説明

車椅子回動補助プレート、これを備えた車両用フロアカーペット及びこれを備えた車椅子格納車両

【課題】フロアの外観を損なわずに、車内における車椅子の水平方向の回動を補助し、比較的小さな車両の内部においても車椅子が回動しやすい、車椅子回動補助プレート、車両用フロアカーペット及び車椅子格納車両を提供する。
【解決手段】車両10のフロアに配置され、車椅子5の車輪6が水平方向に回動する際の摩擦抵抗を低減するための回動補助面3を上面に有する車椅子回動補助プレート1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内における車椅子の水平方向の回動を補助する、車椅子回動補助プレート、これを備えた車両用フロアカーペット、並びにこれを備えた車椅子格納車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車椅子を畳まずに、車椅子の乗員ごと載せるための車両として、車両後方のいわゆるバックドアから車椅子を載せることのできる車両が知られている。このような車椅子格納車両では、車両の後方に、車椅子を入れることのできる程度の大きなバックドアを設ける必要がある。また、タクシー等の車両は、一般に車両の後部に液化プロパンガスのタンクを搭載しているため、十分なスペースが無く、車椅子を後方から載せて収納することが困難である。
【0003】
上記問題を解決するため、車両側方から、車椅子を畳まずに、車椅子の乗員ごと載せることを可能にした車椅子格納車両も知られている。図9(a)は、車両の側方から車椅子を載せることのできる従来の車両を側方から見た模式図であり、図9(b)は、図9(a)のB−B断面の模式的な断面図である。従来の車両100は、車両側方に設けられた開扉部15から、スロープ16を用いて車椅子5を車内に入れることができる。より詳細には、樹脂製や金属製などの平板から成るスロープ16の一辺を開扉部15の下端に架け、地面と車内のフロア113との間に斜面を形成し、このスロープ16を介して車椅子5を車内に入れることができる。このようなスロープについては特許文献1に開示されている。または、スロープ16の代わりに、特許文献2に開示されているような、昇降手段を有する車椅子用昇降機を用いることも可能である。
【特許文献1】特開2006−281852号公報
【特許文献2】特開2006−176310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした車両を用いる場合、車椅子は車両側方を向いた状態で車内へ進入する。図10は、車椅子を載せた状態の従来の車両の第一の例を模式的に示す平面図である。図11は、同様の第二の例を模式的に示す平面図である。図10に示すような、十分なスペースの無い車内では車椅子5は水平方向に回動して方向を転換することが困難である。一方、図11に示すような、助手席シート112を格納可能な車両110の車内では、車両側方向きに車内に入れられた車椅子5を、車両前方へ後退させながら水平方向に回動して方向転換することで、車両後方を向くようにすることは可能である。しかしながら、側方向き若しくは後方向き格納のいずれの場合も、車両運転時の車椅子5の乗員の快適性に欠ける。
【0005】
また、図11に示すような水平方向の回動動作をする際、無理な回動をしようとすると、車内のフロア113の仕上げ面であるフロアカーペット材に傷がついたり、カーペットの毛が倒れたりしてしまい、フロア113の外観を損ねてしまう。まして、図11とは逆方向、すなわち、車椅子5が車両前向きになるように無理に回動させようとすれば、車椅子5の車輪6,7と接する部分のフロアには強い力が加わり、フロア113の外観を損ねやすい。そのため、従来の車両において、車椅子が車両前方を向くようにすることは困難であった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、フロアの外観を損なわずに、車内における車椅子の水平方向の回動を補助し、比較的狭い車両の内部においても車椅子が回動しやすい、車椅子回動補助プレート、車両用フロアカーペット及び車椅子格納車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車椅子回動補助プレートは、車両のフロアに配置され、車椅子の車輪が水平方向に回動する際の摩擦抵抗を低減するための回動補助面を上面に有することを特徴としている。
【0008】
このような車椅子回動補助プレートにおいて、車幅方向における一方側に、車椅子の車輪が位置決めされるための車両前後方向に沿った溝を有するように構成してもよい。さらに、回動補助面は、車幅方向における前記一方側が低くなるような傾斜を有するよう構成してもよい。
【0009】
また、本発明の車両用フロアカーペットは、上記の車椅子回動補助プレートを車幅方向中央に有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の車椅子格納車両は、上記の車両用フロアカーペットと、座席シートの座板を収納する座板収納機構と、座席シートを車両前後方向にスライドするスライド機構と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車椅子回動補助プレートによれば、車椅子の水平方向の回動作業を容易に行うことができる。また、回動補助面の車幅方向における一方側に、車椅子の車輪が位置決めされるための車両前後方向に沿った溝を有するように構成する場合、格納状態において、車椅子を簡便に位置決めすることができる。さらに、回動補助面が、車幅方向における一方側が低くなるような傾斜を有するよう構成される場合、車椅子の位置決めをより一層容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明の車両用フロアカーペットによれば、車内の所望の位置で車椅子を回動させることができる。さらに、本発明の車椅子格納車両によれば、比較的前後幅の小さな車両においても、車椅子を前向きに格納することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第一実施形態の車椅子回動補助プレートを模式的に示す斜視図である。図2は、本発明の車椅子回動補助プレートの、図1に示すA−A断面を示す。図において、Frは車両前方を、Upは車両上方を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の車椅子回動補助プレート1は、上面に、平面視概略矩形状であって、車幅方向における左方側に向かって傾斜した回動補助面3を有する。この回動補助面3の前後方向及び側方の長さは、それぞれ後述の車椅子の回動動作を行うのに十分な長さであって、数十センチメートル程度である。図2に示すように、フロア13は、車両下側から順に、床面に強度を持たせるための構造部材で成るフロアパネル13c、衝撃を吸収して快適な歩行を実現するための緩衝材13b、フロアカーペット13aから構成されている。そして、車椅子回動補助プレート1は、このフロア13の一部を適宜切り欠いた部分に溶着手段により溶着されるか、又は図示しない固定手段により固定されている。
【0015】
図2に示すように、回動補助面3は、側方の辺のうちの右方に上端部3aを、左方に下端部3bをそれぞれ有する。また、車両前方側の端部には辺3dを、後方側の端部には辺3eを、それぞれ有する。すなわち、回動補助面3は、上端部3a、辺3d、下端部3b及び辺3eによって画成される。図示するように、下端部3bと周囲のフロア13aの上面とは同程度の高さである。回動補助面3は、上端部3aから下端部3bまでは徐々に高さが低くなるように傾斜しており、上端部3aと下端部3bとの高低差Hは5ミリメートル程度である。回動補助面3は、後述するように、その面上で車椅子5の車輪を容易に回動させられる程度に摩擦抵抗の少ない部材で、かつ、回動の動作をしても外観を害しにくい部材、具体的にはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネイトなどの樹脂で形成される。この回動補助面の表面は細かいエンボス加工などの処理を施したものであってもよい。また、回動補助面3の一部には、車椅子5を側方から載せる際の不要な横滑りを防ぐと共に、車輪が辺3d又は3eを超えて車椅子回動補助プレート1から脱落しないように、側方方向に細かい溝を設けて形成した複数のガイド3cが設けられている。
【0016】
図1及び図2に示すように、回動補助面3は、下端部3bよりも左側の位置に、車椅子の車輪が位置決めされるための車両前後方向に沿った溝3を有する。溝3は、車椅子の車輪すなわちホイールを容易に収納できるように、車幅方向の幅Dが数センチメートル程度となっており、また溝2の底部2aは回動補助面3の下端部3bよりもさらに数センチメートル程度低くなっている。
【0017】
(格納の手順)
次に、車椅子回動補助プレート1を有する車両用フロアカーペット13を用いた、車椅子の車内への格納の手順を説明する。図3は、実施形態のフロアカーペットを用いた車両への車椅子の格納手順を模式的に示す図であって、(a)は車椅子を車両側方から押し入れる前の状態を、(b)は車椅子を車両側方から車内へと押し入れた後の状態を、(c)は車椅子が回動する状態を、(d)は車椅子が車内に格納された状態を示す。これらの図では、車椅子5は簡略化して図示しており、二つの車輪6,7及び車椅子の乗員の足部分5aのみを示している。
【0018】
図3(a)に示すように、フロアカーペット13は、車両10の車内床面の全面にわたって設けられている。また、車幅方向中央の位置でその一部が切り欠かれて、車椅子回動補助プレート1が設けられている。車椅子5を車両内部に格納するために、まず車両側方の開扉部15と地面との間にスロープ16を架け、開扉部15から車椅子を側方向きに押し入れる。そして、図3(b)に示すように、車椅子5の乗員もしくは介助者(以下、格納作業者と言う。)が、車椅子5を側方よりもやや前向き(図中の矢印R1で示す方向)に押し入れてゆく。そして、車輪6が、車椅子回動補助プレート1の回動補助面3の上に位置するようになった時点で車椅子5を一旦停車させる。
【0019】
このとき、格納作業者は、回動作業を経て最終的にどの位置に車椅子5を格納すべきか、といった考察をする必要はなく、単に車内のフロア13に設けられた車椅子回動補助プレート1の位置を見ながら、車輪6が車椅子回動補助プレート1上に乗ることを確認して、車椅子5を押し入れる位置を決定すればよい。すなわち、本発明の車椅子回動補助プレート1を用いれば車椅子5の停車する位置を容易に決定することができる。
【0020】
また、車椅子回動補助プレート1の回動補助面3には傾斜が設けられているので、車輪6が回動補助面3の上に載った際、車椅子5には後ろ方向に押し戻す力が働く。そのため、格納作業者はこの押し戻す力を感じた時点で車椅子を停車させれば、車椅子5の位置決めをより容易に行うこともできる。
【0021】
上述のとおり、側方方向に細かい溝を設けて形成した複数のガイド3cが設けられている。車椅子5を開扉部15から側方方向に載せる際、車椅子の車輪6が車両前後方向へと横方向に滑った場合にも、ガイド3cのうちの一つに車椅子の車輪6が接すると、車輪6の底面がガイド3cとの摩擦により、それ以上の横滑りを防ぐことができる。すなわち、複数のガイド3cがあることにより、ガイド3cの間隔よりも大きな距離の横滑りを防ぐことができる。また、車輪6が前後の辺3d,3eを超えて回動補助面3から外れるのを防止することができる。このガイド3cがあることにより、容易に車椅子5を所定の位置で停止させることができるのである。
【0022】
図3(b)に示す位置で車椅子5が停止したとき、車椅子回動補助プレート1の回動補助面3の上には車椅子の右側の車輪6が乗っており、この車輪6の最下部と回動補助面3が接する。ここで、車輪6のうち、回動補助面3が接する部分を接地面6aとする。
【0023】
次いで、図3(c)に示すように、接地面6aを含む垂線を回動軸Zとして、他方の車輪7が円弧を描くように車椅子5を水平方向に回動させて、車椅子5がおよそ車両前方を向くようにする。車椅子の乗員の足部分5a及び他方の車輪7が移動する方向をそれぞれ、図中に矢印R2,R3で示す。このとき、格納作業者は、一方の車輪6が回動補助面3上から離れないように、すなわち、回転の軸Zが大きく移動しないように意識しながら回動の動作を行えばよい。これは、車椅子5の車両後方側の車体が大きく移動しないように意識しながら、他方の車輪7のみを移動させ、車椅子5を回動させればよい。
【0024】
上述のように、回動補助面3は摩擦抵抗の小さい部材で形成されているため、車輪6を水平方向に回動する動作を容易に行うことができる。また、回動補助面3は回動の動作をしても外観を害しにくい部材、すなわち、回動の際に摩擦により車椅子のタイヤのゴムが付着したような場合にも目立たない素材で形成されているため、フロア13の外観を損ねることがない。
【0025】
図3(c)において、回動動作を行う前の状態、すなわち図中に破線で示す状態では、一般に回動軸Zは回動補助面3の中心付近に位置している。上述のように回動補助面3は開扉部15側に向かって高さが低くなるように傾斜しており、かつ、回動補助面3の摩擦抵抗が小さいため、回動を行うと共に回動軸Zを開扉部15側へとわずかずつ移動させることができる。すなわち、回動動作を行うと共に、車輪6の接地面6aを開扉部15側へと、わずかずつ移動させることができる。そして、車椅子がおよそ車両前方を向く状態、すなわち図中に実線で示す状態となったときには、接地面6a及び回動軸Zを下端部3bに近接させることができる。すなわち、車輪6を溝2に近接させ、且つ、溝2とおよそ平行な向きに近接させることができる。
【0026】
格納作業者にとっては、回動補助面3が開扉部15側に傾斜し、かつ、その摩擦抵抗が小さいために、車椅子がおよそ車両前方を向くまで、容易に水平方向の回動を行うことができる。また、回動補助面3が開扉部15側に傾斜していることから、車椅子に開扉部側へ押し戻される力が働き、それより前方へ移動するのを防ぐことができる。よって、回動作業の際、誤って開扉部と反対側のボディに車椅子が衝突するのを防止することもできる。
【0027】
ここで、溝2は、車輪6の最終的な格納位置である。そのため、格納作業者は、車輪6を溝2に平行に近接させるように意識すれば、車椅子の回動の終了位置を容易に決定することができる。
【0028】
最後に、車輪6を溝2へ格納する動作について説明する。図1において、車輪6の下端部6aが、車輪の幅に合わせて設けられた溝2に嵌り込んで車両前方を向いた状態を示す。図1及び図3(d)に示すように、上述の回動動作を行った後、図中に破線で示すように、車輪6は溝2とおよそ平行な向きを向いて近接しているため、車輪6を僅かに開扉部側に横滑りさせることのみにより、その底面を溝2に嵌め込み格納することができる。すなわち、車輪の接地面6aが回動補助面3の下端部3b近傍に位置する状態から、接地面6aを溝2側へと移動させてゆき、車輪6を溝2の底部2aへと導くことで格納をおこなうことができる。格納後の車椅子の位置を図中に実線で示している。この際、格納作業者は、車椅子5全体をわずかに開扉部15側へ移動させるように側方に力を加えて、車輪6を溝2に嵌め込み、格納すればよい。
【0029】
図4は本発明の実施形態のフロアカーペットを用いた車両へ車椅子を格納した状態を模式的に示す平面図である。図4に示すように、上述の格納作業後、車椅子5は、その車輪6が車椅子回動補助プレート1の溝2に嵌った位置にあって、助手席シート12よりも後方でバックシート17よりも前方の位置に車両前方を向いて格納される。助手席シート12の側方には運転席シート11があり、運転者は、車椅子5の格納後の車内においてハンドル11cを操作して車両10の運転が可能である。
【0030】
ここで、車椅子の右,左の車輪6,7はそれぞれ、固縛フック14によってフロア13に固定されている。固縛フック14は、周知のベルト又は金具等の部材で構成されており、車椅子が格納された際に、二つの車輪6,7をそれぞれ車椅子の前方及び後方の位置で一箇所ずつ固定できるようにフロア13に配置されている。固縛フック14は、平常時、つまり車椅子5を格納しない時には、フロア13の内部に収納可能に構成されている。車椅子5は、車輪6が溝2に嵌っているため、容易には前後左右に移動しないが、固縛フック14により両輪を固定することにより、より強固にフロア13に固定されて安定性が増す。
【0031】
ところで、本発明の車椅子回動補助プレート1を用いれば、車椅子の格納位置は、車椅子回動補助プレート1の溝2の位置によって一意に決められるため、格納状態での二つの車輪6,7も一意に決まる。したがって、車輪6,7を固定するための固縛フック14を設ける位置も自ずと限定することができる。
【0032】
従って、車椅子回動補助プレート1を用いない場合に比べて、固縛フック14を設ける位置を決定することが容易で、かつ、これを構成するベルトや金具等の部材の可動範囲は狭くても良く、その長さを短くすることができる。したがって、固縛フック14はコンパクトでコストのかからない、効率的で経済性に優れた構成とすることが可能である。
【0033】
次に、車椅子回動補助プレート1を用いた車椅子格納車両20について説明する。以下の説明及び図面では上述した内容と同一の部材には同一の符号を用いるものとし、同一の構成については適宜説明を省略する。図5は実施形態の車椅子格納車両の構成を模式的に示す平面図である。
【0034】
図5に示すように、本発明の車椅子格納車両20は、車幅方向中央の、フロア13の一部に車椅子回動補助プレート1を有し、助手席シート22側の車両側面に開扉部15を有する。平常時において、車椅子回動補助プレート1は、運転席シート21及び助手席シート22よりも車両後方で、かつ、バックシート27よりも車両前方の位置に設けられている。また、平常時、運転席シート21は、ハンドル11cを握って車椅子格納車両20の運転が可能な位置にあり、助手席シート22は、運転席シート21に並んで開扉部15側に位置にある。
【0035】
図6は運転席シート21、助手席シート22及びバックシート27(以下、これらをシートと呼ぶ)の座板28を収納した状態を模式的に示す斜視図である。図6に示すように、シートは座板28と背もたれ29とから構成されており、座板28は、後端部28aを軸として背もたれ29と垂直に重なるように随時収納することが可能である。ここで、座板28を収納した状態におけるシートの前後方向の幅S1(図5参照)は、座板28を収納しない状態におけるシートの前後方向の幅S2(図7参照)よりも短い。
【0036】
座板28を収納した状態で、運転席シート21は、車両後方側へ座板28を収納した状態のバックシート27に接する位置までスライド可能である。運転席シート21の底部にはスライド用車輪21aが設けられている。図5に示すように、床面13には、車両前後方向に、平常時の運転席シート21の底面からバックシート27の手前の位置まで、運転席シート用スライドレール21bが設けられている。スライド用車輪21aは運転席シート用スライドレール21b上を移動可能であり、運転席シート21は、座板28を収納した状態の車両後方側へバックシート27に近接する位置までスライドさせることができる。
【0037】
また、助手席シート22は、車両前方側へフロントボディ23に接する位置までスライド可能である。助手席シート22の底部にはスライド用車輪22aが設けられている。図5に示すように、床面13には、車両前後方向に、平常時の助手席シート22の底面からフロントボディ23の手前の位置まで、助手席シート用スライドレール22bが設けられている。スライド用車輪22aは助手席シート用スライドレール22b上を移動可能であり、助手席シート22は、車両前方側へフロントボディ23に接する位置までスライドさせることができる。図5では、車椅子5を格納しないで車両20を使用する状態、すなわち平常時の状態を示している。
【0038】
図7は、本発明の実施形態の車椅子格納車両への車椅子の格納手順を模式的に示す図であって、(a)は車椅子を車両側方から押し入れる前の状態を、(b)は車椅子を車両側方から車内へと押し入れた後の状態を、(c)は車椅子が回動する状態を、(d)は車椅子が車内に格納された状態をそれぞれ示す。なお、簡便のため、運転席助手席シート用スライドレール22a、シート用スライドレール22b等の図示を適宜省略する。
【0039】
図7の各図では、運転席シート21、助手席シート22及びバックシート27の座板28を格納した後に、運転席シート21をバックシート27に近接する位置まで、助手席シート22をフロントボディ23に近接する位置まで、それぞれスライドさせた状態を示している。シートの座板28が格納可能であって、且つ、運転席シート21がバックシート27に近接するまで、助手席シート22がフロントボディ23に近接するまで、それぞれスライド可能な車両20の場合であれば、図5に示すように、常時には格納するための十分なスペースが無くても、シートを収納、スライドさせることで、車椅子回動補助プレート1の上の回動軸Zを中心としたスペースを広く確保することができる。従って、比較的小さな車両であっても、シートに収納及びスライド可能な機構を設けることによって、車椅子5の格納をおこなうことが可能となる。
【0040】
次に、車内で収納、スライド可能な運転席シート21、助手席シート22及び、収納可能なバックシート27を有する車椅子格納車両20の車内に設けられた車椅子回動補助プレート1を用いて、車椅子5を車内に格納する方法について説明する。
【0041】
上述の実施形態で説明した車両10と、車椅子格納車両20とで異なるのは、車内で収納及びスライド可能な運転席シート21、助手席シート22及び収納可能なバックシート27を有する点である。すなわち、図5に示すように、シートはすべて座板28が収納し、運転席シート21をバックシート27に、助手席シート22をフロントボディ23に、それぞれ近接させた後、車椅子回動補助プレート1を用いて車椅子5を収納する。車椅子格納車両20は車両の前後幅が比較的短い場合であっても実現可能である。以下、上記の説明と共通する事項については説明を省略する。
【0042】
まず、図7(b)に示すように、車椅子5を車両側方の開扉部15から車内へと押し入れたとき、運転席シート21は車椅子5よりも車両後方に在る。また、助手席シート22は車椅子5よりも車両前方に在る。車軸方向について、車椅子回動補助プレート2は、運転席シート21よりも開扉部15側に在る。また、助手席シート22は、車椅子回動補助プレート1よりも開扉部15側に在る。
【0043】
そして、図7(c)に示すように、車輪6の接地面6aの中心を回転の軸Zとして、車椅子回動補助プレート1を用いて、車椅子5が車両前方を向くまで水平方向に回動する。図7(c)に示す例では、車椅子5は半時計周りに回動する。ここで、運転席シート21及び助手席シート22が、収納、スライドされているため、車椅子5の回動を妨げることはない。
【0044】
また、車椅子5は助手席シート22よりも車両後方に、バックシート27よりも車両前方に位置する。このように、シートが収納されているため、図7(d)に示すように、車椅子5が車両20の前方を向く位置まで完全に回動させることができる。この状態から、上述のように車輪6を溝2に嵌めこんだ後、車椅子5を複数の固縛フック14で固定すれば、格納動作が完了する。
【0045】
図8は、実施形態の車椅子格納車両へ車椅子の格納が完了し、運転可能となった車両の状態を模式的に示す図である。図で示すように、車輪6が溝2に嵌めこまれているが、車幅方向中央に設けられている車椅子回動補助プレート1のうち、溝2は開扉部側に設けられている。従って、車輪6が運転席シート21のスライドの軌跡と重なることはない。すなわち、車椅子5を格納した状態でも、運転席シート21を前後方向にスライドさせることが可能である。運転席シート21を常時の位置まで再度スライドさせた後、座板28を展開すれば、常時と同じように車両20を運転することができる。なお、図示しないが、バックシート27のうち、運転席シート21後方のものは、車椅子5を格納した後であっても座板28を展開して使用することが可能である。
【0046】
以上、車椅子回動補助プレート1の実施の形態及びこれを備えた車椅子格納車両20の実施の形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。例えば、車椅子回動補助プレートは上面矩形形状のものに限らず、例えば半円形状のもの等であっても良い。回動補助面は傾斜が一様なものに限らず、下端部に向かって傾斜が緩やかになるように構成してもよい。
【0047】
また、車椅子回動補助プレートの溝2のうち、底部2aと、フロア13及び下端面3bとの間に、斜面が設けられていてもよい。この場合、車椅子の車輪が溝2に収納される際に、車椅子の乗員及び車椅子に過度の衝撃が加わるのをより確実に防ぐことができる。上記の説明とハンドルの位置が左右逆の車両、いわゆる左ハンドル車両の場合には、車椅子を左右逆の開扉部から格納すればよい。シートが3列以上設けられた車両に本発明の車椅子回動補助プレートを設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る車椅子回動補助プレートの実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すA−A断面の断面図である。
【図3】本発明の実施形態のフロアカーペットを用いた車両への、車椅子の格納手順を模式的に示すもので、(a)は車椅子を車両側方から押し入れる前の状態を、(b)は車椅子を車両側方から車内へと押し入れた後の状態を、(c)は車椅子が回動する状態を、(d)は車椅子が車内に格納された状態をそれぞれ示す。
【図4】本発明の実施形態のフロアカーペットを用いた車両へ、車椅子を格納した状態を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態の車椅子格納車両の構成を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態の車椅子格納車両の、シートの座板を収納した状態を模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明の実施形態の車椅子格納車両への、車椅子の格納手順を模式的に示すもので、(a)は車椅子を車両側方から押し入れる前の状態を、(b)は車椅子を車両側方から車内へと押し入れた後の状態を、(c)は車椅子が回動する状態を、(d)は車椅子が車内に格納された状態をそれぞれ示す。
【図8】本発明の実施形態の車椅子格納車両へ車椅子の格納が完了し、運転可能となった車両の状態を模式的に示す図である。
【図9】(a)は、車両の側方から車椅子を載せることのできる従来の車両を側方から見た模式図、(b)は(a)のB−B断面の模式的な断面図である。
【図10】車椅子を載せた状態の従来の車両の第一の例を模式的に示す平面図である。
【図11】車椅子を載せた状態の従来の車両の第二の例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 車椅子回動補助プレート
2 溝
2a 底部
3 回動補助面
3a 上端部
3b 下端部
3c ガイド
3d,3e 辺
5 車椅子
5a 前端
6 車輪
6a 接地面
7 他方の車輪
10, 車両
11,21 運転席シート
11c ハンドル
12,22 助手席シート
13 フロア
13a フロアカーペット
13b 緩衝材
13c フロアパネル
14 固縛フック
15 開扉部
16 スロープ
17,27 バックシート
20 車椅子格納車両
21a スライド用車輪
21b 運転席シート用スライドレール
22a スライド用車輪
22b 助手席シート用スライドレール
23 フロントボディ
28 座板
28a 後端部
29 背もたれ
D 幅
H 高低差
Z 回動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床面に配置され、
車椅子の車輪が水平方向に回動する際の摩擦抵抗を低減するための回動補助面を上面に有する、
車椅子回動補助プレート。
【請求項2】
前記回動補助面の車幅方向における一方側に、車椅子の車輪が位置決めされるための車両前後方向に沿った溝を有する、請求項1に記載の車椅子回動補助プレート。
【請求項3】
前記回動補助面は、車幅方向における前記一方側が低くなるような傾斜を有する、請求項2に記載の車椅子回動補助プレート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の車椅子回動補助プレートを車幅方向中央に備えた、車両用フロアカーペット。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用フロアカーペットと、座席シートと、上記座席シートの座板を収納する座板収納機構と、上記座席シートを車両前後方向にスライドするスライド機構と、を有する、車椅子格納車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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