 表装生地の裏面に設けた引込布を、パディング材の表面に設けた落込溝に係脱自在に強固に固定すること、(2) パディング材の落込溝の周辺に深い窪みを形成して表装生地の立体感を高めること、(3) 随時引込布を落込溝から外して表装生地を洗濯し、或いは、別の表装生地に取り替えて車屋内装置品のデザインを一新することを可能にすること、(4) 表装生地の閉合箇所において目開きを生じず、スライドファスナーが露顕することがないようすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る車屋内装置品は、(イ) 車屋内装置品90の基材91に支持されるパディング材92を表装生地93で被覆して成り、(ロ) 表装生地93は、一対の縫製生地27aと縫製生地27bをスライドファスナー25で閉じ合わせて成り、(ハ) スライドファスナー25は、ストリンガ26を係止するベーステープ28が、ストリンガとの接合箇所で折り返されてストリンガ26とU字状に向き合って重なり合い、ストリンガの噛合素子23が、その折り返されたベーステープの折り目33の外側に突き出た隠しスライドファスナーであり、(ニ) 縫製生地27は、その端縁側(37)において縫い代34が折り返されており、その折り返された縫い代34に向かい合わせに重なり合っており、(ホ) 閉じ合わされる一方の縫製生地27bとスライドファスナー25とは、(1)
縫製生地の縫い代34とベーステープ28が、縫製生地27bとストリンガ26の間に挟まれており、(2) 縫い代の端縁37とベーステープの側縁29が重ね合わされており、(3) 縫製生地と縫い代の間の折り目71とストリンガとベーステープの間の折り目33が重ね合わされており、(4) 縫製生地の縫い代34とベーステープ28の間でミシン糸目35によって縫合されており、(ヘ) 閉じ合わされる他の一方の縫製生地27aとスライドファスナー25とは、(1) 縫製生地の縫い代34とベーステープ28が、縫製生地27aとストリンガ26の間に挟まれており、(2) 縫い代の端縁37とベーステープの側縁29が重ね合わされており、(3) 縫製生地と縫い代の間の折り目71とストリンガとベーステープの間の折り目33が重ね合わされており、(4) U字状に向き合う縫い代34と縫製生地27aの間の隙間24に引込布69が挟み込まれ、その隙間24に引込布69が介在し、(5) 引込布の端縁68がベーステープの側縁29と縫い代の端縁37に重なり合い、(6) その重なり合う引込布69と縫製生地の縫い代34とベーステープ28がミシン糸目35によって縫合され、(7) 引込布69と縫製生地27aがミシン糸目35において折り曲げられており、(ト) ストリンガの噛合素子23からミシン糸目35までの距離rが、ストリンガ26の幅qよりも短く、(チ)
パディング材92には、スライドファスナーを介して閉じ合わされた縫製生地27aと縫製生地27bの閉合箇所36を落し込む落込溝94が設けられており、(リ) 縫製生地27aに縫合された引込布69がその落込溝94に差し込まれており、(ヌ) その引込布69によってスライドファスナー25が落込溝94に引き込まれていることを第1の特徴とする。
【0013】
本発明に係る車屋内装置品の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、閉じ合わされた一対の縫製生地27a・27bの折り目71a・71bが、その閉合箇所36においてそれぞれ左右非対称形の曲線を成しており、その閉じ合わされた一対の縫製生地27a・27bの閉合箇所36が、スライドファスナー25の長さ方向に曲線を描いて続いている点にある。
【0014】
本発明に係る車屋内装置品の第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加えて、閉合箇所36の描く曲線が変曲している点にある。
【0015】
本発明に係る車屋内装置品の第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加えて、スライドファスナーのストリンガ26の幅qとベーステープ28の幅pが5mm以下であり、ベーステープの幅pとストリンガの幅qの差が2mm以下である点にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明(第1の特徴)では、縫製生地の縫い代34とベーステープ28がミシン糸目35によって縫合され、そのミシン糸目35を境に縫製生地27とベーステープ28が互いに逆向きに折り返され、ミシン糸目35が縫製生地27に包まれており、ベーステープの折り目33の上に縫製生地の折り目71が重なり、その重なり合う一方の縫製生地の折り目71aとベーステープの折り目33aが他方の縫製生地の折り目71bとベーステープの折り目33bが閉合箇所36において突き合わされている。
そして、ストリンガの噛合素子23からミシン糸目35までの距離rは、ストリンガ26の幅qよりも短くなっている。
そのため、閉じ合わされる縫製生地の折り目71aと折り目71bが密着し、閉合箇所36において一対の縫製生地27aと縫製生地27bの間に目開きが生じ難い。
【0017】
本発明(第1の特徴)では、一対の縫製生地27a・27bは、スライドファスナー25によって、面ファスナーとは比較にならない程に強固に閉じ合わされることから、その閉合箇所36に縫合した引込布69によって、その閉合箇所36を落込溝94に強く深く引いて挟み込むことが出来、そのときパディング材92の落込溝94の周辺は、引込布69を介して表装生地93に強く圧縮されて窪み、表装生地93は、落込溝94の周辺で強く緊張された状態になる。
その落込溝94にスライドファスナー25が引込布69によって引き込まれた状態において、引込布の端縁68とベーステープの側縁29と縫い代の端縁37が重なり合っており、引込布69がミシン糸目35において縫製生地27aから離れる方向に折れ曲がって落込溝94に引き込まれており、引込布69が折れ曲がってミシン糸目35に引っ掛かる恰好になるので、引込布69は、ミシン糸目35から外れ難く、縫製生地27aに確り縫合された状態になる。
【0018】
本発明(第1の特徴)では、表装生地93が縫製生地27aと縫製生地27bをスライドファスナー25で閉じ合わせて成るので、随時縫製生地27aと縫製生地27bを分離してパディング材92から取り外して洗濯し、或いは、別の表装生地に取り替えて車屋内装置品93のデザインを一新することが出来る。
そして、スライドファスナー25は、引込布69によって落込溝94に深く落し込まれていて肌身に触れ難く、スライドファスナー25によって表装生地93の感触が損なわれることはない。
更に、本発明(第1の特徴)によると、対を成す一方の縫製生地27aをパディング材92に取り付けてから、他方の縫製生地27bを、その先に取り付けた縫製生地27aにスライドファスナー25を介して接合しパディング材92に取り付けることになるので、表装生地93の取付・取外し作業がし易くなる。
【0019】
このように本発明(第1の特徴)によると、落込溝94に沿って深く鮮鋭に縁取られた構図が表装生地93に立体的に描出され、感触がよく、随時表装生地93を洗濯、或いは、取り替えて、車屋内装置品93をクリーンに保つことが出来る。
【0020】
本発明(第2の特徴)では、ストリンガの噛合素子23からミシン糸目35までの距離rがストリンガ26の幅qよりも短くなっており、閉じ合わされる一対の縫製生地のミシン糸目35a・35bが極接近するので、閉じ合わされる一対の縫製生地27a・27bの折り目71a・71bがそれぞれ左右非対称形曲線形状を成し、縫製生地27a・27bの閉合箇所36が曲線となる場合でも、それらのミシン糸目35a・35bの長さに格別な差異が生じて閉合箇所36の開閉が困難になることがなく、落込溝94に沿って深く窪んだ曲線によるデザイン的にも新規な構図を表装生地93に立体的に描出することが出来る。
【0021】
そのように閉合箇所36が曲線を描く場合には、ベーステープの側縁29とミシン糸目35も、それぞれ閉合箇所36の曲線に平行な曲線を描き、その閉合箇所36の曲線が変曲するときは、ベーステープの側縁29やミシン糸目35の曲線も変曲する。
図3に図示するように、その曲線を境に向き合う片側の縫製生地27aのミシン糸目35aの続く長さが、その向き合う他の片側の縫製生地27bのミシン糸目35bの続く長さよりも長くなるとしても、その向き合うミシン糸目35aとミシン糸目35bの長短差は、変曲点70を越えると逆転し、曲線を境に向き合う片側の縫製生地27aのミシン糸目35aの続く長さは、その向き合う他の片側の縫製生地27bのミシン糸目35bの続く長さよりも短くなる。
このことは、ベーステープの側縁29の場合も同様であり、図3に図示する変曲点70Cと変曲点70Bの間では、曲率中心73から離れたベーステープの側縁29aは、曲率中心73に近いベーステープの側縁29bよりも長くなるが、変曲点70Bを越えた変曲点70Aと変曲点70Bの間では、曲率中心73に近いベーステープの側縁29aは、曲率中心73から離れたベーステープの側縁29bよりも短くなる。
【0022】
本発明(第3の特徴)では、閉合箇所36の描く曲線が変曲しているので、閉じ合わされる一方の縫製生地27aに縫合されるスライドファスナー片と、他方の縫製生地27bに縫合されるスライドファスナー片とは同じ長さに揃い、又、その閉じ合わされる一方の縫製生地27aのミシン糸目35aの続く長さと、他方の縫製生地27bのミシン糸目35bの続く長さも同じ長さに揃う。
そのように、本発明(第3の特徴)によると、対をなす縫製生地27a・27bのミシン糸目35a・35bとスライドファスナー片25a・25bが同じ長さになるので、一対の縫製生地27a・27bの折り目71a・71bが閉合箇所36を境に非対称形の同一曲線形状を成す場合でも、スライドファスナー25によって無理なく開閉することが出来、閉合箇所36に見苦しい目開きや皺襞が発生することがなく、非対称形曲線によって和らいだ印象を与える構図を表装生地93に立体的に描出することが出来る。
【0023】
本発明(第4の特徴)では、ストリンガ26の幅qとベーステープ28の幅pを5mm以下とし、ベーステープ28の幅pとストリンガ26の幅qの差を2mm以下にし、噛合素子23からミシン糸目35までの距離rをストリンガ26の幅qよりも短くしたので、閉合箇所36を境に片側の縫製生地27aのミシン糸目35aと他の片側の縫製生地27bのミシン糸目35bの間に長短差が生じることがなく、スライドファスナー25によって一対の縫製生地27a・27bを無理なく開閉することが出来、閉合箇所36での目開きや皺襞が回避される。
【0024】
本発明(第1〜第4の特徴)では、使用するスライドファスナー25が、ベーステープ28とストリンガ26がU字状に向き合って重なり合い、噛合素子23がベーステープの折り目33の外側に突き出た隠しスライドファスナーであり、噛合素子23からミシン糸目35までの距離rがストリンガ26の幅qよりも短いので、ミシン糸目35がストリンガ26に重なり合うことになる。
そのように、ミシン糸目35がストリンガ26に重なり合うとしても、そのU字状に向かい合うベーステープ28とストリンガ26の間は、それらの折り目33を境に開いて直角にすることが出来る。
そのように直角に開くときは、その直角に開いた状態において、ベーステープ28を縫製生地27の上に置き、ベーステープの側縁29を縫製生地の縫い代の端縁37を重ね合わせて縫製生地の縫い代34とベーステープ28の間でミシン糸目35によって縫合することが出来る。
従って、本発明(第1〜第4の特徴)において、ミシン糸目35がストリンガ26に重なり合うとしても、噛合素子23からミシン糸目35までの距離rをストリンガ26の幅qよりも短くなるようにスライドファスナー25を縫製生地27に取り付けることが出来る。
【0025】
そのように、噛合素子23からミシン糸目35までの距離rをストリンガ26の幅qよりも短くなるようにスライドファスナー25を縫製生地27に取り付ける場合には、ベーステープ28に対してストリンガ26を直角に立ち上げて縫合してから、噛合素子23を縫製生地の折り目71の外側に突き出すためには、ミシン糸目35を中心にベーステープ28や縫い代34を180度反転させてストリンガ26の向きを変えることになる。
【0026】
ところで、図4に図示するように、閉合箇所36が曲線を描き、その閉合箇所に平行にミシン糸目35が曲線を描く場合、縫製生地の端縁が膨出した膨出部分98におけるベーステープの側縁29aは、それを180度反転させるとき、その側縁29aからミシン糸目35までの距離tの2倍分(2t)だけミシン糸目35を越え、その膨出部分98の曲率中心73Aに近づく方向に移動し、その180度反転した側縁29a’は縮められ、その長さLa’は、180度反転させる前の元の側縁29aの長さLaよりも膨出部分98の曲率に応じて短くなるべきことになる。
それとは逆に、縫製生地の端縁が窪み込んだ窪込部分99におけるベーステープの側縁29bでは、それを180度反転させるとき、その窪込部分99の曲率中心73Bから遠ざかる方向にミシン糸目35を越え、側縁29bからミシン糸目35までの距離の2倍分だけ移動することになるので、その180度反転した側縁29b’の長さLb’は、元の側縁29bの長さLbよりも窪込部分99の曲率に応じて伸長されて長くなるべきことになる。
【0027】
しかし、スライドファスナー25のベーステープ28は緻密に織編成されていて側縁29の長さは変化しない。
その結果、膨出部分98では、ベーステープの側縁29aの長さLaがミシン糸目35aの長さSaよりも長くなっているので、ベーステープ28を180度反転させるとき、膨出部分98のミシン糸目35aは、ベーステープの側縁29aと共に曲率中心73Aに向けて引っ込められる恰好になる。
一方、窪込部分99では、ベーステープの側縁29bの長さLbがミシン糸目35bの長さSbより短くなっているので、ベーステープ28を180度反転させるとき、窪込部分99のミシン糸目35bは、ベーステープの側縁29bと共に曲率中心73Bに向けて押し出される恰好になる。
そのように、ベーステープ28を180度反転させるとき、ミシン糸目35は、曲率中心73に向けて引っ込められ、又、曲率中心73に向けて押し出されるようにベーステープ28に付勢され、同時に、ミシン糸目35と共に閉合箇所36も曲率中心73に向けて引っ込められ、又、曲率中心73に向けて押し出されるようにベーステープ28に付勢され、結局、非対称形曲線形状の閉合箇所36は、直線形状に変化するようにベーステープ28に付勢されることになる。
その結果、非対称形曲線形状の閉合箇所36に目開きや皺襞が発生し易くなる。
【0028】
この点、本発明では、ストリンガの幅qとベーステープの幅pを5mm以下とし、ストリンガの幅qとベーステープの幅pとの差を2mm以下とし、噛合素子23からミシン糸目35までの距離rをストリンガの幅qよりも短くし、ミシン糸目とベーステープの側縁の間の距離tが4mm未満になるようにしたのでので、ベーステープ28が非対称形曲線形状の閉合箇所36が直線形状になるように付勢するとしても、そのベーステープ28から閉合箇所36に作用する力は少なく、閉合箇所36に見苦しい目開きや皺襞が発生することがなく、落込溝94に沿って深く窪んだ非対称形曲線による綺麗な構図を表装生地93に描出することが出来、立体感に富む車屋内装置品93を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
引込布69を縫製生地27と一緒にベーステープ28に縫合する場合には、引込布69の上に縫製生地27を重ね、その上にスライドファスナー25を載せ、引込布69の端縁68と縫製生地の縫い代34の端縁37とベーステープ28の側縁29を揃え、それらをミシン糸目35によって縫合する。
その縫合された引込布69と縫製生地の縫い代34とベーステープ28を、ミシン糸目35を中心に180度反転させると、縫製生地の縫い代34とベーステープ28が縫製生地27bとストリンガ26の間に挟まれており、縫い代の端縁37とベーステープの側縁29が重ね合わされており、縫製生地と縫い代の間の折り目71とストリンガとベーステープの間の折り目33が重ね合わされており、縫製生地の縫い代34とベーステープ28の間がミシン糸目35によって縫合された表装生地93が得られ、縫製生地の縫い代の端縁37とベーステープの側縁29が綺麗に重なり合い、U字状に向き合う縫い代34と縫製生地27aの間の隙間24に引込布69の端縁が挟まれて覆い隠されるので、引込布69の端縁が縫製生地の縫い代の端縁37やベーステープの側縁29に不揃いになっても、そのことによって表装生地93の美観が損なわれることはない。
【0030】
縫製生地と縫製生地との閉合箇所36に縫合した引込布69は、パディング材92の落込溝94に差し込まれる。
引込布69には押込ワイヤー95を予め取り付けておき、パディング材の裏側に設けられた係止ワイヤー97にフック96を介して押込ワイヤー95を連結し、表装生地93がパディング材92に取り付けられる(図2)。
【0031】
ベーステープ28の幅pは2〜4mmにし、ミシン糸目35とベーステープの側縁29の間の距離tが4mm未満になるように、縫製生地の縫い代の端縁37とベーステープの側縁29を重ね合わせ、ミシン糸目35をストリンガ26とベーステープ28との接合箇所に極接近させて、縫製生地27とベーステープ28を縫合する。
そのためには、図5と図6に図示する押圧片31を用いてベーステープ28に対してストリンガ26を直角に立ち上げ、ベーステープ28を縫い代34に圧着しつつスライドファスナー25を縫製生地27に縫合することとし、その際、図5に図示するテープホルダ15によってベーステープ28にストリンガ26を直角に立ち上げてスライドファスナー25を押圧片31へと導入するとよい。
【0032】
図5は、テープホルダ15を搭載している縫製用ミシンを図示し、スライドファスナー25は、テープホルダ15を通過してミシン針30の作用箇所へと導かれる。
テープホルダ15は、ピン38を介して支台16に揺動・傾倒可能にピン接合されて垂直に突き出た支脚39と、その支脚39から片持ち梁状に水平に突き出たアーム40とで逆L字形に構成され、支台16に支持されている。
支台16は、移動可能に台盤22に戴承されている。
支台16の底面には、台盤22が嵌合する蟻溝48が付けられており、アーム40の長さ方向に向けて台盤22の上で支台16を移動し得るようになっている。
【0033】
アーム40には、背面21から正面20に向けて連続し、底面11が開口12となる下向きの縦溝13と、その縦溝に交叉する方向に開口18が形成された横溝14が設けられており、その横溝の開口18と縦溝の開口12の間が開放されて続いている。
アーム40の底面11の下側は、背面側21から正面側22へと縫製生地27が通過し得る開放されたスペース19となっている。
アーム40の上面には、アーム40の長さ方向に続く蟻溝41が設けられ、その長さ方向に摺動可能にスライダ42が蟻溝41に嵌合している。
スライダの先端はU字状に下向きに折り返されており、その折り返された部分がアーム40の底面11に摺接して縦溝の開口12を開閉する蓋17を構成している。
縦溝の開口12は、その蓋17が横溝の開口18に向けて移動して閉じられる。
蓋17は、その先端43が横溝14の下側溝縁44に当接するまで移動し、その移動する蓋17によって横溝の開口18も閉じられるようになっている。
【0034】
アーム40の上面には、先端46が下向きに突き出たバネ45が接合されている。
スライダ42の上面には、その突き出た先端46が嵌合する2つの凹部47が設けられている。
蓋17が移動して開口12が閉じられたときは、スライダ42の先端側の凹部47にバネの先端46が嵌合し、開口12が開けられたときは、スライダの後端側の凹部(図示せず)にバネの先端46が嵌合し、そうなることによって、開口12の閉じられた状態と開けられた状態がそれぞれセットされる。
スライダ42には、それをアーム40の長さ方向に摺動させるための把手49が取り付けられている。
ファスナーホルダは、ピン38を中心に揺動して支脚39が支台16に当って止まり、アーム40が起立した状態で静止し、その静止状態において横溝14にベーステープ28を嵌め込み、次いで、縦溝13にストリンガ26を嵌め込むことが出来る。
【0035】
蓋17は、横溝の開口18から離れた位置において縦溝の開口12を開閉するので、縦溝13の開口12の開放状態においては、ベーステープ28を横溝14に自由に嵌め込むことが出来、そのベーステープ28が横溝14に嵌め込まれた状態においてストリンガ26を縦溝13に嵌め込むことも出来、横溝14に嵌め込まれたベーステープ28と縦溝13に嵌め込まれたストリンガ26が直交状態になる。
即ち、折り目33においてストリンガ26がベーステープ28の側縁に垂直に立ち上がった状態になる。
ベーステープ28とストリンガ26の嵌め込まれた状態において、蓋17を移動して縦溝の開口12を閉じると、横溝の開口18も蓋17に妨げられて閉塞状態になり、ストリンガ26がベーステープ28の側縁に沿って垂直に立ち上がった状態が維持される。
【0036】
縫製用ミシンのミシン針30の作用箇所には、縫製生地を押さえる押圧片31が取り付けられている。
押圧片31は、昇降駆動される支持桿に担持され、縫合するスライドファスナーと縫製生地に向けて昇降駆動され、スライドファスナーと縫製生地を押圧する。
押圧片の底面50には、スライドファスナーのストリンガが嵌合し、その嵌合するストリンガを縫製生地の通過する方向に導く案内溝32が設けられている。
案内溝32の入口と出口の間の中間部分には、昇降するミシン針30の通過する貫通孔54が穿設されている。
案内溝32の入口と出口の溝幅は、その入口と出口の間の中間部分の溝幅よりも広くなっている。
その中間部分における案内溝32の溝底55は、貫通孔54から離れている。
案内溝32の中間部分において向き合う溝壁56・57は、その中間部分における溝底55が貫通孔54から離れる方向に向けて、押圧片31の底面50に対して傾斜している(図6)。
【0037】
スライドファスナー25は、テープホルダ15においてストリンガ26がベーステープ28の側縁に垂直に立ち上がった状態で縦溝13と横溝14から引き出され、押圧片31の案内溝32へと導入される。
そのようにストリンガ26が立ち上がった状態で引き出されるので、そのベーステープ28の側縁に垂直に立ち上がったストリンガ26に案内溝32が容易に嵌合し、押圧片31を降下させればベーステープ28が縫製生地27に押圧され、ベーステープ28とストリンガ26の間の折り目33に沿ってスライドファスナー25を縫製生地27に縫合することが出来る(図5と図6)。
【0038】
従って、本発明では、ベーステープ28の幅pを狭く2〜4mmにしても、ミシン糸目35とベーステープの側縁29の間の距離tが4mm未満になるように、縫製生地の縫い代の端縁37とベーステープの側縁29を重ね合わせ、ミシン糸目35をストリンガ26とベーステープ28との接合箇所に極接近させて、縫製生地27とベーステープ28を縫合することが出来る。
【0039】
図7は、パディング材と座面カバー78に覆われた座面と、パディング材と背凭れカバー77に覆われた背凭れから成る車屋内装置品90を図示している。
背凭れカバー77は、背凭れボディーの中央部を覆うセンター縫製生地85と、その側面部を覆う左右のサイド縫製生地86・87から成る。
センター縫製生地85は、背凭れボディーの正面を覆う正面生地79と背凭れボディーの正面を覆う背面縫製生地88が連続した一枚の縫製生地に成り、その端縁72a・72bに沿ってスライドファスナー25が縫合されている。
左右のサイド縫製生地86・87は、側面縫製生地82の表裏に正面縫製生地79と背面縫製生地88を縫合して袋状に縫製されており、その開口部の周縁89に沿ってスライドファスナー25が縫合されている。
【0040】
パディング材には、背凭れカバー77の閉合箇所36に位置を合わせて落込溝(94)が設けられており、背凭れカバー77の閉合箇所36は、引込布69によって落込溝(94)に引き込まれ、背凭れカバー77の閉合箇所36に縫合されたスライドファスナー25が肌身に触れないようになっている。
【0041】
センター縫製生地85の端縁72a・72bとサイド縫製生地86・87の周縁89は、それぞれ4つの変曲点70a・70b・70c・70dで変曲した非対称形曲線となっており、センター縫製生地の左側端縁72aと左側のサイド縫製生地86の周縁89との閉合箇所36aとセンター縫製生地85の右側端縁72bと右側のサイド縫製生地87の周縁89との閉合箇所36bは、引込布69によって落込溝(94)に引き込まれて窪み、背凭れカバー77の正面に左右対称の窪んだ曲線による幾何学模様を立体的に描出している。
【0042】
背凭れカバー77と同様に、座面カバー78も、座面ボディーの中央部を覆うセンター縫製生地85と、その側面部を覆う左右のサイド縫製生地86・87から成っており、それらはスライドファスナーを介して閉合されて縫製されている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る縫製生地の斜視図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【図2】本発明に係る車屋内装置品の断面図である。
【図3】本発明に係る表装生地の斜視図である。
【図4】本発明に係る縫製生地の斜視図である。
【図5】本発明に係る縫製生地の縫製過程での斜視図である。
【図6】本発明に係る縫製生地の縫製に使用の治具の断面図である。
【図7】本発明に係る車屋内装置品の断面図である。
【図8】従来の表装生地の斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
10:汎用スライドファスナー
11:底面
12:開口
13:縦溝
14:横溝
15:テープホルダ
16:支台
17:蓋
18:開口
19:スペース
20:正面
21:背面
22:台盤
23:噛合素子
24:生地と縫い代の間の隙間
25:スライドファスナー
26:ストリンガ
27:縫製生地
28:ベーステープ
29:ベーステープの側縁
30:ミシン針
31:押圧片
32:案内溝
33:ベーステープの折り目
34:縫製生地の縫い代
35:ミシン糸目
36:閉合箇所
37:縫製生地の縫い代の端縁
38:ピン
39:支脚
40:アーム
41:蟻溝
42:スライダ
43:蓋の先端
44:横溝の溝縁
45:バネ
46:バネの先端
47:凹部
48:蟻溝
49:把手
50:底面
54:貫通孔
55:案内溝の溝底
56:案内溝の溝壁
57:案内溝の溝壁
68:引込布の端縁
69:引込布
70:変曲点
71:縫製生地の折り目
72:端縁
73:曲率中心
77:背凭れカバー
78:座面カバー
79:正面縫製生地
82:側面縫製生地
85:センター縫製生地
86:サイド縫製生地
87:サイド縫製生地
88:背面縫製生地
89:周縁
90:車屋内装置品
91:基材
92:パディング材
93:表装生地
94:落込溝
95:押込ワイヤー
96:フック
97:係止ワイヤー
98:膨出部分
99:窪込部分
p :ベースシートの幅
q :ストリンガの幅
r :ミシン糸目までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) 車屋内装置品(90)の基材(91)に支持されるパディング材(92)を表装生地(93)で被覆して成り、
(ロ) 表装生地(93)は、一対の縫製生地(27a)と縫製生地(27b)をスライドファスナー(25)で閉じ合わせて成り、
(ハ) スライドファスナー(25)は、ストリンガ(26)を係止するベーステープ(28)が、ストリンガとの接合箇所で折り返されてストリンガ(26)とU字状に向き合って重なり合い、ストリンガの噛合素子(23)が、その折り返されたベーステープの折り目(33)の外側に突き出た隠しスライドファスナーであり、
(ニ) 縫製生地(27)は、その端縁側(37)において縫い代(34)が折り返されており、その折り返された縫い代(34)とU字状に向き合って重なり合っており、
(ホ) 閉じ合わされる一方の縫製生地(27b)とスライドファスナー(25)とは、(1) 縫製生地の縫い代(34)とベーステープ(28)が、縫製生地(27b)とストリンガ(26)の間に挟まれており、(2) 縫い代の端縁(37)とベーステープの側縁(29)が重ね合わされており、(3) 縫製生地と縫い代の間の折り目(71)とストリンガとベーステープの間の折り目(33)が重ね合わされており、(4) 縫製生地の縫い代(34)とベーステープ(28)の間でミシン糸目(35)によって縫合されており、
(ヘ) 閉じ合わされる他の一方の縫製生地(27a)とスライドファスナー(25)とは、(1) 縫製生地の縫い代(34)とベーステープ(28)が、縫製生地(27a)とストリンガ(26)の間に介在し、(2) 縫い代の端縁(37)とベーステープの側縁(29)が重なり合い、(3) 縫製生地と縫い代の間の折り目(71)とストリンガとベーステープの間の折り目(33)が重なり合い、(4) 向き合う縫い代(34)と縫製生地(27a)の間の隙間(24)に引込布(69)が介在し、(5) 引込布の端縁(68)がベーステープの側縁(29)と縫い代の端縁(37)に重なり合い、(6) その重なり合う引込布(69)と縫製生地の縫い代(34)とベーステープ(28)がミシン糸目(35)によって縫合され、(7) 引込布(69)と縫製生地(27a)がミシン糸目(35)において折り曲げられており、
(ト) ストリンガの噛合素子(23)からミシン糸目(35)までの距離(r)が、ストリンガ(26)の幅(q)よりも短く、
(チ) パディング材(92)には、スライドファスナーを介して閉じ合わされた縫製生地(27a)と縫製生地(27b)の閉合箇所(36)を落し込む落込溝(94)が設けられており、
(リ) 縫製生地(27a)に縫合された引込布(69)がその落込溝(94)に差し込まれており、
(ヌ) その引込布(69)によってスライドファスナー(25)が落込溝(94)に引き込まれている車屋内装置品。
【請求項2】
(ル) 閉じ合わされた一対の縫製生地(27a・27b)の折り目(71a・71b)が、その閉合箇所(36)においてそれぞれ左右非対称形の曲線を成しており、
(オ) その閉じ合わされた一対の縫製生地(27a・27b)の閉合箇所(36)が、スライドファスナー(25)の長さ方向に曲線を描いて続いている前掲請求項1に記載の車屋内装置品。
【請求項3】
(ワ) 閉合箇所(36)の描く曲線が変曲している前掲請求項1と2の何れかに記載の車屋内装置品。
【請求項4】
(カ) スライドファスナーのストリンガ(26)の幅(q)が5mm以下であり、
(ヨ) ベーステープ(28)の幅(p)が5mm以下であり、ベーステープ(28)の幅(p)とストリンガ(26)の幅(q)の差が2mm以下である前掲請求項1と2と3の何れかに記載の車屋内装置品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−17260(P2010−17260A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178496(P2008−178496)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】